複雑・ファジー小説
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- たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
- 日時: 2015/06/02 14:15
- 名前: ゆかむらさき (ID: DdpclYlw)
※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。
☆あらすじ★
冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!
視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
読者の方を飽きさせない自信はあります。
楽しんで頂けると嬉しいです。
☆ドキドキ塾日記(目次)★
>>2 宣伝文(秋原かざや様・作)
>>3 はじめに『情けなさすぎる主人公』
塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
>>11-12 『いざ! 出陣!』
>>13 『夢にオチそう』
塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
>>14-15 『忍び寄る疫病神』
>>16-17 『もの好き男の宣戦布告!?』
塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>22-23 『初めての恋、そして初めての……』
>>26-27 『王子様の暴走』
>>31-32 『狙われちゃったくちびる』
>>33-34 『なんてったって……バージン』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>35-36 『キライ同士』
>>37 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
>>38-39 『一線越えのエスケープ』
>>42 『美し過ぎるライバル』
塾3日目(主人公・高樹純平くん)
>>43 『女泣かせの色男』
>>44-45 『恋に障害はつきもの!?』
>>46-48 『歪んだ正義』
塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
>>49 >>52-53 『ピンチ! IN THE BUS』
>>54 『日曜日のあたしは誰のもの?』
>>55 キャラクター紹介
>>56-58 >>59 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
>>60 >>61 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
>>62 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
>>74 キャラクターイラスト(萃香様・作)
>>114 キャラクターイラスト(日向様・作)
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>63 『祝・ドキドキ初デート』
>>64 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
>>65 『少女漫画風ロマンチック』
>>70-71 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
>>72 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
裏ストーリー(主人公・松浦鷹史くん)
>>73 >>75-81
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>82 『残され者の足掻き(あがき)』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>83-87 『王子様のお宅訪問レポート』
日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
>>88-89 『拳銃に込めたままの想い』
>>90 『本当はずっと……』
日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
>>91-92 『闇の中の侍』
>>93-94 『こんな娘でごめんなさい』
>>95 『バスタオルで守り抜け!!』
>>96-98 『裸の一本勝負』
>>101-102 『繋がった真実』
>>103-107 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
>>108 宣伝文(日向様・作)
>>109 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
>>110 たか☆たか★武藤なみこちゃんCV(月読愛様依頼)
裏ストーリー(高樹純平くん・主人公)
>>111
日曜日(高樹純平くん・主人公)
>>112
☆作者からのメッセージ★
松浦くんの愛し方
高樹くんの愛し方
正反対の性格のふたり……。
実はこの物語の原作は自作の漫画になっております。
さて、次回からは波乱の塾4日目!
王子様と侍の激しい戦いが!
- 裏ストーリー ( No.80 )
- 日時: 2013/11/23 15:23
- 名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)
いや! 好きじゃない。
愛してなんかいない、はず————
一体俺は武藤に何をしようとしているのか、何をしたいのか正直、自分でも分からない。
こんなやつに愛の感情なんてこれっぽっちも無いはずなのに、こんな事しちまうだなんて。
これじゃあ、あの時のゴリラ野郎と同じじゃねぇか!!
俺は慌てて握っていた武藤の手を離した。その後すぐに彼女は両手をサッと自分のももの下に隠しやがった。
まるで痴漢行為をされた女の反応じゃねぇかよ、コレ!!
こんなガキくさい女に俺の方から手を出しちまうなんてどういう事だ。俺は相当女に飢えているのか?
「チッ!(こんな女……)」
俺はもう一度ゆっくり彼女を見た。
彼女は頬をピンク色に染め、ももの下に両手を隠したまま窓の外を見ている。
こんな女に……。
認めたくないけれど、俺は彼女に意識をしている。その証拠として俺の心臓が今、壊れるくらいの勢いで暴れている。
「なっ、なんかへんだよ……今日の松浦くん」
「…………」
「……松浦くん?」
「アハハハハハハ……! フン! おまえのせいだ」
この際、もうどうにでもなれ!
俺は武藤の肩に手を回し、彼女の耳元に顔を近付けた。
「無視してんじゃねぇ。腹立つんだよ、おまえ。
高樹とイチャイチャ、イチャイチャと、そっこらじゅうで見せ付けやがって……」
「えっ? なに? ……え?」
腕の中で武藤は目を大きく開いた顔で俺の顔を見ている。逃げようとしても逃げられないで……まるでトラに捕まり、食われる寸前になっている小鹿の様に震えている。
無理もないだろう。なんせ、こんな事をしてくる相手が高樹じゃなくて“俺”なんだからな。
「いい加減にしろ。この鈍感女……」
俺はもう片方の手の平を武藤のあごに添えて顔を近付けた。
「すみません! 遅くなりました!」
運転席のドアを開けて、マルハゲがバスの中に入ってきた。
「……チッ!」
俺は慌てて武藤の肩とあごに触れていた手を離し、今度は逆に武藤の体を窓際に押し付けた。
「結構な時間、待たせてしまいましたね。すぐ送ります」
ジャラジャラと5、6本ぶら提げている鍵の束の中からマルハゲは1本の鍵を取り出し、エンジンを掛け、バスが動き出した。
マルハゲが来るのがもう少し遅かったら、俺は武藤に————
フッ。笑っちまう、な……。
いつも思っただけで素直に動けない……まるでエンジンを空ぶかししている車の様な俺。
残りの鍵の束は無造作にマルハゲのブリーフバッグの中に入れられて、いつもの様に無防備に運転席と助手席の間のスペースに立てて置いてある。
「寒かったですよね。今、暖房いれましたのでじきに暖かくなりますよ」
寒くなんかねぇよ。暑ィぐらいだ……。
☆ ★ ☆
「ひゃっ!」
「ちょっ、ちょっと……おいっ!」
バスが走っている途中、急カーブに差し掛かり、武藤が俺の肩に寄り掛かってきた。
さっきAクラスの入り口のドアの所で嗅いだ彼女の頭のシャンプーの香りがフワッとやってきた。そして彼女は何も言わずにサッと体を起こし、元の体勢に戻した。……戻しやがった。
俺はもう少し彼女の香りを嗅いでいたかったのに。
「!」
気が付くとマルハゲのバッグが横に倒れている。バッグのふたが開いており、中から鍵の束が飛び出しているのが見える。
彼は塾の講師兼、バスの運転手。忙しい中、少しでも早い時間に俺たちを家に送り届けようと急いでいたせいなのか、バックの留め具をロックする事を忘れてしまっていたらしい。
鍵の束は、なんとか足を伸ばしたら届きそうな位置にある。————俺は運が良かった。
目の前に裸で転がっている鍵の束。その鍵の中に学習机に付いている様な薄っ平い小さな鍵がある。その鍵には他の鍵とは違う、100円ショップに3つセットになって売っている様な安っぽいキーホルダーが付いていて文字が書いてあった。————“資料保管棚”と。
床の上で光っている棚の鍵。この鍵を奪えばあの答案用紙を取り戻す事ができる。
マルハゲは俺が鍵を奪おうとしている事など全く気付いていない様子で、鼻歌を歌いながらハンドルを握っている。
チャンスは充分にある。……それなのに俺は鍵を奪おうとはしなかった。バスに乗る前までは、あんなに必死にマルハゲから鍵を奪う事を考えていたのに。
今はもう鍵なんて欲しくない。……欲しくなくなった。
鍵なんてよりも……もっと欲しいものができたから————
交差点でバスが赤信号で止まった。
「先生。バッグが倒れてますよ」
そう言うと先生は俺に礼を言い、飛び出した鍵の束をバッグの中にしまい、今度はしっかりとロックをして置いた。
信号が青になり、バスが動き出した。
俺の隣の窓際の席に、さっきキスをしようとした時からずっと無口でいる武藤が、いつかまた俺に手を握られると思って警戒をしているのだろう、あのまま変わらずももの下に手を入れたまま下を向いて座っている。
「プッ!」
思わず笑ってしまった。
武藤は笑った俺の顔を見て、珍しいものを見てしまった様な顔で目をぱちくりとさせている。
『ゴメン』
そう言って、高樹がやっている様にあのいい香りのする彼女の頭を撫でてみたかったのだけれど……できなかった。
「おい。……おまえ、今日のテストの“デキ”は、どうだったんだ?」
そういえば、これが今、一番気になっている事。俺はさりげなく聞いてみると……。
「〜〜〜♪」
わざとらしいタイミングで、マルハゲがあの有名歌手“オザキ”の“I love you”を鼻歌で歌い出しやがった。
「できなかったよ……。だって松浦くんって分かんないとこだらけなんだもん。チャーム・ポイントなんて、無いしさ……」
チャーム・ポイント?
どうやら武藤の受けたテストの内容が、最後の問題以外も俺の受けたテストの内容と全く同じらしい。
「そんなに知りたいのか。俺の秘密……」
彼女の困った顔が見たくて、俺はわざといたずらに微笑み、問い掛けた。
「別に……」
彼女は予想通りのリアクションで俺から目を逸らし、窓の外を見た。
「答えだけじゃないよ。だって、あのテスト、問題の意味も分からなかったんだもん」
「プッ。バカだもんなァ、おまえは」
「じゃあ全部分かったの? 松浦くん」
「フン! あたりまえだ。全部埋めた」(……っつーか、埋めてしまった)
「やっぱりすごいよね、松浦くん。あたし最後の問題だけだよ、答えられたの……。でも、あのテストの最後の問題が松浦くんに採点されるだなんて思ってなくって……やだなぁ、なんか恥ずかしいな……」
「…………(恥ずかしい?)」
俺は最後の問題に武藤がどう答えたのか少し……いや、かなり気になった。
もしかして、こいつも俺みたいな答えを書いたのだろうか。
「ねぇ、松浦くん……」
窓の外を見ていた武藤がゆっくりと上目遣いで俺を見て、手の平を擦り合わせながら聞いてきた。
「……なんだ」
嫌な予感がする。このパターンは確か前にも……。
こいつはまた変な事聞ーてきやがるんじゃねぇだろうか。
「えっと……“たいくらい”って、なに?」
「はあ!?」
案の定、俺の嫌な予感が的中した。「なんだ、それ!」————俺の方が聞きたい。
「漢字が読めなくって……。テスト終えた後、由季ちゃんに聞こうと思ったんだけど帰っちゃったみたいだったから……」
“たいくらい”……テスト? ああ、アレか。
確か、マルハゲテストの第19問目の問題————“武藤なみこの好きな体位を答えなさい。”
俺は“経験してないから分からない”と、答えた問題だ。
「そ、そんなの口で説明してもわっ、分かんねぇよッ!!」
曖昧に返すと、運転席で鼻歌を歌っていたマルハゲが突然吹き出していやらしく笑い出した。
くそっ! 俺にならともかく、こいつにあんなヘンな問題出しやがって……このハゲ!!
- 裏ストーリー ( No.81 )
- 日時: 2013/11/24 00:29
- 名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)
「もうすぐ着きますよー」
彼は再び“I love you“を、今度は歌詞を口ずさんで歌い出した。
信じられない。こんなのが塾の先生をやってていいのか。
俺は彼に対して疑問を……いや、疑問というよりもいかりを抱いた。
もう“たいくらい”の事はどうでもよくなったのか、以前の様に納得いくまで(結局俺の説明不足で納得させれなかったが)しつこく聞いてくる事などはしないで隣で武藤はおとなしく窓の外を見ている。
今、彼女は窓の外を見ながら一体何を思っているのだろう。
今夜の晩メシのことを考えているのか。
近々学校で行われる模試のことを考えているのか。
それとも……高樹の事を考えているのか。
嫉妬。欲望。————そして愛情(?)
フロントガラスから街灯の光を受け、広いおでこで反射をさせながら顔に似合わない歌を甘い声で歌うマルハゲ。
彼のラブソングをバックミュージックにして俺の中の3つの感情が昂ってゆく。
せめて……ほんの少しでもいいから俺の事————
「はい、着きました」
バスは俺たちの家の傍で止まった。
「遅くなってしまい、すみませんでした。気を付けて帰ってくださいね。さようなら」
マルハゲは運転席から顔を出し、俺たちの方を見て微笑んでいる。
こいつは俺の気持ちを知っている。
こいつだけじゃない。あいつ……高樹だって。
俺の気持ちを一番知って欲しい人にこれっぽっちも気付いてもらえずに……しかも嫌われちまっているときている。
なんて不器用なんだ俺は————
……クソッ!
本当はやつのツルッツルンのおでこに向かってつばを吐き飛ばしてからズラかりたい気持ちだったけれど、
「チッ!」
舌打ちだけで我慢しておいて俺は武藤の腕を掴み、マルハゲを睨み付けてバスを降りた。
バスは俺たちを降ろして去っていった。
シンと静まりかえった俺たちの家の前。
俺の手の中には武藤の細い白い腕。
「松浦くん……手、離してくれなきゃ、おうち帰れない……」
腕時計に目をやると、もうすでに時間は21時30分を回っていた。
これでも一応女なのだし、彼女の母さんはいつもより帰りの遅い娘の事を心配して待っているに違いない。
俺は何も言わずに武藤の腕を離した。
離したくない。
このまま彼女を何処かへさらって、俺の気持ちに気付いてもらえるまでキスしたい。
俺は結局、何も言わずに彼女に背中を見せ、片手を軽く挙げ自分の家に向かって歩き出した。
「おやすみなさい……松浦くん」
小さな声で挨拶をして武藤も家に戻っていく。
頑張って押しころしていた気持ちが止められない————
「————おい、待て。武藤」
「えっ?」
武藤を呼び止め、俺は再び後ろから彼女の腕を掴んだ。
「いいか、よく聞け……」
彼女は早く帰りたそうな顔をして俺の話を聞いている。
「メシ食って、フロ入っても今夜は寝るんじゃねーぞ。
ベランダの窓の鍵を開けておけ……。もし寝やがったら承知しねぇからな……」
彼女の腕を引き寄せ、俺は彼女の耳元で囁いた。
「俺の好きな“たいくらい”……おしえてやる」
————————————————————————————————————————————————
たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜“裏ストーリー”『キケンなパジャマ・パーティー』
第1夜『難問題・武藤なみこ』
《おわり》
————次回から本編が復活します。
- 『残され者の足掻き(あがき)』 ( No.82 )
- 日時: 2013/12/09 16:37
- 名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)
————玄関の門の横の塀に“松浦”と書かれた表札。ここは高樹くん……ではなく、松浦くんのおうち。
《いきなりですが、松浦鷹史くんが主人公になります》
もーすぐ模試だっていうのに調子こきやがって。あいつ……!
○主語+be動詞の現在形+going to+動詞の原型〜
○主語+will+動詞の原型〜
“この文法を使った問題は確実に出る。それぞれ例文1つ、必ず頭の中にストックしとけ。”
普段はこんなにキレイな字を書かないはずの俺だが、“バカなあいつ”が読んでも解りやすい字とアドバイスを入れて赤色のボールペンをゆっくりとノートに走らせた。
……っつーか、俺こそ何やってんだよ。
俺はコレのために昨夜からずっと一睡もしないで机に向かっている。
眠れなかった。
あの夜……塾からの帰りの日の夜に、思わず抱き締めてしまった。俺の前で涙をこぼした武藤の顔が頭から離れなくて————
“俺”をとるか、“高樹”をとるか。悪戯で俺が彼女に仕掛けた選択肢。
結局選ばれたのは“あっち”だったワケなのだが、そんなものは始めから分かりきっていた結果だった。
俺とあろうものが、あんな高樹になんかに対して意地になってあんな事を口走っちまって。あの時はきっと頭がどうかしていたに違いない。
あいつと高樹の関係を壊す事なんて俺になんかにできるわけがないんだ。
手に持っている赤ボールペンを机の上に転がし、椅子にもたれて伸びをした。
「平常心。平常心、っと」
冷静な俺は一体何処へ行ってしまったのだろう。
あいつも何処に————
ベランダ越しに見える武藤の部屋をチラッと覗いた。
ベッドの上に、今朝、彼女が着ていたパジャマがぐじゃぐじゃに脱ぎ捨てっ放しになっている。
だっらしねぇ女……。
ため息を吐き、俺の机の上にあるデジタル時計に目をやると、すでに13時を過ぎていた。
この時間まで武藤なんかのために俺は朝メシも昼メシも食わずに、ずっと机に向かっていた……って、そんな事よりも彼女は10時頃急に慌てて家を飛び出してから、そのまま自分の部屋に戻ってきてはいない。学校が休みの日の日中はいつもメシを食う時間以外、部屋の中でだらしなくスナック菓子なんかを食べながらマンガを読んでゴロゴロしているはずのあいつが。
本当に行きやがったんだな……。
おそらくあいつは今、高樹とのファースト・デートを楽しんでいる。
甘くとろけるような時間を。
誰にもジャマをされずに二人っきりで。
————高樹の部屋で。
いや! 今日は雲一つ無い快晴。
こんな日なんだから公園デートとかショッピングデートだろう。うん、そうだ! うん、うん!
何故なのかは分からないが、胸を締め付けられる様な苦しみを感じながら俺は自分に言い聞かせた。
『“おうちデート”に持っていけるし……』
『あんなに可愛いなみこちゃんと二人っきりで何時間も一緒にいたら……絶対、何か起こっちゃうよね』
『だから僕が紳士でいられるように……祈っててね、松浦くん』
『処女って……なに?』
「うわああああああ!!」
何が紳士だ!! 何が“おうちデート”だ!! 可愛い!? あんな女のドコが可愛いんだよ!! あんなの全然可愛くなんかっ————!!
ドンッ!!
俺は拳にした両手で思いっきり机の上を叩いた。
「はぁ——っ。
はぁ——っ。
はぁ——っ。……チッ!」
ホントに何やってんだ、俺……。
足元にぶちまけてバラバラに散らばっている文房具と参考書を拾い、机の上に戻して大きく深呼吸した。
俺は騙されない。
見えるんだよ。あいつ……高樹が甘い仮面の奥にうまく隠しているケダモノの顔が————
- 『王子様のお宅訪問レポート』 ( No.83 )
- 日時: 2013/12/09 16:34
- 名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)
《ここから再び武藤なみこちゃんが主人公になります》
ここが、高樹くんのおうち……?
あたしの目の前に一見ヨーロッパの洋館をイメージするような大きな豪邸がたちはだかっている。狼が息を強く吹きかけても飛ばなさそうな赤茶色のレンガで敷き詰められた高い塀と家の壁。三角屋根の上にはサンタクロースが余裕で入れるくらいの大きな煙突がある。一瞬『ここって日本、だよね?』と、混乱してしまった。
改めて自分で自分の姿をファッション・チェックしてみた。
出かけ始め、ただでさえ天然パーマでクルクルの髪を朝、セットをする時間が無くて寝ぐせがついたままの状態で全力疾走で走ったために更にボッサボサになった髪。太り気味のあたしのお母さんが、最近買ったはいいけれど、どうもサイズが合わなかったらしく『捨てるのももったいないし、痩せるのもどうせ無理だから、あんたコレ着てくれる?』と昨夜、あたしの部屋のタンスの中に了解も得ないで勝手にしまわれたダボダボのベージュ色のセーター。そして、デニムのショートパンツにピンク色の星の柄の刺繍がちりばめられた黒いスニーカー。唯一ファッションで光っているものは、さっき高樹くんにプレゼントされた髪の毛のピンだけだった。
最悪だ……。こんなのは、まさに招かざれる客だ。
シンデレラにかけられた魔法がだんだんと解けていく。
ガレージに自転車を片付けに行っている高樹くん。
乗用車が5台くらい入りそうなガレージの中に1台、フロントに跳ね馬のエンブレムを着けた左ハンドルの黒いスポーツカーが停めてある。
あたしにかけられた高樹くんにされたキスの魔法がこれで完全に解けてしまった。
手なんて届くワケがない。あたしの頭の中から“高樹なみこ”を取り消そう……。
「お待たせ! ……じゃ、入ろうか」
ガレージから戻った高樹くんはさりげなくあたしの腰に手を回し、エスコートしてくれた。
「ビックリした。なんか、スゴイね。ホテルみたい……」
「プッ! ホテルって。ふふっ、何なら泊まってく?」
からかっているのか、本気なのか、高樹くんは突拍子もない言葉で誘ってきた。
「え!! だめだよ、明日学校だし!!」
……っていうより、男の子のおうちに泊まるだなんて!!
取り乱して困っているあたしの反応を見て高樹くんは手を口に添え、顔をそむけて大爆笑をした後、舌をペロッと出して答えた。
「冗談、だって」
————冗談なんかに聞こえない。
大胆にも出会って僅か3日しか経っていない男の子といきなりデートをする事になって、しかも初めてのデートを彼の家で過ごす事になっている。
いつも自分の部屋で読んでいる少女マンガのストーリーの様な出来事が現実の中で次々とあたしの身に起こっているんだもん。
ヒロイン(あたし)の恋の相手は高樹くん。
今、隣にいる大好きな高樹くん。
嬉しいんだげど……正直、少しだけコワい。
ショートパンツ越しに彼に触れられている腰が————すごく熱い。
深紅の花で飾られたアーチをくぐり抜け、玄関に辿り着いた。
あたしの家の1.5倍くらいもある大きさのドア。そのドアの取っ手のそばに付いている黒いセンサーに高樹くんが手をかざすと鍵の開く音がした。
ドアを開け中に入ると、案の定、再び高級ホテルを連想させるようなロビーが目の前に広がった。
靴をはいたまま、綺麗に磨かれた白い石で敷き詰められた床を高樹くんに連れられて歩きながら、あたしは口を半開きにして脇に置かれている西洋アンティークな家具や、壁に掛けられてある金色の額縁に入った油絵の絵画を見ていた。
実は高樹くんの家に足を踏み入れた時からずっと気になっている事があった。
ロビーの中央にある螺旋階段を昇りながら、あたしは尋ねた。
「おうちの中、静かだけど、あたしと高樹くんの他には……もしかして今、だれもいないの?」
「…………」
何も言わない高樹くんに連れられて2階に昇ってきた。
聞こえなかった、かもしれない。
「広いおうち……。家政婦さんとか雇ってるの?」
「うん、一応、ね。あ、ここ僕の部屋。どうぞ、入って」
やっと言葉を返してくれた。こんなに大きな家の中に高樹くんと二人っきりではなかったことにホッと胸を撫で下ろし、あたしは彼の開けたドアから中に入った。
————高樹くんのお部屋(初公開!)。
部屋の中に入ってまず初めに目に飛び込んできたものは、あたしの部屋にのベッドの倍くらいの広さのある柔らかそうなベッドだった。ホテルのベッドを見るとダイブしたくなる小さい頃からのヘンな癖で思わず飛び込んででしまいそうになったけれど、今日だけは堪えた。
だって、そんなコトしたら……ねぇ。
「僕の親ね、今、仕事で2人とも中国にいるんだ。まだ出掛けたばっかりでね、しばらくは帰ってこない……」
「え……?」
……バタン。
ドアを閉め、持っていた肩掛けカバンの中からDVDレンタルの袋を取り出し、ベッドと向かい合わせの壁にある100インチ以上はある大きなスクリーンのそばの棚に置いた高樹くん。
アレであのDVDを観るんだ。困ったな。無駄に迫力ありそう……。
気が付かないうちに、またもやあたしの口が半開きになっていた。
20畳以上はあるのかもしれない……それにしても広すぎる高樹くんの部屋。
気持ちが落ち着かない。
部屋が広すぎて落ち着けないわけではない。落ち着かない本当の理由は————
「なみこちゃん……」
「うっひい!!」
名前を呼ばれるだけで過剰に反応してしまうあたしの顔を見て、彼は「プッ」と笑い、あたしの両肩にそっと優しく手を置き……ベッドの上に座らせた。
……ベッドの上に。
「家政婦さんにはね、親に内緒で僕がこっそり連絡して今日だけ休んでもらったんだ。
どうしてなのか分かる? ……分かるでしょ?
————なみこちゃんと二人っきりで過ごしたかった、からだよ」
- 『王子様のお宅訪問レポート』 ( No.84 )
- 日時: 2013/11/28 05:26
- 名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)
☆ ★ ☆
『あんたバカねぇ。
男の部屋に入る、って行為はどーゆー意味だか分かってないでしょ!』
コレは昨夜寝る前にテレビで見たバラエティー番組“DAI・TAN・DX(ダイ・タン・デラックス)”。
大きな体でブラウン管をガッツリ占領していたのは最近巷で人気急上昇中のぽっちゃりオカマコメンテーター“ユカコ・デラックス”。彼(女?)は相変わらず独自の強烈な毒舌トークで新人アイドルの女の子に突っ掛かっていた。
『別にー? 何にもなかったよー』
『フーン。ホントかしらァ、信じらんないワねぇ……とかなんとか言って本当は何かアッたんじゃないのーぉ?』
『まァ、アンタも一応アイドルだし? テレビだからコレ以上追求しないでおくけど?』
『まったく! ゴキブリじゃあるまいし、女の子がカンタンに男の部屋にホイホイと入るモンじゃないわよ!
____(ピー)スるまで帰らせてもらえないわよ!!』
彼(女)お約束の放送禁止ワードが飛び出して、スタジオ中は大爆笑の嵐。
ツッコまれたアイドルも可愛らしい顔を崩し、両手を叩いて大はしゃぎしていた。
現実であたしは今、男の子の部屋に彼と二人っきりで……しかもベッドの上にいる。
大はしゃぎどころではない。今、あたしの心臓が体の中で大騒ぎしている。
よりにもよってアノ話を今、思い出しちゃうなんて————ユカコのバカ……。
あたしの肩に置いた手を離しスッと立ち上がった高樹くんは、スクリーンの方に歩み、プレーヤーにDVDをセットしてリモコンを手に取った。
軽快なポップミュージックとともに“処女の誘惑”のオープニング映像がスクリーンに映し出される。
どうやらそれはアメリカの学校を舞台にしたスクール・ラブ・コメディー。チアガールの格好をした金髪のポニーテール・ヘアの女の子が、アメフトのユニフォームを着たマッチョな体格をした男の子に一途に恋をする、といった内容のストーリーの様だ。タイトルからイメージした過激な内容ではない印象を受け、あたしの気が少しだけ安らいだ。
やだなぁ、もうっ。
あたしってば自意識過剰なんだから。高樹くんがいきなりそんなコトしてくるワケ————
シャッ。
あたしの安らいだ心が一瞬で暗くされた。
高樹くんは部屋のカーテンを……全部、閉めたのだ。
ベッドのヘッドボードに置かれたアロマキャンドルの炎が照らすほんの僅かの明かりが妖しい雰囲気をかもし出している。
「……寒くない?」
ベッドの上に座っているあたしの隣に腰を掛けた高樹くんが優しくあたしの手を握る。
「は、はいっ! うん! 大丈夫! ……ですッ」
あたしの精神力はもうすでに限界に達しているかもしれない。
ただでさえ高樹くんの部屋に二人っきりでいるだけでも緊張なのに————
彼のかすれた甘い声があたしの全身に響いて……もうどうしたらいいのか分かんない。
「ねぇ……、
……どうしてほしい?」
左手に持ったリモコンを操作しながら高樹くんが問い掛けてくる。
薄暗い部屋の中。
高樹くんと二人でベッドの上で。
手を握られながら————どどど、どうしてほしい!?
「字幕モードにするか、日本語吹き替えモードにするのか……」
え! ああ、そっちか……。
ビックリモードになっていたあたしの心が落ち着いた。
さっきの様にあたしはバカみたいに一人で勝手な妄想に突っ走っていた。
その妄想、っていうのは……恥ずかしくて言えない。
何も答えなかったのに、英語の苦手なあたしに気を利かせてくれたのだろうか高樹くんは、日本語吹き替えモードに設定をしてくれた。
せっかく彼にこんなにも気遣ってもらっているのに、あたしの頭の中は今、DVDのストーリーなんて入る余裕がないくらいに高樹くんとのこれからのストーリーの事で満員御礼になっている。
「……デザートが欲しいな」
隣で高樹くんが呟く。
「おなかいっぱいでもデザートなら食べられるよね?」
「う、うん……」
小さな声で返事をして頷くと、彼はあたしの頭をフワッと撫でて立ち上がり、「待っててね」と言い、部屋を出ていった。
「デザートって何かな? アイスクリームかな? ん……それともケーキ?」
あたしは頭の中に様々なスイーツを思い浮かばせた。
————高樹くんにとっての甘いデザートが“自分”であることにまだ全く気付きもしないで。
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