複雑・ファジー小説
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- Subterranean Logos【オリキャラ募集中】
- 日時: 2015/08/19 23:23
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=199
Subterranean Logos
どうもです。
此処で活動を再開させて頂きます、noisyという者です。
タイトルが「Subterranean Logos」、相当な意訳を込めて「暗がりの救世主」という事ですが、勢いで付けただけです(
本作、主人公という物が存在しません。
各キャラごとの話を書いて、それを繋いで行く、一人リレー小説のような形式、巷でいう「グランドホテル形式」という形を取って、書かせていただきます。
従ってキャラ不足な現在、連載に平行して皆様方のキャラを募集させて頂いております。
応募につきましては、URLから行って頂けると幸いです。
なお、現在もオリキャラを募集しております。、募集要項の条件を満たしているキャラであれば、拒むことはありません。逆は言うまでもないですが。
設定は別に記載しますので、前置きは此処で締めさせてもらいます。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ二名募集中】 ( No.4 )
- 日時: 2015/03/30 23:44
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
>3/30 加筆
ぐるりとクレメンタインは自分以外の四人の顔を半ば、睨み付けるような視線で見据えた。一人は先ほど、クレメンタインに捕まり、耳元で脅し文句を囁かれた黒人の男。その左隣で、テーブルに肘を付きながら、クレメンタインを見据えるツナギ姿の女が一人。その向かい側にはフラックジャケットを羽織り、厭に目が据わった如何にも軍人という男が一人。そしてその右隣には人ではない何かが、微動だにせずクレメンタインを見据えている。顔立ちは人から大きく懸け離れており、目鼻は一応あるのだが、口がなく黒い鉄のマスクで覆われていた。
「全員揃ったようで何より。ギルバート。休暇中の私達を呼び戻したのだ、報告を」
ギルバートと呼ばれた如何にも軍人のような男は首だけ動かし、クレメンタインを見据える。静まり返った会議室の中に、フラックジャケットが摺れる音だけが響き、クレメンタインから発せられるピリついた空気が辺りを緊張させる。
「あぁ。昨晩偵察中の連中がノスフェラトゥ共と交戦し、一科から五科まで合計で四人が死んだ。死体回収は不能と判断し、残存した科員に撤退するように指示を出したのだが、連中が戻ってこない。再度、此方から無線を送ったが応答もない」
「なるほど、MIA認定すべきか、せざるべきか。という事か」
科員の死に対してクレメンタインは大した反応する事もなく、淡々と言葉を紡ぐ。やや異常とも思える光景だったが、周囲の人間は誰一人表情を替える事もない。
「それもあるが、アガルタ17階層の守備が一人でも欲しかったから呼び戻したというのが実情だ。彼等を助けに行く余力も、考えもない」
「では、早速MIA認定の処理をし、補充の要請を掛けておくとしよう。解散」
「今度はちったぁ使える奴が来れば良いんだがなぁ」
「人間は脆すぎるんだから、オートマタわんさか寄越せば良いじゃない、ね? 」
解散の号令に好き勝手立ち上がり、立ち去る人間達は軽々しくそう言い放つ。彼等は麻痺しているのだろう。長く戦場に居座り、生き続けてきた故に、死が身近になり過ぎ、命という物を非常に軽々しく見ている。故に一人、人間ではない者は多少の胸糞悪さを感じていた。
「どうしたハルカリ。明後日な方向を見て」
「いえ。五科長、命という物は無価値なんだなと」
「地下に潜って、化物達と遣り合ってるんだ。自分から墓穴に飛び込んだ、自殺志願者にも等しい。そんな奴等の命はそこの綿埃と同じくらいの重みしかない」
そうクレメンタインは床を見下ろしながら言う。視線の先は踏み躙られ、分裂寸前のズタボロで、小さな埃が転がっているだけだった。
「……人間というのは冷血です」
「そうでなければお前等オートマタを作らんよ。——人間は冷たい凍りついた心とエゴの塊で出来てるんだ」
口角を吊り上げ、嘲るような笑みを浮かべたクレメンタインに一抹の悪寒を抱き、ハルカリは息を飲む。人間がオートマタを作った理由を思い返せば、確かに人間という物はクレメンタインの言うとおりの存在だ。自分達は戦場で人間の変わりに戦い、過度に放射能汚染された地域での作業をするために作り上げられた代物だ。人間のエゴと、利己的な精神が交わって作られた合いの子なのだ。
「すっかり忘れてましたよ。そういえばそうだったって」
小さく、小さく消え入るように呟いたその言葉にクレメンタインの高笑いがドアの向こう側から聞こえた気がした。
身動きが取れなくなったLAVが声一つ挙げず、止まっていた。運転席に座り込む死体は、自分の愛車から離れようとせず、強化ガラスで作られた窓から暗がりを黙したまま睨み付けている。
そのLAV上部に取り付けられた機関銃席の中で、青年は胸の前で十字を切った。残弾は残り少ない、異形の化物達が何処まで迫っているか分からない。今から一秒後、一分後、いつ訪れるか分からない死という物が目の前をチラホラと反復している。
「イッスンサキはヤミって奴ですね。この状況」
と、余り抑揚のない声で、客観的に呟く女に青年は辟易とした様子で、視線を送った。外部のカメラと通信機を復旧させるために、彼女は先程から新たに電路を引き直しているが、一向に終える様子はない。だというのにこの軽口、命の危険に脅かされているという実感はないのだろうか。
「陸、余りカリカリするものではない。そこにレーションがあるだろう、少し齧って落ち着き給え」
そう静かな口調で語りかける男性型オートマタが一人。柔らかな口調に反し、彼が傍らに抱く短機関銃はセーフティが外され、いつでも撃てるような状況にあった。彼と向かい合うように座る女性型オートマタもそうだ。苛立っているのか、眉を顰め、膝に置いたかなりクラシックなM1A1は小刻みに揺れている。
「……ヴァルトルート、まだ終わらないのか」
言葉は静かだが、微かに怒気を纏うような言葉で女性型オートマタは呟くようにいう。ヴァルトルートと呼ばれた軽口を叩く女は、返答せずに軽く肩を竦め、ニヤっと小さく笑う。
「何が面白いんだ」
「いや、ブッチャケね、オートマタも死ぬのが怖いんだなぁって」
オートマタは二人居り、彼等の反応は二様だった。片方は小さく笑い、片方は舌打ちをして悪態を付く。
「フルート。悪態付くならハルカリから破壊許可は出てるからね」
そういう女の手には小さなリモコンが握られていた、それを見せつけるなりフルートと呼ばれた女性型オートマタは悔しげな表情を浮かべながら、覗き窓から外を睨み付ける。
「いやはやハルカリも容赦がない事をするもので」
「鬼の四科長だからねぇ。自分の生態反応がなくなったら、オートで自爆するような機構を付けてるし」
「なんともまぁ」
「や、嘘だけどね。マジで。——よしっ、こんなもんかな」
最後の電路を繋ぎ終え、ヴァルトルートはニィっと笑みを浮かべ、スイッチに拳を叩き付けるようにして、電源を入れる。一瞬、カメラにノイズ混じりの映像が付くも、次第にノイズは安定し、外の状況を見る事が出来た。
「——なるほど。酷いものですな」
カメラに写された映像を見ながら、朝時雨は呟くように言い放った。食い散らかされ、既に原型を留めない死体と、破壊され既に活動を停止したオートマタの残骸が辺りに散らばっている。薄暗い地下の中でも分かる程に、赤く染まった光景に陸は息を飲み、得も知れない恐怖を抱いた。自分は人の為に命を捧げると誓ったはずだ、それなのに、何故ここまで恐れるのか。何故、こうも死という物が恐ろしいのか。いつの間にか、左手が小さく震えていた。
「陸、撤収するぞ。俺がアロイスの死体を下ろしたら、そのまま運転する。陸はそのまま銃座に居てくれ」
ふと、朝時雨が静かに語り掛けた。現実に引き戻された陸は小さく頷き、鋼鉄の壁に囲われた銃座から外を睨み付ける。暗がりの中に何かが蠢いているが、中でカメラを睨んでいるであろうヴァルトルートから特に何も注意はない。
朝時雨の手で車外に放り出されたアロイスと呼ばれる男の死体が、ゆっくり、ゆっくりと遠ざかっていくが、死した彼に思いを馳せる余裕もない。何とかして生きて帰らなければならないのだ。
出来る事ならば、化物と遭わずに済めば良い。そう銃座で胸を撫で下ろし、暗がりに視線を向けていた。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ二名募集中】 ( No.5 )
- 日時: 2015/04/04 16:04
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
唸るエンジン音に紛れて、時折聞こえる何か別の生物の咆哮に陸は苛まれていた。耳に入るたび、銃座を回転させてその方向を見遣るが何の姿も見えない。舌打ちをし、悪態を付きながら、温くなってしまったスポーツドリンクに口を付ける。極度の緊張から喉が乾いていたのか、嚥下音が周囲に聞こえる程、大きく鳴っていた。
誰もその事について、言及する事はなく、気恥ずかしげに車内に視線を送るが、先ほどまで軽口を叩いていたヴァルトルートも真剣な様子で、カメラで外部の様子を見遣りながら、通信機を操作しながらアガルタとのコンタクトを取ろうとしている。尤もそれは成果を結ばないらしく、苛立ちを隠しきれずに車体側壁を安全靴で蹴っている。使い古し、靴先のゴムが剥げているせいで、金属同士がぶつかる鈍い音が響いていた。
「ブッチャケ、無線機壊されてるっぽい」
陸の視線に気付いたのか、肩を竦めながら彼女は言った。銃座に戻り、ぐるりと一回転してみるが確かにアンテナらしき物はない。いつの間に破壊されたのだろうか。
「さっきまではノイズ混じりに動いてたんだけど、今まったくダメなんだよねー」
ヴァルトルートのその言葉に一抹の不安を覚えながら、陸は銃座へと戻り、またスポーツドリンクに口をつけた。身体に沁みる。オートマタはこの感覚が分からないのだから、損をしていると思ったその時だった。ゴトリ、ゴトリと銃座の真上で物音がしたのだ。凍り付いたような表情を浮かべながら、真上を見上げる。スポーツドリンクのペットボトルが手から滑り落ち、背筋を走る悪寒に苛まれる。
「上に何かいる」
流石に鋼鉄の装甲を突き破る事はないが、もし上にいる何かが運転席側に回り、朝時雨を攻撃したならば一貫の終わりだ。もれなく全員死ぬ事だろう。陸の言葉を聞き取ったフルートが眉間に皺を寄せたまま、M1A1のセーフティを外し、リアサイトから照準器を取り外す。近距離で撃つ場合は、照準器がない方が撃ちやすいのだろう。
「撃つなよ、台風娘」
そう運転席から朝時雨が言う。台風娘と呼ばれたのが不服なのか、フルートは今にも噛み付きそうな表情で朝時雨を睨み付けたが、同時にヴァルトルートがリモコンをチラつかせ、事なきを得た。
確かにM1A1の.45ACP弾ではLAVの装甲を抜く事は出来ない。百歩譲って、装甲を抜き、上にいる何かに弾を当てれても致命傷にはならない。第一、貫通できなければ車内で銃弾が飛び交ってしまう。
「ハルカリみたいにミニガン持ちなよ。7.62mmばら撒いたらブッチャケ快感だと思うよ?」
「……持てない」
「あっそ」
他愛もない言葉を交わすヴァルトルートだったが、外部のカメラを操作するその手は微かに震えている。緊張と焦りからによるものだろう。一刻も早く上に乗っている何かの正体を暴く必要がある。
「三人とも、対ショック姿勢を取ってくれ。一旦上から振り落とす」
そういう朝時雨は前も見ずに、ハンドルに伏せている。ちょっと早いのではないのだろうかと思いながらも陸は後部の座席に捕まり、頭を伏せる。ヴァルトルートもそれに習い同じような体勢を取った途端、朝時雨が急ブレーキを踏み込んだ。
車外と車内で何かが転がっていく音が聞こえ、すぐに頭を挙げ銃座へと陸は戻って行く。一瞬視界の端に移ったフルートが助手席と運転席の間に頭から突っ込み、挟まっていたが言及する暇などない。
止まった車体前部に転がる、人の形をした何かを見据えるなり、陸は機関銃の引き金に手を掛ける。ライトに照らされたそれは醜悪なもので、思わず目を覆いたくなるような代物だった。
額は突き出、瞳は窪みながら真っ赤に光り輝いている。口はだらしなく開かれ、複数の舌のような物が垂れ下がり、その中から卸金のような刃が無数に覗く。やや猫背気味で正確な背丈は分からないが、180cm程はあろうか。まるで急激に痩せた元肥満の人間から垂れ下がるような皮膚、そこから覗く樹木の蔦のような何かが蠢いていた。
「——陸ッ!! 撃て!! 」
醜悪なそれに視線を奪われ、引き金を引けずに居たが、車内で吼える朝時雨の声に我に返り、引き金を引く。14.5mmの巨大な銃弾がその醜悪な身体に吸い込まれ、肉の欠片とドス黒い血が散らばり、辺りを汚していく。断末魔の叫びを挙げる間もなく、原型を失ったそれを銃座から見下ろしながら、陸は小さく溜息を吐いた。同時に何事も無かったかのようにLAVは走り出し、散らばった破片を踏み潰す。
「化物には先制攻撃。さもなくば死ぬか、サックウェルみたいにスカーフェイスになってしまうぞ」
「五科長はアル・カポネなのかい? 」
「梅毒で死にやしないけど、ロクな死に方しないのは確かだね。マジで」
本人の居ない場所で彼女に対する揶揄をそれぞれ口にし合い、和らいでゆく空気に陸は胸を撫で下ろした。
「にしても、もう俺達、MIA認定されてそうだよね」
「…まぁ、してるだろうな。次の補充を要請するために。あの女はそういう女だ」
「へぇ、結構辛辣な評価じゃん? ブッチャケなんかあった? 」
やや俯き加減で語るフルートの顔を覗き込みながら、ヴァルトルートは問う。近すぎる顔に気付き、それを押し退けながら淡々とフルートは語り始めていた。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ二名募集中】 ( No.6 )
- 日時: 2015/08/23 18:23
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: sFi8OMZI)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
バンデージに覆われたミイラのような女が頬から大量の血液を垂れ流す。その女は小銃を掲げ、静かに歩む。白いワイシャツのは所々、焼け焦げ、その下から薄っすらと血が滲んでいる。その後ろを同様の足取りで歩む、フルートは複雑な表情を浮かべていた。その理由は辺りに斃れる同胞達と、彼女の怪我の具合を案じてだった。
「何をしている。フルート、さっさと戻るぞ」
「……あ、あぁ」
猛犬のように鋭い瞳を向け、彼女はフルートを睨み付けた。斃れた死体に対し、動じる事もなくそれを跨ぎ目もくれない。彼女が興味を持つのは、死体となったかつての仲間が遺した、まだ使える銃と自分の小銃と同じ弾を使用している小銃だけだった。時折、しゃがみ込みそれらを拝借する彼女に対し、一抹の不快感を抱く。
「何を突っ立ってるんだ。お前も持て」
押し付けるようにフルートに小銃と散弾銃を投げ付ける。それを受け取るなり、肩に掛け、背後を見据えた。
「化物共は追って来てない。追って来たとしても、我々は襲われない。案ずるな」
「なんで分かる…? 」
「足元に餌が落ちてるだろう」
死体をぐるっと見回しながら、女は仰々しく言い放った。なるほど、この女は嘗ての味方すら捨て駒にし、彼等の死を踏み躙る形で、自らの生を選ぶような女なのだろう。そうフルートは思いながら、小さく鼻で笑った。
「人間ってのは冷たいものだ。…仲間の死を悼む気すらないのか」
「残念ながらそんな気はない。死んだらただの肉の塊だ」
彼女の言う事は尤もなのだろう。人間は生きているからこそ人間で、死んだらただの肉の塊になってしまう。それを悲しむのはお門違いなのだろうか。フルートは顔を伏せながら、彼女の後ろをただただ付いて行く。時折、前から聞こえる血の滴りが、厭に生々しく、精神を蝕んで行く。
「サックウェル。問題ないのか」
「問題だらけだ。彼方此方痛むさ。ただ死ねばこの感覚は分からなくなる。これは生きている証だ」
痛みを生きている証、そう彼女は称した。ならば、痛みという感覚を持たないオートマタというのは生きていないのだろうか。彼女からすれば既に死んだ、何かの塊が自分の背後を着いて来ているだけにしか過ぎないのだろうか。と、なれば彼女は意図も容易く自分を見捨てるのではないのだろうか。そんな思考が過ぎっていた。
「サックウェル。…少しいいか? 」
「あぁ、手短にな」
彼女は振り向く事もなく、ただただ歩みを進める。時折、頬を血まみれの手で押さえているが、止血になるはずもなく、手は更に赤く汚れ、ワイシャツと小銃までも汚している。それ程、血に濡れれば手が滑り、いざという時の対処が上手く行かないだろう。
「…サックウェル。生きるためなら、味方を見捨てる事が出来るか」
「その答えはノーだ。生きてる限りは見捨てる訳がない。一人でも多ければ生存出来る確立は高くなる。死神も嫌がって近寄ってこないさ」
「なるほどそうか…。……どうした? 」
ふとクレメンタインは歩みを止め、首だけ振り向き、フルートに対し張り付いたような笑みを見せた。どうにも得体が知れず、恐ろしげに感じる。まるでノスフェラトゥが目の前に佇んでいるかのような威圧感に、本来持ち得ないはずの恐怖という感覚に苛まれる。
「——だがな。お前等オートマタは別だ。お前等は私達人間の為に生まれた、作られたのだ。お前は人間に身体を与えられ、仮初の命を授けられた作り物だという事を良く覚えておけ」
まるで味方ではない。仲間ではない。というような意思表示に、一種の怒りのような物を抱き、怒気を孕んだ視線をクレメンタインへと向けた。その視線に小さく笑い声を漏らしながら、レンズの欠けた眼鏡を少しだけ上げると口を開いた。
「オートマタ。図に乗るなよ、お前等は簡単に壊せるという事をよーく覚えておけ」
胸のポケットから取り出された小さなリモコンを見せつけ、小さく笑い声を上げた。頭部に内蔵されたICチップに高圧電流を流し、記憶媒体を焼き切る事で強制的に活動を止めるそれを見せ付けられ、フルートは小さく舌打ちをする。
「なに、冗談だ。確かにお前等オートマタを酷には扱うが、人間よりも頑丈だからだ。それにコイツはLAVのエンジンスターターだ。お前をどうこうしようって気はない。馬鹿者め」
「…はぁっ!? 」
声を荒げるフルートに背を向け、クレメンタインは悪魔のような高笑いを地底に響かせた。何が愉快なのか、それが解せずやり場のない怒りに苛まれながら、彼女の背を黙って追い掛けた。
「サックウェルはそういう人間だ。死んだらそこまで、悼む気すらない」
一頻り語り終えるなり、フルートはまた俯いて膝に置かれたM1A1を傍らに置きなおした。思い出すなり、行き場の無い怒りが彼女の脳裏を過ぎるのだろう、右足を小刻みに動かし、左手が微かに震えていた。短気は損気とよく言うが、怒りによって本質が見えなくなってしまっているのだろう。朝時雨は内心、フルートを青いと笑みを浮かべ、アクセルを踏み、軽快に加速してゆく。
「五科長は確かに変り者だが、それ程悪い人間でもなかろう? 」
「ブッチャケ言葉が悪いだけじゃん」
「冷血だからあの立場に居られるのさ。別にMIA認定されてても困る事ないし、死人が生きて帰ってきた程度だよ」
周囲からの声にフルートはまた、苛立ちを孕んだ視線を向けている。それを見てヴァルトルートは満面の笑みでリモコンを見せ付けた。それを見るなり、フルートは一瞬怯んだが、ふと思い当たる節があったのか、静かに立ち上がり、ヴァルトルートの手元に握られたリモコンを奪い取る。
「……おい、お前」
「へっへっへっへ……。バレた? 」
台風娘は怒り狂い、日本かぶれはバツの悪そうな笑みを浮かべながら、襟首をつかまれ揺さぶられていた。その光景を見て、朝時雨は小さく笑い、陸は困った表情を浮かべ、すっかり解れた緊張に一抹の居心地の良さを感じていた。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ二名募集中】 ( No.7 )
- 日時: 2015/04/20 00:05
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: vnwOaJ75)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
薄ら痛む口元を擦りながら、クレメンタインは台帳に二本線を引いていく。一人、二人、三人、四人。その数は次々と増えて行った。そして彼女が東城陸の名に二本の線を引き終えると同時に、彼女は天を仰ぎ溜息を吐いた。
天井でシーリングファンがゆっくりとした速度で、静かに回っている。その様子がまるで、彼等が居なくなってからも何も変わらず、平然と回り続ける社会の縮図のように見えた。しかし、それが普通な事なのだ。何処かの誰かが死んだ所で、世の中は気にする事もない、著名な為政者が死んだのならば社会は多少、悼むだろう。しかし、今回死んだのは命を投げ打った兵士なのだ、誰も悼む気はない。
「——また、減ったよ。サリタ」
やや憂いを帯びた表情を浮かべ、小さく呟き、机の上に置かれた写真を見つめる。そこにはまだ二十代半ばの自分と肩を組み、満面の笑みを浮かべた女の姿があった。名はサリタといい、肌はやや浅黒く、整った目鼻立ちからしてラテン圏の生まれだと分かる。相反し、写真の中のクレメンタインは今のような凄味こそない物の、不機嫌そうな顔をしてカメラマンを睨み付けている。肩から吊り下がるカービンライフルで今にも、撃ちそうな様相だ。
そんな片方の被写体のせいで、決して良いとはいえない写真を手に取り、クレメンタインは小さく鼻で笑った。彼女にまた戦友が減ったと愚痴を吐いた所で現状は一つも変わらない。
死んだ者は戻ってこないし、新たな者を迎え入れる準備も必要である。此処で立ち止まっている暇という物はない。そう頭の中で分かってはいる物の、心が歩みだそうとせず、中々付いて来ない。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、写真をゆっくりと置き、代わりに電話機を手に取り、ダイヤルを回した。こういう時はお喋りな部下と時間を潰すのが正解なのだろう。
案の定だった。守衛業務を終えたばかりのミッターナハヅンネはベラベラと喋り続けている。肩から吊り下げられた短機関銃を見て、一瞬ギョッとした表情を浮かべる者達も居たが、セーフティーが掛けられているのを確認すると安堵した表情を浮かべ、そそくさとその場を後にする。
ミッターナハヅンネに絡まれると面倒なのだ。ただでさえお喋りで、他愛もない話をベラベラとして、二時間、三時間を掻っ攫う性質の悪さを持ち、極めつけに同じ話を繰り返すのだ。
「ターナ。もう二度目だ、その話は」
「えっ、そうだっけ? まぁ、いいや——」
彼は意味のない話をベラベラと紡ぐ。まるで象のお喋りのように、意味を成さない戯言。静かにクレメンタインは相槌を打ち、さも心地よさそうに目を閉じている。
この光景は時折見られる物であり、目撃した者も別段何か言葉を掛ける訳でもない。中にはそれを見て、クレメンタインを気の毒に思う者もいた。仲の良い同期が死んでから一歩も歩みだせずに居る、親友を忘れる事が出来ない、他者の死に縛られた哀れな女だと影で、嘲り笑う者も居る。それはクレメンタイン自身もひしひしと感じているが、吹っ切りの付かず、ミッターナハヅンネに死した親友を重ねているのだ。
「五科長、聞いてる? 」
「あぁ、聞いてる。…あぁ、聞いてるともさ」
「何かあったの? 」
「いや。別にな。部下と親交を結ぶのも勤めだろ」
「ふーん、まぁいいや。でさ——」
もう感付かれている事だろう。冷徹に振舞った自分が、他者の死に悼んでいるという事を。それでもミッターナハヅンネはとやかく言う事なく、ベラベラと言葉を紡ぎ、その自分の話にヘラヘラと笑っている。
それが彼の良い所なのだろう。他者を気遣う訳でもなく、遠慮をする訳でもない。自然に、自分のしたい事をし、成すがまま、在るがままに生きている。
「ターナ」
「はぁい? 」
「お前が人間だとして、死ぬっていうのはどういう事だと思う」
「…そうだねー。よく分からないってのが本音かなぁ。余り難しい事を考えても仕方ないんじゃない? 」
「お前の回答はそうか…。お前らしいな。私はこう思うんだ。残った者に治らない傷を与え、自分は勝手に逝く所に逝って、一人で眠ってしまう。はた迷惑な物だと」
そうクレメンタインは呟くように言う。無意識の内に頬の傷跡に指を這わせ、顔を伏せていた。それを見て、ミッターナハヅンネは僅かに瞳を見開き、すぐに人懐こい笑みを浮かべた。
「まだ忘れられない? 」
「…あぁ。そうだな。アイツもそうだし、今回死んだ奴等もそうだ。恐らく忘れないだろうな。私が死ぬまで」
「そっか。それは良かった」
「どういう事だ…? 」
「死んでも誰かに覚えていてもらえるって幸せな事だよ。肉体が死んでも、誰かの中で生きている。残っている。彼等は幸せ者だ」
「——死んで未来が潰えたとしてもか」
「そこは分からない。人の価値観次第かな」
のらりくらりと答弁するミッターナハヅンネに、やや辟易しはじめたクレメンタインだったが、眼鏡を外し瞳を閉じ、自制する。此処で声を荒げれば、自分の立場というものが無くなってしまう。人の上に立つ者として、相応しくない。
「五科長。多分、ずっと答えは出ないよ。百人居れば百人死生観が違うんだもの。でさ——」
尤もらしい事を言って、ミッターナハヅンネはまた他愛もない話を始める。余りもの切り替えの早さに、呆気に取られクレメンタインの溜飲は少しずつ下がっていった。それと同時に、自分という存在がえらく浅ましく、小さい女に思えてきた。溜息を吐きながら、眼鏡を掛けなおし、ミッターナハヅンネのお喋りに小さく相槌を打った。
- Re: Subterranean Logos【オリキャラ二名募集中】 ( No.8 )
- 日時: 2015/12/12 22:54
- 名前: noisy ◆.wq9m2y9k. (ID: 9igayva7)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
暗がりの中、何か生暖かい物が手に触れた。暗視ゴーグルを下ろし、それが何なのか確認すると同時にクレメンタインは戦慄を覚え、すぐに視線の先の物を抱き寄せた。微かにだがまだ息はある。
どこかに強打したのか、瞳は潰れ、何かに貫かれたのか胸部の出血が酷い。それでも血液の匂いがしないのは、車内に充満する軽油の匂いに掻き消されているからだろう。
「サリタ、しっかりしろ。死ぬな」
平静を装い、声を掛ければ僅かだがサリタと呼ばれた女から応答は返って来る。生きているなら見捨てる理由はない、第三科は負傷者の救護を目的としているのだ、死者ではないのならば救わなければならない。それが親友であるならば、尚更だ。
「ハッチが開かん…。クソ」
車内に充満する軽油の匂い、どこかで計器が故障しているのか、火花が散り、いつ引火するか分からない状況に危機感を覚えた。
「…シンディー」
「喋るな。すぐに出してやる」
ストックで防弾ガラスを執拗に叩くも、蜘蛛の巣のように皹が入るだけで一向に割れない。本来ならば散弾銃で蝶番を破壊し、ドアを打ち破るのだが、軽油の匂いが充満している以上、引き金を引き、弾を放つ事は出来ない。さもなくば、散弾銃から発せられる燃焼ガスに引火し、LAVの中でローストされてしまう可能性がある。
「…ねぇ」
「黙ってろッ! ……モルヒネならそこにある、自分で打て」
語気を荒げるクレメンタインだったが、それは血を流す友に対する怒りではなく、いつ焼かれるとも限らない不安からの焦りによるものだ。
「——ねぇ」
不意に背後のサリタの声がとても冷たく、はっきりと耳に届いた。今にも消え入りそうな声だった彼女からは発せられたとは信じがたい、それに悪寒を覚え、ゆっくりと振り向き、クレメンタインは瞳を見開いた。
「なんだ、それ」
視線の先のサリタは人成らざる姿をしていた。肌は死人のように白く、瞳はとても人間とは思えない程に黒く染まり、傷口を塞がっていた。その姿は変異生物、ノスフェラトゥその物だった。
「ねぇ、クレミー。撃って」
介錯をしろと言うのか、はたまた此処で共に死ねと言うのか、彼女の意図は押し計らえなかったが、同時に引き金も引く事は出来なかった。
「やっぱり…。——貴女は私を救えないのね」
その言葉を放つと同時にサリタはクレメンタインへと飛び掛って行く。最早人間の物ではない爪がクレメンタインの左の頬を掠め、頬の肉と数本の歯を抉り、奪い取って行く。
痛切な悲鳴すら挙げる事なく、瞳を見開きながらカービンライフルの引き金を引いた。銃弾はサリタの胸と額を撃ち貫き、人間の物よりも黒い血液を辺りに散らした。見開かれた瞳は閉じられる事なく、激痛に歪む事もない。目の前で静かに死んでゆく嘗ての友を見下ろしながら、クレメンタインは抉り取られた頬に手を添えた。
飛び上がるようにして起き上がれば、見知った天井が視線の先にはあった。眼鏡はベッドサイドのテーブルに置かれ、その脇にはミッターナハヅンネが書いたのだろうか、決して上手いとはいえない字で手紙が置かれていた。飲みすぎたのだろうか、それとも悪い夢のせいだろうか、痛む頭を擦りながら、ゆっくりと起き上がった。眼鏡を掛けなおし、鏡も見ずに手櫛で髪を整えると、手紙を手に取る。案の定、酔っ払って潰れてしまった、部屋まで連れて来たとの内容であった。
「詫びなくてはな…」
自嘲するような笑みを浮かべ、ベッドに腰掛ける。タブレットPCに写る自分の顔に走る大きな傷を指先で、なぞりながら溜息を吐いた。死したであろう彼等は全員がNファクターを投与していたはずだ、死んだならばノスフェラトゥや変異生物となった可能性がある。
生前の姿をある程度保ったまま、異形と化し、また何れ敵として舞い戻ってくる可能性もある。その時、自分は彼等を撃つ事は出来るだろうか。サリタを手に掛けた時のように、引き金を引く事は出来るだろうか。頬の傷と、彼女の死はクレメンタインを朝から蝕んでいた。気に病むな、気にするな、自分にそう言い聞かせながら、身支度を始める彼女の足取りは重く、動作は緩慢とし、表情は冴えなかった。
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