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Bloody End〜染血の姫君〜 完結。
日時: 2012/02/15 17:51
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

*荊*です。

未熟者ですが見ていってくださいm(__)mペコリ


気に入ってくださいましたら
ぜひコメントよろしくです!!


◆キャラ紹介◆
茅 冥(ちがや めい)
吸血鬼(?)
朱の魔術師と呼ばれているが、姿を知っているものは皆死んでいるので正体を知っている者は少ない。


十字 花蘭(じゅうじ からん)
研究心旺盛な、笑顔がチャーミングポイントの小さな幼女。

三神 天霞(みかみ かみか)
吸血鬼のような違うような、あやふやな存在。
多重人格者。

シロー(046号)
人造吸血鬼ながら心を持つ。
王に対して不信感を持っている。

ブレイク
最初の人造吸血鬼。



■用語■

人造吸血鬼
王に作られし、吸血鬼。元は人間で、吸血鬼との中性的な面も持つが、吸血鬼になる段階で心を失っていっていることが多い。

ハーフの吸血鬼
人間と吸血鬼の間にできた子ども。吸血鬼は互いに血を交える事で契りを交わすが、稀に人間とその契りを交わす者がおり、その二人の間でできた子ども達はハーフとして生まれる。



呼んで下さった方々、有り難うございます。
心より感謝です!

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Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第六章、完結。 ( No.51 )
日時: 2012/02/06 01:12
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

第七章〜白と朱と朱〜


吸血鬼を朱とするならば、人間は白だろうか。





冥はドアノブに触れた。ただいま、と心の中で呟き、誰も住んでいない、廃屋に溢れる記憶の断片を拾い上げていった。

懐かしい匂いに含まれる記憶——冥の知らない記憶達までもが彼女に流れこんでいった。



その日、二人は契りを交わした。二人の名は海鈴と雅。冥の父と母だ。

愛情が溶けた血が、交差する身体、そしてその牙から互いの体内に浸透していく。

息が続く限り、互いの愛情を感じ合うように。

「はぁ……はぁ……」

牙の隙間から逃げ出して首を伝っていく愛情の詰まった血を舌で舐め上げて、再び首筋に牙をいれた。

二人はその日、その時に、純粋な愛を吸血という行為に変えて契り会った。





その行為から、数ヶ月が経った頃。

雅の体内の血の中を、海鈴の血が循環し、完全に溶け込み、雅の腹が大きくなった。

「子どもができたの」

雅は腹をさすりながら言った。

「そうか!」

海鈴は嬉しそうに、雅の腹をさする手に、自分の手を上から重ねて、これから生まれてくるだろう子どもの姿を思い浮かべながら、腹を撫でた。

まだ微かではあるが、雅の細かった身体が膨らんでいるのが分かった。

しかし、それを羨望と怨恨が混ざった視線で見つめるものがいた——




その者の顔が冥の脳裏に浮かび上がろうとした時、急にスクリーンが暗くなり、消失した。

「誰なのよ……!?」

「どうしたんだ? 顔色が悪いぞ?」

「いや、何でもないわ」

汗を拭い、平静を取り繕う。

「何か思い出せたのか?」

天霞は冥に手を差し伸べながら問う。

「まぁ……。でも肝心な事は思い出す前に、消えてしまったわ」

天霞の手を握り、立ち上がって、答えた。

「君はどこかで、思い出したくないんじゃないか?」

「そんなわけじゃないわよ!」

声を荒げ言う。天霞の驚いた顔に、冥は我にかえり、「ただ、……その……」

次の言葉を見つけようと、沈黙を塗りつぶそうと必死だった。

そんな彼女の手を、天霞は強く握った。

「ここまで来たんだ。生きる意味……見つけようぜ」

「そうね……やっとここまで来たんだもの」

冥が生まれた地。答えがあるはずの地。

それが、吸血鬼の都である——今この踏みしめている場所なのだ。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第七章、始動。 ( No.52 )
日時: 2012/02/12 21:56
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

「ブレイク——!?」

鎌を持った、肌の白さから際だつ赤髪の少年。

「死ななかったなんてなぁ……」

傍らに立っているのは小さかったはずの少女。

「何で来たんですか……?」

成長した姿からは、小さかった頃の面影が感じられる。

「花蘭……? なんであなた……」

「これですかぁ。ちょっとわけがありましてねぇ……」

花蘭は口を開けて牙を指で触る。

「吸血鬼だったのか!?」

天霞は牙を確認した瞬間に、握り締めた拳の中で、爪で皮膚を突き破り、流れ出した血で槍を創り出した。

「そんな臨戦態勢になんなよ」

「そんな馬鹿でけぇ鎌出してるお前が言うな」

「ブレイクはいつも鎌出してるんですよぉ。鎌しか友達いないから……」

「うるせぇ。そんな目で見るな。こんななれ合いしてる暇はないんだ。僕は自分の存在意義のために、お前達を殺す」

ブレイクは鎌を構える。

「私だって、……あいつが誰なのか知るまでは死ねない」

冥も二刀を前に差し出す。自らの存在を守るために、闘うのだった。






「私もいこう」

王が一人、護衛もなしにやってくるなど異常なことだ。

「え……はい。了解しました。……102番、98番、123番、王の護衛に」

「「「了解であります」」」

機械的に、声を揃えて言う。

「しかし、王。なぜここに?」

シローには、たかが侵入者の排除に王がここまでして同行するのに違和感を感じていた。

「これは自分の問題なのだよ」

全身を黒のマントで覆った王からは、表情をくみとる事ができなかった。

「そうですか……」

何か腑に落ちない。しかし、彼が王の配下である以上には逆らう事はできない。

「では出発しよう」

「はい。出発だ!」

了解であります、という二十人あまりの地響きのような声に、シローは耳を塞いだ。




こんなんじゃ死ねない……。

冥は切り裂かれた部分を手でなぞり、血を硬化させ止血する。

「こんなもんで自分の存在を保てると思わない方がいいよ!」

彼女の血を得て更に大きくなった鎌を振り上げる。

「まだ……まだなの!」

二刀で鎌を受けるが、弾かれ、血の飛沫が舞う。

「うっっ!! ……でもまだ!!」

飛沫が彼女の姿を模り、ブレイクを襲う。彼女の気迫が彼女自身を模したのかもしれない。

「こんな子どもだまし!」

嘲笑い、一振りで冥の分身を振り払う。しかし——。

「あなたは子どもなのよ」

「ふざけ——」

背後からの攻撃に、柄の長い武器では対応しきれるはずもなく、第二撃を構える前に、二刀による二撃がブレイクを襲った。

「……痛いよ……。でも、甘い!」

ブレイクは鎌を刀に変化させ、冥を切り裂いた。






「すみませんねぇ。結果的に騙すような事になって……」

「それはこの世界に堕とす前に言ってくれよ。今じゃ厭味にしか聞こえやしねぇ」

花蘭によって、自らの精神世界に堕とされた彼は、白と黒が交互に存在する場所に居た。

「お前のやり口は知ってるが、いざ自分の身となるとどうにもならないものだな」

「そうですかぁ? ありがとうございます」

「褒めてはないんだけどな」

白と黒はいつまでも続いた。



歩いても歩いても。

走っても走っても——



「死ねぇぇ!!」

「!?」

眼前に現れた黒い陰を反射的に血槍で受け止める。

「お前は……」

感覚的に分かった。こいつがなんであるのか。

「分かったようだな。俺はお前の中に居る黒の意識」

彼の黒い槍を受け止める自らの槍が白く染まっていた。
よく見ると、自分の身体が白くなっている。

「あなたの意識は二重に存在するようですねぇ。こんなのは初めて見ましたよぉ」

「勝てばいいんだろ……」

これまで幾度も黒は表に出てきては、吸血鬼としての欲望を満たしてきた。

それを自覚しながらどうすることもできず、目の前の死体を見て見ぬふりをし、口についた拭いようもない血を、水で洗い流し、喉を渇きを水で騙してきた。

確かにそれは無駄なあがきだったのだろう。

完全に断ち切るには、黒の意識を殺すしかない。

「今日からお前は俺になる!」

黒は白を飲み込もうと、白を突いた。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第七章、始動。 ( No.53 )
日時: 2012/02/14 21:56
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

「もうやってるのかよ。……二人は戦闘不能か」

シローは対峙している四人を囲う形に陣形を展開させ、王を護衛に任せてから、渦中に入り込んでいった。

「邪魔するなよ」

ブレイクが赤い眼で睨む。

「……残念ながらな、ブレイク。お前もその憎むべき中途半端な吸血鬼の仲間入りだ。この時を以てお前を王宮の僕から排除する。そして、我が人造吸血鬼の削除対象とする」

血を振りまき、自らの陣形を整える。

「な……?」

「参」

ブレイクと冥の間に血を飛ばす。

「爆」

「なによ!?」

突然の爆発に対応できず、爆風に吹き飛ばされる。

「横槍いれんなよ」

ブレイクが鎌を投げる。

「壱」

シローは散りばめられた血で鎌を受け流す。

「死ね」

刀を創り出し、駆け出し、シローの絶対防壁を壊しにかかる。

そこに、二刀が割ってはいった。

「あなたの空いては私よ」

吸血鬼の意地がぶつかり合う。

「そして、もちろんあなたも敵よ」

ブレイクの刀を弾き、二刀をブレイクとシローの両方に差し出す。

そして、その両方が冥とそれぞれの得物を交える。

「吸血鬼は抹殺する」

「王の命なんだ。お前を殺す」

自らの使命に従順なもの、王の命に従順なもの、何にも従わず、ただ自らの意味を追い求めるもの。

彼らが血から産み出した武器でぶつかりあっていた。





白は黒を勝れずにいた。

なぜなら彼らが同じ存在から生まれた二つの似たようで、逆の意識だからだ。

矛と盾。

そのどちらが勝つかと言われれば、即答できるものは少ないだろう。

彼らの場合は矛と矛なのではあるが。

「勝ってやるさ。そして、お前と決別する」

血に飢えたけだものの人生は送らない。死体を見る度に決意することだった。

武器を白に染められた血槍を突き出すと、黒は難なくひらりと躱す。
今度は逆に黒が黒い槍で白の身体を貫こうと勢いよく前に出す。

槍を引き込むが間に合わない——。

「く……」

紙一重で避けるが、腹を掠めた。傷口から黒が浸食を始める。

しかし、痛みを感じるよりも先に、腹を掠めていった槍を左手で掴んだ。

「なにするんだよ!?」

黒の剛力を抑え、右手の血槍を大きくさせていく。

「終わりなんだよ」

白の血槍が黒の身体を貫いた瞬間、世界の背景が白くなった。

「終わりですか。面白くありませんねぇ。私の予想通りになっちゃったじゃないですかぁ」

「早くここから出せよ」

「そういうわけにはいかないんですよ」

花蘭は声だけで、いっこうに姿を現そうとはしない。

背景を白が染め上げた後も、世界から抜け出せなかった。彼女がここを支配しているからだろう。




「——!?」




改変は突然訪れた。

「こうしないとあなたは死にません。私諸共世界を破壊しないと……。じゃないとあなたの意識は逃げ出してしまう」

「なんでだよ……お前も死ぬぞ!?」

精神世界が崩壊していく。世界の崩壊は、その世界に潜入している二人の意識を飲み込む。

「つまらなかったですねぇ。最期くらいもっと面白いものを見たかったですよぉ」

「なんでだよ?」

「私はあの人のために死ぬと決めましたから。どうせこの命は長く持ちませんし」

惑わすつもりなどはなかったのに周りが虜になる、まるで孔雀のような彼女の血は、老化を止める能力の代わり、契約をすると急速な老化を与えた。

美しさは、一度人のものになってしまうと一気に失われてしまう。

孔雀のような華麗な羽も、今では……。

「そんな姿になったのか……」

崩れゆく天霞の精神世界で、天霞の眼前に現れた花蘭の姿は、ブレイクに連れ去られる前のものと比べると、年老いた老人も同然で、どう例えていいのか、言葉にはならず、ただ唖然とするばかりだった。

そして、とうとう世界から逃げ出す事は叶わなかった。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ( No.54 )
日時: 2012/02/15 17:27
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

   最終章——朱が朱となった所以——

 彼女が目覚めた時、村は朱く染まっていた。



 それはまるであの日のように。



吸血鬼の血によって埋め尽くされた大地の上に立つ冥は、朱色がよく似合う、吸血鬼の姫君。

 殺して飲み干せば楽になる。しかし、今足で踏んでいる朱は、彼女にとっては呪いも同じ。

 殺すだけでも満たされる。これはいつものことだ。
 血を見るだけで気持ちがざわつく。快楽で喉の渇きを誤魔化す事ができた。しかし今は——。

 吸血鬼の血がのろいの血でも、喉の渇きに堪えられなかった。

 なにしろ、ブレイクとシロー、そしてこの場所を包囲していた兵士達を屠るのに血を消費したのだ。

 彼女は両手で血だまりから液体をすくって飲んだ。


 ごくり。


「ぅぅ……。おい…………しい」

 喉の渇きを潤す——それは彼女にしてみれば、果実を搾って汁を飲むのと同じことなのだ。

 喉が一生枯れたままならば、生涯汚れた手にまとわりつく血を血で洗いながら加重を絞り続ければいい。

 姫君はそうして吸血鬼も人も見境なく殺した。

「もう……やめろよ」

 辛うじて精神世界から脱した天霞は、暴走した冥に何度も吹き飛ばされながらも、這って彼女の足を掴んだ。

「うるさい」

 冥は、自身が愛した天霞であっても突き放した。貪り喰う彼女はまるで吸血鬼だった。

「はは……あはははっ! 面白いね! 惨めだね!!」

継ぎ接ぎになった身体で嘲笑った。

「まだ生きてたの? しぶといわね」

「僕の血はまだ死にたくないみたいだからね」

ブレイクは血によって繋ぎ止めた肉片を零しながら、冥に近付いていく。

「本当に君は無様で、最悪で、糞で、残忍で、非道で……半端な吸血鬼だな」

 彼は笑って、笑って、笑って………………泣いた。

 彼が冥に浴びせた全ての言葉に自分が当てはまるからだ。
 だから彼は、自分が哀れでたまらなくなった。

 そして、泣き笑いをしながら、ぐしゃっという音と共に、硬化しきれずに血を垂れ流している足で、天霞の息の根を止めた。

 彼の責務はハーフの吸血鬼を殺す事だ。彼自身が花蘭の血を飲んだ事によってハーフの吸血鬼に近い存在により近付いたとしても、今も変わらない。

「天霞…………」

 もうどうでもよくなった。天霞は愛を持って彼女を止めようとしたが、それは——愛とは他人に生きる意味を求める事だ。

 もう冥には必要ない。

 彼女は王と呼ばれる存在を視認した時から、全ての記憶が解放され、存在の意味も、何のために生きているのか、その意味を知ったからだ。

 愛などもはや意味は持たない。今は、ただ王をこの手で殺すのみ。

「行かせないよ。仮にも彼は、僕の意味を作ってくれ——た……人…………なん……」

「じゃまよ」

 彼女は鎌を作り出し、ブレイクの命を狩った。

「後は……あなただけ」

「私はお前の父親だぞ? 殺すのか?」

「違うわ。あなたは……違う」

 記憶の中には確かに、眼前の男と瓜二つの存在が浮かび上がっている。そして、その男と楽しく遊んでいる姿がある。

 しかし、顔が同じだとしても、雰囲気が違う。

 そして、彼女が彼の顔を見た時にこみ上げた感情は、恨みだけだった。

 例え記憶が消えてしまっても、身体が、心が覚えている。

「何で殺したの?」

 冥の目が涙で曇り始めた。

「……私は雅が好きだったんだ。なのに、海鈴は私から奪った」

「陳腐なものね。そんな馬鹿げた理由で私は……」

 私達は……と良い、彼女は鎌を投げ捨て、刀を創造した。

「死ね」

 仇だからとか、純粋な理由は刀を創り出した瞬間に消え失せた。
 
 今はこみ上げる殺人衝動のままに——。

「いいものだね。君に似た少女に殺されるというのも」

 誰に言うでもなく、しばらくして、目から精力を失っていった彼は、天国の冥の母——雅に……あるいは雅の娘である冥に言ったのかも知れない。

「馬鹿ね」

王には自分に対して馬鹿という冥に、雅の姿を重ねていた。

「馬鹿…………だよ」

息を吐き出すようにして絞り出した声は、掠れつつも音を——彼の声を冥の胸に響かせた。

「あなたは父さんじゃない」

瓜二つの父親もどきに呟いた。






あの日。

 冥がハーフの吸血鬼として目覚め、彼女の父と母が死んだ日。

 二人の朱を創り出したのは、王だった。

 王の陰。

 それはいつまでも冥の心を縛り付けていた。

 解き放たれた今、彼女の意識は死を見つめていた。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ( No.55 )
日時: 2016/08/05 05:27
名前: *荊* (ID: De6Mh.A2)

   エピローグ


 天霞は叫ぶ。

「早く僕の血を吸え!」

 と、唾を飛ばして、血反吐を吐いて、醜く叫ぶ。

 彼女もまた朱で醜く染まった姿で、彼の首筋を噛みちぎった。

 また、彼も冥の血をすすった。

「ずっとこうしたかったの…」

首筋から口を離して愛をささやく。

「俺もだよ」

「え?」

 朱い口を首から離し、彼をみた。

 真っ直ぐ彼女をみている。

「僕は死ねない。でも……。人間になれば、この呪縛からも解き放たれる」

「つまり、あなたの血を吸えば……」


 ハーフの血を吸い尽くす事でこの呪いから解き放たれる。完全な吸血鬼になることができる。

 日光を受けられなくなる。が、しかしそれもまた嬉しく感じた。

 母親、雅と同じになれるのだ。

 血の飢えも軽減される。消える事はなくても、人間を貪るのだけは止められるだろう。

 この悼みは必要なのだ。

 彼女が彼女であるため。彼女が彼女であった証拠。

しかし、それは同時に彼が血を失った空っぽの人間になってしまい、すなわち死を表す。

「僕を人間にしてくれ」

でも、彼の最期をいただくのも悪くない。

「分かったわ」

 冥と天霞が交わった。

 一方は人間として生命を終え——天霞は冥の身体から崩れ落ちた。

 一方はこれからも朱く飾られた未来をいく。

これが血に塗られた彼らの運命…なのだ。


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