ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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理想郷
日時: 2010/08/14 13:59
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: FwQAM/tA)

この物語の題材は『理想郷』です。
エデン、ユートピア、シャングリラや桃源郷……そんな数々の理想郷を舞台に様々なキャラ達が物語を繰り広げます!
楽しんでくれると嬉しいです!
多分微SF気味だと思います。

一日一回か二日に一回は更新を心がけていますが、意外と体力が持たなかったり……w

目次
序  >>3
第一話>>7-8>>24>>35-36
第二話>>37>>39>>41
第三話>>42-44>>47-48
第四話>>51>>54>>57-58>>61
第五話>>62>>65-67>>72-73>>76-77
第六話>>78-80>>89>>92>>96 幕間>>97
第七話

第二回目のオリジナルキャラ募集です。
良いと感じた物だけを採用させて頂きます!
期限は来週の木曜日まで!
皆様の個性豊かなキャラをお待ちしております。

募集用紙

名前【】
性別【】
年齢【】
性格【】
容姿・外見【】
口調【】
設定【】
住んでいる場所【】
サンプルボイス【】
       【】

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Re: 理想郷 ( No.47 )
日時: 2010/07/17 16:41
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: TQ0p.V5X)

カタカタカタカタカタカタ……
コンピューター室では機械の様に途切れる事無く、物凄い速さでキーボードを叩き続ける音が響いていた。

「教えてくれないなら……調べるのみだ」

レンリは納得いかないという表情をしながらキーボードを叩き続けた。
何故、佐伯が良くて自分が駄目なのだ……レンリの頭の中はその考えだけがグルグルと浮かんでいる。
佐伯ミチコは確かに頭はそこいらの人間よりずっと良い。そして自分はその佐伯よりも頭が良い。

ならば何故自分が行けない?

頭の中で何回も何回も同じ質問を繰り返す。
いつの間にか自分の指先の皮が擦れて剥けて、指とキーボードが血で汚れていく。

「あと、2,5秒でそれが分かる……」

ハッキング完了、到達まであと2,0、1,9、1,8、1,9……
その間もレンリの指はキーボードを叩き続けている。

「0,3、0,2、0,……」
「駄目ぇ!!」

あと0,1秒の所で、レンリは遠野に腕を掴まれハッキングを失敗をしてしまった。
レンリがキーボードから手を放した隙に解除されたプログラムとパスワードは再び閉められ、木乃に体をしっかり床に押し付けられたレンリは身動きを取れなくなった。

「紫陽花学園をハッキングしようとするなんて!加藤君……それはいけない事なのよ!」

先程とは打って変わって遠野は厳しく迷いの無い声でぴしゃりと言い放った。
レンリは既に叫ぶ気力ももがく体力も残ってはおらず『余計な邪魔をしやがって……』と頭の中で思いながら静かに目を瞑った。
あと、すこし、だった、のに……
意識はどんどん遠のいて、するすると滑るかのようにレンリは眠った。

「眠ってしまいましたね……」

遠野は息をはぁはぁと切らせながら呟いた。

「親御さんに連絡を入れよう、迎えに来てもらわんとな……」

木乃は立ち上がり職員室へ向かおうとすると、遠野が静かに「加藤君、どうなっちゃうんだろ……」と呟いた。

「どうなるもこうなるも、良くてハッキング扱いで退学のみ、悪くてクラッキング扱いで少年院か少年刑務所行きだろうな」
「どうにかなんないですよね……」

諦めたかのような口調で遠野は呟いた。

Re: 理想郷 ( No.48 )
日時: 2010/07/17 18:16
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: TQ0p.V5X)

外は台風だった。
しかしイチイはとくにそれを気にする事無く、そこらの物とは非にならない、しっかりとした強化素材で出来た家の中でテレビを観ていた。
だが、それを邪魔するかのように突然電話が鳴った。

「電話ー?迷惑だなぁ、もう……ママが出てよぉ!」
「もぅ、仕方が無いわねぇ……イチイは全く親孝行をしない子なんだから」

そう言ってイチイの母親……マサコはしぶしぶ立ち上がり、受話器を手に取った。
40直前とは思えない立派なナイスバディは、しっかりイチイに受け継がれていた。
そんなビッグサイズおっぱいを揺らしながらマサコは「もしもし、加藤です」とお決まりの台詞を言った。

「え、レンリがですか?あぁ、はい、はい……」

どうやらそれはレンリの事だった。
イチイは耳をそちらに集中させ、話を聞いた。

「それは要らない親切をどうも……はい……うっさい!黙れ醜男!自分のイチモツしこってな!」

そう言ってマサコは受話器を置いた。
短気すぎだよママ……とイチイは思ったが口には出さず、

「レンリがどうしたの?」

マサコはニッコリと笑い、

「紫陽花学園をハッキングしようとしたの」
「えぇっ!?」

思わずイチイは大きな声を出してしまった。

「だけど寸前で止められちゃったみたい。それにしても学年主任の木乃?すっごいウザイ!何が『特別に退学ではなく自主退学という扱いになりました』とか要らない親切だわ!
それに何なの?この台風の中迎えに来い?ふざけんな!死ねってか?私に死ねって言ってんのか?」

苛々した様子でマサコが地団駄を踏んだ。

「落ち着いてよママ……台風がある程度収まったら私が迎えに行くからさ……」

17年間マサコの娘をやっていたイチイは、マサコが本気で怒るとどんなに恐ろしいかこの身で理解していたので必死でマサコを宥めた。
しかし……まさか弟であるレンリがハッキングするなんて、しかも退学なんて……
これじゃ理想郷は行けなくなったわ、残された道は玉の輿。帰ってきたら昨日みたいにボッコボコにしてやるわ。
イチイはそうとしか思っていなかった。
なぜレンリがハッキングなんてしようとしたのか、玉の輿して、家族はどうでも良いのか……どれもこれもイチイにはどうでも良い事だった。
いつだってイチイは自分の事だけを考えて生きてきた。

そうしなければ、損してしまうじゃない。
私が損なんて絶対嫌よ。
損をするのは限られた『不幸な者』だけで良いじゃない。
元から不幸なんだから、これ以上不幸になっても何も変わらないわ。

小さな頃からそう言って来た。

イチイは外を見た。
まだ台風は去っていなかったが、先程よりは酷くはないし、死ぬ程ではない。

「ママ、レンリを迎えに行くね」

外に出たイチイは、静かに呟いた。

「happiness of the partpeople, by the partpeople, for the partpeople」

Re: 理想郷 ( No.49 )
日時: 2010/07/18 03:20
名前: agu (ID: zr1kEil0)

これは今後の展開が楽しみですね。

レンリ君がどうして理不尽な目に遭うのか?
案外、イチイちゃんの「反政府運動」の所為だったり
……

先が気になりますね。

Re: 理想郷 ( No.50 )
日時: 2010/07/18 09:28
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: TQ0p.V5X)

agu様 コメント有難う御座います^^嬉しい言葉を沢山言って貰えて感激です!
レンリのポジションは『THE☆理不尽』ですwレンリ君はこれからどんどん理不尽な目にあわせますw
イチイに関してはノーコメント!

Re: 理想郷 ( No.51 )
日時: 2010/07/23 21:25
名前: 金平糖  ◆dv3C2P69LE (ID: TQ0p.V5X)

第四話 

「……い!……ない!……なさい!……起きなさいレンリ!」
「痛っ!」

姉貴の平手打ちによって俺は無理矢理目を覚ました。
見ると自分は木乃に背負われている。
そうだ……寝てしまったんだ……
あれだけの事を数十分でやったのと、骨折したのを忘れて走ったりなんかしたから、頭と足はズキズキと痛んだ。

「この愚弟が!とっととその醜男から降りてヘルメット被りなさい、帰るわよ!」

雨に濡れた姉貴に無理矢理木乃の背中から落とされて、俺はヘルメットを頭に向かって投げつけられた。
急いでそれをキャッチし「あ、姉貴何で……」と、言いかける前に、

「アンタを迎えに来たの!とっととヘルメット被って、バイクに乗ってしっかり掴りなさい!」

今度は腕を引っ張られ、無理矢理外に連れて行かれた。
外は雨……台風が来ていて、よくバイクで事故にならなかったなと呟きながら俺は姉の後ろに座った。
何故か木乃がわざわざ外に出てきて「おい加藤姉弟、二人共明日から学校に来なくて良いからな」と俺と姉貴に言った。
俺はともかく何で姉貴まで……と言う前に、

「うるさいわねぇ!そんなの分かってるわよ!黙って自分のムスコしこってなさい!」

姉貴の口から余りにも失礼な言葉が出て来たので「短気過ぎだよ姉貴!」と言うと「包茎は黙ってなさい!」と女性の口からは出て来て良い物ではない言葉が投げられた。
カッとなって言い返そうとすると、突然前触れも無くバイクが動き出した。

「ちょっ!うわわっ!」

急いで俺は姉貴の腰にしがみついた。

「家に帰ったら覚悟しなさい」

今日も昨日みたいにボコボコにされるのかと思いながら、おそるおそる俺は姉貴に木乃が言ってた事を聞いてみる事にした。

「……あのさ、さっき木乃が学校来なくて良いって」
「えぇ。私、学校を自主退学したの。アンタは退学だけど、何故か自主退学扱い」
「何で姉貴が退学するんだよ!」

姉貴は眉を顰めながら「本当に今日はうるさいわねぇ、そう言うアンタこそ、なんでハッキングなんかした訳?」と刺々しい言い方で聞いて来た。
その問いに俺は地面を見ながら静かに「苛立ったから」と呟く事しか出来なかった。

「何に?ママには言わないから教えなさいよ」

話せば少し位は楽になるだろうか。
多分、姉貴は聞かれない限りは言わないだろうし、俺は母さんに聞かれたら言うしかないだろうから、しぶしぶ喋る事にした。

「理想郷在住権を取り消された」
「それだけで?」
「何故か万年二位の佐伯は在住権取り消されてない。木乃達は理由教えてくれないから自分で調べようとした」

姉貴は「ふーん」と半分納得したように言った後「パパが反政府活動に人生捧げちゃったのが原因かしら?」と小さく笑いながら言った。
父さんは俺が5歳の頃に家を出て行ったので、顔も全然覚えていない。
母さん曰く「パパは反政府活動に人生捧げちゃって出て行っちゃったのよー、でもねーパパは凄い家族思いで頭が良くてー、褒める所しかないのよー」と猫撫で声で、小さい頃から聞かされていた。
もし父さんが理想郷に行けなくなった理由だったら……
そう思いに耽っていると、唐突に姉貴が口を開き、

「……私、明後日には結婚するから」
「えぇ!?」

何の前触れも無しに言ってくるので、思わず口から変な声が飛び出した。

「知り合いの中国人のツテで良い人紹介してもらった」

とくに何の感情も見せず、姉貴は淡々と呟いた。

「そんな突然すぎだろ!母さんには話してんのかよ?つーか何?相手は中国人か!」
「ママには今日話す。相手はれっきとした日本人よ。年齢もそこまで離れてないし、顔も悪くない」
「姉貴まだ17じゃん!早すぎだし、唐突過ぎだし……」

「うるさいっ!!」

途中で遮られた言葉を俺は飲み込むしか出来なかった。
感情を昂ぶらせた姉貴の声は、いつもの落ち着いた声とは打って変わって、別人のようだった。

俺と姉貴の間に気まずい空気が流れた。
何か言わなければと言葉を捜している内に、いつの間にか俺と姉貴を乗せたバイクは家に着いてしまった。
バイクから降りる時、姉貴は「アンタのせいよ」と小さく呟いた。

「俺の……せい、かよ」

ふざけんじゃねぇ!と叫ぶ事も出来ず、かといって、すいませんねぇと謝る事も俺は出来ず、無言で玄関の戸を開け家に入った。
すぐに母さんが駆けつけて、心配したかのような口調で言った。

「お帰りなさい、二人とも心配したわ。イチイったらこんな台風の中で無理なんかして!」
「私は無理なんかしてないよママ」

そう言って姉貴は自分の部屋に走って行ってしまった。
母さんは俺と姉貴を交互に見た後、何の詮索もせず笑いながら「明日からレンリは枕木中学校に行くのよ」と言ってさっさとリビングに行ってしまった。
別に責められた訳でもないのに、俺はとても母さんと姉貴に申し訳ない気持ちになった。


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