コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 ー旧版- 【完結】※2スレ目
日時: 2020/05/18 19:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

  
 ※※ご注意※※

 本スレは、ただいま執筆中の『最強次元師!!《第一幕》【完全版】』の【旧版】です。
 記念に残しているだけのスレッドになりますので、『最強次元師!!』をはじめてお読みになる方はぜひ、【完全版】のほうをお読みいただけたらなと思います!
 何卒、よろしくお願いいたします。


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 運命に抗う、義兄妹の戦記

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 完結致しました。
 読んでくださったすべての皆様へ、本当にありがとうございました!


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 本スレは【完全版】のネタバレを多く含みます。ご注意ください。
 本スレは【旧版】の2スレ目です。第001次元~第300次元までは旧スレのほうに掲載しています。上記のURLから飛べます。


 ■ご挨拶

 どうもこんにちは、瑚雲こぐもと申します。
 旧コメライ版から移動して参りました。
 長年書き続けております当作ではございますが、どうかお付き合い下さいませ。

 Twitterのアカウントはこちら⇒@shiroito04
 御用のある方はお気軽にどうぞ。イラストや宣伝などを掲載しています。


 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。


 ■目次

 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 
 第302次元 >>003 
 第303次元 >>004 
 第304次元 >>007 
 第305次元 >>008 
 第306次元 >>009 
 第307次元 >>010 
 第308次元 >>011 
 第309次元 >>012 
 第310次元 >>013 

 第311次元 >>014
 第312次元 >>015
 第313次元 >>016
 第314次元 >>017
 第315次元 >>018
 第316次元 >>019
 第317次元 >>020
 第318次元 >>021
 第319次元 >>022
 第320次元 >>023

 第321次元 >>024
 第322次元 >>027
 第323次元 >>028
 第324次元 >>029
 第325次元 >>030
 第326次元 >>031
 第327次元 >>032
 第328次元 >>033
 第329次元 >>034
 第330次元 >>035

 第331次元 >>036
 第332次元 >>037
 第333次元 >>038
 第334次元 >>039
 第335次元 >>040
 第336次元 >>041
 第337次元 >>042
 第338次元 >>043
 第339次元 >>044
 第340次元 >>045

 第341次元 >>046
 第342次元 >>047
 第343次元 >>048
 第344次元(最終) >>049

 epilogue >>050
 あとがき >>051


 ■お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始
 2017 11/13 完結

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.32 )
日時: 2017/08/21 19:56
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7TIkZQxU)
参照: ※内容を一部変更しました(17.8.21)

 第327次元 斬撃と雷光


 「「――――次元の扉、発動」」

 皮膚を走る電流は、世界と世界を繋ぐ鍵となる。
 幼い日々より、墓前で母への想いに暮れてから、復讐を胸に夢見た舞台で彼らは紡ぐ。


 「――――雷皇!!」

 「――――双斬!!」


 十年の月日を経た。義兄妹は――――敵を討てと、誓いを捧げる。





 「おーい! キールア!」
 「!」

 鐘が鳴り止んだのとほぼ同時刻。名前を呼ばれたキールアは、声のする方へ振り返った。立ち上がると、輪郭がはっきりして手を振っているのだとわかった。
 いつもは頭に巻いているはずの白いバンダナを首に施して、サボコロが駆けてきた。

 「無事だったか! デスニーは?」
 「たった今、倒したところだよ。全体に連絡入れるの忘れてた」
 「おお! マジかよすげー!!」
 「……騒がしくするなバカ者め。傷口に響く」
 「なにィ!?」

 サボコロの後に続き、深い紺色の髪が顔を出した。
 通信機越しではない、エンの低温な口調が健在であるところを窺うと、どうやらこの二人も無事らしいとキールアは安堵した。
 そんな彼女とは裏腹に、エンは表情を険しくした。キールアの肢体が、何か鋭いもので無差別に貫かれたような痕に一瞬たじろぐ。

 「なにが無事だ。貴様のその目は飾りか? ……見たところかなりの損傷を負っている。早急に手当をせねば、危険だ」
 「……エン、ありがとう。でもそれより」
 「ありゃ? キールア、目ぇどーした?」
 「!」
 「なんかちょっと黒ずんでね?」

 変色しているであろう左の目を、キールアは咄嗟に覆った。金色を保ったままの右目で振り返ると、わざとらしく笑みを作った。

 「なんでもないよ。疲れちゃったのかな。はは」
 「……」
 「そーかぁ?」
 「そ、そんなことより――」

 ――途端のことだった。円となる三人の胸に、重圧がかかる。
 鈍器で心臓を殴られたかと錯覚したが違った。縺れた足が砂を攫う。
 空気が、変わった。

 「……い、まの……」
 「すっげえ……一瞬、胸んとこ殴られたかと、思ったぜ」
 「……――さっき、鐘が鳴ったな。もしや……レトと、神族の代表がすでに」
 「――! 戦って、る……!?」

 暗夜を仰ぐ。三人は頷き合い、足並み揃えて月下に往く。
 遥か遠くの方では、間髪を入れずに空間が震動している。近づくたび、それをいやに実感していく。



 厚い砂地に捕われる、両者の脚。もはや言葉は必要としない。

 「第七次元発動――十字斬り!!」
 「――――雷撃!!」

 真空波が、少女の髪を巻き上げる。ロクアンズが左の手で軌跡を描くと、雷光が暗夜を強く照らした。
 少年――レトヴェールは砂を踏みつけて、跳ぶ。振り上げた剣の切っ先を月に翳した。

 「――八斬切りィ!!」

 ロクは、その場から動くことをしなかった。右の手をレトの顔面へ捧ぐ。

 「――雷砲」

 史上最速を誇る電光は――レトの頬を切った。

 「……」
 「打ち消しついでにこの威力か。相変わらずえげつない速さだな――、よっと」

 地に足がつく。腕を覆う厚い布で頬を拭った。
 視界の端が――熱気を捉えた。

 「――雷撃!」
 「く――ッ! はあ!!」

 雷を晴らすと、刹那――ロクの細い脚が視界を覆う。

 「……ッ! 近いんだよバカ――、真斬!!」

 命中力に富んだ一撃が、ロクを襲う。間一髪といったところで、彼女のしなやかな四肢が跳び上がった。
 低姿勢での着地。砂中に手を埋めた。――レトの体を中心に、雷が円を描く。

 「――!」
 「捕まえた――――雷柱!!」

 天上を突く巨体だった新元魔の腕を彷彿とさせる。その柱の太さが、小さくなるレトの全身に雷の鉄槌を下した。
 激しい光は、次元師たちの視線に釘を打つ。
 ――背後。金の髪が、振れた。

 「どこ見てんだよ――十字斬りィ!!」

 放つ一撃に、ロクは反応こそ遅れたが大した傷を負うことなく華麗に避けた。肩から多少の血が跳ねるも、彼女は構いことなく指先をレトへ向けた。

 「――雷砲!」

 刹那、瞬き。一瞬にして辺り一帯が、激しい雷光に包まれる。
 しかし、形状を砲撃とするその次元技は、距離を短くして息絶えた。

 「……!」
 「だから――どこ見てんだ!!」

 雷は――刀身によって弾かれていた。次元唱を唱えずとも技の発動が可能である両者の技の力量は計りかねるが、とても等級が低いとは考えられない出力で殴り合っていることは確かだった。
 双剣は空を薙ぐ。ロクは俊敏な剣の動きにたじろぐことなく、綽々といった様子で丁寧に躱していく。
 代わって、ロクが反撃に出んと雷を唸らせると、レトの双剣は真向から受け止めても傷一つつかずに積極的にカウンターを狙っていく。

 「第八次元発動――」
 「第七次元発動――」

 両者は腕を引く。砂上を滑りながら後退すると、彼らの腕に力が宿っていく。

 「双天――――魔斬!!」
 「――――雷撃ィ!!」

 幾度となく暗夜を照らす光。力の塊は衝突し――大気の流れを捻じ曲げた。二人を中心に大地が剥がれていくのに、代表者たちの元へ寄ってきていた次元師たちは足を止めた。いや、止めさせられた。腕で顔を覆い、風力が収まると、この壮絶な光景に目を瞠った。

 (……! レト――、ロク……っ)

 お互い一度も息をついていない。気を緩ませたとき、片方は雷に肌を焦がされ片方は身を切り刻まれる。
 力の差が開いているようには思えなかった。幼い頃から共に背を預け合って戦ってきた義兄妹はお互いの動きの癖を知っている。この一年で新たに得た部分を除けば、腹の内は明かされているのだ。続く力の拮抗に、キールアはただただ胸のあたりで手を握って、見守っていた。

 「くそ……っ、やっぱ一筋縄ではいかねえな」
 「あたしがそんな簡単に屈すると思ってたんだ。心外だよ、ずっと一緒に戦ってきたのに」
 「ああ。にしては、昔よりだいぶぬるくやってるみたいだな」
 「……」
 「もっとえげつなかっただろ。お前のやり方は。――俺の首捕りてえなら、心臓、狙ってこいよ」
 「……は」

 右の掌が、発した雷の余韻にビリビリと電流を纏っている。
 妖精と謳われた彼女の若草色の左目が、ハイライトを失ったままレトを射抜く。

 「――あんまり神様を、怒らせないでよ」

 次の瞬間。
 レトの腹部に――鈍い衝撃が入ったかと思うと、気持ちの悪い浮遊感がついてきた。

 「――ッ!」

 視界が荒れる。数秒後、数百メートルは超えただろうと推測できる位置で、レトの背中が何かと激しく衝突した。その拍子に、彼は意識を取り戻す。
 と同時に、口内から赤い塊を産み出した。内臓が破裂したのではと疑うほど液量は多く、砂の上にぶち撒ける。
 背中にはごつごつした感触が伝う。恐らく岩か何かだろう。自分の中から吐き出された血液を眺めながら、視界はふらふらと左右に揺れる。
 眼前。妖精が髪を躍らせたかと思うと、己の頭蓋を掴んで持ち上げた。

 「心臓じゃなくてがっかりした?」
 「……」
 「なにか言いなよ、お義兄ちゃん」

 そのときだった。
 ロクの右半身。胸から肩にかけて一線――鮮血に交じって、斬撃音が奔る。

 「――ッ!」
 「はっ……気色わりい呼び方」

 血の滴る左腕が、緩慢に双斬を持ち上げる。五本の指に制圧されたままの頭部は後ろへ向いた。

 「――そのまま離すなよ」

 双斬の刀が、紅みを帯びていく。彼の血潮を取り込んでいるようにも見えた。
 ロクは肩身引いて指を浮かせたが――遅かった。


 「第二覚醒――――双天斬!!」


 一太刀。極至近距離で薙ぎ払うと向かい風は、追い風となって彼女を砂地もろとも弾き飛ばした。
 レトは立ち上がって――間もなく、深い土煙の中から禍々しいほどの元力を身に受ける。


 「第二覚醒」


 土埃が立ち上る。凛と響く音色だけが聴こえてきた。
 彼女は、浮世でもっとも麗しい声音で唄う。



 「――――雷神皇」



 突如――大地を殴打した落雷が、義兄妹の間で烈に瞬くと煙が散った。
 暗雲の中を駆ける雷撃は、ゴロゴロと不穏に音を響かせている。
 ――それはまるで、宵に並行して深まる軋轢を、匂わせているようだった。

 「お前も持ってんじゃねえか」
 「……」

 返事の代わりに、くいと指を躍らせると――再び落雷が、レトを襲った。
 形状の変化を遂げた双剣を両手に、駆けだす義兄を、天上に潜む雷を自在に操り阻む義妹。
 斬撃と雷光は休む隙もなく牙を剥き――止むことを知らずに、古の大地に轟音を齎していく。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.33 )
日時: 2017/08/26 01:44
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7TIkZQxU)

 第328次元 夢物語

 「これは……ひどいな」
 「……」

 布製の簡易な天井を、気にする余裕もないのだろう。戦地から運び込まれてきた戦闘部班の副班長、メッセル・トーンは傷ついた四肢をビニールに横たわらせ、いつも以上に強く目を瞑っている。
 危篤状態の部下の姿に、心臓を突かれたような痛みを覚えた戦闘部班班長のセブン・コールは、目を逸らさずにメッセルの傍で動けなくなっていた。

 「メッセル副班長……っ」
 「……すみません、セブン班長。僕が弱いばかりに……副班長が」
 「そ、それをいうならルイルだって! ……ルイル、だって……っ!」
 「……いや、君たちはよくやってくれたよ。命を落とさず、軽傷で帰ってきてくれた」
 「班長……」
 「ともかくだ、セブン君。この状況では早急にキールア・シーホリーに連絡を入れなくてはならん。メッセル副班長だけではない。ほかにも重傷者がいるのだ」
 「……――ええ、隊長」

 片膝を伸ばし、立ち上がるとセブンは耳元に手を添える。ダイヤルを回したのち、発信音が途切れた。
 二、三度繰り返したが応答がない。仕方なく全体連絡を飛ばすと、エンからの応答が帰ってきた。
 エンは何度か相槌を打ったのち、淡々と告げた。

 「――ええ。今しがた合流しました。神族【DESNY】の討伐は成功した模様です」
 『……――! そうだったのか。ご苦労だったと、キールア君に伝えてくれ』
 「了解です」
 『それともう一つ、疲弊しているところ申しわけないのだが、すぐにキャンプへ戻るように伝えてくれ。戦地から重傷を負って帰ってきた者が多く、君じゃないと対処できないと』
 「……」

 エンは耳元から通信機を退けると、――砂上で今もなお、衝突し合う次元の力を目で追っているキールアの後ろ姿を見た。
 トンと肩を叩くと、キールアは我に返ったように振り返った。

 「班長より急ぎの連絡だ。早急にキャンプへ戻るように、だそうだ。重傷者が多く、キールアの手が必要らしい」
 「……!」
 「それに、その怪我ではここにいても危ない。戻った方が懸命だろう」
 「……それは、私の『慰楽』を待ってるってこと……?」
 「? それもあるだろうな。……どうかしたのか?」
 「わ……私――実は、動くのもやっとで……キャンプまで距離もあるし。……それに元力不足で、『慰楽』も使えない、から……」

 不自然に左の前髪をいじるキールアを不審に思いながら、エンは時間を空けずに通信機に耳を傾けた。

 「こちらエン・ターケルド。キールア・シーホリーも重傷です。動くのもやっとのようで、戻る体力が回復するまでは待機していただきたいのですが」
 『なに? そうだったのか……では遣いの者を送ろう。そっちの方が安全だ。キールアちゃんが回復し次第、次元の力ではなく、彼女自身の――』
 『――班長。ただいま到着しました、フィラ・クリストンです。彼らの処置は私に任せてください』

 セブンの通信機越しに、戦闘部班の副班長、フィラ・クリストンの声が飛んでくる。
 遠くて少々聞き取りづらいが、どうやら怪我人の処置は彼女が請け負うらしい。
 彼女の登場に安堵したセブンは一息ついて、当たり障りなく通信を切ると表情を明るくした。

 「おお、フィラ! 君もご苦労だったなあ!」
 「次元師ですから、当然です。……でも今は、どうか“医療部班元副班長”として、彼らを看させてください、班長」
 「うむ。君の心強さはいつどこにいても変わらないな。……しかしキールア君が戻れないとはなあ。彼女の傷の具合も心配だ」
 「……彼女は、戦場そこにいさせてあげましょう」
 「え?」
 「レトヴェールとロクアンズの傍に、いたいはずです」

 ここが戦場であることを忘れているのか、零した笑みは穏やかだった。広げてあった医療器具に手を伸ばすと、フィラは慣れたように手に取った。
 触診し、薬を施し、ひどい出血には何重にも包帯を巻いていく。その姿は久しく見ていなかったもので、彼女にとっての戦場は一つではなかったことを、セブンは思い返した。



 「戦闘開始から10分……も、経ってねーよな……?」
 「……」
 「で、でもよ……なんかあいつら――もう“第二覚醒”使ってねーかッ!?」

 砂の荒波が――レトとロクを呑みこむ。意図せず口内を侵した砂粒をぺっと吐き出すと、膨大な力の塊に、両腕と双剣で顔を覆った。

 「くっ――!」
 「――雷神撃ィ!!」

 轟音は、響いて止まない。雲行きは不穏の色を纏っていた。彼女が指を振るえば、天候をも操れることに息を呑む次元師一同は、その力が地上に及ばないことを祈りながら呆然と空を仰いでいる。
 しかしキールアは、それとは違うところで手に汗を握っていた。

 「キールア! ここも危険だぜ、離れねーと!」
 「……っ」
 「キールア?」

 雷光が眼球を刺激する。思わず目を瞑りたくなるのを――キールアは、瞬き一つ落とさなかった。
 若草色の髪が激しく舞っている。相も変わらず長くて、美しく、目が眩んだ。

 「――! レト!!」

 幼馴染の、片方の名を呼んだ。レトが放った真空波を、ロクが跳んで躱したのは衝突寸前でのことだった。
 レトの頭上では、掌が翳されている。

 「第三次元発動――」
 「――!?」
 「雷神撃ィ――!」

 キールアは口形を丸くした。開いた口が塞がらないのだ。――ロクがたしかに『第三次元発動』と唱えたことには、困惑を禁じ得なかった。
 等級の低い次元技は、日常生活で用いられることが多い。剣であればあらゆる物を斬り、炎であればその名の通り火を熾し、松明にしたり獣を追い払ったりと、力が軽度であればあるほど次元の力は普段の生活上でも活躍を見せる。
 しかしそれはあくまで日常生活に限った事案であり、わざわざ戦場でまで用いる者はいない。
 ――そう考えられてきたのだが、キールアは自身の中にある常識が、転覆させられたと悟った。

 「――ッかは……!」

 それがまるで、日常では取り扱えない質量をしていたのだ。

 「そ、んな……」
 「第六次元発動――」
 「……っ、め――」

 微弱な唇音を掻き消す、轟雷。人間らしからぬと覚えるのは、彼女が、その肢体に片時の休息さえ許さないからだ。
 砂上で揺らめくレトが、ぐいと袖で汗を拭う。――すると、ロクの指先には電流が走っていた。

 「雷神砲――!!」
 「――八斬乱舞!!」
 「っ……や、やめて……」

 空間が震動した。凄烈な摩擦の余波に、サボコロとエンが目を伏せると次に開けたときには、キールアが前方で揺れていた。

 「――! おいバカ!! キールア!!」
 「馬鹿者! 今すぐ戻れ! ――キールア!」
 「もう……っやめてよ……!」

 濡れた視界には、剣を振るい拳を振るい、闘志を奮う義兄妹の姿が焼きついている。
 乾いた血液を纏いながら、キールアは脚を引きずってでも二人に近づこうと砂を蹴った。
 逸らしたくて叶わないまま、咽喉を刺激する。

 「もうやめてよ――――二人とも!!」

 傷つけ合うための力ではなかったはずだ。守り合うための力だったはずだ。
 どうして頬に血の跡が伸び、互いの肢体を追い詰めていかねばならないのか。

 これが、義兄妹に課せられた運命なのかと問うと――――胸が張り裂けそうな想いだった。

 「レト! ロク! どうしてよ! どうしてあなたたちが闘わなきゃいけないの!?」
 「おいキールア!! 危ねーって言ってんだろ!! キールア!!」
 「血が繋がってなくたって……ったとえ、人間と神様だって……――あなたたちは!!」

 勢いよく砂上を転がっていく。レトもロクと同様だった。休ませることなく腕に、脚に、元力が這う。

 「――――兄妹きょうだいじゃない!!」

 ――刹那。ロクの脇腹を、矛先は貫いた。

 「――!!」

 彼女は脇に刺さったままの、峰をしかと掴んだ。にっと笑みを零すと、瞬間。
 レトの左手が緩むのを、ロクの眼は見逃さなかった。

 (しま――っ!)

 彼が左の手で遊ばせていた片方の短剣を、ロクは空高く蹴り上げる。
 天上で旋回するのが、いやに、緩やかで――唾を呑んだ。
 刀身を這う、電流。


 「――――終わりにしよう、レト」


 キールアの足元。電気が奔ると、腰が砕けた。
 義兄妹を中心に、巨大な円陣を――――描く。


 「第七次元発動――――雷神柱!!」


 ――巨塊の雷が、地上に堕ちた。



 微かに期待を抱いていた。きっと彼女は寸前になって手を翻し、「冗談だよ」って笑うのだろう――と。
 彼女にはそんな、お茶目で悪戯好きな一面があったのだ。
 しかしキールアは目の当たりにした。

 ――夢物語から、目の覚める思いだった。

 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.34 )
日時: 2017/09/21 21:05
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dscjh0AU)

 第329次元 人と神

 
 雷神の鉄槌が大地を叩くと、猛々しい砂嵐が吹き荒れた。これまでの猛攻を遥かに上回る出力に、ロクアンズが本当に人間ではなくなったのだと理解させられる。
 じわりと、目尻が痛んだのは砂粒のせいではなかった。

 もっとも恐れていた――幼馴染たちの衝突に、目を伏せる。


 ――――と、次の瞬間。





 「「――――あははははははっ!!」」





 それは、まるで――笑い声に、ひどく似ていた。
 旋律はどこか懐かしく、それでいて至極無邪気な響きをしていた。

 随分と長い間、忘れられていた景色。


 「あー! ダメだ! もうダメ! もう限界~!」
 「いやロクお前、これだけ俺を傷つけといてよく言うわ」


 果てしなく広がる大地の一片。二人は肩を並べて腰を下ろした。

 昔レイチェル村で仰ぎ見た、星降るような夜空は、何も変わらずにそこで広がっている。
 

 「それ、人のこと言えないから。レトも大概ですー」
 「うるせえ。お前と本気ガチでやり合うのに、手抜けるかよ」
 「お互いさまですなあ」

 ロクの口元がそう緩むと、けたけたと高笑いが夜空に滲んでは、白い息を吐いた。
 目元はどことなく落ち着きを宿し、眉間を締めていた顔色も、温度を取り戻していた。

 「でもお前最後のあれはないわ」
 「あれ? 雷神柱? びびった?」
 「その後だボケ。俺たちの周りだけ雷を避けたまではいいけど、お前の顔が面白すぎてしんどかった」
 「嘘でしょ!? 『もう怖くないよ~』って意味で天使の微笑みを発動させたんだけど!?」
 「天使っ!? ……極刑は免れないな……」
 「ひどすぎる!」
 「――――レ、ト……ロク……」

 腕をもう片方の手で固く握りしめて、口にできたのがやっとのことだった。
 睨み合っていた義兄妹は同時に振り向いて、幼馴染の姿にはっとする。

 「き、キールア……」
 「! キールアお前、その傷――」
 「――っ……れ、レト……っ、ロク……!」

 幼い頃からそう呼び続けてきた。二人の胸の内を叩く愛称は、痞えながら、紡がれる。
 とめどなく溢れるそれは、頬を伝って、落ちた。

 「夢じゃ……夢じゃな――っ、!」

 キールアの背中に、腕が回った。
 心音が繋がる。重なったところから、温度が流れ込んでくるようだった。
 淡い緑の髪は、相も変わらず長くて、美しくて――温かく、微笑んだ。

 「心配かけてごめんね、キールア」
 「……っ、ロク……ロク、私……っ」
 「――どこにも行かないよ。……って、約束したよね」

 そのときだった。キールアの身体を、温かいなにかが包み込む。温度とは別に、血液中にそれが流れ始めるのをたしかに感じた。
 キールアは――金色の両瞳を、丸くした。

 「ロ、ク……」
 「あたしたちがこんなにも暴れられたのは、キールアがいてくれるからだよ」
 「えっ?」
 「どうせお前のことだから、『あとで慰楽で治してもらえばいっか』とか思ってたんだろ」
 「む。レトだってちょっとはそれを期待してたくせに!」
 「……まあ」
 「うわー! ひどい! 幼馴染なのに!」
 「お互いさまだろ!」
 「……――ふふっ……あはは!」
 「……?」
 「き、キールア?」
 「……なんだか、懐かしいなと思って」

 キールアが柔らかくそう告げると、レトとロクはお互いに顔を見合わせた。

 ロクアンズが問題ある言動を繰り返すたびに、それを口うるさくレトヴェールが指摘する。
 その傍らではいつも、キールアがやれやれと笑みを浮かべるのだ。
 それがいつ、どこであっても。エポール義兄妹とシーホリーの娘が、三人揃えばその場所は、レイチェル村で過ごした日々に還る。

 「いいよ、治すよ。二人とも。さっきまで元力不足だったけど、たった今ロクに分けてもらったから」
 「え? 分けてもらったって……」
 「【FERRY】の能力――『心情』は、技の幅もけっこうあってね。今のは元力を分け与える、“恵繕けいぜんの園”」
 「普通の人間がそれをやると、身体に負荷がかかりすぎるってやつか」
 「そうそう」
 「……ロク、ありがとう」

 キールアは言いながら、レトとロクの肩にそれぞれ手を置いた。彼女が囁くと、二人の体から斬り傷や痣、焼け痕などが見る見るうちに消えていく。

 「それにしても、二人とも名演技だったね。言ってくれれば、あんなに不安にならなかったのに」
 「あーいや、演技っていうか……」
 「べつにあたしたちは、示し合わせてたとかじゃ――」
 「――――“感動の再会”は、もう済んだかい」

 大地が、応えた。
 声色一つとっても、彼という存在が人間からもっとも遠くに位置しているのだと脳が最速で理解する。

 彼は、集う三人を眼下に据えて自身の創り上げた瓦礫の塔に腰かけていた。

 「やあ諸君。なかなかに面白い見世物だったね」
 「――――【GOD】……」

 レトがその名を口にすると、彼は一つに縛り上げた長い黒髪を揺らして、塔から飛び降りた。
 途端に、瓦礫造りの塔は崩れ落ちた。大小様々な瓦礫の破片が、黄砂を絡む。


 神族――【GOD】。神と恐れられた彼の顔立ちは、精悍で整っていた。
 そして恐ろしいほど、自分の顔と似つかわしくて、レトは頬に嫌な汗が滲むのを感じた。


 「ゴッド。あなた一体どこから見てたの? 全然見つけられなかった」
 「君の眼じゃ捉えられないところから視てたよ」
 「……ところでどうだった? この“見世物”は」
 「最高だったよ」
 「それはよかった! ――これは、対立し合う人間と神様が、最後にはお互いに手を取り合って“理解”の道を辿るという、あたしたち義兄妹の最高傑作なんだけど」
 「……ああ、最高だった」

 砂粒が僅かに踊る。大地のずっと奥底で、なにかが震えているのを、嫌でも足裏が感じ取った。
 ――と、そのとき。
 ぼこっと大地が割れると、瞬く間にそれは――――天空へ伸びた。

 「!? レト、ロク――ッ!!」
 「最高に――――下らないお伽話だ!」

 隆起した大地が凹凸のない塔を形成していく。レトとロクを囲う酸素が、突然薄まった。
 かと、思うと。次いで足取りは不確かとなる。泥みたく溶けた足場に、視界は反転。
 風の抵抗を全身に受けながら、二人はただ広い大地を目前にした。

 「次元の扉――――発動!」

 彼女は、地上に手を翳した。

 「――――風皇!!」

 突如、天地の合間を縫う風たちが暴挙に出た。細い指を広げて、暴れ馬を取り押さえんとするロクの意思に、それらは屈した。
 見ると、急降下していたはずのロクとレトの体は緩やかに大地に降り立った。

 「……次元の力を二つ持つ、か。厄介者だなまったく。片方はやつが意図的に与えたものだったな」
 「レト、大丈夫?」
 「あ、ああ……もしかして、今のが」
 「……そう。神族【GOD】の能力――――『創造』……そして、『破壊』」

 レトとロクの父親であるフィードラスが言うことには、『神族ゴッドは千年に一度しか能力の使用が認められていない』とのことだった。
 随分とはっきりとした語尾に、レトは少々違和感を覚えたが、それはたしかに頷ける事実だったのだ。
 でなければ、人間に深い怨讐を抱く彼が、千年という果てしない時間を持て余すはずもないのだ。
 しかしこの世に蔓延る、元魔と称される魔物を生産していたのが彼の持つもう一つの能力『創造』であることから、『創造』の能力には使用制限がなかったと判断がつく。
 そこまで考えて、そこが妙に腑に落ちないらしいレトは、すぐに頭を振った。

 (今はそんなこと考えてる場合じゃない、か)

 地底の震動。大地の隆起。物体の構成、破壊。これらはただの一瞬の出来事だった。義妹のロクはそんな状況下でも冷静に判断を下し、場を切り抜けてみせた。
 体躯も顔立ちも、外観は人間のそれと同様であるのに、彼の秘める力が、神であることを証明している。

 「レト」
 「なんだよ」
 「……まさか、怖気づいてないよね?」

 挑戦的な瞳が、碧々と告げる。ロクの口元はつり上がっていた。

 「まさか」

 レトはそう吐き捨ててから、突然、身を屈めたかと思うと双斬を地面の上に寝かせた。そして現在地からそう遠くないところに置き去りにしていた、やけに大きめのリュックからそれらを引っ張り出して、片方をロクに投げる。
 それは。


 「!」
 「再会記念だ」


 ――――改善前の、蛇梅隊の隊服だった。
 所々擦り切れて、色褪せた灰色。後から縫合を施した痕がいくつもあった。
 ロクは黄土色のコートを脱ぎ捨てる。着こみすぎて縒れた布地を見つめると、彼女はそれで身を覆った。


 背を預け合った日々が、血肉が、そこで息衝いている。
 かつて共にした鼓動と今のとが、重なっては早鐘を打つ。

 「とんだ、サプライズだね」
 「なに言ってんだ。俺たちはそれを身に纏って、世界に名を轟かせてきた――エポール兄妹だぞ」
 「……――義理だけどねっ」

 ――瞬間。隊服に袖を通し終えたレトの左手と、ロクの右手が、心地のよい響きを生んだ。
 これは、合図だ。


 「準備はいいな、ロク」
 「ばっちりだよ、レト」



 ――十年の月日を経た。
 義兄妹は、てきを討てと――――共にあの日、誓いを捧げたのだ。



 「――――これが“俺たち史上”最難度の」

 「――――任務、開始だ!!」
 
 
 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.35 )
日時: 2017/09/01 00:16
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 8sjNuoVL)

 
 第330次元 創造

 「レト――来るよ!!」
 「ああ!」

 ――神族の中で唯一、千年間一度も命を落とすことなく永らえてきた者がいる。
 その名は、【GOD】。彼は掌を大地に向け、緩慢に腕を伸ばすと、大地に亀裂が走った。

 突如――それが手足であるかのように、隆起した大地がレトヴェールの眼前に迫る。

 「十架斬りィ――!」

 第二覚醒によって強化された衝撃波が、形成された腕を打ち砕く。ぼろぼろに崩れていく血肉に目を奪われていると、すでに第二派が放たれたあとだった。

 「く――っ!」
 「――第六次元、発動」

 それはまるで、大蛇だ。八岐大蛇の連想させる、腕とも首ともとれる生物じみた大地の塊は、幾重になって古の地上を這う。
 ロクアンズは、そのうち一体の首を蹴って跳ねた。ぐんと距離を縮めると、ゴッドの顔面に手を翳す。

 「雷神撃ィ――!!」

 避けたような動作は、見受けられなかった。
 レトの目には、そして地上の少し離れたところではキールアが、ロクの攻撃がゴッドに命中したと感じた。
 しかし。

 雷光が晴れると、爛れた土の向こうから、ゴッドが顔を覗かせた。

 「――君には、僕に傷一つつけることも叶わないよ」

 光る、切っ先。――ゴッドの背後から彼は跳び上がる。

 「――じゃあ、これならどうだ!!」

 振り下ろした双剣が――神の首を刎ね飛ばした。
 感触が遺る。重量も捉えた。――はずだった。

 「それは人形だよ」
 「――!」
 「本物の僕は、こっちだ」

 首を飛ばした、感触だけを与えてゴッドはまったく見当もつかない空間に移動していた。宙に浮く彼の指先が、空をなぞる。
 ――その途端。向かい合っていた義兄妹の後頭部が、壮絶な力の塊によって殴り飛ばされた。
 流れるように額同士をぶつけ合うレトとロクの表情が、苦痛に歪んだ。

 「か……っ!」
 「ぐあ!」

 二人の様子を伺うばかりだったキールアが、傷で膿んだ身体を傾ける。

 「っ! レト、ロク……! わ、私も――っ!」
 「バカなにしてんだ、キールア!!」
 「サボコロ、だって私! あの二人に加勢しなきゃ! じゃないと……っ」
 「でもお前そんなこといえ――、っ!? おい、キールア!!」

 掴まれていた手を無理やり引きはがす。サボコロの声が遠のいていった。
 勝手に動いた身体が、もう動けぬと哭く身体が、神に目通りを請う。

 「レト!! ロクーっ!!」
 「!」
 「キールア!?」
 「――……あれは、悪魔の。デスニーのやつ、とどめは刺しておけよ」
 「私もいっしょに戦――」

 キールアの、膝が折れる。それは暗に限界を匂わせた。
 重力に従順な膝は震えていた。そして、前方の大地、盛り上がるのを実感したら血の気が引いた。
 蛇のような形状の、その頭部がキールアに牙を剥いた――そのとき。

 「――ぐッ!」
 「っ!」

 ふわりとなにかに抱きかかえられる。すると重力に抗って、遥かな空を泳いだ。
 ロクの腕に抱えられたまま、眼前にはレトが、キールアに迫っていた土人形と対峙していた。
 軽やかな動きで着地するロクの腕からそっと離される。

 「危ない危ないっ、間一髪」
 「……ご、ごめんなさいロク。でも、私も――っ」
 「キールア、どうか今だけは、その命を最優先に考えて」
 「……!」
 「そして、――あたしたち義兄妹のこと、キールアだけは、信じていて」

 『次元師の命を最優先にしてほしい』――フィードラス・エポールの、義兄妹の父親の言葉がふと蘇った。
 神族に抗い続けるために、希望を失わないために――次元の力がこの世にある限り、人間が神様に屈服することはない。
 神族【MOTHER】が、人が神に抗えるようにと与えたこの力が神族にとって脅威であることは間違いないのだから。
 ――ずっと引っかかっていたのだけれど、今になってキールアはそう感じた。そして、ロクに応えるように、笑った。

 「……うん。信じてる。だれよりもあなたたちのこと」

 つられてロクの頬も緩んだ。キールアの背中に声がかかる。

 「キールア!」
 「! サボコロ!」
 「ここは危険だ、離れるぞ!」
 「……ごめんね、サボコロ」
 「――謝んなよ、キールア。それに……あの二人の力になりたいなんて、ここにいるヤツらはみんな同じこと思ってんだぜ」
 「……――うん」

 ゴッドの『創造』によって、この戦争のためにと改造された新元魔との戦闘が、大半の次元師たちの心身に大打撃を与えたことは事実だった。
 疲弊している者はどこかの岩陰で息を整えている頃だろう。重傷の者はキャンプに運び込まれ、治療を施されている頃だろう。――次元師として経験の浅い者、女性子どもは、身を寄せ合って息を潜めているのだろう。
 サボコロもエンも、英雄大四天の一員といえど例外ではない。
 サボコロは一度元魔の殴打を直接身に受けている。無事そうにへらへら笑ってはいるが、彼の肋骨は何本か折れてしまっている。遠距離戦であっても、核の破壊を主としていたエンの疲労はピークをとうに超えているだろう。

 ――それでも。ロクの心に触れレトに支えられながら、蛇梅隊の隊服に身を包む自身に誇りを持っているこの二人が、キールアと同じくらい義兄妹の力になりたいと、思わないはずがないのだ。

 (……お願い――どうか、どうか無事でいて……)

 神に祈る――わけにはいかないが、捧げた祈りがどこかへ届けばいい。
 だれにとも曖昧な、絶対のない願いでも、どうか。
 キールアは後ろ髪を引かれながら、義兄妹から少しずつ、距離を離していった。



 「――ぐああ!」
 「! レ――っ、!!」

 猛烈な殴打に、レトの肢体が飛んだ。自分の身の丈ほどはある拳を持つ格闘家に、暇なく殴り飛ばされているような感覚を呑んだ。
 ロクも、レトを心配する猶予もないことを悟っていた。ようやく千年という長い時刻ときを経て、有り余る力を振るうゴッドは悠長になど待ってくれないのだろう。
 その証拠に彼の表情は至極、愉しそうに歪んでいる。

 「もっとだ。もっと見せてくれよ。――人類を代表する君たちがこの程度じゃ、暇潰しにもならないだろう」

 指揮者気取りのただ細い指先が、僅かに胎動するだけで、地形が歪む。災厄を生み兼ねない偉大な力を、玩具を与えられたばかりの子どものような無邪気さで彼は振り回す。

 「くそ……! あの触手みたいなのをどうにかしなきゃ、本体に手も届かねえな」
 「――レト、作戦は?」
 「は?」
 「いつもみたいに、指示してよ。あたしを手足のように使ってさ」
 「……お前なあ」
 「信じてるよ、お義兄様♪」
 「――……ったく」

 二人の間を分かつように、大地を叩く触手を跳んで回避する。
 ――レトの瞳が、冷ややかにそれを見つめた。

 「三分くれ」

 冷淡な口ぶりに、身震いする。くれと言いながら、もう思考を張り巡らせている声色だ。

 「――長いよっ、一分で!」
 「注文が多いな! わかったから、一分の間に死んだら殺すぞ!」
 「あはは! らじゃーっ!」

 半ば返事を連れて、ロクは地上に降り立つ。
 すると、頭の天辺から足のつま先まで、余すことなく――電流が奔る。

 「第八次元発動――――雷神装!!」

 這い呻く雷光が、全身の筋肉を刺激して――ロクは烈火の如く、大地を踏み抜けた。

 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.36 )
日時: 2017/09/01 22:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 8sjNuoVL)

 第331次元 繰る人形

 ――加速する彼女の脚はレトヴェールの目に留まることなく、瞬く間に触手の一体を蹴り散らした。

 「……っ――は、や……」

 (! ――もしかして、あの技)

 レトは自身の腹部に目をやった。キールアの『慰楽』によって、そこは多少なりとも打撲痕が薄まっている。しかし、受けた衝撃と痛みの記憶はまだ新しい。

 ロクアンズは幼い頃から身体能力が高かったため前線で戦うことが多かったが、それは決して体術に秀でていたという話ではない。元力量が平均を上回っていたことと、彼女の心身のタフさを兼ね備えてのことだった。
 まして彼女の持つ『雷皇』は、筋肉の増強を促す次元の力ではないのだ。
 それでも、レトの腹部に鈍い衝撃を与えたのは、紛うことなく、――ロクの脚だった。

 (電気で筋肉を刺激して、飛躍的に筋力を強化させてるのか……――相変わらずだな、ロクも)

 謀らずも畏怖の念を抱いてしまう。ロクは強化した四肢で舞い踊るように、次々に触手を蹴り崩していく。
 それも第二覚醒を開放させた次元の力だ。目新しい光景に、胸が躍った。

 (――さて)

 約束の一分が過ぎてしまう前にと、レトは顎に手を持っていく。

 これまでの流れから、推測できる項目がいくつかある。
 ゴッドの持つ能力『創造』で創り上げたものは、今のところ地面の土と砂とを使用した土の塔や大蛇のみだ。しかしそれだけを寄せ集めても空中では風や重力によってすぐに自然分解してしまうだろう。
 ゆえに、おそらくゴッドは土の大蛇に、さらに空気中に含まれる水分を練り込むことで蛇のような形状を保っていたのだ。レトやロクが大蛇を破壊するたび、それが泥となって大地に還るのはそのせいだろう。
 つまり『創造』という能力は、その名の通り無から有を生み出す力ではなく、有るものを別の何かに作り替えて操るという、――“再構成”の力。

 (そうでなければ、やつは隕石でもなんでも作って、地球に大量のそれらを落とせばとうの昔にでも人類を滅ぼせたはずだ。――そうしてこなかったのは)

 ――しなかったのではなく、“できなかった”。
 単純に導き出せる答えではこれが一番正解に近いのだろう。ゴッドに課せられた“制限”というものがどの程度なのかは計り知れないが、間違いなく彼の能力には制限がかけられていて、『創造』の及ぶ範囲にも限界がある。
 それがどういう理由であるかは考察の対象外だが、これが現状に齎す効果としては――優秀の部類だ。

 (まずはやつがどの程度『創造』できるのか、把握する必要が)

 「うああ!」
 「!」

 義妹の呻き声が思考を遮った。見上げると彼女の首元にぶ厚い土の塊が喰らいついていて、細い両脚をばたつかせながら抵抗している。
 こみあげる笑いを堪えきれずに、ゴッドがくくくと喉を躍らせていた。

 「大口を叩くわりには小さいんだ君は。やることもね」
 「うっあ……ぐうッ!」
 「細い身体だ。どうやら君は人間と同じ造りをしているらしい。――で、なければ君の吐き出す液体はそんなに赤くならないはずだから」
 「うあああッ!」
 「気味の悪い傷だ」

 締めつける痛みが、ふっと、緩みを生んだ。

 「!」
 「ロク! こっちだ!」

 一太刀が大蛇を斬り落とすと、ロクはすばやく声のする方へ跳んだ。

 「ありがと、レト!」
 「礼はあとだ。まずはやつがどの程度『創造』できるのかを知りたい。それで隙があればコアの位置を探る。お前が大蛇を壊して道をつくれ」
 「今のままでもいい? 雷皇は、ほかの技だと力が散漫する」
 「ああ。そっちの方が適任だ」
 「適任?」
 「大蛇に含まれる水に電流を流せ。うまくいけば、指一本で倒していける」
 「!」

 足並みはずれる。飛び出したレトに続いて、ロクは彼の頭上をいく。

 「八斬乱舞――!」
 「はああ――ッ!」

 ロクが一陣、風を嬲る。両端から迫り来る大蛇たちの頭部に、添える指先。電流を流すと大蛇の身体は大きく反り返り、息絶えた。
 延々と蔓延る大蛇たち。きりがないとは、よく言ったものだ。

 「どうしたどうした! そんな悠長に遊んでいると、夜明けなどすぐだぞ!」

 地上を蠢く大蛇たちは、投じられた餌から目を離さんとする。――ロクはそれらを睨み返すと、立ち止まった。

 「レト! ――、風撃!」

 レトが髪を巻くと――彼の体は宙へ飛んだ。

 「おいロク!?」
 「――?」

 彼女は身を屈める。膝を折る。伸ばした両手が大地にかぶさった。
 遠目に置かれた神へ捧ぐ、つり上がった口角の告げる挑戦。

 「――――雷神撃ィ!!」

 何重にも犇めいていた大蛇のあちこちから光が漏れると――単純な血肉が裂けて散った。
 創り上げた有象無象の下僕しもべたちの死体が、主の目の前で無造作に転がった。

 「こんなお人形遊びであたしたちをどうにかしようだって? 笑わせないでよ」
 「……わお」
 「あたしとあなたは同じ――神族だってこと忘れないで!」

 足の裏に痺れを纏う――脱兎のごとく飛び出して、ロクの脚はゴッドに迫った。

 「ッ!」

 ――泥の壁が、衝撃を吸収した。

 「堕陣――必悪撃!!」

 流星は堕ちる。前方は自身の産み出した土壌の壁に行く手を阻まれている。崩れれば刹那、雷の猛攻が出迎えるだろうと推測は容易だった。
 して、頭上には英雄の切っ先。――ゴッドの足はたんと跳ねて、仰ぐ指先が大地と平行になった。

 「――――落ちろ」

 空気中の水分が震動する。突如、空中に出現した――――“氷の槍”。

 「「――!?」」

 鋭利に伸びる氷の塊が牙を剥いた。宙より降り注ぐと、独特の氷結音が大地を叩く。
 次元の力を掲げ損傷の軽減の図る二人だったが、――レトの足元には、大地が沸騰していた。

 「! レト!!」
 「――っ!」

 形成された剛腕が、レトの顎を砕く。鮮血を噛むと身体は空へ投げ出されて、ぐしゃりと大地に還る。
 しかしすぐに上体を起こし、砂を蹴った。

 (水から氷への“凝固”……『創造』は、温度操作も可能なのか)

 低姿勢。悠と佇む痩身と距離を縮めていく。立ち尽くす彼は緩慢に首を回した。
 手を、翳す。

 「――ッうあ!?」

 凝固した空気中の水分たちが、レトの前に立ちはだかる。尖ったそれが視界を刺す。
 すると、雷光が頬を掠め去った。それが氷の山と衝突し破片が拡散する。
 ゴッドは眉を顰めると、肩で息を搗いた。

 「どうやら休ませてはくれないみたいだ」
 「休みたいならぜひそうしてくれよ」
 「それは、無理な相談だな」

 向けられた指先は、ゆると曲げられている。口元もへらっとしていた。
 ――しかし義兄妹は気づけずにいた。尖鋭なものたちがこちらへ向ける視線に。

 「まだまだ、目の前の玩具に期待している」

 先に気がついたのは、ロクだった。

 「!! ――レト、上だ!!」
 「――ッ!」

 深い闇に浮かぶ、満天の星。美しく瞬いているうちは壮観の一言に尽きていた、――が、それらは虚勢をはがされると途端に、黒光りした。
 幾千と降り注ぐ彗星。天地を縫う鋭い豪雨が――――義兄妹を襲う。


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