複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

妖怪屋は嫌われ者
日時: 2014/12/15 22:29
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)


この日本という国はある時から、死と隣り合わせの国になった
1999年。突然、空には黒い渦ができ、
その中からは恐ろしい妖怪たちが現れた

いきなりのことで、人間はなにも抵抗をしないまま一週間が過ぎ、
多くの人間が命を落とした
しかし、その黒い渦は特別な力を持つ人間に封印された
今、その黒い渦はどこにあるのかわからない


「あなたたちの名前はなんですか」
「・・・・シロ」

シロと名乗った5人の人間は、のちに奇跡のシロと呼ばれた
この世界に降り立ってしまった妖怪を倒すシロボシという施設をつくり
妖怪たちを退治する活動を始めた

今、シロはどこにいるのかわからない


『妖怪襲撃とシロ』



「・・・これ、最近よくテレビでやるよね」
「妖怪襲撃事件の日が近いからだろ」
「ふーん・・・あ、次の仕事は?」
「地縛霊のやつ」
「あ、それ結構数いるやつ?」
「ああ、そうだな」
「マジ?なら早く終わらせて・・・また、おかし作って」
「わかったから、ほら、行くぞ」
「はいはい」


シロボシとは違う、独立した妖怪退治をする者
ソラボシ、通称妖怪屋



設定

紅刻 星 こうごく せい 女 15歳
ソラボシのリーダー 紋章のついた赤いペンダントをつける
得意技は魔法を使った直接攻撃

月形 空 つきがた そら 男 15歳
ソラボシの副リーダー 紋章のついた青いペンダントをつける
得意技は剣を通しての物理的攻撃

一風 音葉 いちかぜ おとは 女 20歳
妖怪に関する情報屋 使い魔を何匹も持つ 主にソラボシに協力する

ケセランパセラン ぐー、ちー、ぱー
猫又 ニーナ、ニーカ、ニースケ、ニーコ などなど

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.23 )
日時: 2015/05/05 22:51
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<by西田>

「白井部長、偵察の報告をしに参りました」
「入れ」

白井部長の部屋は、いつもお香のにおいがする
前にそのことを尋ねてみれば、相手の鼻をマヒさせるためといった
どんなときでも警戒心を解かない、この方らしい返答だと思う

「結果は失敗に終わり、作戦内容がソラボシにばれていたようです」
「なに?・・・情報が漏れていたということか」
「はい。情報を漏らしたのはB級隊員、白井部所属の春井明里。
 ソラボシの監視を任せていた者です」

「・・・春井明里・・・なるほどな」
「裏切り行為としての罰はどうしましょうか、」
「・・・春井明里にはソラボシと接点があるのは間違いないな?」
「はい」

「・・・考えがある」


作戦の内容を告げられる
思わず息をのんだ

「どうだ?」
「し、しかし、それでは春井明里の命は・・・」
「裏切者だろう?春井明里は」

「・・・了解、しました」


私がそういうと、白井部長はすぐに視線を資料に戻す
そっと廊下に出ると、つめていた息を吐き出した

・・・最近の白井部長は明らかにおかしい
ソラボシに目を奪われ過ぎているわ・・・・

しかも、この作戦じゃ、春井明里は・・・


「っ・・・」

手元にあった自分の作戦の資料を思わず握りつぶしそうになる
・・・この作戦の責任者は私、失敗するわけにはいかないけれど・・・

そのために、仲間の命を奪ってもいいの?

・・・だめだ、切り替えないと
春井明里は裏切者。裏切者に罰はあって当然じゃない・・・


<by空>

昨日から、ずっと音葉さんと口をきいていない
だいたい、なんて話を切り出したらいいのかさっぱりわからなかった
話しかける言葉が何も見つからない

「・・・寝よう」

明日になれば、考えが思いつくかもしれない
そう思って眠りについた





真っ黒な渦。それは、青い空を割って現れた

「いいか、空君。急いで星をつれてここから逃げろ」
「おじさん、」
「お父さん、空・・・」

「星を、頼む」

足が、すくんで動かない
自分の手を握る星が、とても重く感じた

「空!こっちにきて!!」
「母さん、」

母さんの言葉で固まっていた足が動いた
星の手をひいて、やっと母さんの所にたどり着く

建物の中は真っ暗で、狭い
星の泣き声と、外の轟音が響いていた
すぐ近くで聞こえる爆音は、自分たちの命を狙っているように思える

ふと、星の泣き声がなくなった


「・・・声が、する」
「星?」
「呼んでる・・・いってくるね、」
「星ちゃん!!」

星が外に駆け出していく

「星!!」

あわてて飛び出して、星の腕をつかんだ
前に回り込んで、星の顔を見ると、星の目はどこか遠くを映していた

「あ・・・・あ、ぁ・・・」
「星!?しっかりしろ!!」

星の体が重力に逆らうことなく、崩れ落ちる
気絶した星をを抱えたとき、周りが不自然に暗くなった

上を見ると、目の前に、真っ黒で、どろどろな・・・・手

死ぬ。そう思った


「空ノ神・星空!」

黒い手が砕け散り、見なれた剣の輝きを茫然として眺める


「よく守ったな、空」
「っ・・・」
「星をまかせたぞ」

「・・・父さん!」
「どうした?」
「・・・負けるなよ、絶対」

「・・・おう」

いつもの笑顔だ
それを見るだけで安心した



その後、夜が明けて、外に出たときには前まであった物が全部なかった

あったのは、父さんの使っていた剣、星空と父さんたちが使っていた
二つのペンダント


そして母さんから聞かされた、最強の妖怪の存在

「・・・なんで、いってくれなかったんだよ、」
「・・・あなたたちには早いと思ったの」
「俺たちだって父さんたちと一緒に戦ってきたんだ。なのに・・・」

「・・・ごめんなさい」


父さんたちがいなくなったあの時から、家族はばらばらになった
奪われたのかもしれない。・・・あの、最強の妖怪に


気付けば、真っ暗の中にただ一人だった
そして、迫ってくる、あの黒い手

足が動かない

うごけっ・・・動け!!
視界を遮るところまで黒い手が迫ってきていた

やめろ、これ以上何も奪うな!!



「っ・・・・、」

見えたのは黒い手じゃなくて、白い天井だった

「・・・夢、か」

情けないくらい、息が切れている
心臓も、ばくばくと音を立てているような圧迫感があった
手を見ると、布団を強く握りしめている

その手を離すと、震えていた


「・・・・」

何も言えない
物凄い汗だし、震えているし。
いまだにあの時のことを怖がっていたのか

・・・時刻は5時。もう眠れそうにない
溜息をついたとき、ゆっくりドアが開いた

「・・・空?どうしたの?」
「星・・・?」
「音、したから。・・・って、うわ、すごい汗・・・」

「夢・・・見たんだ」
「夢?」
「父さんたちがいなくなったときの、」

「・・・そっか、」
「寝ぼけてただけだから、だいじょう、」

あたたかい
そう感じて初めて、星に抱きしめられていることに気付いた

「・・・星、濡れるぞ」
「馬鹿、大丈夫じゃないくせに。・・・怖いなら怖いっていってよ、」
「・・・・」


「空はいっつもそうだ、ずるいよ。ほんとのこと隠すし
 ・・・やせ我慢しないで」

視界が歪む。目に涙がたまっていった
ずるいのはどっちだ、弱い時に優しくされたら泣きたくなる

「・・・ありがとう、」

涙がこぼれそうになるのをこらえて、そういった
震えはいつの間にかおさまっていた

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.24 )
日時: 2015/05/06 22:18
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<by星>

昼ご飯を食べ終わった時には、もう空はいつも通りだった
それに安心して、ほっと息をつく

「朝日、空。今日音葉さんのところに仕事とりにいくから」
「うん、わかった」
「ああ」

・・・うん、大丈夫そう
準備をして、私たちが外に出たときだった
ヒュッ!
そばで風を切る音がして、何かがすごい速さで飛んでくるのが見えた

バシッ!
空がそれをしっかりつかみ取った
掴み取った物は矢。なにか紙がくくりつけられていた

「なにこれ・・・?」

紙を開くと、どうやら手紙のようだった
『たすけて、つかまった 明里』
乱れた字で、そう書いてあった

「明里!?」
「空兄ちゃん、星姉ちゃん、すぐに助けに行かないと・・・!!」
「・・・空、矢の飛んできた方向分かる?」
「こっちだ、」

空が走りだし、私と朝日はそれを追うようにして駈け出した
明里、お願いだからっ・・・無事でいて!



「たしか・・・このあたりだったはず・・・」
「あ!明里!!」

朝日の指さす方には木に縛り付けられた明里がいた
なんで、こんな森の中にっ・・・

「明里!!」
「っ・・・あ、朝日っ・・・星、空も・・・・」
「今行くから!待ってて!!」
「っ、だめ!こっちに来たら危ない!!」
「なっ・・・っ二人とも、止まれ!!」

空のせっぱつまった声
それに気づいたときには、もう遅かった
突然周りから檻がでてきて私たちを捕える

「大成功ね、一人は捕え損ねたけれど・・・」
「お前・・・西田、」
「裏切者も、役に立つじゃない」
「っ・・・」

悔しそうに顔をゆがめる明里

「裏切者って、どういうこと?」
「作戦のこと、この子はあなたたちに漏らした。裏切り行為でしょう?
 だから利用させてもらったの。ソラボシをおびき寄せるためにね」
「っ・・・ごめん、」
「・・・最低だよ、あんたたち。仲間なんでしょ?
 なのに、木に縛り付けるとか、ありえない」

怒りがふつふつとわきあがってくる

「明里を離してよ、今すぐ」

そういったとき、檻がまっぷたつに切れる
空が剣で切ってくれたみたいだ

「やらないなら、俺たちが力づくでも明里を助ける」
「・・・できるかしら?私だけじゃないのよ、シロボシは」

周りを見ると、木の影からたくさんの人が出てくる
・・・めんどくさい、これ全部とか

「・・・朝日、すぐに明里を助けに行って」
「わかった」
「空と私で、すぐ終わらせるよ」
「・・・いわれなくても」

背を向けあって、集中を高める
・・・さっさと終わらせて、朝日のとこにいかないといけないんだ

「正直、仲間を売るような真似する人達に負ける気はしないかな」

今日は調子も絶好調だし。
人の中に飛び込んで、いくつもの火の玉を飛ばす
ちょっと力を借りるよ、九尾の狐さん
リングにふれて、ペンダントをおさえる
体の底があつくなってきた。・・・いける

「鬼火」

火を一人一人の体に当てる
・・・そろそろ結構な人数にあたったはず

「・・・破裂、」

あちこちから聞こえる爆発音
・・・大成功だ
いいでき。初めて実戦で使ったけど、いけそうだ
空もあらかた片付けたらしい

「やめなさい!」

西田の声が響く
シロボシ側の人間が動きを止めた

「・・・撤退よ、これ以上続けても意味はない」
「「はっ!!」」
「・・・明里は、ソラボシさんの好きなようにしなさい」

・・・この人達、いったい何が目的だったの?
このあいだのことといい、おかしい
そう思ったとき、どさっという音が背後から聞こえた

「・・・朝日!?」

駆け寄ると、朝日が傷だらけで倒れていた

「朝日!大丈夫!?」
「うん・・・大丈夫。明里は・・・?」
「平気、だけど、」
「なら、いいんだ。よかったぁ・・・」
「空、明里の縄をほどいて」
「ああ」

空が縄をほどき始めたとき、明里は苦しそうに口を開いた

「・・・なんで、朝日・・・私なんかのために傷だらけになって、」
「そんなの、明里が大切だからだよ」
「っ・・・ごめん、ありがとう・・・」

大粒の涙を目に溜めて、明里はその言葉を紡ぎだした
私と空は顔を見合わせて、笑いあう
なんだよ、いい雰囲気じゃんか

「明里!!」

聞き覚えのある声
上を見ると、瀬戸愛が魔法をつかって空中に浮いていた
困惑した様子で、明里は口を開く

「瀬戸、先輩」
「あんた、よくもじゃましてくれたよね。・・・ここで死ね!!」

拳銃が向けられる
銃弾が放たれる瞬間、明里に空が覆いかぶさった

「空!」

バンッ!!
叫んだその時、横から飛び出してきた影に銃弾が当たった

「なっ・・・」
「音葉、さん・・・!?」
「は、」

音葉さんの腹部から血が流れる
そのままがくりと膝をついて、倒れてしまった

「音葉さん!!」

空が駆け寄り、音葉さんの傷口を強く抑える

「なんで、」
「・・・だって、いつも無茶するでしょう?」
「だからって・・・」
「この間もひどい傷で、それでもあきらめなくて、お父さんにそっくり
 ・・・空、」

「っ・・・」
「前は守れなかったからね。・・・・ごめん、なさい」

そういって、音葉さんは目を閉じた
声なんて出せない、何も言えなかった

「ごめんなんていうなっ・・・死ぬなよ、母さん!!」

悲痛な空の声は、いつ以来だろう
息がひゅっとつまる
胸の熱さと、目頭が熱くなるのをこらえて私は口を開いた


「・・・行こう、病院。まだ間に合うから、はやく!!」

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.25 )
日時: 2015/05/08 22:19
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<病院>
「幸い、命に別状はありませんが、多量に出血していたので・・・
 くれぐれも安静に。目が覚めたらナースコールをしてください」

そう、手術室から出てきた医師にいわれたのはつい10分前
手術室からわずかにながれてきた消毒液と血液のにおいが鼻についた
手術をしている最中、朝日と明里が泣き出していたのに対し、
空はただずっと下を向いて座っていた
空の見る先には、床じゃない、どこか遠くを見ているような・・・
そんなかんじが、隣に座っていて感じられた

病室に入り、薄暗く、音のしない空間がそこを支配していた
音葉さんは、まだ麻酔が効いていて眠ったまま
布団から少し覗く腕に、ていねいにまかれた包帯
それがやけに今は痛々しく感じられて

「・・・星、朝日も手当しないと危ない」

沈黙を破ったのは明里だった

「そうだ・・・朝日、大丈夫?」
「平気だから、いいよ。治療しなくて」
「なにいってんの。音葉さんが心配なのはわかるけど・・・
 あんたが無理して目を覚ますわけじゃない」
「・・・そう、だけど、」

「・・・明里の言うとおりだよ、朝日」
「星姉ちゃん、」
「空、」
「なんだ」

空は音葉さんの眠る、横の椅子に座っていたけど、すぐにこっちを見る
いつも通りの様子で

「私たち、一回戻って荷物とか持ってくるから。音葉さんをお願い」
「ああ。・・・悪いな、」
「気にしないでよ、空兄ちゃん」
「行こう、星、朝日」
「・・・うん」

・・・違和感がある
おかしいよ、空・・・。
胸に渦巻くもやもやを抱えたまま、私たちは病室をあとにした


音葉さんの家につくと、すぐに病院の荷物を固めた
いつもは誰かがいるはずの部屋に誰もいないのは変な感じだ
お香の香りもあまりしなくて、部屋の温度も少し低い
なんとなく、寂しく感じる

「・・・空のお母さんだったんだ?音葉さんって」
「・・・うん」
「僕、全然知らなかったよ・・・。なんで空にいちゃんはお母さんって
 呼ばないの?」

「・・・私と空が4年生のとき。私と空のお父さんがいなくなったの」
「え・・・」
「妖怪が襲ってきて、それを退治してた
 けど、次の日になって探しても二人ともいなくて・・・
 私のお母さんは生まれたときからもういなかったから音葉さんが私を
 引き取ってくれたんだ。
 でも、あの時から空と音葉さんはああなっちゃったの」

・・・全部、自然だった
あの二人が今みたいになったのは自然すぎて、私もいつからああなったのか、よくわからない

「でも、空はいつもと同じみたいに見えた、」
「うん。返事もいつもと同じだったよ」
「・・・大丈夫なら、いいんだけど・・・」

空のポーカーフェイスは自分が強く隠したいと思うほど厳しくなる
逆に、自分の感情が高ぶりそうになればなるほど、空は必死で隠して、
いつも通りを演じようとするんだ
・・・さっきの空はいつも通り過ぎて、違和感を感じた

音葉さんが・・・自分のお母さんが、自分をかばって傷ついた
そのことに、責任感の強い空が何も感じないわけはないから
そんなことは、とうの昔にしっている
さっきの様子は、それを隠そうとしてるものだってことも、全部

自分の思考に入りかけたとき、ぐー・・・という音が聞こえた

「・・・おなか、へった・・・」
「え?・・・あ、確かにもう七時だしね・・・なんか食べ物、」

・・・何も作れない。っていうか作れたとしてもそれは有機物か灰だ
なにかあることを祈りながら、だめもとで冷蔵庫を開ける


「・・・え、」

冷蔵庫の中には大量のおにぎりがあった
それをとりだすと、その下にはすっかり冷えた淡い水色の封筒

「っ!・・・これって・・・・」


・・・音葉さん、これはいくらなんでもタイミングが悪すぎる
本当は嬉しくさせるものを、いま見せればきっと悲しみも生み出すから

・・・ああ、でも、これはいま見せるべきものだ

「ちょっと、行ってくる。これ、食べてて!」
「え、あ、星?」
「星姉ちゃん?」

私はおにぎりをいくつか包んで持ち、荷物を背負って飛び出した

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.26 )
日時: 2015/05/09 22:20
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<病院>
午後9時

空には星がちらほら見えていて、雲も少ない
綺麗な夜空だった
少し駆け足になりながら病院の廊下を通り、病室のドアを開ける
振り返った空と目が合う

「荷物、ありがとうな」
「とりあえず必要そうなものは持ってきたから。・・・音葉さんは?」
「まだ目は覚めてない」
「・・・そっか、」

そっと病室のドアを閉める
そして、空に気付かれないようにペンダントをドアノブに引っかけた

「朝日と明里は?」
「音葉さんの家でご飯食べてる。もう家帰ってるかも」
「けがは大丈夫なんだな?」
「うん、明里が朝日の手当してるとこだったから」
「・・・なら、よかった」

そういいながら、空は椅子をもう一つ出してくれる
私は荷物をテーブルに置いて、包みを空に突き出す

「空、はい」
「・・・おにぎり?」
「お腹減ってるでしょ?」
「・・・これ、お前が作ったやつじゃないな?」
「わかる?じつはこれ、」
「音葉さんの、だろ?・・・悪い、今腹減ってないんだ」

「・・・変」

私は耐えきれなくて、空の腕を強くつかんだ
驚いた拍子に、空の瞳が大きく開かれる
せっかく椅子を出してくれたけど、座る余裕は持ち合わせていなかった

「星?」
「変だ、空。おかしいよ、」
「・・・俺は大丈夫だから。心配しなくても、」
「嘘だ、絶対違う!!」

声を張り上げると、空はまた目を見開く
その目はすぐにそらされて、ドアの方に向けらた

「馬鹿、お前注意されるぞ」
「魔法使ってるから、外には聞こえないよ」

だいたい、ペンダントをかけたことに気付かないなんていつもなら絶対
ありえないことなんだ
気付かない時点で、もうおかしい
空は飽きれたように溜息をつく

「・・・星、」
「空が大丈夫なのは違う。でも、お腹が減ってないのはほんとでしょ
 空は嘘つくのがうまくなるんだよ
 ・・・本心を知られたくないときは、特に」
「・・・何、いって・・・・」

「嘘は本当のことを混ぜると真実に聞こえる。
 けど、そう聞こえるってだけだから」
「お前、急にどうしたんだ?」
「ほんとは泣きたいくらい苦しいくせに。やせ我慢なんてしないで。
 ・・・手、震えてるよ」

私がそう指摘すると、空は手をぎゅっとにぎった
視線もさっきから全然合わないし

「目、合わせて!!」
「っ、」

痺れを切らして、私は空の顔をつつむようにもって視線を合わさせる
空の目にはもう涙がたまっていた
・・・ずっと、我慢してたんだ

「やめろ、」

空に手を離される
空は辛そうに顔をゆがめて口を開いた

「・・・俺のせいだ、母さんが怪我したのは」
「空、」
「幸せになったらいけない気がしてたんだ、父さんがいないのに・・・
 だから、母さんと距離をとってたのに。
 ・・・俺の勝手な思い込みで、母さんまで傷つけた、」
「違う、空、」
「俺なんか、いなくなったほうが、」
「違う!!」

空の両肩を思い切りつかむ
手に力が入って、空の方に指が食い込む
こうでもしていないと、空がどこかにいなくなってしまいそうだった

「そんなこと言うな!それこそ思い込みだよ!!」
「星、」
「空が死んで喜ぶ奴なんか、いない!いたって、それはごくわずか
 でも、空が死んで悲しむ人は大勢いるの!人のこと悲しませたい?
 朝日も、明里も、音葉さんも・・・」

私だって。と、心の中でつけたす
それをいうと、今にも泣きだしそうだった
泣けない、まだ、まだ。
空はぐっと黙ったままだった

「・・・二度とそんなこといわないで。・・・お願いだから、」

涙が目にたまる
まだ、まだって、思ってたけど、もう我慢できなかった
一粒、また一粒と涙がこぼれる
最近、私は泣きすぎだと自分でも思う
でも、今回は空が悪い。すっとしゃがみこんで、顔をうずめた

「強がりなんていらない、だから今は、今だけでいいからっ・・・
 我慢なんて、しないで、」
「っ、」

息をのむ音が聞こえたと思うと、ポタポタと水の落ちる音が聞こえた
・・・ああ、やっと・・・空の本音が形になった
たくさん涙を流せばいいんだ、そうやって
泣くことは恥ずかしい事でも、情けない事でもない
自分を強くするものだから、


「・・・私と、一緒に泣こう、」

そういうと、頭上から馬鹿、という弱々しい声が聞こえた

Re: 妖怪屋は嫌われ者 ( No.27 )
日時: 2015/05/10 21:47
名前: 青い春 (ID: XkqMA9PN)

<by空>

しばらく涙をこぼし、ふと気づくと星の泣き声が聞こえなくなっていた

「・・・星?」

みると、星は顔をうずめたままだ

「おい・・・」

肩をゆすろうと、椅子から降りてしゃがみこんだ
すると、顔をうずめた星の方からかすかな寝息が聞こえた
・・・嘘だろ、こいつ、この体勢で寝てる・・・
規則正しい、やすらかな寝息が静かな病室に響いた

「・・・はあ、」

俺は背もたれのある椅子を星の近くまで引っ張り、星を座らせた
自分の上着をかけたから、とりあえずは大丈夫だろう
・・・それにしても、さっきまでさんざん偉そうなことを言ってた奴が
この状況で寝るか、ふつう
・・・いや、普通は寝ないはずだ
まあ、いいか。予想外な行動は星のおかげで慣れてる
机の上に置かれたままだったおにぎりに手を伸ばした

・・・なつかしいな・・・
一口かじって、そう思うのは自然な成り行きだった
何度も何度も食べた味だ。やわらかくて、あたたかい味

ふと、もう一度机に目を向けると、皿の下に何かあるのに気付いた
・・・星がもってきたのか
抜き取ってみると、それは手紙だった

「・・・っ!」

見覚えのある字で、空へとかいてあった
まぎれもない、母さんの字だ
封筒の中から便箋を取り出し、おれは手紙を読み始めた


空へ

直接伝えられればいいんだけど、口だとうまく伝えられる自信がないので、手紙で許してください
空には、ずっと辛い思いをさせてきたね
お父さんに悪いと思って、ずっと家族と距離を置いてたんでしょう?
でも、お父さんはそんなこと思わないから、もう悩むことはないの
それに、私もさみしいのよ
家族じゃないように接するって、嫌なことだから
あの時のことは本当にごめんなさい、私が悪かったの
それに、空も星ちゃんも守れなかった

もし、あなたや星ちゃんが怪我するようなことがあれば、今度は必ず、
守って見せるから
私のことを、空が許してくれるなら、また家族に戻らない?

私はいつでも、待っているから

お母さんより


ぱたぱた、と涙が落ちる
手紙に涙がいくつか落ちて、しみをつくった

「・・・また、泣かすなよ・・・」

手紙を持つ手に思わず力が入る
せっかく涙が止まっていたのに
いまだに眠っている母さんの顔を見ると、もっと涙があふれ出てきた
これじゃあ、おにぎりなんて食べられないだろ
・・・なんで今まで家族としてやってこなかった?
なんで他人のふりなんてしてきたんだ
全部が馬鹿らしく思えて、後悔がいくつも頭に浮かぶ

けど、それも今だけだ。
明日になって、日が出たらいつもどおりで後悔なんてしない
・・・後悔なんて、できない
だから、せめて今だけは、めいいっぱい後悔させてくれ、

こんなに涙を流したのはいつ振りだろう
ちょっと気を緩めたら嗚咽が漏れ出てしまいそうだった
・・・あまりひどい顔だと、心配をかけてしまう
そんなことも頭の片隅にあって、でも涙は止まらなかった
泣き声も出さず、静かに涙を流す

窓から差し込む月明りは、いつだって優しかった



ふと、あたたかさを感じる
ああ、この感覚は前にも感じたことがある
なつかしい・・・そうだ、これは・・・、

「・・・う、」

目を開けると、カーテンから淡く日差しが差し込んでいるのが見えた
・・・寝てたのか・・・
ぼやけた頭でそんなことを思う
そういえば、カーテンなんていつ閉めただろう、閉めた覚えはないが。
体を起こすと、ずるりと何かが落ちる

「・・・毛布?」

かけられていたのは毛布だった
でも、星は寝ているままだ
あることに気付いて、俺ははじけるようにしてベットの方を見た

「・・・空、」
「っ・・・母さん、」
「ごめんなさい、心配かけて・・・」
「謝らなくていい、俺が、」

悪かったんだ、と言いかけたものは言葉にならなかった
母さんがゆっくりと首を横に振ったからだ

「あなたの仕事を妨害したのは私。どうしても見ていられなくなったの
 空の行動、お父さんだったらよくやったって、ほめてたはずなのに」
「っ、」
「そんな傷ついた顔はしないで?
 ・・・空はお父さんにそっくりになったね・・・
 誰かのために自分の体を張って守れるところまでそっくり。
 けど、あまり無茶はやめて。心配だわ」
「ああ、わかった」

母さんの手が俺の顔に触れて、目じりをなぞった

「泣いてたんでしょう?・・・私のことで?」
「・・・心配するに、決まってるだろ、」
「・・・嬉しい。母さんって呼んでくれるのも久しぶりだけど・・・
 やっぱりこっちの方がいいわ」
「・・・母さん。俺も、また・・・家族に戻りたい」

そういうと、母さんは目を丸くして、でもすぐに笑った

「ありがとう。ほら、そんな顔してたら星ちゃんが心配するから」
「・・・そうだな」

こんな気持ちになったのはずいぶん久しぶりで、あたたかかった
今までの時間を修復するには、それと同じぐらいの長さの時間が必要だ
・・・ゆっくりでも、直していきたい
素直にそう思った

「・・・よかったね、空」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。