ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 【感想随時受付】罪、償い。 【第二章第四話part7up】
- 日時: 2013/08/07 17:03
- 名前: 鬨 (ID: UIQja7kt)
初めまして、鬨(とき)と申します。
此度私が投稿させて頂く物は、小学生高学年から中学生まで設定をしていたり、書き込んでいたものを実に六年ほどの年数を経て改善したものです。【小説家になろう】より移転したものであり、また当人であることをここに確認させて頂きます。
注意事項は特にございません。お目汚しになるやもしれませんが、精一杯書いていく所存ですので、皆様、どうか最後までお付き合い頂ければと思います。
追伸:コメントを頂ければそれだけで励みになります。飛び上がって喜びます。
第一章 紅の炎 >>36
第二章 二重の狩場 >>44
キャラ紹介
神無木来人 >>66
桜井明 >>67
焔 >>68
コメントを頂いた方々
鈴月音久様【DISTANCE WORLD】
花様
Twitterアカウントはこちら
→@Ry_ipsf
- 無題 ( No.61 )
- 日時: 2013/04/21 22:49
- 名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)
「う、————あ……ッ!?」
予想外の軌道。想定外の攻撃。古臭い手段、相手に追尾攻撃を逆に食らわせてやるという策は、相手の精密な能力のコントロールによって失敗に終わる。連続で電撃の弾丸を体中に受け入れ、俺の体は次から次へと焦げ臭い匂いと共に痺れを感じ、同時に苦痛で顔が歪む。——これが痛み。これが戦い。“あの日”はあまりにも無我夢中だったために、刀で腹部を貫かれようとも行動していたが、いざ冷静になって闘えばこのザマだ。未だ経験したことのない絶大な苦痛によって、俺の意識は一度暗転(ブラックアウト)しかける。
音もなく朝霧は追撃にかかる。声をあげることも、怒声を放つこともなく。的確に俺の肩、膝といった関節目掛けて槍撃を放ち、それらに俺は為す術もなく全身を蹂躙されていく。その痛みによって、消えかけた意識が鮮明(クリア)になったのは不幸中の幸いだったか。だがその“幸”を上回る絶対的な苦痛が、全てを支配する。
死ぬ。
間違いなく死ぬ。
俺の総身はもはや戦闘を行う者としての機能を果たすまい。肉体を駆け巡り侵していく激痛とは対照的に、冷静な思考が脳内で展開される。——肩、膝、肘、およそ失血死さえしなければ致命傷にはならず、しかし的確に戦闘不能に追い込む箇所に攻撃を受けた。間違いなくこのままでは、敵に疵(キズ)一つ付けることなく俺は地に伏せることになる。
一撃ごとに意識が再び漂白され始める。一度の攻撃を受ける度に、肉体から鈍くグロテスクな音が発せられる。規則的なリズムで繰り出される刺突から奏でられる鈍音によるロックは、おそらく俺が倒れ臥すまで終わることはないだろう。これほどまでの苦痛を受けたいま、意識を保ち痛みを通り越して熱すら感じるこの状況で精神を保つ俺は、むしろ哀れと言うべきなのかもしれない。
「あ……、……ぁ……」
脳内にノイズが走る。
燃える赤色の女性と、深い海のように藍(あお)い少女を幻視する。
俺が闘っているのは、何のためだったのか。
誰のためだったのか。
思い出せ。神無木来人(おれ)の命は、ここで捨てていいものであるか否か。
「これで、終わり——ッ!」
黄金色の死神が形ある雷を振るう。紫電纏いし長槍は今度こそ俺を気絶させるか、それともハイになってきて殺すことすら躊躇わなくなったか。いままでとは違って大振りで直線的な突きを一発、解き放った。
地面を蹴り、ヤツは“敵”を貫くために全身を力を込めていままで以上の速度を持ってして俺へと直進してくる。
「、あああああ————!」
俺にはその余力も足もない。ついでに言えば、この状態で剣を振るうことすら困難。それでも俺は、強引に肉体に鞭を打って迎撃に出る。
躱しようもないタイミングで、俺は最後の力を振り絞って渾身の一撃として刃を振るう。
「ッ!? ……どういうことだ、確実に両腕も潰したはずだろ……!」
こんなはずではない。
そんなことを言いたげな表情で、自らの槍と拮抗した剣を見て彼女は吐き捨てる。
当然だ。俺自身、未だに動けることが不思議なぐらい。体を動かすだけで、体内の骨が自らを切り裂く刃となったかのように肉体を苛み、制服は見るも無残なほどに真っ赤に染まっている。顔にも切り傷がたくさんできているだろうし、本当に、まったく自分でも動けているのが理解できないほどだ。
——でも、どうでもいい。
いま、再び俺は戦意と体力を振り絞り朝霧に抗うことに成功した。槍と剣は悲鳴と血液の代わりに火花を撒き散らし、攻撃の失敗を物語っているのだ。
「オオオオオぉぉぉぉぉおおお————————!!!!」
「ぐ、……くっ!?」
剣を振るう。意表を突かれ攻撃の手を休めた朝霧目掛けて、肩から斜めに刃を振り下ろすも槍の柄で防がれる。
「ああああッ!!」
「————、————ッ!!」
一撃。
再び攻勢に出ようと槍を持ち替えた朝霧の右手目掛けて、剣を突き出す。咄嗟の判断で彼女は回避を行うが、それでも強引に回避したために、右膝を崩して同時、バランスも崩壊させる。
「……っ、この、なんで……!」
「————————!!!!!!」
自分が何を言っていたのすらわからない。きっと、もう声にもならない絶叫をあげていたのだろう。そんな状況で、無茶苦茶に俺は切りかかった。
一。二。三。四。五。
振り払い、逆方向への振り払い、切り上げ、切り下ろし、刺突。
敵に攻撃の暇(いとま)を与えてはならない。それを与えた瞬間、二つの理由から俺の敗北は確定する。まず朝霧は能力を乱用こそしていたものの未だに無傷、スタミナもまだ余り余っていることだろう。だが俺はこの満身創痍、本来ならば立っているのでやっとの肉体を酷使し、駆け引きも技術も全て放棄して剣を振るい続けている。もう一つは純粋に、力量の差。焔以上の速度で俺を切り刻んでいくあいつの攻撃を前に、俺は為す術なく敗北することになる。純粋に戦闘能力に大幅な開きがあるのだ。どうあっても神無木来人は、この間に朝霧を打倒する——!
払う。薙ぐ。斬る。
次第に剣戟の速度は上がっていき、ヤツ自身が雷になったかのように錯覚すらさせられていた敵を相手に、音速はやがて神速へと姿を変えていく。それでも足りない。速く、速く、もっと速く——!
先ほどからの斬りあい、そして敵の槍術からいって、筋力は恐らく彼女は俺より低い。女子であるがため仕方がないことではあるが——スピードを活かせない状況に持っていけば、俺の方が有利なのは当然だ。速度が足りないというのなら、一方的な剣戟、即ち腕力(パワー)で押し切るのみ。
火花。
次第に槍と剣が交差するたびに鮮烈なほどの火花が刃鳴りと共に散り、全身が白熱するのを感じる。毛穴ひとつひとつから汗が吹き出し、腕は自らの剣と融合したが如く自然に動く。が、同時に剣が受ける衝撃も全て直接俺の体を蝕んでいく。
熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。
体が燃えるようだ。炎に包まれるそれは、けれど決して俺を害するものではなく、むしろ心地良さすら感じる。——ああ。だから、俺は“お前”を受け入れる。生命の源にして生命を奪う物でもある、再生と破壊の顕現。現(うつつ)にて庇護すべき者を覆い熱を与え、敵対すべき者に紅蓮色の破滅を与えしもの。もし俺にそんな“おまえ”が宿っているのならば、あの時のように俺に、力を。
瞬間、剣は炎そのものとなった。
打ち合わせられる炎と雷。それは両者とも形ある権能。己が主と認めた者の敵を廃すべく、遂にその姿を現す。
「あんた、いったい……!」
「————じゃ、……ぇ」
声が掠れる。
炎に抱かれた刃に煌びやかに反射する、赤髪に明るい炎色の瞳へと変じた自らを視界に認め、しかしこれは二度目。驚くこともなく、俺は自らの意地をここに張り通す。
「……んじゃ、ねえ……ッ!」
紅と紫は幾度目かわからぬ衝突を繰り返す。覚悟ならできている。この身は疾うに自らのものではない。ただ俺が護りたいと、助けたいと宣言し誓った、彼女らのために剣となり、炎となり、目の前の紫電を許容することができない。そして、俺などのような者より遥かにまっとうな人間に、間違いなど犯させたくない————!!
「俺の家族(もの)に、手を出すんじゃねえ……————!!」
「ふざ、けんなよ……あんた……ッ!」
轟音が俺達の世界を支配する。自分以外なにも要らない、そう主張する紅と紫はついに莫大な出力を以ってして互いに相手を破砕する。否、破砕(ま)けるはずなどない。この身に宿した“彼女”の力が、いまや正しき道を選んだあいつが、迷(まよ)い子によって倒れる道理などない。
何十、何百もの打ち合いを経て、朝霧はここにきてようやく疲労の色を見せる。漸く生まれた芸術的とすら言えた槍術の綻び目掛け、俺は上段から刃を振り下ろす。
肩から胸、腹へと斜めに切り裂かれ、朝霧の肉体は浮遊する。斬撃と炎、二つの力に同時に身を侵され、少女は為す術もなく俺の前から放物線を描いて吹き飛ばされる。
追撃はしない。限界の先にあった最初で最後の一撃は、少女を確かに倒れさせた。
抵抗なく地面へ沈む天上の落雷は、微量の出血を零し、おぼつかない足取りで再び立ち上がった。
「なんでだよ……なんで、あたしの邪魔をするんだよ……!」
悲痛なまでの叫びに、しかし俺はどこまでも冷静だ。嘘も、飾りも、誤魔化しも要らないまっすぐな気持ちを俺は吐露する。
「何度も言わせるな。俺は俺の大事なヤツのために闘ってる。てめえがあいつに手を出すっていうなら、俺は何度でも立ち上がって闘ってやる」
立っているだけで俺の周囲を舞う火の粉は、間違いなく俺の能力である炎の破片。まだ力を御しきれない俺の肉体から溢れ出たそれを払いながら、一歩前へと進み出る。
「一度、あいつと話してみろよ。おまえも少しは気持ちが変わるんじゃないのか」
信じられないというのなら、例を見せればいい。
“黒”が大半が人殺しを愉しむようなヤツかどうか。そんなものは俺にはわからない。けれど焔は決してそんなやつじゃない。そう信じている。その気持ちを、朝霧に少しでもわかってもらえれば、考えを変えてくれるのではないか?
自分でも甘いのはわかっている。けれどそんなものは今更だ。最初に焔と闘って、あいつを殺さないと決断した時から気持ちは決まっていた。俺は、殺しなんてしたくない。視界に入る者だけでも、どうか歪まないでいて欲しい。焔も桜井も、北條や刀崎、光一と坂上。——そして、こいつにも。
- Re: 罪、償い。 【第二章第四話-1up】 ( No.62 )
- 日時: 2013/04/25 22:33
- 名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)
「……冗談じゃないよ」
口を開いた少女は、しかし決して心を開くことも妥協することもしなかった。血反吐を吐くような声音で彼女は、決して揺るがず燃え続ける復讐の炎の宿る瞳で俺を射抜く。
自らの意志。存在理由。それを一時的にとはいえ見直してみろと言われて、彼女は激昂しているのだ。
認められない──彼女は、そう主張している。
「そんな簡単な一言で、あたしが諦められると思ってるのか! あいつらはあたしの何もかもを奪っていきやがったんだ、そんなヤツら——生かしておくかぁ……ッ!」
至極まっとうな言葉。きっと、俺もこいつの立場なら同じことを言っていただろう。だから俺はどこまでも周りから御託を並べるだけ。わかっている。けれど、まっとうであってもこいつの言葉は間違っている。
剣を握り締める。額から滲む汗が視界をぼやけさせ、鬱陶しいことこのうえない。
「なら、来い。てめえが納得いくまで、何度でもぶっ倒してやる!」
「調子に、乗るなぁああああッ!!」
叫びと共に彼女は俺目掛けて突撃する。だが、それに序盤ほどの勢いはない。俺の視界に明確に捉えられる速度、——否。使いこなせていないとはいえ、自らの能力を数割更に俺は引き出したのだ。よって、身体能力にかかる補正も先ほどと比べて数段は上。加えて朝霧も先ほどの一閃が直撃しダメージは間違いなく受けている。動きが鈍るのも当然だ。
力任せに振り下ろされる槍の穂先を片手で握る剣により振り払う。耳障りな金属音が鼓膜を貫く。
追撃とばかりに朝霧は連続で刺突を始める。一、二、三、四、五、——合計四十。一秒にも満たぬ時間で四十の刺突を連続で放っているが、“いまの俺”ならそれを明確に視認することができている。そう……反応できている。であれば、凌ぎ切れない道理などどこにもない。
片手で剣を握ったまま、それらの槍撃全てを的確に弾き落とす。炎と紫電、二つの異能は現を侵し、衝突するたびに周囲の草木にすら悲鳴をあげさせる。
「はあッ!」
そして、反撃。
炎を纏った剣は再び朝霧を中空へと放り出そうと“切り上げ”として振るわれる。
——が、防がれる。いくら冷静さを失いかけているとはいえ、やはりあいつは地力が俺を遥かに上回っている。そんな相手に対して、そう簡単に反撃が通るはずもなし。再び剣と槍は打ち合いが始まる。小刻みに鳴らされるそれらはもはや芸術のよう。何度も何度も繰り返しぶつかりあう両者は、少しずつ互いを理解しているのだろう。今朝、俺を襲ってきた時の一閃とは違い鈍く鐘を衝いたような音ではなく、音楽——ロックを聴いているようにも錯覚する。
打ち合えている。
ほんの数分前まで俺を圧倒していた敵と、俺は互角に打ち合えているのだ。攻め手も赦されるようになったいま、負ける気など一切しない。
されど油断する勿れ。敵対者は未だ尚健在、全力を出しているかどうかも怪しいこの状況。いまでこそ有利ではあるが、敵が冷静になり全力を出されたらそれだけで立場はもう一度逆転してしまう。だから俺は、その前にこの敵を倒さねばならないのだ。ゆえにいまこそ、焔と桜井から伝授された体捌き、そしてそれを駆使する“俺だけの剣技”を用いて敵を倒す。いつまでもこの状況に酔っている場合ではないのだ。
「……」
脳内で“安全装置”が外される。俺はいま一本の剣にして一丁の銃。相手を的確に切り刻み、打ち抜くことにのみ専心を向ける。イメージするのは四つの軌跡。本来ならば脳天、心臓、肺、鳩尾という急所を狙うのだが、今回の目的は敵を殺すことではない。狙うは四肢の関節、俺はどういうわけか動けていたしそれは不思議で仕方がないのだが、本来ならば関節を潰されれば動けないのは当然だ。悪いが、しばらく我が家の床の間で反省していてもらう。
一。
右肩。多くの人物が利き腕とする関節の大本。ここを破壊されれば、如何なる豪傑であれど少なくとも“腕”を駆使する攻撃は間違いなく威力、連射性は両方とも半分以上は減衰する。ここを第一の“狙撃点”(ポイント)に指定。
二。
左肩。逆にこちらを利き手とする者は少ない。しかし槍はどうだか知らないが、剣であれば左手の小指、薬指で握るのがセオリーだ。つまり武器で小回りが利く場合は、ほぼ大抵がこちらの腕と指が一役買っている。こちらを破壊されれば、武器攻撃による精密さは死んだも同然である。ここを、第二の“狙撃点”に指定。
三。
右膝。足を撃ち抜かれた場合、よほどの者でなければ立ち上がることすらままならない。“四”となる左膝も同様。それぞれの役割はその者が用いる武装によって違うが、ここはそれぞれ“違いすぎる”ために割愛する。兎角、この両方も撃ち抜く標的だ。
- Re: 罪、償い。 【第二章第四話-1up】 ( No.63 )
- 日時: 2013/04/25 22:33
- 名前: 鬨 (ID: a4Z8mItP)
「いくぞ————」
「っ……!」
敵の表情が凍りつく。
剣に宿っていた炎はやがて純白の光へと変じ、俺の肉体の変化こそそのままだが、剣はいままでの炎とは違う。——魔を祓う、聖。十字架を掲げられた悪魔の如く、少女は眼前に迫る破壊者に畏怖を示し、槍捌きが刹那、狂う。
時間が凍りつく。
収束する殺意。俺のこれから放つ一撃を察知してか、朝霧は一度緩めた槍の攻撃を強引に再開(デッドヒート)させて、しかし一撃も入らないこの状況に歯噛みする。
紫電を纏う“雷神”は、それでも倒れない敵に憤りを覚えながら更に、更にと槍の速度を速めていく。
——紫電の槍兵、朝霧瑠吏。
“黒”に対する憎悪を滾らせたまま、彼女は一切変わっていなかった。
アレはきっと、未だにその吸血鬼の姿をした“黒”との闘いを続けているのだろう。復讐という悪夢の中、見境すらつかなくなった怒りを振りまき、それでも尚、自らの目的を遂行するために槍で多くの命を貫き続けた。
————ああ、ならば。
互いの眼に、敵を睨み付ける自分の姿が映りこむ。もはやこれは先ほどまでのような武器のやり取りではない。一撃を以って敵を薙ぐか、薙がれるか。その瀬戸際、朝霧もその瞬間は防御に徹し防ぎきろうとするだろう。あわよくば、技を放った後の俺に、隙を突いて大きな損害を与えようとも考えているはずだ。
であればいままでのように炎の能力や、身体能力の補正だけでは追いつかない。この瞬間、神無木来人は敵対者を倒すことにのみ専念する。余計な情はこの数秒のみ、完全に切り捨てる。
炎の能力を扱うことをできなかったこの数週間。俺は修行の最中に、炎を扱えないときのためにと、本来ならば燃費が悪いのだと桜井にも焔にも言われていたことだが、剣に能力の源である身体エネルギー、精神エネルギー両方を乗せて起爆させるという結論に至った。それは純粋な力であるがゆえにシンプルな破壊。自らの力をそのまま吐き出すだけに過ぎない一撃だが、下手なコントロールが要らない所は非常に俺に向いていた。
————焔のように、こいつの悪夢も、終わらせてやらなければ。
脳裏に投影(イメージ)されていた四つの斬影は、視界に明確に模写される。後はこの通りに、刃を叩き込み、敵を叩き伏せるのみ————
燃え猛る殺意は紫電という名の形を以って。明確な姿を現世に産み落とし、次の瞬間には俺を感電死させようと目論んでいる。対して俺は、未だ実践で試したことすらない技を放とうとしているのだ。
分の悪い博打。俺と彼女の間に存在する空気は旋風となって両者の間合いを支配し、激流の如く流れ込む。
電撃を纏った槍が防御のために傾いたと同時——、
「“破・四閃撃”(クアトロ・バレット)————————掃射(フルバースト)」
————防御を遥かに越えた速度にて、対象を貫きにかかる————!!
連続。否、ほんのコンマ零数秒ほどの差しかないであろうほぼ同時の剣戟は刺突となり、標的とした箇所を狙撃する。
鈍い音が二度。甲高い音が二度。直後、その“鈍い音”がした箇所から体に叩き込まれた純白の光が起爆する。あまりの衝撃に、彼女の背中を通り抜けて衝撃が引き起こされ、遥か後方の木々すら薙ぎ倒されていく。
「……っ、……」
しかし、彼女は未だ立ち続ける。
俺の“四閃撃”を受けて尚、朝霧は健在だ。攻撃を受ける直前、咄嗟に左半身を捨てて右半身のみを防御にかかった彼女は、“左”を完全に使い物にならなくすることを代償に、反撃を行う機会を得た。
「目障りなんだよ、あんたはッ!」
「はっ————おぉぉぉおおッ!」
両者ともども、同時に踏み込んだ。
純白の光は健在。自らの技を撃って硬直するのではなく、勢いをそのままにトドメにかかる俺の剣と、この好機を待っていたとばかりに反撃へと踏み出す朝霧。
速度はこの瞬間のみ、こちらのほうが上。
体のちょうど五割を喪った朝霧よりも、全力を出し切り更にその先を突破せんとする俺の一閃のほうが、彼女の速度を凌駕する。
右肩を対象に設定、純白の輝きを剣は強め、もう一度だけ、と大砲を打ち込んだ。
「なめるな……!」
——しかし、打ち負ける。
後先、速度、どちらも関係なく。否、“速度がヤツが上回った”からこその結果。
漸く速度も力も上回り、この瞬間しかない、と臆面なしに自らの全てを注ぎ込んで尚も負ける。
朝霧が片腕で握る槍が、電撃を纏って迫る。俺の鳩尾を貫いて、それでこの闘いの幕を引くつもりだ。
「……ッ!」
瞬間的な判断。先ほどの斬撃の勢いを利用した一閃、その勢いもまた更に利用して体を大きく逸らす。己の身体能力、全てを防御と回避行動のために叩き込む。察知できたのは大きい。先ほどのようにされるがまま蹂躙されることとは大きく違う。——避けることは可能だ。この一撃の攻防は、両者ともども刃が掠ってそれで終了。莫大なアドバンテージを得た俺が、今後も有利に戦局を進めることができる。
……全身に、痺れが走る。
脇腹を掠っただけで全身を電気ショックが襲う。脳の電気信号を微妙に狂わされたか、筋肉が一瞬だけ痙攣し、剣の狙いは逸れて朝霧へと届くことはなかった。
- 無題 ( No.64 )
- 日時: 2013/05/27 16:58
- 名前: 鬨 (ID: ZPpnZ9Dd)
「————加減はもうしない。あんたは、殺す」
一瞬の攻防の余韻などどこにもなかった。彼女の宣言を受けたと同時に、すべてが終わった、と錯覚させられた。
今度は何事だというのか。朝霧の放つ殺意が、また別の何かを孕み、なんらかの異変を起こす。
背中に悪寒が走った。嫌な予感、胸騒ぎという言葉はこうしたタイミングで使うのかと、俺は十数年間の人生で初めて明確に思い知った。
全身の毛穴から汗が吹き出るような錯覚。血液が沸騰し、即座に冷やされたかのような落ち着かない気分。朝霧の呟いたなんからの技の名は——まるで、死刑の宣告にも思えてしまった。
視界から黄金の少女が消え失せる。ようやく相手の素早さを打破し得る状況を作り出せたというのに、まさか——まさか、この少女は……未だに隠し玉を用意していたというのか。確かにいままでそれらしき技は電撃の弾丸程度だったが、ここにきて、今更になって全力を出すなどと。……誰が、予想していた?
大きく後ろへと飛び下がり、距離を取る。このまま近距離でいるだけで俺の首は落ちるという確信を俺は抱いてしまった。それほどまでに、先刻までと朝霧の放つ威圧感は別物となっていたからだ。
「のろい」
「……!」
跳躍、というよりも飛翔、と呼ぶべきか。俺の空けた距離をたったの一歩の踏み込みで縮めた朝霧は、その手に握る“紫電”で、俺の腹部を貫いた。
「あ、が……!?」
槍は俺の体内へ侵入したまま、彼女の片腕によって上空へ掲げられる。ずるり、ずるり、と音を立てて少しずつ柄のほうへと、重力に従って下りていき、同時に深く、さらに深く刃は俺を苛んだ。
圧倒的だ。喉にいつの間にか張り付いていた血も、新たにやってきた血塊と共に吐き出され、朝霧の顔に水滴として付着した。——彼女の瞳には、もう躊躇いなどない。
「わかったかい。……あんたとアタシの力の差が。……そして、アタシがあの時に感じた絶望を」
「————、」
それでも。
俺は首を横に振る。
わかってたまるか。ここでそれを認めてしまったら、俺がようやく得たあの暖かな日々も、血に沈む。絶対に嫌だ。こんなヤツに、俺の家族を……奪わせて、なるものか。
溜息をひとつ。
物分りの悪い俺に呆れたようだ。彼女の視線がついに氷のように冷たく染まった。
「本当に、馬鹿だね」
バチバチと音を立て、俺の全身を彼女の手から槍へとかけて駆け巡った電撃が襲う。全身の血液が沸騰しかねないほどの苦痛を覚え——、
「あぁぁああああああああ!! が、ぐ、ぉぉぉおおおおッ!! うわあああああああああああああああああああああああああ!!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
激痛という言葉すら生易しい。思考が徐々に漂白されていき、なにも考えられなくなる。肉体は外部からの電気によって何度も痙攣し、刻一刻と死は近づいてくる。現実は、俺の思っているものの何倍も残酷だ。俺からもう一度、……奪うのか、なにもかもを。
「……まだ意識があるんだ。上出来というよりも、ここまでくると同情するよ。アタシと一緒だ、そんなところまで。諦めて意識なんて手放しちゃえば楽なのに」
強引に槍は振り回され、遠心力により俺は大きく放り出される。ゴキリ、とどこかの骨が折れる音がした。木に叩きつけられた。もっと痛くなった。また、どこか折れた。痛い、いたい、いたいなあ……。
地面に生える草が親しげに哂う。兄弟、いい加減休みなよ、と。
けれど残念ながら、それはできない。俺はおまえみたいな兄弟を持った覚えはないし、なにより少なくとも朝霧に何もしていない焔が、そして俺と同じくして彼女の前に立ちはだかるであろう桜井が傷つけられる理由に——、朝霧の槍にも、電撃にも、拳にも、まだどれひとつとして納得しちゃいない。
全身が悲鳴をあげたけれど、無視して立ち上がった。草は残念そうに声を漏らすが、関係ない。呆れた表情のまま朝霧は槍を肩にかけ、破壊された半身の関節を見下ろしている。
きっと俺は長くない。腹にひとつ大きな風穴を開けられた。電撃で焼かれて塞がれているために血は出ないらしいが、それでも生きていくためには甚大すぎる欠陥だ。——諦めてここでくたばるぐらいなら、最後まで足掻いてみせようじゃないか。でなければ、先に逝った連中に示しがつかない。
「そろそろうざいよ、アンタ」
ヤツの姿が視界から消え失せる。しかし、居場所はわかる。俺の周囲や木々の間を縫って、凄まじいほどの速度で動き続けているのだ。——あいつの通った箇所に、焼き切れたような痕ができている。あいつの能力は電気、そして場合によっては電気から磁力を作ることだって可能だろう。電磁石と同じだ。電気から磁力を生み出し、瞬間的にあいつの足元と自分自身を同じ極の磁石と化して反発させ、爆発的な速度を生み出している。
その証拠が、次から次へと焼き切れていく地面の草。なにが休めよ、だ。おまえが休むことになっちゃ世話がない、ざまあみろ。
高圧の電気は時として物質を焼く。……と、ここまで推測はできたものの、まるで対策が浮かばない。加え、俺は考えに考えたが死にかけとはこれほどまでに冷静なものなのか。数週間前、低級“黒”とすら呼ばれたあの悪魔に殺されかけた直前は、本当に喚き立てていたというのに。いまの俺は、まるで自分ではないような気すらした。
同じだ、さっきと。我が専心は、彼の敵の撃墜のみへと向けられる。
捉えられないというのなら、捉えられるだけの範囲を持つ技を撃つか、相手から飛び込んでくるのを待つだけだ。自然に、握り締める剣に炎が宿る。
右。左。後ろ。
音と消えていく草でわかる。そして高速移動である以上、あいつの癖も出やすいものだ。走り、走り、走り続け————来る……!
「————“残火”……!」
俺とてあいつと同じ、炎の使い手だ。焔にできて、俺にできない道理はない。元より我が身は、現(うつつ)より外れた者——!
槍の一閃が俺を捉える直前、俺とあいつの間へと壁の代わりに剣を差し込んだ。けたたましい金属音が弾け、同時、空中に“剣の形をした炎の障壁”が残留する。
イメージするのは、炎というよりも剣。熱せられて赤く発光を始めた、業火を携えし刃。打ち合った瞬間、逃したか、と言いたげな舌打ちが耳に入る。
ああ、いける。まだまだ、俺は闘える。
今度は背後から。肉体はあいつの速さについていけないが、ただ棒立ちして攻撃を予測し、そこに合わせることなら可能だ。剣を背中にまわし、背後からの一突きを剣の腹で受け止める。同じくして、俺の背中に炎の障壁が形成される。
桜井曰く、能力を扱う者は自分の力にのみ一定の耐性があるという。よほどの出力でもなければ、自分を巻き込んでもダメージは一切発生しないと聞いた。ある程度の出力を上回ると、その耐性を一茶無視して、相手と自分、両方に同等のダメージを与える自爆技になるようだが、ただ炎を残すだけの“残火”程度ならば、俺自身に被害が及ぶことはないだろう。よって、俺の行動範囲が狭められることはなく、あいつの攻め入る隙間が少しずつ失われていくことに等しい。
それを、何度も何度も繰り返した。自分の炎に自らぶつかって掻き消してしまったこと幾度かあったし、捌き切れず体に切れ込みが入ることもあったが、それでも大方防ぐことには成功した。俺は朝霧の動きを見切れているわけではない。ただ、あいつの動きに圧倒されているだけだ。——その攻撃を、防げているかいないかの違いに過ぎない。
そして。
ついにやってきた、正面からの突撃。捨て身の戦法だとか、死中に活を見出すとかそんな域ではない。自らに被弾する一撃を完全に度外視し、俺は剣に宿る炎をさらに強め、夕焼けのような橙色から溶岩のごとし灼熱色へと変じさせる。
「終わりだよ!」
「終わらせねえよ。……なに、ひとつだって……!」
俺の周囲を取り巻く炎の網は、朝霧の精密な攻撃のコントロールを用いれば簡単に潜り抜けることが可能だろう。だが、それゆえに……ある程度の“ルート”が推測できる。その予測箇所は、“四つ”。後はただそこに、剣を置きに行くだけだ。
「“派・四炎撃”(クアトロ・ブラスト)——————掃射(フルバースト)……!」
「————ッ!?」
炎は橙から灼熱に、灼熱から紅蓮に。血色とも言えよう色へと変わり果てた炎は、朝霧を動揺に誘い振るわれた一本の槍を叩き落とし、残りの三度の斬撃に乗せられで、反撃に向かう。
ガ————、ン。
遠く遠く響く鉄音、それにやや遅れて先ほど穿てなかったもう片方の手足、そしてカウンターを防ぐため槍を叩き落さんと、それらは一斉に襲い掛かった。
——そして。
一瞬だけ、薄れ行く意識の向こう側で、何かがスパークする音を聞いた。
- 無題 ( No.65 )
- 日時: 2013/07/20 18:15
- 名前: 鬨 (ID: VXkkD50w)
再び体内に侵入する矛先。ぐちゃり……と湿った音が意識を支配した。
何が起きたのかわからない。目の前から朝霧はいなくなっているし、剣を照らしていた焔(ほのお)は消えかけのマッチ棒のように沈静化している。何よりも驚いたのが、散々俺を囲うように生み出した炎の障壁が、ひとつ残らず掻き消されていること。腹部に開けられた風穴が更に広がっているのは、もう周知のことだ。
刺されたのか。いまになってやっと痛みも感じられるようになった。痛い、途轍もなく痛い。焼き鏝を押されていると錯覚するほど、熱い。
ずぶり。
ぐちゃ。
背中を文字通り貫く衝撃の正体は、やはりというべきか、あの槍だ。今度は背中から入り込み、俺の腹部を食い破ってそれは出てきた。心臓を狙わないのは、朝霧なりの手心というべきなのだろう。——ここまでされれば、いくら『能力者』になった俺もいずれにせよ死ぬだろうが。
「本当に、馬鹿だよね」
背後から呟く少女の声はどこまでも冷徹だ。けれど、内側にほんの少しだけ感情が入り混じっていることを、俺は聞き逃さなかった。
それは俺を嘲っていたのか、哀れんでいたのか。いまとなってはそんなこと判断することすらできなかったし、したところで無意味だ。
抜ける。
侵入したとき以上にグロテスクな音を立てて、槍は彼女の手により引き抜かれる。前後共々一回ずつ肉体を抉じ開けられる。これも身体能力へかけられた補正ゆえだろう、腹部から滴る血は普段の軽傷よりもだいぶ緩やかだ。それでも、死ぬ。間違いなく。
緩慢な動きで、背後を振り返る。俺の死神となるであろう金髪の少女はそこに槍を握ったまま屹立しており、すでに槍を構えることすらしていない。勝負がついたことを、確信しているのだ。
——そこに、
「……!?」
油断をしている死神に——、更に剣戟を叩き込む——!
「どうして、なんで……?」
何度だって言い返してやる。
ああ、そうだ。所詮は俺のエゴに過ぎない。こいつの復讐、その手始めになった焔が。それを庇うであろう桜井が——俺の新しい家族が! 俺は何よりも大切だ。それを、今日あったばかりの能力者なんかに殺されてなるものか。
アキラメナイ、あきらめない、諦めない。
殺させない。俺がようやく見つけた、帰るべき場所を。壊させて、なるものか——!! それに——、
「……ってんだよ……間違ってんだよ! 間違ってるんだよ!! てめえのやり方は!!」
口の中から吹き出る血反吐がもどかしい。いまはこの思いのたけを、こいつにぶつける。それだけができれば構わない。だから邪魔だ。この血も、その槍も。
炎を纏った剣が奴の槍を跳ね上げた。その勢いを振り下ろしに活用し、渾身の一撃で槍を叩き落す。
「あたしの邪魔をするなああああああッ!!」
朝霧の総身を雷(いかずち)が覆う。残像すら出る速度で俺の背後に再び周り、同じく電撃を纏った手刀を俺の心臓に突き立てんと、振るう。
——そこまで、見えている。
「ッ!!」
瞠目。驚愕。愕然。
どんな言葉が、いまのこいつには似合うだろう。本音を言うならば、俺も驚いた。
剣が纏っていた炎が、青白いスパークに取って代わったのだ。それと同時に、コンマ数秒前までは目で追い、反撃を一つ放てるか否か、といったところだったのに。
——全て、見える。
咄嗟に俺は、手刀を左手で、朝霧の手首を掴むことで停止させてみせた。
「どうなってるんだよ……あんたは……!」
精神が、ではない。
そういえば、数週間前もこんなことがあった。剣に映った俺の姿が、いつもとは違う。……剣に映った俺は、黒髪でもなく、赤髪でもなく、——髪色が、金髪へと変わっていた。その全身を、朝霧と同じく電気が覆っていた。
「……あんたみたいなトーシロが、二つ目の力を……しかもよりにもよって、あたしと同じ電気だと……?」
その隙を、俺は見逃さない。
冷静になられてしまえば、それだけで俺の敗北は確実になる。この動揺をしている間に、倒しきってみせる。
剣で鳩尾目掛けて刺突を放った。朝霧は即座に反応をし、屈んで回避しながら槍を拾いにかかる。だが、それは想定通りだ。武器を取り落としているうえに、動揺で判断能力が鈍っているのであれば、愚直なまでに武器を取りにかかるだろう。
ゆえに、膝蹴り。
これも交差した腕で防御されるが、勢いを殺しきれずに奴の体は浮いた。そこに——自分の腰を回転させ、遠心力を加えた右手の裏拳。流星が、大地に突き刺さるが如く。それは敵の賞賛すべき反応速度により、壁として用意された槍をしたたかに叩き、より強く朝霧を後方へと弾き飛ばした。
翻る。
——恐らく、これが奴の行っていた急激な速度の向上の正体だ。全身の筋肉に電気を流し、電気信号の伝達速度をあげ、肉体のリミッターを解除する。後に来るであろう反動に恐怖がないと言えば嘘になる。だが、——ここで引き下がっては、二度と勝機は訪れない。俺は吹き飛ばした朝霧を追い、剣を構えて突撃する。
「この……!」
行動を先読みされたのだろう。電撃を纏った槍が、形ある雷の如し速度で飛来する。——避けるのは不可能。ゆえに……、
「——いい加減、頭冷やしやがれ……!!」
真っ向から、紫電纏う槍と、蒼雷纏う剣を衝突させた。
触れ合うだけで山火事が起きかねない程の電撃が辺りを支配する。まるで、ここだけが昼に変わったかのように、夜の山は明るく輝く。二つの雷は刃から迸り、主から離れ、中空で再び邂逅し、両者を潰し合う。蒼と紫は、己以外の存在を認めぬと、ただひたすらに敵を倒すことに専心を置く。
——勝負は、決した。
剣は弾け飛び……俺の遥か後方で、地面に突き刺さった。
だが。
「……」
朝霧は無言で、己の両手に握られているはずだった、粉々に砕けた槍——だったものを、見下ろした。完全に破片と化したそれは、元が何だったのかわからないほどに、木っ端微塵だ。
「なんで、……なんで、負けるんだよ。どうして……」
それだけ言い終えた少女は、糸の切れた人形のように倒れ付した。
……終わった。
どうして己が突如として、電気を操ってみせたのか。それは自分でもわからない。……腹を見下ろしてみれば、傷も塞がっている。戦っている最中は気づかなかったが、自分は、この少女や焔達など比べ物にならない化物なのではないだろうか。
頭の中を、様々な猜疑が駆け巡った。
でも。
いまは、この少女の心を救い、焔を殺しにかかることを、やめさせよう。自分のことは後回しでもいいだろう。
「……いってぇ」
全身の筋肉が先程までの無理を訴えているのだろう。筋肉痛、というものを経験するのは、久しぶりの経験だ。
さあ。
さっさと、我が家に帰るとしよう。もう腹も減ったし、焔や桜井も待っているだろうから。
俺は朝霧を背に乗せて、ゆっくりとその場を後にした。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14