複雑・ファジー小説

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たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜
日時: 2015/06/02 14:15
名前: ゆかむらさき (ID: DdpclYlw)

 ※たか☆たか★パニック〜ひと塾の経験〜を読んでくださる読者様へ
 この物語はコメディーよりの恋愛物語なのですが 性的に刺激的な文章が処々含まれております。
 12歳以下、または苦手な方はご遠慮頂く事をお勧めいたします。


 ☆あらすじ★
 冴えない女子中学生が体験するラブ・パラダイス。舞台はなんとお母さんに無理やり通わせられる事となってしまった“塾”である。 
『あの子が欲しい!』彼女を巡り、2人の男“たか”が火花を散らす!


 視点変更、裏ストーリー、凝ったキャラクター紹介などを織り交ぜた、そして“塾”を舞台にしてしまったニュータイプな恋愛ストーリーです!
 読者の方を飽きさせない自信はあります。
 楽しんで頂けると嬉しいです。


 ☆ドキドキ塾日記(目次)★
  >>2 宣伝文(秋原かざや様・作)
  >>3 はじめに『情けなさすぎる主人公』
 塾1日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>4-5 『塾になんかに行きたくない!』
  >>11-12 『いざ! 出陣!』
  >>13 『夢にオチそう』
 塾1日目(主人公・松浦鷹史くん)
  >>14-15 『忍び寄る疫病神』
  >>16-17 『もの好き男の宣戦布告!?』
 塾2日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>22-23 『初めての恋、そして初めての……』
  >>26-27 『王子様の暴走』
  >>31-32 『狙われちゃったくちびる』
  >>33-34 『なんてったって……バージン』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>35-36 『キライ同士』
  >>37 『怪し過ぎ! 塾3階の部屋の謎』
  >>38-39 『一線越えのエスケープ』
  >>42 『美し過ぎるライバル』
 塾3日目(主人公・高樹純平くん)
  >>43 『女泣かせの色男』
  >>44-45 『恋に障害はつきもの!?』
  >>46-48 『歪んだ正義』
 塾3日目(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>49 >>52-53 『ピンチ! IN THE BUS』
  >>54 『日曜日のあたしは誰のもの?』
  >>55 キャラクター紹介
  >>56-58 >>59 キャラクターイラスト(ゆかむらさき・作)
  >>60 >>61 キャラクターイラスト(ステ虎さん・作)
  >>62 キャラクターイラスト(秋原かざや様・作)
  >>74 キャラクターイラスト(萃香様・作)
  >>114 キャラクターイラスト(日向様・作)
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>63 『祝・ドキドキ初デート』
  >>64 『遅刻した罰は……みんなの見てる前で……』
  >>65 『少女漫画風ロマンチック』
  >>70-71 『ギャグ漫画風(?)ロマンチック』
  >>72 『ポケットの中に隠された愛情と……欲望』
 裏ストーリー(主人公・松浦鷹史くん)
  >>73 >>75-81 
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>82 『残され者の足掻き(あがき)』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>83-87 『王子様のお宅訪問レポート』
 日曜日(主人公・松浦鷹史くん)
  >>88-89 『拳銃に込めたままの想い』
  >>90 『本当はずっと……』
 日曜日(主人公・武藤なみこちゃん)
  >>91-92 『闇の中の侍』
  >>93-94 『こんな娘でごめんなさい』
  >>95 『バスタオルで守り抜け!!』
  >>96-98 『裸の一本勝負』
  >>101-102 『繋がった真実』
  >>103-107 インタビュー(松浦鷹史くん・高樹純平くん・武藤なみこちゃん・蒲池五郎先生・黒岩大作先輩)
  >>108 宣伝文(日向様・作)
  >>109 キャラクター紹介(モンブラン様・作)
  >>110 たか☆たか★武藤なみこちゃんCV(月読愛様依頼)
 裏ストーリー(高樹純平くん・主人公)
  >>111
 日曜日(高樹純平くん・主人公)
  >>112

☆作者からのメッセージ★

 松浦くんの愛し方
 高樹くんの愛し方
 正反対の性格のふたり……。

 実はこの物語の原作は自作の漫画になっております。
 さて、次回からは波乱の塾4日目!
 王子様と侍の激しい戦いが!

『王子様のお宅訪問レポート』 ( No.85 )
日時: 2013/11/29 16:55
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

     ☆     ★     ☆


「はーっ」
 死ぬかと思った。
 密室の中、ベッドの上で高樹くんにあんなコトをされて。
 今日の今まで妄想ですらしたこともなかった状況に耐える事に限界で、もう、いっぱいいっぱいだった。
 力の抜けたあたしは腰を掛けているベッドにコロンと寝そべり、両手を胸に当てて呼吸を整えた。


「へぇ。コレが男の子のお部屋、なんだぁ」
 寝そべった格好のままで片方のほっぺたを布団につけながら、あたしは改めて部屋の中をゆっくりと見回した。
 漫画の単行本が無造作に積み上げられているあたしの机の上とは違って、彼の机は置いてあるのはコンパクトなノートパソコンとデスクライトだけでスッキリと片付けられている。
 部屋に入ってきて高樹くんがジャケットをクローゼットの中にしまった時の事を思い出した。一瞬だけしか見えなかったけれど、そこもジャケットやズボンが綺麗に仕分けされ、ハンガーに掛けられていた。 
 そして土足で上がるのが申し分けないくらいに磨かれたフローリング。投げたけど命中しなくて、紙くずがゴミ箱の周りに散乱しているあたしの部屋のフローリングとは大違い……っていうか、あたしはホントに女の子なのだろうか。
 もしも今度あたしが彼を部屋に招く事になった時がくるとしたら、とても恥ずかしくって見せられない————


「 !! 」
 なッ! なに考えてんの、あたし!!
 “今度、彼をあたしの部屋に招く”だなんて!!


 またもや勝手に大胆な妄想が暴走してしまった。
 やっ、やだなあ、もうっ! ……キャーッ!!
 勝手に一人で恥ずかしくなったあたしは、目の前にある枕を手に取った。それをギュッと腕の中に抱き締めて、ベッドの上で足を投げ出しゴロゴロとのたうち回っていた。


「ん?」
 枕があった辺りに何か……小さなモノを発見。
 それは縦5センチ×横5センチほどの薄っ平い銀色の袋だった。
 あたしはおそるおそる指先を使ってそれを手に取り、ゆっくりと顔を近付けてみた。
 何かが中に、入って、る?
「なんだ、これ? お菓子、かな?」
 袋の表面の欠けたお月さまのデザインの横に英語で何やら書いてある。
 一体何て書いてあるんだろう。

「んっ、と……“エ、エックス、タシー? ……何”??」
 なんだ、コレ……。


 あたしの頭の中で“?”が細胞分裂を起こし出した。
 今だかつてこんなお菓子は食した事がない。しかも“MADE IN 外国”っぽいネーミングだし、セレブな高樹くんが枕の下に隠しているくらいのモノだから、きっとあたしの様な一般庶民には手の届かないシロモノに違いない。
 さすが高樹くん……。
 甘党なあたしはこのお菓子(?)がどんな味がするモノなのかとても気になるところだったけれど、つばを飲んで我慢した。そして、その……“エックスタシーなんとか”を元にあった位置に戻し、枕をそっと上に被せた。
 高樹くんに聞くのは、なんかちょっと恥ずかしいな。
                  お母さんなら知ってるかな。
                         帰ったら聞いてみようかな……。


     ☆     ★     ☆


「……何を聞いてみるの?」
「えっ!?」


 ハッと気が付くと、あたしのすぐ目の前に高樹くんの顔があった。
 彼もあたしの隣で片肘をついて微笑みながら寝そべっている。
「 !! 」 
 もしかして高樹くん、あたしと一緒に寝……ちょっ! ちょっとまって!! どッ、どーゆーコトになっ、てん、のッッ!?
「あーあ。もうちょっと見ていたかったのになー。なみこちゃんの、寝・が・おっ」
 これは夢なのか現実なのか。状況を把握できないでパニックになっている頭の中を慌てて整頓させた。
 ……どうやら“こーゆーコト”になっていたらしい。
 あたしはベッドの上に横になり、高樹くんが部屋に戻ってきた事にも気付かないくらいに堂々と————熟睡をしていた。(寝言まで言いながら)
「ひいッ!! ごっ、ごめんなさいぃっ!!」
 ホント何してんの!? あたし!!
 よだれを手で拭って慌てて飛び起きたと同時に、あたしの体の上から(たぶんあたしが寝ている間に高樹くんが掛けてくれていたのであろう)掛け布団がズルッと滑り落ちた。
 恥ずかしすぎて高樹くんの顔が見れない。
 あたしは掛け布団を頭から被って顔を隠し、もう一度小さな声で「ごめんなさい」と、謝った。


「ふふっ、大丈夫っ。“まだ”何にもしてないって。
 だって、寝こんでる女の子のくちびるを奪うなんて反則、でしょ? ほらっ、出ておいで」

『王子様のお宅訪問レポート』 ( No.86 )
日時: 2013/12/02 08:45
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

「おいしいうちに食べて。ねっ」
 ……おいしい?
 布団の上から高樹くんに頭を優しくポンッ、と叩かれ、デザートにつられて顔を出したあたし。
 ベッドの脇の艶のある木とタイルで造られたオシャレな小さなテーブルの上のデザートにあたしの目が釘付けになる。
「すっごぉい……。コレ、全部高樹くんが切ったの?」
 バラの花の形をしたガラスの器の中いっぱいに並べられたメロン以外は食べた事も見た事もない見事に飾り切りのほどこされたフルーツの盛り合わせ。そして、フルーツの器とお揃いのガラス製の小さなペア・ティーカップに注がれた紅茶。それらを乗せている金色のお盆……じゃなくってトレイ(?)の上には、さっき、高樹くんの家に上がる前に通った玄関のアーチに華やかに咲き乱れていた深紅の花の花弁が華麗に散りばめられている。
『ぱ、パティシェ、ですかー!!』
 思わず心の中で叫んでしまった。
 さすがテクニッシャンの高樹くん。前に一緒にビリヤードをした時と同じ様にあたしのハートは再び彼にさらわれてしまった。
 花弁の形をした小さな取り皿にフルーツを取った高樹くんは、驚きのあまり全開になっているあたしの口の中にフォークで刺した一かけのフルーツを放り込んだ。
 突然だったから、あたしの中に入ってきたものは何だったのか分からなかったけれど、甘くて、酸っぱくって……じわじわと溶けていった。
 なんだかグルメ・リポーターのコメントみたいになってしまったけれど、それは初めて高樹くんに出逢った時のあたしの気持ちに似ていた。
 今になっても思い出せば顔が赤くなっちゃうくらいの甘い甘い彼との思い出を、もう一度味わいながら飲みこんだ。


「高樹くん。あのね……」
 高樹くんは手に持っていたお皿をテーブルの上に戻してまっすぐあたしの顔を見ている。
「あたし……、あたし、ね……」
 そう言いかけた途端、すでに忘れかけていた“処女の誘惑”がスクリーンの中で厄介なコトになっていた。


『キスして……リック……』
『ジェーン……』
 さすが(?)アメリカ発、恋愛・ロマンス系映画(ムービー)。一体どんな流れでこんな所に居るのかは分からないけれど、今、2人の居る場所は真夜中の廃ビルの工事現場の片隅。この映画の主人公のチアガールの女の子“ジェーン”は、何故か上下セクシーなスケスケの黒いレースの下着姿になっている。そして、アメフト君“リック”の膝の上に向かい合ってまたいで座り、大胆にもキスを要求していた。
 さわやかで健康的なチアガールの衣装を一体何時脱ぎ捨てたのか。モジモジして話すらできなかった彼女だったはずなのに。オープニング映像の時とは打って変わってエッチになってしまった彼女はリックと目のやり場に困る様なキスを交わした。


 どうしよう……。
 困る。非常に、困る。
 チアガール……(しかし、もうその面影は無し)のジェーンに、あたしがさっき高樹くんに言おうとした言葉をぶっ飛ばされてしまった。
 今、ベッドの上に腰を掛けている高樹くんとあたしの前で、まだ懲りずにスクリーンの中で堂々とすごい音をたててキスを交わし合うジェーン&リック。スクリーンから目を離しても彼らの生々しい会話と(キスの)音が聞こえてくる。
 ここで耳を塞いだら余計に不自然だし————
 高樹くん……。今、どんな気持ち、なんだろう。
 とりあえず、この気まずい雰囲気をどうにかしなくっちゃ!!
 あたしは膝に乗せた両手をギュッと握り締めて高樹くんを見た。


「がっ、外国流のキス、ってなんかスゴいよねぇ。えっへへへ……」


 とりあえず笑って全力でごまかしてみた。
『あはは。ホント、すごいよねぇ』————こんな風にいつもの笑顔を見せて返してくれることを願って。
 ……けれど、甘かった。


「日本人も……するよ……」
 照れて抵抗する余裕もなく、あたしのくちびるは高樹くんに吸い込まれていった。
 それも以前“やりまくりべや”でされた触れただけのキスとは違う、まるでジェーンとリックに対抗している様なくらいの……激しいキス。
 そうだよね……。だって“約束”だったんだもん……。
 あたしは震える両手を高樹くんの背中にそっと回した。


「なみこちゃん、可愛い……っ」
 声を震わせながら、あたしを抱き締める腕に力を入れた高樹くん。


『可愛い……。可愛いよ、なみこ……』


 今、一緒にいるのは高樹くんなのに……まるでフラッシュバック現象の様にあたしの頭の中に浮かび上がってきた松浦くんの顔。
 そして思い出した。以前、夜の駐車場に停めてあった塾のバスの中でガリバーに迫られた時に“演技”で彼にキスをされた事を。
 やっ、やだっ! どうしてこんな時にあんなコト思い出しちゃうワケ!?
 あたしは瞼に力を入れ目を閉じて高樹くんを抱き締める。
 どうしてもあの記憶だけは跡形もなく消してしまいたかったのに、あたしの頭の中の隅っこに今だにしつこくこびり付いている。
 荒々しい息使いであたしの耳元で囁いた松浦くん。
 彼のイメージからは想像できない、あの甘い言葉。生温かったミントの香りの吐息————


『ふふっ……。いいぜ、その顔……』
 ほら、もっと思い出してみろよ……。
 まるであたしにそう言っているかの様にあの時と同じ薄笑いを浮かべた顔で松浦くんがあたしににじり寄ってくる————


「いっ! いやあーッッ!! こっち来ないで松浦くんっっ!!」


「……松、浦?」
 無意識であたしはとんでもない言葉を叫んでしまった。
 気が付くと、あたしの前で顔をこわばらせて固まっている高樹くんがいる。
 最低だ……あたし。
 さっき高樹くんと一緒に行ったお好み焼き屋さんの時に続いて、一度ならず二度までもデート中に松浦くんの名前をうっかり口に出してしまうだなんて!!
 本当は薄々気付いていたんだ。何となく“高樹くんが松浦くんを嫌っている”んだって。理由が何なのかは分からないけれど、正義感の強い彼の事だから、きっとあたしを陰でコソコソと苛めている松浦くんが気に入らないのだろう。


「ごめんね。高樹くん……」
 申し分けない気持ちでいっぱいで高樹くんの顔が見れないあたしは、彼の胸に顔をうずめて小さな声で謝った。
「あはは。やめてよ、なみこちゃん。そんな風に謝られちゃうと、なんか惨めだ、僕……」
 あたしの両肩に置いた彼の手がもの凄く震えている。
 そして、あたしの顔を覗き込んで無理矢理作った様なぎこちない笑顔を見せる高樹くん。
「……参ったな。まさかこんなところまでジャマしにくるとはね……あいつ」
 高樹くんはベッドから身を乗り出して手を伸ばし、テーブルの上のフルーツを1かけフォークで刺して再びあたしの口の中に入れた。
 “あいつ”って、やっぱり松浦くんの事なのかな……。
 高樹くんと甘いキスを交わした後だからなのかもしれない。あたしの口の中のフルーツは、さっき食べたものよりも甘くない感じがした。
「高樹くんは食べないの? ……おいしいのに」
 もごもごと口を動かしながら、あたしは彼に尋ねた。


「じゃあ……たべて、いい?」


「 !! (たっ! 高樹、くん!?)」
 高樹くんは、いきなりあたしの前で————着ている自分のシャツを脱ぎ出した。
 ……ごっくん。
 口の中のフルーツを飲み込んであたしは考えた。
 あ、暑いから脱いだのかな? それともあたし、これから高樹くんに————
 頭の中がパニック状態。
 どどど、どうしよう!! トッ、トイレ行くフリして、いったん部屋を出たほうが、いいのかな?
 ……と思った瞬間、あたしの両腕は上半身裸の姿になった彼に掴まれ、そのままベッドの上に押し倒された。


 ————もう逃げられない。


 思えばさっきもそうだった。
 あたしが松浦くんの話をすると、高樹くんがおかしくなる。
 もしかしたら高樹くんは“あたしが松浦くんの事を好き”だって思っているのかもしれない。
 ちがうよ! ……違うの。だって、あたしが好きなのは!!
「ちょっ、ちょっと高樹くん、待って! 靴がっ————」
 両腕をシーツに押し付けて、あたしの上に覆い被さってまたがっている高樹くんは耳元にキスをしてから囁いた。


「大丈夫だよ。僕が脱がしてあげる。————全部」

『王子様のお宅訪問レポート』 ( No.87 )
日時: 2013/12/02 15:26
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

     ☆     ★     ☆


 ————どうしたらいいのか分かんない。
 当たり前だ。だって、ここから先は今まで妄想でもした事のない未知の世界なのだから。
 こんな事になるなんて思っていなくて全く色気の微塵もない下着を着けてきてしまった。
 ま、いっか……。どうせすぐに外されちゃうんだから……。
 いくら着るもので飾って頑張ったとしても、どうしたって中身は“あたし”なんだもん。高樹くんみたいなパーフェクトな男の子に、こんなあたしの全てををさらけ出すのは恥ずかしい……っていうよりも失礼にあたるって言ったほうがいいのかもしれないけれど、『僕にまかせて』と言う彼にあたしは身をまかせた。


「好きだよ……なみこちゃん……」
 呼吸を乱しながら、あたしの身体の至るところにキスをして彼は何度も名前を呼んだ。
 彼の愛を受け止める事で精いっぱいで、あたしは口では何も返すことができなくて————心の中で答えた。


「あたしも好きです……」
 ……と。


 ヒトの体は、全身の40パーセント以上の深い火傷を負うと死に至るらしい。
 高樹くんに触れられる所が火傷を負ったかのようにあつくなる。今まで触れた事のないあたしの、そして彼の秘密の場所にも自然に優しく導かれ、もうあたしの身体は100パーセントに近い火傷を負っている。全身にがんじがらめに繋がれた爆竹の束が導火線を走る炎に点火されて次々と爆発を起こし、体全体を駆け巡る様な激しい火傷を。
 あたしの中に高樹くんの深い愛情が注がれる。
 溢れてこぼれるくらいに————
 今度は冗談じゃなくて、本当に死んじゃいそうだよ……。


『愛してるよ。ジェーン……』
『これからも、ずっと一緒よ、リック……』
 スクリーンの中で、いつの間にやら純白のタキシードとウェディングドレスを着飾ったジェーン&リックが教会の壇上の前で大勢の人たちに祝福されながらキスを交わしている。
 2人共とても幸せそうな顔をしている。DVDなんて観る余裕なんてなかったけれど、気が付かないうちに彼らは勝手にハッピー・エンドになっていた。
 あたしもこのまま高樹くんとハッピー・エンドになるのかな?
 高樹くんの温かい腕に包まれながら、あたしは“処女の誘惑”のエンディング・ロールを眺めていた。
 それにしても人肌がこんなに温ったかくて気持ちがいいものだったなんて思わなかった、な……。
「ひっ!! ひ、人肌ぁッ——!!」
 あたしはビックリして跳ね起きた。
 気が付くと何も身に着けていない産まれたままの姿になっている……あたし。
 ふっとそばに全然お菓子なんかじゃなかった“エックスタシーなんとか”の封の切られた袋を発見してしまい、心の中で『うっひゃー!』と叫びながら素早くグジャッと丸めてゴミ箱に向けて投げ捨てた。そしてベッドの上に散らばっている、さっき高樹くんに脱がされたパンティーとタンクトップを慌てて着て、「ふーっ」と大きく一息ついた。
「あれ?」
 履いたパンティーがヒヤッと冷たくて、中に手を入れてみるとベットリと濡れていた。


『僕が全部飲んであげるから、もっと出して……』


 力を抜いて、って言われたのに力み過ぎちゃってこんなにおもらししちゃった……。
 あたしの隣で横になり、静かに寝息をたてている高樹くん。
 下半身には掛け布団が掛けられているけれど……きっと彼も産まれたままの姿だ。
 風邪、ひいちゃうよ……。
 あたしは高樹くんに布団を掛け直すついでに、彼の顔を見つめた。
 気持ち良さそうに眠っている。
 今まであたしの油断した寝顔を見られてしまった事は何度かあったのだけれど、彼の寝顔を見るのは初めてだった。
 きっと彼も、今のあたしと同じ気持ちでこうやって眺めていたのかな。
 短距離のトラックを全力疾走した様に汗をいっぱいかいていて今はペタン、となっているけれど、いつもはサラサラの彼の髪。
 男の子なのに、女の子の様な長いまつ毛。
 そしてセクシーな唇。
 こんなに可愛らしい寝顔をしているのに、あんなキスをしたり、あたしのココに指とかアソコとか……。
 ……やだッ! またさっきのアレを思い出しちゃいそうッ!
 高樹くんに布団を掛け直してから、エアコンの暖房の温度を上げに行こうとあたしはベッドを降りようとした。
「 !! 」
 そのとき、あたしの手首が寝ていたはずの高樹くんに掴まれた。


「なに? もう終わっちゃった、の?」


 下着を着けたあたしの姿を見て彼は言った。
 うそ!! この後、まっ、まだ続くのぉッ!?
 高樹くんが“テクニッシャン”だっていう事は充分に分かっている。でもッ! あたしは……。あたしはッ!!
「ごッ、ごめんっ、高樹くんっ! あああ、あたし、もう……むりみたい、でっすッ!」
 熱くなった顔を枕にうずめて本音を叫んだ。
「ぶっ! あはははは……!」
 高樹くんが大爆笑をしている。
「何、言ってんだよ。DVDのコトだって、なみこちゃん。
 うーん。確かに正直いうともう少し“探検”したかったんだけど……無理なんじゃあ仕方ないよねっ」
 枕から顔を出し、ほっぺたを膨らませているあたしをまっすぐ見て彼は言った。


「愛してるよ」

『拳銃に込めたままの想い』 ( No.88 )
日時: 2013/12/09 16:33
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

《ここからしばらく松浦鷹史くんが主人公になります》


 ○want to 〜 =〜したい(と思っている)
 ○like to 〜 =〜するのが好きです
 ○start to 〜 ・ begin to 〜 =〜し始める


 ————実は俺は、“あいつ”と生まれる前から隣同士で過ごしてきた。
 これは前に母さんから聞いた話なのだが、15年前に大きなお腹を抱えて母さんは父さんとこの土地に家を建て、遠くの小さな村から引っ越してきた。
 家の設計は、これから生まれてくる俺に元気に伸び伸びと育ってもらえる様に、と思いを込めて、父さんが寝る間も惜しんで考えたものらしい。
 今思えば、伸び伸びと育つはずの肝心の俺の部屋の位置&ベランダの向きが、“伸び伸び”なんてできないコトになっているのだが、あの頃の父さんの気持ちを踏みにじる事はしたくなくて俺はずっと部屋の事に関しては何も言わずに過ごしてきた。
 田舎から嫁ぎ、実家から遥か遠く離れたこの街に引っ越してきた母さん。今の母さんを見るととても考えられないが、当時は引っ込み思案だったという母さんは、近所の人達と上手く馴染めるのだろうか、そして初めての出産、という悩みを抱えていた事もあり、嬉しさよりも不安を抱いていた。


「あらっ、奥さんも“もうすぐ”なんですね、出産」


 引っ越してきてから母さんに一番初めに声を掛けてきたのはあいつ……武藤の母さんだった。
 当時、武藤の母さんも、俺の母さんと同じ位の大きさのお腹をしていた。彼女ももうすぐ初めての出産、ということで、彼女たちはお互いの話をしていくうちにすぐに打ちとけ、仲良くなっていった。しかも出産予定日は偶然にも同じ日であったらしい。
 気さくな武藤の母さんに影響されて、母さんの性格にだんだんと灯がともり、心配していた近所付き合いの悩みはスッと消え、俺も無事に産まれた。 
 ちなみに俺と武藤の誕生日はほんの1日違い、ということで、小さな頃は毎年、武藤の家か俺の家で“合同誕生会”をして、家族ぐるみで温かく祝ってもらっていた。
 武藤の母さんが焼くチーズケーキがとても美味しかった。
 そういえばあの頃はあのチーズケーキが目当てで俺はしょっちゅう彼女の家に遊びに行っていた。言っておくが、断じて“あいつ目当て”なんかではない。 
 “ケーキ食べたさ”で、俺は彼女の家に行く度に近くの公園で一輪の花を摘んでから会いに行った。決して“武藤の喜ぶ顔が見たい”からではない。よその家に手ぶらでじゃまするのが気が引けるからだ。 
 それにしても、あんな女でも一応、女は女。やっぱり花が好きな様で、俺から花を受け取る時の彼女の顔が今でも忘れられない。恥ずかしそうに頬を染めて、『ありがとう』だなんて言いやがる。……ホント笑えるくらい単純な奴だった。なにも武藤のために摘んできたわけではない。……ケーキのためなのに。


 いつからだろうか。 
 義理でしばらくの間、武藤と仲良くしていたのだが、俺が彼女を遠ざけ、はねのける様になったのは————
 そう。確か“あの時”からだった。


 ————あれは俺たちがまだ幼稚園に通っていた頃。
 幼稚園のバスから降りてすぐ公園に花を摘みに行き、相変わらず俺は毎日の様に武藤の家を訪れていた。
 彼女の家のリビングで彼女の母さんが焼いたチーズケーキをよばれながら、俺たちは2人で仲良く寄り添って座り、テーブルの上に置いた白い紙に夢中で絵を描いて遊んでいた。
 俺の隣で武藤が楽しそうに結婚式のファンファーレのメロディーを口ずさみながら、白いウェディングドレスを着た女の子と、同じ色のタキシードを着た男の子の絵を描いている。ウェディングドレス姿の女の子はおそらく“武藤”だろう。顔は多少美化されてはいるが、髪型や目の特徴が表れている。 
 しかしタキシード姿の男の子は、髪型も、顔も、体型も……どう見たって“俺”ではなかった。


「なみちゃん……。ぼく、こんなに太ってないよ……」


 そう指摘された武藤は何食わぬ顔をして、こう答えたのだ。
「だって、この子、鷹史くんじゃないもん。……太くんだもん」
 ふと、し……?


 ウェディングドレス姿の彼女の隣にいたのは生まれる前からずっと一緒にいた俺ではなく、他の男だった。
「う、うそだよ、ね? なみちゃん……」
 わざと俺の気を引こうとして巧妙な手を使いやがったのか。でもわずか6歳。加えて単純ときている彼女がこんな手の込んだ事をするわけがないだろう。
 俺は彼女が描いた絵を、黒のクレヨンでぐじゃぐじゃに塗り潰した。取り乱してがむしゃらになって塗り潰している間、さらに俺の肘がテーブルの上に置いてあったオレンジジュースの入っていたグラスに当たり、コトン、と倒してしまった。
 絵はジュースまみれになった。
「鷹史くん!! 大丈夫!?」
 武藤の母さんが驚いた顔をして俺達のそばにタオルを持って走ってきた。


 “大丈夫”なんかじゃ……ない。


「脱いで乾かしたほうが、いいかしら」
 そう言いながらジュースのかかった俺のズボンを拭いている武藤の母さんの手からタオルを取り、俺はテーブルと床を拭いた。
「ごめんなさい。おばさん……(なみちゃんの目の前でズボン脱げるワケないじゃん)」
「う、うんっ。大丈夫です! ちょっとしか汚れてないから……」
 俺のズボンを脱がそうとする武藤の母さんに必死で抵抗しながら思う。
 きっと、おばさんはぼくたちのこと、兄妹かなんかだと思ってるのかな。
 ちがうのに……。なみちゃんは、ぼくの……およめさんになるはずだったのに————
 ズボンはさほど汚れていなかったけれど、あの時から俺の心は徐々に汚れていった。暗黒のクレヨンで。
 武藤に“は”謝らなかった。絶対に謝りたくなかった。
 テーブルの上のベタベタになった黒い絵を悲しい顔で見つめている武藤を見下ろして、俺が彼女に投げ付けた言葉は確か————


「フン! よりにもよって太だなんて!! 
 あんなデブで、ブサイクで、足遅くって……乱暴なやつのドコがいいんだよ!! 
 あんなのがイイだなんて、なみちゃんって、やっぱりおかしいよね!!」

『拳銃に込めたままの想い』 ( No.89 )
日時: 2013/12/09 08:22
名前: ゆかむらさき (ID: siKnm0iV)

 ————その日以来、彼女の家には行かなくなった。……っつーか、行きたくなかった。
 会えば毎度の様に聞かされる太の話。そんなに好きなのなら潔く自分で気持ちを伝えりゃあいいのに(まぁ、あいつにそんな大胆な事なんてできやしないとは思うが)、遠回しに“俺になんとかしてくれ”みたいな事を言ってきやがって。いちいちそんな事なんかしなくたって、あいつは……太は……。
 俺は今までずっと見るのが苦痛なために、“あの時”から一度も開ける事の無かった机の引き出しをゆっくりと開けた。
 引き出しの中から出てきた黒いモノ————それは本物そっくりに作られたのおもちゃの拳銃。
 太のやつも、あいつ……高樹のような金持ちのボンボンだった。
 この拳銃は海外を渡り仕事をしている彼の父親からのお土産だそうで、本当なのかどうだか分からないが、ハリウッド俳優が映画の撮影で使っていたステージ・ガンらしく、とても希少価値なモノだと言って自慢していた。彼はそれを宝物のように大切にしていて、家からこっそり持ち出してきてはクドいくらいに何度も見せびらかされていた。
 武藤の隣の家に住んでいる、という事で、どうやら彼に嫉妬をされていたらしく、しょっちゅう俺はつっかかれていては、バカにされていた。


 こんな太の事を好きだなんて。
 こんなやつと、あんなに“かわいい”なみちゃんが好き同士、だなんて————!


『太なんか、いなくなっちゃえば、いいのに』
 幼稚園で彼の姿を見かける度にそう思っていた。……100回は思った。
 すると本当に彼は俺達の前から姿を消す事になった。
 小さな頃の記憶だから何という名だったのかはもう忘れてしまったが、海外の島に突然引っ越す事になったのだ。
「今までいじわるばっかりして、ごめんな……」
 別れ際に俺に謝り、太は拳銃を出した。
「これ、あの子に……なみこちゃんに、渡して……」
 小さな声で俺に耳打ち。あの太が、気色悪くも顔を真っ赤にして。
 あんな図体をしていながらも、自分で手渡す勇気がなかったのだ。
 自分の一番大切にしているものを贈る……それほど武藤の事を大切に想い、恋焦がれていたのだろうか。
 コレを言っては自慢になってしまうが、容姿、(表向きの)性格から、明らかに彼よりも俺の方が上回っていた。きっと太は、“武藤が俺の事を好いている”とでも勘違いしていたのだろう。
 しかし、よりにもよってそんな大切な伝言を俺に頼むだなんて……バカな奴だ。
「わかった。元気でね……」
 笑顔を見せて彼の手から拳銃を受け取り、俺は心の中で返した。


『おまえなんかに、なみちゃんは————“あげない”』


 今まで散々彼にムカつく事をされた復讐として最後に一発カマしてやった。
「ふーん。もしかして太くん、なみちゃんのこと、すきなの?」
 ————と。
「好きじゃない!!」太の奴はさっきよりもさらに顔を沸騰させやがってヘンな走りかたで去っていった。 
 海外まで引き離されれば、おそらくそう簡単にはひっつく事はできない。そのうちに段々と武藤の心から太の存在が消えていくに決まっている。 
 この拳銃を武藤に渡さなければ————ぼくの勝ちだ。
 しかし、どうして好きなのに“きらい”だなんて逆のことを言うのだろう。あの頃は太を見てそう思っていた。


 自分が今、彼と同じ事をしているのに。


 きっと相手が“武藤”だから認めたくないんだ。もっと美人で頭が良くてグラマーならともかく、あの武藤なんだもんな。
「ふっ」
 今になって太の気持ちが身にしみてよく解る。
 俺は走らせていたペンを止めて、大きく深呼吸した。
 これで最後、だな……。


 ・和訳しなさい。
 I want to spend the rest of my life with you.
(                                      )。
 ※分からない単語は辞書で調べろ。


 “応用問題”と見せかけて、最後に俺が作ったオリジナル問題を紛れ込ませた。
 絶対に俺の方から気持ちを打ち明ける、なんて事はしたくなかったのだけども、もう我慢できない。
 どうなるか……。彼女にこの問題を解かれたら俺の負けだ。
 俺の“告白”問題の下に“頑張れよ”のメッセージ、その脇にあまり俺は見た事のない武藤の笑顔を想像しながら、俺なりに精いっぱい可愛く描いたつもりのスマイル・マークのイラストを添えたノートを閉じ、ベランダに立って大きく伸びをした。


 武藤はまだ帰ってきていない。
 もう4時過ぎじゃねえか……。
 この時期は日が落ちるのが早い。
 空は暗くなり、街灯が点いた。
 明日は学校があるし、まさか高樹と一夜を明かす、なんてコトはしないとは思うが、こんな時間になっても帰ってこないで一体何をしているんだ、あいつは————
 黒い雲が空を覆う。
 扉を押し開け、部屋から出た俺は、階段を駆け降りた。


『あたしのこと、高樹くんの自由にしても……いいよ』
『ちゃんと“いく”から、優しくしてね、“高樹くん”』


 俺好みのフリッフリのピンク色のベビードールを身に着けた武藤の姿が頭の中に浮かび出す。……っつーか、最初のヤツは、この前、徳永さんに酷い事を言ってしまった罰なのか。
 やっぱり、童話“北風と太陽”と同じ結末を迎える運命なのだろうか————


     ☆     ★     ☆


 慌てて家を飛び出したはいいが、武藤の行き先が分からない。
「何やってんだ、俺……」
 そばにある電信柱を思いっきり蹴りつけ、歯を食いしばって祈る。


 武藤……。高樹のところになんか行くんじゃねぇよ……。


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