ダーク・ファンタジー小説

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【感想随時受付】罪、償い。 【第二章第四話part7up】
日時: 2013/08/07 17:03
名前: 鬨 (ID: UIQja7kt)

初めまして、鬨(とき)と申します。
此度私が投稿させて頂く物は、小学生高学年から中学生まで設定をしていたり、書き込んでいたものを実に六年ほどの年数を経て改善したものです。【小説家になろう】より移転したものであり、また当人であることをここに確認させて頂きます。
注意事項は特にございません。お目汚しになるやもしれませんが、精一杯書いていく所存ですので、皆様、どうか最後までお付き合い頂ければと思います。

追伸:コメントを頂ければそれだけで励みになります。飛び上がって喜びます。

第一章 紅の炎 >>36
第二章 二重の狩場 >>44

キャラ紹介
神無木来人 >>66
桜井明 >>67
>>68

コメントを頂いた方々
鈴月音久様【DISTANCE WORLD】
花様

Twitterアカウントはこちら
→@Ry_ipsf

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.26 )
日時: 2013/02/05 16:13
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)


「————……、!」
 焔は覇気を高め、同時に自身が握る刀から、灼熱の炎が吹き出した。
 今まで以上の出力を以ってして。——眼前の少年を、全力で排すべき敵として認めた女は、弾けるように少年へと飛び掛り、今まで以上の速度で打ち込んでいく。
 さすがに強力な能力者である来人であっても、経験の差を完全に埋めきることはできない。現に太刀筋は滅茶苦茶で、そのくせ強いから不気味だったのだが——本気を出した今の彼女を前にして、片腕で打ち合っていた彼も、今度は両腕で剣を握って応戦に出る。
 頭上から飛来する日本刀に、剣を用いて弾き、応じる。火花はまるで私が打ち出した氷の結晶を赤く染めたもののように、ひらひらと舞ってはやがて消えていく。
 空を斬る一閃は、少年のもの。ふ、と音を立てて大きく横へ移動し、攻撃を回避することに成功した焔は、既に横薙ぎに彼の体を叩き切ろうと刃を構えていて————、
「……!」
 されど、咄嗟に出した右手は女の腕をしっかりと掴み、それ以上の行動を許さない。
 ……確かに動きは素人のものだ。それでも、理に適った対処。気づかない間に、来人の体もところどころ、空中に残る火によって焼かれている。これ以上のダメージを受けないためには、刀を振らせないことが第一の条件だ。自身が相手よりも速く動けるというのなら、その攻撃を最初から潰してしまえば良いというわけだ。
 完全なる静止。腕を掴まれてしまえば、刀を振るうことはおろか、拳を振るうことすらままならない。焔はこの煮え切らない状況にやや苛立ちを覚えたか、顔を顰める。ただ、それだけ。
  ——そうだ。腕を封じられては刀は普通、振るえない。だが、飽くまでも……それは普通ならば、だ。この常識などそっちのけな闘いの中、そのようなセオリーは通用しない。
 一時驚愕に表情を歪めていた彼女は、あろうことか刀から手を離し、かしゃり、という音と共に刃を地面に弾ませた。そして、それを右足で蹴飛ばす————超常的な身体能力を持つ私達、能力に携わる者による蹴りは、一度弾んで倒れかけた刀を、再度武器に転じさせるに十分過ぎた。
 刀は来人の足元で弾丸となり、零距離にて高速の閃光とも言える一線を描き、少年の腹部を突き刺す……、 と思いきや、直前に、剣で弾かれ、軌道を逸らされた。先程からの攻防を見るに、少年の挙動一つ一つが、全て女の一枚上をいっている。まるで、そうなるように何かから強制されているようだった。
 無論、そんな力が存在するとしたら、神か魔王の力でも借りねばなるまい。……私はすぐその思考を追いやって、このまま見ていても仕方がないという結論に至り、二人の闘いが繰り広げられている屋上の、出口たる扉へと一度離れ、弓を構える。
「……」
 狙うタイミングは一瞬。来人が焔と距離を取った、その刹那の間に、追い討ちとして攻撃を加える。
 ——打ち合う二人の剣士は、一目見れば刃の打ち合いに措いては拮抗しているように見えるが、実は違う。来人がいくら意識を失い強引に闘っているとしても、戦闘の理論が体に馴染んでいるわけではない。焔には決定打を与えることができず、少しずつではあるが、体にかすり傷を負い始める。
 先程までの焔を圧倒していた時間は、あの女が能力に目覚めたばかりの少年が、自分と切った張ったできる程の実力を備えていたことに対する驚きから、動きを鈍らせていたに過ぎない。
 このままでは……負ける。
「まだ……」
 タイミングがなかなか図れない。
 失敗は許されない。これ以上来人を不利にさせてしまえば、敗北するのは間違いなくこちらだ。——私は主力を力に目覚めたばかりの少年に預けねばならぬ己の非力さに歯噛みをし、しかし照準を女から離すことはない。
 絶対に当てねばならない、という強迫観念が己の心を焼き、冷静さを損ないつつあるが。今はむしろ、下手に冷静でいるよりも、相手を感情的に打ち抜いてやったほうが成功する気がした。
 何より——、
「守る側と守られる側、逆転していちゃ格好がつかない……!」
 さっきは自分こそ愚かだった、などと思わされていたが、やはりここは二人で協力してヤツを倒すことが何よりも大切だ。いくら彼が強かろうとも、経験の差を埋めきることは難しい。そして見るからに今の彼は正気を失っている。ここで、私が出ずしてどうするというのか。
 そうこうしている間に、ついに戦局は動いた。鍔競り合いをしていた二人は一度やや距離を取り、再び刀と剣、和洋の両刃が軽音を鳴り響かせ、火花をぶつけあう。
 ——あと少し。
 どちらかが後退した、その直後が狙い目だ。欲を言えば、どちらかが大技を撃つために大きな隙を作った一瞬。
「……」
 焔が刀の尖端を押し込むように来人へ向けるも、それを彼は剣の腹で叩き落す。落ちた刃から滑らせるように切り上げ、焔の追撃を押さえ込みながら少年は反撃へと転ずる。
 しかし、そこはやはり歴戦の剣士たる彼女のほうが上か。紙一重のところで切り上げに対し、少年の右腕を弾いて、斬撃の軌道を自身より大幅に逸らす。
 この間、僅か二秒足らず。両者は一歩も相手へ譲ることを知らず、効率的に敵を切り殺すことだけを考えている。少年に至っては、考えるという機能すら損ない、ただただ相手を殺そうという殺戮機械へ変貌しているのだ————……。
 激しい鉄音を立て、大きく振るわれた来人の袈裟懸けの一撃を、女は刀を振り上げて弾き返す。
 両者とも腕を大きく上へと広げた状態。ここからの追撃は、どちらも振り下ろしによる一刀両断を狙った物以外に有り得ない。
 ——それを理解していたのか。二人は同時に後ろへと退き、一度戦局は振り出しへと戻る。
 焔は握った刀を剣尖が相手の胸へ至るよう高度を調節し、左足を下げて踵を上げ、右足を前に出す。ちょうど、日本の侍文化を継承した武術、剣道に措ける中段の構えに近いものがあった。
 少年もまた、腰を低く落とし、剣を腰だめに構え、いつでも切り上げによる攻撃ができる準備をしている。
「……————!!」
 私が声を漏らしたと自覚するのと、来人が更に構えを深くするのは同時だった。
 焔の刀に灯されていた炎が、より一層大きく燃え上がる。めらめら、どころか、轟々と猛る炎刃はこれより発動する一撃の強力さを物語る。
 忘れられているやもしれないが、ここはデパートの屋上だ。駐車場ではないために車のガソリンへ引火し、爆発することはないだろうが——それでもこんなところで大技を使われると、間違いなく人目につく。
 能力というものは、出来る限り秘匿しなければならない。もし多くの一般人に異能のことがバレれば能力者達は少数派、故に西洋に措ける魔女狩りのようなことが起こっても不思議ではない。
 ——この闘いのことだけではない。今後の世界への影響も考えて、この一撃は、私がなんとしても阻止しなければならない。幸い今は、来人も彼女からは大きく離れていて——、
「……!!」
 それすらも、許さなかった。
 来人の姿が私の視界から完全に消失したかと思えば視界の隅で閃く光があり、遅れて眼を動かすとそこには剣を振り上げ焔が放とうとした“大技”を、刀を打ち上げて妨害する光景があった。
 加え、そのまま刃は振り下ろされる。
 鈍い音、そして飛び散る紅色を突き破り、一本の剣が姿を現す。
 間違いなく、剣による一閃があの女を完全に捉えたのだ。
 焔が顔を歪めて腹部を抑え、大きく後退する。
 来人は追い討ちをする様子もなく、剣を地面に突き刺して相手の様子を伺うだけだった。
「……二日後の深夜十二時。貴方が通う学校で待ちます。次は絶対に、仕留めます。それまででしたら準備を行う期間をお互いに与え合いましょう。——逃げようとしても無駄です、絶対に逃げることはできませんから」
 ゆっくりと。本当にゆっくりと足元から解き放たれた炎に包まれていく。苦悶の表情はいつしか消えて、純粋に好奇心の色を覗かせた顔つきで、あいつは来人を見つめて——やがては完全にその場から姿を消した。
「その人の力、興味が出てきました。私も万全の状態で挑もうと思います」

 ————不吉な、言葉を残して。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.27 )
日時: 2013/02/05 16:14
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)


「……そう、か」
 桜井の説明を聞いて、俺は溜息を吐きながら洗面所の壁に寄りかかった。
「ええ。あなたがほとんど一方的にあいつを追っ払っちゃった。今回の件はわたしが貸しにするどころか、助けられちゃったわね」
 浴室からシャワーによる水音に紛れて桜井の声が洗面所にまで響いてくる。
 俺の家は洗面所のすぐ後ろに浴室があり、俺はシャワーを浴びる順番待ちというわけだ。ちなみに言うとバスタオルはさっさと浴室の中に放り込んでおいたので、こういうときの“お約束”は起こり得ない。
「明日から確か学校が休みよね」
 今度は浴室にいる桜井のほうから声がかけられた。然り、明日は土曜日で明日から土日の二連休なのである。
 俺は「ああ」とだけ返すと、少し間を置いて、申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
「悪いけど、明日も時間……もらっていい?」
「そのつもり。こんな状況じゃ、あいつらの関連でもなきゃなにをしても集中できないだろうしなあ」
 殺されるかもしれないこの状況だ。もし不用意に外に出て焔の一派とは違った者に襲われでもしたら、周囲の無関係な人間まで襲撃されかねない。そんなことは絶対にあってはいけないし、もしもそんなことがあったら俺は俺を許せない。
 だから、桜井の言葉はある意味ありがたかった。何かをさせられるのは明らかだが、外にいって誰かを巻き添えにするよりは何倍もマシだ。
「そう。じゃあ、明日はわたしがあなたを鍛えるわ。まだ自分で力を使いこなせてるとは言えないけど、気構えぐらいは学んでもらわないと」
 風呂場の扉を開けながら、桜井はしっかりと宣言した。——安心しろ、やっぱりバスタオルは巻かれている。
「じゃあしっかり頼むぜ。明後日までにはあいつをぶっ倒せるぐらい強くならないとな!」
「ええ」
 互いに頷いて、俺達は目標を持つことになった。——もちろん内容は、打倒焔、である。


 朝が来た。
 と、唐突に言っても何がなんだかサッパリだろうからざっくりと説明させてもらうとしよう。
 まず昨日懸念していた、学校を休んだ上での知人との遭遇はなんとか回避できた。と言うのも互いにあれだけ傷まみれで、あんな格好で外をぶらつくのは人目につくということで、桜井が俺を抱えて屋根上を何度も何度も飛んでだいぶショートカットをして家に辿り着いたのである。
 ちなみに買ってやった服を早速刻まれてしまった件については、何度も何度もこちらに謝ってきたので、あの風呂場での会話の後、俺が縫い直してやった。
 もちろん例の風呂場で何かイベントが起こるはずもなく——起こることがないよう前もって予防した賜物である——修行の約束を二人で取り付け、夕飯は俺がしっかりと用意してあいつにも食わせ、俺は自室で、あいつは妹が使っていた寝室に布団を敷いて寝かせてやった。
 それでようやく新しい朝が来たわけである。以上、昨夜の説明せねばならないことの消化である。
 朝食もまたしっかりさっさと済ませた俺達は、いまはわざわざ隣町の海にまで行って調達してきた手ごろな棒切れを使って稽古をしている最中。
「能力に最初から頼りきった戦法じゃ、自分の能力と相性が悪い相手と戦った時、抵抗すらできずに負けることになるわ」
 という桜井教授年齢不詳の理論の下、一日付けの修行が開始された。
 最初は随分簡単なもので、あいつが軽く放り投げた石を木の棒で叩き落とすというものだ。あいつ曰く俺が能力を使ったと同時に抜き出したのは剣だったらしく、その練習ということ——らしい。らしいと言った理由は、昨日の会話からお察しの通り、俺は自分が能力を使った自覚がないということだ。
 で、訂正しよう。
 ほんの少し前に俺は石を叩き落すだけの今回の修行を簡単だ、と評したが、間違いであったことをここに示す。
 考えが甘かったと俺は自分を責めずにはいられない。まずはスタートステップ、ということで桜井も加減をしてくれるかと思ったらそんなことはなく、フェイントまで仕掛けた上で三連続で投石を行ってくることもザラにある。
 これがただの華奢な少女から放り投げられた石ならまだかわいいものだ。
 考えて欲しい。目の前にいるのは昨日、人外である“黒”の一体——と呼ぶのが不適切であると言う者がいるならば一人に改めよう——である上に、『紅の炎』などという大層な二つ名まで持っている上級の“黒”とほぼ互角に闘った『能力者』の一人である。それが投げた石とは、即ちプロ野球選手の投球に勝るとも劣らない剛速球ならぬ剛速石だ。それを今まで普通の生活しかしてこなかった高校生が、いきなり全て叩き落せだなどと土台無理な話である。
 修行開始からすでに二時間が経過しているが、未だに俺が打ち落とせたのは十を越えてすらいない。せいぜい四、五発だろうか。うち一発は野球でいう自打球、打った石が跳ね返り、俺の頭に直撃するという愉快で素敵な光景が広がったのが今回のハイライトである。
「踏み込みが甘過ぎるわ。そんなことじゃ焔の剣なんて捌けやしない」
 何故かむすっとした表情を浮かべながら、桜井は俺を睨み付けながら駄目だしをする。
 どうしてここまで険悪な顔をされなければならないのだろう? と素人の俺が考えても一切答えは出ず、右手で後頭部——まさにそこが先程、俺の打ち返そうとした石が激突した場所だ——を押さえながら呟く。
「あのな桜井。いきなりそんなプロ野球選手顔負けの投球……じゃないな、投石をされちゃ打ち返せるモノも打ち返せねえよ」
 俺の反駁を受け、藍色の少女は頬を一度だけぴくりと動かし、腕を組み仁王立ちを開始。
「あら。じゃあ早速、投氷に変えてもいいのよ?」
 意訳するならば、文句を言うとぶっ殺すぞ、ということらしい。
 すぐさま首を何度か左右に振り、その上両手を顔の前でぶんぶんと振って否定する。これ以上の速度で、しかも能力を絡めて何かを吹っ飛ばしてこようものなら、命の保障は皆無どころか、死ぬ保障十割と解説してから修行という名の処刑を受けなければならなかっただろう。
 幸い桜井も満足げに頷いて、再び“まだ”普通な修行を続けてくれることになった。
 投げられ、打ち落とす。投げられ、空振り、頭に打ち込まれる。頭に打ち込まれる。頭に打ち込まれる。腹に打ち込まれる————、
「そろそろ慣れてきた頃かしら?」
 肩が痛み呼吸が乱れ、膝に手をついて腰を曲げる。
 俺がそんな完全に憔悴しきった頃合を見計らってか、桜井は逆に息一つ乱さず歩み寄ってきた。
 しばらく時間を置いて、ようやく肩で行っていた呼吸を整えてから、俺は首を横に振る。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.28 )
日時: 2013/02/05 16:14
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)


「どう見ても失敗の方が多いだろ。……お前ら、今更になって言うけどよ、アレよりももっと速いスピードで斬り合ってたんだよな。本当に俺は自衛程度でもできるようになるのか?」
「なるわよ。また言わせるつもり? 昨日の闘いは、あんたがいきなり暴れ出して敵を追っ払ったのよ?」
「……とは言ってもなあ」
 自宅の庭で修行をしていたが、ついに体力も底をつきかけていたので、ひとまず休憩も兼ねて芝生に寝転びながらぼやく。
 暴れたという自覚はないし、あのときは蟻が人間から踏み潰される直前に逃げ回るように焦っていたからまともな判断はできないが、あんな傷があったからといって、俺が本当に戦ったかどうかも定かではない。
 昨日の激痛とも言える全身のだるさはようやく癒えたが、名残はある。
 それがどうしたというのか。本当に昨日、“黒”である焔を追い払ったのは俺なのか。本当に俺に、闘う力は備わっているというのか。
 不意に、きらり、と視界の隅に鋭利に輝く物が映った。
「うぉ!?」
 全身の力を一気に振り絞って、三、四回ほど横に転がって難を逃れる。遅れて数十センチメートル横で硬い音が聞こえて、数瞬前に取った行動が間違いではないと証明された。
 転がった勢いをそのままに上半身を起こせば、氷の塊——というよりは、尖りに尖った氷柱を桜井が三本ほど小さな両手で抱えていた。
「いきなり何するんだ!?」
「何、って……そろそろあなたにも能力を出してもらわないと、明日、勝算すらないんだけど」
「いや、おかしいだろ! まだ力の欠片すら見せてないんだぞ!」
 悪びれずに言う桜井に、俺は両手を開いて猛抗議する。
 使えるかどうかもわからない力をいきなり使えと言われて、ああわかった、と軽い返事と一緒に超常現象を引き起こせるものか。否、起こせない。
 まさしくそんな注文を押し付けてきた少女に、俺は続けて反論をする……ために口を開くと同時、二本目の氷柱が俺の喉元目掛けて滑空する。
「あぶ、な……?!」
 屈み込んでなんとか避けたが、今度は背後で耳障りな金属音。間違いなく俺のちょうど後ろにあった倉庫小屋に傷をつけたと思われる。鉄製の小屋だから良かったものを、木製であったなら間違いなく粉微塵になっていたと推測できるほどにキツい音だ。
 とうとう匙を投げて、出来の悪い生徒の運に賭けを始めたのかもしれない。出来の悪いのは生徒だけじゃなくてジョークもだ。まったくもって勘弁願いたい。
 三本目……今度は先ほどよりしっかりと視認ができる。屈んでしまったために身動きが取りづらい胴体を狙って直線を描きながら進む氷柱を、舌打ちをしながら寝転んで回避する。
 小さな間すらなく、ほんのコンマ数秒まで俺の胴体があった箇所を氷刃が通過していったところを視界の端に捉え、目を見開いた。

 ————あんなに尖ったモン喰らったら、手当てでもしなきゃ失血死する……!!

 生命の危機をついぞ感じながら、俺は再び体を起き上がらせて桜井の姿を確認する。
 昨日出かけるために渡してやった母親のお下がりのうちもう一着。似たような柄だが微妙に色合いが薄い服を着込んだ少女目掛けて、大声で叫んでやる。
「こんな無茶苦茶なやり方で、やれるかよ!? もうちょっとやり方どうにかならねえのか、これじゃ明日までに死ぬぜ!?」
 一瞬ぴくり、と少女の体が動いたのを俺は見逃さなかった。それ以上は彼女が動くこともなく、三秒ほど間が空いてからだろうか。藍色の少女は俯いた。
「……そう、悪かったわ。じゃあ朝の訓練はお終い。……昼も、夜も、しなくていいわ」
 彼女はそのまま庭の草を飛び越えてどこかへと歩いていき、すたすたと歩道を進んでどこかへと去っていってしまった。
 何もそこまでは言っていないだろう、という燻るような気持ちがあると同時に、少し言い過ぎたか、という後悔もある。
 いずれにせよ少しすれば帰ってくるだろうという楽観から、俺は言われた通りその後の昼間は何もせず惰眠を貪ることにした。
 目が覚めた頃にはもう夕方で、それでもあいつは帰ってこなかった。仕方なく俺は夕飯の支度をしながら家で待つことにする。
 ……夜が来た。太陽が沈んだ。街灯が点った。月が昇った。星が光り始めた。他の民家の電灯が消え始めた。夜が深くなり始めた。それでもあいつは帰ってこなかった。
 待ち続けた。どこを歩いているのだろうと心配しそうになったが、あいつは能力者で、変質者なんかよりよっぽど強いのだからそれは無用だと気づいて腕を組み玄関で待ち続けた。
 丑三つ時が来た。それでもあいつは帰ってこなかった。
 玄関の扉を開けてみた。そこにあいつの姿はなかった。
 近所の住宅街を探す。どこにも彼女はいやしなかった。
 昨日一緒に回った場所を歩いた。彼女は見つからない。
 それから夜明け前の薄明時になった。自宅に戻って屋根上に登ってみると、そこには探し続けたあいつの姿があった。
 布団もかけず、今朝……というより昨日の姿のまま。布団もかけず何かを羽織ることもなく不機嫌そうに眠っている少女を背負い、俺はようやく一言だけ声をかけた。
「ごめんな」
 他に何をすることもなく、桜井明という何を背負っているのかもわからない少女を昨日と同じ布団に寝かせ、俺も自室の布団に潜った。
 いつ眠ってしまったのかわからない。少し目を瞑ったらいつの間にか太陽が真上で輝いている時間になっていて、疲れも完全に取れた体を起こして、朝飯を作るついでに桜井の部屋を覗いたら、そこには誰もいなくなっていて、リビングも、屋根上も、探しに探したけれど。結局あの少女がいた痕跡などどこにも残ってはいなかった。

 ————全部、夢?

 鮮明に刻み込まれたいくつもの記憶を遡り、そんなはずはないと自分の言葉を否定する。
 あれだけのことがすべて、俺の脳内であった妄想と大差がない出来事だったなどと、認められるわけがない。
 ——それでも。どこを探しても、あの少女の姿はなかった。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.29 )
日時: 2013/02/05 22:26
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

 現在時刻、夜の十一時半。
 俺が待ち望んでいた人物の影は、あれから結局現れることはなかった。
 日中、比較的新しいガラス窓の向こう側に、あの無愛想と見せかけて豊かな表情を引っさげた少女がいるのではないかと期待して幾度となく外を見たが、無論そこには何もいない。いなくなってからようやく気づいたことであるが、俺はなんだかんだでいつもの退屈な日常を排し、非日常に俺を誘ってくれた存在達をどこか好んでいたのだ。とても身勝手な言い分ではあるが、俺にとっては新しい世界への片道切符に等しい者達だったのだから。……それに、昨日は少し言い過ぎたんだ、と謝りたい気持ちも確かにあったし、できることなら、またあの憎まれ口を聞いてやりたいと思っていた。
 何もない無音の世界に放り込まれ、自分に向けられる声も音も一切ない家がこんなにも寂しいものだったのかと改めて実感せざるを得ない。連想される事実は、それだけあの少女と過ごしていた数十時間は、決して悪くないものだったということだ。
 自分のなんとも言えない未練たらたらな気持ちに、俺は思わず苦笑する。
 当初の俺は桜井明に対してならまだしも、あの奇怪な怪物や本気で俺を殺しにかかっていた女には敵意や恐怖心しか抱いていなかったというのに、今の俺はどうだろう。あれが夢でなかったならばとすら思っている。
 なんて、無様————。
 俺は自分に対する苦笑を嘲笑へと変え、ひとつだけ大きな溜息を吐いた。
 眠ろう。……そうすればこんな気持ちもどこかへ消えて、月曜日からは俺のあるべき学生生活が再開されるのだ。
 リビングの床に体を投げ出し、瞼を閉じる。体が木張りの地面に吸い込まれるのとは対照的に、体内の酸素と二酸化炭素は口を通って空気中へと逃げ出した。
 諦め。
 怠惰。
 俺自身の内心に燻る気持ちはどんなものなのだろう。少なくともいま挙げた両者は酷似したものであり、該当はしないものであるということを告げておこう。
 さあ、忘れよう。この思いも明日になれば綺麗さっぱり拭い去られているはずだ。
 手始めに、あいつの部屋になっていたはずの、俺の母さんの部屋の掃除でもしてしまおう。すべてを俺が起こした行動によって書き換えてしまえば、もうなにもあいつを思い出させるものもなくなるだろう。
 腹に力を込めてのんびり起き上がり、居間から廊下へ、廊下から階段へと。首の骨を二度、三度と鳴らしながら二階と一階を繋ぐ我が家で唯一の階段を登る。すぐさま視界に入ってきた扉のノブに手を伸ばして、部屋の独特な空気を吸い込んだ。
 これでいい。あれは夢だったのだから、俺はなにもかもを忘れ去り、またいつものように何も感じない無味無臭無色な世界に帰っていくのだ。
 けど、ひとつだけ。部屋に入って覚えた違和感が俺を支配した。
 昨日までがすべて夢なのだとしたら動いているはずのないものが動いているし、そもそも布団はもう一枚シーツがかけられていて、ただ家族全員が抜け落ちたあの日から時計が止まったように、すべてを保存していたはずだったのに。——その布団が、ぐちゃぐちゃに丸められているのだ。
 間違いなく、誰かがそこにいた証拠なのだ。もちろんこれは、今朝に俺がこの部屋を見に来たときの状況とは大きく矛盾が生じている。
「……ん?」
 そして、俺がもっとも注意を引かれたものがあった。今朝は一切動いていなかったように見えた布団が、ここまでめちゃくちゃになっていたことだけではなく、もっと別のものだ。
 丸まった布団の上に、同じくくしゃくしゃに丸められた紙切があったのだ。俺は何かに追い縋るように、一気に掴んで開く。
 ……全員故人となった、俺の家族の誰のものとも違う筆跡で書かれた書置きであるのは明らかだ。古く記憶に刻み込まれた家族達を、他人である誰かと間違えるはずはない。
 そして、手紙の内容は簡潔なものだった。
 焦っていたがゆえの、昨日の暴力(しゅぎょう)に対する謝罪。数日間の衣食住、そして会話をしてくれたことに対する礼。加えて、しばらく学校には行かずにできれば街からも去るか身を隠せという内容。
 差出人の名前は書かれていないが、書かれずともわかるものだ。
 桜井明。俺を非日常の世界へと連れ出した、藍色の少女。これこそが今日一日の間、俺が求め続けたあいつの痕跡であり、彼女が俺に残した恐らくは最後のメッセージ。心なしか、文字が震えているのは気のせいではないだろう。
 能力的にも相性の悪い“黒(クロノス)”、『紅の炎』の二つ名を持つあの女、焔の下に単独で赴いたと見てまず間違いない。
 ——俺は、馬鹿だ。
 自責の念が腹底から湧き上がり、俺の身も心をも黒く昏(くら)い炎となって焼くような錯覚があった。だがきっとそれは、錯覚ではないのだろう。……事実として、俺の感情は今にも燃え尽きそうだ。
 あいつの言うことを素直に聞いて、もう少し必死になって鍛錬に励んでいれば、あいつを死地へ一人で向かわせずに済んだ。俺がもっと早く自分の力に気づいていれば、家族に降りかかった災厄も払えたかもしれない。……全部、俺が悪い——もう、それで構わないし、そうであるべきだ。
 時計へ視線を向けると、既に時計は十一時四十五分。あいつはきっと俺に危害が及ばない場所へと移動して、焔をどうにか倒そうとするはずだ。勝算など、どこにもありはしないのに、だ。
 終わった。すべてが終わった。俺のわけのわからない意地のせいで、少女一人を殺してしまった。信じたくない、認めたくない、できればこの結果を変えてしまいたい。俺に何かできることがあるのならば、あるならば……すぐにでも実行したい。
「……」
 いや、もうよそう。
 俺にできること。あるじゃないか、単純にして明解な答えが。……俺自身も、あいつと一緒になって焔を倒しに行く。
 認めよう。これより俺は、闘い傷つけ傷つけれる側の“存在”となる。まだ自分にも力があるなどと信用できないのは相変わらずだが、それでも————俺を助けてくれたあの少女を、みすみす死なせるわけにはいかない。まだ遅くないのだ。間に合うのだ、そのつもりになれば。
「……やってやる」
 書置きを投げ捨て、キッと窓の外を睨む。
 眼中に飛び込んでくるのはひたすらに遠く暗い夜の闇。これより火の粉と血が舞う闘いが、俺達の学校で行われるなどと誰も知る由のない平和な街。
 行こう、新しい世界へ。
 静かな決意と共に、俺は扉を開いた。
「……っ」
 玄関から外へ出て、鍵を閉めた途端のことだ。
 全身に粘りつくような違和感が俺を襲った。数日前、あの低級悪魔じみた姿をした“黒”によるものだった違和感とは、段違いのもの。ここまでくると違和感なんて生易しいものではなく、明確なさっきなのではないかとすら思わせる。
 自身の命を握られているのかもしれないという感覚に、頬から一滴の雫がこぼれる。
 帰れ。帰れ。帰れ。今すぐ家に戻ってすぐに眠れ、そうすれば少なくとも死ぬことはない。
 出て行けば死ぬ。
 出て行けば死ぬ。
 出て行けば死ぬ————!
「は、……ッ!」
 考えている余裕などなかった。
 全速力で俺は脚を動かし、一目散に学校へと走り抜ける。数日前にも、ちょうどこのようにして、見えざる敵から逃げていた記憶が蘇り、死が近づいているというのに笑みすら漏れてきた。
 進んでも死。戻っても死。だとすれば、少しでも俺のやりたいようにするだけなのだ、と。
 ……死ぬ。
 このまま走って学校に辿り着いても、このまま外にいても俺の命が続くことはありえないのだと、頭より先に体が、本能として理解していた。
 きっとこのいつもよりも早く動く心臓も、“あの時”に死に損なった分も含めて、一気に俺の命を使い果たしてしまおう、悔いなど残さない——そんな潔いのか、無駄に律儀なのかわからない行動に出ているのだろう。
 走れ、走れ、走れ……。強迫観念にも似た心持ちが俺の全身を、内臓をも支配して駆け巡る。
「はぁ、はぁ……は……ぐっ……、……?」
 そこで、ある意味ではより恐ろしい“何か”を感じた。
 学校の方では空が赤く変色し、夕焼けさながらの明るさになっていた。一般住民には放火犯がちょうど放火をしたように見えるのか、それとも近所の悪がきが花火でもしているのと思うのだろうか。——季節的には後者の線が濃厚だが、いまはそんなことを言っている場合ではない。
 俺を追い回していた気配が、消えたのだ。
 諦めたのか。いいや、違う。あんな気配を出せるヤツだ、間違いなく“能力持ち”だろうし、違ったとしても類似した外れた存在なのは一目瞭然。一般人の俺など、取って食うなど安易なことだった。
 ならなんだというのか。今の今まで追い回してきた相手の正体とは、はたしてなんだったのか。……わからない。わからないが、今は————、
「もう、始まってやがる……!」
 ——この数日間が“現実”であったという確信と同時に、あの少女が窮地に立たされていると理解できた。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.30 )
日時: 2013/02/05 22:27
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

 弾丸。
 その言葉すら生ぬるいと言外に主張しながら、少女は突風を渦巻かせ疾走する。
 空気による摩擦すら発生しているのだろうか、風を切る音と共に藍色の少女の周囲には火花のようなものが何度も散っていた。
 対する紅色の女は、
「……また、ですか」
 同じくして、こちらも高速などとは生ぬるい。否、無礼にすら値する。“神速”の域にも到達するであろう速度の刺突を以って、“刀(はがね)”の一撃を見舞う。
 寸でのところでいなした藍色の少女はくすりとだけ笑い、氷で設えた小刀のような双剣の片方だけで反撃を行った。即ち、薙ぐような横の振り払い。
「本業は弓使いなのに、剣士の……しかも二刀流の飯事(ままごと)ですか」
「飯事かどうかは……試してみなきゃわからないわ!」
 然り。
 二刀流とは飽くまでも現在、『紅の炎』が行っている一刀流と同じ剣術の延長線上でしかない。だが同時に二本の得物を駆使して闘うということは、普段以上に精神を磨り減らせ、しかも難易度もより高度である。加えて威力も一本の武装に両腕の力、さらに彼女ら“黒”や『能力者』で言うところの能力をも、ひとつに凝縮すれば強力なのは自明の理。
 本来は弓を扱う彼女、桜井明の戦闘方法とは大きくかけ離れた戦術であり、近接戦闘は逆に相手の焔が有利である。それは二日前の戦闘で実証済みだ。
 にも関わらず。
 彼女はこの戦術で打って出た。
 焔はこの状況に内心歯噛みをした。——まるで相手の考えが読めないのだ。自暴自棄になって突撃をしてきたのか、それとも秘策があってのことなのか。
 もし後者だとしたら厄介だ。少なくともこの少女、場数を踏んではいる。何を仕掛けてくるかまるでわからず、さしもの焔も警戒を解くことはできない。
 一、二、三。
 空中で幾度となく火花が散り、刃が悲鳴をあげる。
 火花に混じり氷の結晶も舞っているが、炎の能力を持っている彼女にとって、よほど多量の氷を仕掛けてこない限り、焔が負けることはないと踏んでいた。
 ——そう、踏んでいたのだ。
「……そこ……!」
 大きく横に振り払った刀で、“藍色の双剣士”の握る二刀が一気に叩き飛ばされる。しまいには中空でバキバキと音を立てて崩れ落ちたそのサマを見つめ、焔は一気に相手へと踏み込んだ。
「終わりです」
 もはや女に躊躇いなどない。片腕で軽々と振るわれる鉛色の刃は、数日前のように炎を纏うこともなく、五連続で払われ、振るわれ、突き出されていく。
 順に心臓、肺、腎臓、肝臓、脳天。全てが人体にとって急所となり得る場所ばかり。的確に打ち込まれていく攻撃を前にして——、
「……?!」
 全てが“一枚の膜”に防がれた。
 中途半端な位置で止められた攻撃は体勢を崩す要因となり、左足の力が抜けて一気に体が崩れ落ちかけていた。だがその程度で終わるような両者、ひいては焔ではなく、むしろそれをバネに大きく跳躍し、桜井明へと切りかからんとする——、が。
 ここにきて焔はようやく理解した。
 目の前に広がっていた“膜”はそんな柔なものではなく、むしろ氷の盾と呼ぶべきほどに堅牢で強固なものであったのだ。少女の前方を覆うように、足元から植物が生えるように展開されていた盾は、ヒビこそ入ったもののすぐに修復され、元の姿に戻ろうとしていた。
 だが彼女が理解したのはそのようなことではない。足元が……凍っているのだ。
 顔を顰め、もし自身が傍観者ならば拍手喝采を送っていただろうと認めることとなる。先日は常に“あの少年”を抹殺するために、全力で炎を出して殺しにかかっていたが、今は違う。的確に最高の効率で敵を仕留め、“万が一”のときのために余力を残しておく必要があったのだ。
 ゆえに、地面は簡単に凍結する。そこで無理に力を発生させれば、自然と体勢はより大きく崩れてしまう。
 逆に躊躇いなく振り下ろされた双の剣を——、されど、焔もまた片膝をついたまま、刀で両方とも受けきった。
 互いに渾身の一撃を攻防したためにこれ以上は打つ手がなく、一度大きく両者とも後退して仕切りなおしを図る。
「……甘く、見ていましたね。そうでした、貴女は出し惜しみをして勝てる相手ではありませんでした」
 刀を横に、振り払った。
 ——周囲に漂うのはより深い殺気。敵を倒すことだけに特化した一撃を、次で放つと決意した者の瞳。
 みるみるうちに周囲の温度があがっていく。夏とはいえこの夜に、透明の靄すらかかって見えるほどの高温に、桜井も顔を顰める。
 来る。
 少女は腰を低く落とし、次に来る“一撃必殺”に備える。
 カチリ、と。
 スイッチが入るような音が頭の中で響き、力の源である身体エネルギーと精神力を全力で循環させ、自身が出せる中で最高の効率と、最高の結果を導き出さんと力を高め続ける。体の周りに冷気すら漂い始めるが、まだ足りない。能力の相性は悪いし、ただでさえあの女の実力は桜井明という小さな能力者の遥か上をいく。——なら、せめて。相殺ぐらいはしてやらねば、こちらの面目も丸潰れというものだろう。
「————“焔来(えんらい)”」
「————っ、いっけぇええええええッ!!」
 相手が技の名前を呟くと同時、桜井の眼前から無数の氷刃が形成され、幾つも幾つも、数え切れない量、飛翔する。
 常人どころか放った桜井本人にすら残像しか見えないほどの速度で連射される氷弾は、僅か数百メートルしかない学校のグラウンドの距離を一気に詰めて行く。
 しかし、届かない。
 焔が刀を上から下へ、一気に振り下ろすのと同時に放出された炎の束は、もはや炎と呼んでいいのかすら理解できなかった。まるで電撃を纏っているかのように、バチバチと火花を立てながら、氷の刃を飲み込みながら進む様相は、もはや熱線と称するべきだろう。
 勝てない。……そう、確信した。


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