複雑・ファジー小説
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- 妖怪屋は嫌われ者
- 日時: 2014/12/15 22:29
- 名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)
この日本という国はある時から、死と隣り合わせの国になった
1999年。突然、空には黒い渦ができ、
その中からは恐ろしい妖怪たちが現れた
いきなりのことで、人間はなにも抵抗をしないまま一週間が過ぎ、
多くの人間が命を落とした
しかし、その黒い渦は特別な力を持つ人間に封印された
今、その黒い渦はどこにあるのかわからない
「あなたたちの名前はなんですか」
「・・・・シロ」
シロと名乗った5人の人間は、のちに奇跡のシロと呼ばれた
この世界に降り立ってしまった妖怪を倒すシロボシという施設をつくり
妖怪たちを退治する活動を始めた
今、シロはどこにいるのかわからない
『妖怪襲撃とシロ』
「・・・これ、最近よくテレビでやるよね」
「妖怪襲撃事件の日が近いからだろ」
「ふーん・・・あ、次の仕事は?」
「地縛霊のやつ」
「あ、それ結構数いるやつ?」
「ああ、そうだな」
「マジ?なら早く終わらせて・・・また、おかし作って」
「わかったから、ほら、行くぞ」
「はいはい」
シロボシとは違う、独立した妖怪退治をする者
ソラボシ、通称妖怪屋
設定
紅刻 星 こうごく せい 女 15歳
ソラボシのリーダー 紋章のついた赤いペンダントをつける
得意技は魔法を使った直接攻撃
月形 空 つきがた そら 男 15歳
ソラボシの副リーダー 紋章のついた青いペンダントをつける
得意技は剣を通しての物理的攻撃
一風 音葉 いちかぜ おとは 女 20歳
妖怪に関する情報屋 使い魔を何匹も持つ 主にソラボシに協力する
ケセランパセラン ぐー、ちー、ぱー
猫又 ニーナ、ニーカ、ニースケ、ニーコ などなど
- Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.8 )
- 日時: 2014/12/21 21:42
- 名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)
<by空>
午前二時、丑三つ時と言われる時間
空は真っ暗で、気温はそこそこ
田舎で、空気もきれいで明かりも少ないからか、星がたくさん見える
そんな中、俺は旧校舎の扉の前に立っていた
扉に耳を当ててすませてみると、中からは誰かの話す声が聞こえる
がらっ・・・
ドアを開けると、多くの人の視線とざわめきを感じた
・・・やはり、村人全員、子供以外が集まっているようだ
「丑三つ時に村人全員で集会か、情報収集で誰からも聞かなかったな。
・・・・話を聞かせてもらう」
「貴様、なぜこの場所が・・・」
「だてに妖怪屋はやっていないってことだ。妖怪屋のいる村の中で、
堂々集会なんて随分余裕だな?」
「・・・月形様?」
聞き覚えのある声
少し視線を上げると、その声の主を視界にとらえた
それは天津旅館の女将、一宮朱里だ
「これは暁村で毎日行っている一日の反省の会なのです。
ですから、伝える必要はないと判断し、」
「反省の会?・・・笑わせるな。よくもそんな嘘を簡単につく」
「なにを、おっしゃっているのか・・・」
「お前が天津旅館の女将じゃないことはわかっている
・・・お前が人間じゃないこともな」
「・・・・・」
気持ち悪いくらい、ずっと笑顔を浮かべている
もはや、落ち着く笑顔じゃない。さっきの漂う笑顔だ
「なあ、そうだろ?牛鬼」
『・・・アア、バレテタ?』
口角がにぃっとあがり、怪しい笑みを浮かべる
村人はおびえて逃げ出す始末だ
まだ逃げない村人に向かって、俺は声を荒げた
「ここは危ないから、早く出て行け。死にたくないなら」
そういうと、村人が次々と逃げ出し、二人だけになった
牛鬼。それは人を食い殺すことを好む、頭が牛で首から下が鬼の胴体、
という姿の妖怪だ
残忍で獰猛な性格、要注意リストにものる妖怪の一つ。
「一宮朱里は仮の姿、人に憑りつくとはよく考えたものだな」
『ナゼ、我ガヒトデハナイト?』
「お前の言葉を聞いてから、おかしいとは思っていた
星のケガを見ていたのは俺とシロボシの三人だけのはずなのに」
『ソレダケナラ、我ガ袖ノトコロカラ見テイタカモシレナイ』
「それだけじゃない。お前は資料のことまで知っていた
知っていたのは朝日のおばあさんから報告を受けたんだろ?」
『ソノ通リ。アノババァハ自分ヲ殺セと言ッテキタ
ダカラソノ通リニシテヤッタンダ
本当ハアノガキヲ殺シテヤロウト思ッテイタンダガナァ
命拾イシテヨカッタナ、ト伝エテオイテクレ』
「・・・ふざけたことを言うな」
『・・・ア?』
「俺は、お前を許さない。さっさと天でも地獄でも行って反省しろ
・・・風ノ神、暴風刀」
自分の手に刀を掴ませる
刀から自分の手に伝わる霊力で少しビリビリと震える
『哀レナ・・・伝言ハ別ノ者ニ任セヨウ。貴様モ殺シテヤル』
目を大きく見開いた一宮に憑りついている牛鬼が一瞬で目の前に迫る
素早くよけて背後にまわった
そして、背中を大きく切りつける
ズシャアッ!!
『グ、アアァ・・・』
黒い血が飛び散る
傷口から黒い煙が出て、一宮の姿は徐々に変わっていた
・・・醜い、牛鬼の姿に
「それが、お前の本当の姿か」
『殺ス・・・殺シテヤル・・・』
「やってみろ。・・・受けて立つ」
日本刀を強くつかみ牛鬼に刀を向けた
敵はコイツだ、目をそらすな、見失うな・・・集中しろ
『空、剣士にとってしてはいけないことの一つはな、』
深呼吸をして、俺は一歩を踏み出す
『強くても弱くても、どんな相手だったとしても』
油断は、するな
- Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.9 )
- 日時: 2014/12/21 22:23
- 名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)
もう一度刀を振り上げて牛鬼に切りかかる
牛鬼が逃げる体制を取ったのがわかった
右か、左か?コイツの逃げる方向は・・・・・上だ
刀の刃先を上に変えて、牛鬼の腹を狙う
『ガッ・・・・アァ・・・・』
腹からも黒い血が流れるのが見える
『人間ゴトキガッ・・・フザケルナァッ!!』
「ぐっ・・・!?」
刀と牛鬼の爪がかち合う
このままだと、刀を掴まれる
そう思い、地面をけって後ろへ逃げた
『砂嵐』
ふと、自分の足元に感じた風圧
反射的によけた瞬間、耳には轟音が届いた
さっき自分の立っていた場所から渦の様な風が起こっている
風の引き込む強さに、自分の体まで持って行かれそうだ
開けっ放しになったドアからグラウンドの砂が入ってくる
渦の風が収まると、砂とホコリが混ざり合って視界が最悪だった
くそ、周りが見えない・・・
「あいつは・・・っ!」
殺気を感じて横に逃げると、頬にビリビリとした痛みがはしった
どうやら、爪で切られたみたいだ
『我ノ場所ガワカルカ?妖怪屋、ソラボシ』
体育館全体に声が反響する
目は少し開けるだけで砂が入ってくるし、牛鬼の姿をとらえられない
ズシャッ!!
「っ!?」
腕に鋭い痛み。
見ると、深く切れていて血が流れていた
「ってぇな、この野郎・・・」
強引に取り出した何かの布で腕を強く縛り、止血をする
後もう少しで星が来る
なら、最低でもそれまで俺はコイツを痛みつけないとならない
今、こっちが痛めつけられてる暇なんてないんだ
落ちつけ、目が使えなくても、まだほかに使えるものがある
気配を感じ取る感覚、空気の動きを感じる触覚、鼻は使えそうにない
・・・ほかに、耳はどうだ
耳に意識を集中させると、かすかに足音が聞こえた
音の方向は・・・右、
『ガッ・・・・ハ、ァ・・・!?』
右から近づいてきていた牛鬼を蹴り飛ばす
確かな手ごたえを感じた
「風ノ神、砂を外に戻せ」
刀から風が起こるのを感じて、あっという間に砂は外に出て行った
牛鬼の姿は丸わかりだ
『貴様ッ・・・』
「なんだ、これで終わりか?」
『シロボシノ奴ラハ弱カッタトイウノニ・・・
ナゼ、名モ広マッテイナイ貴様ガ、我ヲ・・・・』
「シロボシが強くなかった、それだけのことだろ」
『大口ヲ叩ク奴ダ・・・ソレモ、ドコマデ続クノカ』
「なにを・・・っ!?」
急に目の前が歪む
そう思ったとたん、呼吸すらうまくできなくなっていた
とっさに口元を抑える
牛鬼の口から洩れる紫の吐息を見た瞬間、全てが分かった
「お前っ・・・」
『我ノ毒ノ味ハドウダ?口ヲ抑エテモ、貴様ノ傷口カラハ今モ毒ガ
入ッテキテイル』
「・・・毒だろうとなんだろうと、そんなのは関係ない」
口から吸う毒が少なくなった分、呼吸は元に戻った
牛鬼が目の前に迫り、それをあわてて跳躍し、よける
「守りの神、治癒の力をかしたまえ」
着地した途端、目の前が大きくゆがむ
よろけて、なんとか踏み込んだ瞬間、牛鬼の手がすぐそばまで来ていた
「っしま、」
ドガッ!!
首を掴まれて地面にたたきつけられる
「か、はっ・・・」
『形勢逆転、ダ』
ギョロリとした牛鬼の目が光る
コイツの力なら、簡単に骨を折られる
「はな、せっ・・・」
『ドウシタ?サッキマデノ強サハ・・・』
口を押えていたものがなくなり、毒が体内に入っていく
また呼吸が苦しくなってきた
止血していた布を牛鬼の爪が引き裂く
『哀レナ・・・貴様ハ我ヲ怒ラセスギタ。ヨッテ・・・』
「っ!?」
ビリビリとした痛みが腕からはしる
さっきの腕の傷に牛鬼の爪があてられ、毒を出していた
『コノママ、苦シミ抜イテ死ネ』
視界がかすみかける
その視界の端の方、見覚えのある姿
・・・やっと、来たか
このままでいるわけにはいかないな・・・
「死ぬのは、お前だ。牛鬼」
『・・・何ヲ、今サラ』
ドスッ・・・
『ナ、』
鈍い音と確かな手ごたえ
刀は牛鬼の腹を貫いた
『貴様ァッ・・・!!』
「あとはやれよ。・・・星」
その時にはもう牛鬼の背後に来ていた
月の逆光で黒い影になって見えるけど、確かにアイツだ
「なにしてんの、」
『ガ、ハッ・・・!?』
牛鬼の横腹に星の足があたり、横に吹っ飛んでいく
「人のものに手、出さないでくれる?」
「おい、いつから俺はお前のものになった」
「空だって、前私のことそういったじゃん」
「それは状況が状況だっただろ」
「そんなのしりませーん」
余裕の笑顔
なぜかわからないけど、こいつの笑顔には飽きれて、痛みすら忘れる
「・・・空、いける?」
「ぎりぎりな。お前、仕事が遅い」
「ごめんって。説得に時間がかかってさ・・・ちゃんと連れてきたよ」
視界に入ったのは白銀の長い髪、白と赤の袴
・・・そして、9つの尾
『・・・随分汚い場所ですね』
「九尾の狐さん」
- Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.10 )
- 日時: 2014/12/23 22:05
- 名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)
ほんとに連れてきた
俺は驚きつつ、あきれていた
妖怪を説得して連れてくるなんて、並大抵の人間じゃできない
・・・まあ、そんなことをいえば星は調子に乗るから言わないけど
「当然だ。これだけ時間をかけたんだから」
もともと星の考えた作戦は、後の手間をはぶくためだった
昨日、森を荒らされたせいで九尾の狐が苛立っていることを星は感じた
といっても、森のそばに行ったとき、その声を聞いただけらしいが。
そこで九尾の狐にもその森を荒らした奴・・・牛鬼を倒すのを九尾の狐
にも手伝ってもらおうと考えたわけだ
ありえない発想ではあったけど、星には妖怪と和解する資質がある
それを生かしての作戦だった
・・・現に、こうして九尾の狐を連れてきてしまっているわけだしな
『九尾ノ狐、ダト・・・!?』
『・・・牛鬼、お前が私の森をけがしたのですか』
『ソウダ。我自身ノタメニ利用シタノダ』
『私の森でおかしなことをはたらくのはやめていただきたい』
九尾の狐の赤い瞳が強い輝きを放つ
そうとういらだっているのは確かだ
『知ルカ、ソンナモノ』
「どうして?なぜ、こんなことをするの?」
次に口を開いたのは星だ
『ナゼカ、ダト?ソレハ、我ガ楽シイカラダ』
「・・・は?」
『人ノ悲鳴、無駄ナ抵抗、ナニモカモ、面白イダロウ?』
「・・・あなたは、命をなんだと思ってるの?」
『我ノ食糧ダ。ソレ以上デモ、以下デモナイ』
「・・・お前、そんなことのために人を殺してきたのか」
『ソウダ』
「牛鬼、あなたの殺した人には家族がいた。友人もいたし未来もあった
・・・それを断ち切る資格は、お前にない」
星から殺気を感じた
・・・完全にキレてる。これはもう、俺が何を言ってもムダかもな、
「九尾の狐さん、力を貸してくれる?」
『いいでしょう。あなたの力になります』
「ありがとう」
星が手を突き出し、その手をペンダントに当てる
九尾の狐は光る玉になり、すっとペンダントの中に入っていった
「空、地獄の扉開けるの、まかせた」
「・・・やりすぎるなよ」
一応くぎを刺しておく
星はほんの少し笑って口を開いた
「・・・手加減はするつもり」
その言葉を聞いて、やる気満々だと思った
<by星>
体が熱い
そこから湧き上がってくる力に感動していた
「狐さん、すごい霊力だね・・・」
『それはよかった。・・・早く決着をつけなさい』
「・・・了解しました」
体がうずく
それはもう、震えあがりそうなほど
『貴様ハ・・・』
「ソラボシの紅刻星。シロボシの3人、さっき森の中で死んでた
やったのは、お前?」
『ソノ通リ』
「できることなら、地獄になんておくりたくないんだけど・・・・・
仕方ないかな」
『フン、貴様モ我ノ毒デ・・・!?』
「毒はもう使えないぞ」
『ナニ?』
「さっきの腹に刺した剣に札をはっておいた。毒を封じ込めるものだ」
・・・ってことは、その札は今、牛鬼の腹の中
「・・・だって。どうする?牛鬼」
『貴様、殺スッ・・・!!』
「ばーか、そんなことさせるわけないでしょ」
迫りくる牛鬼に向かって手を突き出す
「業火」
『グ、アアッ・・・!?』
大量の炎を牛鬼に浴びせる
その後、続けて口を開いた
「変化せよ、鬼火」
『ナ、ンダ・・・!?熱イッ・・・焼ケル、我ノ、体ガアッ・・・』
「空、」
「ソラボシの名のもとに、開け、地獄の門」
空が剣を地面に突き刺すと、燃える牛鬼の下に黒い空間が現れた
『ア、アァ・・・我ガ、我ノ、体ガァッ・・・』
その黒い空間に沈み始めた瞬間、牛鬼を燃やす炎も強くなった
『ナゼ・・・』
「それは地獄へ続く門。罪深き者の行く世界だ」
「この炎はお前の罪の大きさによって強くなる。
つまり、何人もの人を殺めたお前の罪は、」
『ア、アアァァ・・・・』
「重すぎて、地獄にたどり着く前に死んじゃうかもね
それもいいんじゃない?自分の罪に殺されるんだからさ」
そういったとき、牛鬼の体はもう黒い空間に飲み込まれてしまっていた
「・・・まあ、そんなことあるわけないけど」
せいぜい反省してください
「ありがとう、狐さん」
ペンダントから九尾の狐がすっと抜ける
『お礼を言うのはこちらの方。・・・ありがとう
牛鬼に殺された私の森の妖怪もいたのです」
「まあ、それが俺たちの仕事だからな」
「ぜひ、何か問題があれば妖怪屋ソラボシへご依頼を。
もちろん、お代は取りませんよ」
『・・・それも、いいかもしれません。あなた方の様なヒトならば』
そういうと九尾の狐は私の手を取り、その中に赤いリングを出した
『私の力が必要であればこれを使いなさい』
「・・・いいの?ほんとに?」
『お礼ですよ』
「・・・ありがとう!!」
私はリングをぎゅっと握りしめた
『あと、あなたにもです』
九尾の狐は空の深く傷ついた腕を持ち、傷を見た
「っ・・・・」
『毒に浸食されています。よくこれで普通に立っていられますね』
狐の手が傷口に当てられると、傷がきれいに消えた
『解毒もしておきました。これで大丈夫でしょう』
「ありがとう・・・」
『それではこれで。あなた方に大きな災いが降りかからぬように』
そういって、九尾の狐は夜の霧に紛れるようにして消えた
- Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.11 )
- 日時: 2014/12/26 22:25
- 名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)
<次の日>
仕事が終わった後帰れる乗り物はなにもなく、体は疲れ切っていたから
旅館に泊まった
おかげで疲れは取れたけど、朝起きて外に出たら村の人みんなには
お礼されて、どうにか報酬をもらって、今は・・・
「はあ・・・」
「朝からすっごい疲れた・・・」
電車の中で何回目かもわからないため息をつく
それはもう村の人の感謝の仕方は勢いがすごすぎて・・・
その時の記憶がところどころ抜け落ちてるくらいだった
ふと窓から外を見ると見覚えのある景色が広がっていた
「・・・もうつくね」
「朝日はどうするんだろうな・・・」
「え?」
「家族はもういないし、あそこの様子を見ると親戚も近くには・・・」
「・・・そっか」
確かにあの様子だといなさそうだよね
遠くに入るかもしれないけど・・・
もう、朝日くんは独りぼっちなんだ・・・
まだあどけなくて、幼い笑顔が頭に浮かぶ
もしかして、朝日くんは私たちが思ってる以上にさみしいんじゃないか
・・・そう思うと、胸が苦しくなった
私たちは自分の家には行かず、反対方向にある音葉さんの家に向かう
もちろん、そこに朝日くんがいるからだ
見なれた『空色古書店』の看板が見えてきた
音葉さんは情報屋もやってるけど、古書店も経営してるんだ
情報屋として仕事をするときはその日一日を休業してる
ガラス張りの扉を開けると、本独特の紙のにおいが鼻をついた
今日、休業の札がかかっているのはきっと仕事じゃなくて朝日くんが
いるからだ
カウンターの奥のドアを開ける
「音葉さーん、ただいまー!」
「おかえり星ちゃん、空くんもおかえり」
「ただいま」
「空お兄ちゃん、星お姉ちゃん!」
とてもうれしそうに朝日くんが駆け寄ってくる
「ただいま、朝日」
「おかえり!」
「あれ、空くん子供苦手じゃないの?」
「朝日くんだけは例外だそうですよー」
「うるさい」
「まあ、あがって。ゆっくりしていってね」
柔らかいハーブのにおい、音葉さんが紅茶を入れてくれてるみたいだ
少し気持ちが落ち着いたところで、空は口を開いた
「朝日、お前が決めないといけないことがあるんだ」
「なに?」
「私たち、悪さをしてた妖怪は倒してきたの。でも・・・それで、
死んだ人が生き返ることはないから・・・・」
「・・・うん」
「朝日くん、親戚はいる?」
「いると思うけど・・・でも、会ったことないよ」
「そっか・・・」
そうなるとなおさら心配だ
何回か会ったことのある親戚なら多少抵抗はあってもいつかはよくなる
でも、会ったこともない親戚の人に育ててもらうことになったとして、
朝日くんは幸せになれるのかな・・・?
「朝日、親戚のところに行きたいか?それとも暁村に戻るか?」
「朝日くんの好きなようにして良いよ」
朝日くんはすっとうつむいて、口を開いた
「暁村には、戻りたくない。僕の家族を、みんな奪ってったみたいに
思うから・・・。
・・・けど、親戚の所にもいきたくないっ・・・」
声が震えている
そのあと、何かをこらえるようにしてから、また口を開いた
「・・・星お姉ちゃんと、空お兄ちゃんと一緒にいたいんだ」
その言葉を聞いて、ぱっと空と顔を見合わせる
私は頷いて、空に目くばせした
「・・・朝日」
「っ・・・」
「・・・一緒に、いるか?」
空がそういうと、朝日くんが驚いたようにぱっと顔を上げた
「・・・いいの?」
「もちろん」
「・・・ほんとに、ほんと?」
二人そろって頷くと、朝日くんは涙をこぼして笑っていた
「ありが、とう・・・」
「なにあらたまってるの?」
「ほら、荷物持って移動するぞ」
「あ、え、え?」
「荷物はこれよ」
「音葉、さん?」
「楽しいと思うわ、この二人と暮らすの。時々遊びに来てね」
「・・・はい!」
私と空は荷物を担ぎ、空いている方の手で朝日くんの手を取った
「行こう!朝日!!」
私がそういうと、朝日はいつものあどけない笑顔を見せた
<シロボシ本部>
「暁村から報告です。C級隊員3名が妖怪によって殺されたと・・・」
「変わりの人員の要請か?それならまた、別の者に任務を」
「いいえ、もう任務はいいそうです」
「・・・なに?」
「なんでも、妖怪は牛鬼だったそうで、別の妖怪屋が倒したようです」
「牛鬼だと?・・・その妖怪屋とは、何者だ?」
「妖怪屋、ソラボシ・・・紅刻星と月形空が倒したと」
「・・・倒した、とは?」
「村人の話によると牛鬼は始末していなかったとのこと。
黒い渦に吸い込まれて行ったと報告を受けています」
「紅刻星、月形空か・・・妖怪屋ソラボシについて情報を集めろ」
「了解しました」
<シロボシ 白井部>
- Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.12 )
- 日時: 2014/12/27 22:24
- 名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)
あれから何日かがたち、朝日はこの近くの小学校に通い始めた
朝日が小6だったのは驚いたけど・・・
小6の割にすごく素直だし
・・・けして、朝日の背が低かったからとかって理由じゃない、断じて
昨日はびっくりすることを音葉さんから聞かされたし・・・
「朝日くん、私の使い魔がみえるみたいなの」
「・・・え?」
「昨日あなたたちが仕事に行ってた時なんだけど、私に聞いてきたの
そこにいるまるい子たちはなにって」
「それは・・・朝日に霊力があるってことですか」
「きっと、あの子にもあると思うわ。私たちと同じ力」
朝日が使い魔を見ることができる
それは嬉しい事でもあったけど、不安でもあった
そして今、私と空は朝日を音葉さんに預けて依頼の妖怪を探していた
「・・・朝日は、自分の力のこと、気づいてると思う?」
「あの様子は・・・たぶん気づいてないだろ」
「だよね。・・・このことは絶対いつか気づくよ
それはいい形かもしれないし、そうじゃないかも・・・」
話そうとした私の声を遮るように、空は口を開いた
「伝えておいた方がいいか、ってことだろ」
「・・・うん、よくわかったね」
「お前は顔に出すぎなんだ。すぐわかる」
「嘘でしょ、」
「嘘じゃない」
このやりとり、前にもやった気がする
そんなことをぼんやり考えていた
「・・・俺は、伝えた方がいいと思う」
「なんで?」
「朝日は、もう多少の考え方はできるだろうから」
「そっか・・・確かに、対策しないと力が暴走したら大変だしね
・・・帰ったら伝える?」
「そうだな」
「・・・よし、じゃあさっさと終わらせないとね」
「・・・おい、いたぞ」
「どこ?」
「あっち」
空が駈け出す。私もその後ろをついて走った
目がいい空のことだ、私には見えない遠くの敵は今も空の瞳に映ってる
はず。
案の定、森の中に入り、少し進むと不気味なうめき声が聞こえてきた
その姿がやっと見える範囲に来る
上半身だけの、髪の長い女の人
「・・・テケテケ」
空がそういうと、テケテケは赤い目でこちらをにらんできた
そして、間髪入れず鎌を持って襲い掛かってくる
「炎ノ神、鳳凰剣」
空は剣をつかむと、テケテケの腕を切った
ドサリと腕が落ちて、テケテケがうめく
しゃべれない・・・ってことは、そこまで頭のよくない妖怪だ
「初めまして、テケテケさん」
そこまで言うと、テケテケは長い髪を振り乱して襲い掛かってくる
・・・これじゃ、ゆっくりお話も出来やしない
「地よ、怪しき者を捕えろ」
かるく土を触ると、土がうねりだし、あっという間にテケテケを捕えた
「ごめんね、でも、少しお話させて。
私たちは妖怪屋ソラボシ。あなたはなぜ人を殺すの?」
テケテケの赤い目を見据える
「・・・教えて」
『・・・私の、下半身がないの。痛いの、だから、ほかの人の下半身が
必要だった・・・』
少し力を与えてやると、声が頭に流れてきた
優しそうな声だ。柔らかくて暖かい声
「ほかの人間から下半身を奪っても、お前は生き返らないぞ」
『私は、まだ、生きていたかった・・・ただ、それだけ、なのに、』
「・・・残念だけど、そんな力は誰も持っていないの
でも、黄泉の国に行けばまた人間として生まれ変われるから」
『そう、なの・・・?』
「そう。だから、黄泉の国にあなたはいく。もう、悪さはしないで?」
『・・・わかった』
「・・・いいよね?空」
「ああ」
私はすっと息を吸い込んだ
「ソラボシの名のもとに、天界の扉よ、開け」
白い渦が空中に出来上がる
その光に当てられると、テケテケの姿は綺麗な女の人の姿に変わった
『・・・ありがとう、ソラボシさん・・・』
白い渦に吸い込まれると、その声だけが頭に響いた
「・・・さようなら、」
「・・・さっきから、傍観者がいるな」
空はそういうと、一本の大木を一発で切り倒した
そこから一つ、影が飛び出した
速いけど、これならつかめる
私は腕を捕まえて、木に押し付けた
「・・・どうも初めまして。見ていて楽しかったですか?」
おびえたような目に一瞬変わったけど、すぐに気の強い目にもどる
真っ黒な服と目から上を出した鼻と口を覆う布
まるで忍者みたいだ
「・・・あなた、シロボシの人でしょ?」
「っ・・・なぜ、それを・・・」
「雰囲気でなんとなく、かな。・・・シロボシにもいろんな格好の人が
いるんだ」
「それで、俺たちの監視が任務か?何が目的でそんなことをする」
「そんなこと、教えるわけない」
ふいっと顔をそらした
・・・この子、男っぽい口調だけど・・・
「・・・女の子だね?」
「っ!?」
「あ、図星?」
よくみると身長もそこまで高くない
もしかして、朝日と同じ年くらい?
「・・・まあ、目的もなんとなく予想つくけどね」
「大方、この間の暁村の件があったから、なんでも情報を集めろ、
とでもいわれたか・・・」
「・・・・」
黙り込んでしまう女の子
なんか、わかりやすい子だなぁ・・・
「ね、君、名前は?」
「は?」
「こっちの名前は知ってるんでしょ?いいじゃん、名前くらい
悪用したりとか絶対しないからさ」
「・・・明里。春井明里(はるい あかり)」
「明里ね、よし、覚えとく」
「話が長い。・・・おい、お前、」
「明里だよ」
「・・・明里、けがしてるだろ」
「けが?・・・あ、」
確かに足には包帯が巻かれて、血がにじんでいた
空はポケットの中をあさり、中から液体の入った小瓶を渡す
「これはケガに効く万能薬だ。毒じゃないから安心しろ
傷口につければすぐに治る」
私はつかんでいた明里の手を離して、解放してあげる
「報告しといてよ。妖怪も人間も、命あるものすべてを大切にする
すばらしい妖怪屋ですって」
茫然と座ったままの明里に背を向けて、私と空は歩き出した