コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 ー旧版- 【完結】※2スレ目
日時: 2020/05/18 19:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

  
 ※※ご注意※※

 本スレは、ただいま執筆中の『最強次元師!!《第一幕》【完全版】』の【旧版】です。
 記念に残しているだけのスレッドになりますので、『最強次元師!!』をはじめてお読みになる方はぜひ、【完全版】のほうをお読みいただけたらなと思います!
 何卒、よろしくお願いいたします。


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 運命に抗う、義兄妹の戦記

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 完結致しました。
 読んでくださったすべての皆様へ、本当にありがとうございました!


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 本スレは【完全版】のネタバレを多く含みます。ご注意ください。
 本スレは【旧版】の2スレ目です。第001次元~第300次元までは旧スレのほうに掲載しています。上記のURLから飛べます。


 ■ご挨拶

 どうもこんにちは、瑚雲こぐもと申します。
 旧コメライ版から移動して参りました。
 長年書き続けております当作ではございますが、どうかお付き合い下さいませ。

 Twitterのアカウントはこちら⇒@shiroito04
 御用のある方はお気軽にどうぞ。イラストや宣伝などを掲載しています。


 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。


 ■目次

 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 
 第302次元 >>003 
 第303次元 >>004 
 第304次元 >>007 
 第305次元 >>008 
 第306次元 >>009 
 第307次元 >>010 
 第308次元 >>011 
 第309次元 >>012 
 第310次元 >>013 

 第311次元 >>014
 第312次元 >>015
 第313次元 >>016
 第314次元 >>017
 第315次元 >>018
 第316次元 >>019
 第317次元 >>020
 第318次元 >>021
 第319次元 >>022
 第320次元 >>023

 第321次元 >>024
 第322次元 >>027
 第323次元 >>028
 第324次元 >>029
 第325次元 >>030
 第326次元 >>031
 第327次元 >>032
 第328次元 >>033
 第329次元 >>034
 第330次元 >>035

 第331次元 >>036
 第332次元 >>037
 第333次元 >>038
 第334次元 >>039
 第335次元 >>040
 第336次元 >>041
 第337次元 >>042
 第338次元 >>043
 第339次元 >>044
 第340次元 >>045

 第341次元 >>046
 第342次元 >>047
 第343次元 >>048
 第344次元(最終) >>049

 epilogue >>050
 あとがき >>051


 ■お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始
 2017 11/13 完結

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.12 )
日時: 2017/07/18 23:46
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBO/Sofe)
参照: 最終章

 第309次元 開戦

 「ほらご覧、【FERRY】。紅い夕日が落ち、闇夜と混沌していく様は美しいだろう? 千年前も似たような景色だった。この国は変わらずに美しい」
 「……その美しい景色を産んだのは、あなたの【破壊】でなくて?」
 「はは、鋭いな――嗚呼、ほら、ご覧フェリー」
 「……」
 「千年前と同じ景色だ。――――しかし人間は、まったく美しくないな」

 神の司令塔は目を細める。金髪を一つに揺らした、人族代表を筆頭に続々と戦場へ足を踏み入れていく影。崩れて傾いた建物の上で、神様たちはまさしく人間たちを見下ろしていた。
 少年レトヴェールは、ある程度神族に近づいたところで歩みを止めた。

 「……」

 高くてよくは見えないが、たしかにロクアンズのものと思しき淡い緑の髪が風に靡いていた。ベージュ色のコートで身を包み、フードを深く被っているせいか隠れてしまって顔色までは伺えない。一方、神族たちの司令塔である【GOD】は黒く長い髪を揺らして、レトと視線を交わす。

 「ようこそ古の国エルフヴィアへ。辺境の土地までご足労いただき感謝するよ。気分はどうだい?」
 「悪くねえな。今日に備えてコンディションも万全だ。――いつでもかかってこいよ、神様」
 「君は清々しいほどに生意気だな――――焦るな。直に鳴る」


 同時だった。この国で唯一生きた、大きな時計塔が――――午後6時の、鐘を鳴らす。



 「さあ始めようか! 生きるか死ぬか、壊すか壊されるか――――――最期の狂宴を楽しもう!!」



 ――――12月24日、午後6時00分。第二次神人世界大戦、開戦。



 黄砂が巻き上げられる。渦巻く豪風に包まれた神たちは――刹那、姿を消した。
 同時に戦闘部班の班長セブンの掛け声が響く。前線に上がっていく次元師達は次々に立ち尽くすレトヴェールを追い越して、遠くに見える、怪物じみた陽炎に向かって走り去っていく。
 夕空は完全に閉じて、暗がりの曇天がどんより空を飾る。その下を激しい剣幕で駆けて行く次元師たちの中、たった一人だけ速度を落とし、レトの視界に留まった。

 「レトヴェール」

 蛇梅隊の隊員で、後方支援を申し出た三人のうち一人。科学部班の班長フィードラスは唯一立ち止まって、誰も見えなくなった中で二人佇む。ただじっと、暫く目を合わせていると、先に口元を緩ませたのは彼だった。

 「お前の見事な采配を期待している。頼んだぞ」

 頭に優しく掌を乗せてから、フィードラスの姿はだんだん小さくなっていった。遠ざかる怒号。大きなリュックを肩からどすっと下ろして、顔を上げた。再び静けさに包まれた彼は深く息を吸い込む。

 「……レト、始まったね」
 「ああ」
 「君は僕を超えてくれた。もう僕から君に教えられることは何一つない。だからこそ、この戦いに勝って――――また皆で、笑え合える日々に帰ろう」
 「……ああ。分かってる」
 「……君に、全てを託すよ。これが最後だ。――どうか、悔いのないように」

 精霊レイレスは泡のように姿を消してしまった。耳に装着した白い通信機も、身を覆うジャケット型の隊服も、新調したばかりで真新しく、し慣れない。一応機動上の問題がないか確認するため何度も試着したものだが、極稀に突然動かなくなって連絡不可になることもあった時計型の通信機と、長年使い込んで縒れ切ったフード付きのコートが妙に恋しくて敵わない。
 ただ、その首元に光る、鍵のペンダントだけが変わらず輝きを放っていた。

 『――こちら前線A部班!! 地区1-3に到着!!』
 『こちら後援A部班! 地区1-2に到着しました!』
 『こちら前線B部班――』

 目的地点にまで辿り着いた各部班の連絡が次々にレトの耳へ入ってくる。蛇梅隊の隊員である前線部班を先頭に、蛇梅隊以外の次元師が自然とその後ろに、そして後援部班が後に続いている。


 そして。


 『こちら“特攻部班”――――前方に元魔の姿を確認』


 “特別攻撃部班”――――エンとサボコロの二人組は、近づいてくる大きな輪郭を目にした。



 「お、おいエンあれ……!」
 「ああ……どうやら――――“普通”ではないようだ」

 相変わらずの巨体がぐらっと景色を揺らした。ただいつもと違うのは、その形状が――“獣”に似つかわしくないという点。
 頭上に伸びていた角はなく、牙も見当たらない。丸い瞳に差していた光は失われ、機械的に赤く蠢いている。焦げ茶のような荒んだ色をしていた肌も何を思ってか真っ白い。無駄に長い手足は平べったく、口を開けば牙は見えずとも青い液体が口角から零れている。だらしなく涎を垂らす姿だけは変わっていないらしかった。

 「す、っげ……これ、ホントに元魔か?」
 「臆するな。俺達はキールア一人に神族を任せて此処にいる。――弱音は許されないぞ」
 「ああ、わーってるよ! 何の為に俺らが――――先頭にいると思ってんだ!!」

 光る、心と全身が。次元師の持つもう一つの世界をこじ開ける。
 ――少年たちは紡ぐ。


 「「次元の扉――――発動!!」」


 『さあ、始めようか』――――そう言った神様の創り出した、魔物。
 この一年の間に変化を見せた形状、魔物というよりエイリアンに近くその巨体は相も変わらず。
 神の使者とも呼ばれる元魔を目の前に、この場所で、まるで神族からの挑戦状みたいに。現世に放たれた魔物は高々と吠え散らす。

 「最初から飛ばすぜ“ギガル”――――炎撃ィ!!」

 炎を司る次元の力“炎皇”は――――千年も前の名前を響かせて、炎は轟き渡った。空高くに位置する元魔の顔面に吹きかかる炎は元魔の態勢を崩す。しかし暫し足を躍らせた後、すぐにむくりと顔を起こした。赤く明るい瞳が再び夜空に映える。

 「くそ……! いつもより硬ーぞこいつ!!」
 「どいていろサボコロ!! ――――俺に、撃ち抜かれたくなければな!!」

 跳んだサボコロの、遥か下地面の上に立つエンは腰に力を入れた。真っ直ぐ軸もぶらさず――見捉える。

 「真閃――――!!」

 光を帯びた一閃の刃が――軌跡を描いて跳んだ。物凄い速さで夜空に放たれる。元魔は少し屈んで、真正面から矢を受け止めた。

 「「――っ!!?」」

 元魔の身体と矢先が接触する、瞬間。
 ――――英雄の放つ矢を、その大口から繰り出される怒号が掻き消した。

 「――は……ッ!?」
 「どうやら、一筋縄ではいかせてくれないらしい……――」

 今までの荒々しい叫びとは打って変わって、高くはち切れそうな金属音に耳を塞ぐ。サボコロは着地して、間もなく駆け出した。

 「これならどうだ! ――――炎弾!!」

 炎の弾が次々と、サボコロの体の周りに出現する。両腕を大きく振って、弾は真っ直ぐ元魔の腹部を捉えた。

 「よっしゃあ――!!」

 ――しかし。

 「! ――――前を見ろ、サボコロ!!」
 「――!?」

 炎の塊は確かに元魔の腹部に跳んで、衝突し――――“相殺”された。

 「な……っ――!」

 元魔が特別に何をしたわけでもなかった。ただ“普通に”殺された炎が、しゅぼっと消えていく。
 サボコロも手を抜いていない。寧ろ力は入れた方だ。それなのに。
 気味悪く見慣れない元魔の、白い身体はそれを受け流し、飄々と両腕を揺らして一歩、サボコロに近づいた。

 (まずい!! この態勢じゃ受け身が取れ――!!)

 平たく白い、掌がサボコロを覆う。

 「サボコロ――――!!」

 強い衝撃に包まれた。鞭を打ったような音が聞こえると、サボコロはまるで隕石のように、圧倒的な速さで大地に叩きつけられた。体と地面のぶつかり合う音。凄まじい勢いで土埃が立ち込める。

 (な、何だ今の強さは……!? ――――今までの比ではないぞ!!)

 まったく見慣れない外観。聞き覚えないのない叫び声。そしてその力強さを。
 目の当たりにして焦る英雄たちをその目に、神の筆頭は厭らしく口元を歪めた。


 「たかが元魔だと思っていると――――その命を軽々と落とすことになるよ、英雄ども」


 くすくすと。神様はまるで子供みたいに目を細めて、笑う。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.13 )
日時: 2015/09/21 09:44
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7ufWM2y7)

 第310次元 ぶち抜け

 「くそ……っ! サボコロ!!」

 エンは素早く走り出して、サボコロが落ちたとされる方角へ。ドーム状に丸く凹んだ地面の淵に辿り着くと、最深部にサボコロが横たわっていた。
 間もなく、全身に力を入れたサボコロがゆっくりと起き上がる。口に含んだ土をぺっと吐き出して、腕で顔を拭った。

 「サボコロ! 平気か!?」
 「……っ、くっそー……! 油断しちまったぜ……いでで」

 (あの巨体で、今の素早い攻撃……獣のような手から、平べったい形状に変わり更にその手足も長い……。今まで回避出来ていた距離にはもうあの掌が待ち構えているという事か。サボコロのような近距離型では難しいか……?)

 冷静に分析を開始するも、時間はない。遠くまで叩き飛ばされたとはいえ、もうすぐ傍に元魔の輪郭が見える。
 白い巨体は長い腕を大きく揺らして近づいてくる。何か良い手はないか、と。エンがその巨体を注意深く凝視した時。

 広い胸の真ん中に、小さな石を見つけた。目と同じ、真っ赤な石を。

 「……! あれは何だ……!?」
 「んぁ? 何か見っけたのか? エン」
 「ああ。胸部の中心に赤い石が見えるだろう? あれは一体……」
 「待てよ! あれ確か……さっき腕を思い切り振った時――――赤く光ってたぞ!!」
 「!? という事は、元魔の……“動力源”――!」
 「ああ、間違いねえ――――ありゃ“核”だぜ!!」

 胸部に埋め込まれた赤い石。その小ささから見て間違いない。二人は顔を見合わせ、頷き合う。

 「あの石を壊せば元魔も倒せるってこったな!」
 「然し気になるのは、先程貴様の炎を、あの白い体が難なく相殺した事……恐らく弾力性に富んでいて、形のない攻撃と中途半端な物理攻撃は全て促されてしまうのだろう」
 「はあ!? じゃあどうすれば――!」
 「!! ――――来るぞ!!」

 地面を叩く平たい手。分厚い紙を束ねたかのような掌が、同時に大地を揺るがした。離れるエン、跳んで着地するサボコロ。エンは静かに元魔を睨みつけると、口を開いた。

 「……――おいサボテン! 耳を貸せ!!」
 「はあ!? サボテン言うな遠いだろ無理だわ!!」
 「誰が物理的に距離を縮めろと言った!! ――作戦を思いついた、よく聞け!!」
 「! お、おう!」
 「貴様――――以前セルナから体術を教わっていたな!!」
 「!!」

 遠くへ飛ばす声がサボコロの耳に入る。背後から近寄ってくる元魔の動きを察知した彼は、彼を目がけて飛んでくる太い腕を躱す。
 大地は割れる。瓦礫が跳ぶ。襲い掛かる鉄槌の攻撃を、身軽な彼は器用に避けていく。

 「お、教わってた、けど……! それと何の関係があんだよ!」
 「さっきも言ったがそやつに生半可な魔法攻撃は効かん!! ただ炎で攻撃するだけでは相殺されてしまう……! だからこそ、“体術”と“炎”で――――そやつの“喉”を潰せ!!」
 「――!」
 「厄介な声さえ出させなくすればそれで良い――――出来るな、サボコロ!!」

 人族代表決定戦が終わってから、間もなく有次元の世界へ遠征し。帰ってきたサボコロ達は己の次元の力と何日も修行をしていた。
 その合間に、サボコロが何度かセルナの許を訪れていた事は、本人とギガル以外知らない事実。
 決定戦で一度セルナに修行に付き合ってもらっていた彼は、体術にこそ、魔法が最大限に生かせる道を見出した。セルナ本人も、まさかもう一度サボコロに修行をつける事になるとは夢にも思わなかっただろう。
 自分を頼ってくれている。お前は凄い奴だ、と言われて以来、二人の間には確実に深い絆が生まれていた。その絆によって生み出されたサボコロ独自の体術を今、エンは必要としている。

 「エンてめえ! 俺を誰だと思ってんだよ!!」
 「!」
 「いつまでも元力制御のできねーガキだと思ってんなよ――――良いぜやってやらあ!!」

 悔しい事に、サボコロは普通の次元師より多量の元力を持っている。それはつまり、知力に乏しい彼の身体能力が遥か他者と比べ物にならないほど優れているという事。
 他にもスタミナ、視力、聴力、嗅覚など、殺し屋として培ってきた能力値の高さにも驚かされてきた。
 元魔を仕留めるだけの狩人であったエンにそれはない。前線に立って戦う為の武器を持っていない。

 でも、弓には弓なりの――――エン・ターケルドの、戦い方がある。

 「うおおおお――!!」

 右手、左手、炎を宿した彼の腕は真っ赤に熱く燃え滾る。彼の性格を全く捉えた力を、彼が全力で発揮出来るように。
 エンの心臓は落ち着きを取り戻す。こうでなくてはいけない。
 遠くから、全てを見据えるエンが瞳を開く。

 「へへ……! “この技”はとっておきたかったけど……しゃあねえ!!」

 腕にだけあった炎が、全身を周り始める。伝わる熱。熱く跳ね上がる心臓。加速して、足元を超えて炎は――大地を這う。


 「第八次元発動――――――“炎装”!!!!」


 十大魔次元技“魔装”――――炎を身に纏った彼は、跳び上がった。


 「声さえ封じりゃ良いんだろ? ――――任せろ!!」

 元魔の、白く太い腕が――雨のようにサボコロへ降り注ぐ。

 「――!! サボコロ!!」

 然し、サボコロはまたも器用に――――身を何度も翻し翻し、舞う。

 「――……! あやつ……っ」

 大地は繰り返し揺れ動く。叩きつけられる掌。その、どれにも捕えられないサボコロを見て声を失った。
 サボコロにしては綺麗な受け身で、柔軟な躱しで、しなやかに。雑だった動きの一つ一つに、丁寧さが加わっているのが良く分かる。
 これもセルナのおかげなのか。体術を良く心得た者が教える、最大の武器だとしたら。
 負けていられない。エンは漸く弓を構えだす。

 「どうだァ! 覚悟しろよ――――こんの白元魔!!」

 足の裏側で蹴り上げた、平らな大地の――遥か上空。
 サボコロは既に、元魔の目の前にいた。


 「くっらえェ――――ッ!!」


 腕を引く、腰を落とす、前を向いて世界が――反転する。
 炎に包まれた、右脚の膝が――――元魔の顎を砕き上に、弾き飛ばした。


「“第二覚醒”――――――」


 この時を待っていた、狩人の目が光る。


 「――――――“光郷節”!!!!」


 聖なる弓矢は、形を変えて尚月下に――――輝く。


 「第八次元発動――――――“真軌閃”!!!!」


 槍のような鋭さ、金色の矢は――――放たれる。
 空から大地へ、ではない。広大な大地から――無限の空へ。

 地平線を裂くそれは正に――――――“流星”。

 「「――――!」」


 一閃の剣と化した、矢は赤い心臓を、穿つ。


 「や、った……――のか!!?」
 「――……」

 派手に砕かれた石の核が、ボロボロ大地へ零れて元魔は急速に膨れ上がった。
 そして柔らかい“皮”を突き破って“爆発”し――――伴って突風を巻き起こす。

 「うぐ――っ!?」

 (これは、“内部爆発”――か……!)

 涸れた砂を巻き上げた風に、二人は腕で顔を覆った。次に目を開いた時には、元魔は跡形もなくなっていた。

 「さ、最後に爆発するたーな……諦めの悪い奴だぜ!」
 「……――!」

 空中から漸く帰還したサボコロは、着地と同時に別の音を耳にした。
 ドサッ、と何かが地面に倒れ込む。気が付いた彼は、その先にエンを見つけた。

 「!? お、おいエン大丈夫か!?」
 「あ、ああ……少し、筋肉に疲れが生じたようだ……」
 「筋肉……? もしかして最後の一発か!?」
 「……何度も、撃てる技では、ない……らしい……っ」
 「ど、どうすんだよ!? あ! キールアんとこでも行って……!」
 「ダメだ。キールアに、余計な心配をかけさせたくない……それより」
 「?」
 「本部に……レトに、連絡を入れるぞ――――元魔の核は赤い石だと、な」
 「そ、そうだな! ――ホント、何の為に俺らがいるんだって、な!」

 特攻部班の二人は一つの目的を果たし、頷き合った。
 先頭に立って、誰よりも早く元魔と対峙したのは。手首に巻いた通信機を介してその報告を本部――レトヴェールの耳へ入れる為。
 白い元魔は次々と遠くからやってくる。その巨体と、夜空の為に核を発見出来ていない者も少なくない筈。

 己の身を犠牲してでも勝ち得た“情報”が――――戦場に於いて最も価値あるものである事。
 してその価値を損なわぬよう英雄の二人は、回線を繋げた。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.14 )
日時: 2015/10/21 18:23
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: TRpDG/gC)
参照: 日曜日には間に合わず

 第311次元 協力

 『蛇梅隊総員に連絡! 只今特攻部班により、謎の白い元魔の胸部に赤い石を模した“核”があると判明! 総員は直ちに核の破壊を――』

 薄紅色の、ミディアムヘアが揺れる。蛇梅隊前線A部班に配属されたミル・アシュランは手首より届く想い人、レトヴェールの声に動きを止めた。
 目の前には、白い巨体。旧型とは酷くかけ離れた、面影のない外見ではあっても、元魔に間違いはない。
 暗く沈んだ夜空のせいか胸部にまで視力が働かない。足元にいるせいだろうか。真っ直ぐ垂直に仰ぎ見ても見つからない。彼女は声を張り上げる。

 「セルナ!! あんたのその次元技で――元魔の胸部にまで跳んで!!」
 「――は、はい!」
 「足止めは任せろ――ミル・アシュラン」
 「はい!! ――私も、当然手伝います!!」

 黒髪を揺らし、チェシアは慣れた手つきで鞘に手を携える。同じ部班のミル、セルナも攻撃態勢へ。
 セルナは弾丸の如く――跳ね上がって空へ入った。上から襲い来る、元魔の腕で翳る。

 「バカね、させないわよ! ――――“籠刑”!!」

 現れた“檻”が――――元魔の白い腕を捕えた。
 セルナは檻を踏み台して、更に上へ。元魔が僅かに捕まった腕を、持ち上げた時。

 「動くな――――――“真斬”!!」

 たった、一太刀。
 夜空から大地へ真っ直ぐ伸びた閃光が――――建物ほどある元魔の太い腕を斬り落とした。
 同時にセルナが胸部へ辿り着く。然し。
 驚愕の表情で――――ミルの手元に届く、接続音。

 『み、ミルさん――――あ、ありません……!』
 「!? な、何!? 一体何がないって――!」
 『――――胸部に“核”が、ありません!!』

 元魔の左腕は、セルナの身体を弾き飛ばした。
 瞬間、彼女は――――“それ”を見た。

 「きゃああ――ッ!!?」
 「セルナ――――!!」

 地面に強く打たれ、転がる。――然し、セルナは。

 その目にした――――走り寄ってきたミルに、伝える。
 ミルはセルナを優しく抱きしめて、己の手首に――叫び散らす。


 「こちら前線A部班!! 胸部ではなく――――“左腕”に“核”を発見!!」


 僅かに震える、小さな片耳のヘッドホンを模した通信機。レトはその場で固まった。
 エンとサボコロの話では、胸部に核があるとの事だった。然し今のミルの声はしっかりと、“左腕に核がある”と言う。
 もしかして。レトが思いついた時には、次々と連絡が入ってきていた。

 『こちら前線C部班! ――“背中”に核を発見!!』
 「――!」
 『こちら後援B部班!! 胸部に核が見当たりません!!』

 核の居場所が、それぞれ違っている。
 レトは気を取り戻して、通信機に外側にある、“全機器への伝令ボタン”を押したまま離さず。

 「訂正!! 元魔の核が埋め込まれている箇所は各個体により異なる事が判明! 一部部班の報告により何れも身体の外部に見受けられるとの事! 核の発見を第一とし、速やかに討伐せよ! ――また、核の破壊時、同時に“内部爆発”を起こす事が特攻部班の報告により判明した為、核を破壊した際は出来るだけ個体から離れ被害を最小限に抑えるか、若しくは遠隔攻撃型の次元師が核の破壊を行う事!! 繰り返す! 元魔の核が――――」

 繰り返し伝える。一度も痞える事なくレトは伝達を終えた。長押ししていた細く小さな突起から指を離して、息を吐く。

 (……元魔の皮膚は白く、旧型より一回りも二回りも大きい、か。丸く太かった腕も厚みを増して平たくなっているらしいな。くそ……ゴッドの奴、今日この日の為に改良を重ねてきたっていう訳か……!)

 特攻部班から核の報告を受けた時、通信機の向こう側の掠れた声は間違いなくエンだった。その声色は初め、元魔の発見を知らせた時とは明らかに違っていた。元魔を倒す過程で、何かがあったに違いない。
 酷い傷を負わされたか、終始動き続けなければならない、過酷な攻撃の応酬であったのか。また、相当のリスクを背負い次元級の高い技を繰り出さねば、倒せない相手だったのか、と。
 呼吸は乱れ、掠れ、焦りを含んだ口調だった。冷静で気高いエンをここまで追い詰めるとは思っていなかった。

 腕時計の針はまだ、午後7時を少し過ぎた頃。
 ゆっくりな秒針が、やけに腹立たしく思えた。



 「避けろ――マリエッタ!」
 「! あらあら――躾のなっていない、子猫ちゃんだこと」

 翻るレースに、垣間見えるのは少女の身の丈を超えた刃。白くて大きな腕が彼女を襲う。平べったい掌で大地を叩くのと同時に跳んだ、ギラつく刃先は既に、元魔の目前。
 次元の力を具現化した――少女、マリエッタは大きく太刀を描く。

 「やったか……っ!?」
 「――まだ」

 マリエッタの一撃で、真っ直ぐ裂けた大きな体はそのまま傾いていく。長い青色を一つに束ねたラミアの声に、小さくも反応を示したのは蛇梅隊戦闘部班の四番隊副班長テルガ・コーティス。無機質な瞳と銀色の髪、何より無口な点が彼の特徴である。
 無気力にも見える彼は長い“棍棒”を一度、くるりと回して地面を蹴る。

 「頼む――マリエッタ!」

 慣れたようにマリエッタへ指示を飛ばすのは、次元の力の主ヴェイン・ハーミット。五番隊の副班長である彼自身は戦わない。小型で近距離型の標的には持ち前の体の柔軟さ、器用さを駆使して戦闘に臨む事もあるが、今回は全くその場合に該当しない。
 雲を突き抜ける巨体。大地を蠢くその白さには気味悪さを感じる。日頃自由奔放で緩い性格の彼が、眉間に皺を寄せたまま、祈るようにマリエッタを見つめているのは、他でもないこの緊迫した状況下に身を置かれているせいだろう。
 ヴェインから指示を受け取ったマリエッタは未だ上空。いつの間に跳んでいたのか、マリエッタの目にはテルガの姿が映った。大きな刃を横に、足場となるよう傾ける。テルガはその足で、刃から更に上空へ、弾け跳ぶ。
 元魔の腕、脚、その巨体の上を瞬間、駆け抜ける。一周ぐるりと回った時点で、息に限界が訪れたのか、マリエッタより少し後に大地へと戻ってくる。

 「――ラミア!」
 「ああ――――分かってる!」

 テルガの到着を待っていたラミアの腕に取り巻く――水の渦。

 「第七次元発動――――水柱!!」

 大地を割って現れる、水の柱は白い元魔の身体を呑み込んだ。捕えたまま、地面に手をつくラミアの許へテルガ、マリエッタ、そして荒く髪を掻き毟りながらヴェインが歩み寄る。

 「テルガ副班、確認しましたか?」
 「……問題ない」
 「レトヴェールの指示通り、遠隔型の次元師に元魔の核の破壊をやってもらいたいとこだけど……」
 「生憎、俺の水皇じゃ、決定打に欠ける。テルガ副班も近距離武器型、マリエッタも同じっすよね」
 「……あらあら。それでは、“後援B部班”のどなたかに頼むというのはいかがでしょう?」
 「後援部班に……?」
 「確か――――」

 ラミアが振り返ったところで、彼はすぐに後悔した。緩んだ力を逃さない元魔は、水の柱を解こうと、全身に力を入れ始め、そして。

 「! しま――っ!!」

 水の衣を弾き飛ばそうと、その瞬間。
 衣は――――長い“鎖”によって、再び元魔を締付け上げる。

 「――!」
 「危ないなあ……しっかりしてくれよ、ラミア!」
 「コールド副班――!」
 「遠くから見てもかなりの大きさだったものね……近くで見ると、凄いド迫力」
 「おっ、フィラ副班も来たんすね」
 「当然よヴェイン副班。あと……ティリも」
 「……」

 コールド副班に続いて現れた、フィラ副班はその肩に蛇梅を乗せて。蛇梅隊最年少次元師のティリナサは何一言発する事なく。前線部班と後援部班を合わせた6人は、一堂に会する。

 「皆聞いたと思うが、遠隔攻撃型で且つ元魔の硬い核を貫ける次元師が今は必要だ」
 「鎖が解かれるのも時間の問題ね……すぐに作戦を練らないと」
 「遠隔攻撃が出来て力の強い次元師ってーと……俺的には――」
 「そうだな、俺も――ティリとラミアに任せたい」
 「「!?」」
 「俺達は全員援助に回る――――頼めるか、ティリ、ラミア」

 こういう場合、若者に任せるのも気が引けるが、と。笑ったコールド副班の目はそれでも本気だった。
 同じ戦闘部班四番隊の隊員として、仲は悪くも今まで共に戦ってきたティリとラミア。
 お互い睨み合うように、ティリは見上げ、ラミアは見下ろし。
 二人は同時に、息を吐いて。


 「「――――了解」」


 冷静さを失わない、幼いながらに絶対的な逞しさを備えた瞳が並ぶ。
 英雄達だけではない――――同じ隊服をその身に纏う次元師達が、此処にいる。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.15 )
日時: 2016/01/16 19:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 9nM5qdCg)

 第312次元 協力体制

 「「はあ――っ!!」」

 胸の内に秘められた次元の力を呼び覚ますそれは元力と呼ばれる。少年少女の体中を駆け回る元力は最大限に活性化され、形を成す。

 「第七次元発動――霊縛!!」

 数多の死霊が集い始める。その中には千年も前、此処、同じ場所で命を落とした次元師もいただろうか。
 元魔の広い肩は雲に隠れている。辛うじて仰ぎ見得る胴体目掛けて、霊の大群が一斉に放たれた。

 「くっ……抑え、きれな――」
 「――第六次元、発動!!」

 少年の声に応えたのは、大地を割って地上に躍り出る――大きな水の塊だった。

 「水撃ィ――ッ!!」

 激しい水飛沫と共に、霊に取り巻かれていた元魔の足元が踊る。僅かに引いたも、その重たい一歩一歩が引き起こす地響きが小さな体によく響く。

 「おい、まさかへばってんじゃねえだろうな能面チビ」
 「……直に慣れる」
 「助けてやったのに礼も無しかよ。とことん可愛くねえな」
 「それはお互い様」
 「は? ったく食えねえ奴だな」
 「……来る」

 ずれた黒い帽子をぐっと直すティリ。肩に凭れかかった長い青髪を払うラミア。
 ゆっくりゆっくり輪郭を大きくしていく元魔は、特にダメージというほど傷ついていない様子だった。

 「――腕ならしは十分か?」
 「貴方こそ」
 「年上の心配なんかするんじゃねえよ、ガキのくせに」
 「それも、お互い様」
 「……それもそうだな」

 ラミアは振り返って、背後に位置する蛇梅隊の副班長等に目配せをする。お互いに頷き合う。
 さあ、ここからが本番だと――ティリとラミアの、瞳の色が変わった。

 「作戦はちゃんと頭に入ってるだろうな。忘れたじゃ話にならねえぞ」
 「心配はいらない」
 「それじゃ行くぞ――ティリ」
 「……」
 「……ああ分かった分かった。本当に面倒臭いな、お前。安心しろ、もう気安く呼ばねえよ」

 ティリが頷く間もなく、ラミアは先に駆けだした。
 先刻テルガ副班長が確認したのは、元魔の核の位置。巨大なその体の周りを一周した事で、元魔の首、つまり“項”に赤い核が埋め込まれているのを発見した。
 核の位置が個体によって異なると判明した今となっては、第一に核の発見をしてから早急に破壊した後、激しい内部爆発から上手く逃れなければならないという迅速な討伐の流れが要求されている。
 元魔一体の討伐にかけられる時間というのは、実はかなり少ない。神族側が一体いくらこの元魔を用意したのかは次元師側に正確には分かり兼ねない事だが、蛇梅隊上層部の仮定によると、およそ100に近い。恐らく次元師の数と合わせてきているだろうと読んでいる。
 科学部班班長であり、今大戦の人族代表レトヴェールの実父も兼ねるフィードラス・エポールは、第一に次元師の死亡を避けよとの命を下した。元魔の数を想定した上で、次元師を減らす事への危機を感じたと、他の次元師は見ている。
 蛇梅隊は元魔一体につき2人~6人の次元師を充ててきている。通常は3人。然し新しい元魔への対処法が上手く掴めていない今、序盤少ない数で元魔を討つのは難しいと、そう判断した前線B部班は。

 後援B部班の3人を巻き込んで、一気にカタをつける方向で打ち出した作戦を決行した。

 「そんじゃまあ行きますかあ――――お前達、準備は良いか?」

 前線部班、後援部班含め、戦闘部班隊員の、若者はたった2人。
 最前線に並ぶ2人を除く他4名。たった1人の合図が頷かせた、その首の主は。

 「ええ、いつでも構いませんよ」
 「……問題ない」
 「指示通りやりますよーっと――コールド・ペイン副班長」

 蛇と、棍棒と、人が応えた。
 日頃力を振るわない、鎖を筆頭に――――戦闘部班副班長等の、顔色が変わる。

 「一丁派手に暴れてやろうや――――俺達“大人”は、いつの時代も道標だからな!!」

 ヴェインとコールドは同時に駆けて出た。並んで走るマリエッタが大型の刃物を、コールドは鎖を片手に、ぐんぐん元魔との距離を縮めていく。

 「「第八次元発動――――ッ!!」」

 呼吸と、足が――完全に一致する。

 「渦々暴縛――!!」
 「強加累重――!!」

 白く平たい、一般の建物を遥かに凌駕する巨大な剛腕を眼前に捉え。銀の鎖は右手首からぐるぐる駆け上り、肩へ到着すると同時。そして常人の脚力を超越する人型の次元の力、マリエッタが小柄な体躯に似つかわしい大剣を力強く振り下ろして。

 次元師達の、人間の、何百倍もある元魔の体長の一部である両腕は。
 瞬間、鈍く激しい音を連れて――大地に大きな揺れを齎した。

 「第八次元発動――――八形ノ獲!!!!」

 フィラの肩は軽い。大地を割って世界に哮が戦慄き轟く。
 ――かの大蛇の名は、朱梅。其れは白を朱に染め上げるが如く名。

 「第八次元、発動」

 元魔の白い巨体は、初めに邪魔な大腕を斬り落とされ、今や大蛇に取り巻かれ、締め上げられ。
 刹那、とうの昔に。空いた元魔の胸元に辿り着いていた――テルガの棍棒は、長く、永く。
 辺り一面の大気を呑み込んで、ギュルンと掻き回す。

 「――――如意伸撃」

 元魔の広い肩に、会心の一撃。肩幅より長く伸びた細い棍棒が、元魔の巨体を後方へ傾かせた。
 同時。
 若干11歳にして蛇梅隊隊員最年少。漆黒の帽子に隠された灰色の長髪がぶわりと舞うと。
 細い腕が、その掌に収まる事を知らない元魔の大柄へ、真っ直ぐ伸びる。

 「第九次元発動――――霊金呪縛!!」

 空を割って大地へ倒れんとしていた、白い元魔は身体に朱き大蛇を巻きつけられ深く傾いたまま――――“静止”した。
 元魔の身体を覆うように霊の影が黒く蠢く。伸ばしたままのティリの腕に痺れが齎される。
 動くな。もう少し――――涼しげだったティリの表情に、歪みが生じると。


 「第九次元発動――――――水竜!!!!」


 砕かれた大地からそれは猛々しい産声を上げた――――竜を象った大水は疾風の如く速さで空を駆け昇る。
 角度に狂いはない。元魔の項へ真っ直ぐ届くと――離れた二人は同時に息を吸って。

 「「いっけえェ――――ッ!!」」

 重なる幼い声が水を押し上げるように、赤い核に竜が喰らいつく。
 ――然し、竜の輪郭はぐらついた。ティリの腕の痛みと反比例する、呪縛が色を失っていく。

 「くッ、そ……あと、もう少しなのに――ッ!!」
 「……お願、い……ッ――――もって!!」


 少女の願いは遥か天空で輝いた。
 ――――再び大地から生まれた“氷の柱”が、竜を呑み込む。

 「「――――ッ!!?」」

 水の竜が凍り上げられると、硬く伸びた氷が元魔の喉を大きく貫いた。核は瞬く間に粉砕し――爆発が起こる。
 激しい煙幕に視界を覆われ、暫くしてラミアが目を開けると、空から現れたのは。

 「よっ! “水”と“氷”のコンビネーション――――なかなか悪くねえな!」

 冷たげでツンとした水色の髪。耳にピアスの、同じ年頃の顔つきをした少年が笑う。

 「お、お前は……っ」
 「お前ら、代表者決定トーナメントにいただろ! まさか俺の事知らないなんて言わせねえぞ?」
 「……シャラル・レッセル。“氷皇”を使う次元師」
 「おーそれそれ」
 「あれか。シード権で優勝候補だったにも関わらずうちのエポールチームに負けたデルトールチームの一員。あとキールアにラブコール送ってた」
 「おいお前喧嘩売ってんだろ」
 「何だって前線にいるんだ。一人じゃ最悪、死ぬぞ」
 「……まあ固い事言うなや。“デキる次元師”は、蛇梅隊隊員様だけじゃねえだろ?」

 シャラルは、他にもシェルやエール兄妹など嘗てのデルトールチームメンバーが前線に上がっていると言う。蛇梅隊が先陣を切って戦ってくれる事を見越して、シェル自らが提案したものでもある。
 戦える次元師は蛇梅隊の隊員だけではない。デルトールチームは勿論の事、決定トーナメントの参加者、レトヴェールやロクアンズが旅先・任務先で出会った次元師達も含めて皆、この広く荒れた大地に立っている。それだけが。
 ラミアとティリの、蛇梅隊の中でしか築いてこなかった仲間意識を、世界へ広げてくれているように感じさせた。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.16 )
日時: 2016/05/15 00:23
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: bqwa/wjs)

 第313次元 声と音

 「さて……っと。仕切ってくれてる“奴ら”は、一体何処だ?」

 視界をざっと見渡してみても、目に入る次元師は4、5人程度の数。どれも前線に上がっていこうという気配は見えない。大方、今まで国中に点在する次元師組織に元魔の討伐等を任せっきりでいた、名ばかりの次元師達だろう。
 身を震わせ、小さく固まっているところを見る青年が一人。遥か後方では、目を凝らせば後援部隊であろう男たちの塊を確認できる。彼は纏ったコートを翻して、駆けだした。



 「――……! 代理、確認はできました!?」
 「ええ。問題ありませんわ。奴の“左胸”……確かに、赤い核の存在を確認致しました」
 「左胸、ねぇ……ったくどんだけ手間かけさせんのよこのデカブツ! あーもう嫌になっちゃう!」
 「文句を吐いている暇がございまして? ……リルダさん」
 「あ、えっはい!」
 「貴方の次元の力……“爆落”で、奴の足元に引き続き罠をお仕掛けなさい。できるだけ大きく態勢を崩すのです。リルダさんの爆弾だけでは埒があきませんわ。ミラルさんは、それに助力願います」
 「はいはぁい」
 「……今まで黙っていましたが、貴方のその態度は今一度見直すべきでなくって? なかなか本部に顔は出せませんでしたが、私は総班代理の身。受け答えには以後、お気を付けを」
 「……分かってますよぅ、クルディア代理ぃ」
 「嫌味な言い方ですわね」

 左胸に核を埋め込ませた巨大元魔と対峙するは、蛇梅隊特別編成部隊の後援C部班。蛇梅隊で総班代理を務めるクルディア・イルバーナを班のリーダーに、戦闘部班六番隊の副班長ミラル・フェッツェルと五番隊班員のリルダ・エイテルで編成されているこの後援C部班は、戦場全体を上空から見た時に、神族や元魔の陣営より遠くに位置している。つまり人間側の領域で、力のない次元師達を守る役目を担っている。

 「一体の元魔にそう時間はかけられませんわ――――“仙扇”!!」

 クルディアの手元で広げられた“扇”は、彼女が一度手首を振るえば、さらに翼を広げ“円”になり、彼女を大空へ連れていく。
 悠々と空を駆ける彼女を見上げて、ミラルとリルダはお互いに顔を頷き合わせる。

 「い、いきます! 第六次元発動――爆連!!」

 次元の狭間から次々と姿を現す爆弾は、ポンポンポンと彼の頭上に躍り出ると、元魔の白い足元にゴトゴト落とされる。できるだけ多く、早く。幼いながらにリルダは、実に無数の爆弾で、元魔の足元を覆い尽した。

 「転ばせればイイのよねぇ? ――喰らいなさい!」

 息を吸う。ミラルは大きく口を開けて、空気を飲み込んでいく。膨れ上がったお腹と頬。彼女の次元の力――“声舞”が繰り出される少し前。
 地面を埋め尽くした爆弾が――リルダの命により次々に破裂していく。爆音に呑まれていく中、リルダは確かに、初めてその“華麗な力”を目の当たりにした。

 「第八次元発動――――狂震狂啼!!」

 ――青髪の双子の片割れ、リリアン・エールの鈴の次元技と良く似て非なる。鈴一つだけでは出し切れない、そして人類が持つ声帯の力を遥かに超える、“声”でなく“響き”。
 ミラルの喉を通る声が、一帯の空気全てに反響して――元魔の鼓膜、そして全身を震い上がらせる。

 「す、すごい……っ!」
 「あぁら? ビリビリきちゃったぁ? ごめんね、私達副班は普段次元の力使わないから……ちょーっと力入っちゃった」
 「――上出来ですわ」

 自分の身を軽々乗せて、空を飛んでいたはずの扇はとうに彼女の手によって畳まれていた。身の丈の何倍もあるそれをぐっと両手で掴んで、引く。

 「第九次元発動――――戯旋風!!」

 赤い扇が開かれる。凄まじい轟音で身動きの取れない元魔の身体に衝突したのは、台風だった。
 本来それは、ただ風を吹かせるだけの次元技。然し今目の前に広がっている光景は、天候を変える瞬間だった。
 風を寄越し、雲を薙ぎ払い――砂を巻き上げ景色が、濁ったまま一色に染まる。
 然し。

 (――……手応えが、ない……?)

 吹き荒れる嵐に包まれているクルディア。彼女は、その妖艶な目を、訝しげに細めた。
 例えこの戦争で初めて目にした新兵器だとしても、今まで戦場で新しいことに巡り合わない方が確率は少なかった。得体の知れない敵に臆する事もない。プロにとってはそれが、常であるから。
 一時の間ではあったが、クルディアは、はっとして我に返る。

 (……確か――“中途半端な物理攻撃は相殺される”……とか、何とか司令塔様が仰って……でも、今のは!)

 ――揺れる、大地。

 「!? な、何よこれぇッ!?」
 「う、うわああ!」

 砂が巻き上がって、思わずミラルとリルダは腕で顔を覆った。
 視界が、一層濃く陰る。何かに覆われているようだと――瞳を、開ける。

 「「――!?」」

 大きくて、白い何かが、頭上に――空を遮断して、広がっていた。

 「う、嘘……!? た、倒れたの!?」
 「でっでもこの態勢……っぶ、ブリッジしている、んじゃないですか……っ!?」
 「じゃ、じゃあ代理の……技を、避けたって……――いうの……っ?」

 知性は失われているものだと思っていた――偶然の産物、というのが一番正しい表現になる。クルディアの技、戯旋風を避けようと思ったのか、そのまま腹を反る形で元魔は倒れてしまった。
 腕と足は真っ直ぐ伸びて、地面についている。

 「! ――代理!!」

 元魔が、首を柔らかく曲げて、大口の内側を見せていた。方角は間違いなく、クルディアの正面。
 ――咆哮が来る。何やら砲撃のようなものを口から吐き出すのだとか。それは司令塔であるレトヴェールからの連絡で耳に届いている。情報があるのに。
 身体がぴくりとも動かないのは。
 元魔の口内の赤さが、目に焼き付いてしまったから。

 「代理ぃ――――ッ!!」

 次元技を使うか。避けるか。元魔の口から漏れ出す光の大きさが増す一方で、落ちるだけを待つクルディアは――漸く。
 ――広げた扇を、畳んで、大きく開いた。

 「――ミラル!! もう一度!!」
 「!!」
 「早く――!!」

 口の上で凝縮されたエネルギーが、ビリビリ響いて、成長を止めた。
 息を吸え。自分にある力は――それが全てなのだから。

 「第九次元発動――――轟命!!」

 ミラルの怒号が響く、元魔の頭に直接投げかけた“伝令”は――“止まれ”、だった。
 次元技“轟命”は、対象の筋肉組織及び脳に直接伝令を下す技であるが、それは部分を限定するだけであって、“狂震”の類のように、全身の動きを封じる能力はない。
 万が一狂震で下手に震わせてしまったら、砲撃を発動させかねない。発動を恐れたミラルは、叫びながら、喉をはち切るまでに、令を送り続ける。
 ――然しそれは、声が揺れ、小さくなると、効果を失うという、デメリットが存在する。

 「が、頑張って下さい……ミラルさんっ!」
 「……っ!!」

 喉が痛い。お腹が震えている。縮んでいく。
 だんだん大地に近づいていくクルディアは、冷静に、扇に身を任せて着実に距離を離していく。

 動き始める、元魔。クルディア目がけて、首がだんだん筋力を取り戻していく。
 角度を合わせられたら――口の上に集められたエネルギーを、一斉に放射される。人間一人を消し裂くには充分すぎる威力だと伺っている。だからこそ、今、ミラルの喉に全てを懸けらている。
 早く、早く。大地に辿り着くまで――もう少し、それは。

 一瞬、届かない。

 「……――っ、かは……!」
 「グオオオォォ――!!!!」

 高らかに響く――元魔の雄叫びが、早かった。
 落ちていくクルディアは、奥歯を噛み締める。ずっと先にあるエネルギー体が、動き出す、前。


 白い元魔の全身を、纏い、広がる――――“鈴”。


 「――ちょっと!! 諦めるの早くない!? ったくもうしょうがないんだからあ!」


 蒼く短い髪と、高い声が跳ねる。トレードマークは、鈴の髪飾り。
 小さな背丈の彼女は、同じく“音”を武器にする――――因縁の次元師。


 「第八次元発動――――“鈴鳴叫”!!!!」


 リリアン・エールの“叫び”は、元魔の一切の攻撃を断じて許さない。
 かつて、幼馴染の大切な、蛇の命を奪おうとした双子の女の子の事を、彼女は今でも覚えている。


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