複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
日時: 2015/06/02 14:15
名前: ゆかむらさき (ID: DdpclYlw)

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>2 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>3 はじめに『情けなさすぎる主人公』
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>11-12 『いざ! 出陣!』
  >>13 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>14-15 『忍び寄る疫病神』
  >>16-17 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『初めての恋、そして初めての……』
  >>26-27 『王子様の暴走』
  >>31-32 『狙われちゃったくちびる』
  >>33-34 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-36 『キライ同士』
  >>37 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>38-39 『一線越えのエスケープ』
  >>42 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>43 『女泣かせの色男』
  >>44-45 『恋に障害はつきもの!?』
  >>46-48 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>49 >>52-53 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>54 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>55 キャラクター紹介
  >>56-58 >>59 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>60 >>61 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>62 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
  >>74 キャラクターイラスト(萃香様・作)
  >>114 キャラクターイラスト(日向様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>63 『祝・ドキドキ初デート』
  >>64 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>65 『少女漫画風ロマンチック』
  >>70-71 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>72 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
 裏ストーリー(主人公・松浦鷹史くん)
  >>73 >>75-81 
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>82 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>83-87 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>88-89 『拳銃に込めたままの想い』
  >>90 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>91-92 『闇の中の侍』
  >>93-94 『こんな娘でごめんなさい』
  >>95 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>96-98 『裸の一本勝負』
  >>101-102 『繋がった真実』
  >>103-107 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>108 宣伝文(日向様・作)
  >>109 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>110 たか☆たか★武藤なみこちゃんCV(月読愛様依頼)
 裏ストーリー(高樹純平くん・主人公)
  >>111
 日曜日(高樹純平くん・主人公)
  >>112

☆作者からのメッセージ★

 松浦くんの愛し方
 高樹くんの愛し方
 正反対の性格のふたり……。

 実はこの物語の原作は自作の漫画になっております。
 さて、次回からは波乱の塾4日目!
 王子様と侍の激しい戦いが!

『恋に障害はつきもの!?』 ( No.45 )
日時: 2013/10/22 19:03
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

     ☆     ★     ☆


 僕達は階段を2階を越えて3階まで昇ってきた。
 3階に着いたとたんに、黒岩先輩の汗でにじんだゴツゴツした手が僕の手を強く握ってきた。————しかも僕がまだ、なみこちゃんとした事のない“恋人繋ぎ”で。
 僕は1回つばを飲み込んでから彼に問いかけた。
「話って、なんですか……」
「…………」
 何も言わずに僕の手をさっきよりも強く握り締め、廊下をまっすぐ歩いていく先輩。 
 先輩と交互に絡んでいる指が痛む。あんなに人とフレンドリーに関わる健や聖夜も、彼だけには距離を置いている。先輩はちょっと……いや、かなり強引なんだ。嫌がられると余計に燃える(萌える?)タイプっていうのか————


「すみません。諦めてください。僕には今、好きな女の子がいますので……」
「————知っている」
 “女の子”という所をちゃんと強調して言ったのに、先輩はそれでも構わないかの様に僕を連れて、そのまままっすぐ歩き続けた。
 マズイな。先輩、やっぱり————
 僕の予想通り、彼は廊下の一番奥の部屋の前まで来て足を止めた。
 この部屋は、塾のカップル達がキスをしたり、もっとすごい事をして愛し合う、という“ヤリまくり部屋”。
 ここに僕がなみこちゃんとではなくて黒岩先輩と来る事になるなんて思ってもみなかった。


「高樹。おまえ両刀使い、なんだろ?」
「えっ、ちょっ、と待って、先輩。それ、は……」
 黒岩先輩はいきなり僕の手の甲にキスをして僕の尻を撫でてきた。


「最後に1度……1回だけでいいから、思い出つくらせてくれ」


     ☆     ★     ☆


「可愛いな。もしおまえが女だったら良かったと思っていたけど————
 フッ。まあ、こういうのもいいなあ。刺激的で……」
 鼻息を荒くした黒岩先輩は、僕の尻を撫でていた手を離し、ドアの取っ手に手を掛けた。


 ガチャッ、
         ガチャ、ガチャ。


 どうもドアには鍵が掛けられていた様で、取っ手には“使用中”と書かれた表札が、ぶら下がっている。幸いな事に“ヤリまくり部屋”は偶然にもちょうど今、この塾のカップルの誰かに使われていた様だ。


「チッ! 先約があったか、クソッ!」
 取っ手から離してグーに握り締めた手とおでこを、レザー張りのドアに付けて先輩は舌打ちをした。
「————仕方無いな、諦めるか」
 “諦める”と言われた時、喜んだのもほんのつかの間だった。
 僕の頬を軽く指でつつき、
「また今度、な」
 とがった八重歯をチラッと見せて言い残し、彼は走って自分の教室へ戻っていった。
 甘かったな。恋に障害があると燃える、ってよく言うけど、コレはちょっといただけないよ。
 ヒドイ目には遭ったけど、松浦鷹史となみこちゃんが3階に居なかった事にホッと胸を撫で下ろし、僕は2階に戻る事にした。


 あんな事言っといて、僕の事騙したんだな。松浦鷹史……。
 いつの間にか講習の始まる時間間際になっていた。
「なみこちゃんとの時間が無くなっちゃったじゃん……。僕はあんたと違って、一緒にいれる時間が少ししか無いのに……」
 しかもよりにもよって2人っきりになっていた相手が黒岩先輩ときたもんだ。チャンスを見つけて今度こそはなみこちゃんに僕の気持ちをはっきり伝えて“この前の続き”をしたいと思っていたのに————
 大きなため息を落として僕は階段を降りていった。


「!」
 何やら後ろから足音が聞こえる。その足音が早いペースで僕の方に近付いてくる。
 トン、トン、トン、トン。
 小走りで階段を駆け降りてくる足音。嫌な予感が僕を襲う。
 “ヤリまくり部屋”にいたのは、もしかして……。
 僕を追いこす手前で、その足音が止まった。


「————やあ、高樹君」


 不安といかりが混じり合った感情が僕の体全体に広がる。
 さっきの嫌な予感が的中した。3階から降りてきたのは————松浦鷹史だった。
 僕は振り返らずに、両方の手の平ににじんだ汗をズボンで拭いて彼の言葉を聞いた。


「武藤のやつ、暴れるわ、叫ぶわで大変だったぞ……。
 デリケートだか何だかよく分かんねぇけど、全く処女ってモンは扱いかたに困る。
 ————今“あそこ”で再起不能になってるぜ。ククッ」

『歪んだ正義』 ( No.46 )
日時: 2013/10/28 16:26
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

「王子様ヅラしてんじゃねぇよ。フン! どうせ武藤のカラダだけが目当てなんだろ。ん? 高樹君……」
 僕の肩に手を置き、耳元に顔を近付け囁いた松浦鷹史。彼は階段を降りて教室へ戻っていった。


 ————それは、あんたの事だろっ!!


 僕は拳で壁を思いっ切り叩いた。
 なみこちゃんの気持ちを考えたら、今は一人でそっとしておいてあげた方がいいのだろうか。
 それとも僕が傍にいてあげた方がいいのだろうか。


『助けて』
 さっき松浦鷹史に手を引かれていった彼女の泣きそうな顔が頭の中に浮かんでくる。と同時に、今あいつに言われた言葉と一緒に考えたくもない光景が映し出される。
 なみこちゃんが、あの部屋で————


「な、何するの、松浦くん! やめてッ!!」
『武藤のやつ……暴れるわ、叫ぶわで大変だったぞ……』


「うるせーな。騒ぐんじゃねぇ……」
 松浦鷹史に押し倒されて、ムリヤリ……。
『まったく処女ってモンは扱いかたに困る……』


「すぐ終わるから我慢しろ……」
 けがれたあいつの手がなみこちゃんの体に触れる。まるで玩具を扱うかの様に己の快楽だけを求めるために強引に。純粋無垢な彼女の肉体だけではなく、精神にも大ダメージを与える様な極悪非道な“やりかた”で。
「 !! 」
 襲い掛かる悪魔の恐怖に押し潰され、声さえも出す事のできないなみこちゃんはそのままあいつに————!!


『————今“あそこ”で再起不能になってるぜ……』


 握り締めた手にじわりと血が滲んでいる。それを舐めて僕は1回深呼吸をした。
 いけない。爆発しそう……。落ち付け、僕……。
 体の震えが止まらない。
 しかし、なみこちゃんの方がもっと震えているに違いない。あんな部屋であいつにこわい事をされて……今、泣いているのかもしれない。
 僕の足が階段を————上へ昇る方に動いた。


 なみこちゃ、ん……。
 階段を昇る途中で、なみこちゃんにバッタリ会った。
 突然のあまり彼女に掛けてあげたい言葉が見付からず、僕は何も言えずにゆっくりと彼女に近付いていった。
 松浦鷹史は僕を脅そうとしてあんなデタラメを言ったんだ。 
 絶対にそうだ。そうであってほしい! 
 血の滲む拳を握り締めてそう祈りながら。


 彼女の様子を見ると、着ている服に乱れは無く、涙の跡も無い。
 どうやら大丈夫そう。よかった……。
 僕の体の震えが徐々に消えていく。
 口元を小さな手で押さえて隠し、はにかんだ顔で僕から目を逸らす彼女。 
 やばい……。その顔があまりにも可愛すぎて。
 あれは何時だったか。まだなみこちゃんに出逢って間もない夜に見た夢が蘇る。まさに今の“その顔”をしたエプロン姿の彼女が、初めて一生懸命作った手料理の前で僕を誘う。


「はやく食べてくれないと、冷めちゃう、よ……」
 ————と。


 それが凄く美味しそうで我慢ができなくなった僕は、彼女の言う通り、すぐに料理……の方じゃなくて、“彼女”を頂いた夢。
 エプロンの紐を解く様に、彼女の心を壊してしまわない様に優しく解いて脱がしてあげて、首筋から指の先までゆっくりと味わいながら。
 そんなご馳走を夢の中でだけじゃなく、現実の中で頂いてしまってもいいのだろうか。
 今ここで彼女を抱き締めてもいいのだろうか。
 “ゾクゾクする”とはいっても、さっきとは全く違う感情が僕の体を震え上がらせる。
 バ、バカ! よりにもよって、こんな時に……何考えてんだ、僕っ!!
 頑張って引っ込めていた僕の本能が理性をぶっ飛ばそうとしている。僕は彼女から目を離さずに、重たい足を持ち上げて階段を1段づつ踏みしめる。
 ————抱き締めたい。
 彼女がいる1段下の所で僕は足を止めた。そこでちょうど背の高さがなみこちゃんと同じ高さになり、僕の顔の前が彼女の顔になった。小さな口に手を当てて顔を真っ赤に染めている彼女は、チラッと僕の顔を見て再び顔を逸らした。
 ……キ、キスしたいっ!!
 完全に本能が剥き出しになった僕は生つばを飲み、彼女の両肩に手を置いた。
 ここが塾なのだとか、周りの景色は何も見えない。もう……彼女の事だけしか見えない。
『大丈夫?』
 ついさっきまでは彼女に問いかけたかった言葉なのに今度は自分に聞かなくちゃいけない言葉になっている。
 全然大丈夫なんかじゃない。
 肩だけじゃなく、もっと色んなところに触れたい。彼女の心の奥まで入りこんで絡み合いたい。
 逸らした顔から細く伸びるなみこちゃんの白い首筋を見た途端、僕の身体が異常を起こしだした。


 君だけしか……僕を処理できない。


 キーン、コーン。
 始令のベルが僕の暴走を止めた————しかしそれは、ほんの一瞬だけだった。


「————サボっちゃおっか……」
 逃げ出してしまおう。僕と一緒に。
 驚いている彼女の手を握って、僕は3階の“ヤリまくり部屋”へと向かった。
 通う学校の違う僕達が、唯一二人っきりになれる楽園、あの部屋でしようとしている。“あの夢の続き”を。
 まだ会って間もないのに一体何を考えているんだ。僕の中に棲んでいる悪魔が天使を差し置いてしゃしゃり出てきて耳元で『素直になれ』と囁いてくる。
 もっとなみこちゃんと一緒にいたい……だなんて正直言って綺麗事なのかもしれない。松浦鷹史への対抗心が加わって、気が付かないうちに僕の彼女への恋心は強烈なものになっていた。


 もう、だめだ。我慢できないよ……。


 なみこちゃんの手を握りながら“ヤリまくり部屋”のドアを開けると同時に————僕は欲望のドアを開いた。


     ☆     ★     ☆


 思い切った行動に出たはいいものの、僕は今“アレ”を持っていなかった。
 残念だけど、今回は……おあずけ。


 結局、僕は欲望の爆発を必死で抑えた。
 僕にしがみ付いてくるなみこちゃんを震える手で支えながら、無意識でズボンのベルトを緩めてしまったけれど、部屋の中に偶然揃っていたビリヤードの道具のおかげでなんとか気持ちは緩まなかった。


 ほんの40分だけ……なのに、最高に甘酸っぱいプチ・デートを僕はなみこちゃんと二人っきりで楽しんだ。
 そこで彼女にもらった夢の様なプレゼントは————キス付きのデート。
 一日中なみこちゃんを“ひとり占め”できるだなんて。
 どうやら今度の日曜日まで僕は充分に眠れなさそうだ。
 なみこちゃんとのデートのシミュレーションで。

歪んだ正義 ( No.47 )
日時: 2013/10/28 16:38
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

     ☆     ★     ☆


 前半の講習を堂々とサボって甘いひと時を堪能した僕達は、休み時間に教室から出てくる人たちに紛れて何食わぬ顔でBクラスの教室に戻った。
 なみこちゃんはこのクラスでたった一人の原黒中出身。そして僕は普段から頻繁に講習を抜け出してサボっていた事がちょうどカモフラージュになっていたからだろうか。教室に居なかった僕達に対してアレコレ詮索してくる様な人は居なかった。
「楽しかったね」
「…………」
 言葉では何も返してこないなみこちゃんだけど、頬を赤らめながら繋いだ手をギュッと握り返してくれた。
 僕の場合は先生に気付かれさえしなければそれでいい。なみこちゃんと“ヤリまくり部屋で愛し合う関係”なのだとクラスの皆にこっちから公表したって構わない。でもなみこちゃんは女の子だし、もしも、そんなコトになったらきっと困らせちゃうだろう。
 なみこちゃんと僕の二人だけの秘密、か。


「!」
 なみこちゃんとのデートの事で浮かれていて、さっき彼女と一緒にいたあの部屋に僕のジャケットを置き忘れてきてしまったらしい。
「ごめん。ちょっと待ってて」
 すぐに戻るから、ね。
 なみこちゃんのフワフワした柔らかい髪をクシャッと撫でて、僕は教室を出て再び3階へ昇った。


 階段を昇る途中で僕は足を止めた。
 何やら3階の廊下で大きな声が聞こえる。耳にツンと突き刺さる様な甲高い女の子の声が。
 ああ、あの声は……。
 どこかで……いや、何度も聞いた事のある声。以前は健たちよりもと言ってもいい位な程、僕の傍にいたけれど、“ある日”を境に離れていった女の子————


「どうして!! 静香のドコが気にいらナイっていうのヨッ!!」
 ————やっぱり徳永さんの声だった。


 ケンカかな……。
 彼女は見た目もハデだし自意識が強く、色んな意味で先輩に目を付けられる事が多い。なんてったってあのダイナマイトな体型。“逃したマーメイドは大きいぞ(胸が)”と、部活の先輩達にことごとく冷やかされたっけ。
 マーメイド、か。地味にしてたら結構かわいいと思うのに。
 一対一ならば構わないけど相手が大勢でかかってきているのだったならば助けてあげたい。偶然にも徳永さんとは小学1年の時から学校でずっと一緒のクラスだった。ずっと近くで彼女を見てきたから知ってるけど、彼女はああ見えて自分を支えてくれる人に傍にいてもらえないととても脆く崩れやすい子だから。
 激しい口論中の彼女達に気付かれない様に、僕は壁に背中を付けながら階段を昇っていった。


「静香のコト……アナタの自由にシテもいいって言ってルのに……」


「——ぶっ! ごほ! ごほごほ……」
 あまりにもロコツなマーメイドのコトバに驚き過ぎて咳が出てしまった。
 相手はどうやら男の様。
 ……っていうか、ちょっと待ってよ。なんだあの、へんな告白……って、ん? 告白?
 告白の相手、って……“あいつ”と“あの部屋”に入ったのだろうか?
 階段を昇りきったところで“相手の男”の冷たい声が聞こえた。


「じゃあ、もう俺につきまとうの……やめろ」


 聞き覚えのある相手の男の声を聞き、思わず僕はシャツの腕をまくっていた。
 3階の廊下で徳永さんが松浦鷹史に愛の告白をしていた。————しかし(やっぱり)うまくはいかなかった様だ。
 あんな告白の仕方じゃあムリないよ……。
 いつも高飛車で自信に満ち溢れている徳永さんが、床に両手を置き、ひざまづいて泣きじゃくっている。
 そんな彼女に一切目も触れず、松浦鷹史は片手に僕の忘れたジャケットをぶら提げ、窓の外の遠くの景色を見ながら大きなため息をついて話し出した。


「……悪ィな。俺、今、好きな女がいンだよ。
 でも、まァ“そいつ”をまだ俺の女にしてねぇ事だし、見返りを求めずタダで奉仕してくれるんなら、それはオイシイ話だが……。
 おまえとだけは、死んでもヤル気になんねぇなァ、ハハッ!」


「——ッ!!」
 階段の陰から2人のやり取りを見ていた僕は、我慢ができなくなって飛び出した。
 そして、涙でベタベタになった床に突っ伏せて丸くなっている徳永さんの傍に歩み寄り、腰を落として背中に手を置いた。
「教室に戻ろうか……」


 すると松浦鷹史は手に持っていたジャケットを僕に向けて投げ付け、
「紳士だねェ。武藤と、どさくさに紛れてヤリまくってたくせになァ!」
 片手を腰に当て、いやらしい顔でニヤニヤしながら僕の方に歩み寄ってくる。
「ごめん。今、ティッシュしか持ってなくて」
 ズボンから出したポケットティッシュをそっと徳永さんの手に握らせて僕は立ち上がり、彼を思いっ切り睨み付けた。
「んん? 高樹君。どうしたのかな? そんなこわい顔して。かわいい顔が台無しじゃないか……」


「…………」
 まだ女に、してねぇ……?
 歯を食いしばりながらずっと彼から目を逸らさなかった。
 許せない。
 恋敵だからとか、そんなカワイイものじゃない。こいつは“もうすでにスイッチの入った時限爆弾”だ。こんな男の傍になみこちゃんを置いておくなんて危険過ぎる。さっきはたまたま未遂で終わったのだろうけど、いつか、そのうち僕の知らない間に……僕が見ていないところでこの男はなみこちゃんを————!!


 暗く静かな廊下に徳永さんの泣く声だけが哀しく響き渡る。
 哀しいのは彼女だけではない。彼の黒い泥に濁った心も。
 松浦鷹史もずっとそのまま僕の顔から目を離さずに白い歯を見せて「ククッ」と嘲笑い、徳永さんを足で指した。
「なァなァ、どうだよ、その女……。そいつと付き合うと、もれなくスッゴいサービスが、てんこ盛りで付いてくるらしーぜ。高樹君……」


「————松浦アッッ!!」


 僕は彼の胸ぐらを掴んで叫んだ。

『歪んだ正義』 ( No.48 )
日時: 2013/10/28 16:44
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

     ☆     ★     ☆


「————もォいいよ。高樹クン。ゴメンね、松浦くん……」


 体を起こし顔を上げた徳永さんは、僅かに残っているプライドをかき集めた様な笑顔を僕に見せて走って教室へ戻っていった。
『ありがとう』
 真っ赤に腫れ上がった彼女の瞳が、まるで僕にそう伝えていたかの様に感じた。
 いつもつま先立ちで背伸びをしていた彼女が“飾り”を全て外した笑顔は思った通り、やっぱり可愛かった。
『こんな男なんかよりも、もっとあなたに相応しい人は必ずいるから大丈夫だよ』
 徳永さんの背中に視線でそう送りながら、僕は松浦鷹史のシャツを掴んだ手を離し、いかりで乱れた呼吸を整えた。
 一切瞬きもせずに僕から目を離さなかった松浦鷹史。
 あれは僕の宣戦布告を受け取ったという事にする。
 勝てる自信は90%軽く超えてる。今のところ……は。


「ねぇ、松浦くん。さっき徳永さんに言ってた“好きな女の子”って……だれ?」


 松浦鷹史は廊下に転がっている小さな空の段ボール箱を足でポーンと蹴飛ばして不敵に笑い出した。
「プッ、ククククッ……。何? ソレ、友達でも何でもねぇおまえなんかに教えなきゃあ、いけねー事?」
 強がっているつもりだろうけれど、彼の言葉の中にはっきりと焦りが見える。
 動揺している表情を僕に見透かれてしまうのが嫌だったのだろう。松浦鷹史は急に僕から視線を外し、再び窓の外を見た。
「関係ねーだろ、……ンなの」
 彼は何とかごまかして僕の質問から逃げようとしている。
『今、好きな女がいんだよ……』
 さっきのアレは徳永さんの交際の申し込みを断るために作った嘘なんかではない。僕は気付いていた。彼と初めて言葉を交わした時から……いや違う、顔を見た瞬間に直感で“同じ女の子に想いを寄せている”んだってね。
「じゃあな。俺、もう戻るわ」


「教えて」


 僕は松浦鷹史の前に回りこんで、左手を横に伸ばして行く手をはばみ、逃げられるのを止めようとしたが、
「どけ」
 彼の手の平で胸を押し返された。
「関係あるでしょ」
「じゃあな」
「ちゃんと聞いて」
「…………」


 もっと崩してやる。そのポーカー・フェイスとやらを。
 今からあんたに見せるロイヤル・ストレート・フラッシュでね。


「ねぇ、その女の子ってさ、塾が同じ子なの? 学校が同じ子なの? 
 ————それとも実は……塾も学校も同じ子だったり?」


     ☆     ★     ☆


「……最後のは冗談だろ?」
 松浦鷹史は笑いながら、また一つ段ボール箱を蹴飛ばした。
 当たってるくせに……。
 彼の笑顔が動揺して引きつっている。その顔があまりにも滑稽で思わず僕も一緒に笑っちゃいそうなくらいだ。
 彼だけは許しておけない。徳永さんと同じいたみを存分に味あわせてやりたい————


「さっき、さ、“松浦くんと塾も学校も同じ女の子”からデートに誘われちゃっ、た」


 ゴロゴロゴロゴロ。
 秋はもう深まってきているのに季節外れの雷が鳴り出した。
「嬉しかったよ。
 松浦くんはもう知ってると思うけど、僕もずっと“彼女”の事が気になってたからね。デートの約束は、今度の日曜日……」


 まるで戦いの始まりを知らせるゴングの様に窓の外で激しい稲妻が横切り、雨が凄い音をたてて降り出した。
「ハハ。どしゃ降りになりゃあいいよな、その日……」
 松浦鷹史はまだ引かない。ここまで言われてもまだ窓の外を見ながら笑っている。————おそらく表面だけ、だけど。


 さあ、これで“終わり”にするよ。
「どしゃ降りになったら、か。ふふっ。でも、もしそうなれば“おうちデート”に持っていけるし……。
 実は僕の家、明日から1週間、両親が仕事で外国に行く事になってるから、その間ずっと家に居なくってね。
 一つ屋根の下で、あんなに可愛いなみこちゃんと二人っきりで何時間も一緒にいたら……絶対、何か起こっちゃうよね」


 この一撃で完全に笑顔が消え去った松浦鷹史。
「高樹……おまえ、初めてのデートでいきなり武藤を家に連れこむ気、か?」
 彼の鋭い視線が僕を突き刺す。


「だから、僕が紳士でいられるように————祈っててね、松浦くん……」


     ☆     ★     ☆


 あんなに感情をさらけ出して他人に突っ掛かっていったのは初めてかもしれない。まだ胸がドキドキしている。全く大人気ない。
 手強かったけど逆転勝利、かな?
 松浦鷹史は教室へ戻っていった。
 つい勢いで飛び出てしまった言葉だったけれど、本当は彼に“なみこちゃんとのデート”の事を教えてやりたかったのかもしれない。
 彼と同じで実は僕も焦っている。学校が同じで家が隣同士、というハンデがあるから……。


 胸に引っ掛かっている、彼が去り際に残していった言葉。


 ————『なぁ、高樹君、“北風と太陽”っつー物語、知ってるか?
 旅人の上着を脱がすために、北風と太陽が勝負するってヤツ。
 一応、物語では太陽が脱がした事になってンだけどな。北風が、もう少し強い風を起こしてたら————旅人の上着を剥ぎ飛ばす事ができたんじゃないか、って、思って、な……』


 窓の外を見ると、さっきはあんなに荒れ狂っていた空がウソだったかの様に穏やかになっている。
「通り雨か……。きっと自転車ベタベタだな」
 床の上に落ちたままになっていたジャケットを拾い上げて肩に掛け、僕も教室へ戻った。


 確か、塾の帰り道の途中にあるドラッグ・ストアーって九時閉店だったっけ。
 急いで帰れば……なんとかギリギリで間に合いそうだ。

『ピンチ! IN THE BUS』 ( No.49 )
日時: 2013/12/09 16:39
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

 《ここから再び武藤なみこちゃんが主人公になります。》


 キーンコーン。
 終了のベルが鳴り、今日の講習は終わった。


「ごめん、なみこちゃん。僕もう帰るね。帰りにちょっと寄りたいトコがあるから。日曜日……ちゃんときてね」
 無造作にジャケットを羽織りながらカバンを持ってソワソワとした様子の高樹くん。なんだか急いで帰ろうとしているみたい。
 こんな夜遅くに寄りたいとこってどこなんだろう。
 聞きたいけれど……聞けない。
 だって……恋人じゃないのに、なんか恋人気取りみたいな気がして。
 いちいち『どこ行く?』とか、『何する?』とか詮索すると男の子は鬱陶しがるよ、ね。多分……。
 由季ちゃんみたいに顔も性格も可愛かったのならば、ためらいなくできると思うけれど、あたしはこんなだもん。
 そう。あたしみたいのはこうやって離れた所で見ているだけで充ぶ————


「ちょっと、ちょおっと、なーに高樹くん、もう帰っちゃうのー? なんでー?」
 由季ちゃんが小走りで高樹くんに近付いてくる。
 嫌な子だ、あたし……。今、彼女に『近づかないで!』と反射的に思ってしまった。
 高樹くんにさっき『心配しないで』って言われたばかりなのに。
 高樹くんの腕を掴み、くちびるをとんがらせている由季ちゃん。なんだか自分はここ……高樹くんの傍には居てはいけない子なのじゃないかと感じ、あたしは1歩後ずさった。
『羨ましいなぁ……』
 あたしはこんな風に他人……自分よりも“できた”人に対して生まれてから何度も思った事がある。でも、その“羨ましい”の気持ちとは違うんだ。どう言えばいいんだろう。“羨ましい”に“憎い”が混じり合った様な。
 由季ちゃんは健くんの彼女なんだし、いい子なのに————


「え!? あそこ9時に閉まるよ! はやく行きなよ!」
 彼女は高樹くんの背中をぺチンと叩いた。
 高樹くんに触らないで——!!
「……だからもう行くって」
 ————あたしの胸がズキンと痛む。
 漫画では読んだ事があるけど、コレが“妬きもち”ってモノなのだろうか。初めてのこんな感情。


「たっ、高樹、くんっ……」
 小さな声だったのに、彼はあたしの声に反応して振り向いてくれた。
「気をつけて、ね」
 どうして由季ちゃんに対してこんなに意地になっているのか自分でもよく分からない。
 由季ちゃんは健くんの彼女……。
 そうさっきから自分に何度も言い聞かせている。
 高樹くんはあたしに笑顔とウインクを残して教室を出ていった。


「じゃ、なみこちゃん、下まで一緒に行こっかぁ」
 今まで気が付かなかったけれど、よく見れば腰のあたりまであった長いツヤツヤの黒髪をかき上げ、ほっぺに“えくぼ”を付けた笑顔で由季ちゃんがあたしに手を差しのべてくれている。
 考えてみたら、あたしと高樹くんは知り合ってまだ3日だけしか経っていない。しかも塾の時間の中でだけでしか一緒に過ごしていない。
 彼に少し触れられるだけでドキドキする。見られるだけでさえも。
 いつか……もっといっぱい一緒に過ごしていって、彼の事を知っていけたら由季ちゃんの様になれるのかな。
 あたしは彼女の手を掴もうとして止めた。


「きっと健くんが表で待ってるよ。はやく行ってあげなくちゃ。うん、大丈夫だよ、あたしは」


 無鉄砲に飛び出た精いっぱいの……あまりにも惨めな————強がり。
 ごめんね、由季ちゃん……。
「あんっ、もうっ。そんな照れなくってもいーのにサ! それじゃあ、またネ、なみこちゃんっ。——ヘンな男の子に捕まるんじゃないよッ!」
「えへへ…… (あたしにかぎって絶対ない……)」
 由季ちゃんはドアから出ていくまで、あたしに何度も手を振ってくれた。
 そんな彼女に手を振り返しながら感じた。なんとなく由季ちゃんが、なんだかあたしのお姉ちゃんみたいなのだと。
 そうだ! “お姉ちゃん”って思うといいのかもしれない。あたしの頭の中で由季ちゃんを“自分のお姉ちゃん”だと設定してみたら少し心が落ち着いた様な気がしてきた。
 今度の塾の日にまた彼女に会った時はあたしの方からから声を掛けてみよう。
 塾のカバンに筆箱を入れようとして手を止め、フタを開けた。中に入っているげろげろげろっぴの消しゴムを取り出してそれを見つめながら、さっき由季ちゃんを送る時に言ったセリフを、もう一度心の中で唱えた。


『大丈夫だよ、あたしは』
 ———と。


 学校と塾でやりたくない勉強をして……いや、勉強だけではない。塾に入るまでのあたしにはとても考えられない事が色々と起こり過ぎて、なんだか今日もとても疲れてしまった。 
 早く家に帰って寝ちゃいたい……。
 本当に、朝起きてみたら実は昨夜見てた夢でした……みたいな、夢の様な出来事だらけで————
 あたしは高樹くんにキスをされた事“だけ”を考えながら階段を降りた。


「?」


 階段を降りたところで、ふと強い視線を感じ、振り返った。
「……気のせいかな」
 さっき講習の休み時間に突然雷が鳴り大雨が降ったせいで、みんな急いで帰っていったからなのか、いつもガヤガヤと賑わっている塾の入り口が今日はガランとしている。
 駐車場に出てバスに向かって歩き、あたしはもう一度振り返った。
 どうしてもずっと誰かに見られている気がするのに、やっぱり誰も居ない。


「!」
 夜のとばりの中、あたしが歩き出すと同時にどこからかかすかに聞こえてくる足音。そして重みのあるドロドロとした気配。人に恨みを買われる様な事なんてした覚えは全く無いけれど、間違いない。誰かがあたしの後をつけてきている。
 しかし後ろを振り返っても誰も居ない。
 この塾は、ほとんどの生徒が自転車で来ている。その他の生徒は歩いて来ている。
 バスの駐車場に向かってくる人は蒲池先生と松浦くん、その二人しかいないはず————
 こわくなってきた。やっぱり由季ちゃんと一緒に来ればよかった。
「——ッ!」
 途中で転びそうになりながらも無我夢中で駆け足でバスに乗り込んだあたしはスライド開きのドアを思いっきり両手で閉め、席に座り、一息ついた。


 先生も松浦くんもまだ来ていない。
 おばけだったらどうしよう。一人じゃ怖い。
 どうして居ないの、先生。松浦くんでもいいから居て欲しい。
 あたしは耳を塞いで目もつむり……口もつむった。


 ————ガチャン。ガラガラガラガラ。
「!」


 誰かがバスの中に入ってきた気配を感じた。
 運転席のドアからではないから先生ではない……って事は————
「……松浦くん?」
 あたしは目を開けてゆっくり顔を上げ、バスの中に入ってきた人の顔を見た。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。