複雑・ファジー小説

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Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
日時: 2015/08/19 23:23
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199

Subterranean Logos

どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(

本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。

従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。

応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。

設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.9 )
日時: 2015/05/04 01:56
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

 地底に聳え立つコロニー。アガルタ、あの場所は自分達が生きて帰るべき場所なのだ。後部のハッチを開き、背後に広がる暗闇を見据える。戦友を置いてきた、自分達は生き残り、後は死した。
どのような顔をして、帰れば良いか分からない。素直に喜ぶ事も出来ない。複雑な表情を浮かべたながら、陸は散弾銃の折り畳まれたストックを開く。無線機が故障している以上、どうにかして気付いてもらう必要がある。格納庫のハッチにLAVをぶつける訳にも行かず、仕方なしに後部ハッチから身を乗り出して、照明弾を撃たなければならない。
 8ゲージのキャニスター弾に似通った機構を持つ大型な照明弾なのだから、気付いて貰えるだろう。開いたハッチから手だけ出して、一発打上げると鮮烈な閃光が、辺りを明るく照らす。眩しさに目を細め、何かを見据えながら、ハッチを閉じ、シートに腰を掛けると溜息を吐いた。

「気付いて貰えるかな」
「これで気付かなかったら、アガルタの警備部は盲だね。マジで」
 ヴァルトルートの軽口に相槌を打つ気にもなれず、陸は手に持った散弾銃に弾を込めて行く。前時代的なポンプアクションだったが、防衛部のように荒事専門の輩は信頼性を重視する傾向がある。壊れにくく、整備のし易い物をチョイスするのは仕方ない話だった。何より陸もこの銃を気に入っていた、ノスフェラトゥにも一撃で致命的な傷を負わせる事ができ、取り回しも良い。警備部五科の需品センスには感心だった。

「戦いの匂いでもしたか? 」
「いや、そういう訳じゃないんだけどさ。照明弾で別のモノを呼び寄せてしまったらって考えたらね。銃座も残弾少ないし、即応出来る体勢を作っておこうかな、って」
「その心意気や良し。若いのに感心だ」
 大仰に語るアサシグレだったが、彼も陸と同じ考えを持っていたようで、LAVの窓を鎧戸で閉じ、座席の位置を下げPDWを膝の上に置いていた。四人のうち二人がいつでも、戦えるようにと銃を拵えたためか、車内は再び緊張に包まれ、フルートの表情がやや険しい物に変わっていく。

「青いなぁ、台風娘」
 そう煽られても憤慨する訳なく、M1A1のボックスマガジンを抜き、二連装のドラムマガジンに付け替えると溜息を吐いた。

「え、ぶっちゃけマジなってんの? 」
 ヴァルトルートのいまいち意図が掴めない言葉に、誰も頷かない。代わりにフルートがセーフティを解除した音だけが車内に木霊する。腹を括ったのか、彼女もマシンピストルを引き抜いて、ハッチを睨み付けた。


 その時だった、車体側面を何かが擦るような音が聞こえ、全員が息を飲み、ゾッとしたような表情を浮かべ、その音に耳を傾ける。音は少しずつ車体後部へと向かい、ハッチの真ん前で音は止んだ。

「お迎えかな」
 軽口を叩くアサシグレだったが、語気は静かで重苦しい。覚悟を決めているようで、ヴァルトルートは緊張した面持ちで銃を構えた。都度都度、聞こえるハッチを叩く音、叩かれるたびに鼓動が早まっていく。手が震え、まともに照準を定める事が難しい。

「…どなたでしょうか」
 陸の言葉に応答はない、代わりに叩かれたハッチが歪み、微かに外の風景が見え始めていた。陸やアサシグレは銃口をハッチに向けていないが、フルートもヴァルトルート同様、銃口を向け緊張した面持ちで引き金に指を掛ける
 撃たれては敵わないと陸もハッチから離れ、ヴァルトルートの隣に腰を下ろす。
その瞬間だった、歪んだハッチの隙間に手が突っ込まれ、引き剥がすようにしてハッチが開かれた。相当な怪力なのだろう、片方50kg弱はあろうかというハッチは後方へ投げ捨てられ、人間の背丈ほどの何かがLAVの中へと飛び込んでくる。叫び声を上げながら、何かに発砲するヴァルトルートとフルートだったが、それは止まる気配を見せず、フルートを引き倒し、馬乗りになると、彼女の表情を見据え、聞き覚えのある笑い声を上げていた。

「————いやー、生還おめでとう。驚いた? 」
 柔和で、聞き覚えのある声に呆気に取られるヴァルトルートとフルートだったが、同時にアサシグレと陸は笑い声を上げていた。LAVの中に飛び込んできたのはハルカリだったのだ。服は銃弾によって穿たれ、穴だらけだったがハルカリ自身には一切傷はない。ボディーの剛性が、他のオートマタと段違いなのだ。

「…ぶっちゃけグル? 」
「うん、照明弾撃った時から、もう格納庫のハッチの外に居たから」
「鎧戸を下げた時に、ちょっとなぁ」
 じとついた視線を往なしながら、ネタばらしをする二人を横目で見ながらハルカリは小さく笑う。
「何はともあれ生きてて良かったよ。帰ろうか、アガルタに。五科長の白髪が増えるのは、もう沢山だ」
 口のないオートマタは出来る限りの満面の笑みを浮かべ、四人に語り掛けた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.10 )
日時: 2015/05/07 21:27
名前: のいじ (ID: 9igayva7)


 生還者が居た。その事にクレメンタインは喜びを感じていたのだろうか。薄らとした笑みを湛えながら、彼等を出迎えた。左頬の傷跡のせいか、やや引き攣ったように見えていたが、彼女なりの精一杯の笑顔なのだろう。
一抹の不気味さを抱かせたが、それを口に出す事はしなかった。しかし、彼女が口走った言葉に陸は一種の不快感を抱いたのは間違いない。

——君たちは使い捨ての英雄になる事はなかったようだ。おかえりなさい。

 この言葉が陸の頭の中を反復する。自分たちは使い捨ての存在なのだろうか。それとも、人に眺望される英雄なのだろうか。はたまた言葉の綾なのか、普段から尊大な言い回しをするクレメンタインだったが、この言葉はやや無神経に思えてしまって仕方がなかった。

 ふと、Nファクターを投与する為に、自身に繋がれた点滴パックを見遣る。中身はまだ4/3以上残っており、全て投与し終えるまでしばらく時間が掛かるというのが見て取れる。
カーテンに包まれた向かい側のベッドに横たわり、陸と同じようにNファクターの再投与を受けているヴァルトルートは眠っているようで、彼女の静かな寝息が聞こえていた。

「ネーベル。これ終わるまでどのくらい掛かりそう? 」
 点滴を繋がれた腕とは逆の腕を僅かに、上げて点滴パックを指差す。ネーベル、そう呼ばれたオートマタはグリーンの瞳を彼に向け、クスっと小さく鼻で笑った。

「5時間は見た方が良いわね」
「…長いですね」
「えぇ、急に入れたら副作用があるから」
 椅子に腰かけ、何やら書類に目を通しながらネーベルは言う。興味は一切陸に向いていないようだ。

「副作用ですか」
「体質次第だけど、あるわね」
「いまいちそういう知識ってないんですよね。どんなもんなんですか? 」
「そうね…。五科長が詳しいわよ」
「元三科ですもんね」
「それもあるけど。それ以外もあるのよ。取りあえず私は忙しいから、点滴終わるまで寝てなさい。“英雄”ちゃん」
 どこかネーベルの毒を孕んだ言い回しに、陸はややムッとした表情を浮かべるとぼんやりと天井を見据えた。
ネーベルが整理している書類同士が擦り合わされて発せられる音が、何処か心地よく、瞳を閉じれば襲い来る獰猛な睡魔に抗う術はなく、いつの間にか微睡に堕ちていた。



 薄暗がりの中で、台帳に引かれた二本線を指先でなぞりながらクレメンタインはスタウトを呷っていた。昨晩、ミッターナハツゾンネと飲んだスタウトと違って、妙な苦みはなく、心は平静を保っていられた。
机に置かれた旧友と自分が写っている写真の前にはショットグラスが置かれている。かつての友への祝杯のつもりなのだろう。旧友の好んだ酒が入ったショットグラスの中身は一切、減る事はない。

「今晩がアガルタで一番良い夜かも知れんよ」
 そう語りかけるクレメンタインの表情はいつもより幾分柔和で、顔色もよく見えた。死んだと思った仲間が、部下が帰ってきた。
死んでしまった者はいたが、生きて帰ってきた事に幸福を感じられて仕方がない。他の科長のように生と死に無頓着になる事はどうにも、クレメンタインには出来そうにない。表向きはそう振舞う事は出来ても、内面まではそう変えられない。

「私は救えないし、変われそうにもないよ」
 旧友のショットグラスを奪い取り、その中身を一気に飲み干すと写真を壁に向け、ゆっくりと立ち上がった。自分の飲んでいたジョッキの中にショットグラスを落とし込むと、ガラス同士がぶつかり合う耳障りな音が響く、割れたかも知れない。しかし、それを気にする様子もなく、何かを振り切ったような足取りで彼女は歩み出した。


Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.11 )
日時: 2015/05/07 22:41
名前: のいじ (ID: 9igayva7)

 はと目が覚めた時、医務室には誰も居らず、点滴は腕から外されていた。Nファクターを投与し終えた時、特有の酩酊感を僅かに感じながら陸はベッドから身を下ろした。ベッドサイドの鏡の中の自分は、酷く呆けたような表情をしている。頭を左右に振るい、頬を軽く叩くと、いつもの自分が戻ってきた。ホテルカリフォルニアから、ようやくチェックアウト出来たようだ。とてもではないが、こんな顔で表を歩くような事は出来ない。


 自分の部屋に戻り、寝直そうと思い、歩みを進めたと同時に、ふと脳裏に浮かぶネーベルの言葉。Nファクター副作用について、そしてクレメンタインが詳しいという言葉についてだ。時計を見遣れば時間は既に2時を回ってしまっている。夜分遅く、非礼を承知で彼女に聞いてみようか、などと考えながらドアノブを捻る。
医務室から出ると食堂とラウンジを併設したスペースになっているが、時間が時間なのか人気はなく、明かりは最小限だけに抑えられ、やや薄暗い。そんな中で食堂から、微かに水の音が聞こえる。五科のコック達が蛇口を締め損ねたのだろうか。特に身構える事もなく、首を傾げながらゆっくりとした足取りで厨房へと向かう。一歩ずつ進むごとに水の流れる音は強くなり、同時に人の気配らしき物もしてくる。

「気配も、足音も消して私に何の用だね」
 不意に背後からする聞き覚えのある声。明らかに気配があった場所とは異なる場所から声を掛けられたため、陸は驚いた様子で一瞬だけ硬直し、振り向いて、胸を撫で下ろす。陸の視線の先には、ジョッキとショットグラスを持ったクレメンタイン。彼女は相変わらずの仏頂面で陸を見据えていた。心しなしか、やや顔が紅潮している。酒でも呷ったのだろうと容易に憶測がついた。

「いえ、蛇口開けっ放しなのかなと」
「洗い物の最中に、何かが近寄ってくるのでな。思わず後ろに回った次第だよ。——持ちたまえ」
 半ば押し付けられるような形でジョッキとショットグラスを持たされた陸だったが、特に不快に思う事はなかった。聞きたいことがある人物が、酒に酔い、自分に物持ちを命じたのだ。話す機会を得たと考えても、良いだろう。

「だいぶ飲んだみたいですね」
「あぁ、スタウトを沢山、テキーラを少々。ボイラー・メーカーを沢山だ」
 口調はしっかりとしているが、何杯と言わない辺り、かなり酔っているのだろう。クレメンタインを現場主義の昼行燈と揶揄するお偉方も多いが、決してそういう訳ではない。仕事は完璧にな、現場の神様だ。記憶力とて、普通の人間よりは優れている。

「アルコール、残りますよ? 」
「あぁ、かもな。——寄越せ」
「あ、はい。——あぁっ!! 」
 ジョッキを手渡したつもりなのだが、クレメンタインが取っ手を掴み損ね、シンクに叩き付けられるように落ち、ジョッキが割れてしまった。ショットグラスは無事なようだが、クレメンタインは自分の手を見据えたまま、固まってしまい、何の反応も取らない。
「五科長…? 」
「切れた」
 陸の眼前に押し付けるようにして、手を広げると確かに掌にガラスの破片が刺さっており、血が滲んでいた。
「今救急箱持ってきます! 」
「——問題ない」
 右掌の傷に舌を這わせ、血を舐め取りながらクレメンタインは言う。何処か背徳的に見えるその光景に、目を奪われていた陸だったが、クレメンタインは横目で陸を見遣るなり、小さく鼻で笑った。

「この程度で貴重な医療品を使えるか、馬鹿者。唾でも付けておけば治るってものさ」
「元三科らしからぬ台詞ですよね」
「三科は自分の怪我は後回し、他の負傷者を救護しろって叩き込まれてきた物でな。中々抜けきらんよ」
 やや上機嫌に見えるのは気のせいなのだろうか。クレメンタインの言葉のノリが妙に軽い。少しばかりの違和感を感じながらも、陸は言葉を紡ぐ。

「そういえばネーベルから、五科長がNファクターの副作用に詳しいって聞いたんですが、本当ですか? 」
「詳しいというより、覚えざるを得なかった。……実例も見たしな」
「実例、ですか」
「あぁ、実例だ」
 それ以上はクレメンタインも語ろうとせず、どうにも陸の性格上聞き入ってはならない領分の様に感じてしまい、適当な相槌を打つ事しか出来なかった。というよりもクレメンタインはNファクターの副作用について、教えてくれないだろう。
「実例」という言葉を吐いた時の彼女の表情は、まるで苦虫を噛み潰したかのような表情で、思い出したくない物を思い出したかのようだったのだ。

「そうですか…」
「あぁ、そうだ。陸も此処で働いているうちに、何れその実例を見る事になるだろうさ。辛いが、仕方ない事なんだ」
 それだけ呟くように言ったクレメンタインの眼差しは、憂いを帯びていた。ふと伸ばされた右手は陸の頭を撫でつけるように、動いていた。
まるで案ずるなとでも言わんばかりに、宥めるように優しげに。しかし、それは陸に向けられた物ではなく、まるでクレメンタイン自身が、自分を落ち着かせるためにやったかのように、陸には思えて仕方がなかった。その理由は何故かは分らない。そこには口に出せない何かが、確かに存在しているような気がしていた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.12 )
日時: 2015/05/25 00:19
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: 帰国しました。

5/25追記


 生還者の事など、露知らずといった様子で二科長こと、グラナーテ・ヘンツェはボサボサの髪を手櫛で整えた。何度となく脱色した為か、髪は痛み、根本には黒い髪がやや見えつつある。
そんな彼女が煙草を咥えながら、食い入るように見入るその映像、そこには妙な物が写っていた。暗闇の中から突然、姿を現しては消えを繰り返し、自分以外の全てに危害を加える新手と思われるノスフェラトゥだ。

「ヴァルトルート君。此奴はとんでもないもんが現れたねぇ」
「ぶっちゃけ此奴が来なかったら、誰一人死んでないっすよ。マジで」
 ヴァルトルートの口ぶりから、この映像は死地から持ち帰った物らしい。捉えた映像は此処で、急に反転している。運転席からは死んでしまったアロイスと思しき男の悲鳴が聞こえている。彼が恐怖の余り、車体を急反転し走り出したためだろう。

「まゆしー君、コーヒーを貰ってきてくれないかな? 人数分」
「科長、その呼び方止めてくんないっすかね」
「それは出来ない相談だなぁ」
「…了解っす」
 「まゆしー君」と呼ばれた日本人の青年は、納得行かないという様子で格納庫を後にする。残ったのはグラナーテ、ヴァルトルート。そして、少し離れた所でディスプレイを見つめるカケハシだった。

「この化物に襲われていて、よく生きて帰れましたね」
「ぶっちゃけ、アロイスが運転トチって、死んだ時は終わったと思ったケド」
「…アサシグレ居なかったら真面目に死んでますね」
 そうカケハシは呟き、灰皿に置いていた煙草を咥えた。やや、呆れたような視線をヴァルトルートに向けているのは気のせいではない。二科の人間でありながら、整備一本なため、戦闘車両の運用は出来ないのだ。

「マジでそうだよねー」
 軽口を叩くが、グラナーテとカケハシからの生暖かい視線に気づいたのか、ヴァルトルートはバツが悪そうにニヤついた笑みを浮かべた。

「所で科長。これ他の連中には見せました? 」
「四科には見せたよ。ハルカリ君が対策練るってさ」
「ハルカリがやるなら問題無さそうですね」
「ハルカリ君だけ出ても仕方ないね。彼女はやや高度過ぎし、他が付いてこれるか…」
「第五世代はやっぱ違いますもんねぇ…」
 二科の中では、ハルカリのようなハイエンドタイプの第四世代オートマタを第五世代と呼んでいる。完全戦闘用のそれは、それ以外のオートマタと性能が段違いなのだ。

「カケハシ君じゃ、第五世代改修出来ないしねぇ…」
 グラナーテはまるで舐め回すかのような視線で、カケハシの爪先から頭の鉄片まで見遣る。特に反応もなく、冷めきった視線を交わすカケハシに「面白くない」とグラナーテは呟き、煙草を灰皿に押し付けた。

「科長、コーヒー淹れてきましたよっと」
「まゆしー君、ご苦労」
 「まゆしー」と呼ばれた男を見る事もなく、グラナーテはディスプレイの電源を落とし、変わりに「まゆしー」からコーヒーを奪い取るとそれに口を付けた。

「いつもより濃い」
「五科の財布の紐が緩んでるんで」
「ほうほう、クレミーに集るなら今だね」
「おっかなくて出来ませんよ、そんな事」
 そう言うなり「まゆしー」はコーヒーに口を付けた。熱さは大して気にならないが、確かにいつもより濃い。いつの間にかコーヒーを奪い取っていたヴァルトルートは大量の砂糖に、ミルクを突っ込んでいる。甘たるくて飲めそうにない、と思いながら「まゆしー」は苦笑いを浮かべていた。




 消えるノスフェラトゥ。その映像を見ながらハルカリは首を傾げた。一瞬だけ現れるその姿は、既知のノスフェラトゥとは大きく異なる。その姿は人間そのものなのだ。これは本当にノスフェラトゥなのだろうか、と妙な考えがICチップの中を過る。これは二科と四科だけで、抱えていて良い物だろうか。各科、各アガルタに広め、知識と経験を募るべきだろうか。

「どう見ても完全に人型ですね、コイツ」
「やっぱそうだよねぇ…」
 机の向かい側に腰を下ろす大柄なオートマタも、そういった見解を示している。シルエットは人間、オートマタそのもの。しかし、一瞬で姿を消し、再び姿を現しては、また誰かに危害を加える。狙う箇所は人間の急所のみ、ノスフェラトゥは捕食のために危害を加える事はない。危害を加えずに捕食、踊り食い状態で食いついてくるのだ。しかし、このノスフェラトゥは明らかに急所を狙い、殺しに来ている。明らかに殺意のような物を持っているのだ。

「科長、対策は練れますかね」
「いやー、正直、ぶっちゃけ、無理。マジで」
 何やらヴァルトルートのような口調になったハルカリだったが、大柄なオートマタも、ハルカリのそういった回答が予想出来たようで、静かに相槌を打った。

「シュトゥルムー。亀の甲より、年の功って言うんだよー。なんかないのー? 」
 シュトゥルム、そう呼ばれた大柄なオートマタは首を竦め、小さく笑っていた。正直、どう対応しようか判断が付かない。見えないものをどう探せというのだろうか。車載のサーモにも写らず、姿を現すのは攻撃の瞬間のみ。二体のオートマタは首を傾げながら、映像を繰り返し見ていた。






 四科以外の各科長達は神妙な面持ちで、一点にハルカリを見据えていた。彼女はやや気恥ずかしげに顔を俯けながら、リモコンのボタンを押した。
スクリーンにはノスフェラトゥとの戦いの中で、無残にも殺されてゆくアガルタの科員達の姿があった。例によりノスフェラトゥは攻撃のとき、一瞬だけ姿を現す。その瞬間でハルカリは停止ボタンを押し、その醜悪な姿を全員に見せつけた。

「恐らくは人間からの変異生物と判断するのが、妥当かと思います。二本の足、二本の腕、一つの首。二つの目。異なるのは全身の彼方此方から伸びてる触手だけ。これで科員の身体を貫いてます」
「御託は良い。対策は用意したのか」
 ギルバートは低く唸るようにして、ハルカリに問う。向けられた視線はハルカリの瞳に吸い込まれていた。常人ならば口を紡ぐのだろうが、ハルカリはそもそも機械だ。人の圧という物がいまいち分かっていない。

「正直、姿だけですと対策の練りようがありません。暫くは人間の方は哨戒に出ず、オートマタだけに任せて貰えれば」
「…お前達の部品代も馬鹿にならんのだが」
「命より金は軽いものですよ。五科長」
「……言うようになったじゃないか」
「いえいえ」
 クレメンタインの発言を一蹴し、ハルカリは席へと腰を下ろした。五科であり、需品を担当する以上、その費用を気にするのは仕方ない事だ。彼女は彼女なりに職務を全うしようという姿勢を見せただけに過ぎない。

「ねぇ、ちょっと」
「はい」
「ソイツさ、どうにか姿見えないの? 」
「映像で見ても分かりません。実物を見てみない限りはなんともです」
「それじゃ熱源感知器、呈色感知器、呼気感知器をアンタ等の目に突っ込めば見えるかも知れないって事? 」
「可能性としては0じゃないです。もしかしたらそれで見えるかも知れません」
「やる価値はありそうだね。どう…? クレミー」
「どうって、オーダルトの予算請求してすぐ予算を貰えるとでも? 」
「それをどうにかするのが、五科でしょ? お偉方に銃突きつけても予算貰ってきてよ」
 クレメンタインとグラナーテの間に見えない火花が散りつつあるが、男衆達は大して気にする様子もない。二人してスクリーンに映ったノスフェラトゥの静止画を黙って見つめていた。それぞれに思いがある事だろう。

「ハルカリ。うちの秘蔵っ子を貸すから十分に使ってやってくれ。この星の精をぶっ殺すのに役立つ筈だ」
 スクリーンから目を離す事はないのだが、レスターは呟くように言う。スクリーンに写るノスフェラトゥを「星の精」と称したが、言い得て妙だった。
クトゥルフ神話の一つ、ロバート・ブロック著「星から訪れたもの」に登場する化物にそっくりなのだ。普段は透明で不可視、犠牲者に危害を加える時のみ姿を現し、触手を身体から垂れ下げている。レスターの発言のせいで、そのノスフェラトゥがまるでその物のように思えてしまう。

「…三科からは貸せんよ。ネーベルは戦闘用じゃあない。本当なら貸すべきなのだろうがね」
「分かってます。そう言ってもらえるだけ嬉しいです」
 スクリーンを見据えたまま、ハルカリはそう言い放つ。オートマタにも向き、不向きがあるのだから仕方が無い話だ。その分、自分達が必死に戦えば良いだけの話なのだから。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.13 )
日時: 2015/09/11 01:02
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

 五科の事務所は厭に張り詰めた空気に支配されていた。五科の長は、また口が裂けるのではないのかという程に、大口を開けて電話口で大声を発している。気まずそうにデスクに向かう二体のオートマタは口を噤み、それぞれ与えられた仕事をこなしていた。

「ターナ、進捗はどう…? 」
「…進まない」
 何時もはマシンガンのように口数が多いミッターナハツゾンネも今回ばかりは静かに、言葉短く相方のオートマタの問いに答えた。問いをぶつけた方のオートマタもそうだろうな、と小さく頷く。彼等の仕事の進捗を害する程にクレメンタインが荒ぶっている理由、それはオートマタのオーダルトに必要な資材を確保するために、地上のお偉方に予算請求をしているのだが、答えが出ない事に辟易しているのだ。無理なら無理と返答をすぐに寄越せば、彼女は荒ぶる事はない。はっきりせず保留されるのが嫌なのだ。でなければ次の一手を画策する事すら出来ない。

「二科長も無責任だよねぇ」
「まったくだぁ…」
 小声で言葉を交わす彼等を傍目に、クレメンタインは啖呵を切って受話器を叩き付ける。ビクッと跳ね上がる二体を横目に、クレメンタインは溜息を吐く。

「大声出すと疲れるな…。年か? 」
 一人ごち、机に伏せるクレメンタインをやや気後れしたような表情を浮かべて見つめる二体のオートマタ。何ともいえないシュールな光景が事務所の中に広がっていたが、それでも空気は一向に和らぐ気配はない。

「どう思う。やってもいないのに出来ないだと。下っ端の事務官共の判断だけで物事を進められると思ってるに違いないぞ。上の連中は」
「ムカつきですか? 」
「あぁ…。……ウシオ、コーヒー淹れてきてくれ。いつもと同じでいい」
 ウシオと呼ばれたオートマタはそそくさと立ち上がると給湯室へと向かう。コーヒーの香りが微かに漂ってきたが、クレメンタインはそれを気にする様子もなく、伏せたまま悪態を付いていた。

「ターナ。お前、戦場でペチャクチャ喋ったら奴も寄ってくるんじゃないか? 」
「デコイは勘弁して欲しいなぁ」
「そのまま全損してくれりゃ、修理費も掛からなんだ。それに静かになる」
「ひっどい」
 目が据わった彼女が言い放つ冗談は、どうも冗談だと思う事が出来ず、ミッターナハツゾンネは困惑した表情を浮かべながら、机に片肘をついた。このままクレメンタインを喋らせ続ければ、空気は和らぐに違いない。

「第一私が全損して破棄されたら、困りますよ? 」
「…需品担当は私とウシオだけか」
「ね? 」
「割といけると思うが。お前、仕事遅いし」
「ひっどい」
 他愛もない会話というのは矢張り重要だ、少しずつ和らいできた空気にミッターナハツゾンネは内心ほくそ笑む。自分を道化にする価値がある。このお喋りな自我に感謝しつつ、何の気無しに給湯室を見遣ると、マグカップを手にウシオと呼ばれたオートマタが向かってきている。ナイスタイミングだと、思わずガッツポーズしそうになるミッターナハツゾンネだったが、それをなんとか抑える。

「サックウェルさん、どこに置いておけばいいですか? 」
「あぁ…。適当に置いておいてくれ」
 とは言うものの、今のクレメンタインの机はお世辞にも綺麗とはいえない。様々な帳簿が山積みになり、書類が彼方此方に散らばっている。普段は綺麗なのだが仕事が立て込んできたり、他アガルタの調達要求資料、予算請求資料、その他実績資料を漁り始めるとこのような惨状になってしまう。何やら嫌な予感がミッターナハツゾンネのICチップの中を過ぎる。

「ウシオ、帳簿の上に置こうなんてするなよ」
「え? まぁ、うん」
 今の返答の限りでは、その上に置くつもりだったのだろう。書類の山を乱雑に退かしながら、空いたスペースにマグカップを置いた。ほっと胸を撫で下ろしながら、ミッターナハツゾンネは安堵の笑みを浮かべた。

「お前等も少しリフレッシュして来い、朝からずっと書類仕事なんて気が滅入るだろ」
「…オートマタに疲労はないですよ? 」
 そう笑顔でウシオと呼ばれたオートマタは返答して見せた。相反して、ミッターナハツゾンネの表情は引き攣っている。

「そうか、私の分も仕事するか? 」
「遠慮しておきます」
「早いなー、ウシオ」
 内心、ニヤニヤが止まらないミッターナハツゾンネだったが、笑みを浮かべないように必死耐える。

「その早さを上の連中に分けてやれよ。——ほら、一服して来い」
 そうクレメンタインに促されるなり、ミッターナハツゾンネは立ち上がり、ウシオと呼ばれたオートマタの首根っこを掴む。無抵抗のまま引き摺られていく妙な光景が一瞬だけ、クレメンタインの視界に入ったが彼女は笑みを湛える事すらなく、溜息を吐いた。


 書類の山の中に、気になる資料があったのだ。他のアガルタ警備部が発動しようとしていた「インヴィジブル・タッチ作戦」という作戦に関する書類だ。状況も似通っており、二年前に姿が見えないノスフェラトゥを撃退するため、オートマタのオーダルト予算及び、修理資材を大量に要求しているのだが、却下されている。却下された理由としてはそのアガルタが外部監査に引っかかっており、請求した予算が膨大だったため、信頼性に欠けるとし却下されている。
結果としてはそのアガルタ警備部、第三科及び第四科が壊滅状態になっている。それも全員、死体が回収されていないらしい。

 どうにもキナ臭い、そう感じながらクレメンタインはウシオが淹れたコーヒーに口を付けた。適度な苦味が、頭の中の歯車の潤滑剤の役割を果たす。これが紅茶だったら、もう少しマシだったのだろうが、贅沢は言えない。
調べる価値はありそうだ、そう思いながらクレメンタインは受話器を手に取り、底意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

「————あぁ、私だ。少し調べて欲しい事が」
 受話器の向こう側の人物は、抑揚なくボソボソと呟く。消え入りそうなその声はまるでエヴァに善悪と知恵の実を勧める蛇のように狡猾さを孕んでいた。
 


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