ダーク・ファンタジー小説

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【感想随時受付】罪、償い。 【第二章第四話part7up】
日時: 2013/08/07 17:03
名前: 鬨 (ID: UIQja7kt)

初めまして、鬨(とき)と申します。
此度私が投稿させて頂く物は、小学生高学年から中学生まで設定をしていたり、書き込んでいたものを実に六年ほどの年数を経て改善したものです。【小説家になろう】より移転したものであり、また当人であることをここに確認させて頂きます。
注意事項は特にございません。お目汚しになるやもしれませんが、精一杯書いていく所存ですので、皆様、どうか最後までお付き合い頂ければと思います。

追伸:コメントを頂ければそれだけで励みになります。飛び上がって喜びます。

第一章 紅の炎 >>36
第二章 二重の狩場 >>44

キャラ紹介
神無木来人 >>66
桜井明 >>67
>>68

コメントを頂いた方々
鈴月音久様【DISTANCE WORLD】
花様

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→@Ry_ipsf

Re: 罪、償い。 ( No.6 )
日時: 2013/02/01 18:27
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

 ————きん、こん、かん、こん。きん、こん、かん、こん。

 学園ドラマやアニメなどからしても、お決まりの鐘が終業の合図だ。ここのところ腐女子疑惑が浮上した新米の教師が、腕時計を確認すると愛想良く笑いながら言う。
「じゃ、これでHRおしまい! さっきも言った通り、これからしばらく部活は朝練だけだから、生徒は全員速やかに下校するよーにっ!」
 本当に愛想良く言ってHRを終わらせた教師のいつも通りの調子に安堵する。新米教師ともなれば、マニュアルぐらいのことしかこなせず、最初はこういう緊急事態にはあたふたするものだと思っていた。
 この担任が特殊なのか、それとも教師とはそういうものなのか。俺にはよく分からないが、良いことだとは思う。頼る対象である教師がおどおどしていたら、こんな事件の真っ只中だ。余計に混乱を煽るというものだろう。
「先に帰ってるぞ!」
 坂上達に声をかけてから、有無を言わさず一気に昇降口まで移動する。——連中に言ったら説教を受けること請け合いだが、もし八神の予想が正しいのならば、次、ないし近い内に俺が被害者になるかもしれないのだ。ならば吸血鬼じみた猟奇的な犯人が相手だ。大勢で行動するなんてことは、被害者を増やすことにしかならないと判断したのだ。
「……よし」
 手は打った。後はなるべく、大通りを通って帰るだけだ。さすがにいつぞやの、都内で起きた無差別殺人でもなければ街のど真ん中で襲いかかってくるような真似はしないだろう。
「……?」
 まただ。今朝は夢の中身が知れずもやもやした気持ちになったが、それに似た違和感を覚える。それは俺の中から沸き出るようなものではなく。まるで、蛇が巻き付いてきて、そのままとぐろを巻いているかのような。——まるで、自分の命が握られているような感覚だ。
 知れず喉元まで登った胃液を押し留め、俺は走り出した。無駄かもしれない、マズイことになるかもしれない。だが、俺はこのまま学園の校門前にいたらもっとマズイことになる気がした。

——違和感はやがて、形となって目の前に現れる。

 本能的に恐れを抱いたとでも言うのか。大通りをと心掛けていたにも関わらず、最短の近道である代わりに、車も人もほとんど通らない今の俺にしてみれば鬼門ならぬ鬼道に足を踏み入れてしまっていた。
 喉を生唾が通り、五感全てがガンガンと警鐘を鳴らす。間違いなく、ここにいてはマズイと警告をしている。
 まだ人生は半分も終わってはいないのだ。こんなところで死んでたまるものか。
 とりあえず屋内にはいるべきだ。この辺りには確か、本屋があったはず。……下手に外には出ていられない。正体不明の俺の死神には悪いが、待ちくたびれてもらうことにしよう。さすがに……、今は三時半過ぎ。ならば六時までだ。約三時間も待たされれば、通り魔も退屈で今日のところは引き上げてくれるはず……————いや、無駄だ。そもそも殺人の手口が強引に失血させるような常軌を逸した輩が相手。痺れを切らさせようものなら、苛立って後の殺戮の悦に浸るため、執拗に追い掛けてくることだろう。
 ならば、どうするか。……話は簡単だ。出来るだけ、敢えて遠回りして、そして走り続けて家へ向かう。かもしれない、という推測ではあるが、やり過ごすという選択肢よりはよっぽど現実的だ。
 ————決まれば、即刻実行だ。こちとら命がかかっている。生き延びるためならば、人様に迷惑がかからないこと限定でなんでもするのが人間というものだ。無論、俺もその例には漏れない。
「はっ……はっ、————はっ」
 全速力で足を動かし続ける俺は、情けないことに開始数十秒で息が荒くなってきた。帰宅部ではあるが、体力にはやや自信があったというのに。よりにもよってこんなタイミングで運動不足のツケが回ってくるなど誰が予想しよう。自分の怠惰な生活と運の悪さを恨まざるを得ない。
「く、そっ……」
 尚も走る。繰り返し交互に前後する両足を用い地面を踏み締め、生きているという実感を得ながらも付近に迫る恐怖から逃避する。

————息が、続かない。

 喉元に塩鮭を突っ込まれたような、妙な味が口の中に広がる。……鉄みたいだ。走り過ぎて喉が乾燥し、血でも出たのか。
 だが関係ない。多少の出血など、多少の……、心臓が張り裂けそうな感覚に、押し、負け……。
「はっ、はっ、はっ……ぁ……」
 ついに体力の限界。空を見れば、いつの間にか曇天と夕暮れの混じりあった幻想的風景があった。その中に墓標のように乱立するビルや建築物の数々。俺もまた、その中に直立する景色の一部。
 ……考えてみれば、今朝から俺の思考や行動はわけがわからない。少し普段からずれているだけで異常と感じたり、気配を感じただけで近くに例の事件の関係者が近くにいるだなどと考えるのは、疑心暗鬼、自意識過剰にもほどがあるというものだろう。
 そうだ。最初から俺は何から逃げていたのだろうか。そんな零と零、原点からして失念していた。……考え過ぎだ。
「ははっ、ははは……」
 呆れて笑い声まで出てくる始末だ。今まで俺はなにをしていたんだ。
ありもしない違和感を覚え、いもしない通り魔から逃げ、必要のない逃亡策を企てていたのだからお笑い草だ。自嘲のひとつやふたつ、したくなる。——というか、現にしている。
「随分遠クマデ逃ゲタナ。“マダ”一般人ダトイウ割ニハ、イイ足シテルミタイダネ」
「————……っ?!」
 不意に聞こえた声によって、ついぞ消えたであろう疑心暗鬼が一瞬にして戻ってきた。違和感どころか危機感まで覚え、全身の毛穴から冷や汗が吹き出る。本能的な恐怖が、“このままでは死ぬ”と囁いてくる。
だが、これも夢だ。振り返ってみれば、きっと誰もいない。昼間にも藍色の少女なんてありもしないものを見た俺なのだから、今日の俺の勘は全て信用ならない。
 絶対の余裕を持って、踵を返す。目も一度瞑り、落ち着いて物事を整理する。……次に視界に入るのは、誰もいない路地裏なのだと信じて。

Re: 罪、償い。 ( No.7 )
日時: 2013/02/01 18:27
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

「ナントナク分カッテイタンダロウ? ナラ話ハ早イ……ココデ————」
 次に聞く言葉は、何故か分かっていた。曰く、“死ネ”————断固拒否する。幻にそんなことを言われる筋合いなど……と考え、ゆっくりと目を開く。
「————死ンデクレ」
 予想通りの言葉を告げる、黒いマントじみたものを着こみ、頭から血色角のようなものを生やした異形が、俺を目掛けて弾ける光景が目に入った。
 見た目だけを言えば、まさに悪魔か鬼だった。
「……っ!」
 間一髪。咄嗟に感覚で一歩退いた俺の胸を、横薙ぎに漆黒の一メートルはあろう凶器が引き裂いた。
「ぎっ……、」
 飛び散る赤い雫。胸に走るのは、痛みというよりも熱いという感覚。焼きごてを押し付けられたような、今にも燃えそうな——これが、紛うことなき、激痛という言葉の意味だった。
「今ノハ偶然……いや。どちらにシテモ、キミハ危険————!」
「っ、……ちく、しょう!」
 再び俺を狙って振るわれる漆黒の凶器。その正体は、奴が振り回す直前に見えた。
 明らかな長物。黒の中に輝く白銀。怪物の黒い手の先に散見される黄色。線ではなく面を描いて、俺の制服を赤く染めた下手人。——漫画や見世物でしか見たことのなかった、日本刀と呼ばれる武装だった。
 刀は今度は袈裟懸けに振り下ろされる……確実に一撃で仕留めることを目的とした殺戮の技は、俺の左右の半身を二分しにかかる。
 それをまた、敢えて相手の脇へ転がることで事なきを得る。最初のは反射的に、今のはまったくの偶然。二度も命を拾えた。
 このままここで死ぬなど御免だ。まだ自分が何をしたいのかすら見つけてしないのに、そんな終わりは理不尽が過ぎる。
 ……思えば、こんな漫画みたいなところで死んだらどうなるのだろう。こいつはうまく死体を処理して、行方不明扱いにして俺という存在がなくなってしまうのだろうか。
「待て——行方不明?」
 もしかしたら、兄貴や親父もこいつに……?
「この、野郎……!」
 そう考えると目の前の死神が憎たらしくてどうしようもなくなった。ごみ捨て場に投棄された鉄パイプを引き抜き、一か八か。大降りで悪魔を叩きに向かう。死にかけている以上、相手が何者だろうと構ってはいられないのだ。

 ————カランッ。

 鉄が地面に落ちる音がする。
 足元を見ると、たった今握ったパイプの半分はあろう長さの鉄塊が落ちていた。咄嗟に自分の、武器とはお世辞にも言い難い装備を見ると……長さが、半分になっていた。
 相手の方を見れば、下卑た笑みを浮かべた悪魔。その手には、わざとらしくちらつかせた刀が一振り。
「っ……!」
 まさか、脆いことでも有名な日本刀で鉄パイプを断ち切ったとでもいうのか、この悪魔は。まるで動きも見えなかった……つまり、もはや人間技でない、ということ……。
「ぁ、……————」
 ……死ぬ。こんなわけのわからない奴に殺されて。父親の仇も討てず、兄貴に報いることもなく、こいつの目的を知ることも許されず。
「————……」
 それは落雷のようだった。心臓目掛けて一突き……迅雷のように迸るものは、人間では知覚できるものではないだろう。知覚できなければ対処もできない。
 対処ができないのならばこのまま——……、

 ————刀以上に殺意を孕んだ冷気が走った。

 決して比喩ではなく、空気が凍てついていく。俺の胸を貫くはずだった刀は胸中になく、
「ぐっ、ぎゃぁぁあああああ!?」
 声にすらならない、絶叫が響き渡ったのだ。
 肌は刺されるような痛みを訴えていたが、不思議と苦痛でもなければ、恐怖を煽るものではなかった。むしろ、それは————
「呆れた……勝てるわけもない相手に、自分から近づくなんて。殺して下さいって言ってるようなものよ、貴方」
 曇天の中。わずかながらも射し込む月の光に濡れた少女は、凛とした声で新たに訪れた夜の静寂を破りながら藍色の髪を靡かせていた。
 声が出なかった。あまりの唐突な出来事に、俺は呆気に取られていたのだろう。——それは、昼間に学校で見た少女だった。
「運が無かったわね。今まで何もなかったのが不思議なぐらいよ、こんなに匂わせてれば消しに来るのが普通」
「なん、——……」
 何を言っているのだろう。こいつの言い分では、俺のことを消しに来ないほうが異常だと言っているように聞こえる。
「お前は、一体……」
 なんなんだ、と。聞きたいコトは山ほどある。あいつは何者で、俺はなぜ狙われて、おまえは何故俺を助けてくれて、——そして最後に帰結するのは、やはり。お前は、何者なのだ?
 俺が問いかけるまでもなく、それは再び。鈴の音のように透き通る声で言う。
「————能力者。あなたの、同類よ」

 奴は一言。こんな異常な連中と俺が、同類であると言い切った。

Re: 罪、償い。 ( No.8 )
日時: 2013/02/01 18:33
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

コメ返し

>ねっくん

やあ、こちらでは初めまして(^ω^ 三 ^ω^)
早速のコメントありがとう! まだ転載作業の途中で、誤字脱字を少し直していく程度の更新だけど、……頑張っていきマスw
まだまだひよっこだけど、よろしくね!

第二話−異形と少女と槍と弓− ( No.9 )
日時: 2013/02/01 19:59
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

 ——深夜。
 雲が風に流され、月を覆い隠し始めた空をわたしは見上げた。——明日は曇りだろうな、なんてことを感慨もなく思いながら、路地裏を一人で闊歩する。
 この街には、異世界の住人やわたしの同類が数多く住み着いている。……それも、同類達はほとんどが自分の力を扱えず、気づいていない状態だ。言ってみれば、わたしは自分でスイッチを入れることのできる電気式ポットで、今の連中は他人に動かしてもらえないとお湯すら吐き出せないやかんと言った具合だ。しかも、自分で湯を沸かすこともできない。
 少し小突けば、何人かは自力で“そういったこと”が出来るようになるだろう。その最有力候補が、あのぱっとしないヤツ。

 ————今から話は、千五百年前に遡る。
 当時は様々な場所で自分たちの領土や格を決めるために争いが起こっていたという。その中で、自分達に何か不思議なことができれば、と無力さを呪い続けた人達の共通意思が原因で、わたし達人間に異能が宿るようになったのだとか。
 尤も、力を与えられたのはごく小数。わたし達は自身に与えられた力を、同類以外には隠して生活していった。
 戦時中こそそうした力は重宝されるが、なにしろ人間が種も仕掛けもなく火花だとか水流だとかを操れるのだ。普段は恐れるべき対象として、迫害されるべき存在。こうした“常識から外れた者”は自分の本来の力を隠して生活していかなければならない。でなければ、社会に適応することができず、適応しようとしても強引に弾き出されてしまうのだから、こればかりは致し方ない。
 そういった力を得たわたし達は、各々のために力を行使し始めた。ある者はただ節約目的でぽんぽん力を家の中で安売りするやつもいれば、自身が異能を扱えることを吹聴し、傭兵として荒稼ぎするやつまで。大抵後者は後々に使われた派閥に、危険因子として排除されるか、それを防ぐために抗戦するのがオチなため、最近はそういった馬鹿の姿もない。何もわたし達は血なまぐさい争いが好きなわけではないのだ。
 兎角、こうした異常現象は秘匿されるのがわたし達——『能力者』の暗黙の了解となった。
 科学的なモノが介入する余地はないが、原理としては自分の精神力や肉体エネルギーを力の源にして吐き出している。だから、そうした力は魔力と表現しても差し支えはない。だからわたし達を、かつて魔術師だとか、錬金術師だとか表現した連中もいたらしい。過去に非科学的なことをやってのけて大成したヤツは、たいてい能力者だ。尤も、本当に魔法とか錬金術とかがあることも否定できないから、全部が全部そうとは言い切れないけれど。だからイメージ的には、杖とか箒とか、魔方陣を扱わないタイプの魔法使い——そう考えても問題はないのではないだろうか。
 ……しかし、そうしたわたし達能力者の誕生は良いことばかりだけではなかった。
 急な力の誕生は、この世界そのものに歪みを生んだ。当時能力が生まれた時には、どこもかしこも人間が荒み、動物達は捕食され、木々は切り倒され、歪みを押し付ける先がなかったのだ。
 だからこの世界は、もう一つ似た世界を作って、そこに新たな住人を生み出した。
 わたしも深い話は知らない。だけど、そいつらは生まれた時からわたし達能力者を遥かに上回る力を持った、動物と人間の姿を行ったり来たりできる怪物だった。しかも例えるならば、……そうだな。闇だとか精神破壊だとか、そういう五大元素に一切関連性のない力を用いていた。
 わたし達能力者は、“この世界”によって力を与えられた。だから当時のわたし達の世界では、自然現象を誇張した場合に見られるような異能しか、与えられることはなかったのだ。
 だが、反対に。異界の住人達は五大元素の能力を扱わないようだった。わたし達がいることによって生まれた歪みを背負って誕生したのだから、それは当然といえば当然だが。
 中には人間の文化に憧れるやつもいて、能力者達を見かければ友好的にする異界の住人もいた。だけど大半は、自分達の誕生そのものを恨んだ。その怒りの矛先はもちろん、そういった歪みを自分達に押し付けた人間達————、
 わたし達能力者は上位になればそちら側へ通じる門を開くことができる。異界の住人達も然り、強ければ強いほど巨大で、多くの仲間が通れる門が開ける。
 恨みは募り、不和はやがて、互いを潰し合う闘争へと姿を変えて、ひっきりなしに互いに門を開く能力を悪用し殴り込んでばかり。やがて双方の中で急成長を遂げたやつらが温厚だったおかげで、喧嘩両成敗、両方を無理やり和解させたとのことだ。
 その後、能力者や異世界の住人のハーフもちらほらと。彼ら異世界の住人は人間の姿も象ることができ、双方が納得のうえで恋愛をすることもあった。
 結果として、昨今の“こちら側”は自然現象の誇張である『自然系能力』は能力者が、歪んだ力である『不定系能力』は異界の連中が、という常識が通用しなくなった。ハーフがいることも理由のひとつだが、過去にひっきりなしに門が開かれた影響で、互いの世界の法則が入り混じってしまい、両者はソレに感化され、互いの世界にしか本来有り得ない力を持つ者も出てきたのだ。
 ————さて。そんな異界の連中とわたし達の見分け方は、生まれた時から既にとんでもない力を持っていた場合大抵は前者。そしてある程度力が自身に馴染んでいるやつの場合は、自分と似た気配であるか違う能力持ちの気配かを判別できる。わたし達異常者だけが扱える、レーダーのようなものだろう。この二つが能力者か異世界の住人かを見分ける方法だ。
 戦争を終わらせた過去のお強い人のおかげで、今は能力者も連中も仲良くやっている。けれど——かつて異界の連中……ああ、思い出した。“黒”(クロノス)っていう種族だった。そいつらの中には、能力に目覚めていない能力者達を片っ端から殺す連中がいた。ソレに誘発されて、殺しを平然とする能力持ち達も存在し、最近は新しい能力者が減少傾向にある。

 だが————そんなことは、わたしが赦さない。

 仮にもわたし達は同じように表社会から隠れて、共に生きていくべき仲間なのだ。それを娯楽やゲーム目的で潰して行くようなことは、許されざる悪徳だ。殺されそうになって、自分から諦めるような軟弱者を助ける義理はないけれど、生きようとしているヤツを殺すなんて、絶対に許さない。
 正直に言おう。わたしは去年までの記憶がない。誰かから、親元に引き離されたという記憶しか残っていない。……いつ、こんな力に目覚めたのかも分からない。ただ自分の名前が、桜井明(さくらいあかり)なる平々凡々で面白みもないものであることぐらいしか思い出せないのだ。
 きっと、能力者や“黒”達を追いかけていけば答えは見つかるだろうと信じているのも、こうして放浪し続けている理由でもある。こんな知識しか最初の私には残っていた無かったのだから、そうとしか思えない。そう、信じている。
 この論が正しいと仮定するならば、わたしが最近行っている能力者の救済は一石二鳥だ。そして……わたしはこの街に、今日やってきた。きっと今日こそは、連続失踪事件の犯人を見つけ出すことができるだろう。なにしろ、最近はこの街で連続失踪事件や連続殺人事件が繰り広げられているのだから。
 この街に来てみたところ、今まで消されなかったのがおかしいぐらいに力に目覚める兆しのあるヤツを見つけた。それもまた、今からわたしが追いかけようとしている少年だ。
 とりあえずはこいつをつけていれば、やがては探るべき相手が見つかるだろう。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.10 )
日時: 2013/02/01 20:03
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

「……さて、と」
 今日は昼間から追いかけておいて正解だった。こいつの家を発見できたことだし、明日はこいつを朝から一日中追いかけておけば、異常にも遭遇できるはずだろう。
 少年が玄関の戸口から入っていった家をじっと睨み、足に思い切り力を込めて飛び上がる。ふわりとした感覚に全身が包まれて、本来なら有り得ない十メートル以上の跳躍を可能にした。
 これが、能力の使い方。異能を操る者の力が強ければ強いほど、その者の身体能力も能力を用いているときに向上していく。
 わたしの記憶があるのは……一年前からだ。その頃はふと、路地裏で目が覚めて、なんでか知らないけれどこうした異常なことばかりの知識がぐるぐると渦巻いていた。自分のことは名前しか分からないというのに、知らない知識ばかり頭の中にあって、正直最初は困惑した。
 なんとかわたしはこうして生きていられるけれど————きっと、幸運だったのだろう。
 そんな不幸中の幸いを噛み締めながら、わたしは少年の家の屋根へと着地した。もう雲に隠されつつある月を眺めながら、静かに私は目を閉じ、天井に腰を掛ける。
 ……明日からは、本格的に動き出さなければならないのだ。今はここで、休まなければいけないだろう。
 ————意識は昏い海へ沈んでいく。再び活動するため、休息を求める睡眠というよりも。まるで、ゆっくりと死へ向かうかのような眠りだった……。

  *  *  *

 ——夢を見るようなこともなく。わたしという意識は、何の苦を訴えることなく蘇生した。
 まずかった。久々にまともな睡眠を取ったために、少し寝過ごしてしまったようだ。家の中の気配を探ってみるが、既にあいつの気配はそこにはない。きっともう学校へ出てしまったのだろう。
 幸い今日は、最近の事件の影響で人通りが少ない。度重なった幸運に感謝しながら、わたしは屋根伝いに家と家を飛んで行き、道のりという本来の距離を長くする概念を取り除いていく。
 顔に当たる風は、この真夏の中に涼しさを与えてくれてとても心地良い。髪をかきあげて、そのままヤツの気配がする方向へと向かう。
 能力者や“黒”は普段、自身から毀れる異能の力をカットしている。でなければ気配がモロバレで、敵対者には簡単に見つかって叩かれる。闘っている最中で、ようやくそれらが垂れ流しにされる。遮断中の気配を読めるのは、感知系の能力や道具を持っているやつだけだ。
 だが、わたしにはそういった力がない。なのに何故分かるのかというと、原因はあいつにある。
 能力者は自分の意志で気配を遮断しない限り、力を自覚してなかったり、まだ使えるようになっていなくても気配を凄い量で垂れ流す。無駄に自分の力を吐き出しているのだから、中途で体調不良を起こす者もいるらしい。
 つまり——、今のあいつは力のあるヤツからすれば、格好の誘蛾灯ということだ。
「せいぜいわたしが辿り着くまで、ヘンなのに会わないでよね……」
 屋根を飛び続けて、わたしは一人呟いた。
 あれだけぷんぷんと匂いを漂わせているのだ。蛾(れんちゅう)だけでなく蝿(かりゅうど)も呼んでいるかもしれない。
 最後にわたしは、思い切り足に力を込めて、朝日に照らされながら飛び立った。

  *  *  *

 学校——、そう門に記されていたのを見つけた。
 学び舎とは総じて、関係者以外が入りづらい場所。わたしが今ここへ入っても、怪しまれることだろう。そして能力者達もこんなところにいたとしても、わざわざ人目につく場所で暴虐を尽くすこともないだろう。自身の存在そのものを秘匿せねばならない“黒”達ならば尚更だ。そのため、学校というところは意外と強固な要塞なのかもしれない。
 時計を見ると……十二時半過ぎ。昼食を取っている頃だろうか。わたしは学校という場所の記憶もない……ただ、食事をしていてもおかしくはない時間だと思っただけだ。
 食事とは基本的に室内で摂るものだ。なら、敷地内に入っても、校舎に入らなければ誰かに鉢合わせするようなこともないはず。————少し、あいつがどうしているのか様子見をすることにしよう。
 気配はとりあえず、一階にいるのが確認出来た。この学校には今のところ、あのぱっとしないやつぐらいしか目覚めそうなヤツはいないことも分かる。それとも、ここにいる力を持つ者は、あいつ以外全員が能力に目覚め、自覚し、正体を隠しているのか。
 どちらにせよ、現状わたしが目をつけるべき相手は一人しかいない。
 目的は決まった。わたしは意を決して、然るべき相手のいる部屋——の、窓の外へと進んでいく。
 がさがさ、と。中庭を掻き分けて進むわたしは、我ながら少し無粋だ。こんな平和なお昼時に不法侵入など、本当はしたくなかった。
 窓の外からじっと見てみると……ああ、いた。あのなんか毎日毎日退屈で仕方ねえよ畜生って言いたげな、不満な顔。何度見ても、そんなに退屈ならとからかいたくなるタイプだ。
「ふうん……」
 近寄れば近寄るほどに信じ難い。まだ目覚めていない能力者の割には、随分と大きな力を持っているようだ。こんな法外な力を持っておいて、何故今までこいつは放置されてきたのだろう。わたしが殺戮者と同じ考えを持っていたら、この街で真っ先に殺しにかかるというのに。
 じっと少年の顔を見つめる。……なんという名前なのだろう。窓越しからだと、何を言っているかも聞き取りづらい。向かいの席には二人の男女がいて、深刻そうな顔をして会話をしていた。
 最近この街で起きている事件は、一般人達にも分かるほど明るみに出ているのだろうか。それとも、別の事件か。わたしにはあまり関わりのないことだが、少し気になる。
「って、やば……」
 わたしの視線に気づいたのか、あいつはこちらを向いて、事もあろうかわたしのことを指差しながら向かいの二人に何か言っている。見かけない顔だとか言っているのだろうか、余計なことをしてくれたものだ。
 知れず舌打ちを漏らしながら、やつが顔を横に背けてる間に、一気に足に力を込めて飛び上がる。そのまま力を用いて、一気に壁を駆け上がった。
 ある程度の速度さえあれば、壁だってこうして水平に走れるものだ。窓を踏みつけないように気をつけないとならないが————と、思案しているうちに一気に屋上へ。
「危ない危ない。見つかるところだった……」
 自分でも大げさと思うほどに肩を竦めて、屋上の柵を飛び越えながら、下を見下ろす。
 ちょうどそこには、あいつがわたしがいなくなったことを不審がって、窓から顔を出している光景があった。
 ……あれ。もしかして今、わたしは本当に見つかるかどうかの瀬戸際だったんだろうか。だとしたら反省、次からは追いかける場合、絶対見つからないような方法を取らないと。
「ま、ここにいる間は安全ってことよね」
 そのまま屋上にいて、退屈な時間を数時間、転寝(うたたね)して過ごすことにした。
 ——で、しばらくして目が覚めたら、いつの間にやら夕暮れ。なんというか間抜けな鐘の音が聞こえてきて、くすりと笑い、起き上がることにした。
「……さてと。動きはまだないみたい、……?」
 ……異変が、あった。動きも既にいくつかあった。——あの少年はかなりの速度で、移動している。
 不思議に思って校門を見てみると……ああ、あの馬鹿。無闇にヘンな方向に走っている。絶対に妙な気運に当てられて、冷静な判断力を失っている。
 ——と、いうことは。本当にヤツは、なんとなく違和感を覚えるぐらいには目覚めかけているということだろうか。だとしたら……今日中に何かを呼び寄せるやもしれない。
 なんというか短絡的な結論の導き方ではあるけれど、わたしにとっては好都合だ。ああいうタイプは事情を話せばしっかりと順応してくれるし、わたしは能力者狩りを見過ごしたくない。そしてわたしの記憶も、“そういうこと”をしているやつらに聞けば少しは手がかりが掴めるかもしれない。
 ……やることは決まった。昨日からずっとしていることではあるが、あいつを追いかける。
「……近いわね」
 学校へ向かった際と同じように、わたしは屋根を伝って駆け続ける。
 すると——やはり、いた。あいつを追いかけてきているヤツが一匹。しかしこの相手も随分な三流らしい。……“黒”、か。わたし達とは違った匂い。だけど気配を隠すことすらできないなんて、よほど弱い相手らしい。
 だが、いくら三流とはいえ能力が使えない一般人相手に、“黒”の存在は致命的だ。生まれた時から低級の“黒”でも拳銃の弾丸ほどの惨状は両手両足で当然のように生み出せるのだ。一般人なんかが武装したところで、勝てるわけもない。……目をつけられれば、近くに能力者の助けが無かった場合、その時点でお終いだ。その“死”の気配がまた、近い。限りなく近い。多分わたしとは違う方角であいつをつけていると見てまず間違いないだろう。


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