複雑・ファジー小説

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Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
日時: 2015/08/19 23:23
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199

Subterranean Logos

どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(

本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。

従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。

応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。

設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.35 )
日時: 2015/10/07 00:26
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

 青い血や、そこらに散らばった肉の塊、薬莢などを足蹴にしながらオートマタと八人の人間達は行く。八人のうちの一人の男が、スマートデバイスに内蔵されたカメラを使ってその光景を撮影していた。

「…随分と肝が据わってる事で」
「えぇ、こういう事が起きたのであれば、それを記録に残すが生存者の責務だと思いますので」
「なるほど。強い人だ。私の同僚の人間なんて、ちょっと前まで引き摺っててね」
「その人は優しいんだと思いますよ。」
「そうかねぇ」

 撮影する人間を傍目に、チョウセキは気が気ではなかった。まだ、自分達が遭遇していない未知の脅威が存在しているかも知れない。自分達をベースに招き入れた何かが待ち構えているかも知れない。そこで誰も死なずに済むか、何も殺さずに済む事だろうか。その答えは否だ。どちらかを取れば、どちらかを失う。死ぬ恐怖と、殺す恐怖が混在し頭で縺れ合っている。

「ウシオ、下を見るんじゃない。前を見ろ」
 隣で前だけを見据えながらアサシグレは呟くように、チョウセキを諭す。言葉は静かではあるが、目先の任務に集中していないチョウセキに思う所があったのだろう。

「…はい」
 この場でチョウセキを戒めたのは、一人のミスで全員が物言わぬ鉄屑と成り果て、人間は化物の餌、果ては化物の一群と化してしまう。それだけは避けなければならない。人間は守るべき対象であり、自分達はその為に作られた代物だ、という考えから来るものだったのだろう。
今のチョウセキはそれが分かっていないのではないのか、とアサシグレは思いながら不快そうな表情を浮かべ、短機関銃を吊り下げたベルトを掛け直す。

「随分と気を張ってるねぇ」
「…そういう事もある。年を取ってもこの緊張には慣れん」
「そうかい、そうかい」
 大ベテランであるアサシグレが、緊張からチョウセキを戒めたというのに、先頭を切って歩むハルカリには全くその様子が感じられず、口調はいつも以上に砕け、ややぶっきら棒に感じられた。

 そんなハルカリであったが、頭の中では噛み合わない出来事について様々な思考を巡らせていた。NGOの構成員達が防爆扉の向こうに身を隠したのは、午前4時。そして自分達がベースへと識別信号を送ったのは午後13時20分。防爆扉の外には生存者は居らず、皆が食い散らかされたか、化物に取り込まれていた。識別信号を送った時まで誰かが生き延びていたのだろうか、しかし化物から逃げながら、識別信号の受信に気付き、応答を返すことは出来るのだろうか。自分が人間ならばそのような余裕はない事だろう。

 ゆっくりと口元の鋼製マスクを取り外し、それをフラックジャケットに仕舞う事なく、口元に取り付けられた強制通信器のスイッチを入れる。横目でフルートがその様子を見ていたらしく、薄ら笑いを浮かべながら口から何かを引き剥がすようなジェスチャーを取って、カケハシの前でおどけてみせる。

「馬鹿じゃないの」
 やや辛辣なカケハシからの言葉を気にする様子もなく、フルートは前に向き直る。バツが悪かった訳ではないが、余りにも機敏なフルートの行動が、一見シュールだったらしく、アサシグレは小さく鼻で笑っていた。

『——チョウセキ。此処に居る八人は全員人間かしら』
 不意に身体の内側に響く機械音声、ややビクつくような仕草をしながら彼は小さく頷いて見せる。その動作はハルカリには見えなかったのだが、彼女は言葉を紡ぐ。

『誰かが私達を招き入れた。そしてこのベースに生き残ってるのは彼等だけ。化物は全て殺したはず。そう考えたら私達を化物と鉢合わせるようにして、此処に招き入れられるのは彼等だけじゃない? 』
 ハルカリの強制通信に誰かが答えれば、それをオートマタ達が人間を疑う事となる。そして、その疑念が正解だった場合の対処はワンテンポ遅れてしまう事だろう。

「そういえば此処に入り込んだ化物の数は何匹居たんだ? 」
 アサシグレが機転を利かし、人間達に問う。

「四体だ。うち一体は我々で仕留めたんだが、死体は見なかったか? 」
「いいや、全然。仕留め損ねたんじゃないのか? 」
 一体仕留めたと彼等は言うがそのような死体はなかった。その個体が高い知性を持ち合わせ、人間同様見よう見まねで識別信号に対し、応答してきたのだろうか。

「仕留めたはずなんだがなぁ」
 NGOの男も首を傾げながら言う。彼等が嘘を言っておらず、仕留め切れていないなら一体のノスフェラトゥが何処かに潜んでいるはずだ。仕留める必要がある。

「——本当に一体か? 」
「あぁ、本当に四体だ。なんだ、そんな嘘吐いたって全く旨みがないだろう? 」
「……そうだな。忘れてくれ」

 アサシグレはこれ以上の追求は不和を産むと判断したのか、あっさりと引き下がり肩を竦める。何もかもが合点が行かない状況に、やや苛立ちを覚えたのか足元に落ちている薬莢を蹴り飛ばした。その瞬間だった、フルートが踵を返し真後ろの人間にカービンライフルを突きつけたのは。

「なぁ、あんた達。教えてくれ。本当にアンタ等人間か? さっきから私にはあんた等が九人居るような気がしてならないんだ。誰かの中に“二人居ない”か? 」
 そうフルートは言う。各々の人間がフルートに銃を向け、引き金に指を掛けている。彼女の主張は信憑性に欠ける物であったが、彼女は生体感知に関してパッシブで働くセンサーを装備しており、それが彼女のICチップに違和感を訴え続けていたのが、遂に堪え切れなくなったのだろう。

「冗談じゃないぜ、オートマタのお嬢さん。俺等化物と一緒に隠れてたってのかよ」
「あぁ、そういう事だ」
「有り得ないね。誰一人もノスフェラトゥに触れるような事はしていないし、血にだって触れていない」
「なら、何で九人居るように思えるんだ」
「それはあんたの何かが誤作動してるんだろ! 」
「いいや、そんな事はないね。ばっちり動いてるさ。エラーなんてありゃしない! 」

 目の前でフルートとNGOのリーダーと思しき男が口論を繰り広げる。その光景がチョウセキには不愉快な代物だった。仲間内を疑うような事をするのは如何様なのかと、疑念を抱く。

「あの…、取り合えず止めませんか。その…、仲間内で揉めるのはよくないと思うんですよ」
 おどおどした様子ではあるが、チョウセキが言う事は尤もでありフルートとNGOのリーダーと思しき男は毒気が抜かれたような表情を浮かべ、互いに視線を合わせ、一瞥するなり互いに謝罪をする事もなく視線を逸らした。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.36 )
日時: 2015/10/08 20:41
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: 10J78vWC)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

 フルートとNGOの男が、ひと悶着を起こしてからは鉄火場特有の緊迫した空気と、気まずい雰囲気が混在していた。しかし、それももうじき終わる事だろう。扉に差し込まれた鉄パイプを真っ二つに圧し折り、ドアの制御盤をハルカリが操作している。あとは雪原を駆け抜け、ヘリを飛ばし、彼等を麓の街まで乗せ、降ろすだけだ。

「私達が乗ってきたヘリには汚染測定器が装備されてる。もしあんた等の誰かがノスフェラトゥに汚染されてたら、真っ先に殺してやる」
 そうフルートは語気荒く言い放つ。人でなければ、人としての意識を持っていたとしてもそれは人を語る化物だ。生かす理由はないが、殺す理由は山ほど用意する事が出来る。汚染されたら人権はない。

「はいはい、おっかねぇ事で」
 フルートと揉めた男は茶化すように言い放ち、背後を見据えた。多くの同胞が殺められ、苦悶の果てに命を落としたこの場所。彼等の遺体は回収出来ず、どう遺族に顔向けしようか、そう考えていた。自分が助かった喜びよりも、他者の死を悼んでいるのだ。

「お前、余り気を病むな。いつまでも引き摺った所で死人は帰ってこない」
 そうアサシグレは明後日な方向を見据えながら、独り言のように男に語り掛けた。引き摺り続けた末、死人が帰ってきたと素っ頓狂な事を言う女が身内に居たが、この男が引き摺り続けて潰れずに居られる程、強くは見えなかった。

「あんた等は機械だからいいよな。記憶消去すりゃ忘れられるんだろ? 」
「然り」
「俺等人間ってそこまで便利に作られてねぇんだ」
「然り。だが、忘れろ。人間はそこまで強くない」
 アサシグレが言葉を吐き終えるなり、ドアが音を立て開く。空には太陽の変わりに月が顔を覗かせていた。真っ白な雪原が月光に照らされて、見惚れるような光景が広がっている。しかしながら、凍て付いた外気がベースの中に入り込み、人間達は各々悪態を付いていた。

「此処から3kmくらい歩くから。大した距離じゃないけど、その大穴に気をつけて」
「と、いうと? 」
「四科長がチェーンガン担いで走ってきたもんだから、自重で穴空けちゃって」
「そんなに重いのか…」
「私だけで160kg、チェーンガンに電動機、もろもろの装備品で300kgは楽々」
「冗談だろ」
「や、ホント。フルート、先頭をお願い。私はチェーンガン持って帰るから、また最後尾に付くわ」
「了解だ。——人間、きちんと付いて来いよ」

 チェーンガンを担ぐハルカリを他所に、フルートは駆け出す。同時に暗視装置を起動させ、大型ノスフェラトゥがへばり付いていた崖を睨み付けるが、その姿はなく何処かへと立ち去ったようだ。
そう気を緩めた瞬間だった。ベースの上部から、何かがフルートの背を目掛けて飛来し、それの直撃を受けるなり、フルートは雪原に投げ出されていた。

「四科長! 上だ! 」
 軋む身体を起こしながら、フルートは吼える。彼女の視界に映るそれは巨大な蜘蛛のようなノスフェラトゥ。昼間崖にへばり付いていたノスフェラトゥだ。外皮には夥しい数の血管のような物が浮き上がり、頭部には八つの窪みが存在し、その窪みの中には人間の目のような物が夥しい数蠢いていた。ガチガチと口を震わせ、それはゆっくりとベースの上から降り、身動きが取れないフルートへと近寄っていく。

「…クソったれ」
 人間達をチェーンガンで押し、射線から退かすなり引き金を引く。最早銃弾というよりも砲弾に等しいそれが、大型ノスフェラトゥの外皮を突き破り、青い血液と体内に収まった臓器のような物を散らす。皮膚は脆いようだ。それが判明した途端、アサシグレやカケハシ、人間達も各々引き金を引き始めた。そんな中で銃の引き金を引かない者が二人居た。

 もしあのノスフェラトゥが人間から変質した物だったら、そう考えてしまい殺める恐怖に苛まれたオートマタと、立ち尽くし妙に震える人間が一人。引き金を引けないオートマタが、立ち尽くす人間の異変に気付いた時には遅く、皮膚を突き破って蜘蛛のような足が伸び、頭頂部は口のように裂け、青い血液を滴らせていた。

「————ッ!」
 声にならない悲鳴を挙げながら、突発的にそれに蹴りを見舞い壁へと押しやり、震える手で短機関銃の引き金を引くが、弾は出ない。セーフティーが掛かったままだと気付いた時には遅く、ノスフェラトゥがチョウセキの上へと圧し掛かり、背を突き破って伸びた足が彼の人工皮膚に幾数もの傷を付ける。
脊髄をその身体から引き抜きながら、首はゆっくりと伸びる。不自然な角度に曲がり、首の肉を引き千切りながらもチョウセキの顔面に喰らい付こうと蠢き、それを押し遣りながら抵抗するチョウセキは反撃を行う術を持たず、ただただ身を捩るだけだった。少しずつ近づく、ノスフェラトゥの口、頭蓋を割った口の中には、既に機能していないであろう脳がその姿を覗かせた。その瞬間、一発の銃声と共に首は吹き飛びノスフェラトゥの身体は脱力し、チョウセキの上に凭れ掛かった。

「…悲鳴の一つでも上げたらどうなんだ」
 フルートと一悶着起こした男が、厭に据わった瞳でチョウセキを見下ろしながら言い放つ。手に握られた散弾銃の引き金を引いたのだろう。自分の身に凭れ掛かった死体を蹴り飛ばして、覚束ない足取りでチョウセキは立ち上がる。

 既に銃声は聞こえていない。ドアの方向を見遣れば、身体の彼方此方を穿たれた大型ノスフェラトゥが真っ青な血の筋を走らせながら、雪原を逃げ帰っていく。もう放置しても死ぬと予想出来る。
 そして、仏頂面を浮かべたフルートがもがれた片足を抱きながら、不愉快そうな顔をして壁に凭れ掛かっていた。ノスフェラトゥの攻撃を転がりながら、避ける最中避けきれずに足を太腿から噛み千切られたのだ。

「全く、やっぱり“九人”になってただろ」
「あぁ、俺等化物と密室でデートなんて洒落にならねぇぜ」
 フルートと揉めた男が悪態を付きながら言い放つ。片手に持ったショットガンを肩に担ぎながら、その男は自分が殺した嘗ての仲間を一瞥するなり歩み出した。

「隊長さん、さっさと逃げよう。此処には居たくねえんだ」
「あぁ、そうだね。チョウセキ、真っ青になってるところ悪いんだけどフルート担いで頂戴」
「…あの、汚れますよ」
「チェーンガンとモータ持つかい? 」
「フルート持ちます」
 ハルカリに言い負かされ、フルートを担ぎ上げるなりチョウセキは歩み出す。自分は恐怖に打ち勝てない臆病者だ、殺す恐怖にも、死ぬ恐怖にも向き合えず、戦う事が出来ない臆病なオートマタだ。そう言い聞かせていた。
  

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.37 )
日時: 2015/10/11 23:11
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: 10J78vWC)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=hvHKFEFX4Gw

 何処か彼のオートマタは冴えない表情を浮かべ、デスクに向かい合っていた。隣で書類をまとめながら、クレメンタインに一方的に言葉をぶつけ、一人で笑っているミッターナハツゾンネとは対照的だった。チョウセキの表情が冴えない事に感付いてか、ミッターナハツゾンネの言葉には適当な相槌しか打たず、クレメンタインはデスクに頬杖を付きながら、そのチョウセキの様子を見つめ続けていた。

「ウシオ、何処か調子が悪いのか」
 オートマタに体調が優れないとは聞いた事はないながらも、部下であるため案じるのが勤めだ。クレメンタインはややぶっきら棒な口調ではあるが、言葉を発した。一人で機関銃のように言葉を放つ、ミッターナハツゾンネは何かを察してか口を噤む。ようやく静かになったかと、汪はミッターナハツゾンネを一瞥し、その視線を向かって右にスライドさせチョウセキに向けた。

「……いいえ、別に何でもないです」
 大抵、何もないと言う者には何かあるものだが、自分で言い出さないのであれば皆の前で聞き出す物でもない。訝しげにクレメンタインは短く「そうか」とだけ返答し、溜息を吐きキーボードを幾度か叩くとその音は止んだ。それと同時にチョウセキのメッセンジャーにメールが届く、その送り主はクレメンタインであり、タイトルに「稼業終了後残れ」と短く、打ち込まれており、本文はなかった。



 16時45分、稼業止めのマイクアナウンスが入るなりミッターナハツゾンネはそそくさと姿を消した。汪が30分ほど書類整理に時間を要していたが、それが終わったようで伸びをしながら、クレメンタインを見据えた。

「五科長、まだ残られるのですか? 」
「…少し調達の要領書がまとまらずな。上の連中を納得させる材料が揃わななんだ」
「そうですか。余り根を詰めすぎませんように」
「あぁ、18時には私も撤収予定だ。物不足は常、多少足りずとも如何様にでもなろうさ」
 尤もクレメンタインはそのような調達の準備をしている訳ではなく、チョウセキ以外の科員達が帰るのを待っているのだ。

「ウシオも無理するなよ? 不具合があるなら二科長の所にすぐ行くように。…では、失礼します」
「あぁ、ご苦労」
 軽く会釈だけして汪は部屋を立ち去る。彼の足音が少しずつ遠ざかり、部屋の中は静まり返り、チョウセキはゆっくりとクレメンタインを見据えた。

「何かあったのか」
「……五科長、殺す恐怖とか死ぬ恐怖を覚えた事はありますか」
「そうだな、前者は覚えている。よく覚えているさ」
「死ぬ恐怖は…? 」
「覚えるだけの余裕がなかった」
 クレメンタインが前線に立っていた頃は人員も足りていなかった。一科から四科までが総動員され、前線任務にあたっていた。それ程の激務だったのだから、任務を全うする事に躍起になり死ぬという物に対して恐怖を抱かなかったのかも知れない。それでも異常な事であるが、チョウセキはそう理解せざるを得なかった。

「先の任務では酷い物を見たらしいな」
「はい…、人間がノスフェラトゥになる瞬間を見ました」
 そう語るチョウセキは落ち着こうと、瞳を閉じる。暗闇の中で、人の形をしていながら、最早人ではない動きをし、自分の身体を自ら壊すそれの記憶がフラッシュバックされ、怯えた様子で瞳を開く。

「記憶消去してきたらどうだ」
「それも考えましたが、俺には出来そうにないんです」
 何故それが出来ないか、クレメンタインには分からなかったが問うような事はせず、ただただ視線を向けるのみ。相槌の一つをする事もない。

「死ぬ恐怖、殺す恐怖、逃げる恐怖か。お前はそれに立ち向かおうとする強い奴だな」
 そうクレメンタインは言う。言葉は感心の意を唱えているものの、彼女の視線は哀れみとも何とも形容しがたい気持ちが感じ取られた。

「グラナーテが言うように、お前等には心があるのかも知れないな」
「心ですか…? 」
「あぁ、私にはそんな物があるようには思えないがね」
 オートマタという代物が持つ個性はプログラミングされた人格が、推論と問題解決を繰り返していくうちに、手法、手段、思考を選び少しずつ発展していった結果、生じる代物である。それについてはチョウセキも、理解はしていたが、クレメンタインから飛び出た「心」という単語に呆気に取られざるを得なかった。

「心ですか…」
 それがあるとしたら、自分が死を恐れたり、殺しを恐れる事には理由が付く。至極人間らしい、当然の思考をしたまでに過ぎない。何処か胸に突き刺さるような、チクリとした痛みの説明が出来る。

「お前はお前らしく、人間らしく居ればいい。心を痛めても、心を病んだとしてもそれは仕方が無い事だ」
 そう語りながらクレメンタインは薄っすらとした、張り付いたような笑みを浮かべていた。頬の傷跡のせいで皮膚が突っ張り上手く笑えない彼女なりの最大限の笑みなのだろう。

「他のオートマタ達と違って、怖がったりしても良いんでしょうか…」
 そのチョウセキの問いにクレメンタインは漸く合点が行った。ハルカリ達は決して負けない、壊れないという強い意志の元、戦場に経っている。故に死の恐怖に打ち勝ち、殺める恐怖を抱かない。人間らしさを全力でかなぐり捨てた思考を持ち合わせているのだ。それがチョウセキにはないのだろう。

「ハルカリはハルカリ、ウシオはウシオ。そうだろう。奴等と違っても気に病むな。お前はお前らしく居て良いだろう」
 ゆっくりと立ち上がったクレメンタインは眼鏡を外し、背伸びをしてみせた。言葉を選ぶ間もなく、飛び出てしまった言葉に対して、らしくない事を言ったと思った彼女は、踵を返し顔を背ける。背を向ける直前の一瞬、彼女は少しばかり優しげな表情を浮かべていたように見えていた。


 

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.38 )
日時: 2015/10/14 00:47
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: 10J78vWC)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

 恐怖に打ち勝てない事を良しとし、恐怖に打ち勝つ者も良しとする。各々の内面は自由であるべきだろう。如何に考え、如何に恐れたとしても、誰一人それを批判、抑圧する事は出来ない。

 世の中は言論、表現という物の自由を確立されている。それが差別、宗教、教育、国家、多種に渡るタブーに触れても良い。そもそもタブーという物を設ける事自体が、言論、表現の自由に抵触する悪事である。彼等オートマタは恐怖を抱くという事をタブーとし、それを他に徹底せざる得ない現状を作り出していた。多くのオートマタはそれに順応したが、一体のオートマタはそのタブーに触れる事を恐れたのだろう。故に彼等には心がある、そう考える事が出来た。ロビーでクレメンタインに向かって機関銃のように言葉を発し、彼女を捲くし立てるミッターナハツゾンネも、手酷くやられ、不機嫌そうな顔をしながら車椅子のハンドリムを回すフルートもだ。

 汪という男は言った。オートマタには心という物がない。彼等の心と思しき物は問題解決と推論を推し量り続けた結果、生まれた副産物であると。果たして本当にそうなのだろうか、とグラナーテは思っていた。人も最初は無垢な物であり、外部からの刺激、影響。自己推論、環境、様々な要因に拠って自己を形成していく。それが心であり、個性という物になっていく。歪であれ、確りとした形であれ、それは出来上がっていく。であるならば、オートマタとて同じ代物ではないのだろうか。プリセットの人格に、様々な外的要因、内的要因が加味され少しずつ何かを作り上げていくに違いない。既にピノキオのような彼等は少しずつ成長していく。その過程が見られるから彼女はオートマタを愛しているのだ。

「二科長、フルートの太腿なんですがねぇ。メーカー在庫ないそうで、ぶっちゃけ納期二ヶ月くらい掛かるっぽいですわ」
 傍らで油塗れの顔をしたヴァルトルートはバツが悪そうな顔をしながら、パーツブック片手に言う。フルートの脚は太腿から下を引き千切られただけで、膝から下は無傷であったため、太腿をアッセンブリで交換するだけで、復旧は出来るのだが、メーカーの在庫がないらしく長納期となっているのだろう。

「二ヶ月間、車椅子生活かぁ。なんか私等情けないね」
「そうすかねぇ。メーカーが在庫無い言ってる以上、仕方ない違います? マジで」
「技術屋が即応出来ない事ほど、情けない事はないよ。直すべき人が其処に居るのにさぁ」
「“人”ですか? 」
「うん、人」
 オートマタには心がある、人に作られた物であったとしても。彼等は限りなく人である。グラナーテはそう思えて仕方が無い。例えそれは違うと言う者があれば、はっきりと返答しよう。人も人に作られた、と。神が創った物ではない。彼のガガーリンは地球に戻ってきて、ロシア正教の教主へ言い放っているのだ。神の姿を見たかと問われ、「神は見えなかった」と。ならば、そうなのだろう。人間を作ったとされる神なんてものはない。人も人によって作られ、心を少しずつ形成する。オートマタも人に作られ、少しずつ心を形成する。ならば人間と同義できる、と。

「一科長の前では言えない一言ですなぁ」
「消耗品扱いだからね」
 そうグラナーテは苦笑いを浮かべて、ホワイトボードに掛けた人員リストを見つめる。そこには今日の日付が書かれており、「ヴォーゲ帰還」と短く記されている。

「そろそろ皆帰ってくるからさ、出迎えようか。その汚い顔洗ってきなよ」
「これは仕事した証、マジで」
 機械油の汚れを手の甲で擦りながら、ヴァルトルートは言った。残念なことに汚れは一向に落ちず、更に汚れが広がってしまっていた。そんな事に彼女は気付く様子もなく、静かに踵を返し洗面所へと向かっていく。その後姿を見ながら、ヒラヒラと手を振り、コルクボードに貼り付けられた一枚の新聞の切り抜きを見る。そこには五体のオートマタ達の後姿が一面に飾られ、彼等を称える文章が記されていた。
先日、任務から帰ってきたハルカリ以下五名はニュースになっているのだ。音信が途絶えたNGO職員を救出し、ノスフェラトゥを撃滅した英雄として。皆が皆、勇敢に戦い人命を救ったとされているが、チョウセキは恐れ戦き、まともに戦えていなかった。そういった裏側については記事には記されていない。彼等を映画にし、ありのままの事実を更に広めるべきだという声まで上がっているらしいが、ありのままを知らない者達がそれを作れば、駄作間違いなしだろう。
暫くその記事を見つめ、グラナーテは小さく鼻で笑うと格納庫の明かりを消して、その場を立ち去った。

 昇降機は下降してきているのだろう。下向きの矢印の明かりが、赤く点滅している。耳触りな音がしないのは慎治の整備があってこそだろう。二体のオートマタと一人の男が乗っているはずだ。オートマタは黒髪で小生意気そうなのと、お菊人形、人間はスラヴ人、冷たげな男だ。

「あら、二科長。お出迎え? 」
 おどけた口調で、グラナーテの背後から声を掛けたのは「英雄」とされたハルカリだった。いつもどおりの鋼製マスクを身に着け、瞳は人間のそれとは全く異なるカメラ。身体のラインが出る事を嫌がってか、一見だらしない格好をしている。

「まぁねぇ。整備してあげないと」
「私等帰ってきた時も出迎えてくれたしねー、感謝感謝」
 彼女は自分が人間ではないと自覚している。多くのオートマタがそうなのだろう。その事実を感じ取れば、少しばかりグラナーテの胸に小さな棘が刺さり、痛みに似た何かを生じさせる。

「それが仕事だし、好きな事だからね」
「はー、人間の感覚っていまいち分からないねー」
「なんで? 」
「道具は道具で良いじゃない。消耗品よ? そりゃ消耗しないように手入れは必要だけど、私なんかはスクラップ寸前の払い下げ品だもの」
「じゃ、ハルカリは死にそうな人を見捨てるかい? 」
「いいや、見捨てないから今私は“ヒーロー”になっちゃってんだもの」
 そう胸を張って言う。彼女の顔が人間らしく表情を宿す物だったら、所謂ドヤ顔をしているのだろう。グラナーテは苦笑いを浮かべながら、ハルカリの肩を軽く肘で小突く。

「やめなよー。ほら、もう連中帰ってくるんだから」
 昇降機を降下させるモーター音は少しずつ近づき、次第に大きくなる。機械油の匂いが近づき、強くなっていく。そして、モーター音は止み、静かにハッチが開かれる。中の者達を確認するまでもなく、グラナーテは口を開いた。

「おかえり。小憎たらしい皆々様方。英雄共々、出迎えです」
 そう冗談めいた、出迎えを受けた彼等は小さく笑っていた。三人を見据え、グラナーテもそれに呼応するように小さく笑う。作ったような張り付いた笑顔が、三者の心のどこかに焼きついていた。


2.Pretty Hate Machine End

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.39 )
日時: 2015/10/19 22:45
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: 10J78vWC)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=WSeNSzJ2-Jw

番外.Invisible Touch


 突き刺すような太陽の日差しが懐かしく思えた頃、錆び塗れの昇降機は地底へとたどり着いた。朽ち掛けたシャッターが下ろされており、その前には煙草を咥えた人相の悪い女と、まだ幼さが残る小柄な小女がヘッドホンを付けながら音楽を聴いている。人相の悪い女が、一瞥するなり煙草を壁に押し付け、その火を消す。

「ETEか」
 そう低く唸るように言い放つなり、自分が羽織っているジャケットを見せた。月桂樹の葉に囲まれ、杖に巻きついた赤い蛇と、赤い王冠が記されている。RAMC、王立陸軍医療軍団の一員だったのだろう。階級章を見る限りでは大尉であったようだ。

「そういうアンタはRAMC? そこのオコサマは? 」
「さぁな、知らん」
 短く返答した後、次の煙草に火を付け咥える。妙な気を遣ったのか、一本だけ煙草を勧めて来る。

「私は煙草やめたから」
「そうか」
「…所で名前は? 」
「クレメンタイン・シンディー・サックウェル。お前は」
 自分の名を名乗り、人の名を問う時も視線を向けようともしない女を、内心失礼な奴だと思いながらも問いには答えなければならない。

「サリタ・サバテル・バルデラスよ」
「そうかい。覚えとく」
 聞いておきながら興味がないのか、明後日な方向を向きながら短くクレメンタインは返答する。イギリス人というのは横柄だとは聞いていたが、此処まで酷い物だとは思わなかった。

「ライミーは紅茶ばっかり飲んでるから、脳髄の代わりに紅茶でも入ってるんじゃないの? 」
「生憎私はアイルランド人だ。ガバチョ」
 嫌味を差別用語で付き返され、一瞬顔を顰めたが自分から言い出したのだから言い返されても仕方が無いと溜飲を収め、サリタは壁に身を預ける。

「…座るか? 」
 クレメンタインが脇に置いていたトランクを引き倒し、暗に座れと勧めてくる。その言葉に甘え、トランクの上に腰掛ける。

「まだ入れないの? 」
「あぁ、なんでも門番を配置する余裕もない程、忙しいそうだ。もう三時間も此処で立ちんぼだ」
「座ってるのに? 」
「お前、言葉の綾が分からんのか」
 冗談に本気で返すクレメンタインに呆気に取られながら、サリタは目の前でヘッドホンをして黙り込む少女に目を向ける。ヘッドホンから音が漏れており、四打ちで太いベース音が聞こえている。ダブステップか、ブロステップでも聞いているのだろうか。

「あの子、一言でも話した? 」
「いいや、延々雑音を聞いているよ」
「雑音ってねぇ…」
 クレメンタインは音楽に疎いのだろう、漏れた音から何を聞いているかの判別できないようだ。

「知らないの? スクリレックス」
「知らん」
 一蹴され、呆気に取られたサリタは話しても埒が明かないと首を竦める。こんな様子で軍隊生活が成り立ったのだろうか。そもそも適正試験の段階で、不適合のレッテルを貼られていても不思議ではない程の無愛想だ。

「ねぇ、君」
 ヘッドホンの向こう側からの声は、彼女の耳に届かないのだろう。聞く様子もなく、馬鹿だと言いたげにクレメンタインはサリタを横目で見遣りながら、次の煙草に火を付ける。

「ちょっと吸いすぎじゃない? 」
「…国の税収に貢献してるんだ。愛国心の一環だと思ってくれ」
「都合の良い解釈ね」
「いつの時代もそうだ、政治家と軍人は都合が良い生物さ」
「——敵と国を殺し、味方と国民を死なせ、誰かを謀るそういう生物ね」
「お前のところもそうだったか。…そうか」
 遠い目をしながら、二人は深い溜息をついた。地上では今も人間同士の紛争が勃発している、そこには宗教で思考停止した愚者や、違法に改造されたオートマタ、各国の軍隊で構成された連合軍、そしてノスフェラトゥが血を血で洗う四つ巴の戦いを繰り広げていた。彼女達はそれに嫌気が差し、日の光りを浴びない地下へと逃げ込んできたのだ。何かと戦う力を持ち、それを振るわないという選択肢を選ぶ事はしなかったが、人には振るえない。たが、力を腐らせるのは忍びない。良心を痛めないために人成らざる者との戦いを選んだのだ。

「2117年、ヨルダン、イルビド。お前は何処だ」
「同じく2117年、シリアのハサカ。酷い戦いだったわ」
「……路上で挽肉を拾う羽目になるとは思わなんだ」
 2011年の民主化運動の失敗から、政府が弱体化、統治が弛緩した結果。テロリストの台頭を許す事となった。それらは2015年から徐々に弱体化していったが、焼け野原にもいずれ、草木が生い茂るようにそれらの残存勢力を種子とした第二、第三の組織という物が絶え間なく発生した結果、もう既に一世紀も中東の砂塵の中で戦っているのだ。

「吸うか? 」
「…えぇ」
 煙草のパッケージを突き出すクレメンタインは、その口を器用に親指で弾くように開ける。その中身は空であった。からかわれたと抗議の視線を向けるサリタだったが、相反しクレメンタインは意地の悪そうな笑みを浮かべながら、煙草のパッケージを胸ポケットに仕舞った。

「——あのさぁ、煙いんだけど」
 そう抗議の声を挙げたのは、ヘッドホンの少女だった。やや鼻に掛かるような、気に障る高い声にサリタもクレメンタインも目を見開き、少女を見遣る。

「風呂に浮かべるアヒルみたいな声してるな」
 妙な例えをするクレメンタインに再びサリタは呆れたような視線を向け、そう揶揄された少女もサリタと同じような視線をクレメンタインに向けていた。


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