複雑・ファジー小説

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妖怪屋は嫌われ者
日時: 2014/12/15 22:29
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)


この日本という国はある時から、死と隣り合わせの国になった
1999年。突然、空には黒い渦ができ、
その中からは恐ろしい妖怪たちが現れた

いきなりのことで、人間はなにも抵抗をしないまま一週間が過ぎ、
多くの人間が命を落とした
しかし、その黒い渦は特別な力を持つ人間に封印された
今、その黒い渦はどこにあるのかわからない


「あなたたちの名前はなんですか」
「・・・・シロ」

シロと名乗った5人の人間は、のちに奇跡のシロと呼ばれた
この世界に降り立ってしまった妖怪を倒すシロボシという施設をつくり
妖怪たちを退治する活動を始めた

今、シロはどこにいるのかわからない


『妖怪襲撃とシロ』



「・・・これ、最近よくテレビでやるよね」
「妖怪襲撃事件の日が近いからだろ」
「ふーん・・・あ、次の仕事は?」
「地縛霊のやつ」
「あ、それ結構数いるやつ?」
「ああ、そうだな」
「マジ?なら早く終わらせて・・・また、おかし作って」
「わかったから、ほら、行くぞ」
「はいはい」


シロボシとは違う、独立した妖怪退治をする者
ソラボシ、通称妖怪屋



設定

紅刻 星 こうごく せい 女 15歳
ソラボシのリーダー 紋章のついた赤いペンダントをつける
得意技は魔法を使った直接攻撃

月形 空 つきがた そら 男 15歳
ソラボシの副リーダー 紋章のついた青いペンダントをつける
得意技は剣を通しての物理的攻撃

一風 音葉 いちかぜ おとは 女 20歳
妖怪に関する情報屋 使い魔を何匹も持つ 主にソラボシに協力する

ケセランパセラン ぐー、ちー、ぱー
猫又 ニーナ、ニーカ、ニースケ、ニーコ などなど

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.38 )
日時: 2016/03/16 12:57
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

私もそれを追って部屋から出ると、モニターを見るホールには大勢の人がいた
こんなにいたんだ・・・
そんなことを思いつつ、染井君を追おうとしたとき、急に人がつめかけてきた

「あの、僕と対戦してください!」
「あ、私も!」
「俺も!」
「え、」

シロボシの人は向上心の高い人が多いらしい
っていうか、早くいかないと染井君においつけない・・・
どうにかここを切り抜けようと、必死に考えている最中、あきれ顔の空をみた

・・・ひらめいた
大きく息を吸い込むと、私は声を張り上げた

「空、あとは頼む!」
「・・・は?」

人の視線が空に向いた一瞬の隙
そこを狙って出口へと人ごみをかき分けて向かう
どうにか出ることができて、ため息をついた

空には申し訳ないけど、人のこと馬鹿とかいったバツだ
・・・それにしても、すごい大雨
結構冷たい
早く見つけないと、私も染井君も風邪をひいてしまう


雨音の中、かすかに聞こえる染井君の足音を無我夢中で追った



必死で追いかけて、大きな木の下でうずくまっている染井君を見つけた
息を切らしながら、ゆっくりと彼に近づく
木の下は全くと言っていいほど雨が降らなかった
まるで傘みたいだ

そんなことを思っていたとき、か細い声が雨音の中に響いた


「・・・なんで、来たんだよ」
「・・・どうしてだろう。うーん・・・しいて言えば、昔の私に
 染井君がそっくりだったから、かな?」
「・・・あんたと僕が、似てる?」

「そう。・・・自分はたいていの奴に負けない、すごい奴だって。
 そう思ってた。自分はほかの奴とは違うって」

本気でそう思っていた
空に叩きのめされる時までは。
空は隙がなくて、自分の力量に過信しないで、欠点もいい点も全部見ていた。
だから、強かったんだ。
空にあったことで、自分の愚かさを知って、負けることの悔しさを知って
本当の強さを知った。


「倒されて初めて、自分が間違ってたって気づくんだ。
 染井君にその機会を与えたかっただけなの」
「・・・余計なお世話だ、」
「そうかな。・・・今のままアカボシと戦ってたら、君がどうなってたか教えてあげようか?」

「・・・どうなってたっていうんだよ、」
「・・・きっと、殺されてるよ、」


雨音がやけに大きく聞こえた
きつい言葉だと、我ながら思う。でも、事実だ。
相手を見下すことは、油断することだ
きっといけるっていう根拠のない甘え。
それが、自分の命を自分で消すことになる

「・・・僕は、S級になってもまだガキだからって、バカにされてきた
 だから、そいつらに弱くみられたくなくて・・・
 けど、僕もあいつらみたいな、最低な奴になってた
 ・・・・・ごめんなさい」

小さく、弱々しい声だった
染井君はずっと強がってただけだったんだ
それが悪い方向に行ってしまった、ただそれだけのことで
もともとは朝日みたいに素直で優しい子なんじゃないだろうか

「・・・それはさ、今まで傷つけた人に言うべきだよ。私じゃない」
「・・・うん、」
「・・・もどろうか」
「・・・わかった」

染井君はごしごしと目元をこすってまっすぐ前を見た
・・・昨日までとは違う、いい目をしていた

「・・・ああ、そうだ、染井君」
「何?」
「思ってたよりずっと手ごわかったよ」
「・・・調子いいよ、瞬殺したくせに」
「そりゃあ、まあ経験が違うからね」

「・・・いつか絶対倒してやる。今度対戦、また付き合えよ」
「いーよ。うけてたつ」

得意げに挑戦的な笑みをうかべる染井君に向かって
私は好戦的な笑みを浮かべる
いつの間にか、大雨はすっかりやんで、虹が出ていた



「・・・おい、星」

空の低い声が、シロボシに入った瞬間聞こえてびくっと震えた
あー・・・すっかり忘れてた

「お、お疲れ様です、空さん」
「・・・本当に、疲れた。おやつはなしだな」
「えー!!」

この日一番悲しい出来事は空のおかしがないことだった
ちなみに、空はC級からA級をあらかた相手したらしく・・・
とんでもない人数だったけど、全勝だったと真から聞いた

さすがだなぁ、と思ったのは言うまでもない

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.39 )
日時: 2016/03/17 13:38
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<次の日>

「星、空」
「あ、真。昨日どこ行ってたの?」

作業をしている中、珍しく真が話しかけてきた
真は普通人が何かをしているときは話しかけてこない

それも気になったけど、昨日真は作業が始まるときには忽然と姿を消していた
別で白井さんから任務を受けているらしいけど、詳しい内容は誰も知らない


「少しいいかな。話がある」

いつもはどこかひょうひょうとしている真が、いつになく真面目だ
私と空は顔を見合わせてから、真を見て頷いた


どのくらい歩いただろうか
黙ったまま、もくもくと歩き続ける真に、空が痺れを切らし、口を開いた

「おい、真」
「何、作業のこと?それなら白井さんに話は通してるから大丈夫だけど」
「そうじゃない。いつまで黙って歩いてるつもりだ
 しかも、こんな森の中」

「黙って。・・・邪魔はしたくない」
「邪魔?」
「・・・ほら、」


さほど大きくない銃声
木の葉をかき分けてそっとみてみると、そこには朝日がいた
的に向かって銃を撃つそのそばに愛がいて、指導をしているみたいだ

さらに奥の方では明里と、すっかり回復した太一が模擬戦をやっている


「・・・実は、二人に教えたんだ。奇跡のシロのことも、
 その一人が彼らの母親だってことも
 ・・・僕たちも同じだってことも全部」
「え!?」

「黙っててごめん。ただ、いまが言う時だと思ったんだ
 君たちがそれを伝えるより、僕が伝えた方がダメージも少ないし」
「真、」
「君らにはとてつもなく重い物を背負わせた。僕はなにもしてない
 ・・・せめてもの、罪滅ぼしってやつだよ」


「・・・何、いってんの」
「・・・星?」
「重い物って何。ダメージってなに。・・・重いも軽いもないでしょ
 背負ってるものは、みんな同じだよ」

それぞれがつらいものも、悲しいことも、楽しいことも、経験も全部違う。
違うけど、つらいものはつらくて、悲しいものは悲しい
そのことに違いなんてないし、重さなんてない


「いっつも、いっつもそうだよね。真は。
 ダメージとか、細かい事ばっかり考えて、最後は自分で背負いこんで
 ・・・・頭いいのに、馬鹿」
「馬鹿って・・・」

「頼ればいいのに。こんなに心強い仲間が4人もいるんだから」
「・・・そうだな。真だって、ソラボシの一員だろ」
「え・・・」

「お前が外国に行ってる間、ソラボシができたそのときからずっと
 月影真は長期休暇中だ」
「そうそう。そろそろ休暇はやめにしたら?」

「・・・ほんとに、僕は」
「仲間に決まってるでしょ。みずくさいよ!」

背中を軽くたたくと、真は笑顔になりながら、いつもどおりの皮肉を言う


「・・・まさか、君に馬鹿よばわりされる日がくるなんてね」
「一言多い!」

けれど、その皮肉は真にとってのありがとうだ。信頼の証
わかりにくいようで、真は意外とわかりやすい

「・・・真、明里と朝日はそれをきいてなんていってたんだ?」
「ああ、二人とも驚いてはいたけど、ちゃんと受け止めてたよ
 染井君の手下?みたいなやつにやられたこと、相当悔しがってた」
「そうか・・・」

「・・・君、子供嫌いじゃなかったっけ?」
「真がいない間にいろいろあったんだよ。ねー?」
「お前が半分強制的にやったんだろ・・・」


その様子をみて思わず笑いそうになるのを必死でこらえた
真も同様にしていたけれど、何かに気付いたように口を開く


「あと、君らに話っていうのはそれだけじゃないんだ
 アカボシのメンバーがだいたい把握できた」
「え、ほんと!?」

「うん、アカボシのメンバーは5人。一人一人の特色は不明だけど、
 桁違いの強さを持つことにはかわりない
 名前は朱音、七世(ななせ)、知早(ちはや)、一花(いちか)、飛鳥(あすか)
 女3人、男2人。それと、重大なことがわかって、」


キィンッ!

金属がこすれあうような音が頭の中で響いた
九尾の狐からもらった玉がやけにあつい


「ちょっと待って。・・・その話はあと」
「どうした?」
「九尾の狐が、助けをよんでる。今すぐ行かないと・・・!!」

「まって。・・・どんな奴かわからない。僕が転送魔法を使う
 君は温存してて」
「でもっ、」
「ソラボシのリーダーは星なんでしょ」

有無を言わせない強い光
こういうところ、真は空にそっくりだ

「・・・わかった。お願い」
「場所は?」
「暁村」
「わかった。・・・転送魔法」


大丈夫かな・・・
九尾の狐の優しく、力強いまなざしが脳裏に浮かぶ

・・・絶対助けなきゃ・・・!!

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.40 )
日時: 2016/03/17 13:54
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

久しぶりの暁村
自然と陽だまりのにおいであふれていた
・・・前までは


「・・・な、に。これ・・・」

血のにおいで、そこは満ち溢れていた
その中に隠れるのは、死のにおいだ

「いったいどうなってるんだよ・・・前来た時は普通だったんでしょ」
「うん・・・」

村の中に入ると、たくさんの人たちが倒れていた


「・・・この傷、」
「空?」
「・・・刀だ。間違いない」

睨みつけるようにして、空はあたりを眺めた
このひどい惨状のどこに元凶がいるのかを探しているようだった


「・・・空、」
「二人とも、いってきな」
「真?」
「星は九尾の狐を助けないといけないし、空は同じ刀を使う者として、
 戦うべきだと思う。手当はまかせて、いってきなよ」

「・・・悪い、真」
「ありがとう!!」


私は空と一緒に走りだした

「空、見えてる?」
「ああ、相手は刀から落ちた血をのこしてる」
「そっか・・・」
「・・・許せない」
「・・・うん、私も」

許せない気持ちはみんな同じだ
倒れている人の中には、この間涙を流して感謝の言葉をくれた人もいた
・・・負けられない

しばらく走っていくと、森にたどり着いた
木の枝から枝へ飛び移っていくと、だんだん魔力が強くなってきた
相手は妖怪じゃない、妖怪特有の妖気がないから

つまり、これは・・・


「・・・人間の、仕業」

森の中にぽっかり空いた草原の様な場所
そこには刀から血を垂らす一人の青年がいた
私たちと同じくらいの年みたい

そして、そのそばには血で赤く染まった九尾の狐

「狐さん!!」

私は九尾の狐と青年の間に割って入った
空の制止の声が聞こえた気がしたけど、耐えてなんかいられるわけない

黄金色に輝いていた毛はすっかり血の色に染まり、傷も相当な深手だ


「あ?だれだぁ?そいつは俺の獲物だ、とるんじゃねぇよ」
「なんでっ・・・なんでこんな・・・」

ぎっと相手を睨みつけた
返り血で染まった黒いパーカー。包帯で見えなくなっている右目

そいつからはとんでもない魔力と覇気が感じられた


「あーめんどくせぇな。質問に答えねぇなら二人とも串刺しだなぁ!」

黒い刀が振り下ろされる瞬間だった


ガキンッ!!


「・・・やめろ、」
「ああ?三人目かよ・・・」
「おい、星。九尾の狐を避難させてくれ」
「空・・・?」


「・・・こいつは、俺が相手をする」


・・・なんだ、これ
空から出ているのは、怒り?高ぶり?憎しみ?
・・・どれも、違う

きっとこれは、空の剣士としての、プライドと誇りだ


「・・・わかった」


私は九尾の狐を背負ってその場から立ち去った

ドクドクと脈打つのがわかる。血は今も絶えず流れているだろう


「狐さん、死んじゃだめだよ。絶対助けるから・・・!!」

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.41 )
日時: 2016/03/18 14:06
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<by空>

「あーめんどくせぇ・・・朱音の奴、簡単だからすぐ終わるとか言って
 たくせに、全然違うじゃねーか」

のらりくらりとしているようにみえて、こいつにはスキがない
相当強いってことは一目でわかる

「・・・まあ、てめぇをさっさと殺しちまえばいいだけかぁ!!」
「空ノ神・星空」

刀と刀とがぶつかり合い、火花が散った
一発一発がかなり重い
油断したら、もっていかれそうだ
受け流して、反撃の機会をうかがう


「星の鎖、」

刀から黄金色の線がいくつか出る

「おらっ!!」

相手が懐に飛び込んで向けてきた剣先を受け流して、それをよける
その瞬間、相手がにやりと笑った
ふいにおこる風

ぞわり、と背筋に悪寒がはしり、反射的にその場から飛び退いた


「っ!」

肩のあたりがほんのすこし痛んだ
みると、赤い線がぴっと入っていて、血がにじみ出ているのがわかる

「どうだ?俺の鎌鼬(かまいたち)の味は」

鎌鼬、聞いたことがある
鎌鼬の呪いがかけられている、妖刀・鎌鼬
自然にある風を瞬時に凶器に変え、つくられた鋭い風は肉を深くまで裂き、金属に切れ目を入れてしまうほどだ

威力に関してあまり注意しなくていい代物だが、それも使い手による
今、目の前のこいつが使っているうちは威力にも要注意だ


「しかも、この刀は特別だからなぁ・・・つけた傷は治癒魔法を使ったって、すぐには治らねぇ。
 こいつでいたぶってやるよ」
「・・・そうか。なら、すぐに終わらせる、」

すらりと刀をなでてから、相手との距離を詰めた
その間に出される鋭い風をよけ、刀を振り上げる

ガキンッ!!

「残念だなぁ、」
「・・・さあ、どうだろうな」
「あ?」


今度、笑うのは俺の方だった

「貫け、」

刀から出ていた黄金色の線が相手を襲う

「おぉっ!?」

何発かはよけたみたいだが、数発かすらせられた
それにしたって、相当な数があったのにかするだけか・・・
やっぱり、ただ者じゃない

相手は自分の体から滴る血を手でぬぐった
次が来るかと身構えたとき、相手の体が小刻みに震え、
最後には大声で笑いだした


「ああ、おもしれぇ、久しぶりにおもしれぇやつだ。
 ・・・お前、最高だよ。ますます殺したくなってきた」
「・・・お前、さっき朱音って言ってたな。お前もアカボシか」

「ああ、そうだよ。俺はアカボシの七世。・・・今思い出したぞ、
 お前、知早がいってたソラボシの剣士か」
「・・・ああ」
「ってことは、さっきの奴が紅刻星だな。
 朱音のやつが珍しく執着してる。そうかぁ、あいつがなぁ・・・」

「・・・何が目的だ」
「あ?何怖い顔してんだよ。星ってやつがそんなに大切か?
 別にそいつは今日殺すつもりなんて毛頭ねぇ。
 今はてめぇを殺したくて殺したくて仕方ねぇんだ
 ・・・なあ、ソラボシの剣士」

殺気を感じる
脅しなんかじゃなく、目の前のこいつは本気だ

刀を再び構えた、そのときだった



「空!!」
「・・・星、」

九尾の狐を助け終ったようで、星が戻ってきた
そして、後ろからは遅れて真もきている

「げ、三人せいぞろいかよ・・・あー・・・さすがに分がわりぃな」

頭をぼりぼりかいたあと、俺や星、真をじろりと眺めた


「・・・やめた。てめぇを殺すのは今度だ、空」

にやりと笑って、剣先を向けられた
血にまみれた刀がものものしい空気を出している


「さっきの質問に答えろ。何が目的だ、どうして無関係な人まで傷つける?」
「・・・無関係?つまんねぇこというな。
 あいつらには立派な罪があるじゃねぇか」
「罪・・・?」


「妖怪を嫌う。それが罪だ」

「・・・なにを、言って・・・」
「妖怪を嫌うってことは、傷つける可能性があるっつー話だろ?」

衝撃だった
がつんと、固く重たい物で頭を殴られたような気分だ
真が睨みつけながら口を開く


「そんなことで、人を殺したっていうの」
「そんなこと、だって?・・・クソ甘いやつらだな
 芽を摘むなんて甘いこと言ってっから、足元すくわれんだ
 とりかえしのつかないことになんだよ
 それなら、根ごと焼き払った方がいいに決まってんじゃねぇか」


絶句するなんて言葉、どこで使うんだと思っていた
でも、それは今この状況のことこそがそうなんだろう

違うなんてことはとうの昔にわかっていて、
ただ、それをさも正論のように言われれば自分がおかしいのかと、どこか錯覚してしまう


「・・・まあ、それだけが理由じゃねぇ。九尾の狐を味方に入れるため
 なんていう理由もあったんだけどなあ・・・
 断りやがったから、頭に血が昇っちまって・・・
 ザックリやっちまったってわけ」
「っあんたね、」

「説教でもする気か?なら俺はさっさと帰る。それじゃあな
 ・・・またあそぼうぜ?」
「おい、まて!!」


そういったとき、もう七世は森の中にあふれた霧の中に消えて行ってしまった

ぎりっと鞘に収まった刀を握り締める
いろいろな感情と憶測がまじりあって、なかなか整理がつかなかった


「・・・真、そっちは大丈夫だったの?」
「まあね。大半は息があったから、助けられたけど・・・
 もう、手遅れだった人も、何人か」
「・・・そっか。狐さんも無事。相当傷は深いけど・・・」

「シロボシの人たちももうすぐ来るから。
 落ち着いたら事情を説明しないとね」
「うん。・・・空、大丈夫?」


「・・・ああ」

もやもやする、煮え切らなかった
どうしようもないこの気持ちを、どこに追いやればいいのか
さっぱりわからない


頭の中には、七世のけたたましい笑い声が、妙に印象に残っていた

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.42 )
日時: 2016/03/22 14:08
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<by星> 次の日

あれから、また会議が開かれた
そこで新しく知ったのは、空と戦ってたのが七世っていうアカボシの人で
暁村の人たちや狐さんを傷つけたのもその人だったってこと

さらに、アカボシは大領の妖怪を一か所に集めようとしていることが分かった
これがきっと、真がいいかけてた重大なことの正体だと思う

しかも、その場所って言うのは奇跡のシロが最強の妖怪と戦った場所
そこには大量の魔力が眠っていて、妖怪の力をより強くする
力を強くした妖怪は危険だ、一般の人に被害が出る可能性もある

だから、そのために作戦を立ててたんだけどソラボシは見事にバラバラにされてしまった
5つ入口があるから、それぞれ別々の入り口から入ることになる


何か目的があるんだろうけど、白井さんも誰かを傷つけるような真似はしたくないはずだ
アカボシを止める最善の策を考えた末の判断だと思う


チームはあした発表ってことだから、今日はソラボシに休暇が与えられた
けれど、過ごすのは個人でバラバラだ
私は暁村の森に向かっていた



うっそうとした木々は風に揺られて柔らかい音を奏でる
この森の中で一番長寿であるはずの大木の前に私は立った

「・・・狐さん、私、紅刻星です。出てきて」

そういうと、ゆらりと空気が揺れて九尾の狐が現れた


「傷は大丈夫?」
「私は妖怪です。あのくらいの傷はすぐに治ります」
「本当?なら、よかった・・・」

確かに、深かった傷はだいぶふさがっている
ほっと胸をなでおろすと、私は狐さんの目をじっと見た


「・・・お願い、聞かせてほしいことがあるの」
「なんですか?」
「・・・アカボシの七世に、あなたは何を言われたの?」

「・・・あの青年は、妖怪を守りたいと言いました
 そのために力を貸してほしいと。
 シロボシとあなたがたを倒す手伝いをしてほしいと言われました」
「それを、狐さんは断ったんだ?」


「シロボシは関係ありません。が、あなた方には恩があります
 それを仇で返すようなことはしたくなかったのです
 かといって、私はその戦いに入るつもりなどありません
 あくまでこの森を守るものとして、中立であり続けます

 ・・・もちろん、あなたに力を貸す分には問題ありませんよ」
「・・・ありがとう。狐さん。あともう一つだけ
 狐さんから見た、彼の印象は?」


そう聞くと、狐さんはふっと目を閉じて、少し考えてから口を開いた

「彼から刺されるその瞬間まで、さっきは感じませんでした
 心から私をいたわるような、信頼しているものに対して話すような。
 だから油断してしまったわけですが・・・

 彼は心の底から妖怪を愛しています
 反対に、同族である人間を嫌っているような気がします」
「それは、なんで・・・」

「そこまではわかりかねます。
 ですが、普通自分と同族の者に心を開かず、違う者に心を開くことはありません
 過去に同族を嫌い、妖怪を愛するようになったきっかけがあるのは間違いないと思います」

「・・・わかった。本当にありがとう。助かったよ」
「・・・星、」
「なに?」


「・・・もし危険だと判断したなら、逃げ出す勇気もこれからは必要となるでしょう
 悔しくても、そこで命を投げ出すような真似は絶対にしてはいけませんよ」

「・・・わかってるよ。心配してくれてありがとう。それじゃ」


私は手をひらひらと振ってその場から立ち去った


「・・・わかってるなら、いいのですが・・・」


九尾の狐は一人の少女の立ち去る背中を見て、初めて弱くもろいと感じた



「あー・・・このあとどうしようかな」

今日するつもりだったことはこれで終わりだ
でも、いくらなんでも時間があまりすぎている

とりあえず、ここから出よう
そう思ったときだった


何かが、近づいてくる音。・・・それもものすごい速さで
逃げようと思ったけど、もう逃げられない


「結界!」

結界を張った瞬間、すさまじい衝撃が走った
すこしでも気を抜いたら割られる

「くっ・・・」

びりびりとしびれる両腕
重さがすっとなくなり、私は一定の距離を取った


「・・・誰?」

ケープについたフードのせいで顔がよく見えなかった
その人の周りにさらに3人が降り立つ
4対1・・・さすがに分が悪い


「・・・さすがね、紅刻星」
「え・・・西田さん!?」

私に攻撃を仕掛けてきたのは西田さんだった
この人は空を攫ったり、明里を攫ったり、ひどいことをしてきた人
でも、昨日の会議が終わった後、私たちに謝罪してくれたんだ

そのあと音葉さんのところにもいって謝ってくれたし、
本当は後悔していたと、自分の弱さが悪かったって素直に伝えてくれた


「いったいこれは・・・」
「先ほど、会議で決定したの。紅刻さん、あなたは西田班に入り、
 正面入り口から妖魔塔へ入ります
 よって、計画実行までの三か月間、あなたは西田班とともに行動します」


妖魔塔とは、アカボシが妖怪を集めようとしている場所だ

「チームは明日発表だったんじゃないんですか?」
「そうだったんだけれど・・・テストがてら、今日からということになったの
 どう?入ってくれるかしら、」

にっこりと大人の笑顔をうかべる西田さん
でもその表情の中には不安が見え隠れしていた
まだ気にしているのかな、私たちを傷つけようとしたこと

もう謝ってくれたんだから、気になんてこっちはしていないのに



「はい。よろしくお願いします」


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