複雑・ファジー小説
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- 〜闇の系譜〜(外伝)
- 日時: 2021/04/16 00:38
- 名前: 狐 (ID: WZc7rJV3)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16085
皆さん、こんにちは!銀竹と申します。
ここでは、『〜闇の系譜〜』の小話をちょこちょこ書いていきたいと思います。
完全に狐の遊び場と化していますが。ご容赦下さい(笑)
もし物語に関するご要望等あれば、ぜひ仰って頂けると嬉しいです(*´▽`*)
〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!
…………………………
ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-300
†登場人物紹介・用語解説† >>1←随時更新中……。
『三つ編みの』 >>2-3 >>5-11
──トワリスの三つ編みの秘密に迫る……!
『おまじない』 >>12-13 >>15 >>17-21
──なんとかは風邪を引かないと言いますが、ユーリッドは引きましたね。意外です。
『忘却と想起の狭間で』 >>22-27 >>30-31
──外伝ですが、結構暗い内容です。しょんぼりアドラさん。
『悪魔の愛し子』取り下げ
──なんとかは風邪を引かないと言いますが、ルーフェンは(略)。
『ずるい人/卑怯な人』取り下げ
──ファフリもトワリスも、物好きだなとよく思いますw
『赤ずきん』 >>94-95
──ずっとやりたかったパロディーもの。とにかく下らないです。ただの狐の自己満足です。
『酩酊』取り下げ
──真面目な人ほど、酔うと面倒くさいよねっていうお話です。
『とある魔女の独白』 >>116-118
──サーフェリア編を最後まで書いて、そのあとにこれを読んだら、また見方が変わるんじゃないかな……という願望(笑)
『桃太郎』 >>126-128 >>130-132 >>135-137
──これまたすごくどうでもいいパロディーもの。ちょっと汚らしいので注意ですw
『シンデレラ』 >>138-140 >>142-156
——リリアナさん初出演のパロディーもの。本編とは全くの別物です!(笑)
『光』 >>157 >>159-170
——オーラントとその妻、ティアの出会いから別れまでを描いた物語。
『不思議の国のアーヴィス』 >>172-184
——ツインテルグ編の主人公、アーヴィス初出演のパロディもの。
本編には出てきていない登場人物ばっかりなので、完全に作者の自己満です。
『〜闇の系譜〜座談会』
──ひっどい内容です(笑)世界観をぶち壊す発言、登場人物のキャラ崩壊が満載ですので、閲覧注意。
【第一回】オーラント×トワリス
「アドラ生存ルートの可能性について」 取り下げ
【第二回】ルーフェン×ハインツ
「ミス・闇の系譜は誰だ」 取り下げ
【第三回】ジークハルト×リリアナ
「応援歌を作ろう」 取り下げ
【第四回】ユーリッド×半本とどろき(ゲスト)
「世界線を越えて」 >>141
【第五回】カイル×ロクアンズ・エポール(ゲスト)
「世界線を越えてⅡ」 >>158
【第六回】サミル×クラウス(ゲスト)
「世界線を超えてⅢ」 >>171
【第七回】リリアナ(+α)×成葉&慶司(ゲスト)
「世界線を超えてⅣ」 >>185
登場人物の掘り下げ
ジークハルト・バーンズ >>187
サミル・レーシアス >>188
……………………
【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。
【現在の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?
【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。
…………………
基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy
【頂き物】 >>16 >>53 >>98 >>99
……お客様……
夕陽さん
ヨモツカミさん
蓮佳さん
まきゅうさん
亜咲りんさん
ゴマ猫さん
【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.178 )
- 日時: 2019/10/15 18:48
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
不思議の国の王城を目前に、アーヴィスは、愕然としました。
切石で造られたその王城は、悠然とした佇まいを以て、まるで訪問者を拒むかのように、重々しくそびえたっています。
しかしながら、アーヴィスが圧倒されたのは、王城本体というよりも、その背後に立つ大樹の存在でありました。
雲を突き抜け、天を穿つほどの巨大な大樹が、まるで王城を護るように、立ちはだかっているのです。
城前に広がる庭園には、整えられた白薔薇の蔓壁が、迷路の如く立ち並んでいました。
王城を幾重にも囲む柵は、近く見てみれば、ただの茨(いばら)でしたが、どうしてか、鋭い鉄柵よりも強固で、近寄りがたく見えます。
王城は、決して侵入者を許すまいとする固陋(ころう)な空気を漂わせていましたが、それは、恐ろしさや圧迫感から来るものではなく、むしろ、清らかで神聖なあまり、踏み行ってはならない領域のように感じるのでした。
抜け穴を知っているからと張り切るビビに連れられ、アーヴィスは、城前の広大な庭園に入り込みました。
鼻が痛くなるほどの澄んだ空気に、微かに混じる甘い匂い。
眼前を覆い尽くす白薔薇の蔓壁に気圧されて、改めて、自分は奇妙な世界に迷い込んでしまったのだと痛感しました。
迷路を抜けている途中、びっしりと咲く白薔薇の花弁を前に、ぼんやりと佇む一人の精霊を見かけました。
背丈はアーヴィスの腰程までしかなく、全体的にふくよかな体型をしていますが、顔だけは痩せこけた老爺のように、げっそりとしています。
また、その手には、何故か桶一杯の赤い塗料のようなものが握られていました。
彼から漂う悲壮感に、何事かと足を止めると、ビビが先立って声をかけました。
「あれ、ミドロ? こんなところでどうしたの?」
びくりと、ミドロと呼ばれた精霊が顔をあげます。
ミドロは、ビビを見ると、みるみる泣きそうな表情になって、すがるように近寄ってきました。
「これはこれは、ビビ様……ご無沙汰しておりますだ。実は、おら、大変なことをしてしまいまして……どうしたら良いか……」
消え入りそうな声で言って、ミドロは、その場にへたりこんでしまいます。
めそめそと泣き出してしまった彼を、放置していく訳にもいかないので、アーヴィスとビビは、事情を聞くことにしました。
ミドロは、この王城の庭師を勤める、花の精霊でした。
魔術を使い、様々な植物で庭園を彩るのが仕事ですが、この月は、王子アイアスからの命令で、白薔薇を一面に咲かせました。
しかし、後になってから、白薔薇ではなく、赤薔薇を咲かせるように命令したはずだと、アイアスが怒り出してしまったのです。
白薔薇の花弁を、今すぐ赤色に塗り替えるようにと塗料を渡されたものの、塗料なんて塗ったら、白薔薇はきっと枯れてしまいます。
ですが命令を拒めば、どんな罰を受けることになるか分かりません。
それで、思い悩んだミドロは、かれこれ半日以上も、庭園に立ち尽くしていたのだと言うのです。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.179 )
- 日時: 2019/10/18 17:40
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
この話を聞くと、ビビは、怪訝そうに首をひねりました。
「うーん……なんか、信じがたい話だなぁ。確かに、お兄ちゃんってちょっと馬鹿っぽいところあるけど、絶対に嘘をついたり、誰かを騙したりするような精霊(ひと)ではないもん。それ、お兄ちゃんに直接言われたの?」
疑っていると言うよりも、疑問に思っている様子で、ビビが尋ねます。
ミドロは、うつむいたまま、暗い声で答えました。
「いいえ、直接言われたわけではないです。殿下が白薔薇をお望みだと、おらに教えてくれたのは、別の精霊で……」
ミドロの返答に、アーヴィスとビビは、ちらりと目を合わせます。
アーヴィスは、躊躇いがちに言葉を選ぶと、口を開きました。
「ミドロさんの話だと、単純に考えて、その……仲介した精霊が、白薔薇と赤薔薇を間違えて伝えちゃった、ってことになりますけど……」
あるいは、意図的に騙したか──とは、あえて言いませんでした。
ミドロの落ち込んだ顔を、じっと見つめます。
まだ会って間もない相手ですが、ミドロは、他人を根拠もなく疑えるような者ではないのだと、アーヴィスには分かりました。
能天気なようでいて、案外、ビビも気が遣えるのでしょう。
ビビは、歯を見せて笑むと、ぽんっとミドロの肩を叩きました。
「まあ、そんなに落ち込むことないよ! ミドロは、長年この城に勤めてくれてる精霊だもん。お兄ちゃんだって、頭が冷えたら、ミドロを罰しようなんて考え、取り下げてくれるよ。伝え間違えたのが誰かなんて分かんないし、まずは、お兄ちゃんからの命令をミドロに伝えた子と、話をしてみよう。その精霊、誰なの?」
「そ、それは……」
ミドロが口を開こうとした、その時でした。
風が一斉にざわめきだしたかと思うと、城の方から、数名の兵士たちに囲まれた、長身の精霊が姿を現しました。
月光を思わせるような長い金髪に、宝石のような瑠璃色の瞳。
綾織の外衣をなびかせ、音もなく歩を進めるその精霊は、ゆったりとした足取りで、こちらへと向かってきます。
ミドロは、びくっと飛び上がると、慌ててアーヴィスとビビを蔓壁の方に押しやりました。
「アイアス殿下ですだ! 早く、お二人とも隠れて下さい! ビビ様と話していたところなんて見つかったら、おら、どんな目に遭わされるか……!」
有無を言わせぬ勢いで背を押され、アーヴィスとビビは、白薔薇の影に隠れます。
やがて、円状に取り囲むように兵が並ぶと、アイアスは、跪くミドロの目の前に立ちました。
「ミドロ、貴様……先刻、薔薇を赤く染めよと申したのが、聞こえなんだか? 直に王がご帰還なさるのだぞ」
儚げな見た目とは裏腹に、芯の凍るような冷たい口調で、アイアスが言います。
ミドロは、額を地面に押し付けたまま、震える声で答えました。
「も、申し訳ございません! し、しかし、塗料なんて塗ってしまえば、これらの白薔薇は枯れてしまいますだ! そんな可哀想なこと、とてもおらには……」
「黙れ!」
アイアスの怒号と共に、周囲の蔓壁が、横真っ二つに裂けました。
アーヴィスたちの頭上にも、風切り音が通って、散った白薔薇の頭が、次々と落下してきます。
あと少し、アイアスの放った風の刃がずれたら、落ちたのは白薔薇ではなく、自分たちの頭だったかもしれません。
アーヴィスは、思わず息を飲みました。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.180 )
- 日時: 2019/10/23 19:15
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
縮み上がったミドロを睥睨し、アイアスは、鼻をならしました。
「出来ぬというなら、今すぐこれらの白薔薇を焼き払い、根ごと引き抜いてしまえ! 良いか、これは温情だぞ。一度私の命令を聞き違えた貴様に、挽回する機会を与えてやっているのだ。それでも聞けぬと言うなら、その首、今ここではねてやるぞ!」
アイアスが勢いよく指先を動かすと、ミドロの頬に、しゅっと小さな傷が入ります。
恐怖に震えるミドロは、それでも懸命に唇を動かし、声を押し出しました。
「お、おらは……聞き間違えなど、していないです。確かに、白薔薇を咲かせるようにと聞いたんです。その……シャラレア殿から……」
瞬間、その場にいた者達の視線が、一斉に一人の女精霊に注がれます。
アイアスの影から、忌々しそうにミドロを眺めていたその精霊は、白目のない深紅の瞳を光らせて、吐き捨てるように言いました。
「なんじゃ、おぬし。まさか妾が嘘を伝えたとでも? 随分と小賢しい真似を。そんなに庭師の座を奪われたくないか?」
威圧的な態度に、ミドロは、戸惑った様子で口を閉じます。
シャラレアと呼ばれた精霊は、薔薇の花弁に似た薄紅のスカートを持ち上げると、アイアスの前で恭しく礼をしました。
「殿下、申し上げます。やはりこの田舎者は、城の庭師に相応しくありませぬ。庭園を彩り、城全体を華やかに染め上げるのは、我らのような高貴な一族の者が勤めるべきでございましょう。そもそもがミドロ殿は、雑草のように踏みつけられるだけの、哀れでみすぼらしい一族の出。その上、嘘までつくとあれば、救いようがありませぬ。温情で城に置いてもらっていたというご恩を、あの愚か者は無下にしたのです。即刻首を跳ねるべきではないでしょうか?」
真っ青になったミドロを一瞥し、シャラレアは、不敵に笑います。
再度反論をしようとしたミドロに、アイアスは、ため息混じりに言いました。
「ミドロ……そなたは父上とも旧知の仲。私とて、お前を罰しようなどと考えたくはない。だが、我ら精霊王の一族は、いついかなるときも、公平で正しくあらねばならぬのだ。罪を犯した者には、厳正なる罰を。それがこの国の決まりだ」
「そ、そんな……」
絶望のあまり、ミドロの細い目から、涙が溢れ出します。
そのとき、息を潜めて隠れていたはずのビビが、突然、蔓壁から飛び出しました。
「ちょっとお兄ちゃん! さっきから聞いてれば、どうして一方的にミドロばかり責めるのさ。ミドロは、嘘なんてついてないって言ってるじゃん! 公平だって言うなら、こっちの意見も聞いてよ!」
ぷんぷんと肩を怒らせて、ビビはミドロの横に並びます。
アーヴィスは、咄嗟に彼女を止めようとして、同じく蔓壁から歩み出ました。
ビビは、この国の王子──アイアスと兄妹だと言っていましたが、何しろ、咲かせる花を間違えただけで、打ち首を命じるような王子です。
いくら妹とはいえ、振る舞い次第では、彼女も無事では済まされないかもしれません。
しかし、アーヴィスの予想に反して、アイアスは、途端に目の色を変えると、ビビに駆け寄りました。
「ビビ! お前……城に帰ってくる気になったのか! 良かった、心配していたのだぞ……!」
感動した様子で涙ぐみ、アイアスは、ビビを抱き締めようと、ばっと両腕を広げます。
その腕を、素早く押し退けると、ビビはシャラレアの方を見ました。
「君! 本当にミドロには、赤薔薇を咲かせるようにって伝えたの? 絶対絶対、ぜーったい?」
シャラレアのこめかみに、青筋が立ちます。
怒りをこらえるように息を吸うと、シャラレアは、ビビに頭を下げました。
「……これはこれは王女様、お初にお目にかかります。どうやら、このシャラレアをお疑いのようですが、何を根拠に仰っているのか理解しかねます。ほとんど王城にいらっしゃらない貴女様は、ご存知ないかもしれませんが、このシャラレアも、そこにいるミドロ殿と変わらぬ年数、陛下に仕えてきた身でございます。加えて、由緒正しき赤薔薇一族の出。どちらが信頼に値する家臣なのか、一目でお分かり頂けませぬか?」
ビビは、むっとした顔で、腕を組みました。
「信頼できるかどうか判断するのに、出自は関係ないでしょ! この城の庭をずーっと守ってきたのは、ミドロなんだよ。荒れた土地を耕して、ここまで立派な庭にしたのも、全部ミドロなの! 別に君が嘘をついてるって決めつける気はないけど、君のたった一言でミドロが打ち首になるなんて、そんなの納得できない!」
掴みかかるような勢いで、ビビはシャラレアに詰め寄ります。
どうすればよいか分からず、しばらく右往左往してたアーヴィスでしたが、ビビがシャラレアを今にも押し倒しそうだったので、流石にまずいと止めに入りました。
「ビ、ビビ……とりあえず穏便に、穏便に……。落ち着いて話そうよ……」
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.181 )
- 日時: 2019/10/26 19:25
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
──と、その時でした。
不意に、背後から怒号が聞こえてきたかと思うと、突然、頬に熱い衝撃が走り、アーヴィスは吹っ飛ばされました。
「貴様は誰だぁぁああっ!」
「──ぐえっ!?」
叫びながら、アーヴィスを力一杯殴り飛ばしたのは、眉をつり上げたアイアスです。
一瞬、何が起こったか理解できず、頬を押さえたまま地面に転がっていたアーヴィスは、アイアスの方を振り返って、震え上がりました。
整った顔をくしゃくしゃに歪めたアイアスが、間髪いれず、馬乗りになってきたからです。
「貴様っ! さては不法入国者だな!? 人間の分際で、ふざけるなよ! 我が妹を呼び捨てにしていいのは、私と父上だけなのだぞ!」
「えっ、ええ? ちょっ、ちょっと待って下さいっ」
殴られたまさかの理由に、アーヴィスは困惑が隠せません。
言い訳をする間もなく、アイアスは、再びアーヴィスを殴ろうと拳を振り上げますが、そんな彼を、今度はビビが蹴り飛ばしました。
「今は名前のことなんかどうでもいいでしょ! お兄ちゃんの馬鹿!」
舗装された庭道に、アイアスは顔面から突っ込みます。
慌てて駆け寄ってきた兵に支えられ、アイアスはゆらゆらと起き上がると、やがて、両手を天に翳し、言い放ちました。
「ええいっ、こうなったら裁判だ! 裁判だーっ!」
彼の声に呼応して、白薔薇がまるで蛇のようにうねりだしたかと思うと、そのトゲだらけの蔓で、アーヴィスとミドロを絡め取りました。
同時に、庭園の風景が、みるみる朧になっていきます。
目を閉じ、恐る恐る開くと、いつの間にか、アーヴィスたちは城内の王座の間へと移動していました。
アイアスが王座につき、広間の中心には、薔薇のいばらできつく縛られた、アーヴィスとミドロが立たされています。
その周囲を兵が固め、二人を逃すまいと厳重な体制で目を光らせており、ビビとシャラレアは、王座から一段低い、下座に控えていました。
「これでは埒があかぬ! 処罰を下す前に、ビビの言う通り、ミドロの言い分も聞こうではないか。何か言いたいことがあるならば、この場で申してみよ! ただし人間、貴様は死刑だ!」
「ええっ……」
指差しで死刑宣告をされ、アーヴィスは、思わず非難の声をあげました。
ただサーフェリアに帰りたいだけなのに、どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
逃げようにも、少しでも身じろぎをすれば、身体を縛る薔薇のいばらが、じくじくと食い込んできます。
アーヴィスは、がっくりと肩を落としました。
ミドロは、アイアスを見上げると、おずおずと口を開きました。
「お、おらは……誓って、嘘はついてないですだ。確かに、シャラレア殿から、白薔薇を咲かせるようにと聞いたのです。おらは、名もないような一族の出ですが、だからこそ、ずっと精霊王のお庭を任せてもらえていることを誇りに、嬉しく思っています。意図的に花を間違えて植えたり、期待を裏切ろうなんてこと、今更するはずがないです……」
弱々しい口調で言って、ミドロは、祈るように礼をします。
アイアスは、ふむ、と一拍置くと、今度はシャラレアに言葉を促しました。
「妾とて、嘘などついておりませぬ。そんなこと、する理由がないではありませんか。ミドロ殿のような、日陰者の一族であれば、妾の生まれに嫉妬し、貶めてやろうと考えるのも頷けます。しかし、妾がミドロ殿を貶めたところで、なんの得もないではありませぬか。そんなことせずとも、差ははっきりしているというもの」
シャラレアの嫌みったらしい言い方に、今度はビビが眉を寄せました。
「なんでそういう、意地悪な言い方しか出来ないかなぁ? だから、生まれは関係ないって言ってるじゃない。問題なのは、意図的だったにせよ、そうじゃなかったにせよ、誰が赤薔薇と白薔薇を間違えたのかってことでしょ? ねえ、お兄ちゃん!」
ビビから投げ掛けられて、アイアスは、悩ましげに唸ります。
ミドロとシャラレア、二人を交互に眺めながら、アイアスは嘆息しました。
「赤薔薇は、愛と美を司る高貴なる花……。私は確かに、シャラレアに赤薔薇を咲かせよと伝えたのだ。庭の整備は、ミドロに任せていたが、シャラレアは元が赤薔薇の精霊だからな。うまく協力すれば、一層美しく咲くと思い、二人に声をかけたのだが……」
言葉を濁して、アイアスは、再度ため息をつきます。
ミドロもシャラレアも、頑として嘘はついていないと言い、その真偽を確かめる術がない以上、思い込みでどちらかを裁くことは出来ません。
最初は、ミドロが単に聞き間違えたのだと思っていたので、彼が白薔薇を抜き、赤薔薇を植え直せば、その罪を許すつもりでした。
しかしミドロは、白薔薇を枯らしたくないと言って、アイアスの言うことを聞きません。
だからといって、今、決めつけでミドロを裁けば、最愛の妹であるビビに嫌われてしまいそうです。
冷静沈着な王子を装ってはいますが、妹を溺愛しているアイアスにとって、ビビに嫌われることは、死活問題でした。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.182 )
- 日時: 2019/10/29 19:27
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: NRm3D0Z6)
思い悩むアイアスを見て、ミドロは、決心したように土下座をすると、進言しました。
「アイアス殿下……恐れながら、白薔薇のままではいけないでしょうか」
全員の視線が、ミドロに向きます。
顔をしかめたアイアスに、ミドロは、まっすぐに言葉を投げ掛けました。
「白薔薇だって、赤薔薇に負けず劣らず、美しい花だとおらは思います。そんな白薔薇たちを、折角咲いたのに枯らすなんて、したくありませんし、そんなことをするくらいなら、首を切られても良いと思っています」
ミドロは、シャラレアを一瞥して、続けました。
「おらは、嘘はついていません。ですが、シャラレア殿も嘘をついていないと言うなら、きっと、誰も嘘はついていないのだと思います。もしかしたら、おらが赤薔薇と白薔薇を、聞き間違えたのかもしれません。シャラレア殿が、うっかり言い間違えたのかもしれません。真実は、知りようがないです。それでも、どちらかに罰を与えなければならないと言うなら、おらが受けます。何が原因だったにせよ、庭を預かっていたのはおらで、殿下のご要望を叶えられなかったことは、庭師としての恥です。ただ、長年仕えさせて頂いた、そんな老いぼれの言い分に耳を貸してくださると言うなら、どうかあの白薔薇たちは、寿命を迎えるまで、生かしてあげてください。どうか、お願いします」
「…………」
重い沈黙が、広間に下りました。
アイアスも、兵士たちも、どこが罰の悪そうな顔をして、口を閉ざしています。
ややあって、ビビはふうと息を吐くと、アイアスを睨みました。
「これでもミドロを打ち首にするっていうなら、あたし、お兄ちゃんと絶縁するよ」
「う、うぬ……しかし」
戸惑った様子で、アイアスが口ごもります。
彼にはもう、ミドロを殺してしまおうという強い意思はないように思えましたが、散々騒いだ手前、発言を完全撤回するのには抵抗があるようです。
皆が言葉を濁す中、シャラレアは、拳をぶるぶると震わせると、鋭い声で叫びました。
「ミドロおぬし! 同情を誘うような台詞を吐いて、殿下を惑わせようなどと、なんと愚かな! 自分が哀れだとでも言うつもりか? 言っておくがな、被害を受けたのは妾の方じゃぞ! グレアフォール様の神聖なお庭を、あんな色味のない薔薇まみれにしおって……!」
シャラレアの興奮ぶりに、驚いたのでしょう。
アイアスは、なだめるように返しました。
「落ち着け、シャラレア。お前の言い分は分かるが、そのように激昂せずとも、どのみちそなたを罰しようとは思っておらん」
「いいえ! それでは腹の虫が収まりませぬ!」
シャラレアは、呼吸荒くしながら、アイアスに向き直りました。
「殿下! そもそも、あのような下賎の一族が、王族に仕えていること自体がおかしいのです! まして、下位の使いに甘んじているならまだしも、庭師の座に何年も居座るとは……! 故意だったのか否かに関係なく、殿下のご命令とは違う花を植えた以上、せめて地位の剥奪くらいせねば、ミドロ殿が付け上がるばかりです! いずれ、妾以外にも害を為すようになりまするぞ!」
眼光鋭くミドロを睨み付け、シャラレアは、捲し立てるように怒鳴り続けます。
アイアスもビビも、そしてミドロも、彼女の剣幕に圧倒されて、物が言えぬようでした。
──と、そのときです。
「あ、あの……一つ、いいですか?」
不意に、ミドロの横で、小さく声が上がりました。
声の主は、アーヴィスです。
集まった視線に、どこか恥ずかしそうに口ごもると、アーヴィスは、シャラレアを見つめました。
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