コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 ー旧版- 【完結】※2スレ目
日時: 2020/05/18 19:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

  
 ※※ご注意※※

 本スレは、ただいま執筆中の『最強次元師!!《第一幕》【完全版】』の【旧版】です。
 記念に残しているだけのスレッドになりますので、『最強次元師!!』をはじめてお読みになる方はぜひ、【完全版】のほうをお読みいただけたらなと思います!
 何卒、よろしくお願いいたします。


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 運命に抗う、義兄妹の戦記

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 完結致しました。
 読んでくださったすべての皆様へ、本当にありがとうございました!


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 本スレは【完全版】のネタバレを多く含みます。ご注意ください。
 本スレは【旧版】の2スレ目です。第001次元~第300次元までは旧スレのほうに掲載しています。上記のURLから飛べます。


 ■ご挨拶

 どうもこんにちは、瑚雲こぐもと申します。
 旧コメライ版から移動して参りました。
 長年書き続けております当作ではございますが、どうかお付き合い下さいませ。

 Twitterのアカウントはこちら⇒@shiroito04
 御用のある方はお気軽にどうぞ。イラストや宣伝などを掲載しています。


 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。


 ■目次

 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 
 第302次元 >>003 
 第303次元 >>004 
 第304次元 >>007 
 第305次元 >>008 
 第306次元 >>009 
 第307次元 >>010 
 第308次元 >>011 
 第309次元 >>012 
 第310次元 >>013 

 第311次元 >>014
 第312次元 >>015
 第313次元 >>016
 第314次元 >>017
 第315次元 >>018
 第316次元 >>019
 第317次元 >>020
 第318次元 >>021
 第319次元 >>022
 第320次元 >>023

 第321次元 >>024
 第322次元 >>027
 第323次元 >>028
 第324次元 >>029
 第325次元 >>030
 第326次元 >>031
 第327次元 >>032
 第328次元 >>033
 第329次元 >>034
 第330次元 >>035

 第331次元 >>036
 第332次元 >>037
 第333次元 >>038
 第334次元 >>039
 第335次元 >>040
 第336次元 >>041
 第337次元 >>042
 第338次元 >>043
 第339次元 >>044
 第340次元 >>045

 第341次元 >>046
 第342次元 >>047
 第343次元 >>048
 第344次元(最終) >>049

 epilogue >>050
 あとがき >>051


 ■お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始
 2017 11/13 完結

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.42 )
日時: 2017/11/03 18:05
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: ezxnwr3m)

 
 第337次元 その名は

 「え……っ!?」
 「これは……ロク、の声か?」

 テントの周辺では、一斉に活動が静止した。手負いの次元師もその一瞬は痛みを置き去りに、苦しみに閉じていた目を瞠る。
 蛇梅隊戦闘部班の班長のセブンと、副班長のフィラは互いに顔を見合わせる。テントの外で見張りをしていたほかの蛇梅隊隊員も、すこし離れたところでほかの次元師の守備にあたっていたシェルやシャラルも、戦地で点々と待機していた者たちを含める――すべての次元師が、自身の胸に耳を傾ける。

 心の内側を満たす、妖精の詠声に。

 「お、おいロク! こりゃいったいどうなって……!?」
 「静かにしていろ。やかましい」
 「な……ッ!?」

 ≪あたしは、――……【FERRY】。神族【FERRY】。“心情”を司る神様≫

 ロクアンズ・エポールの正体が、“心情”の神【FERRY】ということをよく理解している者たちが息を呑む傍ら、彼女と面識のない一般の次元師たちは口々にその名を繰り返し、どよめき返った。

 「【FERRY】……!? フェリーだって!?」
 「フェリーって、たしか……」
 「ああ。千年前は、唯一人間の味方だったって。古代記で読んだ」
 「たしか、2年前くらいに記事が回っていたよな。『蛇梅隊の筆頭次元師 ロクアンズ・エポールの正体は神族』……とかなんとかって、見出しで」
 「まさか、ロクアンズが? ここに来てるの?」
 「さっきまで派手にやり合ってただろう。それじゃないか?」
 「この声、本当に? 本物のフェリー?」

 ≪不安にさせてごめんなさい。惑わせたいわけじゃないんです≫

 「!」
 「しゃべった! 聞こえてるの!?」
 「心を……読んでるのか……?」

 神族【FERRY】が持つ『心情』の能力をすべて把握しているわけではなかったが、心を司る彼女には、秘めた思考は筒抜けだ。対してロクは、落ち着いた面持ちで続ける。

 ≪突然ですが、あなた方全員の力を、貸してくれませんか≫

 「私たちの、力……?」
 「ロク、聞こえるかい? 蛇梅隊戦闘部班班長のセブンだ。どういうことか説明してくれ」

 ≪ここにいる全員の次元の力を借りたいんです≫

 「じっ、次元の力を……?」
 「そんな……そんなもの、どうするっていうんだ。借りるだなんて」
 「さ、さあ……」

 ≪ここにある、“百”の次元の力……それらを――すべて、同時に開くんです≫

 「! それは、つまり……っ――」

 セブンは、飛び出しかけた音を飲みこんだ。口にするにはまだ、無責任な発案だと思ってしまったからだ。
 彼の表情を伺っていたフィラにとどまらず、すべての次元師が混乱に陥った、そのとき。

 ロクは躊躇いなく言い放った。



 ≪――――“全次元の扉”を、開放します≫



 まさに、前人未到。両次元の扉を発動するのもままならない次元師たちが、二人でも開けぬ扉を――百をも繋げ、同時に開こうと言う、妖精は。
 人間たちの戸惑う心を置き去りに、淡々と告げる。

 ≪不可能じゃありません。みんなで力を合わせれば、ゴッドを倒せます≫

 「! ゴッドを?」
 「神を……倒せるのか……!?」

 ≪時間がありません。うまくいけば、すぐにでも……――≫

 「信じられない」

 温度のない口調が、風に浚われる。聞き慣れない男性の声がロクの心の中で冷酷に反響した。
 想定はしていた。覚悟もしていた。それでも、放たれた肉声に喉が痞えた。

 「そんな出来すぎた話、信じられるかよ。成功する確率は? 何%?」
 「ちょっとあんた」
 「だってそうだろ。考えてもみろよ。いましゃべってんの、神族なんだぜ?」
 「それは……」
 「まあ……そうだけどさ」
 「信じてくださいってさあ、じゃあはい信じますってなれるかよ。本当に俺たちのことを守ってくれるっていう保証がどこにあんだよ」
 「……」
 「ロクアンズとかいうやつだろ。どうせまた裏切るに決まってる。俺たちから次元の力を奪って、俺たち全員、皆殺しにするつもりなんだ!」
 『――いいかげんにしろ!!』

 砂地に溢れ返ったのは、獣のような哮りだった。若い青年の叱咤がどこからともなく頭蓋を叩く。
 流暢に持論を語っていた男性はその声に慄き、ぴたりと動きを止めた。

 『黙って聞いてりゃ文句ばっかり吐きやがって。いまがどういう状況がわかって言ってんのか!』
 「な、なんだ……っ、いい、いったいどこから……!」

 小型の通信機を別のアダプタと繋ぎ合わせ、接続先のスピーカーからその通信相手の声が拡散した。
 少し前に、耳越しに指示を受けていたセブンはテントの出入りを繰り返し、いそいそとそれを設置していたのだ。急になにか準備し始めた彼にフィラは気がつき、その動揺を宥めるかのように彼はにやりと笑みを返した。
 
 『時間がないって言ってるんだ。ゴッドの姿は見当たらねえが、すぐにまた襲い掛かってくる。やつは余裕かまして待ってんだよ、そんなことも理解できねえのか!』
 「う、うるせえな! ガキが偉そうに!」
 『うるさくて何が悪い』
 「は……?」
 『俺はこの大戦の指揮を任された――人族代表のレトヴェールだ!』
 「……ッな……!」
 『どこのどいつか知らねえが、元魔を前に怖気づいて、なにもできずただ守られてただけのやつがほざいてんじゃねえ!』
 「な、んで……そんなことがてめえにわかるんだよ!」
 『んなことはどうでもいい!!』
 「っ!!」
 『選べ! このまま指咥えて死ぬのを待つか――生きる可能性にすべてを懸けるか。二つに一つだ!』
 「……くッ……!」
 『てめえだって運命に選ばれた戦士だろ! 生きたいなら、救いたいなら、その手を差し出せ!!』

 男性は腕を震わし、舌打ちまぎれに俯いた。どれほど思考を巡らせても、たった十五、六歳の少年に返す言葉が見つけられなかった。
 そのすぐ傍で、一人の女性が所在なさげに手を挙げた。

 「!」
 「私……信じるわ。フェリーさんのこと、信じます。……昔ね、彼女に助けてもらったことがあるの」
 「俺も、俺も力を貸すよ。街が元魔に襲われたとき、彼女と、あとレトヴェール……。エポール義兄妹が倒してくれたんだ」
 「うちの店でもそうだ。荷物運びを手伝ってくれた。なぜだかロクアンズちゃんは不服そうだったけど」
 「記事を見て彼女たちを知った」
 「信じたい」
 「開戦してからいままでも、ずっと守ってもらってた。ゴッドを倒せるなら、こんな自分でも手助けができるのなら、持ってる力すべて使って!」
 「ゴッドをたおして!」
 「君を信じるよ!」
 「――……っ」

 男性は忙しなく周囲を見渡した。男も女も、子どもも老人もみな一様に腰を持ち上げ、手を伸ばす者、空へ願いを捧げる者たちは希望に満ちた瞳をしていた。
 一人、罪に問われ取り囲まれたかのような不審な挙動で、手に汗を握る男を除いて。

 『――……たしかに、保証はできない。100%なんてものはない。でも、0%じゃない』
 「……」
 『どうか信じてくれ。俺の、――――自慢の義妹いもうとなんだ』
 「……!」

 スピーカーを通して、ブツッという通信の途切れる音がした。周りの人間の表情は、喜々としている。
 なんとか保っていた上体をそっと下ろし、いててと呟きながら一息をつくレトを――ロクはずっと見つめていた。

 「……レト……」
 「あそこまで言わせたんだ。……頼むぞ、ロク」
 「……うん」

 ロクはふたたび、固く目を瞑った。

 ≪ありがとう≫

 「……」

 ≪――そしてあなたも≫

 項垂れていた男性は一人はっとして、顔を上げた。

 ≪聞けてよかった。ありがとう。――――……安心した≫
 
 「え?」

 耳元で囁かれたような、淡い声色だった。
 男性が呆気に取られていると、すでに妖精が息を吸った後だった。

 ≪それじゃあ、いくよ≫

 鼓動が早鐘を打つ。遥か天上で流れる月と星々を頼りに、かろうじて見ゆる足元と深い闇とを分かつ地平線。果ての見えない土地を踏みしめ、希望という名の一縷の光を手繰り寄せる人間たちは。
 神に祈りは捧げられないが、少女に願いを託すことを選んだ。

 ――ゆっくりと、脚まで伸びた長い黒髪が、夜に紛れて揺られている。

 ロクは瞼を落とした。幼い子どもが眠るように、無邪気だった瞳を閉じた。
 鼓動が聴こえてくる。一つではなかった。
 二つ、三つ、四つ、――……十にも五十にも、重なっていく。繋がっていく。
 よく知っている音も、知らずとも守りたい音たちが、ロクの心拍とともに胎動する。


 胸に手を添え謳えば、妖精は。
 その胸に百の心を刻み、――――世界を開く。


 「全次元の扉――――発動!!!!」


 次元の世界。母なる神が人間に与えた、百の鍵。
 一人ひとりでは小さな世界だ。しかし狭い空を見上げれば、広大な空の下で同じ雲を追いかける者がいる。どこかの街角ですれちがい、立ち入った森で足跡を踏んで、旅の途中で出会いもするだろう。
 この広い現世の片隅で奇跡のように集った、神を穿つ力たちへ――――少女は、手を差し伸べて。
 

 運命を、切り拓く。



 「――――――“元王げんおう”!!!!」



 少女の手元から眩い光が漏れだして、彼女の全貌を包み込む。炎熱を孕んだ鋭い衝撃に瞼を閉じずにいられた者がいただろうか。
 エルフヴィアの地に、闇夜に、その光が広がると――彼らは目の当たりにする。


 少女がその手にしかと握りしめていたのは――――、黄金の大剣だった。


 「あ、あれが……」
 「……すっげ……っ――光ってやがる……!」
 「両次元どころではない……すべての次元の力の同時開放――やはりただものではないな、ロクは」

 (“元王”――――すべての次元の力を開放することで生まれる、新しい次元の世界。……いや、もともとは一つの次元の世界を、俺たち人間に分けていたんだ。元王は、まさしく神族マザーが最初に創った兵器だ)

 その全長は、ロクの体躯を大きく上回っていた。持ち上げることに支障はないのか、彼女はその重量をものともせず軽く掲げる。刃も、柄も、金色に光り輝いている。剣の扱いに不慣れとはいえ、彼女は臆することもなく柄を強く、握りしめた。
 そのとき。

 「――! みんな伏せてッ!!」

 疾風の如く地上を駆け抜け、それが大剣の刃と衝突した直後、呆気なく弾け飛んだ。全貌をはっきりと認識できたわけではないが、ロクがそれを鉄塊だと確信するまでに時間はかからなかった。
 しかし、次の瞬間。
 心休まる間もなく、大剣とそれとが対峙する。

 「……ッ! ゴッド」
 「ははは! すべての次元の力を同時に開くだと? 面白い。いいぞ、フェリー!」

 鉄塊は形を成した。純度の高い漆黒の剣が、神の力によって非現実的に科学的な成功を収めた傑作となって、ロクの視界を満たす。
 似たような漆色の長い髪。美しいそれとは裏腹に、細い肢体の上をなぞる傷口は割れたまま放置され、胸部にぽっかりと空いた穴が風を通していた。
 剣と剣とが刃を零し合う。

 「やはり君は面白い。愉しませてもらおうか」
 「……」
 「どうした。たったそれだけの力も操れぬほど、衰弱したか?」
 「あなたは、あたしの兄を、仲間を傷つけすぎた」

 大剣の柄に籠める力が増した。筋力に留まらず、練り上げた元力がそこで息衝く。

 「君が先に僕を傷つけたんじゃないか」
 「傷つけた? ああ、そんなに嫌だったんだ。人間から生まれた、ってことが」
 「……」
 「教えてあげるよ。人間の愛の深さも心の強さも。あなたにね、ゴッド」
 「はっ。くだらな――」
 「いや」

 刃の接触部分が、均衡を保っていられなくなる。押さえつけるように、圧迫するように、ロクは自身の手足に命令を下す。血管がはち切れてしまうくらい、血も肉も奮わせて。
 その矛先が、少年のような神様に傾いた、そのとき。――――少女のような神様は、口ずさんだ。



 「シエラ・エポール」



  

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.43 )
日時: 2018/01/15 12:17
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: yIE1Hsuy)

 
 第338次元 心情

 ――――シエラ・エポール。その名の主であるかのように、そうではないと否を唱えるように、彼の冷酷無比な心臓がひとりでに高鳴った。
 血脈の躍動を、妖精は聴き逃さなかった。人間のものと等しく赤いことを、彼女は随分と前に悟っていたのだ。

 「……ろ、ロク……いまなんて……」
 「えっ、エポー、ルって……それじゃあ!」
 「――レトと、ゴッドが……血縁関係にあるというのか……!?」

 (……シエラ――……エポール)

 ゴッドは自ら身を退き、鉄の剣を握り直した。途端、一太刀振り切り、鉄の刃がロクアンズ目がけて飛んでくる。
 ロクは大剣を倒し、左手を添えると鉄の刃を弾き飛ばす。――と、次の瞬間、彼女の目の前で黒い太刀筋が伸びた。

 「ぐあッ!」
 「ロク――!」
 「……――ぶな」

 肩から脇腹にかけて一直線上に振り下ろされる。赤い飛沫が広がると、ロクは足元を躍らせた。
 低音の利いた声音。それが彼のものだと理解するより先に、力なく提げていた鉄の剣が振るわれていた。

 「ッ!?」
 「それを――口にするな!!」
 「くっ――……!」
 「マザーだろう。やつだろうな! 君に要らぬ情報を植えつけたのは!」
 「――っ、その言い方やめて! マザーは――あたしたちの、お母さんだよ!!」
 「母親だと? 笑わせるな! あれは神の製造機だ!」
 「ちがう! あたしたち神族こどもに願いを託し、祈りを捧げ、人間とともに在ることでどんな厄災からも人間を守ろうとした!」
 「はは! 皮肉だな。守ろうとした人間に僕らは裏切られた! 手を差し出す前に頬を叩かれたのだ! 神の持つ偉大な力を敬するのではなく、恐れ慄き遠ざけた! 厄災を産んだのは醜い人間どもと、創造神マザーだ!!」

 ゴッドは空を斬り払う。間一髪でロクが躱すと、彼は空いた左の掌を広げた。パキパキッ、となにもないような空気中で水分が凍っていく。

 「――っ……そうだ。結論はそうかもしれない。けど……!」
 「人間を愛するのならば、創った神の子など皆殺しにしてしまえばよかった。人間に元力を与えるのではなく、その力で神族を消していれば今頃人間どもが怯え暮らすこともなかっただろうに! ははは! 無様なものだ、創造神とやらも」
 「できなかった」
 「……!」
 「人間の脅威であろうと宿敵であろうと、マザーに――――自分の子を殺すことはできなかった!!」

 ――私は結局、自分の子がかわいいだけの母親ね。
 永劫の命、絶対の力。それらを子に与えるために、マザーは自身の目を、耳を、鼻を、口を、神経のすべてを犠牲にした。もともと人間とは別の異質な存在だったが、余計に人間と同じようには生きられぬようになった。しかしその代わりに、神族たちが人間に寄り添えるようにと祈ることをやめなかった。
 肥大化する貧困化。国同士は土地を、金を、支配を望み続けた。運命の悪戯か必然の末路か、結果的にマザーの望んだ未来は手に入らなかった。人間に恐れられた神族たちに対し、母なる神は憂うようにも慈しむようにも笑みを落としたのだ。神族を殺せなかったのではない。我が子の命を奪えなかったのだ。

 人間と同じようには生きられぬのに、人間の母にあって彼女になかったものを――――母から子への、愛を。
 得てしまった。知ってしまった。
 たったそれだけが、今のマザーに唯一残されているものなのだ。

 「マザーは罪の意識に苛まれながら、それでもあたしたち子どもの命を繋げ、――いつか、人間と神とが正しい道を辿れればいいと願ってきたんだ、千年間ずっと!! だけどあなたはちがう!!」
 「なん……だとッ!」
 「マザーの愛も理解できずに、本当の母親の愛も受けようとしなかった。――はじめから人間と向き合う気なんてなかったくせに!」
 「あの女が僕を棄てたんだ!! 僕ら神を拒んだのは人間だ!! 神の力を認めようとしない愚かな者どもに、生きる価値などない!!」
 「そういうことを言ってるんじゃない!!」

 氷の刃が大地を殴打する。ロクの身を焼き、伏せる彼女は大剣を一振り薙ぎ――降り注ぐそれらを一網打尽にした。

 「幼子だったあなたにはつらい現実だったかもしれない。けど、あなたには自覚があったはず! 人間としてではなく神族として。人間を守るという大きな使命を、たった一度人間に拒絶されたくらいで諦めた!!」
 「自ら棄てたのだ。守る価値もない。望まれぬなら、なんの為に産まれてきた!!」
 「望まれないから破壊するの? 敬意や信仰が向くのを待つの? ……これは誇示する為の力じゃない! ――守る力だ!!」
 「黙れ! 人間などに生を受け、環境を限定され、思考を調教され行動を制限され身分を管理され要らぬ感情に溺れた結果、人間から石を投げられる始末となった君に――――説教をされる謂れはない!!」
 「ッ――!?」

 突如、地表は震動し、空を揺らした。深闇色の砂粒たちは意識もなく宙に集う。何十、何百もの――鉄の剣が浮遊し、空を裂いて標的に向かった。

 「人間に生を受けたのは、あなたも同じでしょう」
 「……ッ!」
 「メルギース王国二代目王妃、エルトリア王妃の第一子にして――」

 砂を掻き、ぐっと後ろへ刃を退いた。
 黄金の刀身が、さらなる煌きを放った――その瞬間。


 「――――英雄ポプラ・エポールの、」


 史上最美を継ぐ詠声が、そこで途切れた。


 「聞き分けのならんゴミ妖精むしが……ッ」
 「……ぅ、が……ッ!」
 「永劫歌えぬようにしてやると忠告したはずだ」

 妖精の細い喉元を、赤い液体がつうと撫でる。黒い雨は横殴りに降り乱れ、そのうちの一つ。中央からは僅かに反れたが、破れた皮膚は急速に熱を帯びた。

 「……ッ! っげほ!」
 「僕を前に驕るな。心を介し喋る以外に脳のない、最弱の器め」

 地面に突き刺さった無数の刃が起き上がる。と、同時に空中では水分が結晶化し始めた。次いで大地の一部が陥没した。人でも獣でもない、地上に存在するはずのなかった怪物となって地を這う。

 「【心情】は、無力じゃない」
 「まだ口が動くか。図太い精神だな、やつに似て」
 「――あなたは!! 【心情】の本当の“意味”を知らない!!」
 
 その途端――大剣は、どろりと融けだした。見る見るうちに形状を失っていく。崩れていく。剣だったものが水のように形なく宙を泳ぐや否や。
 
 雷光が、彼女の身を強く照らした。

 「――――雷撃ィ!!」

 切っ先のない雷撃が――矛となって振り下ろされた。巨塊たる雷電が辺り一帯を包み込む。鉄の剣はその熱に魘され、氷は散り、赤子のような元魔が産声をあげながら、絶命する。

 「地上にあるものすべて、僕のものだ! ――まだまだ宴は終われないぞ!!」

 眼前に迫る暗黒。溶かしきれずに雷の層を切り抜けたその輪郭は鋭く、視界を突く。――若緑の瞳が、オレンジ色に焼けたそのとき。

 ロクは、――――業火に身を焦がす。


 「炎撃ィ――ッ!!」


 ――炎熱が、砂を焼き払う。雷とは異なり鮮やかな赤の渦が鉄の矛先を呑みこんだ。


 「!? えっ、お、おい! あれって……っ――俺の、『炎皇』の技じゃねーかっ!?」
 「……!」

 晴れた視界へと駆けだした。ゴッドはなにもない場所から鉄を生成すると、正面から向かってくるロクを嘲笑した。

 「本当に、図太いな」

 還った途端に大地はふたたび隆起する。大蛇となった土人形がロクの視界を阻む。
 低姿勢。速度を上昇させていく。彼女の身に纏いつく炎熱は――突如、緋の色を損なった。
 炎だった面影を失い、だんだんと黄金を取り戻していく。すると。

 それは――――神々しい弦に矢を添えて、ロクの手元に現れた。

 「……っ!?」
 「第七次元発動――――、真閃!!」

 (あれは俺の……っ――『光節』の次元技、だと……!?)

 光り輝く一本の矢が、風を捌く。まるで雲を突くように元魔の身を突き破ると、――その先。
 悠と立ち尽くしていた破壊神の腹部に命中した。

 「……ぐ、ぁ……ッ!」
 「……――人よりも少し他人ひとの心を感じ取れる。人よりも少し他人の心に寄り添える。人よりも少し、他人の心に温かい手で触れられる」

 神族【FERRY】の能力――――【心情】には、心を介し、会話する以外にも力がある。
 一つ唄えば、瀕死の者の心音を保ち。一つ詠えば、人に元力を分け与える。
 どれもが人を救う力であり、支える力だ。それが、心優しい歌姫の役目なのだから。

 「……そ、れが……どうし……ッ!」
 「【心情】は敵の身を斬り裂く力じゃないけれど――人間の力を支えに、剣を取ることはできる!」


 ――しかし、少女に託されたのは、人を支える役目ではない。
 人に交じり、人を理解し、人の前に立ち、――――導く者となるように。


 肢体は跳び上がっていた。光の弦はすでに溶け出している。瞬く間に輪郭を失うと、すぐに、金色の水は細長いなにかへと姿を変えていく。


 「――――【心情】は、“心を繋げる力”!!」


 それが、金ではなくなり――銀を装うと、その穂先は神を眼下に据えた。


 「すべての次元を繋げ神を討つ――――――地上最強の“次元師”だ!!」


 一陣――風が靡いて、天を仰ぎ見たときには遅かった。必至の一撃は、狂いなく地上へ向かう。
 その撃墜を、衝撃を、目撃するのがこれで初となる金髪の少女は、胸元の震えを押さえつける。自分が握るそれとは、まるで別物のように感じてしまった。
 
 

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.44 )
日時: 2017/11/06 14:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: s26dq553)

 第339次元 騎士在りて王なり

 エルフヴィアの荒れ果てた大地に、突如、大きな震動が齎された。それがたった一本の細い槍によって災いしたと、この瞬間にはだれも信じることができなかった。
 銀槍の石突は、大地からまっすぐ天を仰いでいる。親友のそれを両の手で握るロクアンズは、地上に降り立っていた。

 「――……百槍……」
 「どう、なってんだ……!? ロクのやつ、さっきは炎皇も使ってたぜ!?」

 ――大剣の矛先は鉄の刃を弾き、轟雷がその塊と氷の結晶そして土の大蛇を撃ち壊し、絶えず襲い掛かってくる鉄の塊を焼いたのは超高熱を誇る獄炎であり、立ちはだかる大蛇の身を、光の矢が難なく貫いた。

 黄金色に光瞬くと、“それ”は姿を変え、術を変える。
 少女が胸に願うと、“それら”は彼女の矛となり、盾となるのだ。

 「“元王”は、百あるすべての次元の力を開放し、新しい武器になるんじゃなくて……――百あるすべての次元の力を開放し、次元せかいを繋げる。そういう次元の力なんだ」
 「それじゃあよレト! いまのロクには、――俺たちの次元の力ぜんぶ使えるってことか!?」
 「……そういうことになるな」

 閑静な大地に還る。暇なく放たれていた創造の使者たちは、倒れ伏す主を見つめていた。
 黒髪が大きく靡くと、その姿がロクの視界から外れる。顔を上げれば、彼のコートの右側が強くはためいていた。
 突き刺したそれから穂先を抜くと、縦に長い肉塊は散ることなく赤い海に沈んでいった。

 「……ッ」
 「強いでしょ、この槍。百槍っていうんだけど、親友のものなんだ」
 「……」
 「炎皇も、光節も百槍も。あたしの大好きな仲間たちの武器で、力なんだ。千年前、あなたたちに抗おうとした、英雄のかたち
 「黙れ」
 「ちゃんと繋がってるんだ。今も昔も。これは、そういう魂をかたちにするための力!」

 神に抗うためにと、マザーは人間に『次元の力』というものを与えた。それは百の扉であり、マザーの創った次元の扉を開かせるために、“元力”と呼ばれる鍵をも渡した。
 そしてその鍵は、二つ三つと同時に開き、扉の向こうにある力を繋げることができる。
 人間の心が繋がれば繋がるほど、マザーの創った広い世界を見ることができるのだ。

 
 そして、百あるすべての扉を繋げたそのとき。
 唯一絶対の創造神である【MOTHER】の力そのもので、神を討つちからを手に入れる。
 神の子が堕ちようと尚愛し、人間を守りたいマザーが人間に与えた使命と、背負った罪の器だった。


 「人間の心が、百人の心が繋がるということは、ほぼ不可能に近い。生まれた国も育った街も環境も、覚えた言葉もバラバラな次元師たちの心を一つにしなければならなかった。……――そのために、心の神様が必要だった」


 百人の人間の心を重ねるのではなく――【心情】によって前を向かせ、【心情】によってお互いの心を近づかせ、【心情】によって、その心の隙間を埋める。

 それが【心情】を司る、妖精の歌声に秘めた――――“母の祈り”。


 「……勝手な思考だ。やつもあの女も。母だ愛だと抜かしながら、結局は犯した罪を僕らに償わせるという話だろう。涙が出るね。くだらなすぎる」
 「人と神とが手を取り合えたらいいって、その願いがなんでわからないの?」
 「自己満足のために、僕らを利用するのか? ――反吐が出る! 手を取り合うのに、どうしてその手に武器を握らせる? 神を討つ力だと? 殺し合いが、やつの愛情表現なのか?」
 「あなたが初めに武器を取った! マザーは言ったよ。暴走した我が子を止めてくれって。殺してなんて言ってない!」
 「いっそ殺せばよかったと言ったはずだ! 愛など芽生える前にな!!」
 「――それが無理だから言ってるんだよ! 愛がどうのじゃない! あたしとあなたは……人間から生まれた。だからマザーの創る人格設定になってないんだ! シエラ・エポールという、この世にたった一人の人間だから!」
 「ちがう……ッ人間じゃない! 僕も君も!!」
 「あなたを殺してしまえば、“あなた”という人格は二度と生まれてこない。完全なマザーの子ではないから! そうしたらなんの意味もない!!」
 「そうだな! きっと清く正しい心を持った神が生まれるだろう! それのなにが気に障る!?」
 「そうしたら――――あなたの産まれた、意味がない」

 この世に命を受けた、破壊神のもう一つの名は――シエラ・エポール。千年前にその名を授かった彼の身分は、思慮せずとも容易に想像できた。

 「――――メルギース国の王子として産まれた、あなたの意味が」
 「黙れ!! ……産まれた意味などなかった。初めから! 棄てられ、恐れられ、拒まれ続けた! だから壊すしかなかった! それが僕にある唯一の力だった!!」

 大人しかった大地に突如、亀裂が走った。激しく枝分かれする地面の上で、人間たちは体勢を崩し、悲鳴を上げる。
 土を呑みこみ、渦巻き、空気中にあるすべての要素を、大地に蔓延るすべての要素を――吸収し、それらは何度でも胎動する。
 幾十幾百にも、ゴッドという王を守るように大地の兵士たちが軍を成した。その手に鉄の剣を握り、身体の至る箇所から氷の刃が剥き出しになっている。

 「そうやって、言葉が通じないのだから――拳で語り合うしかないでしょうが!!」

 創造を前にして、人間に与えた力は高揚する。黄金の大剣は宙に融けだし、浮かぶ。
 それは風に交じると――――大気の流れを、捻じ曲げた。

 「風撃ィ――ッ!!」

 先陣を切っていた兵士たちが台風に呑まれる。宙に舞い、跳び上がり、ぐしゃりと地面に身体を叩きつける。要素たちが分解されようとしたそのとき、破壊神の【創造】が、それを許さなかった。
 息つく間もなく、兵士たちは命を吹き返す。

 「手を取り合う気がないのは、君ら人間側の方だろう!」
 「あなたが拳を振り上げるから! それを止めるために、抗うために力を振るうの!」

 暴走する台風の傍らで、ロクの掌が発光する。その手に握られた――銀の鎖が、大空を覆った。
 11歳だった自分と義兄の面倒を同時に見てくれていた。何度も見上げた、蛇梅隊戦闘部班副班長の広い背中を思い出す。
 鎖は兵士たちの配置の隙間を縫い、一繋ぎにしてしまうと――捕縛された者たちへ、一斉に断罪を下す。

 「初めは僕じゃないと言っている! 人間だ!」
 「人間を守るために生まれてきたんでしょう!」

 移らう色彩が、銀を経て金を介し、そうして独特な木目へと辿り着く。しっかりした枝の先に飴を模した水晶を飾るそれが、桃色の髪をした、一国の王女とは思えないあどけなさを物語る。
 念力によって兵士たちの視線が持ち上がる。もっとも目など持たないガラクタたちだが、目のような土の窪みがロクを見下ろしていた。

 ロクはすでに、その手元に王女を支えるべく二本の蒼い銃を携えて、――引き金を引いていた。

 「それが勝手な思考だとも言ったはずだ! なぜやつの意を継がねばならない!!」

 弾丸が空を突き抜ける。一発も狂うことなく、弾の放たれた数だけ土人形が地上を目指し降ってくる。

 「継ぐんじゃない! なんで理解しようと努力もしないで、拒むばっかりなの! ――それじゃあまるで、駄々をこねてるだけの小さな子どもだ!!」

 土の塊が降る景気に、ロクは駆けた。両の手は光り輝き、兵の群れる中へ飛びこむと。
 時刻は正午ではないが、無数の剣を翳すとここは処刑場となる。幾千本の刃が、兵士たちを通しその創造主へと罪を問うように――刺殺刑に処せと命を遂行する。

 「――子ども、だと」

 大水は主の意図によって氾濫する。この地に眠る嘗ての国民が亡き命のまま嘆き、強化された肉体が一騎当千を叶える。配置した火薬の塊が爆裂音を招き、兵士たちの血肉が地に伏した。

 あるときは鋭い刃先で身を捌き、またあるときは自然物が厄災を呼び起こし、あるときは命ある生物たちが主を変えようとも忠誠心を損なわず。――次元の力は戦場に溢れ返る。一つも欠けることなく、妖精は歌い続ける。

 「はっきり言わねば、わからないかフェリー」

 嘗て国の王となるはずだった彼は、失った右腕の代わりに左の拳を震わせた。


 「僕は、“母”と呼ばれる生き物が――――浮世で最も嫌いだッ!!」


 舞い踊っていた歌姫の足元が、疼きだす。剣を振り上げたそのとき、ロクは顎に鈍い衝撃を受け、細い四肢が宙に投げ出された。大地から柱が伸びていた。
 平らな地面を転がると、頬の内側が鉄の味で満たされる。左の肩から脇腹にかけて斬り裂かれた大きな傷跡は、まだ、癒えていない。患部からも血が滴り落ちる。


 「母などいない――――千年前からずっと! 家族など、いないんだ!!」


 妖精の、赤い赤い、人間によく似た液体が。色を散らすと凝固した。
 ――美しいそれは檻となって、妖精を、深紅の世界に閉じ込める。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.45 )
日時: 2017/11/08 22:28
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: ezxnwr3m)

 
 第340次元 右に誓いを、左に想いを

 荒廃した地に、鮮やかな深紅の宝石が咲いた。若い芽を思わせる髪と瞳に、透いた白い肌が真っ赤に塗り潰されていた。呼吸の有無も、定かでない。
 それが妖精の生血と水とを要素に形成された檻だと、驚愕するより先に賢明な脳が理解してしまう。義兄――レトヴェールは、血相を変えた。

 「……ッろ、――ロク! ロクッ!!」
 「! レト、貴様その傷では……っ!」
 「うるせえ、離せ!! 義妹いもうとが大変なときに、悠長にしてられる義兄あにがどこにいんだよ!!」
 「……!」
 「くそッ!」

 潰れた両脚が膝を伸ばす。と、キールアはその痙攣を見過ごさなかった。彼女の胸中はとても穏やかでなく、慌ててレトの服の袖を掴むが、無意識にものけられる。
 切れそうな神経に、僅かに繋がった手綱に、脚を踏み出すたび負荷がかかる。

 「レト!」

 ゴッドは、向かってくるレトの足取りに鼻を鳴らした。

 「恥晒しの義兄妹め」
 「……」
 「このままここで朽ちるのもいいが……そうだな。人間を滅ぼしたあとで檻を破壊し、絶望を視せるのもまた一興だ」
 「……」
 「美しい兄妹愛だな」
 ≪あなたにもいたのにね≫

 凛と、絶世の歌声は神の鼓膜を突いた。ゴッドの表情が落ちる。目の前の妖精は、宝石は、死んだも同然の作品だったのに。
 赤い墓石とするはずのものだったそれに、亀裂が走った。

 ≪ポプラという名の弟が――――家族が、いたのに≫

 「ッ……な、……ん――!?」

 ≪いなかったんじゃない≫

 雛鳥が殻を破るように。使命をその胸に、産まれ落ちるために。
 妖精は、羽はないけれど――、喉を鳴らした。

 「――――見ていなかったんだ!!」

 澄んだ若緑の瞳が、景色を手に入れる。自身の血で創られた檻を彼女は自ら破壊した。
 砕け散る赤い欠片を浴びながらロクは、ゴッドの縮んだ瞳孔に焦点を置いていた。

 「……っ――ちがう。いなかったんだ! 神に家族など」
 「あなたは目を背きすぎる。父も母も弟もいたのに」
 「家族と認められなかったんだ!」
 「認めてほしいのならそう言えばよかった!」
 「――ッ黙れ!! 黙れ黙れだまれ君になにが、なにがわかる!!」
 「!」
 「愛された君に――――僕のなにがわかる!!!!」

 氷結した水分が、剣となって空を薙いだ。至近距離にいたロクを正面から斬りつける。
 熱くなった患部に冷気が挿すと、ロクは後方に跳んだ。咄嗟に躱し、距離をとった彼女の手元に大剣が帰ってくるのと、鉄の刃が襲い掛かってくるのはほぼ同時刻の出来事だった。

 「ぐ……ッ!」
 「そうだ! 君と僕は同じさ! 人間の子宮からこの世に産まれ落ちた。生を受けた。母親も父親も兄弟もいた。だが!!」
 「――ッぐぁ!」

 氷の剣を斬り上げ、ロクはよろめいた。残党兵が名を挙げる。鉄の剣を携えて、大地から生まれた兵士たちはその切っ先を彼女に向けた。

 「産まれた直後のことだった! ――国を混乱に陥れた、メルギースとドルギースという双子の王女たちと同じ印が僕の身体にあることを知り! 棄てたんだ!」
 「……ッう!」
 「産まれ落ちて一度も、愛されたことのない僕と――君とは同じじゃない!!」

 剣を振り上げる残党たちを、風で薙ぎ倒していく。致命傷には至らず、兵士たちは這うように起き上がってくる。元王は姿を変え、轟雷となって啼き乱れる。

 「君は母に愛されただろう! ――十年の命を賭して君を産んだ!!」
 「――!」
 「この僕が知らないとでも思ったか? 父親は君の記憶を消し、神である自覚をなくさせた! 兄は君を神族だと知って尚、その事実を8年もの間周囲に伏せてきた! 人間として出会った者たち皆を愛し、愛されるように家族に守られてきた君と僕は、――ッちがうんだよ!!」

 ロクは腹部に鈍い衝撃を覚えた。内臓に食い込んだそれがゴッドの脚だと気づくのに数秒を要した。勢いよく転げていく。絞り切って排出された血の塊に、心臓が煩く脈を奏でる。
 鋭い金属音が、砂地に突き刺さる。ロクの視界は黒い刀身によって分割された。

 「人間を愛すように、愛されるように、用意された道を歩んできた君とはちがう」
 「……ちがう」
 「破壊を司る神が、人間に愛されると思うか?」
 「心情を司るからって、初めから愛されてたわけじゃない」
 「そうなるように歩まされてきただろう!」
 「ちがう!! レトは、義兄あには最初あたしを妹だと認めなかった! がんばって近づこうとした! 仲良くなりたいって思ったあの心は、【心情】じゃない!!」
 「黙れ!!」
 「あなたもあたしも、この身も心も人間と同じなんだよ! あたしたちの心は創造つくりものじゃない! あなたに足りなかったのは、愛されてこなかったのは――」
 「ッ――黙れ!!」 
 
 引き抜いた矛先を、伏せるロクの首元へ再び振り下ろす――と、そのとき。
 鉄の剣は、なにか硬い物に衝突しゴッドの手元を離れた。

 「……は……?」
 「それ以上、他人ひとの義妹を傷つけるな」

 遠くの方で石が転がった。聞き慣れた声にはっとする。視界は反転しているが、そこにレトと思しき人物が、金の髪を揺らして立っているように見えた。

 「この死に損ないが……ッ」
 「たしかにロクは心優しくて、だれもがその温かさに影響された。救われた。でもそれが、フェリーの能力だったなんてすこしも思えないんだよ」
 「なぜそうだと言い切れる」
 「ロクが、すごく人間らしかったからだ」

 レトは小さく呟くように、そう説いた。「妹だとは認めない」と、鋭く叱咤したその声色は風に撫ぜられ、十年前のあの日を思い返す。

 「俺を愛そうと、親友を愛そうと、仲間を愛そうと、歩み寄ったあの心は泣きもしたし、怒りもしたし笑いもした。人と会話をして、悩んで、考えて打ち出してきた答えは必ずしも正解じゃなかったけど、――ロクはだれよりも人のために生きてきたんだ」
 「……」
 「お前に足りなかったのは、愛されてこなかったのは」
 「――――あなたが人を、愛さなかったから」

 産みの母は、神である印を認めると息子を恐れ、棄てた。遠ざけた。自我があった破壊神は母を説こうとするのではなく、母に、人間に恨みを抱くという選択肢を選んだ。


 「あなたは一度でも、人と話したことがあった? 人がなにを思いなにに悩んで、どうしたら喜んでどうしたら悲しむのかを――――あなた自身考えたことが、一度でもある?」


 人を愛さない者が、人に愛されるはずがないのだと。――人と神とで運命を分かつ義兄妹は、そう告げる。


 「ちがう」
 「……」
 「ちがう。人を愛す、だと? 人に、愛される? 人を管理し人の上に立ちそれが人に対する使命であり、生存理由であり、生きてきた。生まれてきた。あいとはなんだ。言葉を介す? ひつようないな。そうでなければ人と、肩を、並べる、などそれはもう、神ではない」
 「ゴッド」
 「黙れ」

 ひどく冷めた一声が命となる。崩れた兵士たちの残骸が、命を取り戻していく。
 心は要らない。従っていればいいのだという彼の思考に沿った、人形たちが起動する。
 人形たちは各々黒い剣を掲げ、黒い弓を構え、黒い槍を携え、そして。

 一点を目指し、集い――――身を寄せ合う。ぶつけ合う。徐々に質量が増すとそれは、怪物を、築いていく。

 「君たちを見てると、心が荒んでいく」
 「――! レト、離れてて!」
 「――――そんなもの、壊してしまえばいい」

 大地の使者だった物たちが――創造の化身となって再臨する。背丈は従来の元魔に沿っていて建物一つとはいえないまでも、体の節々から刃物を突き出している。腕のようななにかを、大地へ振り落とした。
 空を仰げば雹が牙を剥いている。創造主の目元は嗤っていなかった。彼は、忌み嫌う金の髪を目指し歩み寄る。

 (――――間に合え!!)

 ロクの身に纏いつく黄金の液体。宙で浮いていたそれが謀らずも、“双剣”を模すと。
 視界はゴッドへ噛みついたまま――レトは、ロクへと手を伸ばした。

 「片方寄こせ、ロク」
 「!? えっちょっ!」
 「いいから寄こせ! ――それはもともと、俺のもんだ!!」

 一秒でも惜しい。無駄にした時間の数だけ、きっと無事ではいられない。
 ――ロクは思考することを諦め、苦笑した。


 「本当――――無鉄砲になったね!」
 「――――お前に似たって言っただろ!」


 黄金の光源は、まるで季節の移り変わりであるかのように、ゆっくりと変色する。よく似た二つの形は、相棒のようにも師弟のようにも恋人のようにも、――兄妹のようにも象られている。
 レトは右手に、ロクは左手に。それぞれ剣を携えて。


 ――――空いた手の片方ずつから、心地のよい響きが生まれた。


 「やっぱりレトと肩を並べるのが、一番好き!」
 「……あほか」


 眼前に聳える神の使者を従えるのは、脅威の象徴。人間の宿敵。次元師の生まれた、原因。
 無我夢中で追い続けていた。運命の分かれ道で立ち止まった。互いに違う道を歩んだ。
 人だとしても神だとしても。
 ――義兄妹は再逢であう。辿り着いた先が、ここが、彼らと神との終着点。


 「――――俺もだ!!」

 
 矛先に光が集う。刀身は紅く、火がついたように紅く燃える。
 天を凌ぐ怪物へ。地を這う使者へ。息衝くすべての化身たちへ。
 人間の、脅威たる神へ――――捧げた矛先は、決して揺るがない。


 「――――……ありがとう、信じてくれて」


 ささやかな歌声が、掻き消えてしまうくらいに。
 千年の時を経て――――嘗て国だった太古の地に、凄絶な震天動地が巻き起こる。



 「「第十次元発動――――――双天・百八式!!!!」」



 猛然たる白い光が、漆黒の夜空を呑み尽くした。星々の輝きを凌ぎ、月光を掻き消し、大地を照らす。日の出を疑うほど、それはとても眩しく、重厚な雲に覆われた鈍色の空に光を差した。





 広い大地に、立ち尽くす。十年という長い時間に思いを馳せるより先に、並べた肩は一時も緊張をほぐせないでいる。夢か現か。地に立つ足が砂を踏んでいるのか浮いているのかも判断がつかない。朧気な意識を物語っていた。

 焦がれるほど望んだ距離にいるのに、手を取り合うことも、身を抱き合うこともしないかと思えば、互いの目線は同じものへ向けられていた。



 たとえ遥か遠くに離れていても。

 使命を違え言葉を交わせずとも。



 仰ぎ尽くした深い曇天をいつか晴らしてみせるのだと抗いながら。――――十年という、長い時間の上を、ときに駆けときに転びときに別れても、まっすぐ、歩んできたのだ。



 ――――――二人で。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.46 )
日時: 2018/01/15 12:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: yIE1Hsuy)

  
 第341次元 心音

 ――エルフヴィアは、千年前当時の街並みも、戦地としての平静な景観もその面影を失った。街だったものに建っていたのであろう建造物の柱は瓦礫の山と化し、広い大地は割れ、隆起した断層が不規則に浮き沈みしていた。
 散り散りになった雲が、薄暗い夜空に浮かんでいる。うっすらと白を交えつつあることから、もうすぐ夜明けであると容易に推測できた。

 静寂に還る。いつの間にか、次元の扉はすべて閉じられていた。

 「……」
 「……」
 「……気配、感じるか?」
 「……どうだろう」

 緊張は解けない。ロクアンズは、生返事をしつつゴッドの元居た場所を凝視していた。しかし目の前には地面の一部が大きく盛り上がっており、しかと確認ができずにいる。
 レトヴェールの耳元に、ノイズが走った。

 『レト! こちらセブンだ。いまどうなってる? すごい地震が起こっていたぞ。ゴッドは?』
 「一度に質問すんなよ……。まだちょっと確定できない。ロクといっしょに様子を」
















 ――――そのとき。



 「はッははハっハぁははハアハハははアッハハハハハハハハハハッ――――!!!!」



 これが――――大地に轟くこのわらい声が、いったいなにに対して沸き起こったものなのか。なにをわらっているのか、ないているのか、おこっているのか、なげいているのか。――意味して、いるのか。
 人間に理解できないのなら、理解されないのならと。おそらく彼はいま、哭いているのだ。

 『――レト! いまなにか声が聞こえなかったか? 神族か? あ、あと今しがたキャンプに、こう……――脚、のようなものが降ってきた! 細めだ。君らのじゃあないよな!?』
 「班長、人工元力って予備あるか」
 『じ、人工元力……? いや、すまない。もう底を尽いているんだ』
 「そうか。……――それじゃあ連絡のつく次元師全員の安否の確認と、できるだけ多くの次元師を一箇所に集めてくれ! ――至急だ!!」
 『レト……?』
 「早く!!」

 ――――地底から、いやなものが込みあげてくるような、感覚がした。

 「ハはは……空が青い。そうか。不便なものだなあ」

 声はまだ薄暗い空へ向けて放たれる。空にしか飛んでいかないのは、彼の半分になった胴体が仰向けに倒れているからだろう。
 もっとも、立ち上がる脚も、支える腕も、彼にはなかった。
 弾け飛んだ腕と脚が、大地に散らばり、その一つは休憩所のテントの上に、ぼとりと降ってきたらしい。その斬り口はものの見事に綺麗な平面となっている。

 「ああ、ご覧よフェリー。空が広い。美しいこの景色を見てほしいがために眼は残してくれたのか。なるほどよい見世物だ。優しいね。君は優しい。ほかとはちがう」
 「……ッ――やっぱりまだ、生きてやがったか」
 「君たちは称賛するに値する。礼と思って受け取ってくれ」

 礼とされる、震動が始まった。かと思えば――大地の隆起や陥没といった、創造の様子がなかった。ただ揺れている大地に、レトは遂に腰から崩れ落ちた。もう一度立つことは叶わないと、脚の震えと頻繁な脈動がそう告げている。
 ロクはふいに夜空を見上げる。夜明けを告げる白い朝が、星々を隠していく。
 その、星々が。明け空に隠れても、大気圏のずっと向こう側にあるその物体たちから。


 瞳を、離せなかった。


 「――――隕石だ」


 妖精は詠う。冗談の類には、とても聴こえなかった。
 捻じ曲げた唇から、嗤い声が溢れ返る。

 「さあ――――さあ、さあさあさアッ!! 最後の晩餐としよう! 狂宴も解散の時間だ!! ……世界の、終焉だ! あの星が、たちが惑星が、ぶつかり、合って落ちればっこのほし、憎いものみんな母も人間も人間も人間もッぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶッ終焉おわりなんだァ!!!! ハハハハハ!!!!」 

 讃美歌は絶えず、この青い惑星を憂う。熱に浮かれた号哭を耳に入れながら、かえってロクは冷静に表情を保っていた。心音が穏やかではないレトは、立ち尽くす彼女を目で仰ぐ。

 「……破壊の神が、自ら壊れてやんの」
 「……」
 「本当に隕石を降らすとしても、やつのことだ。時間はあまりないぞ」
 「そうだね。彼の場合物体に元力をかけることでその物体における【創造】を繰り返し、元力を運ぶ。それで大気圏を超えてそこからはわからないけど、空気中に含まれる元素一つでもあれば元力の伝導は成立する」
 「その元力で、惑星を【破壊】――」
 「そういうことになるね」

 いくら背を伸ばし空を仰ごうとも、実感は湧いてこなかった。隕石の落ちる速度も考慮すればレトの発言には遺憾が生じるが、ゴッドは空気抵抗の破壊も可能とする。起こりうるすべての化学的反応を考えるというのは、時間の浪費以外の何物でもなかった。レトは息を吐いた。

 「――ロク、どうする。正直俺はもう元力を消費できない。お前に元力が残っていれば、核を壊しにいってくれ。ないなら、ここで完全に落とすより……一度あいつから遠ざかって、元力が回復するのを待つしかない。もちろん、あいつを動けなくするのが大前提なんだが」
 「……」
 「――なにか、策があるのか? ロク」

 レトの問いかけに、ロクは応えなかった。

 「まだ時間あるよね」
 「……あ、ああ。つまりはあいつの元力の道筋が、宇宙にある惑星にまで届かないといけないんだろ。空気から空気へ伝導させるとして、もろもろ考えて最速でも……」
 「――、十分ちょっと。かな」
 「……バカみたいな数値だな。だが、十分後にどうにかできるレベルの問題じゃねえ。ここは、いま胴体と頭部しか残ってないやつの核を破壊しに行った方が賢明だな。元力残ってるか?」
 「……」
 「ロク?」

 レトの問いかけに、ロクは、応えなかった。

 ――飄としていた。レトの胸の内側に、なんとなくそれが湧き上がってくる。
 ロクの心拍が、あまりにも穏やかすぎるのではないかと。

 「……ロ、ク……?」
 「レト」

 名を呼ばれたレトは、それが初めてのことであるみたいに肩を震わせた。初めてレトを、レトヴェールという名を「レト」と称したのも彼女だった。
 あのときのように無邪気な笑顔のまま、ロクアンズが振り返る。

 「えーいっ!」
 「!?」

 ――つん、と額に触れた指先から冷気が伝う。と、反転。ころんと上体を傾かせたレトは、痛めた脚をなされるがまま地面にぶつけると、変な声をあげた。

 「い゛ッ!」
 「あはは! 変な声!」
 「ロ、クおっまえ……っ――ふざけんな!! いまこういうことしてる場合じゃ」 
 「笑わせてよ」

 声色は沈むことなく、レトの鼓膜に凛と届いた。よく通る声だ。茶目な性格をしているのに、やけに説得力のある、ロクの声だ。
 歌声でもなんでもない。それは、聞き慣れたロクアンズの笑い声だった。



 「最後なんだからさ」



 沈むことのない太陽があるのなら、きっと彼女のことを、そう称するのだろう。
 夜の間は皆眠りについてて、沈む陽を心配することはない。皆が起き上がる頃には、目を開けているそのうちは、太陽はずっと遥か頭上で輝いている。

 「……は……?」
 「初めて家に入ったときのこと覚えてる? 出会い頭にバタン! って家の扉閉められてさー。そして中に入れてもらえたと思ったら、まっっったく口利いてくれないの! あ、思い出し腹立ってきた」
 「……お、いロク。なに言って」
 「いまみたいな感じだったよね。『ふざけんな』って。『おまえなんか妹じゃない』って。そりゃそうだ! たった六歳の子どもにも、五歳の子どもにも、そんなことわかるわけないよね。兄だ妹だってさ」
 「ロク」
 「でもあたし、レトのことお兄ちゃんだってずっと思ってたよ! お兄ちゃんってものがわからなかったせいかもだけど……でも、わからないなりにがんばってたでしょ? いっぱいしゃべりたい! って思ってた。本当はすごく寂しがり屋で、すごく優しい、お義兄ちゃんとね」
 「――、っ」
 「レトが頭いいのを妬んで、……まああれは、すかしてたレトも悪いけど。暴力で解決しようとした子どもたちにレト、一歩も引かなかったよね。『みんなちがうんだから、あたり前を押しつけるな!』ってさ……。すごく、かっこよかった。そしたらあたしも飛び出してた。本音が言えた。あたしはレトと仲良くなりたかったんだって。……ううん。レトのこと、もっと理解したいんだって。――――たぶん、あのときに」
 「……」
 「あたしたち、兄妹になったんだよ」

 レイチェル村での出会い。義兄妹として出会った二人が辿ってきた道を、選んできた道を、――並んで歩んできた道を振り返る。
 母を亡くし、故郷を飛び出してからも、二人は片時も離れることがなかった。二人で選んできた一本道が、二つに分かつまでは。
 ロクは顎を引く。見下ろした、褪せた灰色の隊服のなんでもない箇所を摘まんだ。

 「こんなボロボロになるまで隊服着こんでさ……新調しなかったね、そういえば。ずっとこのまま。ずっとこのままだと思っていたら――、道が分かれて……初めて、離れ離れになった」
 「……。悪い、ロク。時間がないんだ。思い出話は」
 「ねえ」
 「……」
 「神族を倒す方法、覚えてるよね」

 風に、冷気が混じる。それがレトとロクの間に吹き抜けた。
 思い出話に花が咲き乱れる。と、その花びらが冷たい空気に晒されひらりと地面に、落ちるように。
 温かだった声音は、鋭く尖ったものになると、――――心の臓に突き立てられる。



 「神族全員の核を、破壊すること」



 ――――神族六体の命は繋がっている。
 一つでもこの世で息衝いていれば、ほか全員が、命を吹き返すことを可能とする。
 マザーの意志とは関係のないところで。



 レトヴェールは、自身の思考力の高さを初めて恨むこととなった。
 こんなにも迅速に理解できてしまう自分が、人間としてではなく。
 ――――兄として、許せなかった。



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