ダーク・ファンタジー小説

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【感想随時受付】罪、償い。 【第二章第四話part7up】
日時: 2013/08/07 17:03
名前: 鬨 (ID: UIQja7kt)

初めまして、鬨(とき)と申します。
此度私が投稿させて頂く物は、小学生高学年から中学生まで設定をしていたり、書き込んでいたものを実に六年ほどの年数を経て改善したものです。【小説家になろう】より移転したものであり、また当人であることをここに確認させて頂きます。
注意事項は特にございません。お目汚しになるやもしれませんが、精一杯書いていく所存ですので、皆様、どうか最後までお付き合い頂ければと思います。

追伸:コメントを頂ければそれだけで励みになります。飛び上がって喜びます。

第一章 紅の炎 >>36
第二章 二重の狩場 >>44

キャラ紹介
神無木来人 >>66
桜井明 >>67
>>68

コメントを頂いた方々
鈴月音久様【DISTANCE WORLD】
花様

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→@Ry_ipsf

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.41 )
日時: 2013/02/05 23:03
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)


「ああ、違う違う」
 しかし。
 先ほど女と表現したがよく見れば、俺より少し年下。見た目中学二年生ほどの少女は涼しい笑みを浮かべながら槍を消失させる。同時に青白いスパーク、即ち電気が走ったところを見ると……こいつは、“電気操作”の能力だろうか。と、俺はすっかり“こちら側”にきてしまったことに、内心なんとも言えない苦笑いを浮かべる。
 だが違うというのはどういった了見か。こちらを背後から槍で一突きしようとしておいて、“違う”とは、何が違うのか。
 俺の疑問を察したのだろう。少女はこちらに右手だけをふわりと伸ばし、口を再び開く。
「アタシ、ある“黒”を追ってんだよね。最近アンタの近くにいるのを見たから、アンタが一般人か“同類”か確かめようとしただけさ。で、アンタ……どう見ても“こっち側”だね」
「……ならどうした」
 自分でも驚くほど、重い声で返す。しかし少女は満面の笑みを浮かべながら、肩を竦めてゆっくりとこちらに近寄り、右手を差し出してきた。
「『能力者』なら話が早いや。どういう理由かは知らないけどアンタ、“紅の炎”を匿ってるよね。……アレさあ、一緒に狩らせてくんない? 脅されて住処を提供させられてるってんなら、厄介払いもできて好都合だよね」
 狩る。つまり“紅の炎”を……焔を、殺すということか。
 答えは決まっていた。言葉を考えるよりも先に、口が実行に移していた。
「断る。おまえが焔のやつを追ってる理由も知らないけどな、俺があいつを迎え入れるって決めたんだ。名前も言わず用件だけ言ってくるような礼儀知らずに、“ウチのモン”を会わせる気はねえし、殺すってんなら尚更だ。ここで俺がおまえを倒す」
 俺の言葉に何を思ったのだろう。一度目を白黒させた後、金髪の少女は手をどこへやろうかと中空を漂わせたあと、自分の腰に当てて、しばらく俺の言葉を吟味しているようだ。思案顔になったかと思ったが、次の瞬間、プッ、と噴き出した。
「あははは、アンタ、あいつに騙されてんの? それとも体で誑し込まれたか。まあどっちでもいいけど、いいかい、アイツは“黒”だよ。しかも正式団員じゃないとはいえ、“邪神の集い”有力候補! ……殺さなくってどうすんの?」
「……邪神、……なんだって?」
「はあ? アンタそれすら聞かされてないの? 騙されてるのかと思ったけど、筋金入りのお人好しかノーキンだね、アンタ。じゃあわかるように言ってあげるけど、“黒”はこの世界の歪みを押し付けられて生まれた別世界の住人。大抵は自分達の世界にばかり歪みを押し付けた、こっち側の人間達……特に能力まで得た美味しいトコ全部持って行ったこっち生まれの『能力者』を毛嫌いしてるのさ。“邪神の集い”は“黒”達の過激派で構成された連中。どいつもこいつも二つ名とアーティファクトを持ってる化け物揃いだよ。だから“守護騎士団(ガーディアン)”の連中が時折こっちを見回ってるんだけどね……ここは杜撰ったらないや」
 アーティファクト。また聞き慣れない単語を聞いたが、意味はなんとなく理解できた。以前桜井が、焔を監視していた低級“黒”を屠った際、そいつが隠し玉、と見せかけて囮に使った、どこかの神様が持っていた槍のレプリカ。つまりその実物が、アーティファクトなのではないか? これは仮説ではあるが、神々の所有物であった槍だ。能力的観念から見ても効果は絶大だろうし、ジャシンのなんたらとかいう連中が持っているとしたら、つまりそれだけ強大な兵器ということだろう。そして、前半の話は俺も聞いた覚えがある。この世界の歪みによって生まれた地球の裏側。言ってみれば平行世界ならぬ垂直に交わった世界。この世界が歪みのはけ口として生み出した第二の世界。“黒”達は元々は、そこの住人だったのだという話だ。異世界人という話すらも当初の俺は俄かには受け入れられなかったが、いまならなんとなく理解できる。ちなみに、後半の団体名らしき二つの名称は初耳だ。焔も桜井もそんな話までは俺にした覚えは……ないが、恐らく焔の弟を人質に取っている集団と見てまず間違いはない。
「知るか。俺はおまえにあいつを売る気はねえよ」
 それでも。
 俺はあいつとの約束を守ると決めた。信じずに後悔するのならば、俺は裏切られて後悔をしたい。少なくとも今は、そう思えるから。
 きっぱりと言い放った俺を見て、目の前の少女はついに溜息を吐く。
「朝霧瑠吏(あさぎりるり)……いまからアンタを潰すヤツの名前だよ」
「神無木来人。……やるなら場所を変えるぞ、ここは目立ちすぎる」
「————……、いや。いいや、前言撤回だ。アンタはいちいち理性的過ぎるんだよ、しらけちまった。今夜の午後七時、アンタの学校の裏山に来い。アタシと、ちょっとデートでもどうだい?」
 悪戯っぽく笑いながら、朝霧は手中で紫電を這わせる。言い回しこそ扇情的だが、要するにこいつは、時間を指定して決闘しようと言ってきたわけだ。無論、断る理由などない。こいつによる魔手が焔に、そしてそれを匿うだろう桜井に飛び火する前に、こいつは俺の手で止める。それがいまできる最善策だ。
「断る理由はないな」
「決まりだね。じゃあ、また後で」
 短い軽口の叩き合いを終えて、俺は金髪の女へと背を向ける。既にヤツに敵意はなく、今すぐに俺へ攻撃を仕掛けるような気配は感じられない。——そのまま、ゆっくりと歩き始めた。
 やはりというべきか、俺の足音に遅れて、小さな足音が少しずつ遠くなっていくのが聞こえた。
「……参ったな」
 しかし俺も、本当に随分とこちら側に慣れてしまったものだ。以前なら動揺ばかりが前に出て、的確な判断などできなかったし、他人のことを考える余裕もなかったと思う。少しばかりの進歩だが、精神的な面でも向上するべきだと改めて認識したのだ。物事の分析力を、もう少し養いたい。
 当面の小さな目標を内心で打ち立てると、頷きひとつ。いまや完全に消失した朝霧の気配を一瞬探り、すぐさまそこには誰もいないと改めて確認し、学校へと歩みを進める。
 俺のすべきこと。
 それは、一刻も早く桜井達と同じぐらい、できればそれ以上に強くなり、あいつらの力になること。“すべき”ことでありながら、“したい”ことでもある。俺という小さな存在を暗闇から引き上げた、あの二人へのせめてもの恩返し……。
「強くなろう」
 立ち止まり、口から言葉が突き出た。
 能力が。肉体が。ただそれだけではなく、もっと大事なもの。心という人間の根底であるソレを、俺はより強くしたい。でなければあいつらは、俺には眩し過ぎるぐらいだから。
 歩き続けよう。
 きっとそうすれば、この道の果てが見えてくる。喉も渇くし疲れるし、面倒だし、辛いし、苦しいだろう。それでも俺は、この道を往きたい。——いや、それでは足りない。そうしたいのではなく、絶対に、そうする。
 気持ちを新たにして、しばらくした後。ようやく学校にまで辿り着いた。今日は朝っぱらから色々とありすぎて、一気に気疲れしてしまった。明日は家計を稼ぐためのアルバイトもあるし、こんな生活サイクルで俺はちゃんと高校生活を送ることができるのか不安になってきた。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.42 )
日時: 2013/02/05 23:04
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)


「おーいっ!」
 と、後方からの呼び声に俺は無言で振り返る。
 今度は八神や俺よりはやや明るい黒髪をした青年が走って駆け寄ってきた。クラスメイト、北城翔(ほうじょうかける)だ。彼は文科系である八神や、どちらも中盤である俺とは違い、完全に体育会系の少年。熱血で人当たりの良い性格をしており、クラスで八神や坂上以外には特に話す人物のいない俺を、何かと気にかけてくれる人物である。が、あまりの熱血っぷりに俺は時々ペースを乱されるので、少し苦手な部類でもある。決して、悪いヤツではないのだが。
「どうした、北城?」
 自分の声から漏れた声が、そんなつもりではないのに少し面倒くさそうな声音になっていたことにすぐ気づき、北城に向き直りながら言い直す。
「おまえ、朝練はどうしたんだ?」
 そう。彼はこれでも全国大会出場経験もある我が校剣道部に措いて、一年生でありながらレギュラーの座を射止めるどころか、現キャプテンの三年生と互角に渡り合うほどの、才能も実力も随一の剣豪とすら呼ばれる人物だ。もちろんその背景には、彼の並々ならぬ努力と負けず嫌いな性格が起因しているため、本人もその“才能”という努力とはやや違った方向の能力を意味する言葉を苦手としている……というのは、オタク腐女子疑惑がここのところ浮上している担任談。普段ならば熱心に部活動の朝練習に参加しているはずだ。故に、この時間帯に、俺とほぼ同時に登校するのはおかしいのである。
「それがな。近頃の通り魔事件のせいで、朝練は全面禁止! 放課後練習も普段より一時間早めにされるし、集団で下校させられるようになるしで、踏んだり蹴ったりなんだ。どうだ、来人。俺と一緒にホームルームまで、校庭でひとっ走りしないか?」
「いや、遠慮しておく」
 明朗活発、という言葉が綺麗にあてはまる青年からの誘いを、俺は即答で拒否した。朝から学級委員二名の急襲、そして朝霧との約束があるため、これ以上疲れることなどやっていられない。断固として、拒否する。俺としてはできることなら退屈は嫌いではあるが、のんびりゆったり、時折刺激のある人生がご所望である。こいつのように毎日、汗と涙と時々血を自分から喜んで流すのは、俺はしたくない。というか体力の問題でできない。
 俺の言葉にやや残念そうに眉を潜めた彼は、ふーっ、と溜息を吐いて言葉を続ける。
「朝のランニングぐらい付き合えよ! 朝の走行は、一晩の睡眠で溜まった不純物を、汗と一緒に発散してだな……」
「発散するのはストレスだけで結構。ちょっと今日は用事があるし、朝にはちょっと問題があって、できれば体力を使いたくないんだ」
「!? 来人、朝からいったい何があったっていうんだ。お前はご家庭がご家庭だし、何かあったら友人である俺になんでも言ってくれ! できることならば協力しよう!」
 気持ちは素直にありがたい。が、暑苦しい。それに一般人であるこいつに話しても栓の無いことばかりで、ここで“うん”と答えるわけにもいかない。先ほどから彼の気持ちを踏みにじるような言動ばかりで、罪悪感がないと言えば嘘になるわけだが、ここもまた断らざるを得ないだろう。
「大丈夫だ。一人でなんとかできる問題は、自分でどうにかしなくちゃな」
「おお! 惚れ直したぞ、その心意気! 確かに、誰かに頼るばかりではなく、自分で問題を解決する努力をしなければな! それはそうと、わからない数学の問題があるんだ。よければ後で教えてくれないか! お礼として、俺が普段行っているトレーニングのメニューが書かれたメモ書きを提供しよう!」
「……いや、いいよ。お前も俺が親戚からの援助とバイト代で工面してるのは知ってるだろ? 時間があまりないんだ。……それに、勉強を聞きたければ八神達に聞いた方が効率良いぞ」
「ふむ。……それは残念、しかし言うとおりだな。いや、お前の学力を見下しているのではなく、彼らのトップクラスの成績は、確かに俺も目を見張るものがあるからな。是非そうさせてもらおう」
「そうしてくれ」
 それだけ言うと、彼は満足したのだろう。ひとつ頷くと校門から昇降口まで歩き、教室まで一緒に別の話題を出して話すことになった。内容としては互いに大したものではなく、最近の部活で同学年の士気が低くて困るとか、アルバイトはどんなものをしているのか——この質問に大して俺は、カフェの店員とアミューズメント施設のスタッフを掛け持ちしていると答えさせてもらった——とか、日々の食生活はどうしているのかとか、そういう本当に日常会話だ。付け加えるならば、恋愛についての話も出たが、互いに互いが、“お前は忙しそうだもんな……”と苦笑してすぐに話題は別の物へと移り変わった。
 紆余曲折あってようやく教室に到着。北城は話し終えて満足げに席について今度はホームルームまで自習をすることにしたらしく、鞄の中から世界史の教科書を取り出して勉強を始めた。……マズいのは数学ではなかったのだろうか、という突っ込みは入れないでおこう。
 ちら、と。
 教室の隅に視線をやると、坂上、八神、担任の藤江悠美(ふじえゆみ)が話しこんでいるのが目に入った。仕草からしてできるだけ内密にしたい問題らしく、辺りには空気を読んで誰もいない。こういうところは、我がクラスの良いところだろうが、問題はそこではない。数週間前、あの低級“黒(クロノス)”と桜井の一戦があった日の昼、八神と坂上から聞いた話だが、教師から生徒会役員にはここ数日、この街を騒がせている吸血鬼通り魔事件、またの名を連続失踪事件に関しての注意事項、そしてそれに対する学校側からの対処を切々と聞かされているようだ。放課後に役員達も学校に少しでも長く残しておくわけにはいかないので、昼休みや、授業時間を使って生徒会役員達はよくああして話し込んでいるらしい。勉強が遅れちゃうよー、とほんわかした苦笑と共に坂上に軽い愚痴をこぼされたことは記憶に新しい。
 また、なにかあったのだろうか?
 結局あの悪魔じみた“黒”はその一件には関係なかったようだし、これは警察の出番なのだろうが……依然として犯人像すら浮かばないという不気味さに、つい『能力者』としてひよっこでありながらも、首を突っ込みたくなってしまう。悪く言えばでっしゃばりなのだろうが、気になるものは気になる。朝霧との決闘の前に、焔と桜井を連れて町内を散策しつつ俺達で調査してみるのもいいかもしれない。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.43 )
日時: 2013/02/05 23:04
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)


 予定を決め、思わず開いていた数学の教科書に目線を落とす。飽くまでも学生の本分は勉強である。いつまでも親戚達に世話になっているのも良くないし、できるだけ良い大学を出て安定した職業に就くべきだ、と糞真面目なことを考えていたのだが、それは視界に入ってきた北城とは別のクラスメイトに阻まれてしまった。
「……あの」
「?」
「先生が、呼んでるんだけど……神無木くん、少し疲れてるの?」
「いや、そんなことはないけど。ありがとな」
 刀崎李緒(とうざきりお)。こいつは坂上の、学校とは別筋の知り合いらしく何の因果か偶然同じクラスになった。暗い赤の短髪を靡かせて、いまにも消え入りそうな細い声で俺にわざわざ注意をしてくれたわけだ。あまり他人と関わりたがらない——というのは俺の推測だが、そういう性格であろう——ヤツからすれば、たぶん俺のように自分から他人に絡んでいかない人間はとても扱いづらいはずだ。それを押して、わざわざ注意してくれたのである。この人物とは、ちなみにこのクラスになってから話したのは今回が最初。確か最後に話したのは、中学生の頃に坂上が俺と八神に友人として紹介したその一回きりだ。久々に聞いた声は、最初に聞いた時よりも少し病弱そうで、儚げな少女そのもの。
 ——気を、遣わせてしまったな。
 苦笑しながらの俺の礼に頷きひとつを返して、ぎこちない笑みを浮かべる刀崎はそのまま自分の席に戻る。彼女の席は窓際の一番後ろ、対して俺の席は教卓から真ん前の列の一番後ろ。それほど遠くもなく、近くもない、といった具合だ。……今度からは、もう少し関わってみよう。『能力』関連のことだけでなく、社会的な面で俺は改善しなければなるまい。
 気持ちを少し引き締め、教科書を閉じる。担任の藤江先生は良い人なのだが、大人というのは少し苦手だ。両親を幼い頃に亡くし最も身近な大人と接する機会を奪われた俺は、大人との会話というものにあまり慣れていない。それも最近はアルバイトで良い方向へ向かいつつあるが、やはりなかなか拭い切れないものである。これもまた、改善せねばならない点だ。
 まだ藤枝先生と生徒会二名は例の件らしきことについて話しているようだ。時折こちらにまだか、と言っているような表情をして見てくるが、基本的に藤江先生は会話に集中している。
 そそくさとその三名のところへ足を運ぶと、坂上と八神は気さくな笑みを浮かべて迎え入れたが、藤江先生はそうはいかなかった。当然だ、事が事。最近の一件は、とても笑顔でごまかせるようなことではない。人がもう……俺がニュースで聞いている限りですら、既に九名がこの街で消息不明になっているのだ。その情報を処理するための業務に追われているのか、それとも心配による寝不足か。彼女にしては珍しく、疲れ切った表情をしながら、藤枝先生は口を開いた。
「神無木君、私の家にしばらく泊まりながら登校しませんか?」
 予想外の言葉だった。
 いや、理屈はわかる。俺は学校側はおろか、援助をしてくれている親戚筋の間ですら、男子高校生の一人暮らし“ということになっている”。できれば家から出さないようにするのが普通だが、俺は一人暮らしということもあってなかなかそうもいかない。我が校はアルバイトを基本推奨していないが、俺の家庭事情上やむを得ず、校長直々に許可が下りている。出稼ぎに出なければならず、かといって生徒同士の家の宿泊が長期休暇中ですら形だけとはいえ禁止されているのだ。例外はあるだろうが、極力他の生徒の家に住まわせるわけにもいかないだろう。で、その結果として出てきた案が、担任の家に一時的に宿泊させるというものなのだと理解した。
 だけどこの教師がまさかそこまで気を遣ってくれるとは思ってもみなかったのだ。大人とあまり触れる機会のなかった俺にとっては、親同然とはいわずとも、気遣ってくれる目上の人物と接するということが、人生経験上不足していた。だから、予想などできなかった。ありがたい話だし、涙が目に溜まりそうになることを必死に堪えるほどに嬉しい話だった。だけど、
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。……できれば、いつでも家族との思い出が詰まった家で過ごしたいんです。それに、先生にご迷惑をお掛けすることもできませんので」
 嘘は言っていない。できれば最後の時まで、俺の帰るべき場所はあそこでありたい。十年にも満たない歳月でありながらも、五人で過ごした、あの家に居続けたい。……無論、現実的な理由としては、焔と桜井を家に残してほいほいと他の家に泊まることができないという判断の上でもある。
 藤江先生は、やっぱりか、と言わんばかりに苦みを帯びた、しかし決して叱責するようなものでも、呆れるようなものでもなく、ただ予想していた、という意味であろう苦笑を浮かべて、言葉を続けた。
「神無木君はそうやってなんでもかんでも自分で済ませようとするのは、良い所でもあるけど、悪い所でもあると思うな。頼れる時には、人に頼っていいんだよ」
「そうだよ来人。君とはもう十年近く友人をやらせてもらっているけど……僕達はそんなにも頼りないかい?」
 頼りない。そんなことは、ない。
 口元を吊り上げて問いかけてくる“親友”を見て、俺はかぶりを振る。自己分析をさせてもらうならば、そしてそれが正しいならば、俺は頼るという行動が甘えだと思っているのかもしれない。頭ではそうであってはいけないと思ってはいるのだが、如何せん行動に移すことができないのだ。彼らにとって心苦しいことかもしれないが、これは本当にどうしようもない俺の性分だ。
 だから、はっきりと言わせてもらおう。
「そんなことねえよ。俺はいま言ったコト以上に、他意はないぜ」
「ウン、わかりました。それでは毎日の登校、気をつけてくださいね。私はいつでも待っています」
 八神に返したところ、藤江先生も頷きながら了承してくれた。嘘を吐いてしまうことに対して、若干どころか相当の罪悪感もあるのだが、……嘘も方便。今回は許してもらいたい。
 話を終えて、俺は自分の席に戻る。遠くに視線を流してみれば、外は——うっすらと、朝の霧に包まれていた。

Re: 罪、償い。【転載作業中】 ( No.44 )
日時: 2013/08/07 17:00
名前: 鬨 (ID: UIQja7kt)

第二章 二重の狩場

焔との激戦から数週間後、来人は非日常でありながら平穏な日々を謳歌していた。表立った争いもなく、こんな毎日が続くといいとすら思っていた矢先の出来事。『紅の焔』を狩らせろ、と近づいてくる金髪の槍使い、朝霧瑠吏によってそれは意図も容易く打ち崩される。そして少年の知らぬ所で、彼自身にも魔の手が迫っていた。

第一話−朝霧の幕開け− >>37-43
第二話−魔の手− >>46-54
第三話−閑話休題− >>56-60
第四話−意地− >>61-65 >>69-70

Re: 罪、償い。【転載作業終了 コメ随時受付中】 ( No.45 )
日時: 2013/02/06 20:11
名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)

【赤井町】
首都圏からやや外れたとある県のとある町。人口は多くも少なくもなく、数年前の“とある事件”のことを忘却の彼方へ住人達は追いやろうとしていた。
駅前のデパートはデートスポットとしても人気であり、それを囲むようにショッピングモールが広がっていて、七階建て建築。
主人公達の通う学校はそういった娯楽施設に寄り道をしないようにと少し遠ざけて建築されている。名を、赤井学園。小中高一貫の学校であり、初等部からは富裕層が通い、中等部、高等部となるに従って入学金は減少する代わり、入試それに比例して難しくなっていくという。
自然にも科学にも恵まれた町で、赤井学園の裏には低めの山すら存在し、町外れには砂浜と海が存在している。
大きな教会や神社も一つずつある、様々な点で恵まれた町。


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