ダーク・ファンタジー小説

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君がいたから、ようやく笑えた。【大切なお知らせ】
日時: 2024/09/10 17:56
名前: しのこもち。 (ID: X2iPJYSg)

-序章-

『何もかも、私を苦しませるもの全てがなくなってしまえばいいのに。』
 
 いつからこんなことを思い始めてしまったのだろう。小学生の頃、友達と喧嘩した時から?中学生の頃、親に対して反抗期が始まった時から?
 
 いいや、違う。私の運命は生まれた瞬間から決められていたようなものだから。
 
 親が今まで敷いてきたレールの上をただひたすら、操り人形のように歩くだけ。
 
 そんな私の人生なんて、価値がない。色なんてない、白黒だけでできた世界なのだ。
 
 でも、そんな私に君は手を差し伸べてくれた。白黒だけの私の世界に、色を塗ってくれた。
 
 そうだ、そうなんだ。
-君がいたから、私はようやく心から…笑うことができたんだ。


 【 読者のみなさまに大切なお知らせ 】 >>010


 ❴ 目次 ❵    >>01-
 1.春風      >>01
 2.裏の顔     >>02
 3.出会い     >>03
 4.限界      >>04
 5.不思議な夢   >>05
 6.居場所     >>06
 7.不思議な感情  >>07
 8.隠された愛   >>08
 9.当たり前の幸せ >>09

 1から全部見たい人は >>01-をタップしてください


Re: 君がいたから、ようやく笑えた。 ( No.1 )
日時: 2024/09/10 17:09
名前: しのこもち。 (ID: X2iPJYSg)



 - 1.春風 -

「……いってきます」

 私は小さな声でそう言い、真新しい黒色のローファーに足を通した。そして、胸まで伸びた長い髪を1つにまとめる。
 今日は入学式。この春から、晴れて私は高校1年生になった。

「いってらっしゃい。また後で、入学式行くわ」

 これから入学式だというのに、そんなシュチュエーションには全く合わない母の無感情な声が背中を突き刺した。

 別に来なくていい。というか、‪”‬あの人たち‪”‬になんて来て欲しくない。
 私は母の言葉に返事もせずに、そのまま家を出た。

「はぁ…」

 扉を閉めた後、私は深いため息をついた。さっきまで少しは意気揚々としていた気分だったのに、両親が来ると知った今では、完全に気分が下がっていた。

 でも、そんな私の気持ちを振り払ってくれるように心地よい春風が髪を揺らす。
 こんなことで落ち込むのも無駄だ。そう思った私は家を出て、学校に向かった。


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 


 学校の最寄り駅から目的地まで、思ったより時間はかからなかった。そして気がつけば目の前には、青空を背景に古い校舎と大きな門が堂々とそびえ立っていた。

 ここは、全国でも有数の芸術学校。また、この学校は入試試験がとにかく難しいことで有名だ。なので、ここの生徒は推薦で来た人が多数なんだそうだ。ちなみに私もその内の1人である。

 両親の母校でもあるこの学校は、父が絶対に入れと無理やり入れさせられた。私の両親はこの学校で初めて出会ったらしい。まぁ、そんなこと全く興味などないのだけれど。

 私はそんなくだらないことを考えながら、足を踏み出して門をくぐった。
 


 自分のクラスを確認した後、私は清掃された綺麗な廊下を歩きながら教室へ向かった。
 いざ教室の前に立つと、急に変な緊張感と不安が押し寄せてきた。私は心の中で深呼吸をした後、教室の扉を静かに開けた。

 -ガラガラ。

 扉を開けた瞬間、教室の中にいた生徒みんなの視線が私に集まった。

「ねぇねぇ、あの子ってもしかして…」
「えっ嘘でしょ」
「あんな美人だったの?初めて見た…」

 周りから聞こえる囁き声を無視して、自分の席に座る。すると、私が席に座るや否や、数人の女子生徒が私の席に集まってきて、目を輝かせながら、その中にいた1人の女の子が話しかけてきた。

「……あの、あなたってもしかして…」

 そして、恐る恐るこんな質問をしてきた。

水瀬みなせ 怜愛りあさん、ですか…?」
「………はい」

 短くそう返事をすると、周りにいた女子生徒が一気に騒ぎ出した。

「ほら、やっぱり!」
「すごい、怜愛様と同じ学校なんて夢みたい…」
「なんで?怜愛様はこの学校にいて当然でしょ」
「めっちゃ尊敬してます。あとでサイン下さい!」
「は、はぁ…」

 何故私はこんなに周りに知られているのか、読者も疑問に思ったことだろう。自分自身が有名な誰かなのか、はたまた親が有名人なのか。

 答えはを………その両方である。

「今度ピアノ聴かせて下さい!」

 そう、私は有名なピアノ奏者なのだ。そして私の父は、海外にソロコンサートを開くほどの有名なピアニスト。母は芸能界を中心に活動する、偉大な作曲家だ。

 そんな私たちはよく『天才音楽1家』と、メディアに取り上げられている。この人達は、それを見て私を知ったのだろう。有名な両親を持って生まれたら、誰だって自慢したがるのは当然だろう。

「お父さんとお母さん、入学式来るよね?」
「うわぁ、楽しみ!」
「いいな、自慢できる両親がいて」

 しかし、私は違った。親を自慢したいと思ったことがないし、思いたくもなかった。
 この人達は、私の気持ちなんて何も知らない。

 両親の…………裏の顔すらも。
 

Re: 君がいたから、ようやく笑えた。 ( No.2 )
日時: 2024/09/10 17:13
名前: しのこもち。 (ID: X2iPJYSg)


 - 2.裏の顔 -


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 


「新入生の入場です。大きな拍手でお迎え下さい」

 盛大な拍手と共に、入学式が幕を開けた。ステージから見て真ん中らへんに保護者の席、後ろに在校生の席がある。

 私はその保護者席の端で、まるで関心がないとでも言うかのように、相変わらず無表情のまま手を叩いている両親を見つけてしまった。目が合わないよう、咄嗟に前を向く。

『お前は俺の娘なんだから、常に上品でいなさい。不格好な姿など、絶対に見せるな』

 小さい頃からずっと言われてきた言葉が、脳裏をよぎる。

 別に私は、好きでこの家に生まれた訳じゃない。やりたくてピアノをやっている訳じゃない。
 なのに、私の想いなんか気にも止めないで、‪”‬親‪”‬なんてものを気取っている両親が嫌いだ。大嫌いだ。

 憎い、憎い。全部、全部、消えてしまえ。
 そんなことを思っていると”‬あの日‪”‬のことを思い出してしまった。

 やだ、やだ。今は入学式の途中なのに。最近はやっと‪”‬あの日‪”‬のことを思い出さずに済んでいたのに。

 ‪”‬あの日‪”‬の父の姿がフラッシュバックする。

『嫌だ?何が嫌なんだ。もう1度言ってみろ』

 こっち来ないでよ。嫌だ、もうやめて。
 お願いだから…もう、嫌…だっ……

 私はそこで、意識を手放した。


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ 


 私が初めてピアノに触れたのは、2歳の時だった。音楽家である両親が、何か私にやらせたかったのだろう。

「これがドで、これがレって言うんだよ」

 あの時はまだ、両親の手は温かかった。だから私は、調子に乗ってピアノを始めた。

「へぇ、これ楽しいねっ」

 始めた当初は、もちろんピアノが楽しくて楽しくて仕方がなかった。毎日毎日、父にピアノを教わっては、弾いていた。

 両親はピアノを弾く私を見守りながら、嬉しそうに笑っていた。多分この時の笑顔が、私にとって最後に見た両親の笑顔だろう。

 そこから、私のピアノ漬けの日々が始まった。6歳の時に本格的にピアノを習い始め、小学校を卒業する頃には、ピアノコンクールの賞をたくさん取っていた。

 世間から見たら『音楽家の子供なんだから、才能があるのは当然だ』と思われるだろうが、私は私なりに、血の滲むような努力をしてきたつもりだ。一日たりともピアノの練習を欠かすことはなかったし、父の期待には全て応えてきた。

 しかし両親は段々、成長していく私に対して冷たくなっていった。笑顔を見せることもなくなったし、私が何かを成し遂げても、褒めてさえくれなくなった。

『コンクールで最優秀賞を取った?なんだ、そんなことか。そんなのできて当たり前だ』
『それより、早くピアノの練習をしなさい。1個賞を取ったくらいでそんなに騒がないでくれる?』

 なんで、何も言ってくれないの?私は2人に喜んでもらいたくて、褒めてもらいたくて頑張ったのに。
 いつしか私は優しかった両親を嫌い、大好きだったピアノも何のために弾いているのかすら、分からなくなっていった。

 だから私は、あることを決心した。父にピアノをやめたいと、もっと色んなことをしてみたいと相談してみることにした。

「…私ね、ピアノをやめたいの。もう嫌、だから。もっと違うことをしてみたい」

 父の仕事部屋に通してもらい、楽譜を読んでいる父に勇気を振り絞って、そう言った。

「……は?お前は何を言っているんだ」

 ようやく顔を上げてくれた、と喜んだのも束の間、気付いたら鬼のような形相をした父の顔がすぐ傍にあった。

「嫌だ?何が嫌なんだ。もう1度言ってみろ」

 あんなに怒り狂った父を、1回も見たことがない。そう思うほど、恐ろしい目だった。

「だっ、だから、ピアノをやめた……」

 声を出した次の瞬間、派手な音と共に頬に大きな痛みを感じた。

「…っ」

 あまりの痛さに、思わず頬を手で抑える。

「いいよ。もう1度言ってごらん?さぁ」

 また殴られる。そう思った時には、もう遅かった。

 -ガッ。

 一体、どのくらいの時間私は殴られていたのだろう。気付いたら父の部屋に1人で倒れ込んでいた。体にはたくさんの痣が浮き上がっていて、唇は切れて血が出ていた。

 あの日味わった血の味が、今でも忘れられない。気持ち悪かった。吐きたかった。あの日は、とにかくもう2度とピアノをやめたいだなんて言わない、と心に決めた日だった。
 


 そこから何もなかったかのように、ピアノ漬けの日々が再開した。

 ただ、あの日から1つだけ変わったことがある。それは、私が何か失敗をしたり、コンクールで賞を取らなかったりしたら必ず、ご飯を食べさせてもらえなくなったことだ。

 どんなに才能がある人間にだって、どんなに完璧な人間にだって、必ず失敗はある。それを乗り越えて成長するのが、本来の人間という生き物だ。

 なのに…私の両親はそれを許してくれなかった。失敗したら、口も聞いてもらえなくなるのが怖くて、また殴られてしまうかもしれないのが怖くてたまらなかった。

 だから私は、ずっとピアノを続けている。失敗するのが怖いから、両親が怖いからピアノを弾いているだなんて、笑える話だ。────────


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚


 目を覚ますと、私は保健室にいた。保健室独特のツンとした匂いが、鼻をかすめる。

 いつの間にか私は泣いていたらしい。頬を大粒の涙が伝っていた。こんなことで泣くだなんて、くだらない。あほらしい。

 頬の涙を拭いながら辺りを見回すが、誰もいない。恐らく養護教諭は、まだ入学式に出席しているのだろう。

 私はベッドから体を起こすと、音を立てないように、裏庭に繋がる出口から保健室を出た。

 今から入学式に参加しても、変な目でこちらを見られるだけだろう。それならいっそのこと、裏庭でひっそり隠れていればいい。

 そう思って裏庭にあるベンチに腰を下ろした。

 すると、花壇の傍に…何やら人影が見えた気がした。咄嗟にばれないように息を潜め、人影の方に目をやった。

───そこには…息を飲むほど綺麗な青年がいた。


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