コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

春風〜千の想い〜【オリキャラ・コメント募集中!】
日時: 2015/03/02 21:54
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

1:興味


 立花高校。ごく普通のレベルの、ごく普通の公立校だ。いや、そこそこ頭はいいかもしれないか。その2年3組に、橘千風たちばなちかぜは所属している。彼女は学年では有名なギャルで、頭もいい上、美人なのでもの凄いモテる。

「ちーかーぜー! 宿題写させてっ」
「由莉ったらまたなの〜?」

 羽柴由莉はしばゆり。千風の親友であり、彼女もギャル。そして校則破りの常習犯である。指定セーターは着ないし、禁止されている校内でのレッグウォーマーの着用など、わりと酷い。頭も悪く、たまによくわからない発言をする。先生たちも既に諦めているほどだ。

「ねぇー、千風ってさあ、彼氏いないじゃんかぁ」
「うん」
「じゃあさあ、気になる人とかいな」
「いないわね」
 
 即答に、由莉は開いた口が塞がらない。

「えっ、えっ、じゃあじゃあ、あれとかどうなのあれ!」
「あれって?」
「ほら、あのイケメン生徒会長! 私はそーは思わないけどね」

 自分で言ったんじゃんか、と思いつつ、その生徒会長をちらっと見る。彼の名は忽那千春くつなちはる。学年ではとても有名なイケメン生徒会長…らしいが、千風はあまりそう思ったことがない。女みたいな名前して、そのくせ目つき悪くて、眼鏡で隠してるつもりらしいが逆にそれが際立っていて、むしろ何よあのブッサイクなツラ、と思っていた。

「興味ないわ」
「つれないなぁ。もっと青春すればいいのに」
「私だって彼氏ぐらい欲しいわよ? でもあれは違う、絶対ない」
「ほぉー辛辣〜」

 由莉はなんだ、ああいうのがいいのか。千風にはあまりよくわからなかった。というよりは、


———興味がなかった。



始めまして! Va*Chuと申します。この小説は、学園モノで、ちょっとラブで、ちょっとギャグです。少し暗い場面もありますが、基本楽しいものになっております! よろしくお願いいたします。
また、随時更新していきますので、コメント、アドバイスなど頂けるととてもうれしいです! ぜひお願いいたします!

人物紹介書きました(遅ぇ) >>35

ギャグ↓
36:メール >>21
37:誕生日 >>22
40:体重  >>25
49:ひっく >>36
50:誕生日2 >>37
51:電車  >>38
52:萌え  >>39

上記以外は比較的真面目なキャラたちの恋を描いています♪

文化祭編始めました! >>40 >>41 >>46 >>48

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



Re: 春風〜千の想い〜 ( No.10 )
日時: 2015/01/25 21:20
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

18:桜坂

「あれ別高じゃね? どこあれ」
「うわー桜坂だぜー。頭良い人が何やってんだろ」

 立花高校の校門前、名門桜坂高校の制服を着た男子生徒がいる。携帯で電話をかけていて、どうやらその相手を待っているようだ。

「ねえ、あの桜坂の人、ちょっとかっこよくない?」
「思う〜! 名門だと男子のレベルも違うのかもね!」

 名門というだけでは飽き足らず、ちょっとイケメン。さっきから女子がちらちら見ている。しかしそれに気づかず、彼は電話を続けている。

「えー、じゃあ俺、先に帰るぜ。何、嫌なの。はいはい、待っとくから。転ぶなよ」

 やっと電話を切る。立花に彼女でもいるのだろうか。携帯をポケットにしまい、目線を上げる。その先は3年の教室。待ち人はどうやら3年らしい。出てくる気配はなく、彼は溜息をついた。


 楓は馬鹿の生徒会長に勉強を教え終えて、やっと帰る準備をし始めた。ああ、随分と遅くなってしまった。は、と溜息をついて鞄をかつぐ。そして千春に急いでるからとだけ言い、返事は聞かずに教室を出た。

「…ッは、怒ってるよなあ…!」

 だだだっと階段を駆け下り、靴を履き替える。

「おい、そんなに走って大丈夫か?」

 後ろから声が聞こえた。千春だ、追いついたらしい。息切れひとつしていない。

「あ、ごめ…ッゲホッゲホッ」
「ほらそんなに走るから」

 千春に背中をさすられながら、校門を目指す。すると、その人物はまだそこにいて、楓は安堵の溜息をついた。

修一しゅういち…、ごめん、遅くなって…」
「お、来た。大丈夫か楓」

 激しい動悸をどうにか抑えようとしつつ、楓はこくんと頷いた。修一と呼ばれた男はそうは見えねえ、と呟く。と、千春に気づき、

「楓のクラスメイト?」
「去年のな」
「そうか。俺、藤堂修一とうどうしゅういち。楓の中学からの親友…だよな?」
「え、修一は親友だと思ってないの…?」
「親友だ、俺たちは!!」
「仲良いんだな…。俺は忽那千春。よろしく」
「おう、よろしく!」

 修一はニカッと笑って応えた。なんか面白い奴、と千春は思った。楓が友達を名前で呼ぶのも新鮮な感じがするし、何ともいえず嬉しい気持ちになる。

「今からマ●ク行くんだけど、お前も来る?」
 突然修一が千春に声をかける。え、と思ったが、行く、と答えた。
「店でゆっくり話そうぜー」

 久しぶりに会うのか、楓も修一も楽しそうに笑っていた。


19:桜坂2

 店に入り、適当に注文した後、席をとる。適当に座って飲み物をすすり始めた。

「楓、最近どう? 学校楽しいか」
「うん、楽しいよ〜。修一は?」
「俺も〜。よかった、お前と仲良くしてる友達がいて」
「おかげさまで仲良くしてますよ、森野とは」
「ほお〜それはよきかな〜」

 修一が笑う。そして、千春に向き直って、言う。

「千春」
「えっ?」
「千春って呼んでいいか? 俺、仲良くしたい人のことは名前で呼んでるんだわ」
「え、あ、いいけど…」
「よかった、ありがとな、千春!」

 早速呼ばれ、顔が赤くなるのを千春は感じる。すると、ふふっと楓が笑った。

「可愛い、忽那くん」
「なっ!?」
「だってよ、楓に言われるって相当だぜ」
「〜っ」

 それを言われて千春はもっと赤くなる。二人がまた笑う。そのとき、千春が窓の外をちらと見、まさに不良といった風貌の男数名を見つけた。ここらでは有名な不良の高校である桃津高校の生徒だ。リーダー格の男は髪にメッシュをいれ、無数のピアスをつけ、煙草を吸っている。一番酷い風貌だ。

「おいあれ、桃津の奴だ。あれは酷すぎじゃ…藤堂?」
「あれ…」

 明らかに修一の様子がおかしかった。楓も顔を上げない。千春は首をかしげる。しかし修一はそれに気づかず、楓に話しかける。

「あれ、小野塚だ。楓、絶対外見んな」
「…うん、ありがとう」

 千春はん、と眉を顰めた。確か修一はさっき、仲良くしたい人は名前で呼んでいると言った。それなのに、外の桃津の生徒のことは警戒心をむき出しにして、苗字を呼び捨て。楓の顔色も悪くなっている。あの小野塚という男、何かあったのか…

「ああ、千春、先に帰ってくれないかな。どうせ俺、こいつの家に泊まるんだ」
「あ、わかった。じゃあ、また」

 修一は千春を遠ざけたいのが見え見えな態度で千春を帰るよう勧めた。どうやらあまり居てはいけない雰囲気が漂っているので、千春も素直に従う。立ち上がって歩き始めたとき、後ろで修一の楓を心配する声が聞こえてきた。中学時代に何かあったのか。気になるけれど、あまり詮索を入れるのもよくない。修一や楓の口から話してくれるのを待とうか、と千春はぼんやり考え、店を出た。

Re: 春風〜千の想い〜 ( No.11 )
日時: 2015/01/25 21:26
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

20:顔の熱

 席替え。それは彼らにとって祭りであり、同時に戦争であった。くじを引いて席を決める。それがどれだけ彼らの学校生活を変えるかなんて大人にはわからないだろう。

「翔ー、くじ引いた?」
「引いた引いたー、俺22だった。羽柴さんは?」
「やった、隣だよー」

 わいわいと皆席を動き出す。教科書などを入れっぱなしだった人は両手にそれを抱えていて、大変そうだ。

「千風、何番」
「私は29。由莉の後ろよ。千春は」
「17」
「微妙に遠いわね…あ、でも須藤の隣よ、良かったじゃん仲間がいて」
「須藤の方が若干頭が良い」

 千春は溜息をつく。仲の良い人たちと少し離れてしまった。なんかハブられた気分だ。千風はたまにそっちに行ってやるよと笑い、自分の席に行く。千春も荷物を持って自分の席へ急いだ。


「あの席マジ辛ぇ…」
「あ、そうなの? お気の毒に」

 放課後、忽那家で千春と千風は宿題をしていた。案の定、千春は1時間やって半ページしか進んでいない。しかし今日は千風もやる気が出ないようで、まだ終わっていない。

「須藤の奴、すげぇウゼぇの、黙れっつの」
「あいつうるさいわよねー、わかるわかる」
 
 千春の愚痴に千風は飴をなめながら相槌を打つ。なんかとても眠そうだ。

「ちょっとトイレ行ってくるわ俺」
「うーん…」

 千春がトイレに立ち上がったのと、千風が足を伸ばしたのは同時だった。千春は千風の足に躓き、千風に覆い被さるようにして転んでしまった。

「いってて何すん——」
「何すんの——」

 パッとお互い目を開いた。すると、お互いの顔が思ったよりも近いことに気が付いた。かああっと顔が熱くなるのを感じた二人は反射的に離れた。

「おおおお前が足なんか出してるからっ」
「違うわよ、あ、あんたが急に立ち上がったりするからっ」

 顔の熱は引かない。相手の顔なんか見れるか。見たらそのときには、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
 この後、二人は千風が帰るまでまともに目を合わせることはできなかった。また明日、と言葉少なに言って、二人は別れた。ああ、もう——



 明日、どんな顔で会えばこんなにドキドキせずに済むのだろう。

Re: 春風〜千の想い〜 ( No.12 )
日時: 2015/01/25 21:34
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

21:相談

 あの日から、千春は千風を意識してしまうようになった。千風はあの翌日、何事もなかったかのように登校し、何事もなかったかのように千春に話しかけている。

(なんだ、俺が過剰に反応しすぎてんのか…?)

 そう思ってみたが、やはり千風に対する態度がぎこちなくなってしまう。こんな感情、生まれてこの方感じたことがない。対処法がわからない。

「——で、俺に相談したわけだ」
「そういうこと」

 あれから1週間経ってもケリがつかなかった千春は、結局翔に相談することにした。翔は千春の話を聞き、ニヤニヤして、こう言った。

「それはもう、恋だな」
「はっ!?」
「いやいや、マジで。それ以外ないっしょ」

 翔は笑っている。そこで漸く、千春は彼に違和感を感じた。

「ま、まあ、百歩譲って俺が千風を好きだったとしよう。——お前はそれが嫌じゃないのか?」

 おそるおそる聞く。翔は黙っている。千春はもう一度聞いた。

「お前、千風が好きって、言ってたろ。恋敵に恋愛相談されてんだ、嫌じゃねえのか」
「嫌じゃねーよ、もう」

 翔は笑った。けれどそれは、感情を押し殺した笑顔だと、すぐわかった。

「もうって…」
「この前さ、告ったんだ」

 千春は目を瞠った。そんな話、微塵にも聞いてない。

「噂通りの玉砕かと思ったけど、そうでもなかった。俺とは友達でいたいって、言われた」

 千春は黙って聞いていた。翔は笑顔で続ける。

「そしたらもう、なんかもうスッキリしてさ。嫌じゃねーの」
「嘘だ、少しは悲しかっただろ」
「当たり前だろ? 普通に悲しかった、予想はしてたけどさ。でも」
「でも?」
「友達でいさせてくれるんだって、安心した」

 翔は笑顔だった。吹っ切れた、というようなものだった。千春は、ああ、もう諦めたんだ、と悟った。翔はやめたやめた、お前の話を続けよう! とけらけら笑う。千春も、ああ、ごめんと笑った。彼の想いを知った千春は、もう迷ってられないな、と思ったのだった。


22:相談2

「で、結局お前は橘さんが好きなの?」
「んー、正直言って、よくわかんねぇんだ」

 千春が唸った。翔はなんで、と聞く。

「小さい頃からずっと一緒にいて、なんかいじめられてたし、嫌いだって思ってたからな」
「嫌いってのはきっと思い込みだぜ」
「…かなあ。でも向こうはきっと俺のこと嫌いだ」
「んなことねーよ。じゃねーとつるまねーだろ。ましてやお前に勉強教えてやってりしねえ」

 翔が真剣な顔で言った。千春はなおも唸っている。

「それにしたってなあ、俺はまだ気持ちが整理できてなくてだなあ…」
「じゃーもうちょっと待った方がいいかもな」

 翔が被せるように言った。千春ははぁ? と首をかしげて、言う。

「何を」
「告白」
「はあぁぁああ!?」

 千春がわかりやすくうろたえると、翔がけらけら笑いながら、だってそうだろ、と続ける。

「気持ちの整理がついてないのに告るのはおかしいじゃん?」
「だから、好きなのかどうかもわかんないんだって」
「何がぁ〜?」
「だっひゃあああああ!?」

 突如乱入してきた声。それは由莉のものだった。由莉はだっひゃあああああってなんだと思いながら、男子二人に忠告した。

「もう教室閉めなきゃいけないんじゃない? 生徒会長さん」
「うお、マジか、もうそんな時間か」
「うん。私も手伝うよ」

 由莉は鞄を背負いなおしてガララッと扉を閉めた。男子二人を残して。

「じゃ、閉めるねー」
「うおおおお待てえええい!!」

 男子二人がダンダンと扉を叩くと、由莉はあ、いたんだと言わんばかりの表情で二人を見た。

「なんだその表情は」
「いや、いつからいたのかなって」
「最初からいたわ! さっき話したばっか!」

 由莉はマジで? と言いながらなおも閉めようとする。それを千春と翔の二人で阻止した。

「あーごめん、もう閉めなきゃだから」
「だからって置き去りにすんの!? 今日金曜日なんだが!」
「泊まれば?」
「女子こええ」

 結局出してもらえたが、由莉は他の教室でも同じ対応をした。千春がそれを見て言う。

「お前もう会長やれば」
「めんどい。会長が会長じゃん」
「いやもう意味わかんねぇ」

 三人でこうやって話していると、さっきまでの相談の内容を忘れてしまう。千春は、なんかもうどうでもいいや、と心のどこかで思っていた。


23:相談3

 若葉が生い茂る5月。3年に上がってからもう1か月が経った。なんか信じらんないなあと千風は思う。ついこの前入学したばっかなのに——

「でもさあ、あの頃よりは頭良くなってんじゃん」
「千風、残念だけど、その『でも』が何なのかわかんない、千風の頭ん中でしか繋がってない」

 由莉がパックのお茶をすすりながら千風に答える。千風はパンをかじりながら続ける。

「でも、翔とか楓とかと仲良くなったのって2年のときじゃん」
「だから、『でも』って何」

 由莉がお茶から口を離してもう一度言った。すると、千風はこちらを向いて言った。

「今の独り言よ?」
「独り言でけえー!」

 由莉は思わずパックを潰すところだった。千風はそんなこと気にも留めずに続ける。

「由莉もそう思わない?」
「何が」
「やだ、さっきの話聞いてなかったの?」
「独り言じゃねえのかよー!」

 由莉はパックを握り潰しそうになるのを必死でこらえる。パンをかじりながら続ける千風はとても冷静。こっちがこんなに荒ぶっているというのに、気にしない。

「早いものよね、3年間」
「えーあーうん。彼氏もできなかったしねー」
「そうよぉ! いい人いないわねーこの学年!」
「楓は?」
「レベル高すぎ」
「翔は?」
「フったわこの前。友達でいたいから」
「あーずっと好きだったみたいなのに残念。じゃあさ——」

 由莉が少し間をあける。かと思うと、にっこり笑って、

「会長は?」
「ずあっ!?」
「ずあって…そういうとこ似てるわぁ会長と。さすが幼馴染っていうか」
「そ、そうよ、ただの幼馴染でしかないわっ」

 ふぅーんと由莉はニヤニヤ笑う。さっき振り回された仕返しだろうか。

「じゃー普通そんなに動揺しなくない?」
「〜っ」

 由莉はまだニヤついていた。


「へぇ〜じゃあちょっとそういうのはあるんだ」
「別にそういうワケじゃないけどぉ〜」
「そういうワケじゃん」

 千風が唸っている。由莉はニヤニヤが止まらない。

「好きなら素直になれよお」
「無理よぉ、いじめたくなる」

 ふうん、と由莉は頷き、こう言った。

「じゃあ、そのことちゃんと伝えた方がいいよ、尚更」
「…」
「嫌われてるかもって思うんでしょ? じゃあそうした方がいい」
「…由莉」
「大丈夫、千風は嫌われてないよ。私、応援してるから」

 由莉は、千風の方を向いて、ニカッと笑って言った。

「がんばれ!」


24:告白

「…ち、はる」
「…うん」

 忽那家。勉強していたはずだった。なのに、ぎこちない雰囲気になっている。突然、千風が黙ってしまったからだ。
 最近、千風の様子がおかしい、とは思っていた千春だが、こんなことになるのは初めてだ。ちょっと前までは、動揺すらしない千風に驚いていたのに、翔に相談した次の日ぐらいからだろうか、千春を避け始めたのだ。千春が話しかけても適当に返事してその場を離れるし、そもそも話しかけてくれない。同じクラスなのが辛い。自分以外と仲良く話している千風を間近で見ることになるからだ。それでか、千春は気持ちの整理がつき始めていた。そこに来ての、千風からの誘いだった。テスト前だし一緒に勉強しよう、いつも通り忽那家で、と。
 そして、現在に至る。千風は黙って俯いている。千春は千風が何か言おうとしていることがわかっているから、おとなしく聞いている。千風は、噛みしめるように話す。

「…幼馴染だって、隠してたじゃん」
「うん」
「私が、あんたいじめてたって、隠すため、だったの」
「知ってる」
「あ、あのね」
「うん」
「別に、あんたのこと、嫌いじゃ、ないから」
「…うん」
「寧ろ、す、…な方だから」
「えっ?」

 聞き取れなくて、千春が聞き返すと、千風は急に荷物を片づけて、慌ただしく玄関へ走った。千春はおい待てよ、と追いかけるが、千風は待たない。しかし、扉を開く前、一度だけ振り向いて、今度は大声でこう言ったのだ。

「千春のこと、好きだから!!」

 ダン、と扉が閉まった。玄関はだいぶ荒らされている。しかし、千春はそれどころではなかった。

(はあああ…マジかあ…)

 気持ちの整理はつけた筈だった。でも、心臓のバクバクはひいてくれない。


———ああ、ホントどうしよう

Re: 春風〜千の想い〜 ( No.13 )
日時: 2015/01/25 21:39
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

25:逃げない

「なあに…そう…わかった、朝早いからあとは学校でおねがーい」


 由莉は向かいに座る親友に少し呆れていた。その親友、千風は、ずーんという雰囲気を漂わせながら、机に突っ伏している。
 朝早くに電話を受け、学校に着いてから聞いてみると、帰りにファミレス寄ってそこでってんで、今ファミレスにいる。千風は、一通り話し終えてから、ずっとこんな調子だ。由莉は、ずずっと残り少ないジュースを飲んで、言った。

「つまり、逃げちゃったんだ」
「そうですぅ…ホント、どうするべきなのよぉ…」
「どうするべきかねぇ」
「ちょっと、真面目に聞いてんのぉ」
「大真面目」

 言いながら由莉はパフェを頬張っている。千風はパフェに刺さっているウエハースをかじって、続ける。

「逃げちゃダメだったよね…困るもんね…」
「まーねえ」
「だよねええ」

 千風がまた机に突っ伏した。由莉は、溜息をついて言った。

「千風はさ、なんで逃げたの?」
「…怖かったの。返事、聞くのが」
「そう。でもさ、そのままじゃダメじゃない」

 由莉が真剣な目で見つめる。千風は少し、顔を上げた。

「千風さあ、今までたくさんの男子をフッてきてるじゃん」
「…うん」
「その人たちってフラれる覚悟で来てるんでしょ。だから返事聞くまで逃げない」
「…」
「翔だって例外じゃない。みんな、告白にそれだけの覚悟持ってんの」
「…」
「そんな人たちを簡単にフッてきてるのに、自分だけ逃げるのって、卑怯じゃない」
「…」
「っていうか、卑怯だよ」
「…そんな言い方しなくても」
「ごめんね、でも私、ちょっとイラッとしたから」

 由莉は真剣だった。千風も、真剣だ。

「前にも言ったけど、私、応援してるからね」
「…うん」
「フラれたら、泣きついてもいいんだからね」
「…うん、もう、逃げない」

 千風は顔を上げた。清々しい表情だ。

「私、逃げないから!」

 それを聞いて、由莉はまたあの相談に乗ったときのように、

「うん、がんばれ!」

 ニカッと、笑った。


26:決心

 翔は驚いていた。まさか、そんなに身近な人が、好きだった人に告白されるなんて思わなかったから。しかし、もう受け入れると心に決めていた。だからあいつから電話を受けたとき、そうか、としか返さなかったんだ。もう、決めていたことなんだ。

「…っ」

 そうは言っても、体はそんなに簡単に受け入れてはくれなかった。ベッドに仰向けになって、顔を腕で覆う。はあっと鼻から抜けるような、変な溜息が漏れた。

「…やっべぇ、目に、ゴミ入りやがった」

 声も、鼻が詰まったようだ。風邪ひいたかな、と声に出そうとして、出せなかった。もう、声すら出ない。

「っはあ」

 寝返りをうち、うつ伏せになった。じんわりと目のあたりが濡れてくるのを感じる。もう、ダメだ、体が言うことを聞いてくれない。


 涙が、止まらないんだ。



「マジで? よかったじゃん」

 数日後、千春と千風は付き合うことになった。翔は、心から祝福した。本当に、心から。


———もう、自分の中でケリはつけたから。後悔は、していないんだ。

Re: 春風〜千の想い〜 ( No.14 )
日時: 2015/01/25 21:46
名前: Va*Chu (ID: vAYBtxw9)

27:休み

 昼休憩。千春と千風が付き合うようになってから1週間が経った。翔は最初のうちこそぎこちなかったが、今は普通になってきた。由莉は、今まで通り、明るく接している。今日も、いつも通り集まって、ご飯を食べているつもりだったが、いつもと違う点がひとつ。


 楓が、いない。


「森野くん?」
「そう。最近見てない気がして」

 2組の生徒に翔が尋ねた。最近は千風と千春のことで色々あって5人で集まることが少なくなっていたためか、見かけないことに気づかなかった。心配になった千春たちの中で、一番暇で交友関係の広かった翔が聞いてまわることになったのだ。

「ここ2週間近く休んでるよ」
「えっ!?」
「なんかね、体調が良くないみたいで。熱が高くて、なかなか下がらないって」
「に、2週間も?」
「そう。ここまで来るともう嘘くさくてさ、サボりって疑う人が増えてるよ」

 そうなんだ…と放心状態になりかけながら、翔はありがとうとお礼して、帰りに千春たちに話した。

「マジで? ずっとなの?」
「らしいぜー」
「熱って、そんな下がらないもんなの」
「あいつだからじゃね? わかんないけど」

 千風、由莉、翔が話す中で千春はずっと黙って何か考えているようだった。翔が気になって話しかける。

「なぁーお前も何か言えよー」
「…前に会ったときに」
「あ?」

 千春が話し出した。翔は思いがけず変な声を出してしまった。

「いや、前に会ったときに、あいつの中学からの親友に会ってさ」
「あーもしかしてあの桜坂?」
「そ。でさ、一緒にジュースでも飲もうかってなって。その先で」
「で?」
「桃津の超不良を見かけて。そいつ、どうやら森野と何かあったみたいなんだよな」
「だから?」
「…いじめ、とか」

 沈黙。誰一人話そうとしない。しかし、次の瞬間、

「そんなアホなぁ——!!」

 千風、由莉、翔が同時に吹き出した。千春はう、と剣幕に押される。

「だって、あの楓だよ!? そんなワケねーじゃん!」
「そうよー! 千春、考えすぎだってー!」
「二人の言う通りだよ、会長、考えすぎだよー!」

 3人は考えすぎだと言って笑っている。しかし、千春はどうしても腑に落ちなかったのだった。



『…楓? どうした、大丈夫か? …楓、お前今、どこに、』
「…しゅう…たす、けて…」
『楓? どうした、おい、大丈夫なのか!?』
「たすけて…!」


——雨が止まない夜だった。


28:雨の夜

「お前さあ、高校入ってから調子こいてね?」
「そうそう、マジうぜーんだけど」
「ホントさあ、わかってんの? 自分の立場」


「お前は所詮、俺のストレスを発散させる『道具』でしかねーんだよ」


 雨の夜。家で勉強していた修一に、一本の電話が入った。

「こんな半端な時間に誰が…楓?」

 携帯に入った着信は、楓からのものだった。普段あまり電話してこないのに、ましてやこんな時間になぜ、と思いながら、電話に出た。

「もしもし楓? どうした?」
『…しゅう…』

 雨の音の中に、消え入りそうな声が聞こえた。修一は知っていた。楓が「修」と呼ぶときは、本当に調子が悪いときや、弱っているときだということを。修一は、雨の音からも、ただ事ではないと悟った。

「…楓? どうした、大丈夫か? …楓、お前今、どこに、」
『…しゅう…たす、けて…』
「楓? どうした、おい、大丈夫なのか!?」
『たすけて…!』

 修一は勢いよく立ち上がって、適当に羽織って外に飛び出した。電話は繋げたまま。

「どこにいるんだ!? 今行くから!」
『…修一の家の、近く…コンビニの前…』

 修一と少し話したからか、さっきよりは落ち着いたようだ。修一の家の近くにコンビニは一つしかない。あそこか。
 コンビニ前。そこに確かに楓はいた。修一は、声をかけた。

「楓…」
「修、一…」

 修一に気づいた楓が彼の声に応えた。しかし、修一が近づいていくと、ふらりと彼に凭れ掛かってしまった。

「っおい、大丈夫か?」

 楓の体は、驚くほど熱かった。しかも、どこでつけたんだと疑問に思うほどの擦り傷や打撲があった。——修一は、この傷に心当たりがあった。

「とりあえず、俺の家に行こう。しばらく親いねえって言ってたもんな」
「う、ん…ごめん、こんな時間に…」
「いいよ、どうせ一人暮らしだし」

 修一は楓を支えながら、歩き出した。


「39度7分か…インフルかってぐらいの高さだな。多分雨と知恵熱だろうけど」

 家に着いて、まず熱を計った。すると、目を疑う数値で、こりゃしばらく学校には行けねえな、と修一は思った。

「で、話せるか?」
「うん…聞いてほしい…」

 布団に埋もれながら、楓が小さく言う。今日この日に何があったのか。修一は、あいつ——小野塚が関係することを疑っていたのだった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



この掲示板は過去ログ化されています。