複雑・ファジー小説
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- Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
- 日時: 2015/08/19 23:23
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199
Subterranean Logos
どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(
本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。
従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。
応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。
設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.30 )
- 日時: 2015/09/10 22:29
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v
ベース内部は薄暗く、厭に人の気配が感じられなかった。天井に備え付けられた明かりにはノイズが走り、頻繁に点滅していた。最後にベース内部へと入れたハルカリは外を気にするように一瞥すると、ドアの引き手にパイプを差込、それを圧し折って外部から開かないように固縛し、更にオートロックを掛けた。
「人の気配がないんですよね」
ヘッドマウントディスプレイの生体センサを起動させながら、チョウセキはグルっと見回す。やはり感知音が鳴らず、生体反応が全くないようである。
「識別信号送って応答は来たの? 」
「はい。南側の、——此処のドアを開けておくとの事で」
そうい言うなりチョウセキはハルカリに突きつけるように、タブレットを見せる。確かにそこにはチョウセキが言った言葉通りの返答が帰ってきている。
「ふーん」
妙だと訝しげに間延びした返事をするハルカリであったが、すぐさま頭の中は切り替わり、室内戦になった場合、自分が手に持つチェーンガンは非常に使いにくく、邪魔な代物だと感じていた。
「…チェーンガン置いてくれば良かった」
チェーンガンと外部バッテリーを置くとサイドアームのカービンライフルを手に取り、一連の動作確認を行う。動作は良好、一切不具合はないようである。
「——長蛇陣形、先頭は私が勤める。並び順、奇数は左を、偶数は右を警戒。最後尾はフルートが勤めよ」
「Ja」
短く了解と呟くと、フルートはカービンライフルのコッキングハンドルを引き、前を見据える。それに呼応するようにアサシグレやカケハシ達もコッキングハンドル引いては、神妙な表情を浮かべていた。これから何が起こるか分からない、そんな状況に存在しえないはずの心を締め付けられているような気がしていた。
「ダクトには要注意ってね」
「また映画? 」
「リメイクされた方のThe Thingみたいだねぇ。この状況」
まるで映画の中に生きているような錯覚を覚えたのだろうか、ハルカリの語気は上ずり楽しげなものだった。ハルカリに口があれば、恐らくニヤニヤとした笑みを浮かべている事であろう。
「火炎放射器が必要になりそうで」
そう軽口を叩くカケハシであったが、静まり返り生体反応が一切見られないこの状況に関して、一種の恐怖のような物を感じていた。識別信号を送った際には返答が返ってきていながら、屋内には誰も居ない。人ならざる者の仕業なのだろうか、はたまた地下にでも潜り、何かから逃げているのだろうか。
「不安かね」
「まぁね」
「帰ったら調整だねぇ、オートマタに恐怖なんて要らない」
そうハルカリは言いはする物の、人間らしい感性を失えばそれは畜生と同じ、引いてはノスフェラトゥと同義的な存在になってしまう。それだけはカケハシの矜持が許す事はない。
「お言葉ですが、四科長。感情の抑制はICに負担を掛けます、出来れば避けたいですね」
「冗談に本気で返さないでよ。私だって恐怖はあるんだからさ」
ハルカリはそんな事を言いながらも、早足にドンドン前に進んでいく。曲がり角や、天井配管などのクリアリングもこなし、最も被害を受けやすいであろう配置であっても、その歩みは止まる事を知らない。
「————! 」
その彼女の歩みが突然止まり、止まれというハンドサインが送られる。その動作はキビキビした物ではなく、なるべく音を立てないようにとゆっくりと静かな挙動だった。
ゆっくりと静かに上げられたその手は口元を覆う鋼製のマスクに宛がわれ、それに指を這わせると隙間に指を差込み、マスクを引き剥がした。引き剥がしたマスクはフラックジャケットのポケットに無造作に突っ込まれ、再び手は口元へと戻る。
『——強制通信を行う。以後、言葉を発するな。生体反応を感知したが、どうにもおかしい。壁に張り付きながら、移動しているようだ』
一方的にオートマタ達のICチップに響く声、それは普段のハルカリらしい女性的で柔和な印象を宿す物ではなく、機械的でどことなく抑揚のない声だった。その正体はオートマタにプリセットでインストールされている、機会音声である。
『明らかにノスフェラトゥの進入、ひいては汚染を受けていると判断、これより制圧及び生存者救護任務へと移行する。またNGOに雇われているという情報である狙撃手及び観測手を発見し次第、捕縛せよ。人間ベースのノスフェラトゥとの交戦は避けたい。戦闘訓練を受けた記憶を引き継ぎ、我々の戦闘能力に匹敵する可能性がある。もし既に変異しているようであれば即時殺害を許可する。————最後にオーダーを告ぐ、化物は皆殺しだ』
抑揚のない機械音声から紡がれる、強い口調、物騒なフレーズに参ったというような表情を浮かべながらもチョウセキは小さく頷いた。
他のオートマタ達は全く微動だにする様子もなく、ただただ立ち尽くしていた。彼等は戦場を駆けずり回り、このような物言いに慣れているのだろう。
目の前の自分以外のオートマタ達の表情は分からない。出来る事であれば、彼等が自分の知らない悪鬼のような表情を浮かべていない事を望み、祈るだけである。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.31 )
- 日時: 2015/09/13 17:46
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v
一歩、一歩、そしてまた一歩、足音も立てずに彼等は歩みを進めていた。ハルカリからの強制通信もなく、言葉を発するなという命令を厳に守り、誰一人口を開く事もない。ただただ聞こえるのは、フラックジャケットの衣擦れと、時折聞こえる五体以外の足音と、這いずり回るような耳触りな音だけ。それが今ベースの中に存在する音であった。
化物とは一度も遭遇せず、銃弾を一発も放つ事がないまま、巨大な扉の前まで辿り付くと、ハルカリは壁に身を預けながら開閉レバーを操作し、扉を開こうとするが何の変化もなく、扉は開く様子がない。すると首元の無線スイッチに触れ、強制通信器のスイッチを操作していた。ハルカリの口元は素体部が剥き出しにされ、同じオートマタでありながら奇妙な物だとチョウセキの目には映っていた。
『恐らくはノスフェラトゥ進入と同時に電路管制を施したようね。意図的に電路を破壊したと考えるわ。突破のために物理的に破壊するしかない。アサシグレ、セムテックスを』
ハルカリの通信に対し、首をかしげながらゆっくりと近づき、彼女に耳打ちをする。アサシグレの言葉はチョウセキやフルートには聞き取る事は出来なかった。
『破壊と同時に戦闘になったら、それはその時よ。黙ってセムテックス頂戴』
その通信内容に仕方ないというような表情を浮かべながら、バックパックから手の平ほどの小さな、プラスチックケースに収まった爆薬を手渡す。重量は爆薬本体の重量は20g程しかなく、信管と起爆装置受信部の重量の方がある。爆薬本体の重量が、一桁多ければベースごと吹き飛んでしまうのだろう。
『ありがとう』
受け取るなり、セムテックスを扉下部へと取り付け、起爆装置の送信部を手に握りながら下がれとハンドサインを送った。ハルカリも例外なく、ゆっくりと足音を発さずに一歩、また一歩と後ろへ下がって行く。
『————爆破』
そう通信すると同時に起爆装置送信部の握り押しボタンを強く握りこんだ。耳を劈くような破裂音と同時に、扉は吹き飛び、天井へと向かって折れ曲がっていた。破片を浴びたのか、カケハシは不機嫌そうに人工皮膚にめり込んだ鉄片を取り除いては投げ捨てる。
彼女を心配する暇すらなく、チョウセキは間髪居れずに生体センサを起動させ、扉の向こうを見るも生体の反応はなく、右手に携えた短機関銃の引き金を引かずに済んだようだ。
「もう強制通信する理由はなくなったわ」
口元に鋼製マスクを嵌め込みながら、ハルカリは言う。これだけの轟音を発したのなら、何かが寄って来るのは間違いない。静かに、隠密行動を取る理由は既になくなってしまった。
「……科長、先を急ごう。雑談している暇なんてない」
「はいはい。各員、長蛇陣形を再構築。要領は先と同じ、厳守せよ」
「了解だ」
陣形を構築し終えないまま、ハルカリはゆっくりと前進していゆく。目に内蔵された複合センサを起動したのか、甲高い起動音が辺りに響き、それはやがて消えてゆく。
「真っ暗ですね」
「あぁ、扉から先の電路を破壊したのだろうな。悪手であろう」
そうアサシグレは言う。彼の言う通り、明かりを全て消してしまえば人間の視覚能力は一気に低下する。一方、ノスフェラトゥは暗がりの方が視覚能力は高い。一方的に捕食、寄生の対象となってしまう。
「護衛のスナイパーとスポッターも、これじゃ役立たずだろうな」
「えぇ、高々傭兵が第5世代暗視装置持っているとは考えにくいわ」
「全くだな、暗闇でドッキリって奴か」
「洒落にならんドッキリだ」
などとアサシグレやカケハシ、フルートは軽口を叩いているが、チョウセキは黙り込み緊張した面持ちで暗視装置を起動させる。白く撮像される物体全てがノスフェラトゥに見えて仕方が無く、それらが今にも襲い掛かってくるような錯覚を覚え、思わず引き金を引きそうになる。
この感情の正体が何なのかは本能的に理解出来る。それは死という物に対する根源的な恐怖だ。ハルカリや、他のオートマタ達にこれを話せば笑われる事だろう。
自分達は死なない、ICチップが残り続ける限り永遠の代物だと。しかしながら、チョウセキにはそう思う事が出来ないのだ。永遠に生きる者など無し、例えICが残っても、時間に侵され精神は死んでゆくのだろうと。物理的に破壊されるという事と、精神が死んでゆく恐怖が同義され、居ても立ってもいられない。引いてしまいそうな引き金から指を離し、静かにセーフティーを掛けた。
「——ストップ。……ちょっと目と耳、付いてんの? 」
ハルカリが止まれと制止し、ハンドサインを上げたにも関わらずチョウセキは彼女にぶつかってしまい、ハルカリは悪態を付いてチョウセキを戒めた。バツが悪い表情を浮かべながら、短機関銃のセーフティーを解除していた。
「生体反応あり、近づいてきてる。各員、交戦準備を」
防爆扉の向こう側に何かが居るらしく、ハルカリの瞳に内蔵された感知センサからは感知を示す赤い光りが漏れていた。そして、センサが感知した「それ」は徐々に近づいてきているらしく、センサからは感知音まで流れ出した。
「喧しい」
そう呟きながらもセンサを切ろうとせず、ハルカリはわざとその音を垂れ流しにしていた。向かって来いと自分の居場所を示すためだろう。向かってきたならば蜂の巣にするだけだ、と腹を括っての行動に違いない。
その瞬間だった、防爆扉に何かが取り付き扉を叩き始めたのは。ゴンゴンと耳触りな音を発している。その内、その音は次第に大きくなり扉を歪め始めた。
「これ殴られたらマズいんじゃないですか…」
「あぁ、ボディがぶっ飛ぶね。なーに私達は死なない。ICさえ残ってりゃ問題ないさ」
そうハルカリは言葉を返す。チョウセキの思い通りの答えだったが、それに対して批判する気も起きない、壁の向こうに居る恐怖の種に苛まれ続けるのが精一杯であった。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.32 )
- 日時: 2015/09/21 00:22
- 名前: のいじ@海上 (ID: 9igayva7)
扉の向こうの何かを睨み付け、チョウセキの緊張は極限まで高まりつつあった。恐怖に侵される心に似た何かと、恐怖に打ち勝とうとする意識、それらがシナジーを発生させたのだろうか。
横目で並列した、他のオートマタ達を見れば彼等の顔立ちもどことなく険しく、視線は鋭く、これから戦いに赴く兵士の顔付をしていた。心が震える、恐怖と高揚感に似通った感情が自分を少しずつ蝕み、壊していくのだ。
次の瞬間、防爆扉の蝶番が弾け、それが自分めがけて飛んでくる。それを掴みとり、床に投げ捨てたその時、ノスフェラトゥの手らしき物が、ひしゃげた防爆扉から姿を現わした。
それは血に濡れ、臓器の破片らしき物や、人間の手らしき物が付着していた。人間を喰いながら、一部は寄生を試み、逆に自分の一部とでもしたのだろうか。鼻腔を刺激する血の匂いに顔を顰めながらハルカリはその様子を見つめるだけで指示を送る様子もない。
「まだか、四科長」
「まだだ。扉から全身を出した時に任意の射撃を行え」
硬い口調で静かにそう語る彼女は、頬にカービンライフルを押し付けたまま視線をフルートに向けようともしない。フルートも同様だった。もしノスフェラトゥが扉から姿を現し、自分に食いついた場合、どうしようかなどと一つも考えている様子もない。死に対する根源的な恐怖という物を根本的に持ち合わせていないのだろう。
理想的な戦士だ、などと思いながらもチョウセキも彼女たちに習い、目の前に迫りくる化物から視線を逸らそうとせず、瞳と銃口をただただ向けていた。
「怯えているのか戦闘童貞」
「……失礼ですね、多少は戦った事ありますから」
「手が震えてるがな」
「武者震いです」
「そうかい、そうかい」
アサシグレには自分が今、どのような感情を抱いているか悟られているようである。尤も彼は味方が怯えていようとも、戦闘を回避しようなどと進言する気はないだろうし、回避できる状況でもない。やるしかないのだ。
もう既に防爆扉の穴は細身で小柄なカケハシならばその身を潜らせる事が出来る程に大きく広がっており、ノスフェラトゥの身体が見え隠れしている。
サイのような硬そうな皮膚が血に塗れ、人間の身体を吸収したのだろう。既に息絶えた人間の死体が、メスの身体にくっついたアンコウのオスのように同化しつつある。
それがひしゃげた防爆扉の穴に身を乗り出した瞬間、フルートが引き金を引く。耳を劈く銃声の中、ハルカリの舌打ちが聞こえたような気がしたが、一体が撃ち出した以上、火力を集中させて叩くしかなく、一体、また一体と引き金を引くオートマタが増えてゆく。
鉛の弾はそのノスフェラトゥの身体を引き裂き、人間の赤い血液と、ノスフェラトゥの青い血液が混じった形容しがたい色合いの血液を撒き散らす。防爆扉の向こう側で吼えるそれはまるで猛り狂うように、自らが開けた防爆扉の穴に身を突っ込み、自分の身体を引き千切りながら、カケハシの元へと進んでゆく。
「…気色悪いわね」
サイドアームとして持ち合わせていた拳銃で、半身だけで進むノスフェラトゥを撃ちながら彼女は呟く。その瞳は冷たく、なんの感情も宿す様子もない。書類でも処理するかのように落ち着き払いながら、9発の弾丸を撃ち終えると防爆扉の向こう側で動かなくなった半身を見据えた。
「生体反応消失、被害状況報せ」
「総員被害なし、意気軒昂」
碌な確認もせず、アサシグレはそう返答しながらヘッドマウントディスプレイの暗視装置を切り、代わりに熱源監視装置に切り替え、生体がないかを確認していた。
「扉の向こう微弱に生体反応あり、どうするかね。ハルカリ」
「見てみましょうか」
そう言い放ち、ハルカリはゆっくりと歩みを進めていく。やはり恐怖を持たないのか、迂闊と言える程に無防備に歩み進め、防爆扉を引き剥がすと、それを防爆扉の外に飛び出てきたノスフェラトゥの半身に叩き付けるように置いた。肉が潰れるような耳障りな音を一瞬だけ発するが、それ以外の音は聞こえず、絶命していた事が解る。
「なるほどねぇ。——ちょっと来て」
ハルカリに手招かれるまま、歩みより倒れ伏したノスフェラトゥの死体を見た瞬間、アサシグレ以外の全員が息を飲み、フルートに至っては顔を背ける。
「吸収されてもすぐ死にはしないんだね」
ノスフェラトゥの身体から、飛び出た人間の上半身。それはうめき声を上げながらまだ死ねず、自死を許されず生を投げ出す事も侭ならない人間の姿。哀れと思ったのか、ゆっくりと跪きながらハルカリはその人間を見据えた。
「もうアンタは助からないが、何か言い残す事は」
そう問うも人間は苦悶に呻き、もがくだけだった。口が利けないのならば、早く介錯してやるべきだと考えたのだろう。カービンライフルの銃口を人間に向けたその瞬間、人間の首が引き千切れ、ハルカリの首元に食いつく。頭頂部から裂け、まるで口のようにそれが蠢いていた。慌てた様子で、それを引き剥がそうとするチョウセキ達だったが、カービンライフルを投げ捨て、彼等を制した。
「…機械は美味いか」
人間の頭部だったそれを掴み取り、ゆっくりと人工皮膚ごと引き剥がす。それは耳障りな甲高い咆哮を上げる。最早それは人間ではない、と至極当然な思考に至ったのだろう。ゆっくりと力を込めると、骨が少しずつ砕けてゆく音を発し、その内ハルカリの手が頭蓋を砕き、原型を失ったそれを壁に投げつけた。熟れたトマトが潰れるように、不愉快な音を発していた。
「その死体、まだ多分動くからセムテックス頂戴な」
青い返り血を浴びながら、そうアサシグレに語りかけるハルカリの様相はどこか寂しげで、恐ろしげな代物だった。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.33 )
- 日時: 2015/09/24 00:22
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=KkoEnYFvX18
機械の兵士達が戦いに身を投じる最中、彼等の同胞である人間達は静かに笑みを湛えながら、対外任務に出ていた同胞を出迎えていた。五科の経理員と三科の衛生兵三人が、同じテーブルで静かに酒と食事を摂っている。その中の一人である、アジア人が騒がしい科長達をじとついた視線で睨み付けていたが、彼等はそれに気付く様子もなく、ただただ馬鹿踊りをしていた。
「あの様子じゃ五科長だけで抑えきれないでしょうね…」
フランス人の若い女が呟くように言い放つ。赤毛でそばかすが印象的な彼女の名札には“E.Orange”と書かれており、名札の左端には三科員であることを示す、背後に銃とメスを背負った十字が印字されていた。余談ではあるが、彼女のように名札を付ける構成員は珍しい。
「アガルタの良心がいない以上、こうなるのも仕方ない話かと思うがね」
眉間に力が篭り、どことなく険しい表情を浮かべたアジア人の男は諦観したような言葉を吐いて、グラスに並々と注がれたブランデーに口を付ける。品のない飲み方だと思いながら、赤毛でそばかすの女の隣に座る男は顔を顰める。
「ジル、折角の祝勝会なんだ。シブい顔してないで科長達みたいに騒いだらどうだい? 」
ブランデーに口を付けた方ではないアジア人の男が、にこやかで人当りの良い笑みを浮かべながら、ジルと呼ばれた男に話しかける。何処となく浮ついた印象を宿す男を見据えながら、ジルは口を開く。
「はっ…、助けられる人を助けないで何が祝勝会さ」
「ジル」
「第一、アンタは助けられそうな人間に見切りをつけて、早々に鉛玉ぶち込むのが仕事だったろ」
「ジル、やめろ」
「…汪さん、別に止めなくて良いっすよ、必ず人を救わなきゃなんねぇなんて思ってる甘ったれの戯言でしょう? 酒かっ食らって一晩寝りゃ忘れるようなもんですよ」
「白野、口の利き方に気を付けろよ」
「何遍でも言ってやろうかい。“お医者様”」
ジルを煽る白野と呼ばれた男は更にジルを煽る。ジルは舌打ちするや否や、不貞腐れたように悪態をつき、ボトルを手に取るなりワインをラッパ飲みするという決して行儀が良いとは言えない暴挙に出た。
「お前ら、大の男がいきなり凄むな。エレンをびびらせんなよ」
「はいはい、分かってますって」
ジルと揉めた白野という男、恐らくあそこでジルが掴み掛りでもしたら、ジルを床に沈めていた事だろう。元日本国防陸軍の第一空挺師団出身者である以上、ジルは足元にも及ばない。彼もそれを招致しているからそこ、暴挙に出なかったのだろうが、白野も気が立っている彼を煽るような事をしなければ良いものを、と汪と呼ばれた男はブランデーを呷りながら考えていた。
「汪さん、事後報告はやっぱり正直に書くんですか? 」
「勿論。正規分の正規で報告しなければ意味がないからね」
「……何人“処理”したかもですか…? 」
「あぁ、勿論。総勢87名、変異を確認し、救助不可能と判断、処理を施したとね」
「なんか、その…」
「考えちゃいかんさ、俺達はハルカリ達のような機械じゃない。考えすぎれば気を病む。こういう仕事なんだ割り切りたまえ」
幸いにも報告文書を上げるのが自分で良かった、三科の人間に任せれば気を病んでしまう事だろう。ジルもエレンも、最後の処理を率先して行った白野もだ。文書を上げた先のクレメンタインが多少なりとも参ってしまうだろうが仕方ない話だと一人納得したように小さく汪は頷いて、またブランデーに口を付けた。
「汪君、それは聞き捨てならないなぁ! 」
テーブルの向こう側でクレメンタインに介抱されていたグラナーテが身を起こし、そう声を張り上げる。機械には心がない、個性がそれだというのならば人間の心までも、同義の物と考えられてしまう事だ。酔っ払いの戯言だと一瞬だけ、横目で視線をやり、赤ら顔が視界の端に入るや否や天井を仰ぐ。
「此処の警備部のオートマタほど、人らしいものはない! 殺しに心を痛め、死を恐れる臆病な優しい奴だっている。君はやっぱり理解出来ていないなぁ」
「お言葉ですが二科長。彼等のあれは心じゃない、ICチップにプログラミングされた人格が、推論と問題解決を繰り返していく内に自学し、結果を出すまでのプロセスを選んだ結果の代物です」
「分かってないなぁ、人間の心だってそうさ。社会というプログラミングを施されて、その中で色々と悩み、結果を導くためのプロセスを選び人格を形成してゆく。それが心さ。ねぇ、クレミー? 」
「はぁ? 知らん。汪。忘れてくれ、ただの酔っ払いの戯言だ」
身を起こすグラナーテを無理やりに引き倒しながら、クレメンタインは言う。何処か遠い目をした彼女は、呆れたような表情を浮かべている。心無しか何時もより翳りがないのは気のせいだろうか。
「二科長の言うとおり、オートマタに心があったらどうする? 」
話の種でも投下してみるか、そう考えた汪は三人に問い掛けた。突然なんだと言わんばかりの表情を浮かべたり、興味あり気な表情を浮かべたりと三者三様ではあったが、三人をひきつける事に成功したようだ。
「過酷な任務に参ってしまいそうですね…。その人間にもあるじゃないですかPTSDとか、心の病というのが」
「怠惰な奴だったら人間を恨むだろうな。コキ使いやがってって」
「白野、お前オートマタだったら忙しくて良かったんじゃないのか? 」
「えぇ、全く」
エレンと白野はそれぞれ言葉を発する。各々の回答は、各々の人格に沿った回答であった。エレンはどことなく優しげな回答を、白野に至ってはワーカーホリックの片鱗を見せつけ、汪は少しばかり呆れてしまっていた。
「で、ジル。お前はどう思うんだ? 」
不貞腐れ、そっぽ向く彼は手に持ったボトルを叩き付けるようにしてテーブルに置いた。向かい合う汪の顔を一瞬だけ睨み付け、硬く真一文字に閉じられた口を開いた。
「俺は————」
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.34 )
- 日時: 2015/10/01 23:36
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v
10/1 加筆
青い返り血を浴びながら、一歩、また一歩彼女達は歩む。宛ら悪鬼の軍団長とその手勢といった所だろうか。一体のオートマタを除いて、彼等は厭に堂々としていた。
かつて人だったであろう化物を殺める際に、一分の迷いすら見せる様子はない。そんな仲間の様子を見るのがチョウセキからすると、とても辛く、耐え難い物に感じられた。もし化物と化した人間達が、声にならない助けを求め、死の間際まで自分の意識を保っていたとしたら、彼等が最期にみた物は人によって作られた鉄の兵士が自分を殺めに向かい来る光景だろう。その最期は人の手によって導き出されたと考える事も出来よう。死の間際にそんな精神的な苦痛を味合わせるのが、とても忍びなく、申し訳なく思えてきてしまう。
短機関銃を握る手がワナワナと小さく震えている。死に対する恐怖、それも他者に強いる死に対する恐怖に、チョウセキの思考は侵されていた。自分が死ぬという事も怖いが、第三者に死を強いるというのも非常に恐ろしいのだ。
「——四科長」
「なに? 」
「もし…、もしの話なんですけど人間に壊されるとしたら、どう思います? 」
「思うも何も私達は道具。いつか放棄されるでしょ」
そうハルカリは言い放つ。言葉はそこで止まり、言わずとも察せと一瞬だけ振り向いてチョウセキの瞳を見遣った。人の役に立つ事を宿命付けられ、寿命が訪れれば破壊され、本当のスクラップとして放棄される。ハルカリはそれで良いと思っているのだろう。任務の中で破壊されるのならば、本望でありそこに悔いも憂いも存在しない。致し方ない、その一言で済んでしまうのだ。恐らくこれはハルカリだけではなく、この場に居るチョウセキ以外のオートマタ全体が持ち合わせる共通の思考だろう。自分が異常なのか、彼等が異常なのか分からないままチョウセキは不安げな表情を浮かべたまま、隊列に続き歩み続けた。気分が鬱屈とし、前を見れず、自分の足ばかり見ていると再びハルカリの背にぶつかり、慌てた様子でハルカリから離れる。
「どこ見てんのさぁ。ま、いいや」
チョウセキを戒めるような口調ではあったが、彼女の目は微かに笑っていて、後ろを一瞥するなり再び前に向き直り、ゆっくりとドアに手を掛けた。防爆扉のハンドルを回す。防爆扉の向こう側からは、人間の悲鳴らしき物が聞こえ、逃げろ逃げろと誰かが叫んでいる。恐らくは中に生存者が居り、一人でに回った防爆扉のハンドルに恐れ戦いているのだろう。ノスフェラトゥがハンドルを回しているとでも思っているに違いない。ハンドルを回し終え、防爆扉がゆっくりと錆び付いたような音を立てながら開く。一歩だけハルカリは後退りながらカービンライフルを向けずに、防爆扉の前に立ち尽くす。
「科長、無用心ではないか? 」
ハルカリの前に躍り出たフルートがカービンライフルを構えながら、扉の向こう側を睨み付けていた。それに呼応するように、アサシグレとカケハシも続き銃口を扉の向こう側へと向けていた。引き金に指を掛け、何かが飛び出してきたとしてもすぐさま鉛弾の雨を降らせる事が出来るだろう。
「此方第14アガルタ。救助に伺いましたが、何分私の指揮下の者は気性が荒いようでして」
三体のオートマタを制しながら、カービンラフイルに取り付けたフラッシュライトを照らす。照らされた先には8名の生存者がそれぞれ得物を手に身を寄せ合っていた。8人全員、得物を手にはしていたが誰も撃てないだろう。ある者はセーフティーを掛け、ある者の銃口は真下を向いていた。まともに撃てるのはリーダー格と思しき男だけだった。
「…助かったのか」
リーダー格の男は口を開く。緊張からか何度か口をパクパクさせながら、ようやく声を発したそれは小さく、焦燥しきっているようだ。
「えぇ、どうにか間に合ったようです。所で何人やられましたか? 」
「……14人だ」
「なるほど、半分以上やられたのですね。情報で聞いておりましたが、護衛の狙撃手と観測手は? 」
「外で食われた…。居なかったか? 蜘蛛みたいなノスフェラトゥが」
「居ましたね。私達の火器で倒せるか不明でしたし、急いで此処に入ってきた次第です」
「そうか…」
生存者の内の一人がハルカリと言葉を交わし、現状が徐々に判明しつつあった。元々は20人のNGOに護衛が2人居たが、護衛が真っ先に捕食され急ぎベース内部に逃げ帰ってきたが、ノスフェラトゥの進入を許し、ベース内で12人捕食、吸収されたらしい。
「所で一つ聞きたい事が。——ウシオ、識別信号に応答あった時間は? 」
「あ、はい。えっと1320です」
「なるほど、その時間もう此処に逃げ込んでましたか? 」
「あぁ、明け方の4時から此処に避難していた」
その一言を聞き取るや否や、ハルカリは妙な表情を浮かべてオートマタ達の顔を見回した。時間の辻褄が合わない事から、何者かがハルカリ達をベース内部に誘導した事になる。基地内に第三者が居るのか、はたまた高い知性を持ったノスフェラトゥが紛れ込んでいるのだろうか。
「それが何か? 」
「いえ、もう少し早く来れれば良かったな、と」
不可思議な現状について、ハルカリは言及しなかった。死の恐怖に向き合い、心身を消耗した人間達に必要以上の不安を与えるべきではない。
「…輸送計画続行しますか? 」
「いや、これ以上は不可能だ。車輌を動かす人員も足りなければ、リスクが高すぎる」
「…了解です。取り合えず上に上がりましょうか。——ちょっと見苦しいかも知れませんが目を瞑っていただければ」
青い水溜りとひき肉が散らばっている、更にはそこに嘗ての仲間の死体も転がっているのだ。彼等には辛いかも知れないが、致し方ない話であるのだ。そして、彼等も理解してくれるはずだろう。そうしなければ助けてもらえなかった、と。
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