複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
日時: 2015/06/02 14:15
名前: ゆかむらさき (ID: DdpclYlw)

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>2 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>3 はじめに『情けなさすぎる主人公』
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>11-12 『いざ! 出陣!』
  >>13 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>14-15 『忍び寄る疫病神』
  >>16-17 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『初めての恋、そして初めての……』
  >>26-27 『王子様の暴走』
  >>31-32 『狙われちゃったくちびる』
  >>33-34 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-36 『キライ同士』
  >>37 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>38-39 『一線越えのエスケープ』
  >>42 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>43 『女泣かせの色男』
  >>44-45 『恋に障害はつきもの!?』
  >>46-48 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>49 >>52-53 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>54 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>55 キャラクター紹介
  >>56-58 >>59 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>60 >>61 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>62 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
  >>74 キャラクターイラスト(萃香様・作)
  >>114 キャラクターイラスト(日向様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>63 『祝・ドキドキ初デート』
  >>64 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>65 『少女漫画風ロマンチック』
  >>70-71 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>72 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
 裏ストーリー(主人公・松浦鷹史くん)
  >>73 >>75-81 
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>82 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>83-87 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>88-89 『拳銃に込めたままの想い』
  >>90 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>91-92 『闇の中の侍』
  >>93-94 『こんな娘でごめんなさい』
  >>95 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>96-98 『裸の一本勝負』
  >>101-102 『繋がった真実』
  >>103-107 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>108 宣伝文(日向様・作)
  >>109 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>110 たか☆たか★武藤なみこちゃんCV(月読愛様依頼)
 裏ストーリー(高樹純平くん・主人公)
  >>111
 日曜日(高樹純平くん・主人公)
  >>112

☆作者からのメッセージ★

 松浦くんの愛し方
 高樹くんの愛し方
 正反対の性格のふたり……。

 実はこの物語の原作は自作の漫画になっております。
 さて、次回からは波乱の塾4日目!
 王子様と侍の激しい戦いが!

Re: たか★たか☆パニック〜ひと塾の経験〜【リメイク版】 ( No.40 )
日時: 2013/10/15 23:48
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY (ID: KZXdVVzS)


こんばんは。
>>26まで読みました!

なみこちゃんの妄想癖がおもしろすぎます!!笑
なんかもうほんとかわいいです(笑
今後もなみこちゃんの暴走を楽しみに読ませていただきます←

ではでは(^^)/

Re: たか★たか☆パニック〜ひと塾の経験〜【リメイク版】 ( No.41 )
日時: 2013/10/17 16:37
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

友桃さん>
コメントありがとうございます。
こんなに楽しんで頂けるなんて嬉しくて感動です^^

なみこちゃん、単純ですものね。
松浦くんになってなみこちゃんの部屋の中での生活を観察したいってコメントを以前誰かに頂いた事あります。

近いうちに、私の描いたなみこちゃんなどのイラストを載せますので楽しみにしていてください♪

『美し過ぎるライバル』 ( No.42 )
日時: 2013/10/21 16:54
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

 Bクラスの教室に戻ったあたしは、次の講習の科目の準備もせず自分の席で今日一日だけで二人の男の子にたて続けにキスをされた事が信じられなくて何回もほっぺたをつねっていた。
 やっぱり何回つねっても————痛い。
 高樹くんは“やりまくりべや”に着ていたジャケットを忘れてきてしまったらしく、取りに戻っている。
「……はぁ」
 両手の平を頬に当てて、大きなため息をついた。
 ほっぺたがこんなに熱いのは、つねり過ぎた事が原因なのか。それとも————


 デート、どうしよう。
 今まで男の子とまともに話すらした事のないあたしなんかが、知りあってたった三日の……しかも通う学校の違うカッコいい男の子、高樹くんと二人っきりで一日を過ごすなんて夢の様だ。……しかもキス付きときてるし。
 つねったほっぺたの痛みの熱は段々引いていくはずなのに、どんどん熱くなってゆく。
 あたしは、まだ準備もしないで何も置いていない机の上にほっぺたを付けて冷ました。


「ふふっ。どうしたの?」
 取りにいったジャケットを肩に掛けた高樹くんが、いつの間にか教室に戻ってきていた。そして机の上に顔を付けてつっ伏しているあたしの耳元でいたずらに囁いた。
「何? 今になって緊張してきた?」


「高樹くーん。ちょーっと聞きたいんだけどさー……」


 高樹くんと同じ学校の子だろうか。あたしと高樹くんの間にさりげなく透き通った高い声を挟み、飛び込んできたクラスの女の子があたしの隣で彼と話をしている。
 どうやら話の内容は勉強の事の様だけど、時折、彼女は高樹くんの肩に手を置いたり軽く押したりしてなんだかとても親しそうだ。それに……あたしなんかといるよりも、彼女と一緒にいる方が似合っている。
 見たくない。
 あたしは机の上に置いた自分の腕の中に顔をうずめた。
 胸がキューッと締めつけられて苦しい。仲良さそうに話す高樹くんとナゾの彼女(?)の会話。聞きたくないくせに自然と聞き耳をたててしまう、いやらしい根性のあたし。
 ゆっくりと顔を上げて彼らを視界に入れない様に教室の中をぐるりと見渡すと、あたしなんかよりも何十倍もかわいい女の子がいっぱいいる事に気付いた。


「なみこ、ちゃん……でしょ?」
 隣で高樹くんと親しそうに話している女の子が、長いツヤツヤの黒髪をかきあげながら突然あたしに話し掛けてきた。
 話し掛けられた事だけではない。彼女と目を合わせただけで女の子同士なのにドキッとしてしまうくらいの美しさに驚き過ぎて返す言葉に詰まったあたしは、自分の短いクルクルパーマヘアを押さえて裏返った情けない声で、なんとか「……です」とだけ答えた。


「おウワサは、かねがね聞ーてマース」
 うっ、うわさ!?
 “美しい”と“可愛い”を共に兼ね備え、ほっぺに“えくぼ”をつけた笑顔の似合う長い黒髪の女の子。彼女はあたしに向けた人差し指の先をクルクルと回しながら大きな瞳でジーッと見つめてくる。どうやら彼女はあたしの事を色々と知っている様子だ。あたしはこの子の事、何にも知らないのに。
 それにしてもウワサなんて一体誰から聞いたのだろうか。もしかして————
 あたしはおそるおそる高樹くんの顔を見た。
 彼は右手で頬杖をつきながら、あたしを見て微笑んでいる。


 えっ? 高樹くんどうして笑ってるの?
 今度の日曜日、あたしたちデートするんでしょ? この状況……絶対、気まずいはずなのに!!


 高樹くんは優しくてかっこいいから女の子にモテるのは当たり前。でも……さっきのキスは一体何だったの?
 今までお互いの想いが通じ合っていたと思っていたのに彼の気持ちがさっぱり分からなくなってしまった。
 モヤモヤとあたしの頭の中に黒い霧がたちこめる。
 確かにあたしは高樹くんに『可愛い』って言われただけで、『付きあって欲しい』とは言われてはいない。
 ……そういえば、前に読んだお母さんの週刊誌に、こう書いてあった。


 “男はその場の雰囲気で、好きでもなんでもない女に簡単に『好き』と言えるし、キスだってできる。”


 思い当たるふしが……あった。
 それは“やりまくりべや”に松浦くんと一緒にいた時、彼はあたしのことが嫌いなはずなのにキスをした。
 キスをされる前に、松浦くんに言われた言葉を思い出した。 


『どうせ、恋愛小説なんかの世界にでも夢見て浮かれちまってんじゃねぇのか? ————おまえ……高樹にメチャクチャにされるぞ……』


 さっきから、あたしの顔をまるで品定めをしているかの様に見てくる黒髪の女の子は再び口を開いた。
「なみこちゃんの事、“マスコット・ガール”なんだってー。健たちがいっつも言ってんだぁ。
 ウフ、ホントだねーっ、イマドキ珍しい純情そうなかわいーコだぁー。
 あっ、申し遅れちゃったケド、あたしの名前は小栗由季。Aクラスにいる高樹くんの友達の『健』っていうヤツの彼女なのでーすっ」


 キーンコーン。
 後半の講習の始令のベルが鳴った。
 健? なんか聞いたことがある名前の様な気がする。


「————覚えてる?
 この前なみこちゃんのおしりを触った僕の友達の“彼女”だよ」


 高樹くんがあたしの方に身を乗り出して顔を近付け、耳打ちをした。
「あはっ。なんか違う学校のコがお友達って魅力的ッ。仲良くしよーね! な・み・こ・ちゃんっ!」
 さっき高樹くんに見せていた笑顔と全く変わらない眩しい笑顔で嬉しそうに、握ったあたしの両手をブンブンと大きく振り“由季ちゃん”は自分の席に戻っていった。
 茫然としてる間に先生が教室に入ってきて講習が始まった。


「心配、した?」
 隣で高樹くんは回していたペンを机の上に置いて、あたしの手をふんわりと握ってきた。
 彼に握られた手に持っている蛍光ペンがブルブルと震えている。
 目頭があつくなる……。
「心配なんて、しなくていいよ。さっきなみこちゃんが松浦くんに連れていかれた時の僕の方が心配したよ……」
 頭の中にたちこめていた黒い霧が一気に晴れて、一粒の涙があたしの頬をつたった。
 あたしはそれを軽く指で拭い、高樹くんに笑顔を見せた。


「エへ。エへへ……。心配なんてしなくていいよ。松浦くんとあたしだなんて……ありえないよ」


 ————あたしはまだ知らない。
 あたしの見ていないところで、高樹くんと松浦くんの凄まじい戦いの火蓋がきられて落とされていたことを。

『女泣かせの色男』 ( No.43 )
日時: 2013/12/09 16:40
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

《ここからしばらく高樹純平くんが主人公になります》


「純平。急な話ですまないが、ちょっと来てくれないか」
 朝から、どうしたんだろ。いつも穏やかな父さんがこんなにかしこまって。
 バスルームから濡れた髪をタオルで拭きながら出た僕は父さんが呼ぶリビングのソファーに座った。台所のカウンターから厳しい顔で僕たちの様子をジッとうかがっている母さんの視線を感じる。制服のカッターシャツのボタンを留めながら僕は父さんの話を聞いた。


 どうやら父さんと母さんは、2人で経営している女性物の下着の会社の都合で、急遽明日から中国に一週間滞在する事になったらしい。————まあ、昔からそんな事はしょっちゅうあるんだけど、ね。


 明日から一週間————この家には僕だけしかいない……ってコトか。


 フッと頭の中になみこちゃんの顔が浮かんだ。
 前に見た“夢”の続きを見たくなる。
 もう一度会いたい。あの可愛い“エプロン姿”のなみこちゃんに。
 母さんが大きなため息をついて、父さんと僕にコーヒーのおかわりを注いでくる。
「分かっているとは思うけど、純平、家に親が居ないからといって調子に乗って友達と外で夜遅くまで遊んでばかりいるんじゃないわよ。……近所の目もあるんだから」
 僕はテーブルの上に何冊か重ねて置いてある、父さんと母さんの会社の通販カタログを一冊手に取り、膝の上で広げてペラペラとめくった。
 あっ、これこれ。こーゆーの、なみこちゃんに着けて欲しーなー。ふふっ。
「学校の成績がいくらいいからといっても、あなたは生活態度がメチャクチャでしょう……」
 ああー。コレはもっと大人になってからの方が————
「はぁ。お母さん、わからないわ……。
 だいたい純平、あなたはいつも何を考えて生きているのよ……」


 ——パタン。
 見ていたカタログを閉じ、小さく咳払いをして立ち上がった僕は、片手を頬に付け、目を細めてジーッとこっちを見て反応を待っている母さんの肩に手を置いた。
「母さん。父さんと二人っきりで一週間……忘れちゃった愛をたしかめ合ってきてね」
「——っ!!」
 僕の言葉が彼女の頭に角を生やした様だ。
「遊びに行くんじゃないわよ! 仕事で行くの! 
 ————全く! 一体誰に似たのかしら、この子は……」
「まあ、まあ、まあ……」
 父さんの方はまんざらでもないらしく、楽しそうに笑いながら母さんをなだめている。
 僕は手ぐしでヘアスタイルを整えて、母さんが注いでくれた温かいコーヒーを一気に飲みほし、
「いってきまーす」
 学校のカバンを持ち、父さんと母さんに片手で軽いVサインを見せて部屋を出た。


 ————僕の名前は高樹純平。純平の『純』は純粋の『純』。
 友達は結構いる方かな。その中には女の子の友達も何人かいるけれども恋にはならなかった。
 しかし、ある日突然塾で出会った原黒中の僕と同じ2年生(……だけど小っちゃくって可愛い)女の子“なみこちゃん”。
 彼女に出会った瞬間————僕は生まれて初めて恋を知った。


 玄関のドアを開けて、眩しく降り注ぐ太陽の光と風の香りを感じながら大きく深呼吸してみる。
 やっぱり空気がいつもと全然違う。


 今日は塾の日————
 はやくなみこちゃんに……会いたい。


     ☆     ★     ☆


「よ、よぉーっし、じゃ、“お姉ちゃん”が君の靴に“魔法”をかけてあげよう!
 1・2・さんっ、えーいっ!」
「ほらっ、コレで大丈夫!」
「……ほんとう?」
「たぶん……いや! 絶対!
 ————だからもう泣いちゃだめだよ。ね?」


     ☆     ★     ☆


 ————ここは僕の通っている釜斗々(かまとと)中学校。
 今は昼休み。
 別に何をする用事もない僕は、廊下の壁にもたれながら窓の外で交尾をしているトンボを見ていた。


「やあやあ高樹殿、本日はお待ちかねの塾でござるなあ。
 愛しのなみこ嬢との甘い愛の戦略を練っておられるようで? 邪魔してすまんな……」
「会いたいのにぃー、週2しか会えなぁーい。どうしてあなたは原黒中なの? どうして処女なの?
 ——痛ッて! 何すんだ由季ッ!」
「……ばーか。もうっ、ごめんね高樹くん」
 ヘンな奴等だけど、一応彼らは僕の友達。
 時代劇役者(?)口調の聖夜と、『少年よ、オンナを抱け(いだけ)』が口癖の、見ての通り“チャラ男”な健。そして“はきだめに鶴”、日本人形の様なしとやかな顔をしているこの女の子は、信じられないけど、まさかの“あの”健の彼女の由季ちゃん。
 なんだかんだ言って、いつも彼らとつるんでエッチな話に花を咲かしているんだけど————今は由季ちゃんがいるから無理だな。


「え! ウソ! マジで今日告るの!? 静香!!」
「……ウン」


 廊下にいる僕に“わざと聞こえるように”アピールしているのか大きな声で教室の中からぞろぞろと出てきた女の子達。3人いる中の1人、1番スカート丈の短い中学生離れしたグラマーな体型をした今日誰かに告白するらしい女の子は“徳永静香さん”。彼女は見ての通りクラス……いや、この学校の名物キャラだ。
 その名物、徳永さんがお尻を振りながらゆっくりと歩いて近付いてきて、僕の横に香水の香りをフワフワと漂わせながらもたれてきた。
 そんな彼女が赤茶色の縦ロールの長い髪を指で少しつまみ、毛先を僕の鼻のそばに近付けて上目遣いで話し出す。


「高樹クン。静香をフったコト、今に後悔させてアゲルから————」


「おおうっ! 今日も色っぽ……いや、エロっぽいよ! 静香御前」
「よッ! 女泣かせの色男、高樹源氏!」
 僕と徳永さんの前で健たちがワケの分からない事を言ってはやしたてている。
 僕は自分の鼻の前にチラついている徳永さんの髪を手で払いのけ、「ふっ」と小さく笑った。


「胸の谷間に着火したダイナマイトはさんで挑む覚悟がないと無理だと思うよ。
 ————頑張って。本気で応援してるから」

『恋に障害はつきもの!?』 ( No.44 )
日時: 2013/10/22 17:05
名前: ゆかむらさき (ID: bIwZIXjR)

 ————前に健から聞いたことがある。
 徳永さんが今、熱をあげている恋の相手は————松浦鷹史。


     ☆     ★     ☆


 所属しているバスケ部活動を終え、学校から帰った僕達……僕と健と聖夜は自転車で塾へと向かった。
 学校の授業なんて全然耳に入らない。入らなくても今日の理科の授業で抜き打ちで行われた電気分解の小テストは何故か満点を取ることができたけれども。……って、そんな事はどうでもいい。テストで満点を取る事なんかよりも今日これから、もっと嬉しい事があるんだから。僕が考えているのは、そう、“あの子”の事だけ。


 もうすぐ、なみこちゃんに会える。


 いつも自転車を漕ぐのにかったるかったこの急坂が、なみこちゃんと出逢ってからは何とも思わない。
「ちょっ、待てよ、高樹ッ!」
「愛のチカラ、おそるべし……」
 気が付くと、僕のいる50メートルくらい後ろで健たちがへたばっている。
 彼らには構わず、そのままペースを落とさずに高台まで上った僕。そこでやっと自転車を止めて下に広がる街の景色を見ながら、まっすぐ伸ばした右手を空に掲げ大きく深呼吸をした。
 心地のいい風が僕の髪を優しく撫でる。
 やっぱり、今日の僕はちょっと焦り過ぎの様な……。
「あせりすぎでござるぞ、おぬし……」
 ——やっぱりね。しかも“ちょっと”じゃなくて“過ぎ”って言われた。
 汗だくになりながら息をきらしてやっと追いついてきた聖夜に怒られちゃった。


 走り出したら止まらないんだよ。
 ごめんねっ。


 いくら急いで早く塾に着いたって、なみこちゃんが乗っているバスが来る時間は同じなのに。何やってるんだ、僕。
 舌をペロッと出して「ごめん」と彼らに謝っておきながらも、再び高速スピードで塾へ向かって走った。
 この胸のドキドキは自転車のペダルを思いっ切り漕いだからではない。多分それは————


     ☆     ★     ☆


「あ。なんだ? 高樹、それ」
 塾の自転車置き場に着いてから、昨日サイクルショップで僕の自転車の後ろに取り付けた荷台に、健がやっと気が付き指をさしている。
「もっと早く気付いてよ」
 自転車に鍵をかけ、僕は健に向けて手の指をピストルの形にして「バーン!」と撃った。
「ほほう。これは羨ましいでござるな。背後から手を回されて、なみこ嬢の可愛らしい胸が密着とは。うむむ。純情そうな顔しておぬしもなかなか……」
「聖夜。こいつ最終的には“自分の上”に乗せる気だぞ。全くけしからんヤローめ」
 恒例の下ネタ妄想トークが始まった。こーゆーのホント好きなんだよな、こいつらは。
「ふふっ。いつかはね……って! 何言ってんだよっ」


 そうこうしているうちに駐車場に塾のバスが入ってきた。


「!」
 バスから降りてきたなみこちゃんが、松浦鷹史に強引に腕を引っ張られて泣きそうな顔で怯えている。
 何しやがる、あいつッ——!!
 僕は健達をほったらかしにして、急いで彼女の元へと走った。


「悪ィな、高樹君……。少しこいつ借りてくわ。
 あー大丈夫、大丈夫。後で、ちゃんと返すって。な?」


 松浦鷹史は僕のなみこちゃんへの気持ちを知っていながら、わざと神経を逆撫でするかの様に挑発的な笑みを浮かべ、彼女を塾の中へと連れ込んでゆく。


『助けて』
 なみこちゃんは何度も振り返り、目で僕にうったえていた。
 黙って待ってられるか!! 大丈夫じゃないだろ!!
 これも生まれて初めての感情だった。僕の中で何かがブチッときれた音がした。
「——っ!」
 僕はすぐになみこちゃんを連れた松浦鷹史を追いかけ——————————られなかった。


「高樹クゥーン……」


「!」
 僕の腕に大粒の涙をボロボロとこぼしながらしがみついている徳永さんが。
 きっと彼女もアレを見たんだ。
 バスから降りてきた松浦鷹史を捉まえて、いざ告白しようとしていたのだろう。可哀そうに……。
 気合いを入れてまつ毛にマスカラをたっぷり塗り付けていた様で、目の周りがパンダの様に黒くなっている。
「ヒドイィ。ヒドすぎるゥー」
 さらにラメ入りの真っ赤のリップグロスが前歯にベットリと貼り付いている。
「……大丈夫だよ」
 僕、今こんな事してる場合じゃないのに……。
 “大丈夫”なんて人に偉そうな事言ってるこっちが大丈夫なんかじゃない。
 心の中で徳永さんを飛び越えてなみこちゃんの行方を追っている。
 塾に来る人達が、みんな立ち止まって僕たちの事を見ている。
 厄介な見えない壁か次々と現れ、いたずらに僕の行く手をはばんでくる。
 勘弁してよ。これじゃあまるで僕が徳永さんを泣かしてるみたいじゃないか。
 僕は自分の腕から彼女の腕をそっと外して、なんとか落ち着かせようとした。
「まだ伝えてないんでしょ。……泣かないで」


「!」
 彼女は今度は僕に抱きついてきた。
「おおーっ!!」
 周りが一気にざわめき出した。野次馬の中にいる徳永さんのとりまき(?)の2人の女の子は、予定外の彼女の行動に驚きながらも小さく拍手をしている。これはマズい。もしもコレがヘンなウワサになってなみこちゃんの耳にでも入ったら、たまったもんじゃないよ。
 僕に磁石の様にひっついている徳永さんを引き離し、
「おいで」
 と、仕方なく彼女の手を引いて、自転車置き場に戻っていった。


「ごめん! 聖夜、あとたのむ! なぐさめてあげて!!」
 いきなりそんな事を押し付けられて目を丸くしている聖夜。
 彼の手に徳永さんの手をムリヤリ繋がせて、僕は塾の中に飛び込んだ。


 ————どこにいる松浦鷹史! なみこちゃん!!


     ☆     ★     ☆


 1階は職員室と3年生の教室だから、おそらくいない。————2階に行った方がいいとみた。


「……高樹」
 階段を昇ろうとしたら、誰かに声を掛けられた。
 また、こんな時に限って誰だよ……って、うわっ!
 引退したのだから、もう関わる事はそうそうないと思っていたのに。
 僕に声を掛けてきた男は————誰がどう見たって成人男性の様な彫り深い顔。そして怪物の様な雰囲気を漂わせるこの男は、同じ学校の、僕の所属している男子バスケ部の部長を以前務めていた黒岩先輩だった。


「————話がある。来い」
 低く重たい声で、身長180センチ以上もある黒岩先輩が腕を組んで僕を見下ろしている。部長を降りたのに、今もあの頃と変わらず視線だけで目の前の全てのものを覆い尽くしてしまう様な威圧感で、思わず生つばを飲んでしまう。
 実は……僕は彼が苦手なのだ。
 厳しいからでは、ない。
 乱暴だからでも、ない。
 陰険だからでも、ない。


 ————それは“僕だけ”に異常に優し過ぎるから。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。