複雑・ファジー小説
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- 〜闇の系譜〜(外伝)
- 日時: 2021/04/16 00:38
- 名前: 狐 (ID: WZc7rJV3)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16085
皆さん、こんにちは!銀竹と申します。
ここでは、『〜闇の系譜〜』の小話をちょこちょこ書いていきたいと思います。
完全に狐の遊び場と化していますが。ご容赦下さい(笑)
もし物語に関するご要望等あれば、ぜひ仰って頂けると嬉しいです(*´▽`*)
〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!
…………………………
ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-300
†登場人物紹介・用語解説† >>1←随時更新中……。
『三つ編みの』 >>2-3 >>5-11
──トワリスの三つ編みの秘密に迫る……!
『おまじない』 >>12-13 >>15 >>17-21
──なんとかは風邪を引かないと言いますが、ユーリッドは引きましたね。意外です。
『忘却と想起の狭間で』 >>22-27 >>30-31
──外伝ですが、結構暗い内容です。しょんぼりアドラさん。
『悪魔の愛し子』取り下げ
──なんとかは風邪を引かないと言いますが、ルーフェンは(略)。
『ずるい人/卑怯な人』取り下げ
──ファフリもトワリスも、物好きだなとよく思いますw
『赤ずきん』 >>94-95
──ずっとやりたかったパロディーもの。とにかく下らないです。ただの狐の自己満足です。
『酩酊』取り下げ
──真面目な人ほど、酔うと面倒くさいよねっていうお話です。
『とある魔女の独白』 >>116-118
──サーフェリア編を最後まで書いて、そのあとにこれを読んだら、また見方が変わるんじゃないかな……という願望(笑)
『桃太郎』 >>126-128 >>130-132 >>135-137
──これまたすごくどうでもいいパロディーもの。ちょっと汚らしいので注意ですw
『シンデレラ』 >>138-140 >>142-156
——リリアナさん初出演のパロディーもの。本編とは全くの別物です!(笑)
『光』 >>157 >>159-170
——オーラントとその妻、ティアの出会いから別れまでを描いた物語。
『不思議の国のアーヴィス』 >>172-184
——ツインテルグ編の主人公、アーヴィス初出演のパロディもの。
本編には出てきていない登場人物ばっかりなので、完全に作者の自己満です。
『〜闇の系譜〜座談会』
──ひっどい内容です(笑)世界観をぶち壊す発言、登場人物のキャラ崩壊が満載ですので、閲覧注意。
【第一回】オーラント×トワリス
「アドラ生存ルートの可能性について」 取り下げ
【第二回】ルーフェン×ハインツ
「ミス・闇の系譜は誰だ」 取り下げ
【第三回】ジークハルト×リリアナ
「応援歌を作ろう」 取り下げ
【第四回】ユーリッド×半本とどろき(ゲスト)
「世界線を越えて」 >>141
【第五回】カイル×ロクアンズ・エポール(ゲスト)
「世界線を越えてⅡ」 >>158
【第六回】サミル×クラウス(ゲスト)
「世界線を超えてⅢ」 >>171
【第七回】リリアナ(+α)×成葉&慶司(ゲスト)
「世界線を超えてⅣ」 >>185
登場人物の掘り下げ
ジークハルト・バーンズ >>187
サミル・レーシアス >>188
……………………
【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。
【現在の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?
【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。
…………………
基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy
【頂き物】 >>16 >>53 >>98 >>99
……お客様……
夕陽さん
ヨモツカミさん
蓮佳さん
まきゅうさん
亜咲りんさん
ゴマ猫さん
【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.20 )
- 日時: 2015/05/27 00:04
- 名前: 狐 (ID: dfg2.pM/)
ファフリは、指で雪をいじりながら、口を開いた。
「ユーリッドも言ってたけど、ミストリアはサーフェリアより暖かいから、雪は滅多に降らないの。だから雪が積もったときは、皆夢中になって遊ぶのよ。ただ、私はまだその時お城にいて、あまり外出はできなかったし、ユーリッドも兵団のお仕事が忙しかったから、なかなか二人で雪遊びなんてできなかったんだ」
「…………」
「それで、十歳くらいの時だったかな。雪が積もった日に、たまたまユーリッドと遊べることになってね……それなのに当日、私が風邪を引いちゃって、お城で寝てなくちゃいけなくなったの……」
ファフリは、両手で雪をすくって、トワリスに見せた。
「そしたらね、ユーリッドがこうやって雪を私の寝室に持ってきて、一緒に雪だるま作ろうって言ってくれたんだ。私はユーリッド以外にお友達なんていなかったし、雪遊びも初めてだったから……それが本当に本当に嬉しかったの。それでね、二人で作った雪だるまをその後部屋に飾っておいたら、次の日はもう風邪がすっかり治っててね!」
「……それで、雪だるまが風邪に効くおまじないってことなのか」
雪だるまは当然溶けちゃったけどね、と付け加えて、ファフリは嬉しげに語った。
そんなファフリの笑顔につられるように、トワリスも微笑んだ。
「もう少しだけ早ければ、ユーリッドも起きてたんだけど……。ちょっと残念だったね」
苦笑してトワリスが言うと、ファフリはユーリッドの寝る隣部屋の方に視線を移し、首を振った。
「うん……でも、いいの。ユーリッドは、一度寝たらなかなか起きないし。そもそも風邪を治すには、こんなおまじないよりも、寝るのが一番だもの」
「……まあ、ね」
ファフリと同じように隣部屋へと続く扉を見つめながら、トワリスは一瞬言葉を濁した。
しかしすぐにすっと息を吸い込むと、軽くファフリの肩を叩いた。
「いいじゃない、作ってあげなよ。ファフリが作ってあげるだけでも、おまじないの効果はあるかもよ。何より、ユーリッドが起きたとき喜ぶって」
「……そう、かな?」
「そうそう」
そう言ってトワリスが笑うと、ファフリは嬉しそうに笑い返した。
「じゃあ、トワリスも一緒に作ろう?」
「私も?」
「うん」
二十三にもなって、雪だるまを作ることに気恥ずかしさを感じて、トワリスは断ろうとした。
しかし、ファフリのいかにも楽しみだといったような笑顔に、首を横に振ることなどできず、少しの間考えた末に、頷いた。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.21 )
- 日時: 2017/08/22 12:19
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
真剣な面持ちで雪を丸め固めると、表面が滑らかになるように削り落とす。
そうして手早く雪の球を作り上げると、トワリスはファフリを見た。
「はい、できたよ。これ胴体の部分ね」
「うん……ちょっと待って……。よし、私もできた! ほら、ユーリッドの顔!」
ファフリは自信満々な様子で、トワリスの目の前にそれを差し出した。
トワリスは、その歪な雪の球——ユーリッドの顔に、一瞬の沈黙の後、盛大に吹き出した。
「ぶっ、ははは……! ユーリッドの顔は、こんなにぼこぼこじゃないって」
「えー、でもちゃんと頭に狼の耳もつけたし、目もどんぐりで茶色い瞳を表現したよ?」
「違う違う、輪郭の問題!」
思いがけず力作を笑われて、ファフリは納得がいかないと言ったように、頬を膨らました。
そんな彼女とは対照的に、トワリスはうっすらと涙を浮かべて笑い転げている。
「ファフリって、本当に不器用なんだね。せめてもっと顎の部分をこう……丸くしないとさ」
「うぅ……いいの、これで! 真っ正面から見たら、結構似てるんだから!」
「嘘つけ。耳のところしか似てないよ」
「そんなことないもん! ほら!」
トワリスの握った雪玉の上に、凹凸の激しいユーリッドの顔を、そっと乗せた。
どんぐりの目と葉っぱの耳、そして枝の手を胴体の両側に差し入れる。
そうして見ると、この雪だるまの垢抜けない表情が、どことなく元気で子供っぽい、普段のユーリッドに確かに似ている気がした。
「ね? 似てるでしょ?」
「うーん、まあそう言われると、雰囲気がなんとなく似てるような」
「雰囲気以外も似てるよ。ほら、この目がきりっとしてるところとか! あと優しげな感じとか!」
「はいはい、そういうことにしてあげるよ」
苦笑するトワリスに、ファフリはますます頬を膨らました。
「もう! なに、その言い方! トワリスだって! ユーリッドの体はこんなに丸くないもん!」
「だってそりゃあ、雪だるまなんだから体は丸いでしょう?」
「……それは、そうだけど……。とにかく、もうこれでいいの!」
「はいはい」
快活に笑う、真っ白で生き生きとしたその雪だるまのように。
全快して、再び雪中に飛び出していこうとしたユーリッドを止めるのに苦労したのは、翌日のことである。
…………
ユーリッドって、後輩にいたらとても可愛いやつだと思います。
そしてファフリは妹に欲しいです(笑)
トワリスは……すごい良いお母さんかお姉さんになると思うんですが、ちょっと真面目すぎて口うるさそうなので、個人的には先生がいいです( ・`д・´)
ルーフェンは、なんか一緒にいると色々巻き込まれそうなので、剽軽な近所のお兄さんとかが楽しそうですね。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.22 )
- 日時: 2017/12/30 00:03
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
『忘却と想起の狭間で』
穏やかな風が、ふわふわと舞う薄桃色の花弁をさらった。
これまでずっと綺麗だと思っていたその光景が、今日は何故だか不快で仕方ない。
いつもは一杯に吸い込む花の香りも、べたべたと鼻にまとわりついて来るようで、ユーリッドは顔をしかめた。
ふと、背後から大きな影が伸びてきた。
その影は、自分と、自分の目の前にある墓標の影を全て飲み込んでしまうくらい、大きな影だった。
「君が、マリオスの息子か?」
「……はい?」
どこかで聞いたことのあるような、低くて力強い声だった。
ゆっくりとした動きで振り返ると、そこには屈強な鳥人の男が立っている。
「ふ、ふくだんちょ……っ、じゃなくて、団長!」
ユーリッドが慌てて敬礼すると、アドラは首を横に振った。
「今はまだ、マリオスが団長だ。私は正式には団長ではない。君は……確かユーリッドだったか?」
「あ、はい! ユーリッドです!」
緊張しながら、ユーリッドは精一杯声をあげて返事をした。
今年やっと十一を迎え、まだ雑用しか任されていないようなユーリッドが、まさか次期兵団長に声をかけられるなど、思ってもみなかったのだ。
アドラはユーリッドのそばまで歩み寄ると、その場に屈んで目の前にある墓標を指差した。
「この墓は、君が建てたのか?」
「はい、そうです。といっても、何か埋まってるわけではないので、ただの墓標ですけど……」
「そうか……」
太めの枝を十字にして建てただけの、ただの墓標。
ミストリア兵団、前団長であった父マリオスのものだったが、そこに埋められるものは何もなかった。
「遺体を持ち帰ることができなくて、本当にすまなかった……。マリオス団長が亡くなったあの日、私もその場にいたんだ。しかし、私の力では、どうにもならなかった……」
そう謝罪するアドラの存在が、突然小さく儚いものに見えて、ユーリッドは目を見開いた。
「私は、君の父君に本当に世話になっていたのだ。だから今日は、一人の部下として、礼を言いに来た。本当にありがとう。そして、すまなかった」
「い、いえ……」
ユーリッドは、何と返事をすればいいのか分からず、微かに俯いた。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.23 )
- 日時: 2016/08/24 13:39
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
父が死んだというのに、不思議と涙が出なかった。
死因も分からず、遺体も見ないまま、ただ「マリオス団長が殉職した」と聞かされただけだったから、まだ実感が沸いていないのだろうか。
それとも自分は、父の死を嘆けないほどに薄情だったか。
色々と考えを巡らせてみるも、結局しっくりとくる答えは見つからない。
ただ、そんな中で、一つだけ分かったことがあった。
それは、自分の中のマリオスが、思いの外曖昧な存在だということだった。
ミストリア兵団の団長を勤める父を、ユーリッドはずっと誇りに思っていた。
自分が兵団に入ったのも当然父の影響だったし、父のようになりたいと思っていたのも事実だ。
しかし、常に兵団にいた父と過ごした時間などほとんどなく、一体マリオスがどのような獣人だったのか、分からなかった。
それなら、自分は父のどこに憧れを抱いていたのだろう。
もしかしたら、団長という肩書きだけに抽象的な憧れを抱いて、ただ漠然と、曖昧な父を追いかけてきただけだったのかもしれない。
だから、本当は父のことをそれほど大切に思っていなくて、それで涙が出ないのか。
そう思うと、無性に自分に腹が立った。
「……俺、ひどいやつなんだ」
ぽつりと呟いてから、しまったと思った。
口に出すつもりなどなかったからだ。
「なぜ?」
「…………」
アドラに聞き返されて、ユーリッドは黙りこんだ。
言うつもりがなかったことだから、先の言葉が見つからない。
しかし、黙っているわけにもいかないと、ユーリッドは墓標に視線を落とし、口を開いた。
「……俺、父さんのこと誇りに思っていたし、目標にもしてました。でも今考えたら、父さんのどこに憧れてたのか、分からないんです」
アドラは口を閉じたまま、ただ俯くユーリッドを眺めていた。
「父さんみたいになりたいって、ずっとずっと思ってたはずなのに。俺、父さんのこと知らないんです。だから、自分でもひどいやつだって思うけど……父さんがいなくなったのに、大切なものを失ったように思えない。父さんのこと、全然思い出せないんだ……」
ユーリッドは、くしゃりと顔を歪めた。
それに対してアドラは、ふっと一つ息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
「……それで良い」
「え……?」
予想と違った答えに、ユーリッドは瞠目して、アドラを見上げた。
アドラは、無表情だった。
「我々兵士のすべきことは、召喚師様の手となり足となり、ミストリアのために戦うことだ。死者を悼むことではない。そうだろう?」
黙ったままのユーリッドの頭に、アドラはぽん、と手を置いた。
「我々には、いつまでも死者を思い、悲しみに浸っている暇はないのだ。その悲しみが、己の剣を鈍らせるというのなら尚更な。故に君の“ひどい”は、兵士としては、間違えではない」
落ち着き払った声音に、わずかに寂しそうな音が混じっているような気がした。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.24 )
- 日時: 2017/08/22 12:29
- 名前: 狐 (ID: C8ORr2mn)
アドラは、そのままユーリッドに背を向ける。
しかし、「……だが」という言葉と共に頭だけ振り返った。
「……君の父君は、本当に素晴らしい方だった。強く、勇敢で、いつも君のことを気にかけていたよ」
「……父さんが?」
わずかに震えた声で聞き返すと、アドラは深く頷いた。
それから、再び前を向いた。
「君も私も、他の皆も、これからマリオスを過去のものとして忘れていくのだろう。しかし、君にこれだけは覚えていて欲しい」
「…………」
「父君は、君の尊敬に値するお方だった」
それだけ言って歩き始めたアドラの背を、ユーリッドが追いかけようとしたとき。
ふと、強く風が吹いた。
「あ……」
ふわふわと、薄桃色の花弁が舞う。
それらがまるで渦のようにアドラを取り囲んで、そのまま彼を飲み込んでしまいそうだった。
「副団長……!」
ユーリッドが叫ぶと、アドラが振り向いた。
踊る花弁に隠されて表情は窺えないが、その嘴(くちばし)が、言葉を紡いだように見えた。
しかし、風の音でその声は聞こえない。
「ありがとうございます……っ、父さんのこと……!」
アドラは、寂しげに笑った。
そしてもう一度、その嘴が動く。
けれど、あの穏やかな低い声は、やはり風の音で聞こえなかった。
「団長……!」
追いかけなければと強くそう思ったが、走っても走っても、何故か前に進めなかった。
その一方で、花弁は意思を持っているかのように、どんどんとアドラを包み込んでいく。
このままでは、アドラがどこか遠くに拐われていってしまうような気がした。
——団長、待って……!
——消えないで……!
「────アドラ団長……っ!」
「──ん……くん、ユーリッドくん!」
「あっ……!」
びくりと跳ね起きると、甘い花の臭いが鼻孔にまとわりついた。
同時に、腕に草がいくつか付着しているのを見て、自分が草の上に寝ていたことに気づく。
どうやら、外で眠っていたらしい。
夜の冷たい空気にぶるりと身を震わせて、汗のにじむ額を拭いながら、ふと横を見た。
そこには、銀髪の青年がこちらの様子を窺いつつ、座り込んでいた。
その掌では、薄桃色の花弁が弄ばれている。
「……ルーフェン……」
「おはよ。大丈夫ー? すごいうなされてたけど」
(……あ、夢か、さっきの)
うなされてた、という言葉でそう自覚して、ユーリッドは脱力したように、再び草の上に大の字になって倒れた。
「……ルーフェン。なんで、ここにいるんだ?」
寝込む前は自分しかいなかったのに、という意味を込めて尋ねると、ルーフェンは掌の花弁を見たまま答えた。
「んー? そりゃあ、ここ俺の家の前だし? あとファフリちゃんが心配してたから、探しに来た」
「……ファフリが?」
「うん。ファフリちゃんは今、夕飯作ってて、手が離せないってさ」
「……そうか」
ユーリッドは、ふうっと息を吐いて、小さく返事をした。
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