コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 ー旧版- 【完結】※2スレ目
日時: 2020/05/18 19:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

  
 ※※ご注意※※

 本スレは、ただいま執筆中の『最強次元師!!《第一幕》【完全版】』の【旧版】です。
 記念に残しているだけのスレッドになりますので、『最強次元師!!』をはじめてお読みになる方はぜひ、【完全版】のほうをお読みいただけたらなと思います!
 何卒、よろしくお願いいたします。


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 運命に抗う、義兄妹の戦記

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 完結致しました。
 読んでくださったすべての皆様へ、本当にありがとうございました!


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 本スレは【完全版】のネタバレを多く含みます。ご注意ください。
 本スレは【旧版】の2スレ目です。第001次元~第300次元までは旧スレのほうに掲載しています。上記のURLから飛べます。


 ■ご挨拶

 どうもこんにちは、瑚雲こぐもと申します。
 旧コメライ版から移動して参りました。
 長年書き続けております当作ではございますが、どうかお付き合い下さいませ。

 Twitterのアカウントはこちら⇒@shiroito04
 御用のある方はお気軽にどうぞ。イラストや宣伝などを掲載しています。


 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。


 ■目次

 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 
 第302次元 >>003 
 第303次元 >>004 
 第304次元 >>007 
 第305次元 >>008 
 第306次元 >>009 
 第307次元 >>010 
 第308次元 >>011 
 第309次元 >>012 
 第310次元 >>013 

 第311次元 >>014
 第312次元 >>015
 第313次元 >>016
 第314次元 >>017
 第315次元 >>018
 第316次元 >>019
 第317次元 >>020
 第318次元 >>021
 第319次元 >>022
 第320次元 >>023

 第321次元 >>024
 第322次元 >>027
 第323次元 >>028
 第324次元 >>029
 第325次元 >>030
 第326次元 >>031
 第327次元 >>032
 第328次元 >>033
 第329次元 >>034
 第330次元 >>035

 第331次元 >>036
 第332次元 >>037
 第333次元 >>038
 第334次元 >>039
 第335次元 >>040
 第336次元 >>041
 第337次元 >>042
 第338次元 >>043
 第339次元 >>044
 第340次元 >>045

 第341次元 >>046
 第342次元 >>047
 第343次元 >>048
 第344次元(最終) >>049

 epilogue >>050
 あとがき >>051


 ■お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始
 2017 11/13 完結

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.2 )
日時: 2017/09/19 16:35
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dscjh0AU)

 第301次元 科学部班班長からの指令

 「! れ、れれレト君!? ――それにみ、みんなもっ!」

 非現実だらけの神の世界から帰還した英雄たち一向は、まずはじめに、目の前に広がる景色に唖然とした。
 妖精の社は碧々とした景観でなく、燃えるようにな暖色を彩っている。夏だった世間は既に、秋の終わりを迎えていたのだった。

 レトヴェールを初めとして、キールアやエン、サボコロの四名は傷ついた体を引きずりながらセンターの街並みへと足を踏み入れた。
 そして蛇梅隊本部の門をひさしく潜ると、廊下を慌ただしく駆けていたフィラ・クリストン副班長が目を丸くして足を止めたのだった。そして現在に至る。

 フィラ副班長の反応は至極当然のものだった。蛇梅隊に正式に所属している隊員が数名、無断で数か月もの間隊を留守にしていたのだ。さらに彼らはもう一般の次元師ではない。次元師を代表する『英雄大四天』の名を授かって間もなく、俗にいう有名人となってしまった四人はまるで、故郷にひょっこりと顔を出した旅人のよう。
 バサバサバサー! と、フィラ副班長の抱えていた分厚い書類が傾れ落ちる。

 「あの、大丈夫ですか? 書類全部落ちましたけど……」
 「ええ、大丈……――じゃないわよ! ちょっと四人とも! 一体どこへ行っていたの!? ずっと探してたんだから! 通信機にも連絡が来ないし、こっちから連絡飛ばしても繋がらないし……! 大体なんでそんなボロボロなのよ!?」
 「ええと、それは……」
 「悪いフィラ副班。詳しい話はあとで、報告書でまとめて班長に提出するから」
 「ほ、報告書? 一体……」
 「ま! 細けえことは気にすんなってこった!」
 「気にするわよ! 何ヶ月留守にしてたと思って……!」
 「失礼だがあとにしてくれ。俺たちは早急に医務室に寄りたいのだ」
 「……そ、そうね……なんだか怪我、してるみたいだし。大戦が間近に控えてるんだから、体は大事にね?」

 フィラ副班から、それ以上の言及はなかった。四人は医務室へ足を運ぶ。


 彼女の言う通り、第二次神人世界大戦の開戦はもう目前に迫ってきている。
 カレンダーに目をやれば、大戦の日まで一ヶ月を切っていることがわかった。蛇梅隊本部内も、留守にしていたこの数ヶ月の間に雰囲気が変わったように感じられる。
 フィラ副班が抱えていた書類も、恐らく大戦に関連した資料か何かだったのだろう。

 千年前の資料を集めている科学部班。世界中に散り散りになった次元師の所在を確認している援助部班。
 大戦へ向けて、さらなる医術の発展を目指し研究に励む医療部班。
 ――そして、日に日に増えていく元魔の討伐へ向かう次元師たちと、各個人の戦闘力を管理する、戦闘部班。
 どの部署も忙しない様子で廊下を駆け回っていた。目まぐるしい日々を、英雄大四天の留守の間にも送っていたと思うと四人は、少し申し訳ない気持ちを抱いた。



 医務室に顔を出し、一通りの治療を終えたところですぐに部屋をあとにした。レトは、本部の廊下で静かに太陽光を受け入れている大きな窓ガラスの、奥を見やる。
 単純に何を眺めているとは定めずに、ただじっと。
 ――しかし体は正直だ。一年ほど前、義妹がまだ薄暗い明け方に自分の目の前から姿を消したときと同じ景色が映える。
 涸れた葉は地から舞い、撫で、撫ぜられを繰り返しては、からりと転がった。


 寒空の下。ひどい雨の降る朝だった。眼を開けた少女はまるで、人間ではなかった。
 今までの彼女を否定するかのようにその眼は朱く。
 もしも今まさに、目の前に彼女が現れたと仮定して。またこの右手を伸ばしたのなら。
 今度こそ、掴むだろうか。
 もう一度、拒むだろうか。

 ――あのとき手を離さなければ。違う未来は、在っただろうか。

 「――レトヴェール」
 「!」

 数ヶ月越しに耳に差した低い声色が、レトの意識を奪った。
 彼の実の父親である、フィードラス・エポールは窓際で立ち止まるレトへ近づいた。
 父を嫌いらしいとはいえ特に逃げる素振りも見せず、父子は向かい合う。

 「俺になにか用かよ」
 「準備ができたら、地下へ続く階段まで来い。ほかの三人も一緒にな」
 「? 準備ってなんのことだ」
 「来ればわかる」

 フィードラスは息子であるレトに嫌われていると自覚があるが、そんな息子をからかうような面を持つ。しかし、終えた会話からは、まるで上司が端的に部下へ指示を渡すような希薄さが滲み出ていた。
 実際に班長階級に位置しているフィードラスからすれば、所属部署が異なるとはいえ班の一隊員にすぎないレトは階級も低く、上司と部下の関係に遺憾はない。
 それでもと、レトは去っていく父の後ろ姿を、しばし呆然と目で追っていた。
 腑に落ちないが、フィードラスは実の父親であり、科学者としての才能、実力、それに纏わる地位も確立している。
 認めざるを得ないかと、レトはぽつぽつ歩き出した。



 「おいレト~。集合って、いきなりなんだよ」
 「知るか。あのクソ親父、詳しいことはなにも言わなかったんだよ」
 「『来ればわかる』……か」
 「ああ。ったくいい加減なやつ……」
 「でも用ってなんだろうね? それも私たちだけ、なんて……」
 「……そういやさっきから、双斬が見当たらないんだよな」
 「! 俺も俺も! 炎皇のやつどっか行っちまってさあ!」
 「なんだ、貴様らもか。実はさきほどから、光節の姿が見えなくてな」
 「ええ!? ……百槍も、なんだけど」

 キールアの言葉を最後に、一同は口を噤む。
 普段は各々の心の中にだけ棲み、時折実体化しては主のあとについて回る――千年前、英雄だった者たちの魂。
 断りもなしに、揃ってどこかへ行くのはこれまでにない事例だ。不安は募るばかり。

 「――お。来たな、若き英雄たち。休養中のところすまないな」
 「親父。一体なにするっていうんだ」
 「話はあとだ。とりあえずついてきてほしい」

 地下への階段にまで辿り着くなり、そこで壁に寄りかかって四人の到着を待っていたフィードラスと顔を合わせる。
 文句を言ってやろうと意気込んでいたレトを慣れた調子で制圧すると、そのまま階段を降りていく。
 全く腑に落ちない。目的も分からずじまいで、四人はただその後についていった。

 地下は直線的で、長く奥へ続いている。上の階と比較してみても、廊下の幅の広さや長さ、部屋数は同等のものであった。
 ただ違うのは、全体的に明かりはぼんやりと広がっていて、薄気味の悪い印象を受けるという点。
 しばらく歩いていくと、廊下の突き当りに到着した。汚れや傷のついた古臭い壁に、後から取り付けられたのだと推測できる真っ白い扉。フィードラスが軽く押し開けると、僅かに灯りが漏れ、レトたちの瞼を刺激する。
 レトは薄らと目を開けた。

 「――!」
 「な、にここ……」

 白い、がそれは気持ちの悪い白さだった。空間はどこまでも広がっている。
 目視できたのは、視線で壁を伝うと両端に一つずつ扉が設置されていたということだけだった。
 言葉を失った四人の代わりに、フィードラスが口を開いた。

 「ここは俺が個人的に用意した部屋だ。少しでもお前たちの役に立てばと思ってな」
 「……役に立つ? ここで修行でもしろって言うのか?」
 「修行なら、べつに鍛錬場でも……」
 「ここでしかできないことがある――まあ、行けばわかるさ」
 「行く……?」
 「扉が見えるだろう。右と左に一つずつ。そして一番奥の方にも実は一つあるんだ。君たちには各々、決められた部屋に入ってもらう。まずはキールアちゃん」
 「あ、はいっ」
 「君はまっすぐ進みなさい。君の部屋は一番奥だ」
 「はあ……」

 キールアが一人だけ歩き出す。未だ疑問も晴れないまま、ただし足は止めずに往く。
 部屋の形状は円だ。キールアは不自然に白い空間を横断する。
 しばらく歩いたところで、一度だけ振り返った。レトたちの顔色を伺ってから、覚悟を決めてまた先へ、白い世界に呑まれていく。
 キールアの姿は完全に見えなくなってしまった。

 「扉の先にいったいなにが……?」
 「次はエン君。君は右の扉だ。続いてサボコロ君は、左の部屋」
 「……承知した」
 「なんかよくわっかんねーけど、行ってやらあ!」

 二人は道を分かち、右と左の扉の前まで素直に向かっていく。
 二人の背中が、扉の向こうへいくのをレトは見送っていた。
 ――しかし、扉は三つだけ。最後に取り残されたレトは、今度こそ自分から声をかける。

 「……それで、俺の部屋は?」
 「ない」
 「……はあ?」
 「お前の部屋はない――お前には、ここでやってもらう」
 「ここって……だから、いったいなにを――」

 英雄たちは、息を呑んだ。フィードラスは端に避ける。
 部屋の中央で訝し気に父親を睨むレトの名前を――“彼”は、呼んだ。


 ――――同時刻。キールア、エン、サボコロも同様の光景に、目を疑う。


 「「「「――――っ!!?」」」」


 浮世には存在し得ない――――紙上の彼らは、目の高さを同じくしていた。

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.3 )
日時: 2017/08/17 18:10
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7TIkZQxU)
参照: ※修正しました(17.8.17)

 
 第302次元 英雄

 「う……ッ――!?」
 「――はァ!!」

 力強いかけ声と鋭い刃とに気圧される。気迫だけで、周りの空気を制圧していた。その怒号は鼓膜を刺し、心臓を穿つ。
 やむをえず距離を取った。金の髪はしばらく大人しくしていたが――少年が間もなく駆けだすと、触発され僅かに揺れた。
 ――、一歩。低い背丈の脚がぐんと距離を縮めてくる。金属音は響いて止まない。

 「――どうしたの? この程度じゃ、話にならないよ」
 「う、ぐ……っ!」
 「“第七次元発動”――――」

 理解が追いついていない。よく頭の回る脳が、優秀な回路が図らずも戸惑っていた。
 ――それというのも、実際に目にある光景が、とても信じがたいものだったのだ。


 「――――“十字斬り”ィ!!」


 ――――“双斬”が、そう叫ぶと双剣は、忠実に技を繰り出した。



 (どうなってんだよ……!?)

 時間は少し前に遡る。
 レトは、自身の背中に声がかかったのを、その響きを不思議に思った。

 「レト」

 振り返ると、そこには少年がいた。
 少年はまるで千年前の、彼の――――“生前”の姿を、していた。

 「――!」
 「……この姿じゃ、初めましてだね」
 「お、前……いったい――」
 「――レト。僕は君と――“戦い”に来たんだ』
 「っ!?」
 「勝負をしよう、レト。君が勝ったら大戦には君が参加する。――でも、僕が勝ったら」

 見慣れない容姿をしていた。幼くて、少年にしては高い声も、ほんの微かに低い。
 幼児ほどの体長だったはずだ。常にふよふよと宙に浮いていた、精霊だったのだ。
 それなのに、視界に映る彼は人間みたいだった。
 肉体を持ち、本来の声を取り戻し――そして。


 「僕が勝ったら――――僕が、君に代わって神を討つ」


 ――――全身に、溢れ余る力を滾らせていた。


 その意味はわかるだろう――と、威圧を含んだ瞳はそうとだけ告げる。
 双斬本人が大戦に参戦する。それは即ち、レトの身体に憑依した状態で、レトではなく双斬が人族代表として、神族と剣を交えるという話だ。
 少年は淡々と紡ぐ。衝撃のあまりレトは言葉を失った。

 (……予想通りの反応だな)

 広い空間の、白い壁に背をついてフィードラスは様子を伺っていた。
 既に剣を交え、額に汗を滲ませたレトに対して少年は実に心地よく剣を振るう。
 経験の差だろうか。潜り抜けてきた逆境の数か。踏んできた場数の違いともいえるだろう。
 この奇怪な光景を実現することに成功した。それだけで、ここへ戻ってきた甲斐もあったものだと笑みをこぼす。

 (“同位重次元空間システム”――――どうやら、調子は良いようだ)

 英雄大四天が有次元で過ごしていた間の数ヶ月。フィードラスは徹して、この設備の研究をしていた。
 蛇梅隊本部に戻ってきたのはそのためでもあり、彼自身興味を惹かれる題材だった。

 これは本来人間が持つ次元の力を“具現化”するという目的に基づき、本格的な肉体に最も近い物質を次元の力そのものに与えることによって、まるで次元の力がその場で息をしているかのように、現世での存在確立を許すシステムを組みこんでいる。
 一言でまとめるならば、次元の力と、同じ次元の力で戦える空間。

 勿論この施設を出てしまえばその制度は適応されず、次元の力は本来の姿に戻る。
 次元の力はもとより、創造神【MOTHER】が千年前に生み出した人間の心を利用することによって発動の出来る異能の力。
 次元の力の構造や起源を深く理解し、研究を重ねてきた彼だからこそ成し得た業だ。
 自身の研究成果に誇りを感ずると同時、自身と同じDNAを持つ息子の成長を眺めていた。


 今ここには、一人の人間と三体の双斬がある。
 一つは人間の手に収まり、もう一つは具現化し、最後の一つは具現化した肉体に宿る。
 現実では叶えられない光景を、この空間が可能にしている。

 ――――人呼んで、“天才科学者”。フィードラス・エポール。
 英雄の父親でありながら、蛇梅隊科学部班班長をも務める彼の名は、後世に語り継がれていくだろう。

 「ぐ、ぅ……!」
 「さっきから守ってばっかりだけど……少しは、反撃――しなよ!!」
 「!!」
 「第六次元発動――――真斬!!」
 「――がはァッ!?」

 弾き飛ばしたレトの懐が、大きく開いた瞬間を、双斬は見逃さなかった。
 重い一太刀が、情もなくレトの脇腹を斬り裂く。
 鋭く飛び散った血を眺める彼の炯眼を、薄目に捉える。
 レトは膝をつく。口から垂れる血と唾液とが、激しく地面を叩く。

 「あッ……が、は……ァ……!!」
 「隙が多いね。それに競り合ったとき押しに弱い。よくもこの程度で代表になれたものだよ」
 「……っ、ん、だと……?」
 「よく聞いてレトヴェール。君は確かに人族代表に選ばれた。僕も同じ。だけど僕らは――全然違う」
 「!」
 「それがなんだか、分かるかい?」

 傷口を押さえる腕は血を、溢れるほどの勢いを殺すことができずにいた。
 赤みはだんだんと深くなる。苦しい表情で見上げた、自分より小さい、なのに逞しい立ち姿に、目が眩んだ。

 「僕はこの称号を……戦争で得たんだ。代表になろうと思ったわけじゃない。英雄と賞されるも、望んだ結果じゃないよ。人間をたくさん斬り殺して、敵の大将の首を跳ね飛ばして、この名を手に入れたんだ。……なのにどうだい? 君はだれかと戦争を経験した? 殺し合った? 本気で命を狙い狙われ……死にもの狂いで――“生”を勝ち取ったことが、一度でもあるのかい?」

 英雄大六師――千年も昔、神族たちと戦ってくれと押された背中の主は、まだ十代の幼い子どもたちだった。彼らが生きたのは、簡単に人が死んでいく時代だった。
 その刃が、矢が、心臓を突き破る。その身で人の身体を動けなくなるまで殴り、蹴り飛ばしては叩きつけ、捻じ曲げる。それだけで人は死に至った。

 なんて貧弱な生き物だろう。双斬を含む英雄たちは知っていた。
 人間は弱いと云う神たちに怒りを覚えないのは、人間と神の間に大きな力の差が存在していたから。
 冷たい瞳の、千年前の英雄はレトの喉元に切っ先を向ける。

 「双、ざ……っ」
 「答えてよ。君はこの戦争で……死なないとでも思ってるの? 僕ら英雄大六師は、たくさんの騎士が、兵士が、――仲間が死んで束になったその上を駆けて生きてきた。生きることに、勝つことにただただ必死だった! もし君が英雄という名に驕り、安住し、戦争に臨むというのなら――今、ここで君を殺すよ」
 「……」
 「だって一緒でしょ。今死ぬのも、一か月後に死ぬのも」

 ああ、そうか。少しの間寿命が延びるだけの話。双斬は皮肉げに言い放った。
 それが脅しではないことくらいレトにはわかっていた。警告にも至らないことを。
 ――眼差しに躊躇の色は見えない。双斬が腕を振るえば、レトの喉元を突き破るのは容易なことだ。
 それをしないのは、僅かに同情を仰ぐ心が、彼の理性を塞き止めているからに過ぎなかった。

 「死んででも人類に尽くすと誓え。その命はもう君だけのものじゃない。全人類のものだ。君が死ねば、人類は間違いなく滅ぶだろう。……さあ、それでもまだ君は――そんな戦い方をするの?」
 「……っ、俺は――」
 「余計なもんは全部棄てろ!! ――――勝ちたいなら目を覚ませ!!」

 怒り昂った双斬の手元はなお震えずに、レトの首をしかと捉えている。
 どれほど感情を揺さぶられようとも、目的は瞬く間にも見失わない。気を取られもしない。
 人間のようで、彼は人間ではない。


 ――――それが、“英雄”。人々に命を授けられた者の、最大限の覚悟だ。


 「次はないよ、レトヴェール。隙があれば、今度こそ本気で――」

 目を覚ませ。――その一言は、英雄の心臓を駆り立てるには十分すぎる響きだった。
 刃先を引いて、背を向けたのが――間違いだったのだと、気づいたのは。


 「――ッ!!?」


 血が飛び散ったときの、心地の悪い音を耳にしてから随分、後だった。


 「そうだな。悪い――――目、冷めたみたいだ」


 涼しい顔に赤い閃が浮く。ただしそれはレトのものではなかった。
 体を傾かせて、仄かに笑ったのは千年前の英雄だった。

 「……やればできるじゃん」
 「にしてはあんまり苦しそうじゃねえな。もっと派手に斬りゃよかった」
 「はは! できるならやってみなよ――半人前の英雄!!」
 「上等だ!! あとで哭いても知らねえぞ――千年前の英雄!!」

 開始から数十分が経過した。古代と現代を生きる英雄たちはその腹に、背に、斬り傷を背負い――ようやく、開戦を迎えた。
 一人は超えるために。一人は、超えさせないために。

 人類の命を背負う英雄は、それぞれたがう英雄の名に懸けて――加速する。

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.4 )
日時: 2018/01/12 16:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: yIE1Hsuy)

 第303次元 天才科学者

 同時刻。
 一人は、その腕で矢を放つたびに這う汗を拭えずにいた。もう一人は、頭に巻いた白いバンダナが緩みかけたことに気がつかない。そして最後の一人は――高く二つに結い上げた金の髪を、激しく揺らしていた。

 置かれている状況はレトヴェールと同じだった。
 エンもサボコロもキールアも――、千年も昔英雄と謳われた次元師たちと、対峙する。
 炎を纏い、大地を割っては矢尻が飛んだ。自身が持つ次元の力とまったく同じものを、自分以外の人間が目の前で振るっている。この信じがたい景色を、違和感と呼ばずなんと呼ぶべきだろうか。



 フィードラス・エポールがこの施設を開設しようと思い至った経緯は、突発的な思いつきでも、まして自発的なものでもなかった。
 珍しいことに、第三者からの申し出だったのだ。
 事の発端は数か月前に遡る。

 『……』

 蛇梅隊第一支部内は、白衣姿の研究員で満ちていた。というのも、この第一支部というところは科学部班のためだけにあるような研究施設で、ほかの班の班員は出入りする用もない場所だ。
 彼らにとって蛇梅隊の本部はあくまで調査報告、実験概要を提出する場に過ぎないのだという。

 科学部班班長のフィードラスは広大な個人用研究室のほかにもう一つ、隊員の一部にしか知られていない狭い個室を持っている。支部内で彼が失踪したと噂になる原因の一つでもある部屋だ。
 室内は、霊の類が好みそうな仄暗さだった。彼はランプの光に当てられてようやく目視しうる資料に目を落としていた。
 次元の力の研究に尽力する彼は、考察力もさながらであるが知識が豊富だ。それは、彼の机を取り囲む資料の束やら本棚からなだれ落ちたであろう本の山のどれにも『次元』と記述されていることから、容易に推測できる。

 その日もフィードラスは、紙上にペンを走らせていた。すると不意に、コンコンと響いた音を頼りに顔を上げる。
 ガラス窓の向こうには、幼児ほどの小さな体が浮いていた。

 『……君は……』
 『こんばんは。そして初めまして、フィードラス・エポールさん』

 元霊、英雄大六師、――紅蓮の魔剣使い。
 呼び名は数多あれど、今その名は――――双斬。

 『やあ、こんばんは。こんな時間に何の用だい、英雄くん?』
 『……僕の事情を知っているということは、僕があなたの息子である……レトヴェールの次元の力だってことも、ご存じで?』
 『ああ。と言っても、つい数年前耳にしたんだ。どうやら世間様を騒がせているみたいだからね、うちの息子どもは』
 『ええ。僕じゃあ、きっともう』
 『……』
 『だからこそ力を借りたい。フィードラス・エポール――、人呼んで』

 千年の時を超え、その体長は30cmほどにまで縮んでしまった、小さな英雄は告げる。
 と、その言葉を耳にしても、彼は眉一つ動かさなかった。

 『――――“史上最高の天才科学者”である、あなたに』

 フィードラスは、かけた眼鏡をくいと指で押し上げる。
 その口調は相も変わらず平淡に放たれた。

 『史上最高、か……――残念ながら、私は一番ではないよ』
 『……? 噂ではたしかに……。あなたのほかにも、優れた科学者が?』
 『さあ、どうだったかな』

 フィードラスは冗談まじりに笑みをこぼした。

 人類を遥かに超越した頭脳と考察力。数多の難解書物の解読を可能とする博学さを有し、それを応用して最先端の科学技術の発展に尽力してきた史上最高の天才科学者。――彼を取り上げた記事や、彼が実際に筆を執って記した研究記録の書物の宣伝の殆どにそのような文句が述べられている。
 また、歴代で著名な科学者の筆頭とも呼ばれる彼に「ご謙遜を?」と尋ねる双斬に対して、フィードラスは何も応えなかった。

 『話がだいぶ逸れてしまったようだ。まさか私を褒め称えるために来たわけではないだろう?』
 『あなたの実力を見込んで、頼みたいことが』
 『ほう。まあ、息子が随分お世話になっているみたいだから、ある程度の依頼は引き受けるよ。これでも蛇梅隊の隊員だしね』
 『僕と……僕と、レトヴェール君を――戦わせてほしいんです』

 彼の眉はぴくりとも動かずにいた。双斬からの注文は、言語として彼の脳に取り込まれる。
 この瞬間から彼は考えていた。次元の力の具現化。多重次元空間の設計図。
 一通りのシュミレーションを、まるで拍子抜けして一瞬言葉を失っていたかのような僅かな時間で終えると、息を吐いた。

 『なるほど、ね。いいだろう。引き受けるよその依頼』
 『! いいんですか? そんなあっさり……』
 『……君は、私を“史上最高の科学者”だと見込んで来たんだろう? おかしな子だ。無理だと思うなら依頼を断ってもいい』
 『い、いえ……』
 『――信じること。また信じられること。この相互関係は、“我々”にとって一番大事なことだろう?』

 双斬には、フィードラスの言葉を肯定する術を持っていなかった。というより、彼の発言が一体なにについて触れているのかがこの時点ではわからなかった、というのが正しいだろう。
 彼は、返答に困っている双斬をよそに続ける。

 『君が信じてくれるなら引き受けるよ。期日は?』
 『えっ、ああ……僕たち、しばらくは帰ってこられないので、その間に』
 『わかった。できるだけ早く、だね』
 『はい。お願いします』
 『それまで、息子を頼んだよ』

 研究室にこもり続けの日々を送れば、おそらく彼のように体調の悪そうな表装ができあがるのだろう。しかし嗄れた天才の声色は、まさしく息子を思う父の色をしていた。



 「はァ――!!」

 幼い少年の細い腕が、激しい風の刃を連れて空間を裂く。レトヴェールはその威力に圧倒されたせいもあって、一瞬隙を見せた。彼の双剣は強く弾かれた。
 双斬はあまり次元技を使わない。己の腕と気迫が、レトを圧すのに十分すぎた。然しレトも、負けているばかりではいられない。
 繰り出される荒々しくも力強い。双斬の剣技を、上手く躱し始めた。

 「く……!」
 「今度はこっちだ!! ――十字斬りィ!!」

 重なった二つの、空気の太刀が切り裂いた。真正面から飛び込んでくる刃に双斬は、片手で。
 左腕に力を入れたと思うと切り捨てるように真空波を薙ぎ払い、駆けた。

 「なっ!」
 「――十字斬りィ!!」

 双斬もまた――“次元唱”を唱えなかった。
 至近距離で放たれる。難なく自分の次元技を躱されてしまった驚きでレトは、痛感した。
 ――違い過ぎる。レトの知っている十字斬りではまるでなかった。

 「うああ――!!」

 細い真空波ではない。レトが普段目の前にしているそれではない。
 間違いなく“刃物”のようであった。研ぎ澄まされた刃先、波が空間を裂く速さ。一撃に込められた重さ。
 全てを取っても、レトが生み出す技では及ばない程。
 凄まじく悍ましくて――ただ、怖い。
 本当に同じものを扱っているのか。同じ武器をその手にしているのか。
 使い手が違うという事実がここで顕れる。千年のブランクを何食わぬ顔で、徐々に埋めていく英雄は。
 器用に、くるくると、双剣を手元で躍らせ――距離を詰めた。

 「「――ッ!」」

 全く同じ金属音が軋む音に、苦しいレトの表情と、覗く双斬が力むそれが重なった時。
 均衡を保っていた力は反発するように。両者共々、後方へ跳んだ。

 「はあ……はっ……!」
 「息、上がるの早いみたいだね。まあ少し前までと比べたら相当良くなったと思うけど」
 「うるせえな……ちょっと疲れただけだっつうの」
 「そうそうその意気だよ。弱音は吐いちゃいけない。君の弱気な一言が、全次元師の重荷となって嵩張っていく事を忘れないでね」
 「分かってるよ、んな事は」
 「……変わったね」
 「は?」
 「何でもないよ! さあ続けようか――君か僕か、“英雄”に相応しいのが一体どちらか!!」

 レトヴェールの息は既に整っていた。少し体を休めただけで、こうも変わる。
 双斬は具現化された千年前の肉体でまた駆け出した。まだ慣れない。もう少し自由に、動きたい。
 縦横無尽に飛び回る、柔らかい肢体にはまだ足りない。

 (レト、僕は……僕が出せる最大のコンディションで、君と――戦いたいんだ!)

 千年のブランクを抱えた英雄は、たった十五、六年生きてきた少年に、願う。

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.5 )
日時: 2015/05/18 07:13
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: 簡単にまとめると……2レス目おめでとうございます!!(ぇ

朝早くにお邪魔しますっ! 犬です! ご無沙汰しています! 覚えていますでしょうか!?←
何と……! 駄犬のクセをしてまさか2スレ目突破したのに気付かなかったとは!! 何という失態でしょうか! やらかした感満載です!

ええ、何でこんな朝早くになったのかと言いますと、何となく朝早く起きてしまったのでやることなく、カキコを開いてみたわけですよ。携帯で!
「あ、瑚雲さん覗こう……」
ふとそう思いまして! いつもの如くこっそりと拝見させていただこうと伺う為に検索をかけさせていただきましたところ……(ストーカーとかじゃないですごめんなさい逮捕はやめてくd)何と、スレが二つあるじゃありませんか!! おかげで朝早くから変な声が出るわ、変なテンションになるわで、これは伝えなければならない! ってな感じで使命感(?)のままにパソコンをつけてこうして今書いていますww
我ながらバカだなぁ、と思ったんですけど……これ、お祝いの言葉をすぐに述べたい! って厚かましく思っちゃいまして……はい。


そんなわけで! 2スレ目おめでとうございますっ!! 


毎度、コメントを書くと上手く文がまとめられないのと喋りたがりなところがありまして……こんな風に長々とした文になってしまうのは本当に申し訳ないと思うのですが、言わざるを得なかったことをどうかお許しください……!
それと、この場をお借りして何ですが、お忙しい中自分の駄作に感想を入れていただき、ありがとうございます;
ダメだ、変なテンションからかちゃんとまともな言葉が浮かんできそうにない……。全然物語の感想とか無しにただお祝いの言葉を言うだけ言って帰るのもあれなんですけども……そう、凄く申し訳ないんですが……。

自分には画力も何もないのでお祝いの絵も送れず……こうやって文でお祝いを述べるしか出来ないのが残念で仕方ないですやで……。うん、何か考えたいな……。
いかん、このままだと1000文字軽く突破しそうな勢いなのでとりあえずこの辺で止めることにします!
まだまだお話したいことがあったりもしますが、とにかくおめでとうございますとだけ伝えにパソコンつけたんだった……!

ではでは! この感想を投稿したらパソコン消してから仕度しないとなので!w
突然の訪問、朝早くに申し訳ありませんでしたぁっ! これからも無理をなさらぬよう、頑張ってください!

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.6 )
日時: 2015/05/20 20:55
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: お返事遅くなりました……(手首を差し出す)


>>遮犬さん

 い、いい今何となくカキコを覗こうと思い開いて「あれ? 最終更新いつだったっけ? 何ページくらいかな~」なんて気軽に自分のスレを探してたら何処にもなく……まさかとは思うけれどもと思ってページを遡っていたら最終返信欄に遮犬さんの名前があって冷やし中華咥えたまま「ひえっ」って喉が鳴りました。嬉しさ抑えきれないんですけれどもどうしたら良いですか?(深刻)

 とここまでが、前置きになります。

 ええと、嬉しさのあまり何て言ったら良いのか言葉を選ばされますが……まず、有難う御座います!!
 遮犬さんにそう言って頂けると、続けて良かったなあって。続けていきたいなあって、心の底から思えるのです。
 遮犬さんがいつもいつも長文でコメントをして下さるの、素敵だと思っています。正直なところ、好きなんです。本当に。変な意味でなく!
 お祝いコメントだけでも嬉しいのですよ! いっぱいいっぱいで、もう幸せです。本当に有難う御座います!
 今じゃあカキコで気軽に話せる方が極僅かですから……ああもう嬉しいしか言えないのか私は(語彙力フライアウェイ)

 私からも改めまして、有難う御座います!
 稚拙な文ではありますが、どうか今後も足を運んで頂けるととっても嬉しいです。
 まだまだ話し足りないというのは一緒ですね……! 久々にお会いできたというのもあって絶賛テンション崩壊中な者で←

 応援有難う御座います。遮犬さんも頑張って下さい!
 ではでは、またの機会に!


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