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隠忍
日時: 2010/07/22 16:22
名前: 涙歌 (ID: qizRGjjT)

〜主な登場人物〜
神崎悠 kanzaki yuu(15) 孤独な天才美少女。
鬼藤大和 kidou yamato(18) 抜群の運動力を持つクール少年。
月次空雅 tsukinami kuuga(16)ムードメーカー的存在美少年。
橘築茂 tachibana tsukumo(18)天才的な頭脳を持つ知的少年。
荻原日向 ogihara hyuuga(17)心優しい常に笑顔の王子様美少年。
氷室玲央 himuro reo (19)冷めた態度の無口少年。
春日井煌 kasugai kou (20)スタイル抜群の大人びた男性。

柊柚夢 hiiragi yuu(15)

他 
佐々木舞 sasaki mai(15)悠を友達だと思ってる。

神崎要 kannzaki kaname (45)悠の父。
  翠紗 kannzaki misa(43)悠の母。
  流香 kannzaki ruka(13)悠の妹。
  柊斗 kannzaki syuuto(10)悠の弟。

高須賀篤 takasuka atsushi(45)
   芹花 takasuka serika(23)悠の姉。
   昴 takasuka subaru (17)悠の兄。

風峰暁 kazamine satoru(36)警視庁最高司令官。





「あぁ〜平和だなぁ」
3階にある音楽室の窓から野球部やテニス部の応援の
声を聞きながら、5月の青い空と木々を見ていた。

私はここ、T中学校で毎日隠忍の日々を送っていた。

「悠!どうしたの?空なんか見上げて」
私の名前を呼ばれて一瞬どきりとしたが声のトーンですぐに安心できた。
「舞。ううん、ただ風に当たってただけ。」
にっこり微笑んでみせると舞も「そっか」と一緒に空を見上げた。
「はぁ〜それにしても、中間テストの結果、やばかったなぁ。ねぇ悠。どうしたらそんなに頭よくなるの?」
またこの話かと、内心飽き飽きしたが表に出ないようにいつもの笑顔で答える。
「別に私はよくないよ。」
「嘘!ま〜た学年1位だったでしょ!!お見通しなんだからね。」
口を曲げて話す舞に私は少し苦笑した。
「学歴優秀、スポーツ万能、淡麗美麗、さまざまな才能を持つ学校一の天才少女!ほんっとに悠がうらやましいよ・・・。」
「大げさだって。別に私みたいなのはそこらへんにいるから。」
舞のいつものセリフに罪悪感を抱きながらも普段通りに答えた。

いつもこうだ。
誰もがみな私を天才少女だと言う。どこが天才なのかさっぱり分からない。こんな最低な人間に騙されている舞や教師たちがばからしく思う。

私は残酷な人間だ。

確かに人よりもすぐれているのは本当だが、それで優越感にひたったことなど一度もない。それどころか、自分が愚かに思えてくる。
なぜ自分だけこんなにも普通ではないのかとーー。

私は普通がよかった。
自分が普通ではないことに、周りの人間が憎らしく思う。私の周りにいる人たちはみな、いい人ばかりで、私を好きといってくれるし、信じてくれている。だけど私は誰ひとり、信じてなどいない。
人を信じられるわけがない。

(ほんっとうにめんどくさい世の中だよね)
舞が習いごとがあると言って帰って行ったあとも一人で空を見ながら自分の未熟さに孤独となっていた。

だからあんな突然の出会いが私に訪れるなんてこのときの私にはまったく考えられなかった。

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悲劇の幕開け ( No.30 )
日時: 2010/09/23 09:07
名前: 涙歌 (ID: qizRGjjT)

俺たちが悠の様子の変化に気付き、悠のもとへ向かったのは、7月28日だった。
しかし、悠の強引な「大丈夫」により、俺たちはやむを得なく、引き下がった。

しかし、それから約1週間たっても、悠の様子はあきらかにおかしかったし、俺らに何か隠しているようだった。

「なぁ、悠のことどうする?」
俺たちは、夏休みにも関わらず、学校の屋上で話していた。
空雅がフェンスによりかかりながら、俺たちに聞いた。
「どうするって言っても、悠が嫌がるようなことは僕は嫌だから、そっとしておいたほうがいいんじゃない?」
日向はちょっとうつむき加減に言う。
「だが、早くあのFBIのことについても、知らさなければならないからな。
あんまりもたもたはしていられないぞ。」
いつもの冷静な声で築茂が厳しく言った。
「おそらく、彼女の周りで何かあったんだろうね。そこに俺たちが触れていいかどうか・・。」
「煌の言うとおりだ。」
玲央が煌に賛同する。

「大和はどう思う?」

空雅に聞かれて、初めて自分がまだ一言もじゃべってないことに気付いた。
俺はちょっと戸惑ったが、すぐに自分の考えを発した。

「俺は、どうするかとかじゃなくて、純粋に今悠に会いたい。」

俺は今、無性に悠に会いたかった。会って悠の笑顔が見たかった。
俺たちが悠の近くで、悠の笑顔を見たのは、たった1回だけだ。
もう一度悠に、あんなふうに笑ってほしい。

俺の答えに5人も微笑んで、そうだなというように頷いた。

「それじゃ、今度こそは悠に無理をさせないようにいきますか!」
「あまり騒ぐなよ、空雅。おまえはいちいちうるさい。」
「うっわー築茂俺に冷たすぎじゃね?」
「はいはい、そこまで。とっとと行くよ。」
日向に促され築茂と空雅はしぶしぶやめた。



彼らにもう、何週間も会っていない。
私は舞が死んだあと、大切な人には自分の気持ちをしっかり伝えておこうって決めたのに、
臆病な私はまだ迷っていた。

メールや電話もほとんど無視してしまう。
私はどうしたらいいのか分からない。

希望がようやく見つかった私には、もう答えは決まっているはずなのに———。

私は何に怯えているのだろう?
私は何に迷っているのだろう?

出てくる疑問の数々・・・。

「あぁ、今日も空がきれいだな・・。」
忙しい日々が続いたが、今日だけは何とか休みを入れてもらった。
私の大好きな場所、柚夢との思い出の場所で空を見上げていた。

その時、携帯が鳴った。

大和からのメールだった。
『今すぐに会いたい』と書かれていた。
私は胸がギュッと押しつぶされそうだった。

彼らはいつもまっすぐで、いろんなことに挑戦して、迷わないで胸を張って歩いている。
なのに私は、偽りの私でしか胸を張れない。

本当の私は蝉の抜け殻みたいだ。

会おうかどうか少し迷ったが、私も今彼らにすごく会いたかったから、
『私も会いたい』とメールを送った。


悠から返信が来た。
その一文に俺は、肩から何かがとれたようにすっと軽くなり、ほっとした。
「悠も会いたいって。」
俺の言葉を聞いて、5人もほっとしたようだった。


しかし俺たちはこの日、会うことはできなかった———。

独り ( No.31 )
日時: 2010/09/23 10:56
名前: 涙歌 (ID: qizRGjjT)

今、私の目の前で起こっていることを私は信じられなかった。

つい30分前までは、彼らに会うことができるという思いでいっぱいだったのに。
たった1本の電話で、私はすべてが終わったような気がした。

30分前———。

私は待ち合わせの場所に向かっていた。
会ったら一番に何を話そうか、何を伝えようか、いろんなことを考えていた。
きっと今、彼らも私に会えるのを楽しみにしているのかなとか、
そんなことも考えていた。

そこに悪魔の電話が鳴った。

表示には知らない番号だった。
私は少し疑問に思いながらも、電話に出た。
「もしもし・・?」
「・・悠か?」
その声は、高須賀さんからだった。
「あっこんにちは。高須賀さんですよね?どうかしたんですか?」
「今から俺が話すことをよく聞いてくれ。」
「・・・?」
「お前のお母さんとお父さん、そして流香、柊斗、芹香が・・・」



「・・・・・死んだ。」



何を言っているんだか、理解できなかった。
この人はよく冗談をいう人だから、冗談かと思った。
冗談であってほしいと願った。

しかし、その声からは冗談ではいことくらいは、分かった。

「・・死んだ?」
「あぁ。たった今、病院で全員死亡が確認された。」
「なんでいきなり全員死んだんですか?」
「交通事故だ。今日、芹香が神奈川から帰ってきたから、全員で出かけたそうだ。
悠、お前はなぜ一緒に行かなかったんだ?」
「ちょっと待ってください。全員が出かけるなんて話、私聞いてませんよ。
芹香ちゃんが帰ってきていたなんてことも知りませんでした。」
「・・それじゃぁきっと、お前に何かサプライズでもあったのかもしれないな。」
「私へのサプライズ?」
「日ごろ頑張っているお前に何か、褒美でもあげるつもりだったんだろう。
あいつらはそういうやつらだったろ?」
「・・・・病院はどこですか?すぐそちらに向かいます。」
「○○病院だ。近いから分かるな?」
「はい。」

私はそう言って電話を切った。
高須賀さんと話している時、妙に自分が冷静だということに気づき、私はショックを受けた。

「なんで家族が死んだのに、涙でないんだろう・・・。」


病院について、私は全員が眠っている部屋に入った。
そして、一人一人全員の顔を見た。
みんな顔に痣があったり、手はなかったり、事故の悲惨さが伝わってきた。

でも、顔も口も触れた肌も全部確かに私の家族だった。

そして、本当に死んだということが分かった。
今、私の目の前で起こっていることを私は信じられなかった。

何よりも大切だった家族———。

とうとう私は、



独りになってしまった。

悪魔に気付かぬ蝶 ( No.32 )
日時: 2010/09/25 13:24
名前: 涙歌 (ID: qizRGjjT)

悠との待ち合わせ時間からもう、1時間が過ぎた。
俺たちはさっきから何度も悠の携帯に電話をかけているが、まったくつながらなかった。

「悠、一体どうしたのかな?」
日向が心配そうな声で呟く。
「携帯がつながらないと何にもならないからなぁ。」
「何かあったのかもしれないな。」
玲央の冷たい声にみんな一瞬嫌なことが頭によぎった。

「っとにかく、片っぱしから悠の情報を手に入れようぜ!」
「そうだな。俺は風峰さんに電話してみる。」
空雅の声に、煌が頷く。
「じゃぁ僕と玲央は悠が行きそうな場所を徹底的に行ってみるよ。」
日向が名乗り出た。
「俺は警察や病院に電話をして、事故や事件に巻き込まれていないか、確認をする。」
「築茂がそういうなら、俺と大和は、ここに悠が来るかもしれないから、行き違いになるとあれだし、待ってるよ。」
「はぁ?!俺たち、待ってるだけなの?」
「仕方ないだろ。全員が動いちまうと悠がもし来た時に、心配するだろ。」
空雅の言っていることはもっともだったが、俺は納得できなかった。
「・・・でもっ待ってるだけっつーのも気が気じゃねーよ。」
「大和、気持ちは分かる。でも、今は6人で協力をしよう。」
煌に真剣な顔で言われ、俺は黙って頷いた。
「よしっ。それじゃぁ各自動こう。」



私はしばらく、家族の死んでいる顔を眺めていた。
でも、見れば見るほど、悲しくも苦しくも、涙が出ないことも分かってしまった。

すると、バタバタと大きな足音が聞こえた。
「神崎さん!!!」
大きな声で名前を呼ばれ、振り返ってみると、学校の担任の先生と校長先生をはじめとする先生方が
何人も息を切らせながら、病室へと入ってきた。
私は、軽く一礼をした。
「どうしてこんなことに・・・・っ」
と言って、一人の先生が声をあげて泣き始めた。
それに続いて、ほかの先生方も泣き始めた。

私の家族は、学校の先生方からもとても慕われていた。
本当に良いご家族だと、良い評判が流れていたし、私の家族ということもあって、余計に良くしてくれた。

「神崎さん・・・。」
校長先生が、私に近寄った。同情をしている眼だった。
「ご家族が亡くなられた場合、最長一週間の休みは良いとされている。
しかし、君の場合は一気に家族を亡くされた・・。辛いだろう。
だから、気が晴れてからでいい。学校へは無理に来なくても大丈夫だよ。
君のことは、学校全体が補助するから。」
私は校長先生の言葉に憎悪を抱いた。

お前なんかに何が分かる。私のことなど何も知らない癖に。
私はお前なんかに同情などされたくない。
私は人が死んだくらいでめそめそ泣いているとでも思っているのか、このハゲが。

そんなことも思いつつも演技の笑顔を振りまく。
「いいえ、校長先生。私は全然大丈夫です。きっと私の家族も私が家で泣いているよりも、
学校で楽しく笑っているほうが喜ぶでしょう。」
「か、神崎さん・・・!」
校長先生は、私の言葉に感動したのか、その場でおいおい泣き始めた。

そんなバカはほっといて、私は先生方に言った。
「先生方、今日はいきなりでしたのに、来てくださりありがとうございました。
お葬式とお通夜はのちに連絡させていただきます。
しかし今日は、明日も学校ですからゆっくり休まれてください。
私のことはどうぞ、心配なさらずにお願いします。」
そして最後に一礼をした。
そんな私の言葉に先生方は口をポカンと開けて聞いていた。

先生方が帰った後、どこにいたのか高須賀さんが立っていた。
「悠・・・。」
「高須賀さん、今日はありがとうございました。」
「いや。それで君は、これからどうする?俺と暮らすか?」
「いえ、高須賀さんに迷惑をかけるにはいきませんから。私のことは心配なさらないでください。」
「・・・。」

このときから、私は重大なことに気付き始めるのです。

心の渦 ( No.33 )
日時: 2010/09/25 14:31
名前: 涙歌 (ID: qizRGjjT)

「っそれは本当なのか?!築茂。」
「あぁ、警察にも確認したから間違いない。」

俺たちがそれぞれ動き始めてから、約15分後、築茂から待ち合わせ場所で待っていた、
俺と空雅のところに電話が入った。
その電話は、確実にここへ悠は来ないというものだった。

「原因は高速道路でトラックと激しい衝突事故だ。全員即死だったそうだ。」
「じゃぁ今悠は、病院で・・・。」
「あぁ、おそらく。一応、煌たちにも連絡はした。今、俺も煌たちもお前らのところへ向かっている。
一度全員合流してから、どうするか話し合おう。」
「・・分かった。」

俺は携帯を持ったままその場に立ち尽くした。
空雅も俺と同じ気持ちだった。
「・・・おい、これから悠、どうなっちまうんだよ。」
「分からない。でも、あいつが何よりも大切にしていたのは、家族だ。
それを失った今、悠は————。」
俺も空雅も力が抜けたように、椅子に座った。

5分後、全員がまた集まった。
「これからどうする?煌。」
築茂が煌を頼りに訪ねた。
「・・・・。実は風峰さんにも悠のことを伝えたんだ。それでどうしたらいいか、聞いてみた。」
「なんて言ってた?」
「・・今は彼女に会わないほうがいいって。」
「はぁ!?なんでだよ!!」
俺は椅子から立ち上がって、声をあげた。
「普通だったら今辛い時にそばにいてやるだろ!今、あいつを一人にできるわけないだろっ!」
「大和、少し声のトーンをおとせ。ここは、店だ。邪魔になる。」
築茂に注意され、俺は少し反省した。でも、風峰さんの言っていることが信じられなかった。
「大和はそういうだろうと、風峰さんも言っていたよ。でも、あの人は、こう言ったんだ。
『今、君たちが彼女に会いに行っても、あの子は余計に無理をする。
君たちが自分にとって、大切だからこそ。そして、本当の自分の気持ちを封印してしまう』って。」
「・・・・・。」
「だから、俺たちが悠に会えるのは、葬儀の時だ。」

もう、誰も何も言わなかった。




私は家に帰って、部屋をぐるりと見回した。
ここで笑っていた家族を、そして、これからの未来を思い浮かべていた。

それでも一向に涙は出てこなかった。

私は一体いままで、家族にどんな思いで接してきたのか。
何が好きで何が大切だったのか。
「私」という人間は誰から作り上げられたのか。

もう私には自分という人間が分からない。
私の本当の気持ちが分からない。



私は一体何がしたいんだろう・・・。

剥がれるシンデレラ ( No.34 )
日時: 2010/09/25 22:08
名前: 涙歌 (ID: qizRGjjT)

9月3日———。今日は家族のお葬式。

もう9月だというのに、8月続きの猛暑は全く冷めないままだった。
しかし、この日は、久しぶりと言っていいほどの、大雨だった。

この葬式には、大勢の人々が参列してくださった。
その人数、合計約1000人。
びっくりするほど大きな葬儀となっていた。
私は来てくださった方々に一人一人、挨拶をしていつものように、言葉を並べていた。

『かわいそううに・・・・。』
『一人でこれから暮らすんですって?』
『まだ若いのに・・・』
世間からあびる同情の目。私はそんなものには目もくれず、ただただ演技をしていた。

たくさんの人のすすり声が聞こえるなか、私はお礼の言葉と、家族への手紙を読み始めた。

「本日はお忙しい中、利根川家の葬儀に参列してくださり、誠にありがとうございます。
心より、ご感謝を申し上げます。」
私の淡々としたしゃべりと、冷静さが信じられないというような人がほとんどだった。

そして、家族への言葉を話し始めた。

「お母さん、お父さん、芹香ちゃん、流香、柊斗。
ついこの間、先だった昴君に続いて、こんなにも早く逝ってしまうとは思わなかったよ。

私は、大丈夫だからね。みんながここに今いることも分かっている。
今きっと、姿は見えなくても、私の声を聞いてくれているんだよね?
お母さん、言ったでしょ?

『死者に対する最高の手向けは悲しみではなく感謝だ』と・・・。

だから私はずっと悲しみなんかに浸っていられない。
みんながここまで一緒にいてくれたことにありがとうだけを言います。

本当にありがとう。
安らかにお眠りください。」

私の最後の言葉が言い終わった後、拍手がなった。
しばらくの間、その拍手は鳴りやまなかった。
みんな私の言葉に感動をして、涙をこぼしながら、手を叩いていた。

今言った言葉に偽りはないと私は信じたい。


そして、葬儀も終盤に入り、見送りとなった。
大勢の人が大きな声で、それぞれの名前を叫んでいた。
私はただ黙って、その車を見送った。

そして、車は見えなくなった。


しばらくの間、誰も帰らなかったが、10分もすると、ちらほらと私に挨拶をしながら
去って行く人が出てきた。

すると、一台の車が駐車場に止まり、その車から見覚えのある男性6人が降りてきて、
ものすごい勢いで私のもとへと向かってきた。

彼らだった。

私から5メートルほど離れたところで、彼らは止まり、私を見た。
その姿を見た瞬間、私はなにかが切れたようだった。
「悠!!!」
大和のしんのある声に私は鳥肌がたった。
「もう我慢するな!!もう大丈夫じゃないから!!」
その言葉に私は、今まで我慢してきたものがすべてこみあげてきて、気付いた時には、
彼らのもとへ一直線に走りだしていた。

そしてすぐに、大和の腕の中にいるんだと分かった。

そして、すごい声で私は初めて泣いた。
「っうくっ・・あああぁ!!ああああああっっ!!」
帰ろうとしていた人たちも私の声に驚いて、その場にいた人たちが、私たちの姿を見ていたと思う。
「もういい。お前はもう我慢なんかしなくていいから。お前は独りじゃないから・・・。」
耳元でささやく大和の声は私が一番ほしかった言葉だった。
そして、大和の腕が少しゆるくなって私の目に大和の顔が映った。
久しぶりに見る温かい顔だった。
「悠・・・・お前は独りじゃない。俺たちがずっとそばにいる。だから・・っ
だから、俺たちと一緒に暮らそう・・・。」
そう言って、また私を強く抱きしめた。
強かったけど、やさしい強さだった。
「・・っうん・・。うんっっ!!」
私もその腕を強く抱き返した。

このときの大和の腕の強さを私は一生忘れない。


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