複雑・ファジー小説
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- 〜闇の系譜〜(外伝)
- 日時: 2021/04/16 00:38
- 名前: 狐 (ID: WZc7rJV3)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16085
皆さん、こんにちは!銀竹と申します。
ここでは、『〜闇の系譜〜』の小話をちょこちょこ書いていきたいと思います。
完全に狐の遊び場と化していますが。ご容赦下さい(笑)
もし物語に関するご要望等あれば、ぜひ仰って頂けると嬉しいです(*´▽`*)
〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!
…………………………
ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-300
†登場人物紹介・用語解説† >>1←随時更新中……。
『三つ編みの』 >>2-3 >>5-11
──トワリスの三つ編みの秘密に迫る……!
『おまじない』 >>12-13 >>15 >>17-21
──なんとかは風邪を引かないと言いますが、ユーリッドは引きましたね。意外です。
『忘却と想起の狭間で』 >>22-27 >>30-31
──外伝ですが、結構暗い内容です。しょんぼりアドラさん。
『悪魔の愛し子』取り下げ
──なんとかは風邪を引かないと言いますが、ルーフェンは(略)。
『ずるい人/卑怯な人』取り下げ
──ファフリもトワリスも、物好きだなとよく思いますw
『赤ずきん』 >>94-95
──ずっとやりたかったパロディーもの。とにかく下らないです。ただの狐の自己満足です。
『酩酊』取り下げ
──真面目な人ほど、酔うと面倒くさいよねっていうお話です。
『とある魔女の独白』 >>116-118
──サーフェリア編を最後まで書いて、そのあとにこれを読んだら、また見方が変わるんじゃないかな……という願望(笑)
『桃太郎』 >>126-128 >>130-132 >>135-137
──これまたすごくどうでもいいパロディーもの。ちょっと汚らしいので注意ですw
『シンデレラ』 >>138-140 >>142-156
——リリアナさん初出演のパロディーもの。本編とは全くの別物です!(笑)
『光』 >>157 >>159-170
——オーラントとその妻、ティアの出会いから別れまでを描いた物語。
『不思議の国のアーヴィス』 >>172-184
——ツインテルグ編の主人公、アーヴィス初出演のパロディもの。
本編には出てきていない登場人物ばっかりなので、完全に作者の自己満です。
『〜闇の系譜〜座談会』
──ひっどい内容です(笑)世界観をぶち壊す発言、登場人物のキャラ崩壊が満載ですので、閲覧注意。
【第一回】オーラント×トワリス
「アドラ生存ルートの可能性について」 取り下げ
【第二回】ルーフェン×ハインツ
「ミス・闇の系譜は誰だ」 取り下げ
【第三回】ジークハルト×リリアナ
「応援歌を作ろう」 取り下げ
【第四回】ユーリッド×半本とどろき(ゲスト)
「世界線を越えて」 >>141
【第五回】カイル×ロクアンズ・エポール(ゲスト)
「世界線を越えてⅡ」 >>158
【第六回】サミル×クラウス(ゲスト)
「世界線を超えてⅢ」 >>171
【第七回】リリアナ(+α)×成葉&慶司(ゲスト)
「世界線を超えてⅣ」 >>185
登場人物の掘り下げ
ジークハルト・バーンズ >>187
サミル・レーシアス >>188
……………………
【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。
【現在の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?
【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。
…………………
基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy
【頂き物】 >>16 >>53 >>98 >>99
……お客様……
夕陽さん
ヨモツカミさん
蓮佳さん
まきゅうさん
亜咲りんさん
ゴマ猫さん
【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.183 )
- 日時: 2019/11/01 17:57
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
「話を遮っちゃって、ごめんなさい。ただ、ちょっと気になることがあって……」
「気になること?」
「はい。その……大したことじゃないんですけど……。さっきからシャラレアさんが言ってる“被害”って、一体なんのことかなぁって思いまして……」
シャラレアの目が、怪訝そうに細められます。
向けられた敵意に、アーヴィスは慌てて首を振って、言い募りました。
「あっいや……僕、部外者だから、あんまり突っ込んだことを言うのは気が引けるって言うか、申し訳ないんですけど……。その、ミドロさんを殺そうなんて言い出すほど怒ってるみたいだから、一体どれほどの被害を受けたのかなぁって……」
控えめな口調で言いながら、アーヴィスは、シャラレアの表情を伺います。
シャラレアは、そんなアーヴィスのことを、しばらく警戒したように眺めていましたが、やがて、彼の弱々しい態度を見て、気にするまでもないと思ったのでしょう。
ふんっと鼻をならすと、答えました。
「それはもちろん、誇りを傷つけられたのじゃ! 今回、城の庭園は妾にも託されていた。故に、赤薔薇を冠する我が一族の名誉と誇りにかけて、あの庭を美しく彩ろうと努力してきた。それをこいつが、白薔薇まみれに──」
「努力してきた? あの庭を管理してきたのは、ミドロさんなんですよね?」
ぴくりと、シャラレアの眉が動きます。
彼女の言葉を遮り、微かに目を細めると、アーヴィスは言い募りました。
「赤薔薇を植えるように言われただけで、まだ植えてなかったんだから、貴女は何もしていないはずですよね? 貴女は、一体どんな努力をして、どう誇りを踏みにじられたんですか?」
シャラレアの顔が、みるみる怒りで赤くなっていきます。
だんっ、と床を踏み鳴らし、ミドロを指差すと、シャラレアは声を荒げました。
「そ、それだけではない! そもそも、前々から目障りだったのじゃ! このように醜く、大した魔力も持たぬ精霊風情が、目に入るだけで不愉快というもの! この城に仕えて良いのは、精霊王に選ばれし由緒正しき血族のみだというのに!」
「……と、いうことは、ミドロさんは、王様に選ばれた一人だったってことなんじゃないんですか?」
「な、なんじゃと?」
シャラレアが、髪を逆立てて怒鳴れば、気圧された様子で引くものの、アーヴィスは、決して反論をやめません。
言葉を詰まらせたシャラレアに、アーヴィスは、力の抜けるような笑みを向けました。
「その話の持っていき方は、苦しいですよ。本心は、そうじゃないでしょう? 貴女はずっと、ミドロさんのことが羨ましかったんだ。だから、その地位を貶めたくて、実害を受けたわけでもないのに、アイアス殿下に便乗して騒ぎ立てた」
シャラレアの眉が、きっと吊り上がります。
ぴくぴくと口元をひきつらせながら、シャラレアも、負けじと笑い飛ばしました。
「はっ、羨ましい? 何故妾がそのようなことを思わねばならぬ。ミドロなど、妾の眼中にはない。グレアフォール様のお情けで、この森に置かれている下等な精霊……その程度の認識じゃ。いてもいなくても、そんなことはどちらでも良い」
アーヴィスは、肩をすくめました。
「お情けで置かれているだけのはずなのに、庭園の管理を任されたのは、貴女ではなくミドロさんだった。どうしてなんでしょうね」
途端、シャラレアの瞳の色が、薔薇の色から、血のようなどす黒い赤に染まっていきます。
その目には、あと少しでも触れれば、切れてしまいそうなほどの憤怒が揺蕩っていました。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.184 )
- 日時: 2019/11/05 18:21
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
戸惑うミドロに視線を向けてから、アーヴィスは、シャラレアに頭を下げました。
「すみません、僕みたいな人間が口を出して、貴女を傷つけるつもりはないんです。ただ、このままだと真実がなあなあになって、ミドロさんが不当な扱いを受けてしまいそうだったから……そうなるくらいなら、と思って。貴女は、庭師の座が羨ましかったんでしょう? だから、ミドロさんに嘘をついたんですよね。赤薔薇を白薔薇と伝えて、ミドロさんが失態を犯すように仕向け、その地位から引きずり下ろそうとしたんです」
「うっ、うるさいうるさい!」
シャラレアは、目を光らせて怒鳴りました。
まるで獰猛な獣のような目付きで、アーヴィスのことを睨み付けます。
「何故そんなことがお前に分かると言うのじゃ! でたらめを言うでない! 先程から聞いておれば、偉そうな口を叩きおって! 醜悪な人間風情が!」
アーヴィスは、困ったように頭の後ろをかきました。
「うーん……分かるんですけど、なんて説明したら良いか。でもこれって、調べたらすぐにはっきりすることじゃないですか? ほら、だってこの国の木々は、その一本一本が精霊で、監視の役目を果たしているんでしょう?」
「それがなんだというのだ」
「うん、だから、彼らは聞けば、簡単に分かるはずですよね。シャラレアさんが、ミドロさんに嘘を吹き込んでいたのかどうか。……実際、このお城に来る途中で、僕、木の精霊たちから聞いちゃったんです」
「は!? そんなはずはない! 妾は、ちゃんと精霊たちを追い払って──」
言ってから、シャラレアははっと口をつぐみました。
今まさに、ミドロに嘘をついたと言う証拠を、自分自身で吐き出してしまったと気づいたからです。
真っ赤だったシャラレアの顔面が、どんどん蒼白になっていきます。
アーヴィスは、唖然としているアイアスに、にこりと笑みを向けて、言いました。
「──だ、そうですから、アイアス殿下。ミドロさんの打ち首に関しては、取り消して頂けますよね?」
周囲の注目が、再びアーヴィスに集まります。
アーヴィスは、ようやく頷いたアイアスを見て、笑みを深めたのでした。
無事に無罪を証明し、解放されたミドロは、涙ながらにお礼を言って、何度もアーヴィスに頭を下げました。
一方のシャラレアも、兵士に連れられて王座の間を出ていきましたが、牢に入れられるだけで、数日後には釈放されることになりました。
騙された張本人にであるミドロが、厳罰に処するほどの罪ではないと、シャラレアをかばったからです。
冤罪を晴らすためとはいえ、シャラレアを死刑にまで追い詰めるつもりはなかったので、その結果を聞いて、アーヴィスも、ほっと胸を撫で下ろしたのでした。
アイアスは、兵士たちに持ち場に戻るように告げると、罰が悪そうな顔で、アーヴィスに話しかけてきました。
「その……すまなかったな。私も些か、冷静さを欠いていたようだ。貴様が止めてくれなければ、私はこの手で、ミドロの首を跳ねていたやもしれん」
もごもごとした口調で、アイアスは謝罪します。
アーヴィスは、いばらに縛られたまま立ち上がると、首を横に振りました。
「い、いえ……こちらこそ、好き勝手発言してしまって、すみませんでした」
遠慮がちに謝り返すと、横合いから、ビビがひょこりと顔を出しました。
「お兄ちゃんはともかく、君は謝ることないよ。ありがとね! あたし、ちっちゃい頃、ミドロにはよく遊んでもらってたし、もしこのままミドロが殺されちゃったらどうしようって、結構焦ってたんだ」
アーヴィスは、肩をすくめました。
「ううん、そんな大したことはしてないよ。まあ、僕もついでに殺されそうな勢いで、焦ってたし……。ビビのお役に立てたなら、良かった」
ビビの明るい笑顔につられて、アーヴィスも、思わず笑顔になります。
しかし、その実、時間が経つにつれ、身体に食い込んでくる茨のトゲが痛くて、だんだん余裕がなくなってきました。
アーヴィスは、もぞもぞと身動ぎしながら、アイアスに向き直りました。
「あ、あの……ところで、この茨、そろそろとって頂いても良いですか……? なんか徐々にきつくなっているような気がして、痛くて……」
アイアスが、不思議そうに瞬いて、首を傾げます。
アーヴィスが、真似をして首を傾げると、アイアスはふと真顔になりました。
「何を言っている。我が妹を呼び捨てにした罪は消えていないぞ。お前は死刑だ」
「……へ?」
言われていることが理解できず、アーヴィスは硬直します。
アイアスは、構わずアーヴィスの頭をがしっと掴むと、そのまま腕に魔力を込め始めました。
「せめてもの情けだ、苦しまないよう、一撃
で逝かせてやろう」
「えっ!? ちょっ、ビビ! 助け──」
ビビに救いを求めようとする声も虚しく、次の瞬間、アーヴィスの意識は、闇の中に落ちました。
アーヴィスの全身は、まるで夜の海に放られたように、巨大な波に呑まれ、浚われるまま、みるみる流されていきます。
息ができず、苦しくて手を伸ばすも、掴めるものは、何もありません。
やがて、見えない力に引っ張られ、上へ上へと上がっていくと、その時、ようやく顔が水面から出ました。
「──ぷはっ!」
飛び上がるようにして起きると、アーヴィスは、胸を押さえてよろめきました。
慌てて辺りを見回しますが、暗い海などなく、目の前に広がっているのは、広大な草原と、のんびりと草を食む牛たちの後ろ姿です。
アイアスもビビも、ミドロもシャラレアもいません。
アーヴィスは、放心したまま、ぱちぱちと目を瞬かせました。
(……夢?)
自分の手のひらを見つめ、もう一度、目の前にいる草原と牛たちに視線をやります。
そういえば自分は、牛の放牧に来ていたのでした。
放牧中に、草の上に寝転がったら、なんだか眠くなって──それから、何があったのか。
いまいち、よく思い出せません。
不意に近づいてきた牛の鼻面を撫でると、牛は、片足で地面をかき、頭を振って、アーヴィスの手を払いのけました。
どうやら、気にくわなかったようです。
(……なんか、すごい夢を見てた気がするなぁ)
アーヴィスは、ふうっと息を吐くと、再び草の上に仰向けに倒れました。
思い出そうとすると、はっきりとは浮かびませんが、なんだか随分と長い夢を見ていた気がします。
楽しかったような、楽しくなかったような、そんな不思議な夢です。
寝転がった拍子に、懐から、何かがこぼれ落ちました。
じゃらりと、金属の擦れるような音がして、それは地面に落下します。
手探りで拾い上げ、それが金の懐中時計であったことに気づくと、アーヴィスは、大きく目を見開いたのでした。
………………
ツインテルグ編の主人公、アーヴィスとビビを引っ張り出してきたパロディものでした。
ツインテルグに関しては、まだほとんど本編で触れてませんので、登場人物みんな誰だよって感じですよね(笑)
私が単にアーヴィスってこんな子だよっていうのを書きたくて、外伝に載せてみただけです。
読者さん置いてけぼりで申し訳ない(^_^;)
次はジークハルトとアレクシアの話か、アラン(サミル兄)とシルヴィアの話あたりでも書こうかなーと思います。
とりあえず、サーフェリア下がきりのいいところまで行ったら。
あと、こんなところでなんですが、サーフェリア下が銀賞頂きました!
いつもありがとうございます(*^^*)
ではでは、またの機会にー!
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.186 )
- 日時: 2020/05/20 18:11
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: 8NNPr/ZQ)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19613
〜闇の系譜〜座談会⑥
『世界線を越えてⅣ』
リリアナ「皆さんこんにちは! 小料理屋マルシェの看板娘こと、リリアナ・マルシェよ! 今回の座談会は、いつもよりゲストの人数が多いから、前置きはなしで、早速始めていっちゃうわね。それでは、ゲストのお二人、お入りくださーい!」
成葉「よろしくお願いしますー! ヒノクニの主人公こと雪丸成葉です。うおーっ、本物のリリアナちゃんや……!」
慶司「てめぇ自分で主人公とか言うかよ……」
成葉「自己紹介は必要でしょーが! というか雪ちゃんも名乗りなよ。あ、こっちの目付き悪いのがわたしの兄こと雪丸慶司です。よろしくね!」
慶司「おい」
リリアナ「うふふ、成葉ちゃんと慶司さん、今日はよろしくね! 私、二人に会えるの、とーっても楽しみにしてたのよ! 今日はお話ついでに、ヒノクニの伝統料理を私に伝授してくれるって聞いたのだけど……一体どんなお料理なのかしら!」
成葉「はいはい! 今日作る料理はブリ大根でございます」
慶司「嬢ちゃん本当にコイツに教えてもらっていいのか? 教師変えた方がいいと思うが」
成葉「雪ちゃんは静かにして!」
リリアナ「ブリ? 大根……? 大根は知ってるけど、ブリは聞いたことないわね。でも闇の系譜の世界には魔法があるから、知らない食材でも用意しちゃう! えいっ」
(白煙と共に現れるブリ大根の材料)
成葉「さっすがリリアナちゃんや! では、早速作っていきましょう。まずはしょうがと醤油、酒、味醂、ブリと大根を用意……」
慶司「……! おいクソガキ、避けろ!」
成葉「ゑ?」
(突如窓から入り込んだキツツキが材料を強奪!)
リリアナ「きゃーっ! 大変! ど、どうしましょう、ブリが取られちゃったわ! お願い、成葉ちゃん、慶司さん、これ以上経費落ちないの! ブリを取り返してきて!」
慶司「魔法って経費制だったのか」
成葉「んなこと言ってる場合かーっ! 任せてリリアナたん! キツツキから奪い返してくるよ!」
〜キツツキが飛んでいった森〜
成葉「雪ちゃん! あれ……!」
(巣に持ち帰ったブリを雛に与えているキツツキ)
慶司「あのキツツキ、母親だったのか……」
成葉「……雪ちゃん……」
慶司「近くに海があるだろ。さっさと別のブリを釣って嬢ちゃんのとこ戻るぞ」
(リリアナのところに戻ってきた兄妹)
成葉「ただいまリリアナちゃん! おまたせ! さあ、料理教室を再開しよ」
リリアナ「おかえり二人とも! よかった、無事にブリを取り返し──……え、な、なんか大きくなってるような……」
(視線を逸らす慶司、そして成葉は推定200キロあると思われるマグロを抱えていた)
成葉「う、ん。確かに、大きいけど同じ魚だから大丈夫サ。ただメニュー変わるだけ」
慶司「ブリじゃなくてマグロだろうが……」
成葉「それでは! 気を取り直してマグロ漬け丼でお送り致します!」
慶司「やっぱ嬢ちゃん人選間違えたんじゃねぇか?」
リリアナ「ま、まあ、細かいことは気にしちゃいけないわよね! よし、それじゃあ成葉先生! まずは何をしたら良いですか!」
成葉「雪ちゃんがマグロを解体している間に、付け汁を用意しましょう。醤油大さじ3、みりん大さじ2、酒大さじ1を混ぜ合わせていきます! ちなみにこの分量は一人分です。うまく調整して行きましょう」
(デカイノコギリでマグロの解体に臨む慶司)
リリアナ「ふむふむ、醤油にみりんにお酒、と……。できたわ! ──って、わぁ、慶司さんすごいわ! あんなに大きな魚を短時間でさばいちゃうなんて! やっぱり男の人って力持ちね!」
成葉「いやいやでもね力がありすぎるのも考えもんだぜ? 今朝なんか寝ぼけてわたしの頭鷲掴みにしたんだけど! ありえないっしょ。あ、そして先ほど解体したマグロを付け汁につけて、冷蔵庫にて30分ほど冷やします」
リリアナ「はーい! そしてやっぱり闇の系譜の世界には魔法があるので、30分早送りしちゃいまーす! えいっ」
成葉「リリアナちゃんすごーい!」
慶司「時間を操る魔法って禁忌じゃねえのか……」
成葉「かわいいからいいの! はい、こちらが30分経ったマグロとつけ汁です。次にどんぶりにごはんを盛り付けて全体的にきざみ海苔を撒き散らします!」
リリアナ「うわぁ美味しそう! だんだん完成形が見えてきたわね! ここに卵なんか落としたらもっと美味しくなるんじゃないかしら?」
成葉「ふふふふふ。お目が高いですな。卵は最後なのですじゃ。そして、しらすも全体的に乗せたら……」
慶司「マグロだな」
成葉「はいその通り。マグロを円を描くように乗せて、軽く大葉を乗せたら……その中央に卵をかけましょう!」
慶司「卵……おい! クソガキ!」
成葉「!? これは…!? でかい、でかすぎる。これは、ダチョウの卵……?」
リリアナ「い、いえ、違うわ! これ、さっきブリを拐っていったキツツキの卵よ! 道理であのキツツキ、異様に大きいと思ってたのよね……」
成葉「あのキツツキ!? でも何でキツツキの卵が……」
(またまた突如時速50キロで飛んできたキツツキ親子がどんぶりを持った慶司を掴み窓を突き破って外へ!)
リリアナ「きゃーっ! こ、今度は慶司さんが拐われちゃったわ! どうしましょう!? というか、この料理教室、ハプニングが多すぎね!?」
成葉「今度は親子でどんぶりを狙ってんだ……! このままだとどんぶりが危ない!」
(道を歩くルーフェンとハインツ)
成葉「そこの198センチのゴリラっぽい方と色素の薄い方ーっ! 雪ちゃんごとキツツキ親子を受け止めてーっ!」
慶司「おい悪口」
ルーフェン「──え」
ハインツ「うぐっ!?」
(ハインツの腹部に直撃するキツツキ親子)
慶司「……! すまねぇな兄ちゃん、乱暴な真似しちまった。だがキツツキも落ち着いたみてぇだ」
成葉「雪ちゃん大丈夫!? って、うおやば遠目だったからわかりにくかったけど、この国の召喚師さんとリリアナちゃんの旦那じゃん! そうだ! お二人とも! 突然ですが、キツツキを止めてくれたお礼に、どんぶり食べませんか! さっき作ったんです!」
慶司「……確かに人数分はあるが味見してねぇだろ」
ルーフェン「えーなになに? 君たち、見かけない顔だね?」
リリアナ「ルーフェン様! ハインツくん! もう細かいツッコミはなしよ! かくかくしかじかで、二人には是非、このヒノクニの伝統料理、マグロの漬け丼を食べてほしいの!」
ルーフェン「な、なるほど? かくかくしかじかね。で、そちらの女の子が成葉ちゃんか、可愛い名前だね。慶司くんもよろしくー」
成葉「かわいいだってー。えへへへへへ。ルーフェンさんも色白でうらやましちなーって思いますよ!」
慶司「世辞だろ」
成葉「わかってますよーだ! さ、リリアナちゃん! 人数分の(キツツキの)卵を割りいれよう!」
ルーフェン「じゃあ、なんかよく分かんないけど早速食べようか。ええっと、これはどうやって食べればいいのかな? 魚なの? これ」
慶司「兄ちゃんらの国には馴染みがねぇか? こっちの国の料理でな。魚の身を焼かずに調味料で味付けして食うもんだ。そのまま食っちまってもいい」
ルーフェン「そうなんだ、こっちには魚を生のままで食べる文化はないんだけど。まあ、折角だからそちらのおすすめの方法で食べようかな。頂きまーす」
リリアナ「ハインツくんには、私があーんってしてあげるね! はい、あーん」
ハインツ「…………」
慶司(顔色悪っ)
成葉「うん、上手い上手い! 我ながら上手く作れた……」
(突如輝くキツツキ)
キツツキ「皆さん、助けて頂いてありがとうございます。呪いが解け、伝説のキツツキに戻ることができました」
リリアナ「えっ、ええ!? その虹色に輝く尾羽……あなた、ブリとマグロを食べないと解けない呪いにかかっていたのね……?」
キツツキ「その通りです、素敵なお嬢さん。私はシル……いえ、美しくも恐ろしい魔女にただのキツツキにされていました。一日ほど。ですが、今は麗しきリリアナさんのお陰で元に戻ることができました」
リリアナ「そうだったのね……でも、運が良かったわ! ブリをとられちゃった時はどうしようかと思ったけれど、結果的に巡りめぐって伝説のキツツキさんが戻ってきてくれたんだもの! 記念すべき初の料理教室を祝して、漬け丼の次は焼き肉よ! えいっ」
(伝説のキツツキを炭火の上へ)
成葉「さっすがリリアナちゃん! 自然の弱肉強食を自然体で表してる! いただきまーす!」
慶司「照り焼きも上手いぜ」
リリアナ「本当、おいしいー! 途中でいろんな乱入があってどうなるかと思ったけれど、漬け丼も照り焼きも美味しかったから結果オーライね! それじゃあそろそろ、このお料理教室もお開きにしようかと思うんだけど、成葉ちゃんと慶司さん、何か一言いいかしら?」
成葉「うんうん! 大満足です。混乱はいつものことだけど結果は充分と言えますでしょう! 今日はとっても楽しかったですありがとー!」
慶司「コイツの言った通りよかったんじゃねぇのか? 飯も旨かったしな、万々歳だ」
リリアナ「ふふ、二人も楽しめたなら私も嬉しいわ! 是非また会って、御飯食べたりしましょうね! それでは皆さん、次の座談会で! ばいばーい!」
………………
はい、座談会⑥でした。皆さんいかがでしたか?(笑)
個人的には、今までにないアカン仕上がりになったなと思ってますw
今回来てくださったのは、複ファ板で『ヒノクニ』を連載なさっているルビーさんのキャラです(*´∀`)<URL貼ってあるから是非読んでね!
ルビーさんの作品は、私も昔から拝見していたのですが、一言で言うなれば『人類には早いギャグ』です(笑)
ギャグっていうと、ボケとツッコミがいるのが定石だと思うのですが、ルビーワールドではボケとボケがツッコミ合いながら猛スピードで駆け抜けていくので、こちらは成す術もなく見送ることしかできません……後はじわじわ腹筋を駆逐されていくだけです。
今回の座談会でも、ヒノクニの紹介をしようと思ってたのに、いつの間にかキツツキの話になっていて(※ヒノクニにキツツキは出ません)、書き終えてからルビーさんと「あれ……?」って困惑していました(笑)
まあでも、これでルビーワールドとはなんたるか、皆さんに伝わったかなとw
ルビーさんは小説も漫画も書ける秀逸なギャグセンスの持ち主なので、是非皆さんもルビーワールドに浸って新人類へと進化を遂げてください(笑)
それでは、またいずれ!
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.187 )
- 日時: 2021/02/23 19:34
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)
本編ではルーフェン、トワリス視点が多く、掘り下げきれないキャラ設定が沢山あるので、ちょっとずつ文章化して載せていきたいと思います。
範囲は一応ミストリア編〜サーフェリア編に関連する辺りで。
本編では漢数字のところ、数字になってますが、お気になさらずー!
………………
ジークハルト・バーンズ
サーフェリア編上巻:14歳
サーフェリア編下巻:21歳
ミストリア編:26歳
ジークハルトの父、オーラント・バーンズは天才だった。
かつて、魔導師とは、充実した教育・訓練と安定した資金援助を受けられる上層階級の人間が就くものであったが、オーラントは、地方の貧しい平民出にも拘わらず、あっさりと入団試験に合格し、その後、史上最年少の26歳という若さで宮廷魔導師に抜擢された。
オーラントは、正義を掲げるのに身分差は関係ないと、身を以て証明した第一人者だったのである。
そんな父に、何故魔導師になったのかと尋ねると「だって格好良いじゃん」という、なんとも薄っぺらい答えが返ってきた。
ジークハルトは、父の技量を尊敬していたが、その飄々とした態度は好きではなかった。
11歳になった年、ジークハルトは魔導師団に入団し、飛級をして14歳で正規の魔導師に昇格した。
彼のことを、世間は父の名に恥じぬ天才だと称賛したが、ジークハルトは決して天才ではなかった。
一度見た魔術をすぐに再現できるような、優秀な魔導師は他にも沢山いたが、ジークハルトには、そういった特別な才能は何もない。
ただ、並々ならぬ努力で、そういった天才気質の者たちを追い抜かして来たのであった。
怠惰な者たちが、ジークハルトのことを「お前は才能があるから」の一言で片付け、白けた目で見るようになっても、そんなことは気にならなかった。
腹を立てている暇があるなら、少しでも多く魔術を覚えたかったし、特別な才能はなくとも、自分は努力で天才に勝てると信じていたのだった。
サーフェリア歴1488年、シュベルテの王位継承者たちが、連続して不審死を遂げた年。
父、オーラントが呪詛を受け、片腕を失った。
父の命をすんでのところで救ったのは、当時ジークハルトと同じ14歳だった召喚師、ルーフェン・シェイルハートであった。
ルーフェンは、オーラントに呪詛をかけたのは前召喚師シルヴィアだと言い、王位継承者たちの死も全て、元凶はあの女だとして、次期国王候補であった彼女を、その地位から引きずり下ろそうと画策しているようであった。
ジークハルトは、父の命を救ったルーフェンに対し、感謝をしていたが、同時に、今までに感じたことのない苛立ちを覚えた。
仮にも国の窮地に、他人の生死ごときで一喜一憂しているルーフェンを見て、怒りのようなものを覚えたのだ。それは、圧倒的な力差を前にした、否定しようのない嫉妬でもあった。
ルーフェンとジークハルトの間には、努力ではどうにもならない、大きな壁があった。
国に一人だけの召喚術の使い手、生まれつきの守護者という称号──ルーフェンは、そこらの天才とは比べ物にならないほど、多くのものを生まれ持っている人間であった。
ジークハルトは、父が死ぬかもしれなかった事態を、軽んじているわけではない。
だが、オーラントは、元が死の危険を承知で魔導師になった人間である。
そういう人間に対し、いちいち感情を動かして、その負傷を嘆いているような甘い人間が、自分達の上に立つ召喚師であったのかと思うと腹が立った。
ルーフェンは、悲嘆に暮れている時間があるならば、国の端から端まで飛んで、誰かを救うことができる人間だろう。
彼には、それだけの力と地位がある。
いくら努力をしたって、誰も追い付けないような強さを持っているくせに、ルーフェンは、まるでそんなものには興味がないといった様子で、足踏みをしている。
彼のことが、ジークハルトは気に入らなかった。
そんなジークハルトの価値観に一石を投じたのは、任務先で出会った、蒼髪の少女であった。
アレクシアと名乗ったその少女は、特殊な透視能力を持っていた。
ジークハルトは、彼女の能力を唯一無二の素晴らしいものだと思い、自信を持つべきだと伝えたが、すると「なんて無神経な男なのか、お前のような奴には何も分からない。一度死んで脳みそを入れ換えてきたらどうか」などと、とんでもなく罵倒された。
アレクシアは、自分の能力を疎んでいるようだった。
事実、彼女はそれが原因で肉親を失い、その後、引き取られた先でも奇異の眼差しに晒されているようであった。
特別なものを持っている人間を、ジークハルトは羨ましいと思う。
だが、それ故に周囲から敬遠され、深い孤独を抱えてしまうことも、特別な人間の宿命なのかもしれない。
類稀な力は、周囲には羨ましく映っても、本人にとっては必ずしも良いものではない。
そう思い至った時、ジークハルトの頭に浮かんだのは、ルーフェンの顔であった。
ひたすら実直に、魔導師として任務に取り組み続けたジークハルトは、20歳になった年、宮廷魔導師に選出された。
天才だった父の最年少記録を、大幅に塗り替えての大抜擢であった。
常に慢心せず、現状に満足するべきではないと己に言い聞かせてきたジークハルトであったが、この時ばかりは、自分が誇らしかった。
元は凡才でも、自力で磨き上げてきた技量は、十分に通用するものなのだと、世間に認められたような気がしたのだ。
その頃、召喚師ルーフェンは、遷都先であるアーベリトに移籍していたため、シュベルテにはいなかった。
中には、それに対し不満を言う者もいたが、ジークハルトは、彼にも彼なりの信条があってアーベリトで過ごしているのだろうから、それで良いと考えていた。
そもそも、確かに召喚師は特別な存在だが、だからといって、国の守護をルーフェン一人に押し付けようと言うのが、土台おかしな話だったのだ。
ルーフェンも、そういった周囲からの圧力があって、己の立場に嫌気が差してしまったのだろう。
召喚師がいないのであれば、魔導師団が代わりに中心となって、サーフェリアを護ればいい。
自分たちにだってその力はあると、ジークハルトは確信していたのだった。
サーフェリア歴1495年、21歳になった時、ジークハルトの人生は大きく変わった。
軍事都市セントランスによりシュベルテが襲撃され、長年王宮に仕えてきた魔導師団や世俗騎士団が、壊滅状態に追いやられたのだ。
最前線で戦った者は大半が殉職し、今までシュベルテの中枢を担ってきた要人も多く亡くなった。
宮廷魔導師も、運良く生き残ってしまったのは、ジークハルトだけであった。
宣戦布告をしたセントランスは、ルーフェンの手によって没落されられたが、この時から、新王サミルの治世が軋み始めていたのだった。
崩壊寸前のシュベルテにて、新たに政権を握ったのは、反召喚師派であるイシュカル教会であった。
ルーフェンがアーベリトに移った近年、着々と勢力を拡大させつつある教会であったが、その大司祭を勤めるモルティス・リラードが、要人が亡くなった今が好機とばかりに、台頭してきたのである。
教会は、世俗騎士団に代わる修道騎士会を設立し、戦災に喘ぐ人民の救済を行い、見る間に民意を勝ち取った。
彼らの独裁を防ぐべく、ジークハルトは魔導師団の蜂起に動くが、偉大なる女神イシュカルを掲げ、城まで占拠した教会の勢いに、太刀打ち出来なかった。
結局、人という生き物は、強力な何かにすがらねば、不安に押し潰されてしまうのだろう。
教会の台頭は、言わば、不安定な情勢に追い詰められた人々が、すがる対象を召喚師から女神像に切り替えた結果であった。
生き残った騎士や魔導師達も、次々と団を離反し、教会側に寝返った。
純粋に強さを追い求め、一心に走ってきたジークハルトの後ろに着いてきていたのは、気づけば、ほんの一握りだけになっていた。
魔導師になったアレクシアが、自分達が魔導師団を変える時なのだと声をかけてきたが、ジークハルトは、すっかり自信を失くしてしまっていた。
自分では、人々の心の拠り所にはなれない。ジークハルトは、召喚師の代わりにはなれないと、この時、痛感したのである。
国王サミルが崩御し、次期国王の選定について話すため、ルーフェンが前王太妃を訪ねて来た時。
ジークハルトは、シュベルテに戻ってくるようにと、ルーフェンに願い出た。
「俺では駄目なんだ、今のシュベルテには、召喚師一族の力が必要なのだ」と。
しかし、ルーフェンは頷かなかった。
世間が反召喚師の流れに沿っているならば、このまま召喚師制を無くすべきだというのが、彼の意見だった。
その言葉の意味を、ジークハルトは、後に知ることになる。
前召喚師シルヴィアによって没された王都アーベリトにて、新興騎士団(修道騎士会)を前にルーフェンが見せたのは、禁忌にも等しい、恐ろしい召喚術の姿だったのだ。
召喚術というものの根源、その在ってはならない、秘匿とされてきた真実に気づき、ルーフェンは、自分の代を最後に、召喚師一族は廃すると心に決めてしまったようだった。
サミル・レーシアスの治世が終わり、バジレットが王座について、ルーフェンは、召喚師として再びシュベルテに戻ってきた。
教会と並び、魔導師団の建て直しに奔走したジークハルトは、やがて、宮廷魔導師団の団長に就任した。
若き立役者として評価されての着任であったが、そこに誇れる自分はいないような気がした。
ジークハルトは、ただ遠くを見据えて歩いていくルーフェンの後ろ姿を、黙って眺めていることしかできなかった。
それから5年が経った、サーフェリア歴1500年。
この年に初めて、サーフェリアは、他国ミストリアの獣人と接触することになる。
度重なる獣人の襲来に、売国奴の疑いをかけられた半獣人の宮廷魔導師トワリスが、ミストリアから、次期召喚師を連れ帰ってきたのだ。
獣人に対する不信感が募る中で、ルーフェンは、ミストリアの次期召喚師一行を、処刑したように見せかけることで生かした。
教会の目を潜り抜けるための、その場しのぎかと思っていたが、彼にしては、随分と粗が目立つ方法であった。
このままでは、いずれ誰かがミストリアの次期召喚師が生きていることに気づくだろう。
そうなれば、ルーフェンは罪に問われることとなる。
だが、それ自体が、ルーフェンの狙いなのかもしれないということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
彼は、召喚師一族を廃する理由を、自ら作ろうとしている。そうして、召喚術を己と共に葬り去る機会を、淡々と伺っているのだ。
幼い頃から信じて、突き進んだ先に、ジークハルトの望んでいたものはなかった。
正義とは、正しい義などではない。
人の想いと共に時代は変わり、その時代の流れを掴みとったものが、一時だけ正義と呼ばれるようになるのだ。
ジークハルトは今も、道に迷っている。
見据える方向が定まらないまま、無様に泥を掻いて、もがきながら進もうとしているのだった。
To be continued....
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.188 )
- 日時: 2021/03/03 20:27
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)
サミル・レーシアス
サーフェリア編上巻:47〜53歳 下巻:60歳
後にサーフェリア国王となるサミル・レーシアスが、アーベリトの12代目領主に就任するまで、一体どのような人生を歩んできたのか。その経歴を知る者は、ほとんどいない。なぜなら、若い頃の彼は、一箇所に止まらぬ奔放な生活をしていたからだ。
サーフェリア歴1252年、初代領主ドナーク・レーシアスの慈善活動の功績が認められ、時の王に爵位を授けられたレーシアス家。彼らが治める医療都市アーベリトは、いつの時代も資金繰りに悩まされ、長年苦汁を舐め続けてきた。レーシアス家は、元が平民出であることから、他貴族からの風当たりが強く、また、彼らの先進的すぎる医療技術は、当初世間に受け入れられづらかったためである。故にレーシアス家は、唯一融資を申し出ていた王都シュベルテからの資金援助を切られぬよう、慈善事業を続ける傍ら、常に限られた期間、予算の中で医療魔術の研究成果を上げてこなければならなかった。そんな凄まじい重荷を背負わされ、潰れてしまった医術師も、歴代領主の中には多くいただろう。しかし、そんな周囲からの期待と重圧を跳ね除け、前例にないほど大きく名を挙げて見せたのが、11代目領主のアラン・レーシアス——サミルの兄である。アランは、20代の頃から次々と革新的な医療魔術を打ち出し、寝る間もなく研究に没頭して、王宮勤めの宮廷医師ですら匙を投げるような難病の治療法を、いくつも確立させた。まさに、医療魔術の先駆者と呼ばれるのに相応しい人物だったのである。
一方、弟のサミルは、研究分野ではほとんど無名の医術師であった。父に倣って勉学に励み、医術師という職に誇りは持っていたが、サミルは、兄のようになりたいとは思っていなかった。若い頃のサミルは、援助を打ち切られたくないという媚びるような気持ちで成果を出し、現場にも出ずに机に齧り付いていることが、医術師の本懐ではないように思えたのだ。勿論、研究者がいてこその現場であり、兄のアランが、不純な動機で研究を進めているわけではないことは分かっていた。むしろ兄は、誰よりも純粋な気持ちで医療魔術と向き合っているし、そんな兄を、サミルも慕っていた。ただ、兄のようなやり方は、自分には合わないと考えていたのだ。
幸いというべきか、父の期待は兄のアランに向いていたので、次期領主の候補から外されていたサミルは、動きやすい身の上だった。兄や師のダナは、サミルの性格を理解していたし、父もまた、腹痛や頭痛といった明らかな仮病で研究室に顔を出さなくなった不良息子のサミルには、構うだけ時間が無駄だと思ったのだろう。26歳の頃、突然屋敷を飛び出していったサミルを、引き止める者は誰もいなかった。
家を出て放浪していたサミルは、その後、軍医としてシュベルテの魔導師団に隊附勤務した。当時、シュベルテ周辺では内戦が頻繁に起こっていたが、その規模に対して、医術師の数、技術不足が深刻だったのだ。魔導師と共に戦場に赴き、負傷兵の治療をし続ける生活は、非常に過酷なものであった。だが、始めた当時は、これこそが医術師のあるべき姿で、自分の天職なのかもしれないとさえ思った。アーベリトで机上の医療魔術に取り組んでいる時よりも、確かに人を救っている感覚があったからだ。自分の手で命を助け、そして、終戦を迎えたその時には、少しでも多くの兵たちが家に帰れるように。その手伝いができているのだと思うと、戦場に行くことも恐ろしくなかった。
そうして、シュベルテに隊附勤務して2年、その後は独立して派遣軍医となったサミルは、各地を転々としながら戦場で働いていた。だが、ある時、ふと残酷な現実を突きつけられる。戦というものが、いつまで経っても終わらないとのだということに、気づいてしまったのだ。毎日どれだけの負傷兵を治療しても、必ずどこかで戦は起こり、奪われていく命に際限はない。繰り返し終わることのない渦中に、自分はいるのだと思うと、ほぞを噛むような虚しい気持ちになった。戦というのは、肉体だけでなく、人の心にも大きな傷を作っていく。苦痛に歪み、死んでいった人々の顔や、居場所を失くして呆然と彷徨う子供たちの顔。それらを見る度に、無力な自分に対する自責の念に駆られていたサミルの心にも、いつの間にか、大きな傷ができていたのだった。
派遣軍医としては一線を退き、戦争難民の保護活動にも着手し始めて、8年が経った36歳の頃。父の老衰死を聞き、サミルは、10年ぶりにアーベリトに戻った。父と兄のアラン、二人が築き上げてきたアーベリトは、10年前に比べると、見違えるほど栄えていた。当時、名だたる商会がこぞって使役していたリオット族が、生まれつき持っている遺伝病——リオット病の治療法をアランが確立させたことで、レーシアス家は、莫大な財力を得て、下流貴族を脱却していたのだ。
葬儀を終えたら、再びアーベリトを出ていこうと考えていたサミルであったが、父が亡くなったことで、アランはアーベリトの領主を継がねばならない立場になっていた。研究者として第一線を走らなければならないアランが、たった一人でアーベリトを治めるのは難しいだろう。寝食も忘れ、一心に研究に打ち込む兄の姿をみて、サミルは、アーベリトに残ることを決めた。思えば兄は、家のことなど顧みずに出ていった恩知らずの弟を「お前は外の方が向いているんだろう」と言って、笑って送り出してくれたのだ。アランは生粋の研究者気質だったので、机に向かい続けることを苦に思っている様子はなかったし、実際、彼は周囲からの期待に難なく応えられる優秀な医術師であった。しかし、それを理由に、若い頃のサミルは、兄に全てを背負わせて、自分はとっととアーベリトを出ていってしまった。そう考えると、今後の人生は、兄を支えることに費やすべきなのではないかという思いが、突き上げてきたのだった。
生活能力が皆無の兄に代わり、雑務をこなす日々が続いた、そんなある日。意外なことが起きた。度々王宮に通っていたアランが、当時の召喚師シルヴィア・シェイルハートに心奪われてしまったのだ。おそらく、私的には女性とほとんど関わったことがないであろう、研究一筋だった兄が、一人の女性に夢中になっている様は、正直空振ってばかりで、実に愉快であった。一方で、上手く行けば良いとも思っていた。相手が召喚師ともなれば、普通の家庭を築くことはできないだろうが、今までアランを椅子に縛り付けてきたのは、長くアーベリトを空けてしまった自分のせいでもあるのだ。これを機に、兄が人並みの幸せも掴めれば良いと、サミルは心から願っていた。
サーフェリア歴1474年、しかし、その願いは叶わなかった。シルヴィアがアランとの間に身籠った三人目の子供が、死産だと発表されたのである。その知らせを聞いたアランは、急ぎシュベルテに向かったが、その帰りに、落馬して亡くなった。誰も予期していなかった、呆気ない死であった。最終的に、事故死として片付けられたが、その遺体の損傷具合に違和感を覚えたサミルは、アランが呪詛により他殺された可能性を訴えたが、結局、その真相が確かめられないまま、次なる不幸が訪れる。シュベルテにて騒擾を起こし、南方のノーラデュースに迫害されていたリオット族に、リオット病の症状が戻っていたとして、アランの治療法が避難の的になったのだ。アランの死と治療法への糾弾、そして三人目の息子の死産——これらの背景に、シルヴィアがいるのではないかと疑ったサミルであったが、その訴えを通せるほどの発言力が、その時の彼にはなかった。たった一人残されたサミルの代で、レーシアス家は、再び没落したのである。
サミルの疑念が確証を得たのは、それから8年後のことであった。シュベルテの東にあるヘンリ村で、銀の髪と瞳を持つ少年が見つかったのだ。治療のためにアーベリトに回された、その少年を見た時、サミルは、間違いなく兄の子だと確信した。根拠はいくつもあった。年齢も、魔力の片鱗も、全て兄の子だと考えると、辻褄が合ったのだ。
その少年の怯えたような瞳に、アランの面影を見た時。途方とない愛おしさが、サミルの中に込み上げてきた。同時に、自分が守らなければ、と思った。後にルーフェンと名付けられるこの子は、召喚師一族として、いずれ戦場に立つことになるのだろう。あの、終わりのない憎しみと悲しみの渦中に——。そんなことは、絶対にさせたくなかった。
様々なものから、目を背け、諦めてきた人生であった。けれども、兄が遺していった、居場所のないこの子を守れるのは、もう自分だけなのかもしれない。そう思った瞬間から、サミルは、残りの人生をかけて、その子に寄り添っていくことを決心したのだった。
To be continued....
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