複雑・ファジー小説

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たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
日時: 2015/06/02 14:15
名前: ゆかむらさき (ID: DdpclYlw)

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>2 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>3 はじめに『情けなさすぎる主人公』
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>11-12 『いざ! 出陣!』
  >>13 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>14-15 『忍び寄る疫病神』
  >>16-17 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『初めての恋、そして初めての……』
  >>26-27 『王子様の暴走』
  >>31-32 『狙われちゃったくちびる』
  >>33-34 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-36 『キライ同士』
  >>37 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>38-39 『一線越えのエスケープ』
  >>42 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>43 『女泣かせの色男』
  >>44-45 『恋に障害はつきもの!?』
  >>46-48 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>49 >>52-53 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>54 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>55 キャラクター紹介
  >>56-58 >>59 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>60 >>61 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>62 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
  >>74 キャラクターイラスト(萃香様・作)
  >>114 キャラクターイラスト(日向様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>63 『祝・ドキドキ初デート』
  >>64 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>65 『少女漫画風ロマンチック』
  >>70-71 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>72 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
 裏ストーリー(主人公・松浦鷹史くん)
  >>73 >>75-81 
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>82 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>83-87 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>88-89 『拳銃に込めたままの想い』
  >>90 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>91-92 『闇の中の侍』
  >>93-94 『こんな娘でごめんなさい』
  >>95 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>96-98 『裸の一本勝負』
  >>101-102 『繋がった真実』
  >>103-107 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>108 宣伝文(日向様・作)
  >>109 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>110 たか☆たか★武藤なみこちゃんCV(月読愛様依頼)
 裏ストーリー(高樹純平くん・主人公)
  >>111
 日曜日(高樹純平くん・主人公)
  >>112

☆作者からのメッセージ★

 松浦くんの愛し方
 高樹くんの愛し方
 正反対の性格のふたり……。

 実はこの物語の原作は自作の漫画になっております。
 さて、次回からは波乱の塾4日目!
 王子様と侍の激しい戦いが!

Re: たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜【恋愛初心者おススメ】 ( No.50 )
日時: 2013/10/30 01:39
名前: 桜詞 (ID: ehc5.viK)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15597

こんにちは、同じ複雑・ファジージャンルにて活動しております、桜詞と申します(*´ω`*)

読者様を飽きさせない自信があると仰っておられたので、「ハードルを自ら上げるとは何たる強者……」と興味津々拝見しておりました。
ら、いつの間にやら更新されておられる全てを読み終えてしまいました……

ボキャブラリー貧困な為、貧相な言葉しか出てきませんが「すごい」の一言でございます……(*´д`*)ホワァ
人物の心情描写がリアルで、情景がありありと浮かぶので飽きることなくわくわくしながら読ませていただきました!!
「続きはまだかッ!?」と感じさせられる作品だと思います。見習わせていただきたい所も多く、本当に面白いです(*゜▽゜*)

次回更新、楽しみにまっております(*´ω`*)
またお邪魔することもあるかと思いますが、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

Re: たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜 ( No.51 )
日時: 2013/10/30 16:21
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

桜詞さん>
読者さまと一緒にわたしも楽しんでおります。
主要キャラの3人、なみこちゃん・松浦くん・高樹くんの事も愛しております(笑)

結構長いのに一気に読んで頂けるなんてとても嬉しいです。
続きを一気に更新したくなっちゃいます(笑)

心情描写は特に力を注いでいます。恋愛系ですので。(わたしは恋愛系しか書けない……)

行動範囲が主に塾とバスだけで狭いですが、狭いながらにもなみこちゃんの妄想などを取り入れてます^^
この後、高樹くんの家や、なみこちゃんと松浦くんの通う学校など新しい場所が登場してきますので楽しみにしていてください^^

読者の方を飽きさせない自信、あります!(笑)

また遊びにいらしてくださいね^^

『ピンチ! IN THE BUS』 ( No.52 )
日時: 2013/10/30 23:27
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

「————高樹の女だろ、おまえ……」
 まるで“ガリバー旅行記”に登場する“ガリバー”の様な体型をした大きな男の人が、眉間にシワを寄せてあたしの方に近付いてくる。一歩歩く毎に車を揺らしながら。
「だ、だれです、か?」
 彼はあたしが座っている座席の背もたれと、前の座席の背もたれの裏側に両手を付けた。ソバージュのロングヘアを真ん中から半分に分けた前髪の間から、眉毛の無い細い糸の様な目を不気味にギラリと覗かせて、あたしの顔を睨み付けてくるこの人。全身に力を込めて押しても、びくともしない岩壁の様に“通せんぼ”をされていて、あたしはバスから逃げ出したくても逃げる事ができない。


「釜斗々中学……3年の、黒岩大作」
 ————高樹くんと同じ学校の人だ!


 たしか、健くんと聖夜くん……だったっけ。あの個性的な彼等以上に高樹くんのお友達には結び付かない雰囲気の漂うこの人。
 直感だけれど何かイヤなことが絶対に起こりそうな予感がする。しかもこんな……塾から離れた駐車場に止めてある、他には誰も居ないバスの中、という密室で————


「おい、女。おまえらは今、一体どんな関係、なんだ?」
「……え?」
「おまえと高樹が、何をした関係、かと聞いている……」
「…………」
「言え」
「……いやっ!」
 

 心の中だけにそっと残しておきたい“あたしと高樹くんの秘密の(キスをした)関係”だという事を、あたしの前に突然現れエラそうな態度で威圧してくる(……あれ? 名前なんだったっけ)……ガリバーなんかに教えたくない。あたしがほっぺたを膨らませて顔を横に逸らすと、彼は大きな手であたしのほっぺたをつねって強引に引っ張り寄せてきた。
 ガリバーの“にきび”だらけのゴテゴテの顔がいやらしく微笑んでいる。


「高樹をあれほどまで夢中にさせる女か。————ふん、おもしろいな。一度、お相手願おうか……」


 “お相手”、って……このガリバーは、一体あたしに何するつもり————
「おう、おう、こんなに赤ーくなっちゃって可哀そうに。ごめんな。痛かっただろ?」
 自分でやったくせに何を言っているのかガリバーは、釣り上がっていた目尻を急に下げ、ゴツゴツした手であたしのほっぺたを撫でながら何度も謝ってくる。
 まあ、よく分からないけれど、こんなに謝ってくれている事なのだし、このまますぐにこのバスから出て行ってくれるのならば仕方ない。さっきの事は許してあげてもいいや、と思ったら、
「おまえも謝れ」
 今度はいきなりあたしの髪を鷲掴みにして命令してきた。
 なっ! なんであたしがっ——!
 ————納得いかない。いくらこの人が“あたしのことを好き”だからとはいっても、一方的にこんなにメラメラと嫉妬に満ちた攻撃的な愛情をぶつけてくるなんて酷過ぎる。第一、この人とあたしはコイビト同士でもなんでもないんだから!
 あたしは震えながら歯を食い縛り、ガリバーを睨んだ。 
 会ったばかりでどんな人かはよく分からないけれど彼は————かなりアブナイ人だという事だけは分かった。


「……蒲池いねぇな」


「!」
 松浦くんがバスの中に入ってきた。しかし、あたしがこんなに怖い思いをしているのに、チラッと一瞬だけあたし達の方を見て『俺は何も見なかった』という様に素通りし、一番後ろの席に座ってしまった。
 大男ガリバーに髪を掴まれて、睨みをきかせた表情(かお)で上から思いっ切り見下ろされているこの状態を、頭のいい松浦くんならなおさらあたしの身に何が起こっているのか一目見ただけで察してくれるはず。いくら冷酷な彼だとはいえ、知っている女の子がこんなにピンチな状況に陥っているのだから、もしかしたら助けてくれるんじゃないか、と僅かな期待を持ったあたしがバカだった。
 やっぱり松浦くんなんて、当てにならない。
 松浦くんなんかに期待なんてするもんか……。もういい。ひとりで頑張るもん!


「さっ、触らないでよ、もうっ! あ、あたし、あなたのことなんて大っキライッ!! ……なんだからねっ!」
 こ、これでどうだっ! ……どうですか?
 いつかテレビでやっていた“犯罪ドキュメント番組”で見た事がある。ストーカー犯罪に巻き込まれた女の人が曇りガラス越しで音声を変えた声で語っていた。こういうガリバーの様な自分勝手なタイプの人には特に……今のうちに、できるだけ早く勇気を出してハッキリ、バッサリと言っておかないと、後にヒドい目に遭う、と。内心ビクビクしながらあたしはタンカを切った。
「あ? 何言ってんだ? この女……」
 あたしの髪から手を離し、ガリバーは目を丸くして驚いている。
「……?」
 手強いと思っていた彼が……信じられないけれど、これは予想以上に効き目があったようだ。とにかく勇気を出して言ってみて良かっ————
「ぶっ! くくくっ……あはははは……!」
 ————しかし、何故か後ろの席で松浦くんが大爆笑をしている。
 え? なに? ……どうしたの?
 あたしの頭の中が“?”でいっぱいになった。
『大嫌い』と言った言葉がよっぽど応えたのか、さっきよりも格段にレベルを上げて進化した怪獣・ガリバーは再びあたしを睨んできた。


「ビッ、ビリヤードッ!! あたしと高樹くんは一緒にビリヤードをした関係ッ! ただそれだけ!! ……なのッ!」


「はぁっ……
       はぁっ……
             はぁ……
                    ごくん」


 よし、言った。
 ちゃんと教えたんだから、さっさと帰ってよね、ガリバーめ……。
 あたしよりも1年先輩で、しかもこんな大きな図体をした、読めない……っていうより読みたくもないアブナイ思考回路の男の人と対等で向かい合うなんてとても敵わない。悔しいけれど、ここは下手に出るしかないと思った。


「……フーン。ビリヤードとは、ずいぶんと遠回しに言ったもんだな、女……」
 これでもういい加減諦めて帰ってくれるかと思ったけれど————甘かった。ガリバーは隣の席にドカッと座り、再び眉間にシワを寄せながらあたしの腕を凄い力で掴んできた。
 車体と一緒にあたしの身体も恐怖で揺れる。
「——痛いッ!! いや……やめて……」
 嫌がれば嫌がるほど喜ばせてしまうのか。必死で抵抗するあたしの声を聞きながら笑顔で頷いているガリバー。
 あたしはシートの上から顔を出し、松浦くんに向けて視線を送った。
 おねがい! たすけて松浦くん——!
 松浦くんは携帯電話をいじっていて、全くあたしを見てくれない。


「棒で……玉を突いて穴に入れた関係、か。こんなガキみたいな顔してるくせに……たいしたもんだな————よくヤった」


 ガリバーは掴んでいた腕を離し肩に回して、今度はあたしの履いているショートパンツのボタンを外した。
「ひぃっ——!」
 あたしはもう一度シートの上から顔を出して松浦くんを見た。
 松浦くんはまだ携帯電話をいじっている。
「残念だな。あの男はおまえを助けない……」
 ガリバーはいやらしくニヤニヤしながらショートパンツのファスナーを下げた。
 あたしの顔を近距離で覗き込んでくる彼の荒々しい鼻息が顔に掛かって気持ち悪い。松浦くんの冷たいミントの息よりも更にもっと————


「——おい待て。このゴリラブッチョ……」


「!」
 頭の上から降り注ぐミントの香り。
 シートの上から松浦くんが見下ろしている。


「ハン! なに勘違いしちゃってんの? おまえの言う、こいつと“ビリヤードの関係”の相手っつーのは……俺なんだぜ。
 ————そーだよなぁ、なみこ」

『ピンチ! IN THE BUS』 ( No.53 )
日時: 2013/10/30 23:46
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

「どけ」
 こんなにも大きくて恐いガリバーが相手なのに、なるほど……態度だけは大きいからなのだろう。物怖じをした顔なんてこれっぽっちもしないで松浦くんはあっさりと彼の太い腕を掴んだ。
 あっ……もっとお手柔らかにしておいた方が……。
 あたしの心の中の助言に全く気付きもしないで、彼はそのまま強引にガリバーを引っ張り出し、あたしの隣に座ってきた。
 この先ガリバーがどう出てくるのかは気になるけれど、“ムリヤリ襲われる”事はなんとかまぬがれた様で、とにかくこれで安心した……はずなのに、ガリバーにすごまれていた時よりも、あたしは今ドキドキしている。
 何故だろう。このドキドキする気持ちは高樹くんと一緒にいる時の気持ちに似ている。きっとこれは今まであたしに意地悪な所しか見せた事の無かった彼に助けてもらったからに違いない。 
 隣のシートで松浦くんはあたしの顔をジッと見つめている。 
 あたしの心臓がさらにドキドキしだした。だって……“あの”松浦くんが不思議とかっこよく見えてしまうのだから————


「なみこ、おいで」
 おっ、おいで?
 松浦くんはいきなりあたしの肩に腕を回し、なんと抱き寄せてきた。そしてあたしの耳元に口を近付け囁いた。
「不自然に振る舞うな。俺に合わせろ……」
 え……?


「おい、おまえら2人……本当に愛し合ってんのか? あ?」
 ガリバーがあたしたちに疑いの目を向けている。そういえば、さっきの松浦くんの言ってた作り話によると、あたし達は“深く愛し合っている関係”になっている事に気が付いた。


「——ホラみろ」
 松浦くんは再び耳元で囁き、あたしの足のつま先をかかとで踏ん付けてきた。
「俺の目をまっすぐ見ろ————うっとりした顔でだ」
 げっ! ちょっと待ってよ、不自然に振る舞うな、とか、うっとり……って!! でっ、できるわけないでしょ、松浦くんなんかに————!
 あたふたしていたら再び彼につま先を踏ん付けられた。
 ああ、もうっ! 松浦くんが高樹くんだったらいいのに……あっ、そうだ!!
 あたしは頑張ってムリヤリ松浦くんを高樹くんだと思い込んだ。————しかしダメだった。やっぱりこれは少し……どころじゃない、かなりムリがある。
 ガリバーは腕を組み、不気味に八重歯を光らせてあたしたちを見下ろしている。
 とにかくあたしは松浦くんに言われる通りに頑張ってみることにした。……もう、そうするしかない。
 とりあえず……まずは松浦くんの顔をうっとり(?)した顔で見た。しかし、その顔がどうやら不自然だったらしく松浦くんは「プッ」と吹き出した。
 ————果たして、こんなやり方でガリバーを騙すことができるのだろうか。


 心配だったけれど、やはり頭のきれる彼はあたしの頭を撫でながら話し始めた。
「なみこ……。何おまえ、そんなに恥ずかしがってんだよ……ん? いつもはもっと求めてくるくせに……」
「そ、そうだね……」 ……いらない。
 そして松浦くんは今度はあたしの耳に、「フーッ」とゆっくり息を吹きかけてきた。ミントの香りの気持ちの悪い風が全身を駆け巡り凍りつきそうになったけれど、目をつむって堪えた。
「……いいぜ、その顔」
 彼は囁き、再び話し出した。
 この人は本当にわたしを助ける気があるのだろうか。なんだかいつもの様にからかわれているだけの様な気がしてきた。次はどう出てくるのか……今はガリバーに対してではなく松浦くんに対して思っている。
「車の中で、こーゆーコトするのって燃えるな……」
「も……もえるね……」 ……バスガス爆発。
 松浦くんはあたしのあごに軽く指を添え、くちびるを親指で撫でてきた。
 あたしは思った。もしかしたらこの人は自分にうっとりしているんじゃないか、と。
「なぁ……俺のこと“好き”って言ってよ……」
「は? う、うん……。おれのこと……すき……(——げ!しまった!!)」
 隠れナルシストな松浦くんを気持ち悪いと思っていたら“ドラマ・バスで愛し合う2人”の台本のセリフを思いっ切り間違えてしまった。
 せっかくここまでうまく(?)いっていたのに、全てがオジャンに。
 ————ごめんなさい!!
 あたしが目をつむったその瞬間————


「 !! 」


 松浦くんに……キスをされた。————またしても予告無しで。
 けれどもこれは“あたしを助けるため”の演技。“ドラマ・バスで愛し合う2人”の演技。
 ————演技だから!!
 そう自分に言い聞かせ、あたしは目をつむったまま彼の背中に手を回した。


「可愛い……。可愛いよ、なみこ……」


 松浦くんはあたしの髪を優しく撫で、強く抱きしめた。
 あたしは鳥肌を立たせながら……我慢した。
 ……ガリバーはどうしたのか。
 松浦くんの背中に回した手を離し、あたしは彼の胸を押して体を離した。ぐるりとバスの中を見回してみたけれど、あたしが松浦くんとキスをした姿を見て、やっと“あたしをコイビトにする事”を諦めたのだろうか、ガリバーの姿は見えなかった。


「あの人、居なくなったよ。————良かった。えっと……ありがとう松浦くん」


 松浦くんは何も言わずにあたしを見ている。きっと今、彼は“さっきの事は何も無かった”とか思っているのかもしれないけれど、あたしは違う————
 いくら演技だとはいえ、松浦くんがあんなに甘いセリフを(しかもあたしに)言うなんて正直今でも信じられない。
「可愛いよ、なみこ……」
 キスをされたくちびるの感触と一緒に彼の言葉が耳に残って離れない。
「————そんなに俺に見せたいのか……」
「?」
 松浦くんはあたしのショートパンツに視線を落として言った。


「……赤のギンガムチェック」


「!」 
 うひゃあ!!
 あたしは慌ててファスナーを上げた。

『日曜日のあたしは誰のもの?』 ( No.54 )
日時: 2013/10/31 17:08
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

     ☆     ★     ☆


「——と、すみません! 遅くなりました! 中の方で少々取りこんでおりまして……すぐに送ります!
 保護者の方には連絡をしてありますので、安心してください」
 蒲池先生は息を切らしながら、あたし達に申し訳なさそうに頭を下げてバスに乗り、エンジンを掛けた。
「では、出発しますね」
 そしていつもより30分程遅れてバスが動き出した。
 信号待ちをしている時に手でトントンと叩いているハンドル。いつもよりも力の込められている発進する時のギアチェンジ。地肌の見える後頭部から吹き出ている油汗。とても焦ってはいる様子だけれども、きちんとスピード制限を守って安全運転であたし達を家まで送り届けようとしてくれている。蒲池先生は大変なんだ。塾の先生だけではなく、わざわざあたしと松浦くんたった2人だけの為にバスの運転手もしているのだから。
 今度、お礼に何かあげたいな……。
「ねぇ、松浦くん……」
 あたしは隣に座っている彼の腕に軽く指をつついて聞いてみた。


「は? 蒲池の喜びそうなもの? そりゃ、髪の毛じゃねぇの?」
 やっぱり松浦くんなんかに聞くんじゃなかった。この人は“人への感謝の気持ち”というものがないのか、ふざけた答えが返ってきた。
 もういい。あたしひとりで考える……。
 あたしは、ほっぺたを膨らませて窓の外を見た。
「おい、なみこ。そんな事より今度の模試……もうすぐだけど大丈夫なのか? おまえの母さんから聞ーたけど、英語が相当苦手らしーな」
 そのまま松浦くんはわざと声のボリュームを上げて先生に聞こえる様に話した。
「塾に入って初めての試験で、いー結果が出せたら、それが一番蒲池喜ぶと思うぜ! おまえの母さんもな。————カタチのあるものだけがプレゼントとは限らねぇよ」
 あたしの顔も見ずに、カバンの中から出したチューイングガムを口の中に入れながら話す松浦くんの言葉が、あたしのほっぺたの空気を抜いていく。松浦くんの傍にいると今までは冷気だけしか伝わってこなかったけれど、今は不思議と……微かにだけれども温かさを感じる。ただ単に先生がかけてくれた暖房が効いてきただけなのかもしれないけれど————


 
 尖っているのは案外髪の毛だけなのかも……。
 窓の外に向けていた視線を松浦くんのムースで固くセットされたツンツンヘアに変え、ボーっと眺めていたら信号が赤になり、バスが止まった。
 運転席の蒲池先生がシートから顔を出して、にっこりとあたしに微笑み掛けてきた。
 隣で松浦くんが少し恥ずかしそうに顔を背け、「暑っちー」と言って手の平で顔をあおいでいる。
 そんな彼に、
「……そうだね」
 なんては言ったものの、よく考えてみたらあたしは勉強の仕方すら分からない。(ちなみに前回の英語の模試の点数は100点満点中12点……とヒサンな結果だったし)


「……俺が教えてやっても、いいぜ」


「え?」
 い、今、この人……何て、言ったの?
 向こうを向いたままではっきりとは聞こえなかったけれど、松浦くんが突然信じられない事を言い出した。
 聞き間違えたかと思い、あたしはもう一度聞き返してみる。
「ねぇ、あたしバカだよ? こんなあたしなんかにに……本当に教えてくれるの?」


 信号が青になり、再びバスが動き出した。
「——プッ。そんな事、ずっと前から分かってるって。英語なんて、俺にかかれば一日漬けで6、70点アップは、あたりまえ」
 6、70点、アップ……。
「仕方ねぇな。蒲池とおまえの母さんだけじゃなく、おまえもついでだ。……喜ばせてやる」
 チューイングガムを風船にして膨らませながらだけど、彼はあたしに優しい言葉をくれた。


 急カーブに差し掛かり、バスが少し傾いた。あたしの心も一緒に。
 松浦くんの腕があたしの肩にそっと触れ、心臓の音が再びさっきの様に騒ぎだす————
 今日松浦くんに強引にされた2回のキスを、今の言葉で許してあげる事にした。正直、高樹くんには悪いけれど、軽いキスだけならば、もう1回されても構わないかな? って思ってしまうくらいに嬉しかった。


「……どうするんだ? ところでおまえは今度の日曜日、空いてンのか?」


 松浦くんはガムを噛みながらカバンの中から黒い皮張りの分厚いスケジュール帳を出し、あたしの顔をジッと見て言った。
 えっ? に、日曜日!?
 だって日曜日は高樹くんとデートの約束の日。
 普段は塾以外のスケジュールなんてものはなく、スケジュール帳を持ち歩かないくらいのあたしなのに。
 よりにもよって、今度の日曜日に2つの(しかも男の子との)約束が重なってしまう事になるなんて思ってもみなかった。
「えっと……にっ、日曜日しか……ダメ?」
 あたしは手の平を擦り合わせながら松浦くんをチラリと見た。


「——ダメだ」


 彼はスケジュール帳を閉じてカバンにしまった。
「じゃ、この話はな無かった事に」
 どうして……?


「悪ィな。俺だっていろいろと用事があンだよ。日曜日しか受けつけない。……残念だったな」


     ☆     ★     ☆


「はい、着きましたよ」
 あたしの家の前でバスは止まった。重たい気持ちのままで座席から腰を上げると、
「わたしも玄関まで一緒に行きます」
 きっと遅れた事のお詫びをするためだろう。多分お母さんはあたしの勉強の事だけしか心配していないだろうから、別にそこまでしなくたってもいいのに……と思うけれど、先生は車のハザードランプを点けて運転席から降りた。そして外から回り、スライドドアを開けてあたしの事を待ってくれている。


 日曜日の“臨時家庭教師(?)”の話を断ってから、結局、松浦くんとは一言も話をしなかった。
 断った理由は聞かれなかったけれど、もし聞かれたとしたら都合のいい嘘をついてごまかしていたかもしれなかった。彼に“は”高樹くんとのデートの事は話したくなかった。なんとなく……言わない方がいいのかと思ったのだ。 
 その日が日曜日じゃなかったとしたら、きっとお願いをしていただろう。(6、70点アップだったし)
 本当は松浦くんの優しさを受け止めてあげたかった。


「…………」
 あたしは、せっかくの松浦くんの優しい気持ちを踏みにじっちゃったんだ————
 バスから降りたはいいものの、そのまま帰る気持ちになれなくて立ち止まっていた。
 先生は、どうしたらいいのかと困った顔をして、おでこに手を当ててオロオロしている。


「はやく帰れ! 先生待たしてんじゃねぇ、バカ!!」


 後ろから来た松浦くんに背中を押され、急かされた。彼にこんな扱いをされるのはいつもの事で慣れているはず。……なのに、さっきの優しい言葉をくれた彼が“本当の松浦くん”だと信じたい————
 松浦くんはあたしを睨み、舌打ちをして、自分の家に向かって歩いて行った。
「おやすみ……なさい」
 あたしは小さく震えた声で言った。
「……あれ?」
 松浦くんは足を止めて振り向いた。……そして、何故かまたこっちに戻ってくる。
「どうしたんだろ……。あれ?」
 声だけではない。あたしの体も一緒に震えている————
 気が付くと、あたしの目からポロポロと涙がこぼれていた。
 今までは、松浦くんにどれだけ酷い事を言われても絶対泣かない、って心に決めていたのに……どうしてだろう。彼の優しさを見てしまったからなのだろうか。
 こんな顔、見られたくなかったのに。
 あたしは両手で顔を覆って隠した。
「——チッ! 何やってんだよ。本当めんどくせぇ女だな!」
 今までとは違う……まるで壊れ物を扱うかの様に優しく————松浦くんに抱き締められた。
 彼に抱き締められたのに何故なのか今回は初めて鳥肌が立たなかった。
 あたし達の姿をチラチラと見ながら、先生はさっきよりも困った顔をして、赤く染まったおでこに手を当ててオロオロしている。


「————どうせ腹でもへったんだろ。はやく家帰ってメシ食って寝ろ。
 ……おやすみ」


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