複雑・ファジー小説

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【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
日時: 2019/03/29 13:00
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989

——この戦争はきっと、ありふれていた 


*****
 はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
 今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
 

 詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
 
・世界観
 あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
 そんな学園で起きた、一つの事件。

・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。

 以上


・目次 
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46

-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
 >>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
 >>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25

・第二限「ゆびきり」
 >>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45

・第三限「終末世界のラブソング」
 >>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)

・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様 
-siyaruden様 宛 更新 12/17


・イラスト等について
 >>18
 こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。

 >>52
 感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!


・異能学園戦争参加者名簿

 東軍
・岩館 なずな  by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架   by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音  by siyarudenさん

 西軍
・三星 アカリ  by透さん
・播磨 海  byみかんさん
・栂原 修    by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏  by波坂さん

 無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央  by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯  by サニ。さん
・大當寺 亮平  by 黄色サボテンさん

・コメント随時募集中!

(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました

1-2(改) ( No.6 )
日時: 2018/07/21 03:16
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: wooROgUa)

第一限「嘘つきと早退者」2/13


 それから少しだけ時間が過ぎ、24時間のタイムリミットが始まる十時を過ぎたころ。
 学園の西部、AIによって一方的に西軍とされた者たちが住むコテージよりも更にその先に彼らはいた。
 本来、学園に住んでいた者たちの記憶が正しければそこは、学園周辺に出来上がっていた町へ降りるための道路があったはずである。アスファルトで舗装されていて、バスや自転車でよく友人と降りて行っていた事、皆確かに覚えている。
 だが現在、そこには一面霧のようなもやがかかっていて、その先を見通すことができないという事態に陥っていた。

「……いやぁ、濃いね! 今頃下町では濃霧注意報でも出てるかな。ま、ここが現実の世界とつながっているかどうかすら不明なんだけど。
……君はどう思う?」
「……正直、判断材料が少なすぎて。僕にはまだ判断は下せません。ただ、本物の学校と同一、ではないでしょう」

 霧の前でスマートフォンで時間を図っている男子と、それを覗き込むように隣立つ女子。中等部3年、 播磨海(はりま うみ)と高等部3年、羽馬詩杏(はば しあん)。その光景は、播磨が十数センチほど背が高いせいか、どこか仲の良い兄妹の様にも見える。
 二人にして何かを待っているらしく、霧の前で雑談をしていた。

「……5分経過しました」
「もう? 意外と早く過ぎるもんだ……ってあ、戻ってきたっぽいね」
「……本当ですね、声が聞こえてきました」

 西軍五人は、簡単な自己紹介をすませた後、どうにかここから脱出できないかと話し合った。当然、殺しに乗るという案は投げられた。
 そして、まずは一番近い学園からの出口を……とここまで来たのであったが、

「ふぁい、おー、ふぁい、おー……ってあれ、ウミ先輩にシアン先輩? トウヤ先輩、前に二人が見えます!」
「……おかしいな。確かに前に進んでたと思ってたんですけど」
「……三星さんに、光原さん。二人とも特に傷も見当たりません」

  霧の中から、部活のランニングだと言わんばかりに軽快に出てきた赤毛の少女。後ろには、キョロキョロと辺りを見回しながらついてきた黒髪の少年。
 今度は二人とも身長が似通っており、更には男の顔が幼いという理由から同学年にも見えるコンビであったが……実際のところは歳でも学年でも3つ離れていた。ちなみに、少年の方が年上である。
 そんな二人を労うため、羽馬はどこから持ってきていたのかペットボトルを渡した。

「やーやー、二人ともお疲れ様。はいお水」
「わーい、ありがとうございますシアン先輩!」
「どうもありがとうございます羽馬さん」

 中等部2年、三星アカリ。赤いツインテール……テールというよりはお団子な少女は、ただの水を喜んで受け取り口をつけている。その際、左頬につけていたガーゼを少し濡らしたが、あまり気にしていないようだ。
 高等部2年、光原灯夜(みつはら とうや)は笑って水を受け取るも、一口つけると直ぐにやめ、パーカーのポケットに入れた。余り喉が渇いていなかったのだろうか。
 そんな二人を見ながら、播磨はとにかく話を聞かなければと思い出し、少々言葉につまりながらも尋ねる。

「それで、霧の先はどうでした?」
「えっとね、とにかくずーっとかわんない感じ? しばらく走ってたけどいつのまにかここについちゃったかなぁ」
「俺も同じで、周りの音とかも変わらなかったかな。地面の感触もアスファルトのまま。特に他人の視線とかもなかったね」
「なるほどなるほど……結界、みたいなものでも貼られてるのかな? 出入り禁止、みたいな」
「……可能性としてはありえますが、学園全体を覆えるほどのものなんて……」

 三星、光原の証言から、霧の先へ進んだとしてもいつの間にか戻されてしまうということがわかったが、どうにも解せないと二人は考える。
 不思議空間についてではない。能力者の学園に通う彼らにとっては「そういう能力もあるだろう」で済む。問題は、その大きさ。
 あまりにも強大すぎる、またその発動を誰にも気づかれなかったのかということだ。

 少なくとも五人、西軍達で話し合っただけではあるが皆同様に自室で寝ていた後にいつの間にかこんな所に居たとのこと。
 ならば、犯人は一体どのようにして十五人もの大人数を。それを可能とする能力に心当たりがないというのはどう考えても不可解なのだ。

「そんなつよい能力者なら有名になってないとおかしーですよね。アタシもケッコー長く学園にいますけど、そんな人聞いたこともないもん」
「……転校してきたばかりの人の犯行、あるいは複数犯か」
「前者なら手が込み過ぎているようにも思えますが……。
とにかく、今のままだと学園からは出られないってことですね」
「となると、いよいよ考えなきゃいけないかな?」
「それは……」

 羽馬の最後の言葉に2人は黙り込む。一方、三星はまだ思い至っていないようで不思議そうに辺りを見回していた。彼女自身西軍の中では最年少ではあるが、それにしても少々考えが甘すぎるといっていい。
 ……むしろ、すぐさまそのことを考えられた3人が少しおかしいのだろうか。
 そんな三星を尻目に播磨は一番最悪のケースを想定し、一段と暗くなった。
 
「……仮に、やらざるをえなくなった時は誰を狙いますか」
「え、それってもしかしてころし合いに乗るってことで──」
「違う! ……仮にそうするしかなくなったら、という仮定の話です」

 播磨の質問に、ようやく合点の行った三星が口を出した。しかし殺し合いにのる、という挑発めいた文言が彼の琴線に触れたのか播磨は少し声を荒げ反論した。
 勿論、彼女に煽りの意図など一欠けらもないことは見ればわかるのだが。
 すぐに播磨も失態を悟り、口調を戻すがやはりそれでも重い空気は変わらない。むしろ彼がそれを忌むべきもの、というスタンスを明らかにしたところで、口を開こうとしていた光原も押し黙ることになった。

「……」
「……」

 三星は怒られたことに少々腹を立てたが、自分の軽口が原因であるということは自覚していたために反省の意を込めて口を閉じた。
 さてこれで困ったのは羽馬である。彼女がこういった話題を出したのは勿論だが、もう少し話が進むとは思っていたため、ここでの停滞は予想外である。
 このままでは連携すらままならない、そうなれば最初にこの陣営が脱落しかねないと危惧したのか、少々強引ではあるが話題の転換を図ることにした。

「……ところで、この際だからみんな敬語を使うの無しにしよう? せっかくだしみんなあだ名っぽいのつけてさ。私が最上級生だけど、やりづらくって適わないんだ」
「はい? あ、あだ名ですか……」
「あ、それいい! アタシ敬語とか苦手で」
「……俺も、賛成です」

 流石に3人とも明らかに場の空気を考えての話題であったが、他に案もないので結局乗ることになる。一番乗り気だったのは三星であることから、彼女が敬語が苦手というのは本心からなのであろう。
 だが、この提案の前から何度か敬語が外れていたので意味があったのか、と言われると微妙であった。

「私は羽馬詩杏、よくシアンって呼ばれてるからそう呼んでくれるとわかりやすいかな。他は、ハネウマとか」
「はりま、うみ……あだ名って言われてもなかなか」
「光原灯夜…って、俺もやりにくい名前かな。 ……ミッツー、ないな絶対」
「アタシはシンプルにアカリとかアーちゃんとか。シアン先輩はシーちゃんとか……あれ?」
「それだとsea(海)ちゃんで僕のあだ名のようにもなるな……」
「いいんじゃないか? そうだほら栂原も……あれ?」

 意外に苦戦するあだ名作業に励んでいると、その最中に光原がこの場に四人のみ、つまりは彼の知り合いである栂原修(とがはら おさむ)が見当たらないことに気が付いた。
 彼の記憶が確かならば、確か三星と一緒に霧の中に行くときにはいたはずである。はて、何処に行ったのかと探すも辺りにそれらしき人影はいない。
 その様子を見て、羽馬が思いだしたように口を開く。

「——あぁ彼なら、暇だから図書室にでも行ってくるって言ってたよ」
「止めなかったんだ。まああいつが聞くとは思わないけど」
「大丈夫なの? オサム先輩そんなにつよそーに見えなかったけど」
「大丈夫だよ。
……少なくともあいつなら、固まって歩くよりかは生存率が高い」

 そう言って彼が向かったのであろう校舎を見やりため息を吐く光原。そこにあるのは信頼というよりかは呆れに近いのだろう。
 その様子を見て、内心心配していた播磨も警戒を解く。栂原と光原はこうなる前よりだいぶ親交があったことが読み取れていたからだ。
 しかし、仮にも能力者である4人を連れ歩くよりも安全というのはどういうことだ。そんな疑問が少なからず、他三人に湧きあがる。
 
「それは……能力のおかげかな?」

 三人を代表してか、はたまた自分が知りたいだけか。羽馬は反応をうかがいながら尋ねた。
 それに対し、光原は栂原に対しての呆れの表情を変えないまま、なんてことはないように返す。

「そう。栂原の奴は——脅威消却《キャンセリング》、他人の殺意を消す能力を持ってるんだってさ。と言っても……本人は半信半疑だったけど。学園の検査で分かってるんだから間違いないと思うよ」
「殺意を、ってそれ……!」
「この場なら、誰よりも生存に長けているのがアイツだよ」

 どうして栂原が碌に警戒もしていなかったのか、その理由が分かり播磨の顔は驚愕に染まる。どう考えても、殺し合いという場において殺意を消す……その能力の利便性は分かりやすいほどに強力だったからだ。
 それが味方、どう考えても自分はついているとさえ——、
 
「……さつい?」

 ……約一名、それを全く理解していない女子がいた。播磨はその様子を見て何とも言えない気持ちになり、本当に生き残れるのかが再び不安になる。
 光原もこのボケは予想外であり、呆気に取られた後にどうにか説明できないかと思考を巡らす。
 それらの様子を見た羽馬は笑いをこらえ、とりあえずは一旦拠点に戻ろうと促すのであった。



********
-前:>>5 「嘘つきと早退者」 1/13
-次:>>8 「嘘つきと早退者」 3/13

2018/07/21 一部描写追加、台詞追加。もっと大幅に変えたくもありますが、一応です。

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限2/9 更新】 ( No.7 )
日時: 2018/02/03 01:34
名前: ミサゴ (ID: t18iQb5n)

ついに始まりましたね。
更新楽しみにしています。

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限2/9 更新】 ( No.8 )
日時: 2018/02/14 21:50
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)
参照: http://感想返しはリク板にて

第一限「嘘つきと早退者」3/9


 一方その頃、脅威消却《キャンセリング》の持ち主、栂原はあてもなく校舎内をうろついていた。仮に校舎にたどり着く時間がもう少し早ければ、テンションの上がった新入生と教師のコンビに出くわしたのだがそれは知らない話である。
 彼自身、別に何の用があったわけではない。そもそも彼は殺しあいというゲームすら未だオリエンテーションのようなものだと思い込んでいる。
 何故そんなことを、と思うかもしれないが実のところ、彼はこの学園にやってきてまだ2か月と少し。日常が非日常へと移り変わり湧いた浮いた気分がまだまだ抜けていないのであった。
 故に、仮に時間制限が来たところで首輪もどうにかなるだろうという思考が前提にあり、恐らくは15人の中では一番精神的に落ち着いているのが彼だ。

 では、そんな彼は何故校舎に来たのかと言えば……羽馬に言った通り暇であったからだろう。霧の奥に進む危険な行動も、自分がやればよかったと思うほどに彼は暇だと感じていた、だから動いた。
 ただそれだけであった。

「……ん?」

 廊下の張り紙を適当にながめているとふと、二階にあるロッカールームが目に入った。なんのことはない、部活動にいそしむものが着替えをしたりする部屋だ。せいぜい校舎の規模に合わせて少々広く、頑丈になっているだけで、別に元の学校と何ら変わりない。
 だが、彼には一つだけ試してみたいことがあったことを思い出すきっかけにはなった。

「そういやこれ、使えんのかな?」

 無造作に灰色パーカーのポケットから一つ、彼は銀色の鍵を取り出した。それには小さく「008」と書かれたテープが張られている。恐らくはロッカーナンバーのことだと生徒ならばすぐにわかる。
 明らかにそれは、栂原の記憶にあるロッカールームの鍵に酷似していたが、なぜそれを持っているのかといえば、時間は少々巻き戻ることになる。





 それは、校舎でルール説明があった直ぐ後のこと。西軍の面々は緩い雰囲気のまま一旦各々の部屋、コテージに戻ることになった。皆放送に促されて出て来たため、髪をとかしていなかったり洗顔が不十分だったりと色々としたいことがあったからだ。
 五軒のうち、中央にあったのが播磨のコテージであったため、そこに集まることを決めて解散した。
 さて栂原はと言えば一つだけ、気になっている事があった。部屋の扉を開けるとすぐにベッドの下に首を伸ばし、その存在が依然としてそこにあることを確認して少し唸る。
 別に重要なものではない、男子ならば興味を持ってしかるべき遺物……そう、エロ本である。

 だが、これがここにあるということは少なくとも、この状況を作り出した存在は栂原がベッドの下にエロ本があることを知っていた訳だ。栂原はここに来て初めて精神的ダメージを受けた。ひどくしょーもない。
 そもそも、エロ本の存在を知っている黒幕なんて俗すぎて他の者が知ればあきれ果てる程である。
 さて、隠し場所が知られれば移さねばならない。部屋に設置されたスピーカーを恨みがましく睨みながら部屋を見回す。
 スピーカーがついているということ以外は全く変わらない自分の部屋だが……ふとテーブルに、見慣れない封筒が置かれていることに気が付いた。

「なんだこれ」

 つい隠す手を止め、その封筒を手に取る。何の変哲もない茶封筒には「栂原 修様へ」と「アンケート回答に対する報酬」とのみかかれていた。
 だが、栂原にはここ最近アンケートに答えた覚えなどないし、こんな封筒を受け取った覚えもない。だが報酬ならば悪いことはないだろう、軽い気持ちで雑に封を破り、中身を出す。
 中には、 

「……鍵? どっかでみた気がすんな」

 銀色の鍵が一つ、入っていた。
 その後、播磨のコテージで集合した後、報酬を渡されたのが自分だけではないということを知った。何故か、羽馬だけはその鍵が渡されていなかったのだが……。
 その際、運動部活動に所属していた三星がロッカールームの鍵ではないかと思いつき、ならばあとで向かおうかという話になったが……。

 ここまで来たら別に先に確認しても怒られはしないだろう、軽い気持ちで栂原はロッカールームの扉を開けようとした。
 そう、栂原のその行動は扉の変化によって成し遂げられなかった。

「……おや君は」
「お、どうもこんにちわ」

 栂原が開けるよりも早く、ロッカールームの扉が開いた。そこには一人、栂原が知る人物が立っていた。と言ってもお互い、顔を知っている程度の仲だったが。
 西軍でいえば三星よりかは黄色に近い赤の髪、朱色というのが正しいだろうそれは肩につくかつかない程度の長さで揺らめいている。目尻が大きく上がった翡翠の目は、前にいる栂原を隅から隅まで知り尽くそうとでもしているのか、全身を舐め回すようせわしなく動いていた。
 
「ええと確か、栂原修くんでよかったかな。僕の名前は——」
「深魅莉音(ふかみ りおん)……だっけか。覚えてるって、何回か表彰されてたし」

 彼女、深魅莉音はこちらに来て僅か1,2か月の彼でも知っているほどの有名人であった。
 美術部部長である彼女、描けば賞を取って当たり前と言われたほどの実力者だった。高等部2年であり実のところ同じクラスだった者との出会いは決して、栂原に警戒を与える材料にはならなかった。
 反対に、栂原自身は気が付いていなかったが、深魅にとってこの状況は決して良いものではなかったはずであった。
 彼女は女性であり文化部。その経歴からどう考えたとしても、敵軍である栂原の目の前にいて危険ではないわけがない。
 これもまた栂原のあずかり知らぬことではあるが、先ほど彼女は虎の子と言っていい程のものを手に入れることに成功していた……が、それを使ったところで確実に脅威を取り除けるかと言えば否であろう。
 だが、

「いやーまいっちまうよな。いきなり殺しあえなんて言われたってさぁ」
「そうだね、正直ずっと困惑しているよ」

 栂原の脅威消却は正常に作動していると言っていいだろう。決して身構えるわけでもなく、深魅は会話に応じた。仮に深魅に殺意があってもなくても、栂原にとっては意味のないことなのだ。
 気の抜けた発言に対しても一瞬間をおいて話し出す深魅、何かを考えているということは栂原も直ぐに察知、だが初めて話す人間だったということから「人見知りか?」と的外れな印象を抱いた。
 深魅はどう思ったのだろうか、ただ静かに彼の一挙一動に注意していた。
 そんな不思議な空気が少しの間だけ続き、うち破られる。

「ところでなにしてんだ? もしかしてそっちも鍵か?」
「……そうだね。うん、そういう君も鍵をもらってたんだ」
「——深魅先輩? 誰と話してるんです、かって……えーと栂原先輩でしたっけ。どうかしたんですか」

 そうこうしている内に、深魅と一緒に行動していた男子生徒がやってきたのだ。
 鴬崎霧架、栂原達よりかは1コ下の男はカメラ片手に、もう片方の手には何か重みが感じられる紙袋一つ握っていた。その様子からもわかる通り、まったく持って警戒していない。
 能力のせいか、それとも単に栂原に対し殺意を抱いていなかったのか。鴬崎もまた東軍であったが、明らかに一触即発の雰囲気を相手が出していないことに気が付き、危険度は低いと考えたのだろうか。
 深魅は後ろからやってきた後輩を目にした後に、小さく息を一つ吐く。そしてこれからどうするかと思考に入ったのだろうか、また黙る。
 が、無暗に今関わるべきではないと直ぐに判断を下したのか、鴬崎に目配せをしさっさとその場を後にしようとする。

「鴬崎くん、早かったね。いや、単に同級生のよしみでね……さてそろそろ皆の所に向かおうか」
「? はいわかったっす。そんじゃ栂原先輩さよならー」
「おーう」

 深魅はそのままさっさとロッカールームから離れていき、それに続いて鴬崎は陽気な声で、それでいて眉一つ動かさず。相反するような芸当をしながら去っていった。
 奇妙な後輩だ、そう小さく零しながら栂原はロッカールームの中を進んでいき、目当てのロッカーの前にたどり着く。

「00……6、7、8。これか」
 
 何の変哲もない、中に部活用具でも入ってそうなそれ。いったい何が入っているのか見当もつかない、まるで福袋を買った時のような感覚。
 一気に中身を見ては面白くない、鍵を開けてからもゆっくりと扉を引き……

「——なんだこりゃ」

 栂原はまた、気の抜けた声を出す。そしてふと、鴬崎が持っていた紙袋の中身にある程度の想像が付き……顔をしかめた。


********
-前:>>6 「嘘つきと早退者」 2/9
-次:>>9 「嘘つきと早退者」 4/9

※2/14 ロッカールームの階を間違えていたため修正しました。申し訳ございません。
三階→二階

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限3/9 更新】 ( No.9 )
日時: 2018/02/12 19:28
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)

第一限「嘘つきと早退者」4/9

-高等部校舎 図書室


 また少しだけ時は遡る。
 静かに清潔に、図書室は皆のものです。そんな事がかかれた張り紙をじっと見た後、彼女はそれを剥がした。
 別に裏に何か秘密のボタンだったり重要な書類などが隠されている、と踏んだわけではないだろう。
「……うん」

 それで何かわかるわけではない、では一体何故彼女はそれを剥がして見せたのか。もしかしたらそれは彼女にもわからなかったのかもしれない。
 そのまま剥がした紙をテーブルに投げ置いたかと思うと、近くにあった棚から一冊本を取り出した。背表紙に惹かれたのか、そのまま席に座って読み始める。
 さて……塚本ゆり、彼女は無所属、高等部1年……人となりを語るうえで重要な単語は「無口」と「マイペース」、決してコミュニケーション能力は高くはない。
 
「——いや、何してんだよ」

 少なくとも、目の前にいた東軍三人組を困惑させる程度にはそうだった。
 岩館なずな、伊与田エリーズ、千晴川八三雲、校内の探索をしていた彼女らは偶々図書室に人影を捉え、確認しに来たのであった。が、中にいたのは塚本一人。
 こんな状況であるにもかかわらず、図書室で本など読みふけるものか、少なくとも常識人のくくりに入る三人には全く理解ができなかった。
 事実、張り紙を剥がした際は何か仕掛けるのか、そう勘違いしてしまうほどに緊張していたたというのにこれである。邂逅してから2,3分続いた静粛、それを千晴川が破っても仕方のないことであった。

「……読書」
「いやそれはわかっけどさ」
「何言っても無駄だと思いますけどこーゆー人。我関せずって感じで、こっちが手を出さないと思って余裕こいてんですよ。まな板の上のコイなのに」
「なずなちゃん、あんまり乱暴な言葉は……」

 千晴川があまりのずぶとさに舌を巻いていると、岩館がその行動の無意味さを説いた。敵対勢力である塚本に対し、先輩であっても噛みついていくその姿からはルール説明の際、過呼吸気味になっていた少女とは到底思えない。
 それを見て元気になったことを喜ばしく思ったのか、言葉遣いを訂正しつつも伊与田は微笑んでいた。
 東軍は現在、入り口側を抑えている。つまりは逃走は容易であり、なおかつ数の利もある。例え今から塚本が急にやる気になったとしても、そこまで不利にはならないはずである。
 だが、だが……いくら岩館が辛口を叩いても反論一つせず、表情一つ変えない彼女を相手にすれば恐怖が沸き立つ。何故ここまで堂々としていられるのだ、と。
 いつの間にか圧倒されていた岩館は、伊与田の背中に隠れるように立ち位置を変えた。

「……塚本さん、前に座らせていただいても? 本を読んだままでも結構ですので……少しお話、聞いていただいてもよろしいかしら」
「…………構わない」
「それでは失礼して……」

 このまま立ち去る、というのも手の一つであっただろう。だが伊与田は敢えて対話を選んだ。いずれ殺しあう仲になる可能性から、塚本という人物を知ろうということなのか。それとも単に彼女が興味を持っただけなのか。
 少なくともその行動で千晴川と岩館は取り残され、お互いの目を合わせて伊与田の考えが読めないことを無言で通じ合うことになった。


「存在と時間……なにやら難しそうな本を読んでいられるのね」
「……哲学書、好きだから」
「そうなのね……」

 それからしばらく、伊与田から適当な話題を振られては2,3語で塚本が返す。父と娘のようなやり取りが行われた。哲学のどういったことに惹かれたのか、今読んでいるものは何について取り扱っているのか、逆に自分はこんなジャンルが好きだとか。
 ほんの少し眉を動かしたりなど表情の変化を見ることはできたが、やはり彼女の感情を読み取る事は叶わない。
 十数分経った後、塚本は突然立ち上がったかと思うとゆっくりと3人が視界内に入る様に移動し、やはり表情一つ変えずこう告げた。

「——塚本は断然強い。あなた達三人よりも」
「なっ……!」
「5人揃って、漸く対等。だからここでやってもいい」
「……」
「は、はん! どうせそんなの出鱈目よ、出鱈目……」

 唐突すぎた塚本の挑発。仮に彼女に脅えが見え、会ったばかりのタイミングでこんなことを言っていたら強がりだと一蹴出来た。だが今までの彼女の態度が、その発言に真実味を持たせた。
 余裕は強者故、表情をろくに変えなかったのはそもそも三人を対等な立ち位置と認識していないから。東軍三人の戦力を知る由もないはず彼女が、それでも自分が上だと言い切れるほどの自信がそこにある。
 岩館は直ぐにそれを信じきったようで、睨みつけながらも声に若干の震えがある。伊与田は笑顔が少し張り付いたものへと変わり、千晴川は次に彼女が何をするのか注意深く観察していた。

「けど、今はそんな気分じゃない。塚本は帰る」
「……えぇ、お元気で」

 塚本は読みかけの本、それと本棚から何冊か見繕い、それを手提げの鞄にしまい込むと堂々と出ていく。その通路には岩館と千晴川も立っていたが、塚本が近づくと自然に二人は道を譲った。
 彼女が図書室を出て言った後、岩館は大きく息を吐き、近くにあった椅子に座り込んだ。緊張の糸がほどけたのだろう。それに対し労いの言葉を伊与田は送る。

「態度を見るに強いんだろうとは思ったが、俺達3人より断然強いときたか! まいったなこりゃ」
「で、でも! はったりかもしれない、じゃ……ない」
「そこは断言してくんねーかな。まぁ確かにそんな雰囲気じゃなかったわな」
「ええ……きっと本当に強いんでしょうね。
——ところでなずなちゃん、もしかして……能力を使っていてくれたの?」
「え、あはい、ていっても全然効いた感じはなかったけど……」

 そう、実は岩館。ただ怯えているように見えてこっそりと仕事をしていたのであった。
 岩館の能力は決して派手なものではない、しかし決して弱いなんてものではない。少なくとも、本来今のような腹の探り合い、会話の場面であれば有用であるはずだった。

「心隅憂虞≪メランコリー・メランコリー≫、相手を不安にさせるんだっけか?」
「大まかに言えばそんな感じけどもっと条件が——」
「そうだ、忘れていた」
「っ!?」

 それは本当に3人とも気を抜いていた時である。塚本がまた図書室の扉を開け、顔だけひょっこりと出してきたのだ。
 岩館は驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになり、他二人もさっきの発言から警戒こそすれど突然すぎてまだ心構えができていない。
 これ幸いと、塚本は続けた。

「さっき西軍の人の話を立ち聞きした。東軍に襲撃かけるって、それじゃ」
「はっ!? ちょ、ちょっとまちなさ——ひぅ!?」

 聞き捨てならない、聞き捨ててはならない文言に思わず岩館はつかみかかろうと立ち上がり……突然の振動に大きく腰を抜かした。
 部屋全体、いやもっと言えば建物全体に走ったとも思えるほど響く音を出しながらも、揺れ自体短く、小さかった。その揺れに対し、八三雲はなんとなくであったが「上か?」と声を漏らした。

「……それじゃあ、塚本は忙しい」

 騒ぎに乗じるというべきか、元々帰ろうとしていた彼女は一瞬見上げたのち、さっさと部屋を出ていく。
 腰を抜かした岩館、それを起こそうとしていた伊与田はもちろん、振動に気を取られていた八三雲も、彼女を追いかける者はいなかった。
 今度こそ、塚本は図書室から離れていった。
 最大級の爆弾を一つ、置き去りにして……。



********
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Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限4/9 更新】 ( No.10 )
日時: 2018/02/10 10:57
名前: 日向 ◆ZnBI2EKkq. (ID: Ueli3f5k)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=image&file=6038.jpg

※つぉーれさん、urlにて応援絵を描かせていただきました( ˇωˇ )

参加者でもないのにコメントするのもな、と尻込みしていたのですが…この度はこちらこそありがとうございました。

私も過去に参加型小説を企画した事があるのですが、その時は案の定頓挫してしまいました;
多くの作者様から多くのオリキャラを責任もって預かり、納得のいく文章に著すことの大変さを中途半端ではありながら知っている身なので、素直に尊敬します。
恥ずかしながら、通俺さんの小説を1から拝読させていただいたのはこれが初めてです。
ここまでの小説全体を通して、簡潔でありながら躍動感のある文章を書かれるな、というのが私の持った印象でした。
各作者様の考えられた、全く由来の異なる個性的かつ濃いキャラクター像を過不足なくまとめあげる描写に思わず舌を巻きました。

丁度募集時期が私の出没時期とニアミスしており、キャラシを提出できなかったことが悔やまれます笑
まだまだ序盤ということですが、伏線展開や誰が生き残るのか、などこれからの更新が待ちきれません。
サポーターを抱きながらの執筆は大変でしょうが、お体に気を付けて活動されることを望みます。
心より、企画の成功完走を応援しております。


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