複雑・ファジー小説

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Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
日時: 2015/08/19 23:23
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199

Subterranean Logos

どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(

本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。

従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。

応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。

設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.14 )
日時: 2015/06/08 23:41
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

整備工場の顔ぶれはどうにも珍しいものだった。ハルカリをはじめ、仏頂面を浮かべたフルートや、シュトゥルムの四科、アサシグレを筆頭とした一科のオートマタ達、そして二科員達が映像を見据えている。

 攻撃の瞬間だけ姿を表し、瞬時に姿を消す。そんな輩とこれから戦わなければならない。故に全員に共通の認識を持たせると同時に、全員で打開策を導き出そうというのだ。

「これ、平時から延々と姿消してる訳ですかね? 」

 皆より少し離れた所で、カケハシは憮然とした疑問を口にする。その問いに答えられる者は居らず、直接交戦する寸前まで接近されたアサシグレも首を傾げている。

「どういう原理で見えなくなってるか、ですよね。それ次第です」
「ルフトはどうやって消えてるんだっけ? 」
「…光を回折させてるだけに過ぎない」
「うん、よく分からない」

 ルフトと呼ばれた一科の陰気なオートマタも同じくして、姿を消す技能を持ち合わせているのだが、彼の場合は姿を消したとしても光を自分の身体の周囲で折り曲げて、無理やり見えないようにしているだけであり、移動する事によって空間が折り曲がり、何かが動いているというのは分かる。しかし、映像のノスフェラトゥにはそれがない。結局、打開策を導き出せずに皆口を閉ざしてしまう。

「…先人達が残した映画のワンシーンにあったのですがね。血が出るなら殺せるはずだっていう名言がありましたよ」
「全員でミニガンでも撃つか? 」

 ハルカリの言葉にやや食い気味に言い返すフルートだったが、ハルカリが言う事は確かにそうだろう。血が出るのなら、傷を負わす事が出来る、傷を負うなら、その勢いで殺す事も出来る。血が出たなら、血痕を辿って追跡する事も可能だろう。

「まぁ、オーダルトの予算が下りなかったら最悪それも考えなきゃいけないだろうね」
「……全員でミニガン撃つんですか? 」
「そうじゃなくて。天に召します我等が神に祈って、運に任せた殺し合いをさぁ」
「結局そこに落ち着きそうな気も」

 二科と四科、そして一科ががやがやと互いの考えを発しているのだが、どれも大して考えられた物には感じられない。グラナーテが言う「運に任せた殺し合い」という物はその最たる物だろう。そうカケハシは思いながら、皆から少し離れた所で冷めた視線を向けていた。

「本当に勝つ気があるんでしょうかね」

 ぼそりと呟くように言い放たれたカケハシの言葉。意見が飛び交う中では聞こえない程に小さな声も、オートマタに搭載された集音器はその言葉を確りと捉えていた。
 シュトゥルムが険しい表情をカケハシへと向けている。何を言う訳でもない、ただただ険しい表情を向けているだけだ。それがまるで戒められているかのような錯覚を覚え、カケハシは居心地の悪さを覚え、顔を顰めた。

「案の一つも出さない二科の玩具が何を言ってるんですかね? 」

 シュトゥルムが吐き出した毒に、グラナーテは感嘆の表情を浮かべ、せせら笑う。「玩具」そう形容されたカケハシを確かにその通りだと笑っているのだろう。何故か、皆がグラナーテのように笑っているように感じ、その場に居てはならないかのような疎外感に苛まれる。

「カケハシ、あなたは何もないんですか? 」
 
 諭すようなハルカリの声に救われたような気がしたが、彼女の顔を見れば表情はなく、何を考えているか分からない。腹の中で、ハルカリも笑っているのではないだろうか、と思案が頭の中をめぐる。

「姿が見えない相手と戦うとなれば、どうにかして見えるようにしなければならないかと思います」
「その手段を探してるんだ、何を言って——」
「なるほど、それではどうしましょうか」

 横槍を入れたフルートの顔面を押し退けながら、ハルカリは表情のないまま次の案を導き出そうとする。助け舟を出されたのか、はたまたハルカリに乗せられているだけなのか判断は付かない。

「エコーロケーションを用いるのが手っ取り早いんではないでしょうか…? 」
 エコーロケーション。音波を発し、対象の位置を探る。暗闇で蝙蝠や梟が獲物を探るために使う代物。それを用いて、ノスフェラトゥの姿を探れば良いのではないかと、口にする。姿が消えているだけであって、そこに存在しない訳ではない。であれば、大凡の位置を探り出し、討ち取る事も可能ではないのだろうか。

「有難うございます。二科長。これをルフトに追加する事は出来ますか? 」
「ソナーなんかがあれば簡単にやれると思うけど。ルフトが積んで良いと思うか次第だね」
「別に構わないが、壊れやすい物は勘弁して欲しい」
「壊れ屋に積むんだ、そこはちゃんとするよ」
「…では第二案といきましょうか——」

 いつの間にかハルカリが周囲を仕切りだし、カケハシに向けられたヘイトを逸らして見せた。中々まとまらない話に、皆が内心苛立ち、火が燻っていた所に油を注いでしまったらしい。下手を打った、そう思いながらカケハシは椅子を引き、群れの中に加わり、話に耳を傾けていた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.15 )
日時: 2015/06/23 00:08
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

ドアの向こう側からは活発な意見交換が成されていた。ハルカリが実権を握っているようではあるが、着実に前へ、前へと進んでいる。口元を緩め、似合わない笑みを浮かべながらドアノブを引くと、グラナーテが視線を送り、ヒラヒラと手を振る。呼ばれてない客であろうクレメンタインは何も気に留める事なく、オートマタの群れを横切り、パイプ椅子に腰を掛けた。

「クレミー、進捗はどう? 」
「話が早いな。まぁ、予算請求は通らんだろうな。要求事項をオーダルトにせず物品調達で上げ、予算が通ったとしても監査が入れば、物品の出所を調べられる。そこでオートマタに組み込んだなんて知られたら、私達は聴取を食らうだろう。下手を打てば手を後ろに回される。リスクを冒すのは辞めたいというのが正直だ」
「やけに慎重だね」
「あぁ、石橋は叩いて渡る主義でな」
「まぁ、こっちはなんとかなりそう。一案がルフトにエコーロケーション機能を追加、二案は複数の大型ドローンにエアバーストグレネードを装備させて遠隔攻撃、三案はオートマタ総出で火力演習」
「……そうか」
「どうかした? 」
「いや、コイツが私には昔の仲間なような気がしてならないんだ」
 そうクレメンタインは呟くように言う。彼女の表情には、微かな憂いが見え隠れしている。また余計な事を考えてしまったのだろうかと、グラナーテは思いこそするものの、口には出さず首を傾げ、黙りこくったままクレメンタインの顔を見つめる。

「捕らえどうにかすれば人に戻れるのではないのかと、な」
「…死んだ人は戻らないし、もう敵になったら殺さなきゃいけない。サリタの時もそうでしょ」
「あぁ、そうだな…」
 目を逸らし応答するクレメンタインは何かを隠している、そうグラナーテには感じられた。元々言葉数は多い方ではない、自主的に何かを語る事は少ない。しかし、クレメンタインは軍人時代からの名残か、人を見て話す癖がある。人から目を逸らす時は何か、偽りや隠し事がある時だ。

「まさかさぁ…、仕留めてない? 」
「さて、な」
 矢張り視線を寄越さずクレメンタインは応答する。殺せなかったのか、既に殺す必要がない状況だったのかは引き出す気はなかったが、クレメンタインに対する猜疑心は微かに募る。尤も人に言えない事がない人間など居ないのだ、潔白すぎるクレメンタインの「汚れ」を見つけたような気がして少しばかりグラナーテは優越感も覚えていた。

「まぁ、どっちでも良いけどさぁ。ところで、ターナとウシオは? 」
「宿題をやらせてる」
「人使い荒いね」
「馬鹿を言え、連中が溜め込んでいた仕事だ。主にターナだが」
「自業自得ね…。コーヒー飲む? 」
「さっき飲んできた。気遣いは無用だ」
「あぁ、そう」
 二人の間には沈黙が流れる。オートマタ達のディスカッションだけが格納庫の中に響き渡っている。こんな状況は確かに昔よくあった。四科の人間が殺気立ち、オートマタが作戦を立案する。それがクレメンタインが三科に所属し、グラナーテがまだ二科に加わったばかりの頃、そしてサリタが生きていた頃。大抵クレメンタインは気を張った硬い表情をし、サリタは随伴して戦闘していた為か、疲れ切って椅子の上で燃え尽きていた。自分の表情はよく分からないものの、今のように下らない物事を考えながら、ぼんやりと過ごしていたような気がする。

 一人減ってもう六年も経ったのか、とグラナーテは感傷に浸りながら冷めて、不愉快な苦味しかしないコーヒーに口を付けた。自分はどうにか前に進んだ、クレメンタインは頭だけ進んで、精神は前に進めずに居る。人の死に感化されやすく、厭に人間らしい隣人の肩を小さく叩いた。






 医務室の書類を整理しながら、陸は黙々と仕事を進めるネベールの横顔を見つめた。視線には感付いているだろうが、動じる事はなく、彼女は一切手を休める様子もない。彼女が働いているというのに、手を休めている自分に罪悪感を抱き、書類の整理を進める。

「それで…、五科長から聞けたかしら」

 あろう事か先に口を開いたのはネーベルだった。一切、陸に視線を向けずに淡々とした口調で彼女は問う。何を聞かれているかは想像に容易く、その陸の想像は確かにネーベルが問う内容と合致していた。

「五科長は実例を見た、とだけ」
「あら、そう」

 そう短く返答する彼女はわざとらしく書類棚に視線を向けた。その視線を追えば、大量のバインダーが置かれ、その中には何千枚、何万枚の書類が綴られている。

「棚の右側、一番上よ。五科長のレポート」
「え? 」
「その実例に対しての報告書」

 ネーベルは決してその実例が何なのかを言葉として出そうとせず、書類棚を見ようともしない。代わりに陸が書類棚を見やれば一番上の右側に薄っすらと埃を被ったバインダーが置かれている。それが何故か、見てはいけない代物のように思えてしまい、見ようという気にはなれなかった。

「そういう書類を誰でも見れるような所に保管してて良いんですか? 」
「…そうね、人の目に触れる事を"彼女"と"彼女"は嫌がるかも知れないわ」

 ネーベルの言う彼女の片方はクレメンタインだろう、と陸は想像が付くがもう片方の彼女が誰を指すか陸には分からなかった。此処に居る誰かの事なのだろうか、それとももう此処には居ない誰かの事なのだろうか。ぐるぐると頭を回すも、答えは導き出す事は出来ない。
 そもそもクレメンタインと親しく出来る人物は数少なく、レスターやグラナーテが表面上親しい様子に見えるだけだ。クレメンタインと関係を上手く築けた人物に思い当たる節はない。

「この前、五科長は何を飲んでたかしら」
「この前ですか? 」
「えぇ、陸が帰ってきた夜」
「えーっと、スタウトに、テキーラ、ボイラー・メーカーですけど」
「祝杯でも挙げてたのかしらね」

 意味深しげなネーベルの発言に陸は首を傾げながら、腑に落ちないといった表情を浮かべた。明らかにネーベルは自分を煙に巻いている。それが感じ取られ、少し不愉快だった。

「……あれを見れば分かるんですね」

 ネーベルが答えてくれないのであれば、パンドラの箱を開けるしかない。禁忌に触れるのではないか、という不安を好奇心が打ち倒し、陸は踵を返し、ゆっくりと歩みを進めた。

「…分かるわ。——Nファクターを打った人間の末路が」
「…何か言いました? 」
「いえ、何も」

 一瞬だけネーベルを見遣るも、視線を交わそうとはしない。黙々と書類の整理を進めているだけだった。ネーベルを気に留める事は止めよう。自分が知りたい情報が目の前にあるのだ、それを得なければならない。はやる気持ちが陸の手を書類棚へと向かわせた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.16 )
日時: 2015/07/09 23:21
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: iXLvOGMO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

クレメンタイン、彼女が記したレポートを一頻り読み終え、言いがたい肌寒さを覚えた。Nファクター投与者の末路、六年前の事件、そういった事柄が記されていた。
 内容としてはNファクター投与者は死亡の際、ノスフェラトゥへと変異する可能性があり、長期間の投与者程変異する確立が高く、急速にNファクターを投与した直後の人物も死亡せずとも、突然変異する可能性がある。また、変異した人物は可及的速やかに「処理」せよ、との文面も綴られている。

「あまり気分が良いものじゃないですね」
「えぇ、でしょうね。それで五科長もNファクターを止めたんだし」
「…止められるものなんですか? 」
「二年くらい掛かってたけども、なんとか。禁断症状で死にそうになってた五科長を見てると、ヨーゼフ・メンゲレになった気分だったわ」

 ネーベルらしくない加虐的な感想に、やや引き攣った笑みが出る。職務に真面目で、根が良心的なネーベルの事だ、どうせ見ているだけで持ち合わせていないはずの心が痛んだのだろう。そして、恐らくはクレメンタインが残したこの文章にも心を痛めた事だろう。嘗ての仲間が人でなくなった時、自分達の手を汚し、介錯をしてやらなければならない、その事柄に得も知れない感情を抱いたはずだ。

「仲間を手に掛けるのは、辛いでしょうね」

 ポツポツと余り抑揚を付けず、陸は呟くように言った。誰も介錯など出来ないはずだ。例え引き金を引き、殺めた実感を持たないとしてもだ。

「私達オートマタも悩むわ。殺せない。仲間は特にね」

 厭に人らしく、憂いを帯びた優しげな表情を浮かべながらネーベルは言う。自分は出来ないとは言っていないが、あの表情からして彼女も引き金を引く事は出来ないだろう。

「難義な物ね。仲間がそうなる可能性があって、仲間を殺せず、殺せば壊れる。——本当に難義だわ」

 整理し終えた書類に肘を付きながら、彼女は呟いた。その表情は至極、まともな感性を持ち得た人間のそれと変わりない物だった。



 格納庫に整列するオートマタ達、彼等はそれぞれの得物を掲げている。ハルカリに至ってはミニガンを二挺装備するという異常な状態であり、両脇のフルートとカケハシはドン引きしたような表情を浮かべていた。またハルカリの背後に立つ、シュトゥルムも機関銃というよりも機関砲の間違いではないかというような長大な機関銃を担ぎ上げている。LAVの銃架からもぎ取った物で、20mmのエクスプローダー弾を使用し、一発当たるだけで人間ならば文字通りの「粉」になるような代物である。

「壮観だねぇ。これから不死身のサイボーグとでも戦いに行くのかい? 」
「私達がどっちかというと“また戻ってくる”っていう立場だと思うんですが」
「今回の作戦が終わったら“戻ったぞ”で良いか? 」
「君等、旧世代の映画好きすぎるでしょ」
 ハルカリとシュトゥルムから矢継ぎ早に帰ってくる返答に、少し呆れた様子のグラナーテであるが、これだけの装備を整えた彼等を戦地に赴かせるのならば、単純に「第三案火力演習」だけでノスフェラトゥを殺める事が出来るような気がしていた。
 アサシグレとカミナリに担がせたエアバーストグレネードを装備した大型ドローンは必要ないのでは、と脳裏を過ぎったが過ぎたるは及ばざるが如しが通用しない、この現場には必要な物だろうと即自分の中で結論付けるに至る。

「ルフト、君は調子どう? 」
「……聞こえ過ぎるのも酷だ。昇降機が啼いている」
「あぁ、まゆしー君がいつか直しとくよ。我慢して」
 無理やり、搭載したパッシブソーナーのせいでルフトの頭部はやや人間らしさを失っては居るものの調子は良いらしい。尤もアクティブソーナーに変更すべきだったような気もするが、急拵えのオーダルトである以上、簡単な方を選ばざるを得なかった。

「本作戦においては、一切の指揮をハルカリに委任する。各員は命令無視や、必要以上の事はしないように。良いか、台風娘」
「なっ…、誰が台風娘だッ!!」
 工具箱に上に腰を下ろしたクレメンタインは淡々と語る。こうしてみれば今でも四科に所属しても問題がなさそうな威風を漂わせている。これに銃を持たせれば、六年前のクレメンタインが出来上がる事だろう。寧ろ加齢と頬の傷跡がシナジーを発揮し、六年前以上の凄味を発する事だろう。

「無事に諸君が戻ってくる事を祈っている。大破までは許す。誰一人として欠けるなよ。人ではない諸君も私の大切な“駒”なのだから」
 口元を歪め、悪そうな笑みを浮かべる眼前の女。ハルカリにはまるで諸悪の権現のように思えてしまいながらも、仕方がない人だ、と内心笑みを浮かべていた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.17 )
日時: 2015/07/26 02:44
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v=lCPwR7R4hlA

 軍用車輌というのはどれだけ時代が進み、技術が発展していても乗り心地は最悪なのだ。ディーゼルエンジンの騒音や振動が原因で、未だに車内で言葉を交わしても聞き取れず、空調もままならないため、空気は劣悪。兵員待機室の座席も鋼鉄の上に、薄いマットが敷かれているだけ。こういった不快感を感じる程にまでオートマタの感覚を人間に近づけるのは如何なものだろうか、とハルカリは思いながら傍らの戦友を見据えた。巨躯であるが故に、居心地が悪いらしく腕を組み、口元を固く閉ざしている。

「なんです? 」
「副長殿にお伺いを立てようかと」
 おどけた口調のハルカリをシュトゥルムは横目で一瞬だけ視界に留める。何を聞く事があるというのだろうか、敵であるノスフェラトゥはとにかく殺すだけであり、現状それ以外のオーダーはない。

「見えない奴をさ、生け捕りにするじゃん? 」
「無理でしょうね、“粉”にしてしまいます」
「まぁ、まぁ。話聞いてよ」
「…えぇ」
「百万歩譲って粉にしないで、原型保ったまま回収するじゃん? Nファクターの良い材料になると思うんだよね」
「確かに良い材料にはなるでしょうが、間髪入れずに殺すのが被害も少なく、最適だと思いますよ」
 形など気にせず、とにかく殺せ。そう言い張るシュトゥルムの頬を小突く。何度もしつこく、執拗に小突いているがシュトゥルムは抵抗する事もなく、黙ったままハルカリを横目で見ていた。

「ハルカリ、俺以外にも聞いてみたらどうです? 」
「そうしようか。じゃ、ルフトから順番に」
 シュトゥルムを小突きながら問うハルカリ。やや困惑した視線を浮かべながら、指名されたルフトは口を開く。

「私の役割は索敵だ。殺しじゃない。任せる」
 一見気乗りしないような回答であったが、ルフトの性格上こういった返答が出てくる事は至極自然な事だった。小さく相槌を打ちながら、ルフトの隣に腰掛けたフルートを飛び越し、ガンケースとドローンケースに板挟みにされたカミナリに視線を向ける。

「難しい事考える必要はないでしょ? 成り行きに任せるよ」
 彼もまたルフトと同様、言葉短く同じような返答をしてみせる。
「ハルカリ…、私は——」
「フルートは粉にしない派ね。決定。次カケハシ」
 話を聞き、それなりの考えを持っていたのだろうが意見を出す間もない。心外だと言わんばかりのフルートの表情を見ても、気に留める事なく次のカケハシへと問う。

「……私は反対よ」
「——へぇ」
 黒い鋼製のマスクで覆われ、存在しないはずの口許が歪んだような気がする。声色のせいなのだろうか、はたまた気のせいなのだろうか。その判断こそつかないものの、物怖じする様子を見せてはならないと、ハルカリの機械的で真っ黒な瞳を見据える。

「もしかしたら昔の仲間かも知れない。死んだ人を自分の身体に入れるなんて気分悪いじゃない? 死んだ人間なんて記憶に残ってるだけで充分よ」
「ふーん。アサシグレはどう? 」
「賛成だな。人間が死なずに済むならば必要な事だ」
「賛成三名、反対二名、任意二名。殺しても粉にはしない。——良いね」
 誰一人として声を挙げる事はせず、頷きもしない。代わりに不愉快そうな表情を浮かべたフルートがコッキングハンドルを引き、その音が車内に木霊した。

「気が早いようだね、台風娘」
「その呼び方は止めて欲しい」
 彼女が抱えた小銃は、いつもの古めかしい物とは違った。通常の小銃よりも銃身が短く、擲弾筒と赤外線スコープが取り付けられている。

「…外に何か居る気がしないか」
「——さて、ね」
 真っ黒な瞳を天井に向けながらハルカリはおどけてみせる。フルートの一言に顔を顰めたシュトゥルムは機関砲の銃座へと向かい、ルフトはハッチの外を黙ったまま見据え、ゆっくりとその姿を透過させる。

「シュトゥルム。状況は? 」
「2時の方向、800m先、ノスフェラトゥの群れ。後方及び側面に敵影はありません。先制攻撃を仕掛けますか? 」
「…アサシグレ、車止めて。油圧サス稼動。アウトリガーを出して。カミナリは一機ドローンを飛ばして。それ以外は戦闘準備を」
 姿が見えないルフトがハッチを開くなり、各々が装備を片手に暗闇へと身を投じてゆく。車体が唸り声を上げながら、油圧サスペンションを稼動させ、同時平行しながら車体側面のアウトリガーが伸張されていく。射撃可能になるまで恐らくあと30秒ほど掛かるだろう。ゆっくりとした足取りでハッチから身を躍らせ、車体上部にマウントさせたミニガンを一挺、更に一挺と担ぎ上げる。

「アウトリガー伸張完了、サスペンション稼動確認完了。いつでも撃てるぞ」
 運転席から顔を覗かせたアサシグレが静かに語る。その言葉を聞き入れるなり、インカムに静かに語りかける。

「目標ノスフェラトゥ。射撃許可。肉の破片すら残すな」
「——Ja」
 くぐもったドイツ語が聞こえた刹那、機関砲が火を噴く。30mmの砲弾が音を置き去りにして、標的へと飛んで行く。舞い上がる土煙に動じる様子も見せず、ノスフェラトゥが打ち砕かれ、燃え上がる様子を黙したまま見据えていた。

「…1、2、3——」
 遅れて鳴り響く砲声。こんな砲で撃たれたくないと考えながら、各々のオートマタは装甲車を取り囲むように隊列を組む。一旦、攻撃を仕掛けてしまったのだ。ノスフェラトゥが集まってくるのは時間の問題だろう。その中に、今回の標的が居る事を祈るしかない。

「ルフト、哨戒に」
「もう居ない」
「あぁそう…」
 少し離れた所からそうフルートは返答する。彼女は小銃を頬に押し当て、赤外線スコープを覗いている。顔は険しく、これから殺し合いをする。そう意気込んでいるように見られた。

Re: Subterranean Logos【オリキャラ募集中】 ( No.18 )
日時: 2015/08/05 23:45
名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
参照: https://www.youtube.com/watch?v

内蔵カメラを暗視モードに換えながらハルカリは暗闇を睨み付ける。目当ての化物は寄って来るだろうか、どうやって粉にせず殺害しようか等と考え、少ない人らしい顔の部分が歪む。片手でミニガンを担ぎながら、ノイズが発生しないようにインカムをもう片方の手で包み込みながら、小さくとも聞き取りやすい声で言葉を紡ぐ。

「ルフト、状況は? 」
「——此方Lu。現在、30mm機関砲の着弾地点に居るが酷い有様だ。残存ノスフェラトゥは確認出来ない。粉どころかハンバーグにしてしまったのではないか? 」
「無きしにも非ずだね。まぁ、良いや。哨戒を続行して」
「——Ja」
 了解、という短い返答の後、インカムのマイクボリュームを下げる。ドローンの飛行音と油圧サスペンションの駆動音、LAVのエンジン音だけが辺りに響く。まるで言い争いをしているかのように互いが互いの音を侵しあい、聞き込む内に何の音か判別が付かなくなってきている。

「——ハルカリ」
 ふと突然静かな口調でフルートがハルカリの名を呼ぶ。返事こそしないが、左手を小さく挙げ、聞こえているとハンドサインを送る。
「30mm機関砲で攻撃を仕掛けておきながら、ノスフェラトゥは愚か、ターゲットが近寄ってくる様子もない。…不思議に思わないか? 」
「……何が言いたいの? 」
「私達は釣られたんじゃないのか」
「そこまで賢いとは思えないんだけども」
 頬にカービンライフルのストックを押し当てながら、ハルカリの言葉にフルートは小さく相槌を打った。ノスフェラトゥは今まで組織的に攻撃を仕掛けてくる事はなかった。群れを作っていようと個々が連携を取る様子もなければ、指揮を執るような存在もない。

「——まぁ、私がノスフェラトゥだったらさ。主力が出払っている時に警備部を攻めるね」
「だよなぁ」
「連中の指揮を執る輩は居ないし、そこまで頭が回るものでもないさ。それにベースには戦上手な鬼が居る」
 鬼と呼ばれて思い浮かぶ人物は一人しかいない。
「杞憂か」
「杞憂だねぇ…。————来たかな。シュトゥルム。五時の方向敵影と思しき物体がある。火力支援を」
「Ja」
 ゆっくりと砲塔が旋回し、砲身が空転し始める。射線に被らないように左右に避けながら内蔵された視覚センサーの倍率を30倍まで上げ、着弾を確認する体制を取る。ミニガンに取り付けたレンジファインダーによると標的までの距離はおおよそ1900m余り。弾は重力に引っ張られる為、砲塔は僅かに仰角を付け始めている。

「射撃準備完了した、指示を」
「了解。——撃」
 言い終わるか終わらないかの刹那、何かが視界に入り込む。それは何もないはずの暗闇から突如として、姿を現しミニガンを持つハルカリの左腕を削ぎ落とす。ミニガンが落ちるよりも早く、機関砲が火を噴きノスフェラトゥへと向かう最中、一体のノスフェラトゥが嘲笑うように咆哮を上げる。次の一撃を貰わないように右手でマシンピストルを抜き、碌に照準も定めずにただただ引き金を引き続ける。フルオートのそれは一瞬で弾を撃ちつくし、数発ノスフェラトゥへと命中するが、何発かフルートにも流れ弾が命中していた。

「クソがぁあああッ!! 」
 流れ弾でノスフェラトゥの存在に気付き、吼えながらカービンライフルの引き金を引く。マシンピストルからの流れ弾は人工の皮膚を穿ち、機械的な素体が露わにしていたがそのような事は気にしていられない。ハルカリ同様、スコープを覗く事もせずに腰だめのような状態で1マガジン全てを撃ち切ると、カービンライフルを捨てノスフェラトゥへと飛び掛って行く。長い尾を打ち付けられ、地面に叩き付けられながらもその尾を掴み取り、決して離さまいと必死の様相を浮かべる。
掴まれた事からノスフェラトゥは暴れ、尾を自切するなり再び姿を消してしまう。逃げるのか、それとも体制を建て直し、再び不意を打つのか判断は付かないもののフルートは腕を失ったハルカリのインカムを奪い取った。

「射撃中止! ——中止ッ!! 」
 車内に無線は届いたらしく、すぐさま射撃は中止される。着弾を確認する間もなく、ハルカリを立たせ、投げ捨てたカービンライフルを手に取り直す。

「…参ったねぇ。火力激減だぁ」
 切り落とされた腕を拾い、LAVの上部に投げ込む。急襲されたというのに緊張感の欠片もなく、戦闘意欲を見せる様子もない。あくまで普段と同じ、平静を保っている。
「腕をやれられたようですね」
「まぁね。まぁ、うちも尻尾削いだし、ウィンウィンだ」
「さて、次はどう来るでしょうな」
「…さぁね。攻撃して来ないし、血痕が離れていくって事は逃げたって事だ。一旦、総員集合させよう。フルート、ルフトを呼んで」
「あ、あぁ。分かった」
 少し慌てた様子でLAVへと向かうフルートの背を見送って、切り落とされた腕の切断面をなぞる。血の変わりに機械油が滴り、ケーブルが露わとなる。引き裂かれ、僅かに残る人工筋肉を引きちぎり投げ捨て、機械油で汚れた手で自分の頬をなぞる。

「尾が手に入ったなら“粉”にしてやろうか…。ね、シュトゥルム」
「それは愉しみですね。えぇ、とても」
  暗がりを睨み付けるオートマタ。もし彼女を正面から見るならば、存在しないはずの口元が大きく歪み、笑みを浮かべているように見えた事だろう。それ程におぞましい気配を発していた。


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