複雑・ファジー小説
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- たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
- 日時: 2015/06/02 14:15
- 名前: ゆかむらさき (ID: DdpclYlw)
※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。
☆あらすじ★
冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!
視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
読者の方を飽きさせない自信はあります。
楽しんで頂けると嬉しいです。
☆ドキドキ塾日記(目次)★
>>2 宣伝文(秋原かざや様・作)
>>3 はじめに『情けなさすぎる主人公』
塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
>>11-12 『いざ! 出陣!』
>>13 『夢にオチそう』
塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
>>14-15 『忍び寄る疫病神』
>>16-17 『もの好き男の宣戦布告!?』
塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>22-23 『初めての恋、そして初めての……』
>>26-27 『王子様の暴走』
>>31-32 『狙われちゃったくちびる』
>>33-34 『なんてったって……バージン』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>35-36 『キライ同士』
>>37 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
>>38-39 『一線越えのエスケープ』
>>42 『美し過ぎるライバル』
塾3日目(主人公・高樹純平くん)
>>43 『女泣かせの色男』
>>44-45 『恋に障害はつきもの!?』
>>46-48 『歪んだ正義』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>49 >>52-53 『ピンチ! IN THE BUS』
>>54 『日曜日のあたしは誰のもの?』
>>55 キャラクター紹介
>>56-58 >>59 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
>>60 >>61 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
>>62 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
>>74 キャラクターイラスト(萃香様・作)
>>114 キャラクターイラスト(日向様・作)
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>63 『祝・ドキドキ初デート』
>>64 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
>>65 『少女漫画風ロマンチック』
>>70-71 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
>>72 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
裏ストーリー(主人公・松浦鷹史くん)
>>73 >>75-81
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>82 『残され者の足掻き(あがき)』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>83-87 『王子様のお宅訪問レポート』
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>88-89 『拳銃に込めたままの想い』
>>90 『本当はずっと……』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>91-92 『闇の中の侍』
>>93-94 『こんな娘でごめんなさい』
>>95 『バスタオルで守り抜け!!』
>>96-98 『裸の一本勝負』
>>101-102 『繋がった真実』
>>103-107 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
>>108 宣伝文(日向様・作)
>>109 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
>>110 たか☆たか★武藤なみこちゃんCV(月読愛様依頼)
裏ストーリー(高樹純平くん・主人公)
>>111
日曜日(高樹純平くん・主人公)
>>112
☆作者からのメッセージ★
松浦くんの愛し方
高樹くんの愛し方
正反対の性格のふたり……。
実はこの物語の原作は自作の漫画になっております。
さて、次回からは波乱の塾4日目!
王子様と侍の激しい戦いが!
- Re: たか★たか☆パニック〜ひと塾の経験〜【リメイク版】 ( No.30 )
- 日時: 2013/10/11 20:26
- 名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)
rakoさん>
ソレなり……(照)
がんばります……
ええのかなあ?(笑) やっちゃって……
- 『狙われちゃったくちびる』 ( No.31 )
- 日時: 2014/12/15 12:43
- 名前: ゆかむらさき (ID: dZI9QaVT)
「武藤さーん! 武藤なみこさーん!!」
魔法が……きれた?
あの声はさっき塾まで送ってくれた蒲池先生の声。
あたしの名前を何度も呼んで探し回っている。
声だけじゃなく激しい足音までも聞こえる。
ああ、これは……あの先生一人だけの足音なんかじゃない。複数の人達があたしと高樹くんが今一緒に居る3階に向かってきている。
どうしよう……マズイよ……。
「先生、来ちゃう……」
目を開け、あたしは立ち上がる。
あと3センチ……いや、1センチ? もう少しであたしのくちびるは高樹くんに奪われていた。
コツ、コツ、コツ、コツ。
蒲池先生の靴の音と共に段々と近付いてくる様々な靴の足音。
階段の方に目をやると、ぬっと黒い影が見えた。
————誰かが3階に昇ってきたのだ。
「君たち……。こんなところで何をしているのかね」
あたし達を見付け、一瞬驚いた顔をした蒲池先生が、今度は不思議そうな顔をして歩み寄ってくる。
当たり前だ。
講習が終わって、みんな帰らなくちゃいけないはずの時間に関係ない3階に違う学校に通う男女が二人っきりで居るのだから。
こんな明かりの付いていない暗い廊下の片隅に寄り添って。
いきなり教え子が。しかもこれから家まで送って行かなくちゃいけない、今日から初めて塾に通い始めた女生徒が消えた、と思いっ切り心配までかけちゃって。
「あ、なーんだ、こんなトコにいたんだー。めっちゃ探したんだぞー」
「おや? ウワサの“なみこ嬢”も一緒でござるな?」
ウワサ? それに、なみこ嬢って何だ一体……?
先生の後ろから、まだ会話はした事はないけれど、前に何度かチラッと見た事だけはある2人の高樹くんの友達がダラダラとした足取りで歩いてきた。
ピシッとした先生の黒い革靴の音と一緒にバタバタとだらしなく聞こえてきた靴音の正体はこの人達のだったんだ。
こんなシチュエーションの中でこの高樹くんのお友達登場。
嫌でござる……。
あたしは思わず後ずさり。
塾が終わった時間から、まっすぐ家に帰らずに、高樹くんをゲームセンターに行こう、と誘っていたお友達だ。2人共、提げGパンにTシャツなラフな格好をしていて不良っぽい感じはしないけれど、片方は茶髪で片耳にピアスを付けた男の子。もう片方は男の子にしては長い髪をサイドをガチガチにピンで留め、トップをちょんまげみたいに縛った男の子。
多分不良ではない感じだけれど、この手の男の子はなるべく関わりたくない。
あたしの身体の中に設置してあるセキュリティー機能(システム)が危険を察知して、『上手く逃げろ!』と信号を送る。
「すッ、すみませんでした! あ、あの、あたしっ、高樹くんに悩み事を聞いてもらってたんです。高樹くんはっ、ですね、一緒のクラスですし、席も隣ですし、その、友達だから……」
とにかく、まずは先生に謝らなければいけないと思い、あたしにしては珍しく冴えた言い訳セリフが勢いでポンポンと出てきた。
だ、大丈夫、かな? 怒られないかな?
まあ、怒られても仕方ないよね……。
うなじから流れ出した冷たい汗が背中をつたっていく。
あたし達を見付けた時は心配のあまり顔を青ざめさせていた先生。その顔が少しずつ穏やかになっていった。彼はあたしの肩に手を置き、ニッコリと微笑んだ。
「保護者の方が心配されます。すぐにバスに乗ってください」
蒲池先生の後について廊下を歩くあたし達。
自分の隣にベッタリと高樹くんが寄り添って歩いているのは感じてはいる。彼を見ると、さっきの教室での彼の様子から、向こうも絶対こっちを見ているに違いない。
そう思って、こっちは下を向いていた。
しばらく無言で歩いている間に、あたしの手の甲にそっと触れる高樹くんの指。
まるで『繋ぎたい』と要求しているかの様に。
先生に注意をされたそばからこんな大胆な事を。しかも彼の友達が見ている前で、できないよ。
ごめんなさい……。
あたしはあえて高樹くんの方にある片方の手を、着ているカーディガンのポケットの中に逃げ込ませた。
「武藤さん、見付かりました!」
蒲池先生は一階ずつ階段を降りながら、大きな声で一緒に探していた先生達に報告をしている。先生の少ない髪の毛が海岸の岩に貼り付いているワカメの様に、たっぷりの汗をふくんで頭皮にベッタリとくっ付いている。
先生達は、安心した顔で「気をつけて帰りなさい」と見送ってくれている。
こんなに心配かけちゃったのに、こんなにも優しくしてくれるなんて。
「本当にすみませんでした……」
マジメにやるんだ、って、さっき決めたばかりだったのに……いきなり挫折ときたもんだ。
階段を降りている蒲池先生の猫背の背中を見ながら、自分の情けなさに呆れてため息をこぼすあたし。
「んもう、なみこチャンったら。悩みなら、これからは高樹にだけじゃなくって俺達にも打ち明けてくれよ。
ん? 恋の悩み? それともカラダの悩み?」
「上手な接吻の仕方ならば、日々数々の経験を積んだ拙者が手とり足とり腰とり、かつ濃厚に教えて差し上げまつる!
ところで先ほどから気になっていたのでござるが、一体何センチなのでござるか? おぬしの背丈は」
気が付けば、あたしの両側に2人の高樹くんの友達が馴れ馴れしくくっ付いてきている。
男の子2人に左右両側から挟まれ潰れそう。……心が。
っていうか、お願いだから身長の事は触れないで。
この2人。なんだかんだ言って体にまで触れてきそうな予感。
高樹くんの事は好きだけど彼の友達は好きになれない。はっきり言って苦手だ。
「僕の大事な友達に触らないで」
“友達”というところを強調したちょっぴり怒った様な口調で高樹くんはあたしを挟んでベッタリとくっ付いている彼の友達を切り離し、肩に手を回してきた。
「これは愉快。一丁前に独占欲あふれてござるな」
「まだ“友達”のくせに」
冷やかしてくる友達に『うるさい』と、言い放つ様に高樹くんは肩に回した手に力を入れ、さらにグッと寄せてきた。
「ほう。やるのう、おぬし」
「ヤれヤれ、ヤっれー、もっとヤれー」
それでもめげずに、あたしと高樹くんの気持ちもお構いなしに面白がってわざとグイグイと近付いてくる高樹くんの友達。
もう、はっきり言いたい。迷惑だ。
彼らは、本当に高樹くんの友達なのだろうか————信じられない。
「フーン」
ニヤニヤしながら、高樹くんの友達の一人が、あたしのお尻を手の平で撫で回してきた。
撫で回していた手を次第に一本の指に変え、彼の指がいやらしくあたしのお尻の割れ目をたどり前の穴へと到達。
「んあっ!」
油断して突如漏れてしまったあたしの声に鼻の穴を膨らませて喜ぶ金髪ピアス君。彼は自分の上唇をペロッと舐めてからあたしの顔に顔を近付かせ、問いかけてきた。
「ねねっ。なみこチャンって、処女なの?
あっ、もしかして、もうすでに“あげちゃった”のカナー。いとしの高樹クンに……」
- 『狙われちゃったくちびる』 ( No.32 )
- 日時: 2014/12/15 12:57
- 名前: ゆかむらさき (ID: dZI9QaVT)
「コッ、コラ! いい加減にしなさい、君たち!」
蒲池先生が、広いおでこに血管を浮かばせて怒っている。
身長聞いてくるわ、ペタペタお尻を触ってくるわで、あたしも我慢の限界だった。
『やめてください!』
なんて、いくらあたしがキツーく怒ったとしても、この人達は反省なんてせずにもっとやってきそう。
ほら。だって、あんなに先生に注意されてたのにニヤニヤ笑ってるんだもん。
もうっ、しらないっ! 帰るッ!!
「さあ武藤さん、早くバスに乗りなさい。ホラホラ、君たちも早く帰りなさい」
ああ。気が付けば塾の入り口の自動ドアを出たところ。
腕時計を見て大きなため息をついている先生。
塾の外の駐車場と自転車置き場はすでに、あたしと一緒にバスに乗って帰る松浦くん以外の他の生徒達はみんな帰ってしまった様でガランとしている。
あたしの隣で両手を腰にあてた先生が、片足のかかとを付けたつま先でアスファルトの地面を小刻みにトントン叩いている。きっと、ふざけた態度でなかなか帰ろうとしない彼らにイライラしているのだろう。
「バイバーイ、なみこチャーン」
「応援いたす! さらば!」
高樹くんのヘンな……じゃなくって、とても特徴的な友達は、あたしに向かって投げキッスをしながら大きく手を振り、自転車置き場の方へと走って行った。
「はい、ほらほら高樹くんも。まっすぐ帰るんですよ」
「…………」
「どうしたんです? 高樹くん、早く帰りなさい」
先生に何度も言われているのに、高樹くんは全く帰ろうとしないであたしの顔をまっすぐ見つめている。
「高樹ー、おいてくぞー」
高樹くんの友達が大きな声で呼んでいるのに、返事もしないで彼はまだあたしの顔を見つめている。
先生は頭を掻きながら、
「まったく君はいつも……。もう知りませんよ」
呆れた顔でため息をついて、バスに乗りエンジンをかけた。
今、何時だろう。
きっと松浦くんがバスの中で待ちくたびれてイライラしながら待っている。それに、先生だって早く仕事を終えて家に帰ってゆっくり休みたいに違いない。
「……またね、高樹くん」
ずっとあたしの顔を見つめたままで動かない高樹くんに戸惑いながら小さく首を傾けた様なおじぎをして“さよなら”を伝え、あたしはバスに乗ろうと後ろを向いた。
「!」
突然、後ろから高樹くんに強く抱き締められた。覆いかぶさる様に強く。
「友達だなんて……いうな」
あたしの耳元で震えながら囁く声。
高樹くんの激しく刻む心臓の音を背中で感じた。
バスの窓から松浦くんが、あたし達の方に向けて冷ややかな視線を流している。
「さっきキスできたら……よかったね」
腕をゆっくりと解いた高樹くんは、あたしの肩をトン、と叩いて自転車置き場へと走っていった。
- 『なんてったって……バージン』 ( No.33 )
- 日時: 2014/12/15 16:41
- 名前: ゆかむらさき (ID: dZI9QaVT)
☆ ★ ☆
暖房が効いているせいで暖かいのか。
それともさっき高樹くんに抱き締められて————
『さっきキスできたら……よかったね』
そう言われた時からずっと震えている指先で自分の下唇をそっと触れながらバスに乗り、松浦くんの隣の席に座った。
どうして大嫌いな彼の隣に座ったのか。それにはちゃんと理由があるのです。
「じゃ、出発しますよ」
優しく穏やかな蒲池先生のアナウンスと共に大きな排気音をたて、バスが動き出す。
さて、あたしの方も発進しなくちゃだよ。
もろくて折れそうなアクセルをそっと踏み込む。
「待たせてごめんね。松浦くん」
「…………」
あたしのせいでこんなに帰りが遅くなっちゃったもん。
一応、謝ったはいいものの、やっぱり怒っているのか松浦くんは何も言わずに肘をつきながら窓の外を見ている。
チラッとでもいいから、こっち見てくれたっていいのに。
松浦くんがこんな態度をとるのは、あたしに対してだけなのかもしれないけれど、やっぱり彼の心は氷の様に冷たい。いや、違う。アレは氷なんかのレベルじゃない。ドライアイスだって言った方がいいのかもしれない。
さっきあたしを見ていた顔は凄かった。
ただでさえ怖い顔がさらに凍りついた様な感じで……。
かえって謝らなかった方が良かったのかな。
こんなひとに謝るんもんじゃなかったと後悔。
しかも謝るために隣なんかに座ってしまった、と、後悔の2連発。
今日の塾耐久アドベンチャーを何とかクリアできたと言うのに家に着くまでここから地獄の30分を味あわなければならないなんて……悲惨すぎる。
何だかあたしの人生はこの先もずっと後悔ずくめの様な気がする。
あたしのこの情けない性格が祟って。
たった1日だけでもいい。“充実してる”と感じられる様な日を送ってみたい。
ずっと前に見たバラエティー番組で有名な占い師……名前忘れちゃったけど、せと……なんとかさんが言ってた。
神様は人をこの世に送る前に、平等に一生分の幸せを与えてくださっているんだと。
幼少時代に使い果たしちゃったのかな? ……生まれたばっかりの時とか、記憶のない相当昔に。
「はぁ……」
初めて塾に行く時に、松浦くんに『おまえには友達がいない』とバカにされた事を思い出した。悔しいけれど、こんなに冷たくって意地悪な彼なのに、何故か学校では友達がいっぱいいる。そして勉強ができるからだろう、彼にはみんなヘコヘコ。頼りにされていて、女の子にも結構モテている。
あたしは隣に座っている松浦くんの顔をチラッと見た。
スッと通った鼻筋。切れ長の目。どうもこのすました顔がオトナの色気を感じさせるのだろうか、お母さんまでもが彼の事をハンサムだって言っている。
きっと塾でもそうに違いない。みんな“本当の松浦くん”を知らないから騙されているんだ。
こんなの、彼の正体を知っているあたしには、ただの冷酷な悪代官にしか見えないのに。
膝の上に乗せた手を思いっ切り握り締め、再びギアを入れ加速。
「こっ、こんなあたしでもねっ、友達、ちゃんとできたんだよ。
も、もう一人なんかじゃないもん……」
震えた声で挑発し、無理矢理作ってみせた得意気な顔で彼を見た。
「……誰だ」
少し間をおいて、松浦くんはそのまま窓の外を見ながら聞いてきた。
無理矢理作った得意気な顔が、松浦くんのボソリと問いかける低い小さな声に壊される。
「えっと、同じクラスの高樹、純平くん……」
ガンッ!!
松浦くんは足で思いっ切り前の座席のシートを蹴り付けた。
シートが壊れるかもしれないくらいの大きな衝撃音がバスの中に響き渡った。
「こっ、こらっ! 乱暴はやめなさいっ、松浦くん!」
ハンドルを操作しながら彼を叱る蒲池先生。
「——チッ!」
松浦くんは一瞬だけあたしの顔を見て舌打ちをして再び窓の外を見た。
まっ、負けないもんね……。
☆ ★ ☆
「今日は寝ないんだな……」
「えっ?」
相変わらず窓の外を見ながらの姿だけど、突然、松浦くんに話し掛けられた。
あんなに怒っていたから、もう家に着くまで会話なんてしないと思っていたのに一体どういうつもり————
「だって、眠たくないもん……」
あたしは小さな声で返した。
どうせまたよだれ垂らして寝てるとこ見られて、からかわれるの嫌だし……。
「フン、どうせお前の事だから講習の時間に居眠りでもしてたんじゃねーの? ダラダラよだれでも垂らして」
彼は鼻で笑って、またいつもの様にバカにしてきた。
「余裕だねェ。もうすぐテストだっていうのになあ。ハー、うらやましい!」
彼は成績が全教科校内学年トップのくせに、わざと針でつつく様な嫌味を言ってきた。
彼にこんな事を言われるのは、いつもの事だと分かっているけれど……なんだか違う。
何となく、ただ単にあたしをいじめているだけではない様に感じた。まるで何か面白くない事があって八つ当たりをされている様な。
あたしが彼と同じ塾に通う……通わされる様になってから、ペースが狂ったのかな? こっちなんか、それで当たられて、ペースどころか気が狂いそうなのに。
気のせいかもしれないけれど、なんだか今夜の松浦くんは昨夜よりも落ちついていない様な気がする。
確かにさっきシートを蹴り付けて怒っていたみたいだけど、よく考えてみれば“あたしにお友達ができた”事で、どうして松浦くんがあんなに不機嫌になるのかが分からない。元はといえば松浦くんが初めにあたしをバカにしてきたのが悪いんだ。
とにかく相手の顔も見ないで、ヒドい事をこうやってサラサラッと言ってくるところが許せない。
「べっ、勉強? う、うん 、してるよ。ちゃんとしてるもん……」
ホントは全然してなくって焦ってるんだけど、さっきよりも小さくなった声で返した。
バスが赤信号で止まった。
赤信号、か。
あたしも、もうこれ以上余計な事を言わない事に決めた。
相当キライなんだ。あたしの事。……はい。しかと承知してます。
無表情で窓の外を見ている松浦くんを見て思った。
ただあたしは……さっき、いっぱい待たせちゃったから、一言謝りたかっただけだったのに。
やっぱり松浦くんの隣になんて座るんじゃなかった。
こんなに相性の悪い、愛想のかけらもない人の傍にいても、また衝突事故を起こすだけ。
バスが止まっている今のうちに、彼から離れた席に移動しようとあたしは席を立った。
瞬間、信号が青に変わり、再びバスが動き出し、左折をした。
「ひゃあッ!」
そのままバランスを崩し————なんとあたしは松浦くんの上に倒れこんでしまった。
「イタタタ……」
気が付くとスゴい体勢になっていた。
両手を松浦くんの肩の上に乗せて……おそらくあたしはバスが左折をした時に、大胆にも彼の胸の中に顔からダイブをしたのだろう。彼が首に掛けている銀色のペンダントにぶら下がっている十字架の形にクロスした2本の剣(つるぎ)のヘッドが目の前で狂気を放ち冷たく光っている。
おそるおそる顔を上げると松浦くんの顔があった。
目を丸くして固まっている彼。
「うわっ! ご、ごめん、なさいっ!」
彼の顔をいきなり至近距離で見たものだから、おばけに遭遇した時の様に取り乱して思わず『うわっ』と叫び声が飛び出てしまった。
あたしは怖くなって、動いているバスの中にも構わず立ち上がり、彼の傍から逃げようとした。
「武藤さん! 運転中に席を立たないでください。危ないですよ!」
先生に注意をされ、仕方なくその場に座った。
すごくイヤそうな顔であたしを見ている隣の松浦くん。
彼はまるで汚いゴミでも付いたかの様に上着を両手で払い出した。
「チッ! 痛いのは俺のほうだ」
- 『なんてったって……バージン』 ( No.34 )
- 日時: 2014/12/22 11:46
- 名前: ゆかむらさき (ID: dZI9QaVT)
あっ、そうだ。
実は松浦くんに謝った“ついで”に聞きたい事があったんだった。
「ねぇ、松浦くん……」
「…………」
一瞬だけこっちを見たけれど、すぐにプイッと何も言わずに窓の外を見ている松浦くん。
絶対聞こえているはず。
ここで引き下がったら、あたしの負けだ。
それにバスに乗る前からずっと気になっていた“アレ”の意味を聞くまでには気持ちがおさまらない。
「松浦くんっ」
彼の膝の上に手を置いて揺らしたあたしに、
「なに!」
面倒臭そうに鋭い目をして睨み付けてきた松浦くん。
怖かったけれど、あたしは思い切って聞いてみた。
「“処女”って……なに?」
「——ッ!!
————はあ!?」
一瞬でバスの中の時間が止まってしまった様な空気へと。
首を傾げるあたし。その隣で顔を真っ青にして背中をのけ反り返して固まっている松浦氏。
聞こえていたのか聞こえていなかったのか。
だって、松浦くんが固まったまま何も返してこないから。
そしてあたしはもう一度聞いてみる。
「ねぇっ。処女って、どーゆう意味なのか……」
キ————ッ!!
同時にバスも急ブレーキを掛けて止まる。
『もう、かんべんしてくれ』
そんな表情でで運転席から首を出して振り向き、あたし達の方を見てきた蒲池先生。
そういえば先生は、さっきそれをあたしに言っていた茶髪ピアスの人を『いい加減にしなさい!』ってすごい顔して叱っていた。あの人は確かに変な人だったけれど、あたしの事をそんなに傷付けようとしていた様にみえなかった。相手を見下す、とか、そんな感じの言葉なんかじゃない様な気がするんだけどなぁ……。
「それ、あいつが……高樹が言ったの、か?」
松浦くんが声と体を震わせながら問い掛けてくる。
こっちが聞いてる方なのにそんな風に聞き返してこられると困る。
“ソレ”を言ったのは高樹くんじゃなくって高樹くんの友達だったんですけど。
高樹くんは優しい人。
あなたと違って人を見下したりなんか絶対しない。
————そんな事よりも彼の反応を見ると、やっぱり……いや、絶対意味を知っている様だ。
「知ってるんなら教えてくれたっていいでしょ、ねえっ、処女っ……
——もが!」
松浦くんの大きな手が、あたしの口をガバッと塞ぐ。
まるで人質にでも捕らわれたかの様に、彼の腕が首を締めつける様に強く巻き付いていて身動きが取れない。おまけに息もできなくて、あたしはバタバタともがいていた。
「だまれ。わかったか……」
決して口にしてはならない呪いの言葉なのだろうか。処女とは。
その手の話は苦手なあたし。
わかりました! 呪われるのは嫌なのでもうやめます!! 言わない! 言わない!
あたしは何度も首を縦に振って、極悪指名手配犯・松浦くんの手を離してもらった。
「もッ、もうすぐ着きますから、おとなしく座っていてくださいね。おとなしく……」
一体何なのかよく分からないけど、先生はオドオドした声でハンドルを握り、バスが再び動き出した。
再びガタガタ音のし出すバスの中、首を右や左に傾けては犯人の顔色をうかがう。
彼は自首するのを断固として認めないつもりらしい。
……そんな様な顔をしている松浦くん。大きなため息をついてから、あたしの口を塞いでいた手を自分のズボンで拭いてから、1回咳払いをして、
「経験が、まだ、って事だよ……」
自分の顔を手で覆い隠しながら説明をしだした。
経験、って霊体験の事なのだろうか。
説明とはいっても何だか曖昧で、あたしはさっぱり意味が分からず、さらに聞き返した。
「経験、って————何の?」
空気が再び凍りつく。
「え! ……ええッ!?」
あたしの足の付け根の辺りに視線を落とし、顔を真っ赤にして呼吸を乱す松浦くん。
いつもの超クールなポーカーフェイスの彼とはとても想像がつかない顔を見てしまった。返事を待っているあたしの顔を『そんなに見てくるな』という様な顔で何度もチラチラと見ながら、ろれつの回っていない慌ただしい口調で、
「うん……。だっ、だからな、その……せっ、性……」
と、言い掛けたところでバスが止まった。
「ハイ、着きました! さようなら、武藤さん、松浦くん!」
ずれたメガネをかけ直しているやっぱり何だか焦った様子の先生に、あたし達はムリヤリバスから降ろされた。
気まずさで静まりかえった路肩に取り残されたあたしと松浦くん。
バスはそのままあたし達の元から逃げる様に去っていった。
先生も知ってたのかな。
結局、あたしだけが意味の分からないままだったとか?
「むぅっ」
何だか無性に後味が悪い。
あたしは心の霧が晴れない気分で、すぐ横にいる松浦くんを見上げた。
「おッ! ——おまえの事だッッ!!」
ものすごく怯えた顔で彼は言い放ち、大慌てで家へと帰って行った。
説明だけではなく結論まで曖昧。
あたしの事……って?
21時過ぎの閑静な住宅街に、松浦くんの家の玄関のドアを閉める音が大きく響き渡った。
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