複雑・ファジー小説
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- 之は日常の延長線に或る【第玖話更新 3/8】
- 日時: 2015/03/08 22:39
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: L1bEpBtf)
——滅びた土台の陰と陽。誰もが受け入れる陽の出は、我らの一日を記すため今日も動き出す。——
明けましておめでとうございます!
新年を祝いつつ、新作を投稿させていただきました愛深覚羅でございます。前作ではお世話になりました。
そんな今回は「一人称」「ちょっと変わった日本」を舞台に始めさせていただきたいです。
内容的には「色々な要素」を盛り込んで行こうと思っております。最終的には和風ファンタジーちっくになればいいなって言う軽い気持ちを持っています。
亀更新は健在しますが、気長に付き合っていただける方、どうぞよろしくお願いいたします。
例に倣いましてオリキャラを募集させていただきますので、どうぞ奮って御応募下さい!!
※オリキャラ募集用紙は>>2より【現在一旦〆切です。再開は未定】
登場人物 >>1
序 >>3 >>4
壱 >>19
弐 >>35 >>36
参 >>37 >>38 >>39
肆 >>40 >>41
伍 >>44 >>45
陸 >>52 >>56 >>57
漆 >>60 >>61 >>64
捌 >>65 >>69 >>70 >>71
玖 >>72 >>73
オリキャラさん
>>零組<<
モンブラン博士さん >>5 >>9 >>21
007さん >>6
ルファルさん >>7
メデューサさん >>8 >>28
マカロンさん >>10
煙草さん >>11
コッコさん >>16 >>20
kiryuさん >>22
siyarudenさん >>23
アリスさん >>24
こたみかんさん >>26
キコリさん >>27 >>32
計20名
- Re: 之は日常の延長線に或る ( No.37 )
- 日時: 2015/01/23 23:05
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: DXj3gHSB)
参 掴むは幸か不幸か其れとも蛇か
朝、御嶽に教えてもらったタワー裏を通り、元職員用エレベーターに乗り込んだ。御嶽が行った様に何も書いていないボタンを押す。そうすれば自ずと零組への道が開かれるだろう。
「……」
可笑しいな、もう一度押してみよう。
「……」
カチカチカチ、音はなるのだ、音は。
「……チッ」
おっと、失礼。思わず舌が太鼓を叩いたようだ。……そして前言撤回だ。
待てども、待てどもなにも反応は帰ってこない。可笑しいな、そう首を捻りもう一度ボタンを押してみる。……しかし無音は続き、俺の苛立ちばかりが先へと進む。一体奴と俺の何が違う? 俺が劣っていると言うのか、エレベーターの癖に人を選ぶとは生意気だ。
「どうなってやがる。俺の何が不満なのだろうか」
腹立ち紛れに思い切りボタンを殴ってやった。チクショウ、俺の手が痛くなっただけじゃねぇか。言っておくが俺はこの道以外知らない、あそこにつながる道を。それもこれも総じて御嶽のおっさんが教えなかったのが悪い、確実に。
まぁそんな事を言っても仕様がない。とうとうどうにもならなくなり、仕方なく御嶽を探す。ん? 否、御嶽より森永女史を探そう。これを機に俺は森永女史とお近づきになる、そう言う導きなのだろう! 神の思し召しとはこの事か。したらば行かん、女神の住処へ。
俺は勝手にそう推測し、上機嫌で森永女史が居るであろう保健室の方へと向かった。
そして保健室が見えるか見えないかと思われたその時、見慣れた男が視界に入ってきた。
「げっ!」
思わず声が出てしまったが、奴には聞こえていないだろうか。向かい側からやってきた男は先方から俺に碌な事をしてこない御嶽道仁その人だ。
御嶽は俺を見つけ、親しげに片手をあげ近づいてきた。あくまで言っておくが、親しげに近づいてきただけで、俺と奴は親しくは無い。
「どうした? もしかして森永の奴に会いに行こうとしてたのか? 差し詰め零組の行き方でも教えてもらう事を口実に、お近づきになんて思っているんだろう? 阿呆な奴め」
「貴殿がどうしてそう思っているのか、俺には全くさっぱり見当もつきません」
「どうしてってそりゃニヤニヤしながら向かい側で歩いているんだ、この先は保健室だし、誰だってそう思うだろう?」
馬鹿め、そう言って御嶽は鼻でせせら笑う。失敬な、そう言い返してやろうと口を開きかけた俺を押し退け、御嶽は言葉を続ける。
「そうそう、お前風紀委員に任命しといたから。よろしくな」
何でもない様な口調で御嶽はそう告げた。聞き間違いでは無ければ、とても面倒な事を押し付けられたと言う事だ。昨日から突拍子もない事を言ってくるものさ。
そうなると奴に送るべき言葉は自ずと決まってくるだろう。俺は腹に力を入れ、息を吸い込みそれを告げた。
「はぁ!?」
俺の声量に気圧されてか御嶽はちょっとおどけた風にのけ反った。そのままこけてしまえ、そしてその恥ずべき姿を朝の生徒に見せつけるがいいわ。俺はその時思い切り笑ってやろう。そして言い訳はこうだ、
(人間ありえぬ事があれば笑ってしまうものだ)
さてさて、勝手な妄想は置いておき、改めて御嶽を見てみた。奴は当然と言った様子で一枚の紙切れをよこす。そこには風紀委員について詳しく記載が載っている。まぁ之は後々読むとしよう。
そんな事より、あぁくそう。学年が上がってから碌な事がおこらぬ。俺の日頃の行いは悪くないはずだろう? なんだ、何が悪い? この際御嶽でも誰でもいいから教えてくれ。
しかし救いを求めた迷える子羊の目は奴には通用しなかったらしい。御嶽はさっさと次の事柄に取り掛かる。
「後今日の授業は外だ。裏庭、森を抜けた空き地があるだろう? フェンスに囲まれた所だ。あそこに来い。今度遅刻したら承知しねぇからな」
御嶽はそう言い残し、忙しそうに歩いて行った。どうやら俺に選択の余地を与えぬらしく、弁明も聞き入れない。横暴な輩め、だから好かぬ。
コノヤロウ、奴に従うのは少々腑に落ちないが……このままでは埒が明かないと言うのは事実である。行くと言う選択肢しか無いようだ。——ところで、一体どのような授業が待ち構えているのか……考えれば少し気持ちが高揚する。ワクワクしているのだ、久々に。
零組の通知が来た時もこのワクワク感が片隅に鎮座していた。焦りや驚きの方が強かったが、確かにワクワクしていたのだ。
さっそく裏庭へ向かってみよう。保健室に行けなかった事だけが後ろ髪引かれる思いなのだが……まぁそのうち寄らしてもらおうとしよう。
俺は裏庭へ向かって来た道を引き返した。周りには教室へ向かう生徒達が波を作っている。俺はそれに逆らって歩いている。なんだかおかしな気分だったが、そんな事、どうでもいい。俺はただ好奇心を機動力に突き動かされていた。その感覚が何だか懐かしく、何処かデジャヴを感じたのは気のせいでは無いだろう。
——あぁこれがいただけなかった。この時、裏庭へ行かなければ後々苦労もする事が無かったのだ。……だが目の前に非・現実的なものをぶら提げられて、一体誰が避けると言うのだろうか? 少なくともそれは俺にとって最高級のチョコレートに等しい。その甘美な光沢に、心奪われぬと言うものは居ないだろう。チョコレート嫌いの人間以外は。
- Re: 之は日常の延長線に或る【1/23更新】 ( No.38 )
- 日時: 2015/01/26 13:01
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4NhhdgqM)
裏庭へ着くと綺麗な一本の銀杏が目に入る。こんな所にも立っていたのかと感心しつつ、我がクラスの顔ぶれを見ようと俺は首を動かした。
「はて……?」
一体どこに我がクラスの顔ぶれがあるのだろうか、寒さも合間って人っ子一人いない。
冷静に考えてみるとこんな寒々しく、なにもない所へどのもの好きが来ようと思うのだろうか。また御嶽は俺を騙したのか、憤慨の思いである。
「……あぁそう言えば、森を抜けろと言っていたな。うーん……あそこだろうか?」
裏庭の銀杏の木の間、丁度獣道のようになっている。その奥は確かフェンスで仕切られていて「Keep out」となっていたはずだ。俺がまだケツの青い時期に、ナキリと探険だと言って一度訪れた覚えがある。あの時は躊躇ったが、今思えば面白そうだったのに何故入らなかったのか、我ながら疑問の気持ちでいっぱいだ。
(きっとそこだろう)
俺はそう推測し足を進めるためそちらへと向き直った。最悪間違っていたとしても裏庭には誰もいなかったのだから、そう御嶽に言えばいい。なんなら迷子になっていたでもなんでもいい。
そう言えばこの様な所は久しぶりに通るのだが、ひっつき虫やらがつかなければいいが……だが今は心配している場合で無い。きっとこの獣道の先には新妻華笑さんがいるのだろう。真面目な彼女の事だから、集合より五分前にはその場にたどり着いているはずだ。風紀委員と言う訳の分らぬ組織に入れられ、昨日は居残りとついていない事が続いている。ここらで運気を上昇しておかなければ後々どうなることやら……。
要するに、彼女の顔を見れば運気が上がるそんな気がするのだ。勝手にそんな事を思いつつ、俺は草をかき分けた。草で多少手を切ったがいたしかたなし。そんな事、覚悟の上だ。痛くも痒くもない。
- Re: 之は日常の延長線に或る【1/26更新】 ( No.39 )
- 日時: 2015/01/26 13:12
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4NhhdgqM)
少し歩いて思ったのだが……誰かが後ろからついてきているような気がする。二つ、三つか、否二つだな。一体どのような人物だろうか? まさか、変質者ではあるまい。変質者ならそいつはきっと相当の変人か、それとも変態か、兎に角俺を狙う事はありえない。
取り敢えず走る、そして急カーブ。振り返るとそこには——……無表情な少女と気の強そうな少女が立っていた。その少女達は同じ顔を並べてこう言った。
「貴方、零組?」
見事声をそろえて首を傾げるタイミングまでぴったり。あぁ之は俗に言う双子と言うものだろう。なかなか双子と言うのは御目にかかれないもので、拝みたくなるぐらいには珍しい。
暫く、返事の無い俺を訝しげに見ていた双子だが、片割れの気の強そうな少女はしびれを切らし、俺に詰め寄る。
「……ちょっと、返事しなさいよ」
水色……否、アクアマリンの瞳を俺に突き刺しながら批判的な声でそう言う少女、そこで俺はやっと返事を返すことにした。
「あぁ、俺は零組だ。名前は春山 昶。お前達はなにゆえ俺をつけてきた? まさか、用がその質問だけとは限らないだろう?」
質問だけならばもう開放してくれないだろうか。俺は遅刻が怖い。正確に言うとその後の御嶽のパシリが嫌なのだ。面倒事を全て押し付けてくる。奴の性格は蛇の道よりひんまがっていると見た。そいつに名前も顔も覚えられていると来たら、あぁ考えるだけで気だるい。
あぁもしかして、こやつらも零組なのだろうか? そう言えば視界の端にこの様な後姿を見たような…………見なかったような?
首を捻っていると、今度は緑、エメラルドグリーンの瞳の少女が今度は答えた。
「私も零組。私は西条 優奈。こっちは西条 皐月。……いきなり後付けたりしてごめんね。道がわからなかったの」
無愛想な声でそう言う少女は何処か遠慮がちに、否表情は変わらないのだが、何となくその様な感じに思う。こう見えても空気を読む力はあると自分で自負しているのだから、きっと彼女は慎ましやかな性格なのだろう。対象に、水色の君は白黒つけたいそんなパリッとした性格なのだろう。まぁ之は俺の憶測だ。事実は異なるやもしれぬ。
そんな二人の名は優奈と皐月、どちらとも西条だから下の名前で表記させてもらおう。
彼女達はどうやら本気で迷子になっていたらしい。仕方がない、年長者の俺が連れて行ってやろう。けしてロリコンとかそう言うものではない。誤解されてしまっては困るからな。断じて違う。どちらかと言うと同年代〜年上が好みだ、そして胸は大きい豊満とした方が好きだ。——否否、そのような事はどうでもいいのだ。彼女達は困っている。ならば手を差し伸べてやるのが人と言うもの。それが縁と言うものなのだ。
「俺が連れてってやる。どうせ、目的地は同じだろう? 御嶽は煩いからな、さっさと合流した方が身のためと言うものだ」
行くぞ、そう声を掛けると二人は後ろをついてくる。何だかか弱い小動物のように思えた、そしてこれから深く関わる事になるだろうと俺の第六感が告げている。
袖振り合うも多生の縁。
道端で出会う事も前世から決められていた事で、ここで無視してもそれも縁と言う事だ。ならば手を差し伸べてやるぐらい、どうという事も無い。俺に支障も損害も無いのだから。
そうこうしている間に緑は晴れ、とうとうその場にたどり着いた。フェンス越しに我らが零組の顔ぶれが見える。昨日よりは人数が減っているが、そんなもんだろう。零組だからな、来る方が珍しいと言うものだ。
さて、後ろの二人は……そう振り返ると二人は目を輝かせ、辿り着いた事を静かに喜んでいるようだ。チラリと俺を見上げた二人はそのまま零組の中へと混じっていく。小さな声で「ありがとう」と言っていたのは、しかと聞き届けた。俺も彼女らに続くとしよう。
最後に御嶽がフェンス内へと入り、フェンスは閉じられた。なにやら大量の物資を持っている。一体、ここで何が行われるのだろうか? まぁ後々わかるだろう。
- Re: 之は日常の延長線に或る【1/26更新】 ( No.40 )
- 日時: 2015/01/27 22:10
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4NhhdgqM)
肆 古人かく語りき
まぁ驚いた。そりゃそうだろう、之はまさに冷や汗もの。一体俺の心臓はどれぐらい耐久性があるのだろうか、疑問に思ってならない。そんな今日この頃。
御嶽道仁はフェンス内へ入るなり手前の生徒に一つの武器を渡した。それは映画などでよく見るサブマシンガンと言うものだろう。名称までは分からない。俺にはミリタリーの知識なんぞ「しったか」程度しか持ち合わせていないのだから。
ずっしりとするそれを御嶽は黙って配る。其々適当に並んでいたものだから、御嶽は舌打ちして整列させて、の所業だ。
そして俺の前まで来た。渡されたサブマシンガンをなめるように見た俺は、御嶽に問うてみた。
「之は如何した事でしょうか?」
「そう言う事だよ」
……との事だ。全く意味がわからない。そもそも質問の答えになっちゃいない。憤怒の思いで睨みつけている俺に同調するように、俺の隣に居た大きな男、不良らしきそいつが受け取ったサブマシンガンを片手で握りしめつつ御嶽を睨む。俺の睨みなんぞ地を這う猫の如し。奴の睨みは、それは、それは恐ろしかった。如何恐ろしいって、そりゃ蛇に睨まれた鼠、熊に対峙した猟師、またはそれの類に並ぶ恐ろしさである。
「おいお前、之はどういう意味を指す?」
低く唸る大狼(おおかみ)の様な声で、男はサブマシンガンを握りしめる。隣に立っているから聞こえる、ミシミシと言う音は恐ろしいほどに耳に鮮明だ。俺は隣をチラリと再び見やった。
(あぁこいつは知っている。確かナキリが言っていた……そうそう、タワーきっての不良の一人だろう)
確か名前は神宮寺 空悟。全長186余、齢18。だが、その見た目により大人にまで恐れられている一人だ。やはり……と言うか、やぱっり零組だったか。
神宮寺の噂は本当か嘘かわからないものが多い。ヤクザの親父がやっているラーメン屋で金を払わず集るヤクザの部下を殴り倒しただとか、道を阻んでいたダンプカーを真っ二つに割っただとか、後は奴に恨みのあるものが数十人集まって束になったが、病院送りにされただとか……まぁ明らかに不良だ。俺の人生にあまりかかわってほしくは無いなァ、と切実に思う。
ナキリの奴が顔見知りだとか言っていたから、まぁ何でもかんでも壊し、潰す奴ではない事は確かだろう。だからと言って警戒を怠るな、ナキリの奴はタワーの大半を攻略している。奴の知り合いの中でヤバそうな奴は数名いた。その中の一人では無い事を願うしかないと言う事だ。
あぁ、言えば奴はもう一つ有名な噂がある——なんでも「女」になると言う事だ。可笑しいのは分かっている。この推定180以上はあるだろう筋肉隆々の男がまさか、可憐を背負って生きているような女性になりますまい。
しかし事実は小説より奇なりと誰かが言った様に、不思議とは起こりうるものなのだろう。
例えばトイレから出てきた奴がサラサラの黒髪乙女になっていただとか、例えば不良に絡まれた奴を見ていると、不良が伏せた後みるみる間に、胸の豊潤な麗しき乙女になっただとか……まぁどれも之も馬鹿げているのだが一つ、真実に近しい情報を俺は持っている。
それは、俺がその場に「居合わせた」と言う事だ。
- Re: 之は日常の延長線に或る【1/26更新】 ( No.41 )
- 日時: 2015/01/27 22:22
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: 4NhhdgqM)
とある新月の夜、俺は「八丁ラーメン」と言うラーメン屋台へ行こうと足を急がした。
勿論深夜帯で或る訳だし一番かと思いきや、一人の女が俺より先に俺のラーメンを啜っていたと言う事だ。その女は身長170ぐらい、グラマーで或る。その女がどことなくこの隣に立っている男に雰囲気が似ている。
女性はラーメンを啜った後そそくさとその場から居なくなった。まぁグラマーで美人ときたら目で追わないわけも無く、暖簾越しに見ていると何と男になったではないか——……否まさか、な。性別の変わる人間など居るはずもない。きっと俺の疲れが発揮した幻覚だろう。
そんな事より、この男を刺激しない様御嶽に言いたいのだが……もう遅い。御嶽は奴の喧嘩腰の言の葉に、あろうことか同じ様な言の葉で返したのだ。
「そのままの意味だと言ったろう? なんだ、このクラスは馬鹿と阿呆しかいないのか。後で猿でもわかるように説明してやるから、それ壊すのやめろよ〜。それともお前はもっとゴツイのが欲しいか? ならばライフルをくれてやるよ。……ったく、子供は困る」
その言葉に神宮寺はピクリと反応した。やめてくれ、俺の隣で揉め事は……そんな心の底からの願いなんぞ受け入れてもらえるはずも無く、神宮寺は瞬く間に凶器になりうる拳を振り上げた。すると今までに聞いたことも無いような……要して例えるならば車と車がぶつかった様な音が鳴り響いた。
……御臨終。俺は「なむなむ」と拝みつつ御嶽を片目で見る。
「あぇ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。我ながら情けない。だが、それもいた仕方なし。何故ならば御嶽は立っていたからだ。その二本の足で、相変わらずの鳩胸を偉そうにそらしつつ、奴は餓鬼大将の様な笑みを浮かべていた。
その事に俺だけでは無く、殴った本人、神宮寺 空悟でさえその鋭い碧眼を見張っている。
「……テメェ、何しやがった?」
屈辱を孕んだその声に、御嶽はやれやれと肩を窄めた。
「幼稚で粗暴なお前達に教えてやる、お前たちだけが能力所持者と思うなよ」
御嶽はそう言うとニヤリと笑って神宮寺に「ほれ」とライフルを投げ渡した。神宮寺は舌打ちをしてそのライフルを地面にたたきつける。見事ライフルは壊れてしまった。そのまま神宮寺はフェンスの方へ、帰るらしい。そんな後姿を冷や冷やしながら俺達生徒は眺めていた。
その生徒の中の一人である俺なのだが、先ほどから殺気を感じる。はて、一体誰に狙われるような事をしたのか、視線の先を追ってみるとなんと御嶽であった。
怒りの孕んだ目で俺を睨みつけてくる御嶽。チクショウ、あの時永眠してくれると助かったのだが……あぁ嫌な予感しかしない。そんな俺の思いを鼻で笑った御嶽はニコリと不気味に笑った。
「お前、俺があの餓鬼に死に目をみせられると思っていたんだろう? なめてるなァ、随分なめてるよなぁ? 何故最近の餓鬼は年長者を敬わねぇンだ。ま、そんな事置いといてやる。さっそく風紀委員としての初めての仕事だ。あの餓鬼を連れ戻してこい。ついでに来ていない生徒も見かけたら連れてこい。今すぐにとは言わんが……そうだな、ルール説明を聞いた後すぐに行ってこい。わかったか?」
「………………ハイ」
よし、そう言って御嶽は早々配り終える。さて之で若き学生共は立派な備兵に化けたわけだが……ルールとは一体どう言うものなのか、それよりも、なにゆえ危険が足を生やして歩いているような男に自ら近づかなければならないのか……それだけが気がかりである。
「ルール説明するぞ。壱、追い打ちかけない。弐、殺さない。参、恨まない。お前達はお前たちに与えられた武器、そして能力を駆使して戦地を駆けまわってもらう。この訓練の目的は戦いに慣れる事。遊びだからって気ぃ抜いたら承知しねぇ。——最も、気なんて抜いている暇はないだろうがな。……じゃあ的に当てるところから始める。あの三本の案山子の前に並べ」
早くしろ、そう言って御嶽は生徒を並ばせる。自分は横に立ってルール違反者が居ないか、遊んでいる者はいないかと目を皿にして監視する予定だろう。
「あぁ、そうそう中身は入れていないがそのマシンガンの中には針が大量に入っている。それが弾だ。訓練用に大きめには作ってあるが、実際はそれより何倍も小さい。まぁどっちにしろ、刺さらない様気つけろよ」
怪我するからな、そう言って御嶽は合図を下す。皆は訳が分からず、ただ言葉に従った。一体この訓練で何を習得しろと言っているのだろうか? そもそも戦場とは一体どう言ったものなのか? まさか、本気で始業式の話しを信じろと言うのか? 能力なんて言う怪しげな力、何時自分が発揮したのだろう。疑問は色々残っているのだが、能力については皆触れないでいる。まさか、其々自覚している点があると言うのだろうか。そして今日も新妻 華笑さんは居ない。
生徒に紛れて案山子の前に並びにつくと、御嶽は俺を呼び寄せた。
「春山はさっさとタワーに行って、参加していない生徒探してこい。どうせそこら辺でたむろってんだろうよ。まぁ気つけるこった。なにせ、零組に選ばれた様な奴らだ。マトモな奴はまずいない。そうそう、居ない奴は生徒名簿にチェックされてるから確認しとけよ」
そのマトモじゃない生徒の相手をするのがお前の仕事じゃないのか? そう言いたくなる衝動を抑えて俺は生徒名簿を携帯で撮影してからタワーへ歩く。獣道を引き返すのは億劫だが、道が無いのだから仕方がない。そして今更気付いたのだが俺もそのマトモじゃない生徒に含まれて要るか否かと言う点だ。後者であると思いこんでおこう。
あぁ面倒だ。こんな事なら俺は授業に出なければよかった。授業内容もマトモじゃない上に、マトモじゃない輩を相手にしろと言っているのだ、俺には無理に近い事だが指名されたのだからやるしかないのだろう。後々を思うと結局その答えに辿り着く。居ない生徒の場所なんぞ大凡ナキリが知っているだろう。奴もどうせ授業なんぞには出ず、自分の好きな事をしているに違いあるまい。空気を読んで出てきてくれれば助かるが……取り敢えず眠気もある事だ、行きつけの喫茶店にでも寄りつつのんびり探す事にするか。
そう俺は悠長に構えつつ、今は後に起こる大惨事を想像できずにいる。全く波乱万丈とはこの事だ。一部違うと言えば、俺はその波乱万丈の一部でしか無くて、中心人物は例の如し変人奇人宇宙人の類で或る事に違いは無い。
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