コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 春風〜千の想い〜【オリキャラ・コメント募集中!】
- 日時: 2015/03/02 21:54
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
1:興味
立花高校。ごく普通のレベルの、ごく普通の公立校だ。いや、そこそこ頭はいいかもしれないか。その2年3組に、橘千風は所属している。彼女は学年では有名なギャルで、頭もいい上、美人なのでもの凄いモテる。
「ちーかーぜー! 宿題写させてっ」
「由莉ったらまたなの〜?」
羽柴由莉。千風の親友であり、彼女もギャル。そして校則破りの常習犯である。指定セーターは着ないし、禁止されている校内でのレッグウォーマーの着用など、わりと酷い。頭も悪く、たまによくわからない発言をする。先生たちも既に諦めているほどだ。
「ねぇー、千風ってさあ、彼氏いないじゃんかぁ」
「うん」
「じゃあさあ、気になる人とかいな」
「いないわね」
即答に、由莉は開いた口が塞がらない。
「えっ、えっ、じゃあじゃあ、あれとかどうなのあれ!」
「あれって?」
「ほら、あのイケメン生徒会長! 私はそーは思わないけどね」
自分で言ったんじゃんか、と思いつつ、その生徒会長をちらっと見る。彼の名は忽那千春。学年ではとても有名なイケメン生徒会長…らしいが、千風はあまりそう思ったことがない。女みたいな名前して、そのくせ目つき悪くて、眼鏡で隠してるつもりらしいが逆にそれが際立っていて、むしろ何よあのブッサイクなツラ、と思っていた。
「興味ないわ」
「つれないなぁ。もっと青春すればいいのに」
「私だって彼氏ぐらい欲しいわよ? でもあれは違う、絶対ない」
「ほぉー辛辣〜」
由莉はなんだ、ああいうのがいいのか。千風にはあまりよくわからなかった。というよりは、
———興味がなかった。
始めまして! Va*Chuと申します。この小説は、学園モノで、ちょっとラブで、ちょっとギャグです。少し暗い場面もありますが、基本楽しいものになっております! よろしくお願いいたします。
また、随時更新していきますので、コメント、アドバイスなど頂けるととてもうれしいです! ぜひお願いいたします!
人物紹介書きました(遅ぇ) >>35
ギャグ↓
36:メール >>21
37:誕生日 >>22
40:体重 >>25
49:ひっく >>36
50:誕生日2 >>37
51:電車 >>38
52:萌え >>39
上記以外は比較的真面目なキャラたちの恋を描いています♪
文化祭編始めました! >>40 >>41 >>46 >>48
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.20 )
- 日時: 2015/01/31 12:34
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
35:今は
その日、約2週間ぶりに楓が登校した。やっと体調が戻ってきたらしい。クラスの人は最初こそぎこちなかったが、彼が病弱なのは知っていたから冷たくなることはなかった。それでも、陰口を言う者はあった。
「楓ー! おはよぉー!!」
「おはよう浅川くん。ごめんね、心配かけて」
「謝んなよぉ、治ったならよかった!」
「ありがとう」
朝の2組の教室に、翔は無断で入ってくるなり、開口一番に楓に話しかけた。楓はにこにこと笑って翔と楽しそうに話している。千春は、そんな姿を教室の外から見ていた。
楓は、見舞いに行ったあの日に話してくれたことをみんなにも話すつもりだそうだ。みんな、とはいってもいつも生徒会室にたむろっているメンバーのみだが。近いうちに修一のことも紹介したいと言っていたか。
「あ、忽那だー。お前、何じろじろ見てんの、まさか、スススストーカ」
「なわけねーだろ」
千春が翔の頭を叩いた。結局2組に無断侵入だ。
「いってえ、なんでこんなんが会長なわけ」
「なんでこんなんが俺の親友なわけ」
「ひでええ」
「ふふっ、通常運行だ」
「おかげさまで」
千春は無表情に翔の軽い悪口を言っている。翔はそれが冗談だと心得たうえでひでえとほざいている。楓はそんな彼らを見て、安心したような顔を見せた。
「もーお前がいない間、色々あったんだぜ。たとえばこいつと橘さんが付き合うことになったとか」
「えっ、そうなの!?」
「馬鹿、言うなよ」
「なんで言ってくれなかったの!?」
「えー言ってなかったのかよ、友達にひでえな」
「友達の恋愛事情をベラベラしゃべる奴よりはマシだろ」
「え、それ俺のこと?」
翔が落ち込んでいるのを無視して千春は楓としゃべっている。すると翔は、おもむろに今日、生徒会室行く? と楓に尋ねた。
「みんなが行くなら行く〜」
「よっしゃ決まり」
「俺行かねえ」
「マジで!?」
「嘘、行く」
「意味不明な嘘つくなよ」
久しぶりに翔にツッコミを喰らったなあ。千春はそんなことを思いながら、1限始まるから、と教室に戻っていった。
生徒会室で。久しぶりに5人そろってみんなわいわいしていたが、やはり楓の元気があまりない。
「楓ぇ、まだ体調良くないの?」
「え、ううん、そんなことないよ」
「じゃあ、どうしたの? そわそわして」
由莉に言われ、びくっと楓は肩を揺らした。隠し事はできない性格なのだろう。楓は溜息をついて、返した。
「…話していいかな。この2週間のこと」
「今、このタイミングでか」
「うん、今しかないかなあって」
楓が暗い声色で言う。千春が心配そうに返すが、彼は振り切った。
「2週間、休んだ理由?」
「うん。体調不良もあったけど、それだけじゃないから」
「やっぱり。何があったの?」
千風に聞かれ、実は、と楓はおもむろに語りだした。
「…そんな、ことが」
「ええええ…かける言葉が見つからねえ…」
「楓、…もう、大丈夫なの」
楓の話を聞いて、3人は驚愕を隠せなかった。楓は、いじめにあっていたこと、この前その主犯に暴行を受けたことなど、洗いざらいすべて話した。由莉にもう大丈夫なのと聞かれた彼は、笑顔で答えた。
「まだ清算できたわけじゃないよ。でも、大丈夫。今は、ひとりじゃないから。みんながいるから」
それを聞いた千風たちは、わけもなく安心ができた。今は、私たちがいるから大丈夫と言ってもらえたのが嬉しかったのかもしれない。
高校に入ったばかりのころの楓は、確かに交流関係が少なかった。千風、由莉と同じクラスだったが、彼女らと話す以外は殆ど誰とも話していなかったように、今となっては思う。中学のときにそんなことがあったのでは無理もない。そう思えば、今は彼にとって相当幸せなのだろう。
「そうそう、近々、俺の中学のときの唯一の親友を紹介するね」
「唯一とか言うなよ、悲しくなるじゃんかあ」
「事実だし」
楓は清算はできてなくても、もうだいぶ軽く考えることはできているようであった。だから、こんな会話もできる。彼は、そんなに重い表情はしていなかった。
「あれか、藤堂とかいう人? 桜坂の」
「うん。変なのだけど、すごくいい人」
「変なの?」
「ものすごくね。この前なんかペンを持ってペンを探してたもん」
「すげえ」
楓は話してスッキリしたのか、笑っていた。修一の紹介をするときなんか、心底楽しそうだ。彼の背中から背負うものが減ったなら、ああよかった、と千春は感じたのだった。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.21 )
- 日時: 2015/01/31 14:49
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
36:メール
「うおおおああああ」
「翔うるせえ、少し黙れ」
「どうしたとかそういう言葉はああああ!?」
翔が生徒会長の席で唸っている。そこ俺の席、という千春の声も無視している。
「どうしたの〜」
「だって、メールが…」
「メール?」
由莉が携帯を取り出し、受信ボックスを開く。千風、千春、楓も同じことをする。
「この昼休みになってからはきてないけど」
「違うわ! 忽那のメールが、…女子っぽいんだよおおおお!!!」
「やかましいわ!!」
なんのことかと思えば、千春のメールが女子っぽいことに腹を立てていただけらしい。
「男子のくせにぃ、絵文字顔文字わんさか使いーの、文字色変えーの、ドキッとするんだよ!!」
「あーそれは私も思う」
「橘さんは無機質すぎるんだよおおお!!」
「なんですってー!?」
千風が翔を殴ろうとするのを由莉が押さえる。千春は、悪かったな、と吐き捨てた。
「そういうお前だって、無機質つーか…静かじゃん」
「普段通りだし」
「普段もっとうるさいし」
ここまで聞いて、由莉と楓が口を開いた。
「私たちはぁ〜?」
「相応、だよね…?」
「羽柴さんは相応だけど、楓は…全部違う…」
「全部って何!?」
楓が顔を青くして叫ぶ。しかし、千風たちも確かに、と頷いている。
「楓はねぇ…全部違うよねぇ…」
「なんか、男子女子より、楓っていう性別よねぇ…」
「ああ…なんか…全部違う…」
「もぉ———みんなしてなんなのぉ———」
今度は楓が突っ伏してしまった。
千風は全員のメールを確認していた。千風のメールは確かに無機質に、文章だけ、または単語だけのメール。由莉はテンプレなども使って可愛らしくして、まさしく女子って感じだ。千春は翔の言った通り、女子っぽい。翔はたまによくわからない顔文字を使っていて、静かめな印象。楓は、千春に近いが、千春ほどの女子力はない。が、普段の言動が…ね。
「翔のメール、静かで怖い」
「怖いっすか。じゃあ絵文字の使い方教えてくれよ」
「お前、そんなんも知らねーの? 貸してみ」
千春が翔の携帯を使って適当に文章を作ってみせた。なんとも女子力の高い文章だ。
「うおおお…さすがプロだ…」
「誰がプロだ。これくらい普通だろ」
「それが普通ならお前は女子だ…」
「次言ったら頭皮剥ぐ」
「やめろエグい」
言いつつ翔は教えてもらっている。千風も由莉と楓に教えてもらって可愛いメールを作ろうと必死だ。
「よっしゃ、これでどうよ忽那」
ふふんと得意げにメールを見せてきた翔に溜息をつきながら、そのメールを見て、———絶句。
なんと、気持ち悪い絵文字を並べ、これで可愛いなどと言ってくるのだ。これはどう見ても翔の携帯にしか入ってない絵文字がある。
「翔、これはどういう状況だろうか」
「状況とかないけど、何?」
「いや…」
いや、こんなん送ってこられたら泣くか気絶するわ。なんて言えず、千春は黙ってしまう。すると突然、生徒会室に悲鳴が響いた。
「「キャ———!!」」
「どうしたのよ、楓まで女子みたいな声出して。何、不満?」
千風のメールのことらしい。どうした、と千春が千風の携帯をのぞき込んでみると———はっきり言って、翔よりも酷いメールが。気持ち悪いというか、どう見てもキチガイの図だった。
「うおー橘さんかわいー」
「でしょー! 翔のも可愛いじゃん」
こいつらはどういう神経をしてるんだ…と千春ら3人は思った。思ってみれば、いつも美術に2がつくような連中だ、無理もない。
「忽那くん、俺たち、いい方かも。頑張っていこう」
「ああ…頑張ろう…!」
「私、一番普通だね」
ここで、千春と楓の間に妙な結束が生まれた。由莉がそんな二人を一瞥し、ボソッと、
「女子力高い男子同盟…」
「羽柴、何か言ったか」
「言ってないよぉー」
未だ千風と翔はたいして可愛くない、むしろ気持ち悪いメールを見て可愛いと盛り上がっている。あんなの送ってこられたらたまったもんじゃないので、さすがに由莉がこう言った。
「でもさあ、やっぱり急に可愛いの送ってこられてもびっくりするから、今までどおりでいーよ」
「え、そうかしら。でも一回送ってみるわ」
「俺もー」
「俺はやめてくれ!!」
「俺も遠慮しとこうかなあ!」
「はぁ? いーじゃない、彼女のメールが受け取れないわけ?」
「楓もさー固いこと言うなってぇ!」
こうして、一番抵抗しなかった由莉は被害を受けることはなく、抵抗した千春と楓には目も当てられないような気持ち悪いメールが送られてくるようになったとさ。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.22 )
- 日時: 2015/01/31 18:30
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
37:誕生日
5月8日。今日は翔の誕生日だ。それでか、翔はいつも以上にうるさい。
「忽那あああ!! 今日は何の日いいい!!」
「今日はお前の命日ー」
「うおお殺すなよ、今日は俺の誕生日いい!!」
「そうかご愁傷様」
「違うわ!! 殺すな!!」
翔が携帯いじりをやめない千春の肩を揺さぶる。なかなかおめでとうと言ってくれないことに腹を立てているようだ。千風と由莉、楓はそれを見て見ぬふりをしている。
「忽那ひでえよ! 言ってくれよおめでとうって!」
「おめでとう(笑)」
「かっこ内聞こえてんぞ!」
「翔うるさいー誕生日おめでとー(殺)」
「おめでとぉー(泣)」
「おめでと…(同情)」
「みんなかっこ内がひどいですううう!! 楓に至っては態度に出ちゃってますうう!!」
翔が地団駄を踏む。そんな彼の頭を千春が教科書の角でどついた。
「ちぇすとぉー」
「やってから言うなよおおお!! いてええ!!」
「もう一回やられたいか」
「いえ、遠慮しときます」
翔はやっと静かになったが、やはり少しかわいそうなので、4人とも結局おめでとうと言った。
「みんな誕生日いつーもしかして俺一番ー?」
「俺4月」
「俺も4月〜」
千春と楓がすかさず答えた。翔はえっと変な声を出した。
「えええ!? じゃあ何か、お前ら俺より年上か!」
「そんな、1か月じゃんか〜」
「ああ、お前より年上だ、俺は」
「楓と忽那で態度が違いすぎる…」
自分より頭の悪い千春が、自分よりふわっとした楓が、まさか年上だとは翔は思わなかった。
「二人は、どっちが早いの? 千春?」
「俺は16日」
「えっ、俺10日」
「えっ」
「えっ」
意外にも楓の方が誕生日は早かった。しかも10日といったら始業式の日だったから、めちゃめちゃ早い。
「楓がこん中じゃ一番『お兄ちゃん』かあ、意外だー」
「私が7月だから…由莉は、12月よね?」
「そーだよー! この中で一番『妹』!」
千風が7月25日、由莉が12月20日だ。由莉は楓と半年以上離れているということになる。
「楓が『お兄ちゃん』なのはいいけど、千春がそうなのは癪でしかないわ」
「うるせえ、こっちからお断りだ」
「仲良い『兄妹』だねー」
「「誰と誰が『兄妹』だって!?」」
由莉がちゃかすと、二人同時に叫んだ。翔も楓も仲良いじゃんと同時に言った。
「千風はぁ〜、上と下、どっちが欲しい?」
「優しいお兄ちゃんが欲しいー」
「私もー」
「俺はぁー羽柴さんみたいな妹が欲しくなーい」
「いらん情報ー!!」
由莉にがくがくと肩を揺さぶられる翔だが、気にせずに男性陣に話しかける。
「忽那と楓はー?」
「俺は一人っ子のままでいい」
「俺は、下かなぁ。妹欲しいな、羽柴さんみたいに活発な」
「ほんとぉー!? 楓やっさしー!」
「海は楓くんが欲しいいいい!!」
「ううわあああああ!!!」
突然声が聞こえたかと思えば辰野海が登場。条件反射で叫び声をあげた楓が、翔の後ろに隠れる。しかし海はそんなのお構いなしに追いかけてくるので、翔の周りをぐるぐると回っている状態だ。
「辰野さん、帰ってええええ!!」
「帰んないいいい!! 久しぶりにお話ししてんのにいいい!!」
「いいやあああだああああ!!!」
ここまで徹底的に人を避ける楓を初めて見た千風たちは絶句している。ぐるぐると回られている翔は、とうとう痺れを切らして、二人の間に割って入った。
「辰野さん!」
「何? 告白なら受け付けないわよ」
「違うわ! 俺、本当は辰野さん無理だから! とりあえず楓から離れてくんね!?」
「海が、無理…!?」
辰野さん無理、という言葉に相当傷ついたのか、海はその場に崩れ落ちてしまった。楓はぜえぜえ言いながら、翔の腕を掴んだまま座り込んだ。
「もう…マジ、無理…」
「辰野、苦手って言ってたもんな」
「うん、超苦手…」
「でも残念、こう見えて副会長だから」
沈黙。
「ええええええ!!?」
「じゃあ、ここにしょっちゅう来るってことか!?」
「ああ、そうだ」
翔と楓がずーんと音を立てて沈む。そんな男性陣の横で、千風ら女性陣は普通に会話している。
「辰野、誕生日いつ?」
「え…3月28日…」
「じゃあこの中じゃ辰野が一番『妹』だ! っしゃー免れたー」
由莉がガッツポーズをすると、海が怪訝な顔をした。
「え、何? 何の話してたの」
「誕生日の話とか」
「ふーん、楓くんは3月何日なの」
「3月前提なのはなんで…」
「3月っぽいしー、海と同じがいいしー!」
「自己中…」
千風がボソッと呟いたのは聞こえていないみたいだ。すると、翔がにこにこして、言った。
「辰野さーん、いいこと教えてあげよっか」
「何よマリモ」
「マリモじゃねーよ! 楓は4月生まれ。この中じゃ一番早い10日だぜ〜」
「4月10日!? 近いじゃ〜ん!」
「遠いわ!!」
「10日くらいしか離れてないじゃん」
「同学年だよ!? 1年近く離れてるよ!」
みんなわかってはいたが、海は馬鹿だ。おそらく千春以上の。しかも、間違いを指摘されても認めないたちの悪い馬鹿だ。だから、千風たちは苦手としていた。
「辰野さん、5限始まるよ、帰ってよ…」
「そんなのみんな一緒じゃない。楓くん、一緒に帰ろ〜!」
「拒否します」
楓は翔の後ろに隠れて、出てこようとしない。翔はそんな彼にだいぶ迷惑しているようだが、溜息をつくだけで動こうとはもはやしない。
6人が本鈴が鳴ったのに気づかず、先生にこっぴどく叱られるまであと5分。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.23 )
- 日時: 2015/02/01 09:46
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
38:テスト勉強
中間テスト。それは、生徒にとって最も忌まわしき…は言い過ぎたか、しかし忌まわしい行事だ。頭の良い人は何も思わないみたいだが、頭の悪い人にとっては地獄でしかない。
というわけで、テスト週間に入った今日、生徒会室に集まって勉強会を開くこととなったのだ。
「急にやったって意味ないのよー」
「うるせー! 悪あがきさせてくれよ!」
「あがきすぎよ、1時間やって半ページしか進まないってどうなの」
千風は翔とともに、千春と由莉に数学を教えていた。しかしもう手遅れとしか思えなかった。
「ねーえ、今日は楓いないの? 休み?」
「家で藤堂と勉強会だってよ。俺も行きてえ」
「私も」
「俺だって行きてえよぉー」
「翔まで何言ってんの、私も行きたいわよ」
結局、4人とも楓の家に行きたいと言ってきかない。しかしそんなの許されるわけがなく。
「ほら、やりなさいよ」
「やってるよ、進まねーだけ」
「進めてよ」
「わかんねーもん、教えろよ」
「どこよ…って、さっき教えたトコ———!!」
千風はうわああと叫びながら机に突っ伏す。さっき教えた公式なのに、なぜこいつは覚えられないのか。もう怒り通り越して不思議にしか思えない。
「翔ぉ〜、これはこうでいいの?」
「惜しいなぁ、これは引っ掛かりやすいんだけど、公式通りだと時間かかるからこうやって…」
「おお、翔すごぉい! ありがとう!」
「いやいや、なんのこれしき」
翔と由莉はこれぞ勉強会、というペースで進めていっている。おそらく、千春の3倍は進んでいるだろう。
「これは千春、今回も由莉に負けたわね」
「はっ、何をわかりきったことを」
「何吹っ切れてんのよ、あがけよ」
「さっきあがくなっつったじゃん」
「気が変わった。早くやれ」
「口調がこええよ」
言いつつ、進めようと努力する千春。それをどうにか助けようとする千風。しかし、1ページが終わるころに、完全下校のチャイムが鳴ってしまったのであった。
森野家。楓と修一は黙々と勉強をしていた。とそこに、
ピロピロリーン
「楓、携帯」
「うお、俺かっ」
楓の携帯が突如鳴った。千春からのメールだった。
「忽那くんだ」
「おー内容は?」
「今度俺ん家きたいって。あと、修一に会わせたいんだって、友達」
「ほお、俺はいつでもいいけど」
「俺もー。明日でいいか」
「おっけー」
千春に明日来ていいよ、とメールを送り、勉強を再開。そこで、楓が口を開いた。
「修一、最近元気ないね」
「んなことねーよ」
「何かあったの? ———小野塚くんに会ったときとか」
「…な、んで? 別に」
「動揺してる」
「し、してねーよ!」
修一が突然叫び、楓はびくっと肩を揺らした。修一はハッとし、ごめんと言って俯いた。
「ごめん、ぐいぐい聞きすぎた、かな」
「いや…ごめん」
「やっぱり何かあったんだ?」
「…なあ、俺ってずるい人間かな」
突然そう語りだした修一に少し驚いた楓だったが、黙って聞いていた。修一は続ける。
「小野塚にさ、言われたんだ。所詮、自分を守るための偽善に過ぎなかったんだろって」
「…」
「中学時代、お前と仲良くしてたのは、自分が悪いんじゃないって安心するためだったんだろって」
「修一…」
「俺、確かにそうだったのかもって、不安で」
「…修一、聞いて」
楓は、修一の近くへ行き、肩を掴んだ。修一は顔を上げて、真剣な眼差しの楓を見た。
「あのね、俺、修一のことをそんな風に思ったことないから」
「楓…」
「俺は、修一が仲良くしてくれて、すごく嬉しいから、親友だって自負してるから」
「そう…かな」
「うん。今まで、守ってくれてありがとう。これからもよろしくね」
「…ああ、ありがとう」
さあ、勉強しようか、と修一は机に向かった。楓も頷いて、教科書を開く。
二人はもう、大丈夫だ。
- Re: 春風〜千の想い〜 ( No.24 )
- 日時: 2015/02/01 18:07
- 名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)
39:出会い
ピンポーン
藤堂家のインターホンが鳴った。修一はもうそんな時間か、と呟いて立ち上がり、玄関の扉を開けた。
「いらっしゃーい」
修一が出迎えた相手は、立花高校の生徒会長とその愉快な仲間たち、総勢5名だ。
「ごめんね、修一。結構な人数だけど」
「構わねーよ、ただ片付いてないけどいいか?」
「それこそ構わないよ」
楓が小さく微笑んで、入れていい? と断りを入れると、千春たちを中に誘導した。
入ってすぐ、修一は全員分のお茶を入れると、お菓子も少し用意し、みんなの隣に座った。
「紹介するね。俺の中学時代の同級生で親友の藤堂修一くん」
「おう、親友って紹介されたからそうなんだろうな、藤堂でーす」
「え、親友、でしょ…?」
「そう、親友、大親友!!」
修一は楓の肩に腕を回そうとして楓にはじかれた。楓は笑顔だ。仲良いんだなあと千風たちは口を揃えて言う。
「適当にお菓子用意したから、食べて食べて」
「おう、悪いな。あっ、こっちも紹介するわ。俺のことは知ってるよな」
「俺は浅川翔〜!」
「私は橘千風」
「私は羽柴由莉ぃ、よろしくねぇ!」
3人は口々にそう言い、にこにこと笑った(千風以外)。修一も笑って、例にならって名前で呼ぶことの了承を得る。それから、前から社交的な彼だ、すぐに打ち解けた。
「藤堂って、桜坂なんしょ? 頭良いんだ?」
「別にぃ、良くないぜ」
「修一ったら、嘘ついてぇ。この人、俺の何倍も頭良いよ」
「逆だろ、馬鹿」
「行き過ぎた謙遜は嫌味にしかならないんだよ修一わかった?」
「ハイ」
修一の前でだと、楓は饒舌になる。そんな彼が新鮮で、みんな開いた口が塞がらない。普段の楓はもっと物静かなのに…
「楓ぇ、藤堂くんと仲良いんだね」
「だって修一〜! そう見えるんならよかったね!」
「おう、よくしゃべるな今日!」
「悪い?」
「いえ、何よりです」
権力は楓の方が強いらしい。楓には笑顔の質が複数あるらしく、すべて笑顔でしゃべっているのにオーラが違う。わりと怖い。
「この前さあ、全国模試あったじゃんかあ、藤堂どうだった?」
「と、とうどうどう…?」
「翔、言葉切って! 由莉が混乱するわ!」
「でさあ、どうだった? 順位」
「んー楓に負けた。こいつ、一桁とりやがったし」
「言って、この人も二桁だったよ。12位」
「うわああああなんで言うか! 言っとくがこいつは4位だあああ!!」
「もおおお言わないでよおお! 嘘だからね!?」
しかし…
「うわあああ信用のない目! 痛い!」
「いや、だって嘘じゃないの知ってるし」
「俺なんて456位だった」
「それでも三桁だよ翔、すごいよ。私なんて四桁だから」
「いや、三桁や四桁が普通だぜ。俺なんか最後から数えた方が早いわ」
「楓も藤堂も順位キモい。少し分けろよ」
「分けられるもんじゃないよ浅川くん」
立花と桜坂。別高に通い、楓と修一のつながりがなければ決して出会うことのなかった者たちだったが、出会って数分で仲良くなった。これからどれくらい仲良くなっていくだろう? みんな、期待に胸を膨らませていた。
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