コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 《第一幕》 ー旧版- 【完結】※2スレ目
日時: 2020/05/18 19:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YYcYgE9A)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=17253

  
 ※※ご注意※※

 本スレは、ただいま執筆中の『最強次元師!!《第一幕》【完全版】』の【旧版】です。
 記念に残しているだけのスレッドになりますので、『最強次元師!!』をはじめてお読みになる方はぜひ、【完全版】のほうをお読みいただけたらなと思います!
 何卒、よろしくお願いいたします。


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 運命に抗う、義兄妹の戦記

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 完結致しました。
 読んでくださったすべての皆様へ、本当にありがとうございました!


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 本スレは【完全版】のネタバレを多く含みます。ご注意ください。
 本スレは【旧版】の2スレ目です。第001次元~第300次元までは旧スレのほうに掲載しています。上記のURLから飛べます。


 ■ご挨拶

 どうもこんにちは、瑚雲こぐもと申します。
 旧コメライ版から移動して参りました。
 長年書き続けております当作ではございますが、どうかお付き合い下さいませ。

 Twitterのアカウントはこちら⇒@shiroito04
 御用のある方はお気軽にどうぞ。イラストや宣伝などを掲載しています。


 ※最近更新頻度ががっくり落ち気味なので、不定期更新になります。


 ■目次

 あらすじ >>001
 第301次元 >>002 
 第302次元 >>003 
 第303次元 >>004 
 第304次元 >>007 
 第305次元 >>008 
 第306次元 >>009 
 第307次元 >>010 
 第308次元 >>011 
 第309次元 >>012 
 第310次元 >>013 

 第311次元 >>014
 第312次元 >>015
 第313次元 >>016
 第314次元 >>017
 第315次元 >>018
 第316次元 >>019
 第317次元 >>020
 第318次元 >>021
 第319次元 >>022
 第320次元 >>023

 第321次元 >>024
 第322次元 >>027
 第323次元 >>028
 第324次元 >>029
 第325次元 >>030
 第326次元 >>031
 第327次元 >>032
 第328次元 >>033
 第329次元 >>034
 第330次元 >>035

 第331次元 >>036
 第332次元 >>037
 第333次元 >>038
 第334次元 >>039
 第335次元 >>040
 第336次元 >>041
 第337次元 >>042
 第338次元 >>043
 第339次元 >>044
 第340次元 >>045

 第341次元 >>046
 第342次元 >>047
 第343次元 >>048
 第344次元(最終) >>049

 epilogue >>050
 あとがき >>051


 ■お知らせ

 2015 03/18 新スレ始動開始
 2017 11/13 完結

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.22 )
日時: 2017/02/11 13:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: hAtlip/J)

 第319次元 再構成

 了解、頼む――と残して彼は、通信を切断する。長く伸ばした金色の髪が、冬空と紛れて冷えたのに絡まると、いよいよ夜も深まってくる頃。
 崩れかけた塔の屋上で、星と砂の間を滑る光はレトヴェールの視界を呑んでいる。

 (……現在の討伐総数、7体。特攻部班、前線A部班が2体の討伐に成功。1体の盗伐にかかった時間と2体目とでは討伐時間に差がある。2体目以降で慣れてくるのかもしれない。……そして、事前の情報による新元魔の総数は、――――20体)

 事前に組んだ基本的な戦闘形態としては、特攻部班2人が最前列が位置し、前線部班の後方に後援部班を配置。チーム3人で討伐に困難な場合、控えた後援部班に応戦を頼む形となっていた。最後列に位置する特防部班は、戦闘技能を持たない次元師たちの護衛、そして前線・後援部班への助力が主な仕事となる。
 そしてこの現状は、厳しいの一言に尽きるのだろう。
 午前0時が訪れるまでに2時間半を切ったが、元魔は残り13体。人族と神族の代表同士がぶつかり合う一騎打ちまでに元魔を全掃しておかなければ、追々不利となるのは人族側となる。それは明々白々だった。

 「……」

 蛇梅隊の次元師は、キールアと自分を除き総勢20名。
 レトヴェールは眉間に皺を寄せていたが、暫くするとそれは緩みをみせた。

 「――こちら司令部。蛇梅隊、全部班に告ぐ」

 彼が続けたことには、総員が、驚愕を禁じ得なかった。


 「ただいまより――――チームの“再構成”を行う。復唱はしない。よく聞いてくれ」


 討伐後、休息の間に、建造物の影に隠れて、他の次元師と遭遇した最中。
 蛇梅隊の次元師は誰もが、冷静に耳を傾ける。

 「特攻部班のサボコロとエンの2名は変更なし。最前線にいてくれ。――続いて“第一班”を、チェシア副隊長、クルディア総班代理の2名に変更。“第二班”はコールド副班長とフィラ副班長の2名。“第三班”にガネスト、ルイル、そして――――隊外の次元師だが、シェル・デルトールと3人でチームを組んでくれ」
 『――はい。了解致しました!』
 「現在負傷中のメッセル副班長が回復し次第、シェルは同じく隊外のシャラル・レッセルと2人で組んで、“第七班”に移行。それまでシャラルは俺の指示に従ってほしい」
 『おうよ! 言われた通り、蛇梅隊の奴らから通信機ってのを借りるぜッ!」
 『それは確かに妙案なのだな?』
 「ええ、副隊長。――ですが今は時間がないので、どうか従って下さい」

 第四班には、ラミア・ミコーテとティリナサ・ヴィヴィオの2名に加え、テルガ・コーティス副班長。
 第五班にヴェイン・ハーミットとリルダ・エイテルの2名。第六班がセルナ・マリーヌ、ミラル・フェッツェルを組ませた2名のチームとなった。

 それはどれも、馴染みの深い数字だった。蛇梅隊第三部班のガネストら、第四部班のラミアとティリ、第五部班だったリルダがお馴染みの副班長ヴェインと組んで第五班に、そして第六部班のセルナとその副班長ミラルも。皆の口元は、ああこれかと、自然と緩んでいることだろう。
 第七班がシェルとシャラルの組んだチームとなったことで、レトヴェールは畳みかけるように更なるチーム構成を告げる。

 「続いて“第八班”――ここからは、蛇梅隊も外部も関係ない。第八班には、ミル・アシュランと――、」
 『っ! ……れ、レト……っ、それって』
 「ミル、お前は特攻部班の後ろについてくれ。そしてどの班よりも多く、元魔を討伐してほしい。柔軟に動いてくれ。討伐隊全班の鍵を握るのは、お前だ。――頼めるな?」

 一人あたりの元力量は、平均値よりも下回る。
 しかし――総数にして“368人分”の元力を有するミル・アシュランほど、今戦争に向いた次元師は存在しない。
 無尽蔵ともとれる、元力保持者。
 人族代表であり、蛇梅隊の次元師総勢を束ねる司令官をも担う。そして自身が心惹かれる男に、頼まれては断る理由がない。

 『……了、解っ!』
 「よし――続いて“第九班”、リリエン・エールとリリアン・エールの2名。“第十班”は、セシル・マーレット、テシル・マーレットに加えてリラン・ジェミニーの3名で組む。“第十一班”はリフォル・アーミストとルルネ・ファーストの2名。――――そして最後に、“第十二班”、ムシェル・レーナイン、ファイの2名。以上だ。シャラルは、第九班以降のチームに通信機の受け渡しを頼む。編成については、双斬を通して交渉済みだ」
 『了解だ。任せとけ!』
 「行動班を増やしたため、通信機は各チームにつき一つ、二つになる。チームの中で連絡係を決めることと、通信機の所在がバラバラになるので、通信機の固有番号は今後使わないこと。応戦を頼む際や他チームの所在地を確認する場合でも、通信は全て全体連絡を用いること。――司令部からは以上! ……健闘を、祈る」

 耳元へ添える指。ピッ、という切断音が合図となって、レトは深く、長く息を吐いた。
 緊張の糸が解ける。唐突の指令で隊に混乱を招きかねないというのに。ふと我に返っても、不安が拭いきれずにいた。
 それでもレトは、これが正しくあると信じている。
 お互いのことをよく知るパートナー。聞き慣れた班番号。どのチームにも遠距離攻撃の可能な次元師を配置し、且つ交友関係の発展した者同士を組ませることで。
 次元師は驚くほどにその実力を発揮する。
 それは科学的に証明されている事項でもある以上に、互いへの信用を第一とする次元師たちの共闘で最も大事なものでもある。
 何より自分自身がそれを一番よく分かっているというのを、彼を取り巻く人間たちも皆、知っている。そのせいもあるのか、レトの指令に首を横に振る者は誰一人いなかった。

 唾だけを流し込んで、こうべを垂れるレトの鼓膜が、何かを受信した。
 ピー、ピー、と間隔正しい受信音に指を伸ばしかける。
 そのとき。



 『こちらキールア・シーホリー、――――神族【DESNY】と遭遇』



 彼の胸中に、休息は訪れないらしい。
 ――――細い喉元の告げる、平静な報告が、少年の心を搔き毟る。



 「長旅ご苦労様。メルギースからエルフヴィアって、ほぼ地球の半分移動するようなものでしょ? いやー、ボクだったらしんどくってやめちゃうよ」
 「……」
 「キミは、やめなかったんだね」
 「……」
 「もうっ、何か言ったら? もううずうずしてるんでしょ? 3、4時間待たされてさーあ」
 「――――レトとロクのお母さんを殺したのは、あなた?」
 「……」

 ――振り向くと端正な顔立ちに、美しい金の髪が身をくるりと覆う。いつも朗らかに笑みを零す彼女は、レトの母親であった。
 そして、ロクアンズ・エポールにとって義理の母でもある。キールア・シーホリーにとっては二人目のお母さんができた気分でいた。


 名は、エアリス・エポール。彼女の死に際、その枕元に立っていたのは、人でも元魔もなく――神族、デスニーと名乗る運命を司る神。
 あの日から、過ぎた月日は、指折ると5年にもなる。


 「罪もない人間を殺すはやめたら? そんなの、神様じゃないわ!」
 「――それは、言う相手を、間違ってるね」
 「何ですって?」
 「ボクは――――“剣闘族”、じゃあ、ないよ。キールアちゃん」
 「――!!」

 剽軽な彼の、最後の口ぶりが、キールアの眉を顰めさせた。
 火を焚きつけられた魂は、ゆっくり、脳に繋がれた腕を振り上げる。

 「次元の扉、発動――――百槍!!」

 奔る銀色が、槍を象った。夜闇に負けじと光を放つ銀槍と、握る指は細長く美しい女人のもの。
 鼻を鳴らすデスニーは、大地に立つ百槍をまじまじと見つめてから。

 「そうだね。無駄話はこれくらいにしよう――――、キミにも見せてあげる」

 (……――レトとロクが戦ったって言ってた、あの)



 「“鏡謳かがみうた”」



 ――――そう、詠う。奏づるは子どもみたく幼い。

 途端、デスニーの全身が明度を失っていく。泥と同化していく。足元から溶け出すと、今度は。
 荒野の底から、沸々と盛り上がる土が、次第に――形を成していった。

 「楽しいことをしようか」

 聞いていた話の通りに、造形は“自分”に寄せてあり。
 言うことを聞かぬ鏡は一人でに笑う。
 次いで一つ。

 「君は特別だから」

 背中に伝う音も、話の通りに、自分のものに類似している。

 ――鏡を用意しよう。
 目の前に一つ。後ろにもう一つ。さすれば人は、己の背をも見え得る。
 
 並んだそれらは、まさしくキールアだった。


 
 ――――片目は金色を損ない、槍を持たぬのは、頼りなく細い腕。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.23 )
日時: 2017/04/02 17:49
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aQkFNbc/)

 第320次元 チーム

 伸ばした両腕をくいと持ち上げる。靡く紅色。闘志にも似たその色は若干の桃色を挿して、女性らしく風に弄ばれている。
 彼女は、眼前に聳える――巨大な怪物の身体を、涼しい顔つきで見上げながら。


 「第、十一次元の扉――――発動」


 前人未踏の扉を、開く。


 「――――――荒繰灰天あらくれのすみざめ


 天より降り注ぐは、空の涙する小粒ではなくて。
 かの巨体を悠々と貫く――無尽の刃。

 ――――それは、“断罪”のかたち

 ただ太いだけの柱とも見える足首に、赤く輝く心の臓。
 己の身を突き貫く鎗の一つが、ひとりでに引き抜かれる。
 浮遊するそれは、元魔の足元へ、切っ先を向けた。

 「運が悪いな、お前は……――――第九次元、発動!」

 ハスキーな彼女の声色が、喉奥を叩く。
 細長い指先向くのは、鎗と同じ方角。


 「――――心操!!」


 曲げた関節を正すと、その動きにつられて鎗が飛ぶ。
 痩身な彼女の何十倍もある鉄の刃は、一筋、狂いを見せずに――――元魔の足元を、突き裂いた。

 と、同時に、元魔の身体が爆発を引き起こすが、その規模に巻き込まれることはなかった。
 手を焼かず。身を汚さず。余裕を保つ二つの心が、並んだ。

 「けっ。こんなもんかよ。あっけねえな」
 「あたしが次元技を放って、ロティさんの次元技“心操”でまたそれを操る……負ける気がしないですね。レトの采配のおかげですね」
 「あいつの考えってのがムシャクシャする」
 「あはは」
 「まあ、なんにしたって、アタシら姉妹にゃ勝てねえよ」
 「……」
 「おら、何ぼけっとしてんだ。行くぞ――ミル」
 「……はい!」

 心で繋がった姉妹の間に流れる、心地のいい温度。亡き妹を想う気持ちと、元魔を破壊するという志をともにする両者の足は、次の戦場へ赴く。



 四肢の細い少女は、その身を超える大剣を大きく振り上げた。
 元魔の足元で爆発音が相次ぐ最中、少女マリエッタは、黒煙へ身を投げた。

 「第八次元発動――――、強加!!」

 主、ヴェイン・ハーミットの掛け声にマリエッタの瞳は、緋を灯す。
 刹那、建造物並みの巨体を持つ元魔の身体を、一刀両断。腰の辺りで息衝いていた元魔の核が、割れる。
 パキン、と破片が哭くのを合図に引き起こる爆発は、ヴェインもマリエッタも、加えて年端もいかぬリルダ・エイテルをも巻き込まずに、ただ砂上で踊り失せた。

 「……っ」
 「……ふぅー。ま、順調なんじゃねぇか?」
 「あらあらヴェイン? あまり息を抜きすぎると、本当に命を落としますわよ?」
 「わーってますよ。……リルダ」
 「あっ、は、はいっ!」
 「お疲れさん。子どものクセして、よくやってくれるよ、ほんと」
 「……わっ」

 跳ね放題の緑髪をくしゃくしゃに撫で回す。背丈のうんと高いヴェインは少し屈みながら、幼いリルダにそう微笑みかける。

 (……お父さんがいたら、こんな感じ……なのかな……)

 祖父に育てられたリルダは、ふとそんなことを小さな胸に秘めながら、ヴェインの顔を見上げた。
 硬くて大きな手が、浮く。

 「さーて、あと何匹なのかねぇ」
 「他の皆様方も、大変腕が立ちますわ。私たちは、ただ出会う元魔を……たたっ斬るまで」
 「おっかねぇ言い方は控えろよ」
 「あらあら? 間違ってまして?」
 「イーエ」
 「……ふふっ」

 元魔だった砂が舞う中を駆けていく。大きな足跡を、小さな足跡が追う。第五班の2名と1体は、変わらぬ後ろ姿を引き摺って夕闇の下を往く。



 「おいおい、まだくたばんじゃねーぞ、リーダー!」
 「誰に向かって言ってる? お前こそぶっ倒れるなよ――、シャラル!」

 背中越しに皮肉を投げ合える余裕。信頼を築き合えたきっかけは、両者ともある男に因縁があるからだという。
 レトヴェール・エポールによって繋がったシェル・デルトールとシャラル・レッセルは、同時に踵を浮かせた。

 「「第九次元発動――――」」

 向ける矛先は、不気味な神獣へ。英雄の名こそ手に入れるのは叶わなかったが、彼らが今求めるのは誉れではなく――かの心臓たる、核の破壊。

 「絶閃一華――――!!」
 「氷竜――――!!」

 華によく似たそれは美しく舞う、鋭刃。竜の産声は豪快で、それでいて極めて冷ややかに響き渡った。
 ――戦士たちの叫びは、巨人の全身を砕いた。核は額にあった。
 神の生んだ塔は、月下に崩れていく。



 激しい雄叫びに、耳を塞ぐ仕草も似ている。彼女らは天高く聳え立つ元魔を仰いだ。
 短くきっちりカットされた白い髪は、彼女によってぶんぶんと揺らされる。

 「っっったく、うるっさいですねあの怪物……!」
 「言笑自若。落ち着け。確実に、目標の討伐を完遂させる」
 「わかってますってば……」
 「……準備は?」
 「――テシルの言葉を借りるなら、“闘志満満”、です!」

 セシル・マーレットは自身の身の丈を悠に超える大きな筆を抱えて、先に跳んだ。
 くるりと身を振り回すと、――黒いインクは輪郭と化した。

 「描空――!!」

 次元唱を欠いて尚、次元の力は主の声に忠実に従う。無数の剣を模した黒い輪郭たちは、空の上に並べられる。
 彼は、次いで発した。

 「――加色」

 左腕で支えたパレットに筆を差すと、穂先は空へ向けられた。並んだ剣の輪郭の中を、“塗る”ように鮮やかに放たれる、絵の具。
 彩られた剣は、おもちゃみたく簡易な色合いと見た目で、元魔へ矛先を向けた。
 元魔の腰を丸く囲う。セシルの筆は、暗夜へ翳される。

 「いっきなさあい――!!」

 筆を振り下ろすと、それが指示となって剣たちが動き出した。元魔の腰元へ、無数の刃が突き刺さる。
 が、元魔は一瞬怯むとすぐに、腕を振り上げた。

 「!」

 (中途半端、な物理攻撃はかえって反撃の隙を与えてしまう――レトヴェールからの情報は、これのことか!)

 地上で、迫る元魔の腕を眼前に動けずにいた双子へ――捧ぐ鉄槌。
 太い柱が大地を殴る。部屋の床を叩くように大地を陥没させた元魔は、ゆっくり、腕を持ち上げる。
 そこに、双子の姿はなかった。
 遥か高く高く。彼女たちは刹那の間に、元魔の肩甲骨が見える位置にまで到達していた。

 「あたしがいてよかったね、ほんと!」
 「! ――リランさん、ナイスです!」
 「危機一髪……感謝する」
 「……はあ~」

 兎耳をへこっと折ると、ため息。
 優れた跳躍力。長い耳、厚毛の手足、小さな尾。
 ――“兎”に化ける彼女、リラン・ジェミニーは“兎装”という次元技を既に発動させていた。
 第十班の3人は、元魔の項に、核を目にした。しかしそれは一瞬で、地上へ吸い込まれるように急降下する。

 「あんなところにあったのですね……!」
 「セシちゃんとテシちゃんで、元魔の動きを封じられる? そしたらあたしがぴょーんって跳んで、核を壊してくるよ!」
 「言われなくても、そのつもりです。爆発にはお気をつけて」
 「はいはーい! テシちゃん、ちょっと肩貸してね!」

 テシルが頷くと、2人を脇に抱えていたリランは腕を離す。そうして流れるように彼の肩を足場とすると、勢いよく跳びはねた。
 同時刻、セシルは既に筆を振り下ろしていた。

 「第八次元発動――――描空!!」
 「第八次元発動――――加色!」

 描く輪郭は、初めに“いかり”を大地に突き刺し、そこから二本の線を並走させる。続いて間髪入れずにテシルが絵具を投げると、〝長い薄茶色の縄の絵”が、元魔の巨身と地面とを繋げた。
 言語とならない叫喚で踠くも、虚しく。
 ――兎はもう、怪物を狩る眼を、している。

 「――――第八次元発動、強加ァ!!」

 踵を、落とす。――瞬間、バキィ、と赤いガラスが割れると、リランは核の欠片を踏みつけて、さらに天空へ跳び上がった。
 綺麗とは言い難い花火が夜闇を飾る。次元師たちは冬空に咲くそれに風情を感じるはずもなく、見上げては、息に交えて安堵を吐いた。

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.24 )
日時: 2017/05/21 23:06
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: csh0v7TN)
参照: ※修正しました。(5/21)

 第321次元 寄り添い合う

 視界の奥深くでは、ハイタッチを交わすチームの姿がある。低い背丈は三つ並んで、そのうち二つが白い髪色をしていた。
 彼らが第十班のメンバーたちであるとは判断がつかない距離で、不気味な白さを誇る巨神兵と対峙しているのはファイとムシェル・レーナイン。
 かつての仲間同士である二人はレトヴェールによって再び背中を預け合うこととなったのだった。

 「はあ、なによぉ……っあいつ……! 核がどこにもないじゃない!」
 「……」
 「こっちはどんどん元力が削れてくってのにぃ……っ! ちょっとファイ! ちゃんと確かめてきたんでしょうねぇ!?」
 「……間違い……ありません……表面の、どこにも……」
 「あんな白い体に、赤い核がいくら小さくたって見つけられないわけないじゃないの! どうなってんのよ、もう~~!」
 「――っ、来ます」

 鉄槌が下される。間一髪といったところで躱した。
 次元の力、“紫翼”で空へと羽ばたくファイは機械じみた瞳で元魔を見下ろした。
 そのとき。

 「!! ――ムシェルさん!」

 息衝く間もなく、元魔のもう片方の腕が大地へと伸びた。ムシェルの次元の力、“鞭洗”は飛び道具ではない。手に掴んだ鞭は瞬間、意義を失った。
 ――“牙に似た岩石”が、かの巨体の脇に喰らいつくまでは。

 「え……っ!?」

 人間ではない唸り声。小さなものから大きなもの、丸いものから鋭いものまで様々な形の岩によって形成されたそれは、竜だった。
 巨体が傾く。地面と平行になっていく。しかし、産み落とされたばかりの竜は楼が如し。崩れ落ちていく頭、胸、翼――竜の主は、竜だけの主ではない。

 「――ルルネ!!」
 「はいです! ――“現出”!!」

 林檎色の頭が、ぴょこんと揺れる。可愛らしい仕草に似合わず、少女の口から飛び出した合図は、元魔の足元に“箱”を出現させた。
 傾きに追い打ちをかける。石に躓く子どものように、元魔は不格好に地に伏した。
 大地に横たわり、激しい土煙が辺りに広がる。

 「……! り、リフォル……さん……」
 「ファイ! ムシェル! 何をぼうっとしている! ――ここは戦場だ。遅れをとるな!!」
 「「――っ……!」」
 「ムシェル、お前の鞭洗でヤツの動きを封じろ! 一瞬でいい!」
 「はっ――任せといて!」
 「ファイ!」
 「!」
 「――核を、叩け」

 無機質な瞳に、奔る閃光。ムシェルが鞭を振り上げると、ファイは飛び上がった。
 リフォル・アーミストの次元技――“岩柱”によって、彼とルルネ・ファーストは空中を昇る。
 ムシェルの鞭が、大地を奮わせる。

 「第七次元発動――厳撃!!」

 起き上がらんと、浮かせたはずの腰が、くだけた。
 大地に震動に動きを止める元魔の、足元。
 ――通りで見つからないはずだ。そう、ファイの目元が嗤う。

 「第九次元、発動」

 冷ややかに放たれる詠唱。
 かつて、現英雄の2人がそれを目前にしてひれ伏した。
 彼女の翼は――折りたたまれやしない。

 「――――紫踊大裂星!!」

 白い足先は天を仰ぐ。その眼に、闇色の結晶が降り注ぐとも知らずに。
 直接狙ったわけではないが、足の裏に張り付いていた血の色の核が、幾千もの刃から逃れられるはずもなく。
 やがて心臓は貫かれた。嘘みたいに巨大な肢体が、巻き起こる爆発によって夜の藻屑と消えていく様は、果たして嘘だっただろうかと疑うほどに、呆気ない。
 第十一、十二班の計4名の背中は見慣れた風に並んで、歩み始める。



 元魔の数は確実に減ってきていると見てとれる。その頭部が天上を貫くほどの巨体を持つ元魔の姿を、まさか見つけるのに困難だということはない。ただしある程度の距離内にいる必要はある。
 第七班の2人は、十数という人の極力傍でしゃんと立っている。囲われた人たちは皆膝を折り、2人を見上げるようにして身を寄せ合っていた。

 「さてっと……」
 「あ、あのぅ……」
 「はい?」
 「本当に私たちは、戦わなくても大丈夫なんでしょうか……?」

 がっしりとした体に似合わず、口からこぼれた言葉は弱々しく砂上で失せる。
 男性の声につられてか、問いかけられたシェル・デルトールに視線が集まる。

 「えっ、と……。はい、大丈夫です。奴らの討伐は蛇梅隊の隊員たちと、僕らのように有志で元魔討伐に経験のある者たちにお任せ下さい」
 「でも……なんだか気が引けるわ。いえ、今まで元魔を討伐したことがなくてお力添えができないから、何も言う資格なんてないのだけれど……何か力になれることがあったら、遠慮なく言って下さいね。微力ながらお手伝いがしたいの」
 「……お心遣い、ありがとうございます。微力だなんて、卑下なさらないで下さい。我々は同じ次元師です。……それと」
 「?」
 「今大戦の、人族代表方から使命を授かっています。『次元師たちの命を最優先に考えてくれ』……と。なので怯える必要もありません。あなた方は必ず、僕らが守り抜いてみせます」
 「……!」

 曇っていた表情に笑みが差した。自分の言葉に、少しでも不安を取り除く力があればいいけれど。
 次元師というのは、必ずしも戦闘経験を持つばかりではない。例え力の開放が行われてから数十年の月日が経っていたとしても、元魔という神の産物を前に怯まずにはいられない。恐怖とは、誰しもが持つ感情の一つだ。
 元魔を恐れたまま、戦闘から身を引いてきた名ばかりの次元師に、この第二次神人世界大戦で兵を務めろと放り出されては、怯えるのも無理はない。
 力を持たない次元師たちの身の危険を、シェル自身も危惧していた。だが。

 (……レトヴェールの親父さん、どうしてこの命を下したんだ。人の命を守りたい気持ちは当然俺も一緒だけど、『最優先』っていうところが妙に引っかかるな……。残酷な話だが、戦争に死人は付き物。万が一は大いにあり得る。次元師全員の命を最優先にしたところで、果たして終戦時に人類側が勝鬨を上げられているかどうかは――イコールじゃない)

 「んあ? おいシェル! なにぼーっとしてんだよ! レトに確認しなくていいのかぁ?」
 「え? ああ、そうだった。今連絡入れる」
 「ったく。何だぁ? あいつ……」
 「――こちら第七班。シェル・デルトールだ。現時刻での元魔の討伐総数および、残りの数を教えてほしい」
 『こちら司令部。レトヴェールだ。現時刻22時03分において、元魔の討伐総数は12。残りは8体だ。今しがた特攻部班から報告が入ったと思うが、元魔に遭遇したそうだ。それを除くと――残り7体』
 「7体……了解した。あと聞きたいことが――」
 『なんだ?』
 「……いや、何でもない。以上だ」
 『? ……ああ』

 ブツリ、切れる回線。問いかけた言葉を呑みこんだのには訳がある。
 大幅なメンバー編成で、通信機同士の個別通信機能は失われた。取り付けられたダイヤルを固有番号に合わせて回すことで、他の通信機と個別に連絡が取れる仕様となっていたが、今となっては通信機一つ一つがバラバラに組み替えられたチームの代表者の手に渡っている。どの番号を持つ通信機を誰が所有しているかを全体で把握できなくなってしまったのだ。
 
 そのため、現在は戦闘班と司令部間の連絡には全体連絡機能を用いている。余談だが、司令塔のレトヴェールが持つ親機の通信機に戦闘班が個々で連絡を入れることは可能だが、どの番号を誰が使用しているかを現時点で把握できていない彼には、彼から個々の通信機に連絡を飛ばすことができなくなっている。
 したがって、今のシェルとレトの会話は全体に音声として流れている。シェルの持つ通信機から個人連絡に切り替えても成立はするのだが――シェルは、やめた。

 司令部に送る情報の全てが、戦闘班の持つ通信機にも同時に共有されてしまうこと。
 そして、信用。
 シェルはそこに思い至って、口を噤んでしまった。

 (レトなら何か知ってると思って、聞こうとしてしまったけど……今、俺がレトの親父さんの命に対する疑問を全体に流してしまったら、皆の不安を変に煽ることになってしまう。蛇梅隊の全体会議で誰も疑問を抱かなかったから、この命が実行され、今主に俺に託されている。――信じよう。例えどんな目的でも……レトの、親父さんだもんな)

 迷いが失せたのだろうか。シェルは晴れ晴れしく顔を上げると、同時に空を仰ぎ見た。
 満天の星空。掴めそうなほど近くにある。そんな錯覚。
 闇に呑まれぬようにと寄り添い合って、星一つ一つが強く瞬いているせいだからだろうか、夜空がこんなにも美しい。

 ――それなのに。これほどまでに夜明けを待ち焦がれた夜が。あっただろうか。

最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.25 )
日時: 2017/05/24 16:40
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)


 こんにちは^^お世話になっております。
最強次元師、更新分すべて拝見しました。

 バトルものというだけあって、やはり戦闘シーンが圧巻ですね(*´▽`*)
戦闘の描写って、個人的にすごく難しいものだと思ってるので、素晴らしいなぁと思いながら読んでおりました。
技名や次元師たちの戦い方の特徴もしっかりと書き分けて、一つ一つ細かく設定されている辺り、瑚雲さんの作品に対する熱意を感じます!
演出も似通ったりしないように凝っていたので、長い戦闘シーンも飽きずに読めました。
戦闘における作戦も練られていて、この作品自体ちゃんと作りこまれているんだなぁと……長く書き続けていらっしゃるだけあって、瑚雲さんの愛とこだわりがつまった作品ですね♪
バトルもの特有の熱い展開も、王道で素敵でした(*'▽')

 キャラクターは、私はキールアちゃんが好きですね(´ω`*)
最初は名前的にサボコロくんが気に入ってたんですが、作戦会議で神族と一人で戦えと告げられた時に、凜と「異論ありません」と言い放ったキールアちゃんの姿に惚れました。
強い女性キャラ、かっこいいです^^

 神族との戦争、これからも苛烈な展開になりそうですが、とりあえず早速DESNYと遭遇しちゃったキールアちゃんの無事を祈るばかりです。
これからも更新頑張ってくださいー!

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.26 )
日時: 2017/05/24 22:20
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: csh0v7TN)


 >>銀竹さん

 こんばんは! 某青い鳥では、いつもありがとうございます。
 拙作をお読み頂きまして、感謝申し上げます!

 とても細かい感想をありがとうございます!
 あらすじが記載されているとはいえ、あくまでもあらすじなのでわかりづらい部分があったかと思うのですが、にも関わらず丁寧にコメントして下さって感激しております。
 この小説の感想を頂けることがまずほぼないので……新鮮ですし、思い入れがある分大変励みになりました。

 キールアの戦いはこれからだ! って感じですね(笑)
 「名前的にサボコロ」で不覚にも笑ってしまいましたw彼にこの名をつけたことが遠い昔になるのでまったく記憶にないのですが、昔の自分にグッジョブ送りたいですね。
 キャラにも感想を頂けたことを嬉しく思います……!(滝涙)

 また続きを読んで頂けるように、精進して参ります!
 あっちでもこっちでも、今後ともよろしくお願いしますね……!
 がんばりますー! 本当にありがとうございました!


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