ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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世界と一緒。【完結しました】
日時: 2012/08/25 15:08
名前: 結城柵 ◆cSPwlATP2E (ID: 49KdC02.)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13174

↑リメイク+新作

参照1600突破! ありがとうございます!

おはようございます。僕は結城柵、現在は白沢祐と名乗っているものです。

エグい描写が時折入ります。

目次 >>130 >>131


完結記念企画更新一覧

05/25 ryuka様より世界のイラストを頂きました! >>119
06/15 番外【ストーカーは歌姫がお好き?】 >>121
06/16 If話【もしも、過去で世界が死んでいたら】 >>122
07/12 番外【天の川】 >>125
07/14 番外? 【僕らの新たな物語】 >>126
07/23 番外 【神代と星野】 >>128

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Re: 世界と一緒。 ( No.103 )
日時: 2012/04/14 14:53
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: 一気に更新しちゃいますね。

【世界が、僕だけになった日】

 目が覚めた。辺りは薄暗い。ひぐらしの声が聞こえている。
 ずきずきと痛む頭を抱えながら、僕はゆっくりと上半身を起こした。記憶にある場所とは違う場所にいた。

「竜胆くん、起きたのね」

 不意に、扉の方から、世界のお母さんの声が聞こえた。
 ゆっくりと首を傾げれば、強く抱きしめられて、ますます混乱した。なにがあったというのだろう?

「世界、おいで」

 優香さんが、世界を呼んだ。
 ぼんやりとしていた意識が、はっきりとする。そうだ、世界は? 亜蝉さんは? どうなったの?

「……」

 優香さんに促されて、僕の前までやってきた世界は、明らかに様子がおかしかった。
 静かにうつむき、恥ずかしげに服のすそを握っている。

「世界」
「……。はじめ、まして。竜胆くん」

 優香さんが、少し強い口調で世界の名前を呼ぶと、しぶしぶといった様子で世界が口を開いた。

「え?」

 世界の口からつむがれた言葉に、思考が停止した。
 はじめまして、って言ったの?

「実は、ね」

 優香さんが悲しげに言葉をつむぎ始めるのを、首を振って制止する。言われなくても、理解している。
 強いショックを受けると、記憶を失うことがある。どこかで、聞いたことがある話だ。我ながら、小学生らしくない知識だとは思うけれど。
 実際にあるとは、思ってもみなかった。

「世界。はじめまして。僕は、虚木竜胆。きみを……」

 不思議と、悲しくなかった。
 こうなってしまったのは、自分のせいだとも思った。守らなくてはいけないという責任感が、大きかったせいもあるかもしれない。
 それより、何よりも。

「きみを、守る人間だよ」

 彼女が、自分のものになることが、嬉しくてたまらなかった。

Re: 世界と一緒。 ( No.104 )
日時: 2012/04/14 15:07
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: 一気に更新しちゃいますね。

【守るべきもの】

 ああ、そうだ。僕が守らなくちゃいけないんだ。あの子を。
 僕の大切な世界を。

「死ねないよ、まだ」

 かすれた声で呟いて僕は、目の前で力を緩め始めた亜蝉を笑った。
 もう一度、手に力をこめようとした亜蝉の腹に、ナイフを突き立てる。数年前に、神代にも突き刺したナイフだ。

「ぼくは、まだしねないんだよ、あぜみ」

 酸素が足りず、ぼんやりとした頭をフル回転させて、言葉をつむいでいく。

「お前や神代が何度来ようが、僕は世界を守る。あれは、“俺”のものだよ」
「あぁ、今はそれでいい。仕方がない」

 僕の言葉に、笑う亜蝉の声。言葉。僕は、眉を寄せた。

「でも、きっとアイツは君を殺すよ。そうなるようになっているんだ。愛しい娘は、私を覚えていてくれたよ」

 亜蝉は、言葉を続ける。
 意味は、理解できている。聞きたくもない。

「うるさい。黙れよ」
「あぁ、いいさ。私が黙ったところで、未来が変わるわけではないがな」

 どこか満足そうに笑う亜蝉を睨みつける。なにが、未来だ。
 亜蝉の腹部を、強く蹴る。いらいらする。

「せいぜい、もがいててよ」

 誰に言ったのかわからない言葉を残して、僕はホテルを後にした。

Re: 世界と一緒。 ( No.105 )
日時: 2012/04/14 15:17
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)

【何処?】

 虚木が学校に来ない。
 無断欠席なんて、彼にはめずらしくはないのだけれど、今回ばかりは嫌な胸騒ぎがした。
 後でハジマリと、神代に聞いてみようと思った矢先のことだった。

「星野さん、いる!?」

 大声で叫びながら、神代が教室の扉を開けた。その表情には、焦りが浮かんでいる。
 何事だ、と立ち上がればあちらからみつけてくれたようで、こちらに走ってきた。

「大変なんだ、竜胆くんと依代さんに電話が繋がらないんだ! 家電もだよ。ちょっと思い当たるところがあるから、心配なんだ。星野さんからもかけてくれないか!?」

 神代の言葉に、いつもなら「お前だからだろ、バカ」と一蹴してしまえるのだけれど、嫌な予感はやまない。
 うなずいて、携帯をとりだすと、虚木へとコールする。

 1コール。2コール。3コール。

 粘り強く待っていたが、結局留守電センターに転送されてしまう。
 聞いていたらしく、世界ちゃんと家電にかけてくれいたハジマリも同じだったらしい。

「これ、まずいよ」

 神代がつぶやいた。
 今回ばかりは、同意せざるを得ない。

 私とハジマリ、そして神代は荷物を持つと、虚木の家へと向かうことに決めた。

Re: 世界と一緒。 ( No.106 )
日時: 2012/04/14 15:32
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)

【終わる、世界と二人きり】

 ぼんやりと、ソファーの背もたれに体重を預ける。
 カーテンは開けない。薄暗い静かなリビングに、時計の秒針の音だけが、響く。
 控えめに開けられた扉の音が、耳に入った。開けるとしたら、たった一人しかいない。
 そのたった一人の世界は、学校に行ったと思っていたのだけれど、違ったみたいだった。
 開けられた扉の前に立った世界が、小さく僕の名前を呼んだ。

「どうしたの、世界。おいで?」

 ソファーのあいている僕の横をたたきながら、何事もないかのように笑う。世界は一瞬、躊躇うような素振りを見せた。
 いつもなら、躊躇うことなく座るのに。なんだか、拒絶されたみたいで。どうして、かな。

「竜胆」
「なぁに?……わっ!?」

 ぐるぐると回る思考と共に、視界が反転した。
 僕の上に馬乗りになった世界の顔が、よく見える。なんでそんなに、泣きそうな顔をしているの? どうして右手に、包丁なんて、握っているの?

「世界、なに、それ。……それよりも先に、どいてくれないかな」

 不可解な世界の行動に眉を寄せながら、そっと世界をどかそうとすると、おもっていたよりも強い力で押さえつけられた。

「竜胆、あのね、愛してるよ。怖かった。痛かった。悲しかった。にくかった。でも、愛してるの。なのに竜胆、最近私を避けてるでしょ? あのね、竜胆のいない世界なんて、だめなんだよ。だから、一緒にいたいの。……だから、おともだちに教えてもらった方法で、一緒にいようと思って」

 必死に言葉をつむぐ世界の言った“おともだち”が誰かなんて、容易に想像できた。
 あぁ、本当だ、亜蝉。悔しいけど、あんたの言うとおりかもね。
 心の中で悪態を付いていると、世界はうつむいていた顔を上げた。

「っく……ふふ。あんたの思い通りになるのは癪だけどさ。これ、ハッピーエンドだよ」

 僕に、満面の笑みを向けている世界の頬を、そっとなでた。
 その瞳に映っているのは、紛れもなく笑顔の僕だけ。

「世界と一緒、か。素敵だね。ほら、おいで、世界。あいしてるよ」

 笑いながら、両手を広げる。

 さぁ、くそったれなこの世に、お別れを。
 守れないのは、少しだけ心残りだけれど。
 でも僕は、やっと、世界と……。

Re: 世界と一緒。 ( No.107 )
日時: 2012/04/14 15:44
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: 最終回。

【世界と一緒】

 ぴちゃりぴちゃりと水の音が、夕日の差し込み始めたリビングに響く。ひどく静かなその部屋は、ひどく鉄臭い。
 “彼女”は、無機質なフローリングにうずくまり、一心に何かを貪っている。
 そんな“彼女”の傍らには、赤黒く染まった肉切り包丁。それはもともと、台所に“彼”が隠してあった物。机の上に置かれているのは、時間の止まった時計。その横のコップには、真ん丸いビー玉のような青い瞳が二つ、浮かんでいる。その瞳の先には、“彼女”の姿。
 床一面に広まり、絨毯を染めている赤色と、本来ならば、体を支えているはずの白色のカルシウムの塊。

 “彼女”の口元に運ばれていく、貧相な赤色の血肉。

 “彼女”の口元には、満面の笑みが浮かんでいる。
 そこに、“彼”のすがたはない。

「えへ、愛してるよ、竜胆」

 それでも少女は、“彼”の名を呼ぶ。
 いとおしそうに、肉を喰らいながら、その名を呼ぶ。

「ぼくも、あいしてるよ、せかい」

 穏やかな、“彼”の声。
 それは、世界が生み出した都合のいい妄想か、はたまた。

「ずっと、一緒だよ」

 けれど、皮肉にも。きっと。

 少年の、清らかな世界は、守られた。


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