ダーク・ファンタジー小説
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- STRONG!(参照1100感謝致します!)
- 日時: 2014/02/08 23:26
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
お客様
岸 柚美様 >>2 >>22
エンヴィー様 >>3 >>6 >>14 >>17
七海様 >>8
ヒント様 >>27
明鈴様 >>34
プロローグ
>>00
♯01 children/anfang
>>01 >>04 >>06 >>09 >>10 >>11
#02 changed/scort
>>12 >>13 >>16 >>20
#03 first/judgment
>>21 >>23 >>25 >>26 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>36 >>37 >>38 >>39
どうも多寡ユウです!今回はどちらかというとリメイクに近い形だったりしますが、呼んでいただけたら幸いです!
死とはなんなのかっていうことは、ふと思い至ったりいますが、やっぱ結論は死ぬの怖ぇーな。って結論で終わっちゃいます。
ということで、またシリアスで書かせていただきます!
目を通してくれて呼んでくれたら、本当にうれしい限りです!
ぜひともよろしくお願いいたします。orz
プロローグ
人の生というものは実に奇怪なものだ。どれほど今の世を懸命に生きたとしても、必ず人には「死」がやってくる。如何なる生命体でも決して免れることのできない、絶対にして不条理にして正しすぎる「死」。彼の偉人、大隈重信でさえも人間は125歳までが限界と言ったものである。
不死の力など存在もするはずがない。否、して良い筈がない。そんなものがあったものなら大切な者達の死でさえも、改変することができてしまう。それはあってはならない。
勿論、その人を生き返らせたい人間は絶対に居るであろう。死んでいたままの方がいいなどという人は存在しない。いやいたとしても、それは表面上であり、内面的感情は異なるであろう。心の片隅でも、生きて欲しいという希う気持ちがあったのならそれでいい。それだけでその人は優しい人になれるし、生き返らせたい人間にもなれる。
だがそれは、不条理にして正しすぎる「死」に抗うということであり、生命の絶対的なルーティーンに齟齬を加えてしまうということである。それは間違っているという意見があるからこそ、人はそういうものを作りたがらなかったのだろう。
これが、先人達の頭脳と可能性と犯してはならないところの境界線の限界である。
しかし、それこそ間違っていると私は思う。
死にたくないのなら、死ななければいい。死にたくなかったのなら、生き返ればいい。
「死」は確かに絶対的なものではあるが、不変的なものではない。絶対王政もいつかは地盤を無くし、権威は失墜し、支配することもできなくなるような力量しか持たなくなる。
では「死」をなくそう、と私は決意した。
この世から生命というものを永久なものにすれば、どんな世界が広がるか。興味が湧く。
「今現在、このいわゆる不死の薬というのは実験段階ということでよろしいのでしょうか?」
角取材カメラのフラッシュが質問と同時に激しく光る。その数優に30は超えていて、目を開けるのも辛いぐらいに光量がすさまじい。
「はい。本人及び保護者の同意の下に癌や事故により重症化するに至っている18歳以下の子供達1000人に対し、臨床実験を行っています。結果が顕著に表れるのはあと21時間程かかりますが、この薬を投与すれば、状態も回復の一途を辿ることでしょう」
それでも囲み取材のその中心に立っている黒スーツを着た白髪混じりの30歳前後の男はどうするわけでもなく、ただ淡々と質問に対する答えを言い連ねていく。
堂々と構えたその立ち姿に年の貫禄というものがなぜか少しばかり感じられる。
「何故、子供だけに投与するのでしょうか?効果の表れ方が、この薬は年齢によって異なると解釈してもよろしいのでしょうか?」
「いいえ、それは違います。年齢は薬の効果とは全く関係ありません。未来の子供達に夢と希望を再び与えて上げられることこそが今後の未来の為にもなり、まだ世界というものを経験したことがない子にも、この世界がどれほど素晴らしいものであるのかと言うことを教えてあげられる。これ以上の喜びはありません。私達の薬で未来が救われるのですから」とその男は取材人の質問に笑顔で否定し、その表情を崩すことなくありきたりな一般論を吐き捨てた。
「しかし、商品化に至るのはまだ程遠いという意見も出ていますが、それに関してはどのようにお考えでしょうか?」
メモを取りながら新米の取材スタッフが問うた。その初々しさゆえなのか彼は笑顔を崩すことなく、世界中の人々に幸せを届けるような目でその新米を見ながら言う。
「それについては、できるだけ早く皆さんにお届けできればと思っています。21時間後には私達の薬の重要性と信頼性をご確認できるかと」
その表情に若干の薄気味悪さが漂うが、ここで今回の司会進行役であると思われるスーツを着た女性が「次で最後の質問となります」と、宣言した。
粗方聞きたいことを聞きおえた取材陣の中で特にベテランと思われる50台の男性取材スタッフが最後の口火を切る。
「では最後に、根幹の質問をしたいと思います。抵抗があるなら結構です」遠慮がちに言う。だがすぐさま。
「いいえ問題ありません」と、承認と受け取れる答えが帰ってきた。
数秒の静止の間、ベテランスタッフは言うべきか悩み、決断する。
「あなたが何故この薬を作ることになったのかをお聞かせ願いますでしょうか?」
今までの質問で一番短いものだったが、その分の重みと責任を背負った質問だったのだろう。これには白髪も少し黙りこくった後に、彼もまた決心した。
「わかりました。この薬を作ることになった理由を言いましょう」
彼は続ける。
「私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
- Re: STRONG! ( No.29 )
- 日時: 2013/10/17 22:38
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
照れくささの裏返しか顔を見られたくない平等院が前に行き、また《鑑定》が後ろから付いていくような配置に変化する。
「・・んなの、俺の知ったことじゃねぇだろ《鑑定》様。俺がいつまで生きるか、いつ死んじまうかなんてよ、もしかしたらずっと生き続けるかもしんねぇし、もしかしたら・・って事もあんだろうな」
もしかしたら、の後は続けなかった。否、平等院自身は続けられなかったのかもしれなかったが、どうしてもそれが出来なかった。今から自分の身に起きることを多少なりとも否定したかったのかもしれない。
「いくら《SD》の能力がどれほど強くても、ですか?」
つぶらな瞳で問いかける少女に、平等院は長い金髪の髪をポリポリと掻く。
「ああ、俺はこの《マザーボード》のテリトリーから無傷で抜け出せるのは楽勝だと考えてるしな。・・だがそれは、俺が一人で行動してる場合だけだ。お前の用事があってこんな場所に居るわけだが、正直言って、《鑑定》様付きのオマケが俺の逃げ足に癒着してる時点であいつらには勝てない、不可能に近い。だから奴等との戦闘は回避するべきなんだよ、負け戦なんて誰もやりたがらねぇよ」
「そんなの・・・・・・、やってみなきゃわかんないじゃないですかっ!!!!」
少女の叱責が飛ぶ。
だがそれを平等院は冷静に受け流し、舌打ち交じりに地面に転がっていたアスファルトの破片を軽く蹴り飛ばす。能力などかけていた自覚もなかったが、破片は放物線を描き宙高く舞い、カッという音を立てながら平等院の遠くまで行ってしまった。
はぁと、溜息を吐いて平等院は語る。
「わかるんだよ、俺は弱い。あいつらに比べて仲間っていうものを信じられない時点で、俺は明らかに弱い。弱くて弱くて弱くて、弱すぎる」
「ならなんで私を、《鑑定》である私を奪い取れたんですか。強くなかったら、奪えません。あなたが強いと知ったから、聞いたから、ここまであなたに着いてきたんです」
「わりぃな、それは見当違いだぜ《鑑定》様。俺は強くはねぇ、強くなんかねぇ。弱い、弱いだけの青春を満喫していた筈のただの一個人だ。だからさ、《鑑定》様。・・・・もう嘘なんて、吐かなくたっていい」
優しくそれでいて許すような口調で平等院は話した。
先ほどの小さな破片はもう見えないところにあるのか、闇の彼方でひっそりと置かれているのかわからない。だがこれだけは言える。
もう戻ってこない。これだけは疑いようの無い事実であり、今の状況との結びつきを何故か考えてしまう。
「・・・・?」
「俺はもう、お前に嘘を吐いて欲しくはねぇ。あの生温い言葉だけで十分だ、あの言葉だけで」
(もういい。機嫌をとろうとしないでくれ。油断させようとしないでくれ)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それから長い沈黙が流れる。
幾秒かが経ち、大きな廃墟ビル郡に囲まれた広い旧国道へと出る。
ハナから車の行きかいが少ないこの地域は、夜になるともう既に無いに等しい。
今ここで何をやったってどうってことないと、平等院は考えていた。
いくら銃器をぶっ放したって被害は最小限に抑えられる気がする、と。
「わかってたんだ、お前が俺を騙そうとしてる事ぐらいな。別にガキの嘘なんてわかりやすい。すぐわかっちまう。・・・・・・・・・・だからもういいんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこから、気づいていたんですか?」
失笑しながら、彼女の問いかけに応じる。
「お前を、《ダッチマン》から奪った時だな。《鑑定》っつう能力を持つガキを捕まえるってのが俺の当面の目標だったから、お前を捕まえるのに必死だった。だが、不思議と忘れないものでな、お前の過去の仲間であったハズの《ダッチマン》に対する白眼視はスゲェもんがあったよ」
「まるで、血も涙も無いガキだ、とでもいいたいんですか?」
自分でわかっている様子な《鑑定》に投げかけてやる言葉などもう殆ど無い。
この時点で、仲間などという非現実的で幻想的な固定概念などぶち壊されたも同然であるように感じた。
「はは、そうかもしんねぇし、そうじゃないかもしんねぇ。いいか、《鑑定》様。ここからは俺の独り言だから気にする必要は毛頭ねぇ。だから」
(俺は何を言っていってんだ。こんな敵に対して、なんで)
今の間合いがあれば《鑑定》を人質に奴等から逃げる事だって可能だったはずだ。なのに何故、平等院は
同情してしまったのだろうか、この哀れな少女に。
「はやく仲間んトコ、戻ってやんな」
涙ながらに平等院が口にしたのは、別れとも言える言葉。
19時間23分13秒。
これが平等院、《SD》の能力を持つ少年が、《鑑定》を租借していた時間であった。
もう後戻りはできない。
「・・・・・・・・・・作戦θ失敗。作戦γに移行する。これより」
この《鑑定》という少女に与えられた任務を全うするべく、先ほどまで仲間という設定であった少年に矛先を向ける。
瞳の水晶を、微かに潤ませながら。
「戦闘を開始する」
- Re: STRONG! ( No.30 )
- 日時: 2013/10/20 19:14
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
《鑑定》の少女があらかじめ懐に仕込んでおいた無線通信機器を通して、戦闘開始の旨が伝わると、廃墟ビルに身を潜めていたセナがリン自前のアサルトライフルM-16の発射口から凄まじい火を吹かせる。
「ドォンッッ!!!」
たった一発の銃弾はブレなく一直線に目下の目標へと迫る。
自然環境下ではAK47に劣るM16だが人口的な環境、砂、水といった外敵が存在しないこの場所なら。
M16は、世界最強となり得る力を持つ。
だが、そんな最強の狙撃銃をもってしても《SD》という不可思議な実力偏差二桁の能力を持つ少年、平等院には決して届かない。
平等院目掛け穿たれた高速の銃弾は、平等院の目の前10メートルで失速し、平等院の頭に貫通する直前で勢いを完全に無くし、重力に逆らえず無残にアスファルトの地面にあたり、コッという音を立てた。
「話にならねぇ」
頭を軽く掻き、銃弾が迫った方角を見ようと平等院がそちらに目を移す。
「銃弾非貫通確認、リン姉、次お願いします」
《鑑定》の少女は標的が変わった事を確かめると、胸元の小さいマイクに口を近づけ次なるステップに入る。
「ハイな!アッちゃん下がってて!」
廃墟ビルに身を潜めていたリンが、ビルの高さを無視して飛び降りてくる。
まず手持ちの9mm機関拳銃を乱射し、重力とは逆方向の反動をつける。そしてその反動に持ち前の《加速》を付随させ重力と逆の力を倍加し、落ちる勢いをゼロにし着地。
第二ステップ、リンによる標的の《混乱》の開始である。
「ていやーッ!!」
リンは着地した地点から能力を使い《加速》したと思うと、手持ちの機関拳銃をぶら下げながら、平等院に向かって飛び蹴りを放つ。
それに《加速》を付加し、威力を調節。尋常ではない速度で放たれた飛び蹴りは容易く音速を超え、常人なら青痣では済まない程度の威力が付加される。
「……カッ、能力者、三桁か」
だがリンの飛び蹴りを平等院は軽々と左に一歩足を動かし避け、明らかな隙に自分の右拳をきつく握り締め、打撃の準備を開始する。
対するリンは身体を無理に逆回転させ、飛び蹴りで隙を見せていた平等院目掛け二発目を入れようと試みる。
「三桁で結構ッ!でも三桁の蹴り、舐めんじゃないわよヤンキー!!」
「加速《大》ッ!!」
リンは派手にも程がある今時の短めスカートにも関わらず平等院に右足で回し蹴りを放ち、瞬時に加速を高めた。
速度にして700km/時は優に超える蹴りは、周囲に異常なソニックブームを引き起こし圧迫された空気が周りに拡散され、アスファルトの地面が砕かれ、剥がれ落ちる。
廃墟ビルも無傷ではなく、所々でビシッという音が反響した。
「……………………………………くだらねぇな、…………ンな茶々な能力で俺の二桁を越えられる訳ねぇだろうが」
平等院は小さく可哀想な者を見る目でリンを向き言った。
「standard deviation」
平等院は自分目掛けて放たれるリンの回し蹴りに向かって右拳を突き付け、標的を固定、分散を開始すると。
リンの回し蹴りの威力が刹那にして無になり、重力に逆らえずにリンが上げていた足はバランスを完全に失い、リンは平等院の目の前で無残に尻餅をついた。
「……なっ、なんで!?蹴りにはちゃんと、加速が付随してたハズなのに……」
放心状態のリンに、後方から見守っていた《鑑定》が叱責した。
「リン姉ぇ!!前ッ!!!」
だが《鑑定》の叫びでリンが気づいた時にはもう遅かった。
リンの脳天に向かって、平等院の黒光りした拳銃が突き付けられる。
これ程に避けられない決定打はないと平等院は確信し。
「終わりだ、雑魚キャラが」
確実な死が、リンに放たれた。
- Re: STRONG! ( No.31 )
- 日時: 2013/10/25 01:36
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
「うおおおおおッ!!」
拳銃のトリガーに指をかけた瞬間、平等院の右頬に強力な右ストレートが入る。
平等院が持っていた拳銃は殴られた勢いにより、5m程滑り停止。一方の平等院は殴られながらも倒れることはなく、殴打してきた敵とある程度の距離をおくにとどまった。
およそ10m。能力者にとってあってないような距離は、それでも確実に両者を分けていた。
「・・カッ、また雑魚か・・」
口を切ったのだろうか、道路に向かって血の塊をペッと吐き捨てる。
相手である少年は自分より年齢が高いのだろう、170は優に超えている。
「シュウ!!」
唖然という表情でリンはシュウの雄姿を見つめる。
ここまでは二番目の作戦通りだ。混乱はある程度成功した。《鑑定》は既にかなりの距離をこの戦場からおいているし、一応は大丈夫。
それに、ココから先の第二ステージである敵の弱点分析はリンの領分ではない。
分析力、知識の面に関してはシュウの知識は誇れるものがあるのではないかとリンは認めている。銃に関する知識量は銃マニアであるリンと同等かそれ以上、その他知識でもリンはシュウという青年に勝てる自信は無い。それは単なる年齢の違いではないことをリン自身もわかっているのだ。
この青年はすごい。正直な話、性格だけ除けば文句なしのイケメン。たまに助けるといったヒーロー素質も合い重なり、すかれるタイプでもある。
性格だけはネックだが。
(全く。少しはアンタを好きになっちゃた人の身にもなりなさいよ)
「じゃ、後は任せたわよ」
そうリンが言うと、いつもの生半可な返事が返ってくる。
「ああ、お勤めご苦労さん」
平等院とシュウが互いに顔を合わせる。
能力者対能力者の勝負で一番重要なのが、情報。相手との戦闘からどれだけの情報量を得られたかで勝敗は分かれる。
いくら実力偏差が二桁の能力者も、情報が無ければ三桁に勝つのは少しばかり難しい。
その情報集に長けているのがこの少年、シュウであるのだ。持ち前の知識量は全ての戦闘において絶対的な武器となりえる。
(冷静になれ)
《鑑定》少女の前情報より得ている平等院という少年の名。平等院の攻撃は数学の知識を応用したものであることは間違いない。
応用しているのは、簡単に言えば分散・標準偏差といったところ。データと平均値の差を偏差といいデータの偏差平方を分散、その平方根を標準偏差。平等院の能力名、《SD》というのはこの標準偏差といった辺りが妥当だろう。
確か数学の計算では、仮の平均を用いてデータの分散と標準偏差を導く。
本来は仮の平均はデータの平均を求める時に平均に近い値をそれとすることが多く、それにより各データとの差を作る。
またそれらがある物の倍数になっている場合はさらにその倍数で割って小さいデータに変換することが出来るといったものが常識の範囲内だが、リンの強力な回し蹴りの威力を《分散》させたのが、《SD》という能力の所為であるのならば、反撃の一手に出るのはそう難しくない。
シュウ個人の力では長期戦になるやも知れないが、こちら側には殆ど万能といっても過言ではないセナがいる。彼女の力があれば、この状況も容易に抜け出せるはずだ。
「問題は、セナさんが出るまでの時間稼ぎか」
◆
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(何故だ?奴の力を掴めねぇ。能力者ではあるみてぇだが、なんなんだあの能力は)
目標相手の能力をある程度知らなければ使用できない分散の能力は通じない。
さっきからあの少年から何か掴めそうな気が平等院にはするが、根本的に何なのかがわからない。
「掴めねぇなら、探るしかねェか」
平等院はそういうと右拳を握り締め、それをシュウのほうに突き出し横になぎ払う。
一見意味をなさない動作にも必ずなんらかの意図が隠されている。
きっかけはなんでもいい。動作は問わない。ただ己自身にコマンドを入力すればいいだけのこと。
ましてやシュウは、それが能力開放の合図だとは知る由もなかった。
「オーバーフロー解除ッ!!」
荒々しく平等院を中心に旋風が巻き起こる。
全てを等しく平等に簡潔に偏差し分散させる能力の真骨頂、ただ物体の威力・速度を下げることではない。
分散させたエネルギーを集約し、保持することにこの能力《SD》は重きを置かれている。
(限度を超えねぇと、奴は倒せねぇなら)
平等院はしっかりと目の前の敵を見据え牙を剥いた。
《SD》の真骨頂、集約する能力を右拳に宿しながら。
「限界なんて、粉々にぶち壊してやろうじゃねぇかッ!!」
- Re: STRONG! ( No.32 )
- 日時: 2013/10/27 19:04
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
平等院は不意にシュウのいる方に両手を開いて翳す。先程とは相反する動作から、平等院は高らかに言い放った。
「シグマ!」
その途端に平等院の手に森羅万象のエネルギーが集約される。分散されていたリンの加速エネルギー然り、最初の一手であったセナからの射撃エネルギー諸々が青白いヒカリを帯びて平等院の手に集約されていくのがわかる。
この時点でシュウは妨害すべきだった。そうしていれば、もしかしたら平等院という能力者は決して勝てない相手ではなかったのかもしれない。
だが時既に遅しというが如く、平等院は全てを集約し掌握する。
実力偏差の違いを《マザーボード》に見せ付けるために。
平等院の周りに青い光が完全になくなると、彼は自分の右腕ををサイドに振り払いながら、握り締める。掌握の合図と共に
シュウの懐に瞬間移動する平等院の姿を、セナはビル内の遠目から見た。
シュウが気づいたときには、もう右腕は接近している。
平等院の地殻変動並みの威力を秘めた右腕のアッパーが、シュウの鳩尾に炸裂した。
「がはッ!!?」
おかしい。
先ほどの平等院の拳とは段違いの力が掛かる。シュウの骨肉は平等院の拳が鳩尾を強打したことにより抉れ、バキッ!という奇妙な音を出しながらシュウの骨がけたたましい悲鳴を上げる。
声にならない激痛が、シュウを襲った。
「—————————————————ッ!!!?」
肋骨はやられただろうか、自らの肺に肋骨が幾つか刺さっているのがわかる。心臓も辛うじて鼓動を止めないが、時間の問題。まだ立つことは出来るが、先ほどの拳の強打は体全体に影響を与えたらしく、腕にも足にも力が入らない。否、動けない。このままでは殺されると、シュウは平等院との距離を確認して思う。
(なんなんだコイツ!?さっきとは全然勝手が違うじゃないか!!)
◆
「オイオイ、もうちっとは楽しませてくれると思ったんだがな、見当違いだったか。ただオメェの能力が俺の能力で掴めなかったのは、オメェがただの一般人だったからなのか?ソイツはちげぇだろ、早く能力を発動しろってんだ」
(どういうことだオイ?俺はビル群が丸ごと吹っ飛ぶ拳を叩きつけたんだぞ?なんであれだけで済んでんだ、冗談じゃねぇ。怪物かよ)
平等院は脳内でそう考えていた。本来彼の《集約》の拳は建物や戦場をそのまま叩き壊すための能力の一部《集約》であるはずなのに、人間一人さえ殺すことが出来ていない。
この少年は異常だと、平等院の本能が伝えてくる。
「・・うるせぇな、ガキにそんなこと言われたくはねぇよ。第一俺の能力は、正当防衛なんだよ」
- Re: STRONG! ( No.33 )
- 日時: 2013/11/04 13:07
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
「ああ?正当防衛とか、何言ってやがんだ」
平等院は不思議に思う。
この少年が《正当防衛》という能力名ではないのは平等院はよく知っていた。風の噂で《マザーボード》のグループに能力者に絶対の耐性、能力無効の能力を持った少年が入ったというのは聞いていたが、《正当防衛》なんていう能力者がいるというのは初めて耳にした。
シュウが平等院の顔面を殴った時だってしっかりと回りに《分散》を発動させていたし、通常の能力者であれば踏み越えることさえ出来ない不可侵の壁のはずであったのだ。
だが、この手前にいる少年はそんな常識を果てしなく無視する。あの時、一種のバリアを張っていた平等院を殴ることができたのだから、この少年の能力が《正当防衛》であるはずがないと平等院は過信していた。
(ああ、だがあれだな。《鑑定》様に聞いた能力を使うときに一定条件を満たしていないと発動さえすることもできない能力があるってのは、このチャラ男のことだったのか)
平等院はそう思考する。オマケとでもいうように、腹を押さえているシュウがうめき声にも似た声をだした。
「だから正当防衛、それが俺の能力の本質らしい。相手からの攻撃を受けたときだけ、発動する能力条件《正当防衛》だ」
「はっ、噂には聞いていたが能力制約ってトコか?笑えるなぁ、オイ!雑魚過ぎて雑魚過ぎて、そんなんでよく《マザーボード》の奴隷をやれるな?」
「うるせぇ。《マザーボード》はそんな人間じゃないし、俺らのことを奴隷とも思ってないよ。たぶん。・・んなことはいいんだ、ガキ。さっきはよく一発かましてくれたじゃねぇか。
その借り、今返してやるよ」
シュウは自分の右拳を硬く握りしめる。そしてただ前にいるだけの敵を見据え、歩み始めた。
「ああ?御託ならべてねぇで、さっさと来い。それとも、テメェさっきので終いか?」
威力を砕くのが平等院の“能力”であるのならば、シュウのそれはその打破。
「なわけないだろ二桁。こっちはもう“限界”なんだよ。だからとっととこの借りってのを、受け取りなッ!!」
シュウの戦闘能力は今まで培ってきた相手との経験がベースとなる。例えば100振り分けれるエネルギーポイントがあるとすると、その全てを一瞬だけでもいい自分の右拳にだけ集中させれば、シュウという少年の破壊力は実力偏差一桁にも引きを取らない。
桁数が変わると天と地程のパワー的な偏差がある。三桁は常人並みの拳を、二桁はビルを割る拳を、一桁は大地を割る拳を。だがしかし、超えられない壁も存在する。
三桁はいくら情報量を大量に抱えてていても、一桁には絶対に勝てない。情報量の多寡で勝てるのは、一桁間だけ。三桁が勝てるのは最高でも二桁まで、二桁が勝てるのは可能性があったとして一桁まで。こんな常套句が存在するが、シュウは当てはまらない、なぜなら。
そのつまらない日常を打破するために存在する人間であるから、である。
直後、平等院という一個人に向かって。
天災級の拳が吹き荒れた。
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