複雑・ファジー小説

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Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
日時: 2015/08/19 23:23
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199

Subterranean Logos

どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(

本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。

従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。

応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。

設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.19 )
日時: 2015/08/09 23:55
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=6_PAHbqq-o4

 戦地へと赴いた彼等を見送ってから、彼女は思い詰めたような表情を浮かべて、仕事に戻る事もせずただ座り込んでいた。全員が帰ってくるだろうか。誰かが帰ってこないのだろうか。全員帰ってこないのだろうか。徐々に最悪の物へと成り代わって行く思考を振り払おうとしても早々転換出来る物でなく、前に進めずに居る自分を自嘲したい気分だった。

「恐ろしい顔をしてる」
 不意に傍らから語りかける声。声の主をゆっくりと横目で見遣れば、四科の群雲結衣の姿があった。彼女は今回の新種討伐に名乗りを上げていたが、却下され警備部内にて待機を命ぜられていた。額には汗が浮かび、黒のチューブトップにジーンズだけというラフな出で立ちだ。恐らくはトレーニングでもしていたのだろう。少しばかりの疲労に心地よさを感じているのか、顔付きはクレメンタインとは対照的だった。

「私くらいの年になれば、こういう顔になってくる」
「それは加齢という意味…? 」
「お前失礼だな」
 結衣に向かってジトついた視線を送るクレメンタインの気は少しは紛れたのだろうか、いつもよりややトーンの高い声で軽口を叩き返す。

「…四科長達、上手くやってるかな」
「上手くやってると良いが」
「今の前の四科長って知ってる? 」
「あぁ、普通の人間だった」
「…死んだの? 」
「死んだよ。戦死ではないがね、病死だ。病死。元々身体が強い人ではなかった。故に指揮に専念していたが、病との闘いには勝てなかったのだろう」
「前の五科長は? 」
「あぁ、国に帰った。フィンランド陸軍から出向してきてた経理畑の軍人だった。融通が利かない人でな」
「…ふーん」
「お前、自分から聞いておいてその微妙な反応はなんだ」
「じゃあさ、五科長は色々と人が変わるのを見てきたのね」
 大して物事を考える事もなく、放たれた結衣の一言にクレメンタインは瞳を僅かに見開き、乾いた笑みを浮かべながら眼鏡をなおした。
「そうだな、死んだ奴も居れば、元の鞘に戻った奴も居る。色々だ、色々」
「私は、余り人が変わって欲しくないかな。馬鹿だから覚えてられない」
「そうか。ホントに馬鹿だな。お前どうやってアガルタの入隊試験に合格したんだ」
「…さぁ? 」
 結衣の一言に再度軽口を叩き返したが、彼女が言う「人が変わって欲しくない」というのはクレメンタインも同意だった。生きて此処を去るのであれば、一向に構わない。何れ会うことも出来るだろう。しかし、死んでしまえばもう二度と会う事は出来ないのだ。当然の事ながら、結衣の一言にそれを再び実感させられていた。
「五科長」
「なんだ」
「今回は誰も変わらなきゃいいと思うよ」
「——あぁ、そうだな」
 自分だけが他人の死を恐れている訳ではない、そう感じながらテーブルに肘を付きながら、小さく鼻で笑った。

「ところで、身体訛ってない? 良かったらRAMC仕込みのCQBを教えて欲しいんだけど」
「…もう忘れたぞ? まぁ、基礎基本くらいなら良いが。あと言っておく、私は衛生兵だったからな? 」
「知ってる」
 約一回り年下の少女に馬鹿にされているような錯覚を覚えたが、ゆっくりとした動作でクレメンタインは席を立ち、結衣を見据え、一つの思考が脳裏に浮かぶ。
この年若い戦友に仲間を失う辛さを教えたくはない。その為には自分がブレずに強くなければならない。そう思いながら足取り軽く、前を進む結衣の背を追った。


 削ぎ落とされた腕に盲蓋を捻じ込み、応急処置を終えたハルカリはLAV車内からシーカーを使いながら索敵を続ける。その目は厭に生き生きとしている様に見え、形容し難い不気味さを発していた。腕を削がれてからのハルカリがおかしい事には皆が気付き、気にかけていたが一体のオートマタは違った。
 冷ややかな視線でハルカリを見据えながらフルートは顔にめり込んだ9×19mmの弾を引き剥がしていた。帰投したら人工皮膚の張替えをしなければならない等と考えながら、最後の弾を投げ捨てる。

「で、四科長。結局、奴は殺すのか」
「殺してやりたいね。片腕ぶっ飛ばされたんだ、粉にしなきゃ収まりが付かない。それにNファクターの素材は手に入れたしね」
 空の弾薬ラックに詰め込まれたノスフェラトゥの尾、車内にはノスフェラトゥの血液特有のすえた様な甘いにおいが充満している。

「コイツを引き渡される二科も可哀相に」
 中東の地にてPMCに使われていた頃によく嗅いだ匂い、腐り始めた人間の死体はこういう臭いがしていた。ICチップの中でフラッシュバックされる残酷な記憶に顔を顰めながら、穴の空いた皮膚を指先でなぞる。

「…しっかし、ノスフェラトゥも生きているかね」
「どういう意味だ」
「尾を削がれて生きてる奴を見た事がない。連中は知性に劣り、その場で死なない為に尾を自切したに過ぎないと思う。即ち後先の事など考えず、今ごろ失血死しているのではないのかね」
 そうアサシグレは運転席から静かに語る。確かにノスフェラトゥは身体が強固ではあるが、出血多量であればそれが原因で死に至る。更にはノスフェラトゥ自身、本能に従って生きているだけに過ぎず、大した知性は持ち合わせていない。更には尾を根元から切り落としている為、動脈まで切ってしまっていると考えられる。現にフルートが着ていたフラックジャケットは返り血で真っ青に染まった為、尾と一緒に弾薬ラックに突っ込まれている。

「逃げ出した段階でもう死んだようなものだと? 」
「あぁ、そういう事だ」
 短いアサシグレの返答にハルカリはシーカーから目を離し、何やら考え込むような様子を見せた。彼女は確かに偏執的でやや好戦的な所が見受けられるが、無駄な交戦は良しとしない。統計的に死亡したものと考えられるならば、これ以上、無駄に敵を探し回り危険な場所に居る理由はない。

「此方四科長ハルカリ。目標喪失、しかし駆逐完了と判断。これより帰投する。委細は帰投後報告とする。オーバー」
 車内の無線機を叩き付けるように置くと、糸が切れた操り人形のように座席に腰を下ろした。
「各員、ご苦労。不具合箇所があったらきちんと整備を受けてよ」
 ハルカリが一番損傷を受けているというのに、そう言い放つ彼女に何体かのオートマタは苦笑いを浮かべていた。無事に帰る事が出来る、それだけで張り詰めた空気が和らぎ、肩の重荷が取れたように感じられた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.20 )
日時: 2015/08/19 23:20
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=y9zw_79tlgM

 オートマタ達が帰投してから既に5時間は経っただろうか。ハルカリの左腕の損傷を除いて、目立った被害もなければ誰も欠ける事なく帰ってきた。その事にクレメンタインは胸を撫で下ろしていた。

「今回は上手くいったようだ」
 ショットグラスは写真の前に置かれている。写真の中には笑顔のサリタと不愉快そうなクレメンタインがいる。作戦後の報告ではないが、ポツポツとクレメンタインは写真に語りかけている。誰一人として欠けなかった事が余程、嬉しかったのだろう。写真の中のクレメンタインに相反し、写真の外のクレメンタインは笑顔を湛えていた。次々と矢継ぎ早に紡ぐ言葉からはいつもの語気が感じられず、女性らしい柔和な物だった。恐らくはこれがクレメンタインの本来の姿なのだろう。
 一頻り語り終えると写真の前に置かれたショットグラスを手に取り、注がれたテキーラを飲み干す。その刺激の強さに一瞬顔を顰め、いつものクレメンタインが戻って来てしまう。

「——温い、——暑い」
 空調の調子でも悪いのだろうか、いつもと比べて心なしか室温が高く感じられる。ただ単に自分が酔っているだけなのかも知れないが、額に微かに浮かんだ汗を拭いながらショットグラスをパウントグラスの中に押し込むと、静かに立ち上がった。やや酩酊する視界であったが、机の上に立ち送風口に手を翳す。風の勢いはいつもよりも弱く、微かに温度が高い。そして不愉快な臭いを発していた。それは人間の腐臭に似通った、噎せ返るような甘ったるい臭い。その臭いに酔いを吹き飛ばされ、クレメンタインは不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「連中…」
 二科の人間がNファクター精製所の排気を地上にではなく、施設内に循環させているのではないのだろうかと脳裏を過ぎる。やらかしかねない事ではなく、邪推かも知れないが二科に問い詰めるのも手段だろうと思いながら、クレメンタインは眼鏡を掛けなおして、静かに部屋を後にした。 



 クレメンタインが去り、誰も居なくなった部屋の中で、何かが滴るような音がしていた。それは通風孔から滴り、テーブルの上に真っ青な水溜りを作り上げていた。通風孔を何かが叩き、青い液体の流れ出る量が少しずつ増え、テーブルからも滴り落ち、今度は床に敷かれたカーペットを汚しだす。
部屋の主が居たならば、銃の一つでも抜いて通風孔に撃ち込んでいた事だろう。しかし、今は誰も居ない。通風孔を叩く音は激しさを増し、ネジで止められた通風孔の枠が音を立てて、落ちてゆく。
暗く狭い通風孔から何かが部屋の中を一瞥する。赤い瞳が室内の明かりを受け、微かに鈍く光る。誰も居ない事を確認してか、ゆっくりとした挙動で通風孔から這い出るそれは人の形をしておらず、尾がないノスフェラトゥだった。否、厳密にはあったのだろう。惨たらしい傷跡が顔を覗かせている。切断面は既に塞がり、青白い皮膚が張り付いていた。

「————はぁ」
 小さく、まるで人間が呆れた時に浮かべるような溜息を吐くと、再度部屋をぐるりと見回し、自らの血で青く汚れた手で、壁をなぞる。まるで懐かしんでいるようにも見えるその挙動であったが、すぐにその動きを止め、ドアを見据える。何かを確認しているようであったが、その行為が何なのかは判別し難い。一頻りドアを見つめ終えるとゆっくりとした足取りで一歩、また一歩と歩みを進めて行く。そしてドアノブに手を掛けたその瞬間、その姿は不可視と化し、クレメンタインの後を追うように、部屋から立ち去った。




 二科のドアを開けば、見知った顔の科員達は旧世代の映画を見ていた。なんでもガルウィングドアの車が、タイヤから炎を吹いて時間を旅行する映画だったらしい。

「グラナーテ、お前年取ったらこうなるんじゃないのか…」
「ちょっと失礼じゃない?
 ニヤついた笑みを浮かべながら、そうクレメンタインは軽口を叩く。様子を見る限り、妙な事をしている訳でもなく、空調の操作盤も平常どおりの運用をしている。

「で、何の用? 」
「私の部屋の空調がおかしいんだ」
「こないだ周期点検したばっかりなんだけどなぁ。まゆしー君。チェックミス? 懲罰食らうよ? 」
「瑕疵はないはずなんですがね…」
 コーヒカップ片手の黛は困ったような表情を浮かべて、クレメンタインに助けを求める視線を向けていた。問題ないと言って欲しい。この時間から再点検はしたくないのだろう。

「…少し暑い程度だ。大して問題はないんだがな」
 空調の勢いが弱い事、腐臭がしている事は伏せ、問題はないと告げると黛は胸を撫で下ろし、グラナーテの視界の外から親指を立てて右手を突き出して見せ、台所へと姿を消した。

「暑いのが嫌だったら、此処に居たら? 私とカケハシが今日、此処の当直だから朝まで空調ばっちりよ? 」
「…お前等朝が来るまで映画三昧だろ」
「ハルカリコレクションの一部だもの。見ない訳にはいかないよ」
 薄くなったアイスコーヒー片手にグラナーテは言う。その後ろで聞こえるZZ TopのDoublebackに耳を傾ける。まだ幼い頃、近代音楽史の教科書に載っていた「ビリー・ギボンズ」の髭面とサングラス姿が脳裏を過ぎった。

「昔の曲でも良いな」
「レスターの病気でもうつった? 」
「抜かせ」
 やや汚れたリクライニングチェアに腰を下ろし、映画のパッケージと思しき物を手に取った。

「しっかし…タイムトラベルか」
「出来りゃ世話ないよね。二次大戦終結直後に戻って、南米に逃げたナチをとっ捕まえて一稼ぎしたいよ」
「…報酬山分けな」
「がめついー」
 軽口を叩きながらもクレメンタインは思う事があった。過去に戻れるなら、六年前のあの日に戻りたい、戻って出撃を中止させるような重大事故の一つでも起こして、またこの時間に帰ってきたい。
今に戻ったならば死した者達がこの場に居るのかも知れない。夢のような絵空事だとは分かっていながらもそんな事を考えていた。

「グラナーテ」
「なに? 」
「ハルカリコレクションはまだあるか」
「ん? まだ沢山あるよ。何か適当に見ようか」
 何やら大人しくなってしまったクレメンタインを不思議に思いつつも、次のICチップを取り出し、再生機へと収めた。
その映画のタイトルは「遊星からの物体X」そう書かれていた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.22 )
日時: 2015/08/21 21:03
名前: Orfevre ◆ONTLfA/kg2 (ID: dUayo3W.)

はじめまして、Orfevre(オルフェーヴル)というものです。

読んでみたところ、非常に面白かったので挨拶をしたくなりました。

今後もよろしくお願いします

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.23 )
日時: 2015/08/22 01:08
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=sbQqe_u1nsQ

 スクリーンの中で蠢き、次々と人を異形の形へと変えていく「それ」を見ながらクレメンタインは何処とない、肌寒さを覚えていた。このようなノスフェラトゥが現れたら、仲間がこのような異形と化したら、自分は容赦なくそれを殺める事は出来るのだろうかと脳内で思考が周りめぐっていた。

「これ気分悪いね…、なんか凄く身近に感じるよ」
 グラナーテも同じ考えを持ったらしく、コーヒーを注ぎながら呟くようにいう。スクリーンの中では腹部が開き、男の腕を食いちぎった化物が燃やされ、宿主の首を引きちぎり、何とか生き残ろうとする「それ」が机の下に隠れようとしている。
「これやめよう。別のないのか」
「…ハルカリのお気に入りの——」
「“また戻ってくる”は無しだ」
 未来から来たサイボーグが大暴れする映画は既に何度も見ている。却下され、次のパッケージを見せたが「星間戦争」を題材とした映画の物であったため、クレメンタインは首を横に振った。

「アーク見よう、アーク」
「…自転車を飛ばす宇宙人の映画はないのか」
「タイトル覚えようか」
 呆れたような表情を浮かべながら、月をバックに飛ぶ自転車と、人成らざる者と人の指が触れ合うパッケージを取り出すグラナーテ。人間から逃げ遅れ、取り残された宇宙人と人間の少年との交流を描いた映画である。

「しかし、宇宙人か。…ノスフェラトゥもこいつみたいに敵対意識がなく、我々と共存出来れば良いのだがな」
「人間が地獄の釜開けて、連中にちょっかい出しちゃった段階でもう無理さ」
 そう言い放つと音を立てて、コーヒーを啜るグラナーテ。行儀が悪いとクレメンタインに一瞥されるも、悪びれる様子もなく椅子の背凭れに身体を預け、天井を仰ぐ。
彼女の視界に入るのは、真っ白な天井とチカチカと不規則に点灯する照明。

「……なんか気になるね、こういう明かり」
「お前等の管理不届きが原因だろ」
「失礼な。ヴァルトルート君にちゃんと保全させてるよ」
「不安な奴の名前が出てきたな…」
 確かにグラナーテが言うように不規則な点灯を繰り返す照明というものは気になる。グラナーテ同様、クレメンタインも映画そっちのけで天井を見上げると何かに気付いたらしく、ぐるっと椅子を一周させ顔を下げた。

「この部屋の照明全部だな」
 妙な胸騒ぎを覚え、ゆっくりと立ち上がるとガンラックに括り付けられたカービンライフルを手に取る。脇に挟み、ずり落ちないようにすると同時に一挺のマシンピストルをスラックスのベルトに収める。

「“それ”でも居ると思ってんの? 」
 突拍子もなく理解し難いクレメンタインの行動を囃し立てるグラナーテであったが、妙な緊張感に気圧されたのか映画を止めていた。とても不細工でどことなく愛嬌がある宇宙人がビールを飲むというややシュールな光景で静止している。

「毒された可能性も無きしにも非ず。…備えあれば憂い無しというだろ。他の二科員は居るか」
「あー、カケハシを再起動させて、ヴァルトルートを叩き起こすよ」
「黛はどうした」
「アイツ、陸上配電所で当直」
 そう言い放つなり、グラナーテは兵員待機室へと歩を進めていった。ホワイトボードに貼り付けられた人員配置一覧表を見るが、他の科員は上層に出向していたり、黛同様に地上設備の当直に当たっていた。二科は非戦闘員が多いため、アガルタ内部に人を残している事が少ないという現状である。

「夜分遅くに騒々しいですね。五科長」
 ドアから顔を覗かせて嫌味ったらしくカケハシは言う。クレメンタインと目が合うなり、ツナギを着ながら歩みより、工具箱と自動拳銃を一挺手に取った。

「どこかの電路をネズミが齧ってるかも知れないですからね。——ネズミ退治にはオーバーな代物じゃなくて? 」
「二足で歩く、デカいネズミかも知れんのでな」
 嫌味に軽口を叩き返すとカケハシは肩を竦め、作業台に腰掛け兵員待機室へと繋がるドアを見据えた。ヴァルトルートがそう簡単に起きるとは思えない。時間が暫く掛かるとでも思っているのか、視線はやや冷ややかだ。
 そうこうしているうちに照明の点灯頻度は上がり、いつブラックアウトしても不思議ではないように思える。二科のラウンジから外は電源は別所から取っており、問題はないようだが早いうちに対処しなければならないだろう。

「——ヴァルトルート!! まだかッ!! 」
 突然大声を挙げて吼えるクレメンタイン。待機室から何かが転げ落ちるような音が聞こえ、グラナーテの笑い声が聞こえてきている。案の定、すんなりと起きなかったようだ。冷ややかな視線のカケハシと、苛立つクレメンタインがやや両極的だった。




 罰だと言わんばかりに、両手に工具箱を持たされたヴァルトルートが先行する。彼女の頭の中にはアガルタ第17階層の電路が全て入っている。彼女無しには電路調査を効率的に行う事は出来ない。

「だから早く起きろって言ったじゃないのねぇ。ヴァルトルート君」
「ブッチャケ、五科長居ると思わなかったんですよねぇ」
 悪びれる様子もないヴァルトルートだったが、クレメンタインは特に返答する事もなく、歩を進める。グラナーテもヴァルトルートの気質に近く、別段気に成らないのだろう。ただ、即応しない事には一喝入れざる得なかったが。

「——にしても…、此処は随分と冷えるな」
「ジェネレータの冷却水が側壁のパイプを通って流れてるんですよ。去年、パイプ掃除したんですが、ウェス突っ込んだまま、復旧しちゃって2号ジェネレータ、パーにした時は焦りましたよ。マジで」
「…あれお前だったのか」
 ハッした表情を浮かべてヴァルトルートは口を手で塞ぎ、グラナーテに助けを求める視線を送るが、彼女はヘラヘラと笑うだけで助け舟を出そうとしない。クレメンタインから逃げるように歩調を早めたヴァルトルートであったが、目的地は目と鼻の先であり、逃避行は30秒も続かなかった。

「口はワザワイの元って奴っすね」
「反省の色無しか」
「いや、そんな事ないっすよ。マジで」
 やはり彼女は悪びれる様子がなく、電力線や通信線などが走っている、共同溝へと繋がるハッチを開く。ジェネレータを壊したのは過去の事であるため、クレメンタインはそれ以上言及せず、薄暗がりの中を確認しようとしているヴァルトルートへとライトを渡す。

「あ、助かるっす。——えっ」
 慌てた様子で共同溝のハッチを閉め、彼女は首を横に振る。共同溝の中に何か居たようである。

「…ネズミか? 」
「人間襲う洒落なんないネズミが休んでるっす」
「そうか。——配線修理は頼んだぞ」
 そうクレメンタインはヴァルトルートの耳元で囁くなり、ハッチを開き上半身だけ突っ込み、逆さ吊りになるような状態で共同溝の暗闇を睨み付けた。そこには確かにノスフェラトゥの姿があり、側壁に寄りかかるようにして座り込んでいた。厭に人間らしいそれを見るや否や、彼女は引き金を引く。一発、二発、三発と銃弾はノスフェラトゥの身体を穿ち、青い血液を撒き散らす。撃たれて初めてゆっくりとした動作で立ち上がり、クレメンタインをノスフェラトゥは見据えた。窪んだ赤い瞳はまるで懐かしむように穏やかだった。しかしながら、ノスフェラトゥはクレメンタインへ向けて駆け出す。このまま居れば死ぬ、上半身を共同溝から起こし、カービンライフルに取り付けられたアンダーバレルショットガンの引き金に指を掛けた。青白い手がハッチに掛けられ、おぞましいその顔が視界に入った瞬間、クレメンタインは引き金を引いた。けたたましい銃声と共に多数の散弾がノスフェラトゥの肉を骨を引き裂き、その脳髄を撒き散らした。ゆっくりとした挙動でその身体は後ろに倒れ込んでゆく。

「…手向けだ」
 アンダーバレルショットガンに残った4発の実包を全て撃ち尽し、その死体を見下ろす。恐る恐るグラナーテやヴァルトルートもその死体を見下ろすが、まるでミートパテのようになってしまった死体を見て、ヴァルトルートは目を逸らしていた。

「鮮やかですね。五科長。現場復帰されては? 」
「村雲にコテンパンにやられる輩が現場復帰だと? 冗談じゃない」
 軽口を叩きながら、共同溝へと降りるカケハシ。手に持った自動拳銃の銃口はノスフェラトゥの死体から外さず、引き金に指を掛けていた。カケハシを追うようにクレメンタインは共同溝へと降り、カービンライフルを向ける。死臭を放つ血液を踏みつけると、やや不愉快な音が共同溝の中に響いていた。

「…なんだ? 」
砕け散った死体の肉の塊の中に、何やら鉄の破片のような物が見られる。それは銃弾の破片ではなく、鉄の板上の物だった。また、それには何か文字が刻まれている。刻まれた文字は錆びに塗れ、クレメンタインの目の悪さも相まって、判読出来る物ではない。死体の傍らにしゃがみ込み、それに右手を伸ばし、指が触れようとしたその瞬間、ノスフェラトゥの血まみれの手がクレメンタインの手首を掴む。咄嗟にカケハシが発砲するとノスフェラトゥはクレメンタインの手首を離し、ぴくりとも動かなくなったが、青い血液で汚れた手をクレメンタンは眺めていた。

「——三科を呼んでくれ。すっかり忘れていたよ」
「どうしたのさ? 」
 ハッチの向こう側に立つグラナーテは不安げに視線を向ける。
「傷にコイツの血が入った。マズいかも知れん」
 そう呟きながらクレメンタインは錆びた鉄の板を手に取り、それを呆けたように眺めていた。刻印された名前は読み取れない、だがどこかで見覚えがあるような形、傷のない左手で自分の首から釣り下がるドックタグを見据え、クレメンタインは驚いた様子で瞳を見開いた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.24 )
日時: 2015/08/22 01:18
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)

>>22 Orfevreさんへ

どうもです。
こういった場ではそのHNを名乗られるのですね…w

この書き物に至っては、プロットをほとんど作りこまずに書いてるので結構というか、かなり滅茶苦茶ですよ。
そこに広く浅くの知識をぶっこんでる訳でして、判りにくさもかなりだと思います。
そういった物を面白いと評して頂ければ、物書き冥利に尽きるという物です。

ぼちぼち「1.The Gray Chapter」も終了しますが、「2.Pretty Hate Machine」でも読んで頂ければ幸いです。

コメントありがとうございました。




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