複雑・ファジー小説
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- Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
- 日時: 2015/08/19 23:23
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199
Subterranean Logos
どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(
本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。
従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。
応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。
設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.25 )
- 日時: 2015/08/24 23:02
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=f0EQlIzPowM
椅子に腰降ろし、医務室で点滴を受けるクレメンタインはぼんやりとした表情を浮かべ、左手で錆びたドックタグを握り締めていた。顔色はどことなく、優れず視線の焦点は合っていない。左右に控えるカケハシとネーベルはクレメンタインが変異した際、すぐさま射殺するために散弾銃を携えていた。
「……私が変わったら、すぐに殺せよ」
何時ものような強い言葉尻ではあるが、口調には覇気がなく消え入りそうに感じられる。左右のオートマタは首を縦にも、横にも振らず静かにクレメンタインを見据えた。いつのも強さはどこへと消えたのか、何故これ程までに悲壮感に打ちひしがれているのか。自分の死という物に恐怖を抱き、恐れ戦く子犬になってしまったのだろうか。
「言われずとも。……ただ、記憶消去をさせてもらいますが」
「あぁ、こんなもの忘れた方が良い。自分の首を絞める必要なんてない」
オートマタは記憶を全て、頭部に内蔵されたICチップの中に収めている。一時的にICチップを取り出し、整理してやるだけで彼らは幾らでも記憶を書き換える事が出来るのだ。クレメンタインはそれを羨ましいと、常々口にしていたが、今はそんな事を言う気配すらなく、静かに項垂れ、その意識を手放した。
燃え盛るLAVの中、頬と歯を削がれ苦悶の表情を浮かべる女の視線の先には変わり果てた友の姿があった。その友は自分の手で、心臓を抉り一時的に行動を止めている。胸から流れ出る血液は人間のそれと違う、鮮やかな青。
痛みと精神的なショックに身体は思うように動かず、這い蹲るようにしながら、吹き飛ばされた眼鏡を手に取った。
なんとか言葉を紡ごうとするも、頬と歯を削がれたせいで上手く喋る事が出来ず、言葉にならない言葉を発するしか出来ない。彼女の耳には届かないだろう。届いていたとしても自分で何を言っているか分からないのだから、理解をしてもらう事も出来ないだろう。
医療キットから医療用エストラマーを取り出し、それを乱雑な手つきで頬に押し当て、表面の整形が終わると更に口の中へと手を突っ込み、内側を整形する。更にその上からバンデージを巻き、エストラマーを固定する。粗雑で急拵え、かつ本来の用途ではない使い方ではあったが頬の傷を塞ぐと、クレメンタインは静かに腰を下ろす。まだ口の中が馴染まず、上手く言葉を話す事が出来ない。それどころか何故か、声が出なかった。
「——ねぇ」
不意に車内から聞こえる聞きなれた女の声。もう動き始めたか、と腹を括る。ゆっくりと後ろを振り返り、血に濡れた手でカービンライフルを向ける。恐らく引き金は引けない、次は仲間を介錯できない弱い自分が死ぬ時だろう。バンテージに覆われたクレメンタインの表情は分からない。死に恐れ戦いているか、それとも生を諦め諦観するような表情かは誰にも分からない。
「やっと殺してくれたのね。本当に酷い人」
目の前の親友だった化物は、ゆっくりと静かに這い寄る。近づくにつれて、ノスフェラトゥのように瞳は赤く染まり、顔立ちは少しずつ人間のそれからかけ離れていく。そこでクレメンタインは気付く、今のこれは夢だと。夢であるが故に、超常が目の前に存在し、自分に語らう。
「六年も待った。貴女なら殺しに来てくれるって思ったのに、五科にうつっただなんて。——本当に…、本当に酷いわ」
「…失せろ」
「ねぇ、触っていい? 」
目の前のノスフェラトゥは自分の血液で青く汚れた手を、クレメンタインの削がれた頬の手前まで伸ばす。あと数cmといった所でその手が頬に当たってしまうだろう。
恐らくは自分に入ったノスフェラトゥの血がこの悪夢を見せているのだ。そしてこの化生は、嘗ての友の姿で自分に化物の道へと誘おうとしている。おぞましく、恐ろしく、自分勝手で唾棄すべきその思考。クレメンタインはバンテージの下で顔を歪め、小さく舌打ちをする。
「触るな。私はお前と同じ道を歩む気はない。人間の矜持を捨てる気はない」
「そういうと思ったわ。でも、貴女は私の矜持を捨てさせた。…貴女のその情で私は昔の仲間を殺してしまったわ」
「それに対して詫びる気はない。私は私の意志に従ったまでだ」
「強情で、最低ね。——でもそう聞けて良かったわ」
そう言い放つなり、親友だった化物は静かに腰を降ろし、ただクレメンタインを見据えている。その表情は穏やかな物に感じられた。
「今度こそきちんと殺してね」
「最後に一つ、聞いておこう。お前はサリタか」
「…さて、ね」
化物は肯定も否定もせず、赤い瞳をクレメンタインに向けた。その赤い瞳にクレメンタインの姿は映っていない。
「そうか。——最後に言っておこう。お前が生きた証を持ち帰れず済まなかった。だが、お前が持ってきてくれた事に感謝する。もう逝け」
ゆっくりと立ち上がり、カービンライフルの銃口を嘗ての親友の額へと押し付ける。これから彼女を殺める、視線は逸らす事は自分の矜持が許さない。赤い瞳をただただ見据え、静かに引き金を引いた。
目を覚ますと両手両足を拘束されていた。まがりなりにも警備部のトップを拘束しているという罪悪感からか、目覚めて早々視線が合った陸はバツが悪そうな表情を浮かべている。
「…何時間寝ていた」
「三時間くらいです。今応急的にNファクターを投与して、変異するリスクを低減させようとしていた所ですが」
「要らんよ。私は何処までも人間で、それ以外の何者にもなる気はないのでな」
「ですが、三科長からの指示でして」
「…はぁ。———ギルバートッ! 」
声を荒げ、クレメンタインは吼える。陸はたじろぎ、カーテンの向こう側から足音が聞こえてくる。これから来るであろうギルバートが来る前に手に握られた鉄の板をワイシャツの胸ポケットにしまう。
「それ…、なんですか? 」
陸は目ざとく見ていたようだ。陸の問い掛けにクレメンタインは答える事なく、静かに笑ってみせた。そこに普段の苛烈な表情はなく、ただただ穏やかで陸は言い様のない違和感を覚えていた。その途端、カーテンが乱雑に開かれ、仏頂面でクレメンタインを睨み付けるギルバートの姿が現れた。その後ろにはネーベルがショットガンを抱えて佇んでいた。
「休暇の続きでスペインに行って来ようと思う。土産は何が良い? 」
そうクレメンタインは笑いながら、短く問うた。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.26 )
- 日時: 2015/08/24 23:50
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=Sb5aq5HcS1A
空っぽの墓の前に佇み、小さな鉄の板をそこに置く女はやや異質にも見えた。頬は抉れたような傷跡を持ち、やや顔立ちは引き攣って見える。更には首元に出来た火傷が見る者の目を覆い、彼女を避けて行く。もし墓の中に誰かが居たのならば、このような凶相を持つ女に墓参りなどしてもらいたくない事だろう。
「お前は酷い奴だ。私の頬を裂いて、私の仲間を殺して。許されない。本当に酷い奴だ」
女はポツポツと言葉を呟く。まるで呪詛のように紡がれる言葉は、風に掻き消され誰に耳にも届く事はない。恐らくは墓の中に居ない彼女の親友にも届いていない事だろう。それでも彼女は言葉を紡ぎ続ける。その表情は次第に憂いを帯び、今にも泣き出しそうにも見える。
「最期にあんな夢を見せて。私の部屋を滅茶苦茶にして、本当に酷い奴だ。だが、酷い奴に土産がある。」
右手に提げたトートバッグから出たのはテキーラのボトル。それもボトルのデザインは悪趣味で、透明なドクロを模していた。それの口を切り、何の躊躇いもなく墓石に振り掛ける。周囲の人間は一瞬、目を疑ったが女の凶相にたじろぎ、注意しようともしない。
「地獄で酔っ払ってろ。クソったれ」
口汚く罵り、ボトルに少しだけ残ったテキーラに口を付け、それを飲み干すと墓石にボトルを叩き付て、踵を返す。粉々になったボトルの破片が太陽に照らされ、厭にそれは煌いていた。それはまるで太陽を見ずに死んだ彼女へせめてもの光をと、救世主が授けた手向けのようだった。
まるで聖母のように優しげな笑みを浮かべた凶相の女は、地下へと向かう巨大な昇降機に乗り込み、最下層のB17Fのボタンを押した。いつもの引っ掻き音をスピーカーから出力したような耳障りな音はせず、スムーズに昇降機は下っていった。代わりに機械油の匂いが充満し、二科の人間が整備したと分かる。
「整備されて良かったな」
昇降機のゲートに手を掛ける。途端、警告音が鳴り響き、機械音声の緊急停止ガイダンスが流れ始めた。昇降機から何かがはみ出たとセンサーが感知したのだろう。またかと、女は額を押さえながら緊急停止を解除する。誰にも見られてなければ良いがと思いながら、地下へたどり着くまでの時間、遠ざかってゆく地上の明かりを見上げた。
辺りは何時もののひんやりとした空気に変わっていく。その頃には機械油の匂いにも慣れ、特に気に成らなくなっていた。この地下の肌寒さも懐かしく思えてくる。気が緩みつつあるが、昇降機の中では余計な物に触れず、ただただ棒立ちで大量のアルコールを抱えていた。
目的の階に到着すると昇降機は音もなく、スムーズにその動きを止めた。クラッチの整備もしたのだろう。ゲートは静かに開かれ、昇降機から降りるとすぐさま上へと上がって行く。コイツは地下が嫌いなのだろうかと思いながら、その様子を見送り、前を見据えると見知ったオートマタ達がそこに居た。
「またお前等か」
「お帰りなさい。五科長」
「ターナ。土産を食堂まで持っていってくれ」
「了解ー。部屋もばっちり掃除したから、さっさと荷物置いてきたら? 」
「お前が置いてきてくれても構わないぞ」
半ば押し付けるようにターナへと土産とスーツケースを渡す。彼は嫌な顔一つせずににこやかな笑みを浮かべて、その場を後にする。ストラップから釣り下がる短機関銃のセーフティーが掛かっていないような気がしたのは気のせいだろうか。
「地上はどうでした? 」
「何時もどおり」
「何時もどおりですか」
「あぁ」
短く言葉を交わし、凶相の女は足音を立てて再び歩き始めた。女の後姿を見送ったカケハシは壁に寄りかかり、昇降機方向を見据えていた。一つ考えていた事は彼女の憑き物は落ちたようで良かったと、らしくない事であった。
1.The Gray Chapter End
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.27 )
- 日時: 2015/08/31 23:44
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=UQDEUzu7BzI
2nd.Pretty Hate Machine
一体のオートマタは、宛ら狂人のように高笑いながらミニガンを放つ。加熱された銃身は赤く光り、地下の暗がりを照らしていた。その赤い光りに誘い出されるように、這い寄るノスフェラトゥ達は片っ端から身体の彼方此方に風穴を開けられて、真っ青な血液と内蔵を撒き散らす。その死骸の上を進む、ハルカリの後ろから後続のオートマタ達が駆け寄り、それぞれの得物を手に鉛の弾を撃つ。ハルカリが仕損じたノスフェラトゥを撃ち殺し、、まだ息があるノスフェラトゥの頭蓋を踏み砕きながら進む彼らは、宛ら地獄の軍団長とその僕といった様子か、どちらが危険な存在なのか真剣に頭を悩ましかねなかった。
「こんな奴等があなた方の護衛任務に就くが宜しいか」
引き攣った表情を浮かべたクレメンタインは、NGOの人間に語る。映像の中で高笑いをしていたハルカリは、彼女の隣で何故か誇らしげな表情をしている。呆れたと言わんばかりのギルバートやレスターの視線に、気付く様子もなく所謂「ドヤ顔」をし続けるハルカリを肘で突きながら、グラナーテは補足を入れる。
「普段は良い奴なんだけどねー。ただ、ちょっとミニガン持つと人が変わるっていうか」
「え、平常運行ですよ。こ——」
余計なハルカリの一言をクレメンタインの肘鉄が遮る。思ったより自分へのダメージが大きかったのか、引き攣った笑顔を浮かべながら、ハルカリの顔面で止まった肘を振りぬいた。
「人間に害を成す事はないです。皆さん知っての通り、オートマタは人間に対する攻勢意識が芽生えないように作られてますので」
「え、フルート人間嫌いじゃな——」
「ちょっと黙ってようか」
ハルカリの頭を掴みながら語るグラナーテ。いつになく彼らが必死なのには理由があった。ノスフェラトゥの影響で孤立した都市へと医療支援行うため、NGOが第14アガルタ警備部へと護衛を依頼してきたのだ。普段であればそれを断るのだが、彼らは国籍関係なく何処へでも飛んで行くため、名を馳せている。彼らの護衛実績が出来れば、第14アガルタの広告となる。それは即ち、地上のアガルタ本部へのアピールとなり、護衛費として予算を多く得られる可能性があるのだ。それで私腹を肥やす訳ではないが、不足した装備の購入などに当てる費用が増える。従って、自分たちの命を守る事へと繋がる。科長達の狙いはそれなのだが、ハルカリが先程から余計な事を口走るのだった。
「ホントに大丈夫なんですか…? 」
NGOの人間が問う。確かにこの様子では不安にもなるだろう。
「えぇ、問題はありませんよ。うちのエリートですから。なぁ、レスター」
「あ、あぁ。俺等が束になっても敵わないんだ。連れて行く価値はあると思う」
「どうか、うちの者を頼みます」
最後に口を開いたギルバートは人相も相まってどうにも堅気の人間が使うような言葉に感じられなく、余計な影響が出ないかとクレメンタインは顔を顰めそうになったが、自分も人の事は言えないと笑顔を保ったまま、言葉を紡いだ。
「私が以前所属していたRAMCでも第四世代及び第三世代オートマタの運用実績はありましたが、やはりこの様な妙な自我を持った個体は居りました。ですが、人間に銃を向けたりと危害を加えるようなことは一切無かったですよ」
「…であれば、問題ないという事で宜しいですか」
「えぇ、太鼓判を着かせて頂きます」
「……なら、私は一旦地上へと戻らせて頂きます。後日、手配書を発送しますので、届きましたら至急処理して頂いて、護衛を派遣して下さい。その…、良い方をお待ちしておりますので」
そう言ってNGOの人間は席を立つ。やや言葉の端々に不安の影がチラついたが、仕方ない話だろう。
「ターナ。見送りを頼んだ」
「あ、あぁ。はい。どうぞ、此方へ」
ミッターナハツゾンネが何時になく、丁寧な口調でNGOの人間を先導し、会議室から立ち去る。ドアが閉まるその時までクレメンタインは笑顔を絶やさずに居たが、ドアが閉まるや否や溜息をついて、強張った頬に手を当てていた。
「笑い慣れん…」
「傑作だよなぁ。あんな笑ってんの何年ぶりだ」
「ビジネススマイルだ…。そんなに笑う奴があるかぁ!」
肩を震わせ笑っているギルバートの脇腹をド突くクレメンタインを他所に、グラナーテはハルカリの横で煙草に火を付ける。緊張が解れたのか、だらしなく煙草を咥えたまま気だるげにハルカリを見つめると呆けた笑みを向けていた。
「行く前にちゃんと整備しとくね。筋電素子もアッシーで交換しとく? 」
「えぇ、お願いします。所で二科から人を借りる事は出来るんでしょうか? 」
「良いよ。カケハシ連れて行って。簡単な整備なら出来るからさ」
「ありがとうございます。五科長、一科長、三科長も。人員を借りたいのですが、宜しいでしょうか」
「あぁ、問題ないぞ」
「うちからはアサシグレの奴を出してやる。役立つはずだ」
「…三科からはネーベルだけだな。人間はちょっと出したくない」
ゲラゲラと騒がしかった科長達はハルカリの問いに我に返ったのか、各々の返答を繰り出す。快諾を得られた事にハルカリは気分が良かったのか、やや浮ついた声で礼を述べた。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.28 )
- 日時: 2015/09/01 00:32
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=F_6IjeprfEs
「ミサゴ」の名を冠した大型のティルトローター機が空を行く。その中にはハルカリをはじめとした、五体のオートマタ達がさぞ退屈そうに壁に備え付けられた座席に座り込んでいる。
「オスプレイも、もう第三世代なのね」
一人ごちるようにカケハシは言う。カケハシの生産国であった日本では、初代オスプレイについて、相当すったもんだしたらしく左寄りの偏向報道により民衆に間違った印象を植え付けていた。事故が多発していたのは、特殊部隊のための訓練や、実戦任務中に搭乗員の錬度不足から発生しただけであり、通常のヘリのように貨物や、人間を輸送する分には事故率は既存のヘリよりもずっと低いのが真実だった。
「なんかコイツの初代は随分と揉めたみたいね」
「えぇ。隣国のメディアに圧力を掛ける程、隣の国はこれを脅威と見たんでしょうね」
「あぁ、もう無い赤旗の国かぁ」
話に乗ってきたハルカリはもう無いと言い放つと首切りのジェスチャーを取った。第三次世界大戦、厳密には第一世代オートマタの謀反で滅んだのだ。国力を増し、独自にオートマタを作っていたがその多くが第一世代でありながら「戦闘用」それが災いし、オートマタに二十億人近い国民の半数が殺められるという前代未聞の被害を被っていたのだ。
「これ良いじゃんね。早いし、静かだし、何より“アレ”が」
アレと指差す先には、12.7mmガトリングが両舷にドアガンとして装備されている。毎分1500発も放つそれはとてつもなく重厚な存在感を発していた。
「四科長はやっぱりトリガーハッピーですね」
「豆鉄砲しか撃てないのは面白くなくてさ。ね? フルート」
「…普通のオートマタではミニガンぶっ放すのも無理だ。第三世代と第四世代じゃ段違いだと何度言えば分かるのか」
第三世代と第四世代ハイエンドの違いを、ハルカリは分かっていないとフルートは苦言を呈し、膝の上に置いたガンケースに広げたブリーフィング資料を見遣る。
今回の護送対象は6名の医者と、27名の看護スタッフ。そして彼等の様子を撮影するためのジャーナリストが2名。彼等は戦闘のための技能を持ち得ないはずだ。移動は空輸であるが、陸に降りた途端、何があるか分からない。今回の任務は激務になりそうだと感じながらフルートは視線を窓の外に向けた。
「……凄い雪だ」
「ホント。前も見えないくらいにね」
そうハルカリは言う。確かに視界を遮る吹雪は強烈な物で、この陸もこの状況だと考えるだけで悪寒が走る。もしノスフェラトゥに襲撃されたならば、どう対処しようか。答えは即刻導き出す事が出来ず、フルートは溜息を吐く。
「アサシグレー。前見えてる? 」
「一応な。ただまぁ、この様では着陸が難しいかも知れんな」
「垂直着陸に切り替えたら? 」
「なんだ、墜ちたいか」
と、冗談にも聞こえない冗談を言い放って、アサシグレは大仰に笑う。
「なーに、問題ないさ。キチンと着陸する。あと30分もすれば目的地だ、支度をしておく事だ」
支度と言われても、彼等が持ち込んだのは予備パーツと銃器及び弾丸、そして充電用のクレイドルだけだ。食料も水も必要なく、人間と比べれば実に身軽、陸に下りる支度などする必要もない。両舷のハッチから獲物を持って降りる。たったそれだけなのだ。
ハルカリと随伴のオートマタ達が居なくなった、アガルタは人間達の品のない笑い声が響いていた。主にグラナーテとギルバート、その中に時折レスターの声が混じる。喧しいそれに顔を顰めたクレメンタインが居たが、彼女には一つ心配事があった。
「ウシオの奴はまともにやってるのだろうか…」
「らしくないですね、五科長。——どうぞ」
「あぁ。——奴は戦闘用でないのでな…、アサシグレの補佐として付けてやったが戦地に順応出来るのか、とな」
陸からコーヒーカップを受け取るも、それに口を付ける事もなく不安を呟く。曲りなりにもオートマタ、人間と比べれば遥かに頑丈で、戦闘能力もある。
「部下を信じられないってのか、シンディー」
「信じられん訳ではないさ。アレは優しすぎる」
そう言うなりクレメンタインはコーヒーに口を付け、はぁと溜息を吐いた。
「スカーフェイスが溜息とは世も末ってもんだな。——いってぇ」
どことなく含みを持たせた物言いをするギルバードの脛を蹴り飛ばしながら、クレメンタインは眼鏡の位置を直し、ふんぞり返るように椅子に座りなおした。
「私はこうやって尊大に振舞っていた方が良いか」
「そいつがお似合いだ、悪の親玉って感じが——」
顔面に肘が吸い込まれていくその状況に、一瞬陸は身動ぎする。自分の所属科の科長が、床に仰向けで倒れながらゲラゲラと笑う異常な状態に困惑したような表情を浮かべざるを得なかった。
「ほら、クレミー。小僧をビビらせてんじゃん」
「……お前はこれみたいになるなよ。——ろくでなしにはなるなよ」
ギルバートと同じ轍は踏むまいと、陸は小さく会釈をし、肝に銘じた。決して脛を蹴られたり、顔面に肘を貰ったりはしたくない。
「しっかし、他の連中はまだかよ? 」
「1900集合としたのだがな」
「忘れてんじゃなーい? 」
「人も揃う前から出来上がってる奴があるか…。全く」
食堂のテーブルの上には大量のアルコールと、食事が置かれていた。陸上に出向していた人員達の慰労会を開くに至ったのだが、主役と数名の構成員達がまだ来ていないのだ。
その前から既に出来上がりつつあるグラナーテとギルバート。それを制す、レスターとクレメンタインにも限界が訪れつつある。そのうち陸にも招集を掛ける必要がある事だろう。
心の中で小さく詫びながら、クレメンタインは食堂の出入り口に視線を送っていた。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.29 )
- 日時: 2015/09/06 04:52
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: https://www.youtube.com/watch?v=h1AaKBbNGkk
雪に沈み込む身体、歩行すらままならない程の積雪にハルカリは苛立ちを隠せずに居た。彼女の重量は160kg余りある。それに加えチェーンガンの重量50kg、そしてチェーンガンのバッテリー約30kg、約250kg弱の重量。雪に足を取られるのも無理はない。サイドアームとしてPDWとマシンピストルを携えているのだが、チェーンガンを放棄して慣れない武器を扱うのは勘弁願いたいため、先ほどから意地になって雪を漕いでいる。
こういう時だけは軽量な第三世代、第二世代を羨ましく思うがない物強請りをした所で仕方がない話だ。
「五科長、そろそろ連中のベースが見えてきましたね」
気遣うように歩調を合わせ、傍らに付き添うチョウセキが知らせる。彼の手には短機関銃が握られていた。拳銃弾を扱うそれがノスフェラトゥに有効化は定かではないが、彼にはそれしか扱えないのだろう。
「あと1.7kmって所ね」
左目のレンジファインダーを作動させながら、距離を呟くようにして伝えるとチョウセキは緊張した面持ちで短機関銃のストックに力を込めた。
「そろそろ狙撃銃の射程内ですね…」
「ん、あぁ。誤射されるのだけは気をつけないと」
「識別信号送っておきますか? 」
「お願い」
短機関銃を手放し、懐からタブレットを取り出すと慣れた手つきで16桁の符号を打ち込んでいく。その間、短機関銃はストラップにぶら下がり、無防備に揺れていた。セーフティーが掛かっていないのは気のせいではなく、躾が成っていないと内心毒づきながら、ハルカリはNGOのベースキャンプを見据えた。
ヘリが着陸するスペースもない程に小規模で山岳地帯に存在するため、周囲の地形は険しい。数台の輸送トラックと一両の戦闘用車輌が見受けられる。
話によれば二名、人間の狙撃手と観測手を雇っているとの事らしい。サーモグラフィーを起動してみるものの、熱源は見られない。警戒監視を行っている訳でもないようだ。
「熱源無し、誤射は多分ないね」
「対物ライフルなんかで撃たれたら、一発でお釈迦ですからね」
「レスター曰く人間は手足に当てると殺せて、オートマタは胸から上に当てると確実にICまで壊せるとかって」
「ノスフェラトゥは…? 」
「首だけでも動く個体がいるわ。だから挽肉にしてやるのよ」
「ノスフェラトゥのタルタルステーキですか」
「うーん……、生肉食べるとかやっぱ味覚細胞少ないのか」
「五科長とか、二科長に聞かれたら味も分からん機械風情がって怒られますよ」
「どっこいどっこいでしょ、味音痴って言い返してやろう」
「……そんな度胸ないです。それに——」
後者はともかく前者にそれを言えば、次の日には地上の屑鉄置き場に並べられていても不思議じゃないと、喉まで出掛かっていたがそれを押さえ、余計な言葉を発さないようにとチョウセキは口を噤んだ。
その瞬間だった、5m程前方を歩むフルートが立ち止まり、ある方向に銃口を向けながら、ゆっくりと身体を雪の上に伏せ、姿勢を下げろとハンドサインを送っていた。
チェーンガンから動力を伝えるためのチェーンを離し、それをフルートの近くまで投げ込む。自身も滑り込むように姿勢を下げ、フルートの隣に伏せた。
「それを投げるとかどういう神経してるんだ」
「神経ないわ」
バッテリーにチェーンを連結させ、チェーンガンの動力を確保しながらハリカリは返答して見せた。
「どこに熱源があるって? 」
「此処から北北西の方向に320m、交戦しようか」
「人間の可能性は? 」
「手足が8本もあって、5m近くある人間がいるか」
フルートがヘッドマウントディスプレイで撮影した、画像がハルカリのICに送られてくる。それは確かに手足と思しき物が8本あり、大きさは5m程、岩肌にへばり付いている。まるで蜘蛛のようであったが、頭部は人間のように丸みを帯びている。後頭部がやや長いようである。それから憶測するには人間の変異種だと考えられる。
「先制攻撃かね、五科長」
「……7.62mmが通るとも考え難いわ。大型ノスフェラトゥは外皮が頑丈なのばっかでしょ? 」
「近づいてきたら攻撃を仕掛けましょうか」
「それが一番ね、ベースに到着したらまた別の攻撃手段を用意出来るだろうし、早く進もっか」
「それが最善かと思いますね」
伏せる際、頭から雪に突っ込んだのか真っ白になったカケハシがやや不機嫌そうな表情を浮かべながら言う。彼女の手に持たれた小型の無音狙撃銃は亜音速の弾丸を放てるが、それでも貫通出来るかは分からない。何より有効射程ギリギリなため、従来の性能が発揮できるかも分からない。カケハシをあてにする事は出来ない。
「…走る、か」
そう呟くなりフルートは身を起こし、一気に駆け出す。元々警察の特殊部隊で運用され、「洪水」と揶揄されていた型のオートマタだ、雪原であったとしてもその身のこなしは軽やかで機動性を損なわずに居られるようだ。
「うらやま…、じゃない。走ろう」
ノスフェラトゥを一瞥し、走れとハルカリはハンドサインを送る。既にアサシグレやカケハシは走り出しており、チョウセキが矢張り離れず、気遣うようにして傍らに付き添っていた。
「——さっさと行きなよ」
「なんか気が引けるので」
「なら、せめて私の前を走って」
「と言いますと」
「穴に嵌るよ? 」
「あっ」
しまったと短く悲鳴を上げた時には既に遅く、チョウセキはハルカリが雪原に空けた穴に足を取られ、頭から雪に突っ込んでいた。短機関銃の銃身が曲がってなければ良いが、などと思いながらハルカリは立ち尽くし苦笑いを浮かべつつ、岩肌にへばりつくノスフェラトゥの姿を睨み付けていた。
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