コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 ー旧版- 【完結】※2スレ目
日時: 2020/05/18 19:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

  
 ※※ご注意※※

 本スレは、ただいま執筆中の『最強次元師!!《第一幕》【完全版】』の【旧版】です。
 記念に残しているだけのスレッドになりますので、『最強次元師!!』をはじめてお読みになる方はぜひ、【完全版】のほうをお読みいただけたらなと思います!
 何卒、よろしくお願いいたします。


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 運命に抗う、義兄妹の戦記

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 完結致しました。
 読んでくださったすべての皆様へ、本当にありがとうございました!


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 本スレは【完全版】のネタバレを多く含みます。ご注意ください。
 本スレは【旧版】の2スレ目です。第001次元~第300次元までは旧スレのほうに掲載しています。上記のURLから飛べます。


 ■ご挨拶

 どうもこんにちは、瑚雲こぐもと申します。
 旧コメライ版から移動して参りました。
 長年書き続けております当作ではございますが、どうかお付き合い下さいませ。

 Twitterのアカウントはこちら⇒@shiroito04
 御用のある方はお気軽にどうぞ。イラストや宣伝などを掲載しています。


 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。


 ■目次

 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 
 第302次元 >>003 
 第303次元 >>004 
 第304次元 >>007 
 第305次元 >>008 
 第306次元 >>009 
 第307次元 >>010 
 第308次元 >>011 
 第309次元 >>012 
 第310次元 >>013 

 第311次元 >>014
 第312次元 >>015
 第313次元 >>016
 第314次元 >>017
 第315次元 >>018
 第316次元 >>019
 第317次元 >>020
 第318次元 >>021
 第319次元 >>022
 第320次元 >>023

 第321次元 >>024
 第322次元 >>027
 第323次元 >>028
 第324次元 >>029
 第325次元 >>030
 第326次元 >>031
 第327次元 >>032
 第328次元 >>033
 第329次元 >>034
 第330次元 >>035

 第331次元 >>036
 第332次元 >>037
 第333次元 >>038
 第334次元 >>039
 第335次元 >>040
 第336次元 >>041
 第337次元 >>042
 第338次元 >>043
 第339次元 >>044
 第340次元 >>045

 第341次元 >>046
 第342次元 >>047
 第343次元 >>048
 第344次元(最終) >>049

 epilogue >>050
 あとがき >>051


 ■お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始
 2017 11/13 完結

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.37 )
日時: 2017/09/30 12:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: icsx9rvy)

 第332次元 双騎当千

 流星は大群をなして、大地を穿つ。衝突し、陥没する地面。義兄妹とゴッドの戦闘を比較的距離を置いて見守っていただけの次元師たちが、悲鳴に呑まれてその場から走り去っていく。
 殺傷力を孕んだ雨はようやく止んだ。

 「く……ッ」
 「レト! レト大丈夫!?」
 「ああ、なんとか。お前は無事か!」
 「うん! ――……それにしても」

 一面、砂に覆われた大地。砂漠とまではいかないまでも、足跡がくっきりと残る具合には立派な砂地だ。
 義兄妹の身体を突き、裂いて落ちたそれを見下ろすと、――深い黒色だった。

 一目で判断した程度だが、レトヴェールの脳はそれを「鉄」だと叫んでいた。
 しかしここでは少なくとも砂と岩と、空気だけが情景のほとんど構成しているのだ。
 ロクアンズは足元に広がる異様な黒曜を、細い指で攫った。

 「……黒い、塊。だったね。でもこれは……」
 「砂鉄だ。ここにある砂の中から精密に鉄だけを抽出して、鉄塊を生成した。……もっとも、現実的に考えて不可能な現象だけどな」
 「さっきまでの、土と水とを固めて作った泥人形とはちがう……物質そのものの変化」

 (――いったいどこまで細分化を可能とし、生成を許すんだ)

 土と水を単純に組み合わせただけの泥人形。それは、可視なる物体と液体とで創り上げたものだった。しかし氷の山や鉄の塊などといったものたちは、物質の形状変化、還元といった工程を容易に可能としていることを顕していた。

 「温度変化も化学変化も……そうか。やつの“創造”は――科学的工程を介さない能力ちからなんだ」

 起から、結への直結。あらゆる物事の構成上必要不可欠である過程、工程といった段階を一切必要とせず、結果のみを生み出してしまう超常現象。

 それこそが、神と呼ばれる者による――、“創造の力”。

 「まさしく、人間業じゃねえな」
 「さあどうしよっか? 悠長にかまえてる暇は、残念ながらないみたいだよ」
 「ああ。そうだろうな」

 レトはロクに寄り添うように体を傾けると、自分の口元を軽く手で覆う。耳元でなにかが囁かれると、身を離しながらロクは頷いた。

 「疑わないんだな」
 「あたりまえじゃんっ」
 「――……細かいことはいい。いまはとにかく、動け!」

 同時だった。足並み揃えて駆けだすと、前方から鉄製の刃が横殴りに飛んでくる。
 それらが、雷を纏うロクの身体に触れるはずもない。器用に電熱を上げると、鉄はびちゃりと地上に跳ねた。
 すると、己の手腕に酔う間もなく大地が隆起した。

 「ロク! 気をつけろ!」
 「わかってる!」

 飛び退く、と土の柱に鉄の刃が突き刺さる。軽い手足が早急に着地すると、見上げたロクははっとした。
 レトの頭上には巨大な拳が待ち構えていた。

 「レト!!」
 「――っ!」

 レトは頬に血を浴びて、急降下する。
 視界が急転する。舌で絡める鉄の味を咳と吐き出した。

 「か、ぁ……!」

 空中で氷の粒が結晶を成す。ロクが振り返ると、刹那。
 鉄と氷とが交じり合って――黒白の雨が、激しく大地を叩いた。

 「うぐ――ッ!」

 風に靡くと袖はまくられ、伸びた腕に、奔る鮮血。頬を、脚を、鋭い痛みが掠めていく。全身を包む雷光が強く瞬くと、雨は降りながら溶けていった。
 レトは腕を振るって泥を剥いだ。矢継ぎ早に、地面から伸びる柱。

 「――ぐっ!」

 交差した両腕でレトは咄嗟に顔面を庇う。身体は人形のように放り出され、大きく弧を描くと、どさりと砂上に打ち上げられた。――と、感じた殺気。振り返りざまに短剣を振り抜いた。

 「はあ!!」

 眼前に迫っていた泥の兵は弾け飛んで、原型を見失う。しゃんと立つと、ふたたび背後から伸びる土の塊が人の腕を形容していた。双斬と衝突する。

 「く……ッ! 息吸うのも躊躇うな、こんなに速えと!」

 雨雲を必要としない、鋭利な雨が伸びた。それは氷の粒であり、鉄の粒であり、レトの脳天へ容赦なく降り注ぐ。
 泥人形と接触している矛先が光を放つと、途端にそれは、この世で随一の双剣となる。

 「八斬乱舞――!!」

 一振りと見せかけた八度の斬撃が、それらを一網打尽にする。間もなく、彼は駆けだした。
 共闘、というよりお互いに離れた位置で各々の行動をとっている義兄妹を、ゴッドは交互に見やっていた。

 (フェリーは比較的僕から近いところにいる。そして金髪のやつは遠くか)

 思考は働きながら、指先では義兄妹を弄んでいる。しかし繰り返される術の殴打を避けるレトの様子は、不自然だった。迅速で、ゴッドの繰り出す技を見透かしているような動きだ。

 (術の動きに慣れたか。――いや)

 だんだん。だんだんと。泥の大蛇が道を空けていく。自然にも、不自然にも。
 ロクとゴッドとの距離が縮まっていく、と隠れて、レトも同様に地上を駆けていた。
 ゴッドの白い歯が覗くと、彼の指先は、くいと首を垂れた。

 (……? 動きが変わった?)

 しかしもう遅い。土の大蛇をひとつ斬り崩すと、ゴッドの表情がくっきりと目に映った。
 ロクの背中が跳び上がる。張りのある掛け声が、大地を駆け抜けた。

 「レト――!」
 「ああ!!」

 両の剣を振り上げた、そのとき。

 「――つまらないな」

 伸ばしたゴッドの掌から、大地へ、信号が飛ぶ。
 すると、レトの視界は突然月光を失った。

 「!」

 分厚い土壌の堤防が――レトの眼前のみに留まらず、長く緩い弧を描いた。天空から地上を見やればそれが大きな弓を象るように。レトの視界では、果てしなく横に広がっている。
 目つきが、興に冷めたように細められる。と。

 刹那。


 「――――引っかかった」


 地上最速の電光が、彼の頬を斬った。

 
 「――!」

 頬に電熱が奔ると、伝う血液を妙に冷たく感じた。最速且つ、固く練り上げた元力の塊が、遠くの方で創られた巨大な堤防と衝突する。たった一度の衝撃に、その建造物は瞬く間に崩壊を辿った。
 
 「あたしとレト。どちらが迅速で、かつ遠距離攻撃に長けているのかは一目瞭然。だからあたしを警戒するのは当然の流れだけど、それを考慮した上であえてレトが攻撃をしかけてくると踏んだんでしょう」
 「……」
 「でもハズレ! あなたがレトを覆うように壁でもなんでも、強制的に創らせるのがこっちの目的。あとはレトのことを気にせずにバーンッて、思いきり雷砲を撃つだけ。どう?」
 「……僕の心臓を壊したわけでもないのに、偉い自慢げだね」
 「……」

 ロクは応えずに、下ろした右手をゆらりと持ち上げた。ゴッドの右の頬。切り傷を指さして、彼女はだれの耳にも届かないように謳った。

 「きれいだね」
 「は?」
 「血の色、だよ」

 ――次の瞬間。ロクは強烈な一撃に意識ごと飛ばされる感覚を覚えた。四肢が飛んで、くらりと血液が回ると、平らな大地を勢いよく転がった。 
 口に含んだ砂を吐くと、項垂れたゴッドが小刻みに肩を躍らせているのが目に入った。

 「はは。はっはは。遊びは終わりだ」
 「……」
 「望むのならその眼に入れよう。その傲慢な口に教えてやろう。――この先二度と、歌えぬようにな」

 ――途端。砂が躍り始めた。幼い地震が、エルフヴィアの地に広がっていく。夜空に瞬く星々を、厚い暗雲が覆い隠していく。

 「な、なんだ……?」
 「……」

 すると、地面の一部が陥没した。不規則にも、辺り一帯に隕石でも落ちたような跡が次々に出現する。陥没した地面の要素は、空の一点を目指しているようだった。
 大地の逆流に、空を仰ぐと――そこには。


 「!! なっ、あ――あれは……!」


 とうに討伐したはずの、巨大な胴と手足を持つ身体。外装は白く彩っていたものが、すっかりと土色に染まって、レトたち人類を見下ろしていた。
 神の使徒とも呼ばれてきたそれの上体は天空を貫いて――――赤い心臓は、夜空を飾るどの星よりも強く、瞬いていた。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.38 )
日時: 2017/10/23 20:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YA8nu/PY)

 第333次元 創造の化身Ⅰ

 大げさに首を後ろへやってみても、それの頭部を伺うことは不可能だった。というのも、胴と手足とが天々たかだかと創り上げられ、上半身は灰色の雲に呑みこまれてしまっているからだ。
 ゴッドの手によって創られたこれが、新元魔の形状と酷似していることからレトヴェールとロクアンズの二人は確認し合うまでもなく固唾を飲んだ。

 「――……元魔か」
 「核はどこだろう」
 「さあな。この大きさじゃ、視認できなくて当然な気もするけど」
 「……」
 「でもまあ、好都合だ」

 そう言ってレトは、羽織っている灰色のコートのポケットから、手の内に収まるくらいの小さな器具を取り出した。ロクが覗きこむとそれは、白く丸い形状をしていた。

 「改良済みの通信機だ。前のより、ある程度の距離まで通信域が伸びてる」
 「これをあたしに?」
 「……予備でもらっておいた」
 「……。ありがとう」
 「今日は変に素直だな」
 「変ってなんだ変ってー!」
 「はいはい」
 「……一人じゃないんだ」
 「は?」
 「なんでもない!」

 レトの手元から通信機を受け取ると、片耳に装着する。簡易に取り付けただけのそれが外れないかと心配になり多少頭を揺らしてみたが、ものの見事に微動にしない。

 「相手の身体は大きいがチャンスだ。俺のは飛び道具じゃないから不利だが、お前の場合圧倒的に有利だ」
 「うん。あたしが核を狙うよ。レトは援護をお願いっ」
 「ああ」
 「――それじゃあ、いってきます!」

 ロクはにっと白い歯を見せて跳び上がった。自宅のドアに手をかけて、どこかへお出かけをするみたいな晴れやかな調子とともに。
 数秒も経たないうちに、レトの耳元でノイズが奔った。

 『レト、聞こえる? 真正面からは核の位置が確認できなかった。胴体周りにはないみたい』
 「背中へ回れるか?」
 『やってみる。――あ、腕が動くよ、気をつけて!』
 「ああ!」

 都市部内で一番を競い合う大きな建造物を、二つか三つひとまとめにしているかのような分厚い腕が、ぐぐぐと持ち上がる。重力に引っ張られ、落下すると思われたロクは持ち上がりかかった腕を踏み台にし、もう一度飛び跳ねる。
 同時に動き出した巨大な脚で、空に翳りが挿す。レトは月光の遮断に気がつくと、すぐに足と思われるドーム状のなにかから飛び退いた。
 風圧。砂上を駆ける強い余波に、レトは顔を覆った。

 『レト。背中にもなさそう。いま肩に乗ってるんだけど、首回りでもない』
 「そうか」
 『あとは足元か……』
 「いいや、足元付近にもなさそうだ」
 『! ……――見つけた』
 「本当か? 核はどこだ」
 『なんだ……ゴッドもシャレたことするなあ』
 「は?」
 『ひたいだよ。今までといっしょだ』

 従来の元魔たちは、姿かたちは大きく違えども、その心臓は同じ場所に位置していた。それが、額。黒ずんだ目と目の間のすこし上に、血の滾るような赤色の石が埋め込まれているその姿には、見慣れたものだ。

 「額か。この巨体だと肩回りは動きが鈍いだろう。その位置から狙えそうか?」
 『任せて!』
 「よし。腕には注意しろよ。まだ左腕が上がってる。……? ロク、おい。どうしたロク」
 『……』
 「ロク!」

 ブツリ。通信の切れる音だ。レトは通信機に指を添えて、ダイヤルをロクの通信機に合わせる。電波を飛ばし続けるも、応答する気配はない。
 気を取られていた矢先のこと。頭上に迫っていた暗闇に、レトは気がつけなかった。

 「――っ!」

 元魔の足裏が砂と密着する。と、この広大な大地に、グキリと鈍い音がささやいた。免れた上半身は必死にもがくも、捕らえられた下半身はびくとも動かせない。

 「ぐッ、うああっ!」

 バキバキッ、と内側でなにかが鈍く響いた。痛みと重みに圧し潰され、息もままならない彼の両腕が、光る。

 「第七次元発動――真騎斬!!」

 可能な限りひねり返った上半身。次元技、“真斬”を覚醒させたその術は一度の斬撃に重圧を籠めて、放たれる。
 大地の一部だった元魔の構成要素が砕け散ると、レトの下半身を圧迫していた足が浮いた。隙を逃さず飛び出すとすぐに、その反動で足が縺れた。大地に手足をつく。

 「はあ……はっ、……ぐッ……くそ――っ……ロク」

 返事はなかった。通信機に添えた腕をぶらりと提げる。

 ただ耳を抜けていく受信音。応答のしない間に義兄の身に危機が迫っていたとも知らずに、彼女は空を見つめていた。その視線の先には、黒い髪が靡いていたのだ。

 「ここまで来るのが早いね。さすがだ。人間業じゃないな」
 「いいや、これは人間の力だよ。『雷皇』も『風皇』も、マザーが人間に与えた力なんだ」
 「数奇だな。人間が授かるべき力を、君が二つも宿しているのか?」
 「……」
 「一つは、作為的にマザーが君に渡したものだ。【心情】だけでは無力に等しい。千年前の戦争で証明済みだ」
 「フェアリーさんは無力じゃない」
 「無力だったさ。だからマザーは君に次元の力を与えたのだろう。……神族である、君にね。しかし面白いのはそこじゃない」
 「……」
 「【FERRY】は現存している。生きているんだ。千年前からずっと。――――なのにどうして生まれてきた、外れ者の妖精よ」

 ドッペルゲンガー。そう呼ばれる者が人間界にはあるだろう。まったくちがう人間同士が、まったく同じ外見をしているという現象だ。しかし、同時期に同じ人間が生まれてくることもなければ、一度命を落とした人間が再び現世に還るなどということもないのは世の理とされている。

 それが、神族とはまるで異なる点だ。人間と神とを分かつ項目の一つなのだ。
 神族は核を破壊されても、転生という機能によって復活を遂げる。神族同士の核は互いにリンクし合い、六体の神族のうち一体でも現世で核を作動させていればほかの神族は何度でも生まれてくることができる。マザーの意志とは関係のないところで。

 しかし、【FERRY】の名を背負う神族――フェアリー・ロックがまだこの世に生き留まっているというのに、新たに生まれてきたかの少女はその身に神の印を刻み、二人目の【FERRY】として世に君臨したのだ。
 それが、ロクアンズ・エポールと呼ばれる一人の少女だった。

 「あまりに多くの不確定要素を含んだ君を、果たして僕らの仲間と呼んでいいものか。まあ、もちろん人間の部類ではないことはたしかなんだけれどね? 可哀想に」
 「――……次元の力、『雷皇』」
 「……」
 「これはあたしが、神族だと自覚する前からこの身に持っていたものだよ。偶然か必然か、神族を倒すという目的ができて、強くなろうと、必死であなたたちを追ってきた。人間みたいに」
 「君は人間じゃないよ、フェリー」
 「……じゃあ、どうやって人間の授かるべき力を得たと思う? あたしはどうして次元の力を、『雷皇』という神を穿つ力を持っていたんだろう」
 「……なぜ、それを僕に聞くんだい」
 「知りたい?」

 含みのある笑みをこぼすと、向けられた鋭利な眼光をロクの視界が捉えた。
 その瞬間、迫る殺気を感知した肌に、微弱な電気が這った。

 「――ぐはァッ!」

 反対側からぐるりと大きく回った大地の巨腕が、その何百倍も小さなロクの身体を苛烈に殴り飛ばした。なにもない空へ放り出された妖精の姿を、破壊神は冷ややかに見送る。

 「知りたくもない」

 小さくなっていくロクの姿を認めながらそう吐き捨てた――、そのとき。
 暗闇に、なにかが光を放った。

 「――――雷神砲!!」
 「!」

 放つたび、上書きされていく地上最速の電光。それは神を穿つ力。彼女が当然のように自身を人間だと認識していた頃に得た力の塊。
 その力は奇しくも神の身に宿り――――神の肢体を斬り裂いた。
 
 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.39 )
日時: 2017/10/27 00:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YA8nu/PY)

 第334次元 創造の化身Ⅱ

 「くッ……――!」

 反射的に左肩を掴んだその手に、青筋が浮かんだ。身を包む布地のコートに血が這う。頬を切ったくらいの出血量ではなかった。

 大地へ向かって急落下するロクアンズは、辛々ながら左腕を伸ばした。すると、彼女の背中を撫ぜる風の動きが変動した。地面に叩きつけられる、ということはなく、彼女はやわらかく着地する。
 ぼふっと砂に背中を埋めると、巨大な拳が降り注いでいた。

 「雷神装――!!」

 血管の中にまで電流が駆け抜けたかのように、ロクの全身は一気に沸点に達した。暇もなく、元魔の拳とロクとが衝突をする。遠方から見ればその拳が大地についているようにも伺えるが、拳と大地の間では痩身の少女が大地を踏みつけ、両腕で拳を支えているのだった。

 「さきほどまでのガラクタどもと一緒にするな! これは、君たちの想像の範疇を悠に超えるように創造しているのだからな!」
 「ぐ、うぅ……!」
 「神を穿つ力だと? ははは! 笑わせるな! ――この世に神を超えられる力などない!」

 力と力によって保たれていた均衡が、崩される。神の鉄槌はエルフヴィアの大地に下された。

 「うああッ!」

 砂の荒波が立つ。少女は叫び声とともに呑みこまれた。その光景はレトヴェールの視界にも映り、途端に込みあげた焦りに彼の喉が焼けた。

 「ロク――!!」

 思うように動かぬ脚を引きずりながら一歩ずつ進んでいく。歩みを止めずに。――彼の頭上には、また、迫る巨塊。

 「――ッ邪魔だ!!」

 瞬くは、醒めた八太刀の閃光。

 「第八次元発動――――八斬乱舞ッ!!」

 腕と思しき、長く巨大なそれが下半分――消し飛んだ。平たい指先諸とも、肘から下の建造物は跡形もなくなってしまう。現れた腕の斬り口からぼとぼとと泥製の肉塊が降っている。
 一間息を吸うのを忘れていたゴッドは、くっ、と喉を鳴らした。

 「こうでなくては」

 しかし途端に、強い痺れが脚の内部を駆け巡った。レトはがくんと膝から崩れ落ちる。双斬を地面に突き刺し、なんとか保っている体勢だったが、腰から下はほとんど応答していなかった。

 「はあっ、あ……は……ッ! くそっ……――ロク!!」

 レトの視界、遠方に控える巨大な拳はいまだ大地と接触している。考えたくはないが、ロクがそこにいるのではと呼びかけた。しかしそれは虚しくも砂上に失せる。
 が、そのとき。

 「!」

 目の錯覚だろうか。大きな塊が左右に振れたように思えた。しかしその錯覚は、だんだん確信へと成り代わっていく。
 大地から構成された拳が震動している。それは微弱な風となって、レトの足元を心地よくすり抜けた。
 一閃の雷が、暗夜を縫った。

 「はああ――ッ!!」

 それは太陽光にも負けず劣らない強い光を放つ。激しい閃光に包まれた巨大な拳は、先端からぼろぼろと崩壊していくのだった。
 まさに怒涛の勢い。ゴッドは顔色一つ変えずに飛び退き、指先で空を弄ると、遥か眼下に控える大地が隆起した。まっすぐゴッドのもとまで伸びる大地の塔に、ゴッドは着地する。
 やがて全身を崩してしまうのではないかと期待するほどの勢力であったが、肩を目前にしてその勢いは死んでしまった。

 「へえ。両腕がやられてしまったわけだ。ははは。だけど、いつまでもつかな」

 次の瞬間。レトやロクの周囲に広がる砂や土などの自然物が、浮遊し始めた。それはまっすぐ夜空へ吸い寄せられていく。目で追うと、その先には――右腕の、泥が垂れていた丸い斬り口があった。
 そして崩れ去ったはずの左腕が、肩からはみ出した部分から徐々に元の姿を形成していく。
 戻っていく。直っていく。――創られていく光景に、目を瞠った。

 「忘れたのかい? これは“創造”の力だ。創り直すことなど造作もないんだよ」
 「っ……!」
 「……くそ……ッ!」
 「人間ごときの微々たる……ああ、言葉が悪いね。貴重な元力を、無駄にしてしまったね」
 「無駄じゃない!」
 「! ロク」
 「人間を、次元師を……――バカにしないで!!」

 ロクは力任せに身体を回転させた。拍子に身体がぐらつくも、その目はしっかりと創造された大地の塔を見据えていた。
 捧ぐ指先が、熱を帯びる。

 「雷神砲――ッ!!」

 雷の砲弾が砂を攫い、風を纏い、地上を駆け抜ける。衝突の一寸手前、ゴッドは塔から身を投げ出した。
 振り上げた双剣が紅く瞬きだす。

 「双天魔斬――!!」

 一陣の風は赤々と燃え滾り、ゴッドを目がけて飛んでいく。彼は布を被っただけのようなコートの袖から腕を露にした。

 「――!」

 赤い衝撃波は彼の手に触れると、インクが零れたように空中で分散した。いや、“破壊”された。

 「こっちが僕の本業さ。次元技の原理くらいは把握している。君たち一人ひとりの元力の性質もね」
 「そうかよ」

 耳元。囁いた声色に吐き気がした。それが自分のものと酷似しているからだ。
 振り向くゴッドにレトは振り抜いていた。

 「はァッ!!」

 庇う右腕に赤い閃が伸びた。斬り裂かれた傷口から鮮血が散る。

 「その傷で動けるとは……――大したものだな」
 「驚くのが早いんじゃねえか」
 「!」
 「――はあッ!」

 振り切った右脚がゴッドの首元に入ると、彼の身体は遥か遠方まで弾け飛んだ。電流を纏う風が大地の上を切っていく。
 雷を装ったロクは、肩で息をしていた。

 「こ、れで……すこし……はっ……」
 「はっ、はあ……はぁ……、――! ロク!」
 「――っ!」

 視界が転じる。ぐらりと脳から思考と血液が引いた。油断をしていたロクの脳天は、鈍い衝撃音を連れて後方へ吹き飛んだ。
 元魔の腕には遠く及ばないまでも、それは大地から生まれた剛腕だった。猛々しい産声とともにロクの四肢を殴打すると、役目を終えたようにその場で綻んでいく。
 口内を侵す泥水を吐き出す。どうやら距離は離されていないらしい。すぐ前方にはレトの姿があった。
 しかし、その背中は、宙に浮いているようにも見えた。

 「レト――!」

 ロクが身を乗り出すと、その途端、彼女を囲う自然物が浮遊した。土が浮き、水と結合すると彼女の手足に巻きついた。
 そして、砂鉄が形を成していく。生成されるそれは、鋭く尖った鉄塊となって、ロクの腹部を突き刺した。

 「ぐ、ァあッ!」

 意識は正常に機能しなくなった。視界も霞み、不安定なものとなる。振り絞った力で顔を持ち上げる――と、レトの、脇腹に。
 大きな穴が開いた。

 「――!!」
 「うっ、ぁ……ッ」
 「外れたか。まあいい。何本かひび割れていたね、肋骨。でもぜんぶ壊してやった。これでもう苦しむこともないだろう」
 「……ッて、め……!」
 「まだおしゃべりできる気力があるのか。案外図太いな、人間っていうのは」
 「っ……――れ、と……!」

 ――大地が胎動する。その震動は次第に高まっていく。すると、義兄妹の頭上に翳りが挿した。
 巨塊だった。泥がひとつ、ぼたりと落ちる。二人は抵抗する術もなく、巨大な拳に容易く捕らえられると、天高く持ち上げられた。薄い酸素。締めつけられた身体に、呼吸は乱れたまま整えられずにいる。
 ぐぐ、と、二人を握る力に圧力がかかる。

 「「うあああッ!!」」

 身体の内側から嫌な音がした。すでに痛覚が麻痺しているのか、鈍いそれの痛みを自覚することまではできなかった。

 (だめだ、このままじゃ……なんとかしなくちゃ)

 「れ、レト……! レトっ、大丈、夫?」
 「……」
 「レト……っ!?」
 「……大丈夫だ。心配すんな」
 「……」
 「くそっ……力が入らねえ。すげえ握力だな」
 「――……レト、」
 「ロク、力を貸せ」

 掴まれた泥の掌に血液が伝う。泥水と同化して、レトの身から泥を介して血が滴り落ちた。
 しかしレトの瞳からは、その闘志に滲んだ金色が落ちていない。

 「お前としかできないことだ」
 「え?」
 「――――開くぞ、“両次元の扉”」

 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.40 )
日時: 2017/10/29 18:42
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: JZOkdH3f)

 
 第335次元 創造の化身Ⅲ

 「開くぞ、両次元の扉」

 義兄妹は、お互いの元力量をおおよそ把握している。これまでの消費具合から、両者とも余裕の色を失ってきていることが容易に推察できる。いまはより慎重を期すべきだと、レトヴェールの発信した案はそう告げているのだ。

 「で、も……っ、待って! レト、それじゃあレトの負担が大きすぎるよ! 元力量はあたしの方が……!」
 「だから言ってるんだ」
 「……え……?」
 「お前は言ったよな。手足のように使え、って。だったら従ってくれ」
 「……」
 「俺に託してくれ、頼むから。――俺もお前と同じだ。守るためにここにいる」

 全人類の命を失うか、人類から最大の脅威を取り払えるか。二つに一つ。英雄の背に託された命の重みを、彼は片時も忘れてはいない。
 肋骨が砕け散ろうが身を滅ぼそうが、僅かな元力を削ろうが、レトにとっては些細な問題だ。
 代表として、最大の敵を討つために、壊れた脚で走ろうと告げるのだ。

 「……レト、変わったね」
 「は?」
 「無鉄砲になった」
 「あー。お前に似たのかもな」
 「ははっ。それはひどいや」
 「力を貸してくれるな?」
 「――いいよ。でもあとであたしの言うことも聞いてよ?」
 「ああ」

 手を伸ばしても触れ合える距離ではなかった。しかし、掌と掌の隙間には温度が流れていた。
 電流が奔る。神より授かった力が交差する。お互いの心音と心音とが、重なり合ったそのとき。
 二つの歯車が動き出す。

 「「両次元の扉――――発動!!」」

 二つの扉は解き放たれる。交えた道の先に――新たな世界じげんを生んだ。


 「「――――雷斬!!」」


 ――途端。巨大な泥の拳から眩い光が漏れる。レトの両腕に雷が奔ったかと思うと、彼は両の手に双剣を握りしめ、元魔の手首らしき部分の上に佇んでいた。両次元の発動による衝撃で、元魔の手は砕け散ってしまったらしい。
 レトはその場から飛び出すと、元魔の巨腕をぐんぐん駆け上っていく。

 (! レト、脚……っ、――そうか。あたしの雷皇の力で、無理やり動かしてるんだ)

 レトは両脚を突き動かし、雷を纏う剣を振るう。元魔が狼狽えていると、彼はあっという間に元魔の肩にまで到達してしまった。
 天を仰ぐと、額の上で赤い心臓が息衝いていた。
 マントを翻し、ゴッドは音も立てずに颯爽と君臨した。

 「作品を壊されてはたまったものじゃない」
 「どけよ、邪魔だ!」

 剣を振り下ろすと、雷が唸った。しかし、神の身を引き裂かんとしたそれの一太刀は、寸前でなにかに阻まれる。

 「……!」

 それは、鉄の剣だった。砂鉄を固めて創造した剣。ただの小さな刃物だったときとは大きさも硬度も格別だった。漆黒の刃が、雷の剣と鬩ぎ合う。

 「ッ……は!!」

 ふっと力を抜くと、鉄の刃が揺らいだ。その一瞬の隙に一陣薙ぐ。風を切るのに紛れて血が舞うと、レトは間髪入れずに左の手でもう一太刀振るった。
 ゴッドは半歩引く。間もなく上から振り下ろされた剣を、鉄の剣で庇う。

 「――全知全能、か」
 「……」
 「そんな拙い剣筋でよく言えたもんだ――本物の剣の振り方、教えてやるよ!!」

 ゴッドが身を引くと、浮いた双剣の力を横へ払う。元魔の肩の上を駆け、ふたたび彼に斬りかかった。
 剣先は恐れを知らず猛威となって振るわれる。両の手の内で操られる双剣はもはや身体の一部と化し、素手素足で舞い踊っているかのような剣筋が、神を襲う。
 一つ薙げば、もう一つがすでに振るわれている。ゴッドは元いた位置から、やや後方に下がりつつあった。

 (この男、身体は限界を迎えているはずだ……――死が、終焉が、怖くはないのか)

 元魔によって踏み潰された下半身が、両脚が、ロクの次元の力『雷皇』を手綱に動いている。電流を利用し、脚の感覚を麻痺させているのだ。それをゴッドは一目見ただけで理解した。
 元力が底を尽かんとしている。肋骨の痛みはどこへいった。二度と立てぬ身体を苛みながら、その切っ先が一瞬も躊躇しないことに、神族のブレインである彼の思考にエラーが走った。

 その眼が、金の瞬きが、天上で輝く月をも凌ぐと――彼の核は逆撫でされたように錯覚を覚えた。

 「――ッ、見るな!!」
 「!?」

 暗闇から零れた水が――大きな結晶と化した。

 「ぐあァッ!」

 鋭利な部分がレトの腹部を貫くと、彼の身体は大きく傾いた。突き刺された箇所に熱が奔るも、独特の冷気がそこに交じる。
 垣間見えたゴッドの口から、執拗に息が漏れていた。

 「……っ! ――雷真斬!!」

 その肢体が倒れる、直前。ぐっと後ろへ追いやっていた左の腕を大きく回した。弧を描くと、それに雷が伴いゴッドが咄嗟に振り上げた鉄の剣と衝突する。体勢を崩す両者はそのまま身体を傾かせ、――転落する。
 標高にして1000mを悠に超えるその体長から、小さな身体が二つ投げ出された。地面へと真っ逆さまなレトは双剣を両手にしたまま、同じ境遇に立つゴッドの胸倉を掴み上げる。

 「ッ……君は、実に執念深い男だな」
 「怪物の相手するより、てめえの心臓斬り崩したほうが早いからな」
 「利口な選択だ。――だが、義妹フェリーを置いてきたのは誤算だったね」

 レトの顔を横切り、ゴッドは腕を伸ばす。元魔の頭部に向けて掲げられた指先が、巨大な人形へ命令を下す。
 人形の巨腕が動き出した、その途端。

 ――猛々しい轟音が、二人の耳を劈いた。

 「ああ。義妹ロクを置いてきたのは誤算だったな、ゴッド」

 闇夜に灯る光。小さな英雄は駆けだしていた。ぐんぐん速度を上げながら、その四肢に雷を纏う彼女は。
 ――心臓の、仄かな灯に、拳を振り上げていたのだ。

 「――ッ!?」
 「いけ――――ロク!!」

 まるで大輪の花火だ。拳に籠めた雷光が暗夜を照らし――ロクアンズは、心の臓を討つ。

 「――――はあッ!!」

 小さな拳と広大な額とが激突する、と――――エルフヴィアの大地が、流る空気一帯が、震動した。
 元魔の頭部は後方へ弾け飛び、瞬間、天上を貫くほどの巨体を誇るその身が、大きく反れた。
 遥かに広がる地上に堕ちてくるかと危険を匂わせたが、核が壊されると元魔は重力に身を任せながらだんだんと風に紛れ、巨大な砂嵐となって大地の鎧を失っていく。

 その一部始終を、作品の死んでいく様を、ゴッドはレトとともに眺めていた。

 「っ……――両次元の発動中に、魔法型が次元技を使うだと……!?」
 「両次元の発動中、力を貸す魔法型次元師の方は元力の所有権が武器型の人間に移行するため元力を消費できない。故に、次元技の発動が不可能となる。――だが、例外が存在する」
 「例外……だと」
 「それが、“十大魔次元師”による――“魔装”と呼ばれる次元技だ。この次元技は発動する際に元力を一切消費しない唯一の次元技。両次元の発動中でも、次元技の発動権を有する技なんだよ」

 初めは手足の先だった。そこから身体の中心部に向けて身体がなくなっていく。砂となって大地に還っていく。

 「――ああ、そうかい。それはおめでたいね。しかし君も頭が悪い。わざわざ元力量の多いフェリーにその役を担わせ、自分は少ない元力で僕の命を狙ってきたのか?」
 「そうだ」
 「ならば役割は逆の方がいい。人族の代表も、大したことないな」
 「ああ。だから、役割は逆にしたんだよ」

 残り僅かの距離。地表に迫る身体。このまま墜落すれば、人間の肢体など粉々に散ってしまう。しかしレトは悠長にも、口元を緩ませた。
 すると、レトの身体は不自然に――浮遊した。

 「――――残り少ない元力すべてを、懸けるためにな!!」

 双剣を振り翳すレトに、ゴッドは息吐く暇も与えず指先に、元力を滾らせた。

 「――堕ちろ!!」

 レトの頭上で氷結音が唸ると、槍のように鋭利な雨が牙を剥いた。
 降り注がんとレトへ向けて放たれた、――そのとき。

 炎熱を帯びた一矢が、宵闇を駆ける。


 「「――――螺炎閃!!!!」」


 炎と弓。熱血と冷徹。極端にたがう彼らが紡ぐ次元の糸が、創造の力を撃ち溶かした。
 次いで、遥か頭上。
 ――雷をその手に、ロクは銃口を向けていた。

 「第九次元発動――!!」
 「――ッ!?」
 「――――雷神砲!!」


 ――――神の胸元を、撃ち破る。
 円に繰り抜かれた心部に目を奪われていると。


 人類代表の次元師が、神より天高く、その手に双剣を携えていた。


 「第九次元発動――――」
 

 血管に流れる血液と元力とを練り上げる。搔き集めた必死の原動力が、双剣に注がれていく。
 重ねたそれらは、そらを仰いだ。


 「――――堕陣必悪撃ィ!!」


 神を道連れに彼らは地上に墜落した。――瞬間、元魔の身体だったものの煙が厚く立ち籠り、辺り一帯は激しい嵐に見舞われる。
 はっきりとした姿は確認できないが、力の余波に後ずさるキールアは一人だけ目を閉ざすことなく、不安げに砂煙の向こう側を見つめていた。
 
 
 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.41 )
日時: 2017/10/31 21:25
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: JZOkdH3f)

 
 第336次元 逆鱗

 破壊神は大地に背を預けていた。寝転がりながら、その喉元は、腹部は、矛先に突き破られている。心の臓はとうに撃ち抜かれ、ぽっかりと風穴を開けているにも関わらず。
 破壊神ゴッドの表情は苦に歪むこともなく、かえって涼しげにレトヴェールを見上げていた。ゴッドに跨るようにして剣を打つ彼の目には、その死んだような顔色と、嘲笑とが飛びこんでくる。
 
 「殺したつもりだったかい?」
 「!」
 「はずれだ。僕の心臓はそこにも、そこにもない」

 そのとき、ゴッドは口内から溢れんばかりの血を吐き出した。辺りに跳ねた血液は砂に沈んでいく。
 レトは、言葉を失った。

 「……」
 「いいや、はずれてないよ」
 「! ロク」
 「あなたの心臓はなくなった」
 「……? どういうことだ、ロク」
 「戯言を。それならば、僕の身体はとうに砂と化している」
 「さっきの質問」
 「?」
 「――答えてくれなかったね。教えてあげよっか」
 「ッ――ふざけるな!」

 地に張りついていたゴッドの脚に、激情が至った。すると、跨っていたレトの腹部に強烈な痛みが走った。投げ出されたレトの身体は大きく宙を泳いで、地面に身体を打ちつける。破れたままの脇腹の皮膚から、容赦なく赤いものが飛び散った。

 「! レト!!」
 「ぐ、ッ……!」
 「あまり怒らせるな。調子に乗るな。君は次元の力さえ使えなければ、無力な妖精だ」
 「……」
 「ああ、使えてもこの程度だったな。僕一人殺すことも叶わない。無力だ。無力だよ次元師というのは。しかし、それは当然だ。元力は僕ら神族も持っている。君たちの数百、いや数千倍もの力をね。それなのに君たちはたったの百という数で神に抗おうとしている。それは、無謀で残念な思考だ」
 「……言ったでしょう。人間を、次元師をバカにしないでって」
 「なにを根拠に詠っている? 結果を見ろ。これが真実だ」
 「あなたが人間をバカにするの?」
 「……」
 「ねえ、ゴッド」

 緑の髪が揺れる。ロクアンズは足を踏み出した。
 ゴッドは地面に滴り落ちる血液を気にも留めずに、彼女を睨み返す。

 「ねえ」
 「言うな」
 「ねえ、答えてよ」
 「口にするな、こっちへ来るな」
 「あなたが人間をバカにするの?」
 「言ったことを忘れたか。今すぐ、その傲慢な口で二度と歌えぬようにしてやる!」

 両腕を乱暴に伸ばすと、砂と水と鉄とが雑多に混じり合っていく。なにを象っているともつかないなにかの塊が、歩を止めないロクに襲い掛かる。
 レトの喉にまで差し掛かっていた振動が、次の瞬間、言葉となる前に呑み戻される。
 
 「人間から生まれてきたあなたが」

 腕は震えずに持ち上がった。指先から電光が放たれた。

 「あたしと同じ、人間の身体を持つあなたが」

 雷と衝突したその途端、襲い掛かってきたなにかは容易に崩れ落ちた。

 「人間の愛も知ろうとしてこなかった――あなたが!!」

 形成を思わせる土の蠢き。独特の氷結音が空に響く。砂から抽出させられた鉄が鋭く牙を剥く。
 創造で成り立つ景色にロクは――その小さな両の手に、轟雷を抱いた。


 「人間を、この力を――――バカにしないでって言ってるんだよ!!」


 泥の巨腕が一直線上に伸びると、続いて氷の刃と鉄塊とが向かってくる。掌から放たれた雷撃が唸りをあげると、瞬く間にそれらと衝突を繰り広げた。

 「なけなしの元力でどこほど足掻いてくれるのか。見てみたい欲求もあるが」
 「……!?」
 「君は、僕の憤怒いかりに触れすぎた」

 晴れたロクの視界にゴッドの姿はなかった。代わりに、後方から声が飛んでくる。落ち着きを通り越し、冷めすぎた少年の声。
 ロクは咄嗟に振り返った。――しかし。

 「――ッ!? レト!!」
 「お喋りが過ぎたな、フェリー。だがもう遅い」

 ゴッドの指の爪が、レトの喉元を喰い潰した。彼の口からは小さく嗚咽が漏れるばかりで、言葉は紡がれない。端正な顔立ちはひどく歪み、滲む汗が血に紛れて頬から滑り落ちた。
 ロクの瞳孔は縮み、余裕の色を失っていた。

 「レトを離して」
 「はは。いい顔だ。ずっとそうしていればいい。君の苦痛に歪んだ顔は美しいよ、フェリー。千年前からずっと」
 「聞こえないの? レトを離して!」
 「そうだなあ。――ああ、そうだ。人間の血液には鉄分が含まれていたね」
 「……っ――!」
 「内側から」
 「やめて」
 「破壊か創造か。選ばせてあげよう」
 「――ッ!!」

 地上を駆ける熱線は、遠くの方で崩れかかった建造物と衝突し、粉々に砕け散った。ゴッドの肩から鮮血が噴き出すも、微笑みにも似た口元の歪みはぴくりとも動かなかった。

 「――――甘ったるい牽制だな」

 次の瞬間――ゴッドは空いた右手をレトの脇腹に突っ込んだ。そこの皮膚を破ったのは彼自身だ。損傷の具合も把握している、上で、彼は患部を弄り回す。
 滝のように溢れる血液、血液。血液は止まらずに噴き続け、レトの手足は、痙攣していた。
 刹那。

 「――このイカレ野郎がァ!!」
 「万死に値する……ッ!」
 「レトを……っ大事な人を――――傷つけないで!!」

 ――――二本の銀槍と、炎を纏う矢が神の身を引き剥がした。

 「――!」

 肩と太腿とを太い槍が貫き、腹部に獄炎の矢が捧げられた。遠方からの力にゴッドは後方へ吹き飛び、なにかに背中を強く打ちつける。
 同時に、古の塔と自分の身体とが縫いつけられた。磔にされた身を思い、なおも嗤っていた。
 重力に逆らうことができず、レトはそのまま地面に倒れ伏せる。人形のように崩れ落ちる四肢には、起き上がる力が残されていなかった。

 「レト!」
 「おーいロク!」
 「! サボコロ、みんな……!」
 「おっと。感動の再会はあと回しだぜ! レトはどうだ!?」
 「っ……ひどい出血量……。もし、もう少し遅かったら」
 「考えるな。治療を急げ、キールア」
 「うん!」
 「……」

 サボコロは、ゴッドの姿が見えなくなった今でも虚空を睨んでいる。すかさずレトの元に駆け寄りしゃがみこんだキールアを、エンは見守りながら辺りに警戒を配っていた。
 元力も体力も消耗し、同じように怪我を負っているはずの三人の戦士が駆け寄ってきてくれたことに、ロクは喉元が熱くなるのを必死に抑え込んだ。

 「……ありがとう。キールア、エン、サボコロ。さっきも助けてくれて」
 「なに言ってんだよ! 俺たちは仲間だろっ!」
 「手を出せずにいてすまなかった。本来ならば、今までも共に戦場に立つべきだった」
 「蛇梅隊で持ってきてた人工元力はもう底を尽きちゃったけど、私たちいっしょに戦えるよ、ロク!」
 「……」
 「ロク……? どうかしたの?」
 「……力を、貸してくれるの?」

 声が震えた。目を伏せると、意識を失ったのかその場で動かないレトの顔が飛びこんでくる。震える拳を固く握りしめた。

 「おうよ! なに心配してんだか知らねーけど、いつでも頼れよな、ロク!」
 「貴様が自信をなくしてどうする。士気が上がらんぞ」
 「なんでも言ってよ。親友でしょ」
 「……――うん。そうだね。そうだった。……実はね、一つ試してないことがあるんだ」
 「試してないこと?」
 「うん」

 ロクは辺り一帯を見渡す。どこを見ても砂と夜空があるばかりの大地。ずっと先の景色を見ることが叶わない、暗夜の下。
 蛇梅隊の後方支援部隊が位置する方向へ、キャンプのある方角へ、注がれる視線は立ち止まった。

 「成功したら、あたしたちは絶対にゴッドに勝てる」
 
 砂上に放たれた言葉はひどく落ち着いていた。冷静に紡がれた。高揚感ではない、ロクが確信を抱いて零しているのだと、すぐに理解できた。
 サボコロとエン、そしてキールアはロクの強い口調に一間呆気にとられたが、すぐにその瞳に力が宿った。

 「手伝うよ、ロク。私たちにできることならなんでもやる。だから絶対――ゴッドに勝とう!」

 三人は頷いた。その穏やかな表情を認めると、ロクもつられて微笑み返した。

 「――ありがとう、みんな。その言葉が聞けてよかった」

 ロクは一同から視線を外した。そしてもう一度、景色の遥か向こう、――次元師たちの元力を感じられる方角へ顔を向け直した。
 新緑の淡い左目が、そっと閉じられた。
 そして。



 <<――――聞こえますか?>>



 三人は疑った。美しく、透いた声色が脳裏に反響する。声の主であろう彼女を見やったが、その唇は微動だにしていなかった。


 人間のものではない。鈴を転がすよりも甘味なそれは。
 ――――エルフヴィアの地に集う、すべての次元師から思考を奪い去った。


 


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