複雑・ファジー小説

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【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
日時: 2019/03/29 13:00
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989

——この戦争はきっと、ありふれていた 


*****
 はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
 今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
 

 詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
 
・世界観
 あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
 そんな学園で起きた、一つの事件。

・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。

 以上


・目次 
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46

-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
 >>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
 >>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25

・第二限「ゆびきり」
 >>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45

・第三限「終末世界のラブソング」
 >>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)

・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様 
-siyaruden様 宛 更新 12/17


・イラスト等について
 >>18
 こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。

 >>52
 感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!


・異能学園戦争参加者名簿

 東軍
・岩館 なずな  by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架   by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音  by siyarudenさん

 西軍
・三星 アカリ  by透さん
・播磨 海  byみかんさん
・栂原 修    by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏  by波坂さん

 無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央  by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯  by サニ。さん
・大當寺 亮平  by 黄色サボテンさん

・コメント随時募集中!

(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました

参加者のかんたんなプロフィール-第一限修了時編 ( No.26 )
日時: 2018/06/19 00:16
名前: 通俺 (ID: 2rTFGput)

・参加者のかんたんなプロフィール-第一限修了時編
(本編更新に応じて、少し変えたものを投稿します)

注意!
これは第一限 修了までのネタバレを含みます。
また、コメディ色が強いため気分を害する場合があります。

以上を了承する方のみ、お進みください。
 







あらすじ:
 殺し合いなどしたくない 幾田。教師である大當寺と組み校内探索を進める。
しかし成果は出ず、時間のみが消費されていく。時間制限が来れば、その場で全員の首輪が爆破するそうだ。
そうしてとうとう、西軍と東軍が激突。AI側から渡された少しの能力レポートを参考に、お互いの能力をぶつけたりしていき……?
 二人死亡。一人重傷



-東軍: 5生存 0死亡

・岩館 なずな(いわだて) :(女/中等部1年/13歳)
能力「心隅憂虞≪メランコリー・メランコリー≫」
--相手を不安にさせる能力だそうだが条件、効力などは不明
 だが本人のほうが精神的に不安定だと感じさせられるのはわざとだろうか。

・伊与田 エリーズ (いよた) :(女/高等部1年/16歳)
能力「???≪???≫」
--影からうねうねした触手を出し、使役している?
 一人殺した、致し方なかった。

・鴬崎 霧架(うぐいすざき きりか) :(男/高等部1年/16歳)
能力「???≪???≫」
--いまだ不明だが、西軍にレポートが渡っている。「回復が出来る」と
言われている。
 電気をつけて、間接的にだが人を殺した。

・千晴川 八三雲(ちはるがわ やみくも) :(男/高等部2年/17歳)
能力「驚愕暗転装置≪コンプリート・ダークネス≫」
--自身の周囲に光を通さない暗闇の半球を作り出す。西軍にレポートがある。
 大火傷を負い、現在行動不能

・深魅 莉音(ふかみ りおん) :女/高等部2年生/17歳)
能力「???≪???≫」
--不明だが、西軍にレポートあり
 銃で撃つ感覚を覚えた。

-西軍: 4生存 1死亡

・三星 アカリ(みほし) :(女/中等部2年/14歳)
能力「豪炎放射≪バーラスト≫」
--シンプルイズベスト、両手から橙色の火を出す。
 上手に焼けませんでした。

・播磨 海(はりま うみ) :(男/中等部3年/15歳)
能力「???≪???≫」
--不明だが……?
 守り切れず、目の前で人に大穴が開く光景を見てしまった。

・栂原 修(とがはら おさむ) :(男/高等部2年/17歳)
能力「脅威消却≪キャンセリング≫」
--自分が殺意、敵意が無い場合のみ、相手のそれも消す。
 最後に一緒に居てやれなかった。

・羽馬 詩杏(はば しあん) :(女/高等部3年/18歳)
能力「愉快な仲間達≪ユーモラスフレンズ≫」
--自分そっくりな容姿、装備の分身を生み出す
 左肩撃たれ負傷中。


-無所属: 4生存 1死亡

・幾田 卓(いくた すぐる) :(男/中等部1年/13歳)
能力「未判明?≪アンノウン≫」
--突然左腕からハサミが出た。未だ名称不定
 間に合わなかった、愚か者。

・榊原 伊央(さかきばら いお) :(女/中等部1年/13歳)
能力「色彩哀歌≪エレジー≫」
--音を操るらしいが……?
 籠城の構え、ただし吐くなど精神面でかなり不安定である。

・塚本 ゆり(つかもと) :(女/高等部1年/16歳)
能力「???≪???≫」
--不明、本人曰くとても強い
 本読んで帰った。

・鳥海 天戯(とりうみ あまぎ) :(女/高等部3年/18歳)
能力「溶血性漆黒病≪ペインツ・オブ・ブラックブラッド≫」
--黒い手で触ったら何でもとかしちゃうよ
 引きこもり、精神面ではとうに死んでいる。


*死亡済み

東軍:
・光原 灯夜(みつはら とうや) :(男/高等部2年/17歳)
能力「皇帝の覇道≪ロード・オブ・ロード≫」
-見下ろした相手を秒数に応じ、重力増加
 這い寄る物に気が付けなかった。

無所属:
・大當寺 亮平(だいとうじ りょうへい) :(男/国語教師/26歳)
能力「???≪???≫」
--生存能力特化だそう
 でも死んだ。

第二限「ゆびきり」 ( No.27 )
日時: 2018/04/12 22:42
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: dDbzX.2k)

第二限「ゆびきり」-1

-校庭

 日付は変わっていた。けれど、彼はいまだに動きを止めることしていない。
贖罪、何か行動を起こしていなければ彼は直ぐにつぶれてしまうから。だからといって、休まずに数刻も穴を掘るという行為を続けられるほどの体力がどこに残っていたのだろうか。
 始まりがいつからだったのかは定かではないが、もう少しすれば夜が明け始めるだろう。
 辺りは寝静まり、ただ土を掘る音のみが聞こえる校庭の端。
 一人、幾田卓は電気式のランタンを地べたにおいて作業を続けていた。

「……ちくしょう、ちくしょう」

 慣れぬ穴掘りもようやく終わりを迎えたようで、彼はショベルを杖に突いてまた後悔の言葉を出す。
 穴の数は二つ、長さとして二m届かない程度だが……人を埋めるには事足りる。深さは一m、異臭などの騒ぎが懸念されるほどの浅さ。それは彼の知識で思いつかなかった箇所なのだろう。仕方がない。
 自分が掘った穴の出来を見た後に、その近くにあった一つの遺体の横に腰を下ろす。
死体が放つ独特の臭いが彼の嗅覚を刺激し、自然と涙をこぼさせる。知的生命体ならば誰もが持つであろうし死への恐怖。それを経験させたということが辛い。

「──ごめんなさい、先生……!」

 無所属最初の犠牲者へ、大當寺亮平へ、亡骸と化した彼に幾度と詫びる。当然だが返事はない。
 不思議なことだ。屋上の電波塔を破壊して見せた彼が見せた屈強さ、それとは真逆。腹部に合った一つの刺し傷、傷口こそ荒れていたが……目立った外傷はそれだけだったというのに。
 たったそれだけで、幾田の心の支えとなっていた彼はこの世を去ったのだ。
 もし、少しだけ早く向かっていれば……少なくとも彼は死ななかったのではないだろうか。更に沸いた自身への憎悪。それは彼の左腕のほうへと向かう。

——左腕に浮かび上がる、巨大な銀色のハサミへ
「……なんなんだよ、これ」

 心なしか、赤みを増した痣。念じてみればそこから、長さ五十cm程のかなり巨大なハサミが浮き出る。銀色のそれは、外そうにも左腕にピタリとくっつき離れない。
 それが、彼の能力。触り降ろされたナイフを止め、土壇場で目を覚ましたモノ。
 開閉は意思による操作、または手動でも可能。擦れる金属音を鳴らし、決してまやかしの類ではないと自覚させた。
 このままであれば、ただ巨大なハサミを出現させる奇妙な能力で済んだ……だが、幾田のそれは終わらなかった……。思い出す必要すらない、脳裏に張り付いた記憶。

 呼吸が荒くなる、見たくないものに蓋をするため左腕のハサミを消した。

「はぁ、はぁ、あぁ……」

 寄りかかっていたショベルを土に刺したまま手を放す。
 彼は、右手で大當寺の首にゆっくりと触れて、そのまま両手で遺体を抱え込む。
 酷く冷たい訳でもない、かと言って人肌を感じられることもない。常温、それと同時に反発もしない肉の感覚。
 持ち運ぶときに何度も感じた、死体の重さに何度も手放しそうになっては掴みなおす。

 時間にして数分、幾田は大當寺を穴の底に寝かし立ち上がった。
 今まで呼吸を止めていたわけでもないのに、大きく息を吐く。
 そうして墓穴に眠る彼を見た。瞼を閉じたまま、口が半開きになっている。閉じようとしたが、固まって動かせなかった箇所だ。

「……」

 幾田はショベルを再び手に取る。そうして少しばかり土を掘り、遺体に掛けていく。足、腰、胸……ゆっくり、ゆっくりと上っていく。
 無論、顔にかけた際には彼の口の中に土が入った。
 だが、大當寺は身じろぎ一つしない。
 改めて、死体になるということを理解した。
 
「──っ」

 自分もいずれこうなるのか。

 むしろお前がこうなるべきだっただろう。

 死への恐怖と罪の意識が加速し、既に空だったはずの胃から何かがこみ上げる。
 左手で抑え、必死に飲み込んだ。
 吐いている場合ではない、そんなことは許されない。呪いにも等しい義務感によってそれを制し、埋める作業を再開した。
 ──丁度、穴が完全に埋まった頃だった。

『殊勝ですね、辛いのならば放っておけばいいのに』
「ッ、その声っ」
 
 機械音声が、近くにあったスピーカ—より流れ出た。AIだ。
 音量が小さく辺りで反響する音が聞こえない辺り、そのスピーカーしか起動していない。幾田にだけ話しかけているのだろう。
 朝の説明と、夜の発表の時以外はアンテナを壊す時にさえ無反応だったそれがなぜ今。そう疑問に思う前に音声は続ける。

『えぇ、AIです。幾田卓、死体のお片付けご苦労様です。そして、能力の覚醒……おめでとうございます』
「——片、付け……?」
『えぇ、そうでしょう。穴が二つあるということは、この後に校内へ光原灯夜の死体を回収しに行くのでしょう? こちらの手間を削っていただいて、酷くありがたいものですよ。
そんな貴方に報酬と……少しばかりの助言を」

 今までのどの発言よりも、AIの言葉には抑揚が付いていた気がした。だがそんなことより、彼はAIの死体を物とする発言が気に障った。
 そもそも、お前がこんなふざけた場を用意しなければ……。
 これ以上ふざけたことを口にさせない。彼はショベルを構え、スピーカーに投げつけるため直ぐに振りかぶる。

「ぶっこわれ——」
『いいんですか、 折角"奪った能力"の使い方を知らないままで』
「っ!」

 石化したかのように、幾田の体の動きが止まる。
 監視カメラの類はなかったが、見られていた。誰に告白する勇気もなかった事実、AIは知っていた。

『ハサミ、それで死体から——能力を切り取りましたね。傷一つ作らず、見事なお手前だったかと思います』
「ち、違う! 体が勝手に、いきなりハサミが出てきて……!」

 無能が故に素晴らしい人を失い、能を得て死体すらも侮辱した。
 その罪を指摘され、彼はしどろもどろになりながら弁解する。

『責めていません、殺し合いを認めたこの学園でいまさら何をしたところで……。ですが、一番多く動き、声を上げる必要のある者である貴方は知る必要があるでしょう。
なによりあの教師の理想……犠牲者を出さずに終わる、でしたか? 既に不可能となりましたが、まだ13人生きています』

 そこに付け入り、AIは畳みかける。
 彼がもう少し冷静であれば、殺し合いを提唱する存在が教える意味はと考えたかもしれない。
 だが現実、彼は何度も蘇る光景を振り払うことに必死になっていて気が付けない。
 半ば狂乱状態となった幾田に、AIは冷たい言葉を注ぎ込む。

『出来るものならば、殺し合いを止めてみなさい。折角、動き続けられるチカラを手に入れたのですから。理想を持って死んだ者の能力、それすら役に立てず死に絶えたいというなら話は別ですが』
「……」

 ショベルはいつの間にか地に落ち、彼は口を閉ざし俯いた。 

『……では彼の能力の名前から、再起動≪ハードワーカー≫と言って——』

 足元のランタンが照らす弱い光の中、幾田はしゃがみ込む。
 耳をふさぎたい、だが奪ってしまったものを持ち腐れたら……相反する気持ちにどうしたらいいかわからなくなり、ただただ彼はその言葉を聞くことしかできなかった。
 使い方、注意事項、余りに親切すぎる対応は生存の大當寺のことを想像させた。

 それから数時間ほどたち、夜は明けた。
 しかし彼の心はより一層深く、深く沈み捻じれていくのみであった。


********

-前:>>22 第一限「嘘つきと早退者」 9/9 下
  >>25 休みの時間「死に至る病」
-次:>>28 「ゆびきり」-2 

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-1 更新】 ( No.28 )
日時: 2018/04/27 19:25
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: 2rTFGput)
参照: http://明日忙しいので

第二限「ゆびきり」-2

-西軍、播磨海のコテージ


 一夜が過ぎた。朝が来たが、皆碌な目覚めを迎えなかったのは確かだろう。
 中には一睡もできなかった、なんて人物もいたかもしれない。
 そして彼らはまた同じように、播磨の部屋に集まっていた。

「——深呼吸をする度、軽い切り傷や疲労、少し不安定になった精神程度なら瞬時に回復。本人はそれを生かし何日も起きたまま働き続ける、まさしく再起動≪ハードワーカー≫の名前がふさわしい。
……結構、大當寺先生は生き残ると思ってたんだけど」

 そう言って、羽馬は大當寺亮平の名前が刻まれた能力レポートを机に置く。もう使うことはないだろう知識をいつまでも持っておく意味はない。
 四つ得たレポートの内、既に一人が死人で、残るは東軍三枚。無所属に対しての情報が少ないか、と彼女は思ったに違いない。鳥海の溶血性漆黒病≪ペインツ・オブ・ブラックブラッド≫、榊原の名前と詳細は不明だが音関係で暴走の危険性がある能力。
 残る二つはなんだ、そう思うのはごく自然なことだっただろうから。 

「さて、そんな彼の死亡を知らせてくれたのは無所属の……幾田君。だったよね?」
「はい。血まみれでいきなり入ってきて、あと左腕に大っきなハサミが生えてて……」
「ハサミ……か、特殊能力なしだと分かりやすくていいんだけど」
「……」

 昨日集まった時のムードとは正反対、部屋に入っても軽口一つも言わずにうつ向くばかり。
 頭数は一人減っての四人、負傷者も一人。無事な三人の内男子二人は俯いていて碌に言葉も発していない。
 負傷者であるはずの羽馬が話を振っても反応は鈍い。特に……播磨は今は何も耳に入らないという振る舞いだ。
 羽馬は叱るべきか、と考えたが彼の辛さを推し量るとどうしても口先が閉じてしまっていた。
 
 だがしばらく話を進めている内に、播磨が姿勢を正す。
 どうやら、何か言いたいことがあるようだと気づいた三人は会話を止めた。

「……栂原さん、僕——」
「いーい、言わなくていーよ」

 彼がゆっくりと口を開きかけた時、栂原は直ぐにそれを止めた。
 謝りの言葉が続くのが分かったからこそ、栂原はそれを言わせたくはなかった。
 それでも、少年は止められなかった。申し訳なかった。
 仮にも近接戦闘において最強の一角に立つ彼がとどめを刺しに向かえば……そんな後悔。
 その断言は決して驕りから来るものではなく、播磨が持つ『能力』によるもの。
 当然、周りの三人も彼の持つ能力は知らされているし、もしかしたらと考えはついているだろう。
 けれど、栂原はその後悔がお門違い、場違いのものだと思っていた。

「でも、僕がもっと注意を払ってれば……!」
「それ言うなら灯夜も同じだって。むしろ年上はアイツだったんだからさ……」

 けれど今更気にしたところでしょうがないし、そもそも彼がそこまで気負うものでもないということだろう。
 上級生は、光原だった。播磨は命じられた通り前衛として影の猛攻を防ぎ切った。
 そんな彼を責めてもしょうがない。
 それもまた、播磨を除く西軍の共通見解。
 少年の罪は薄いと、栂原は励まそうとする。
 だが、

「それに、そんなこと言うならなら俺が付いてれば、とかになるって。結局のところ、あと少しで油断した灯夜がわる、い……ったく」

 栂原は言い切ろうとして不意に、脳裏に友人としての光原が浮かんだ。一夜を越して、乗り越えたられたと思っていた感情が再浮上する。
 愛想笑いが多く、本気で笑うことは少ない人物だった。
 栂原が入学してから直ぐに話しかけた人物だったが、真に打ち解けたのはその二週間後だった。そこからおよそ一か月と少し、この殺し合いに巻き込まれるまでの日数はたったそれだけ。

 だがしかし、光原灯夜は確かに栂原の友達だった。何かとお節介が好きで、口では面倒事は嫌いだとのたまう。薄い人付き合いをしているように見せかけて、其の実人をよく見ていた。
 素直に気持ちを出せない彼の、友達だったのだ。
 このおかしな世界の中で、彼の人となりをよく知っていたのは、栂原だけであった。同時に、栂原の事をよく知っているのも彼だけだった。
 そんな大切な人物を喪失した悲しみ。

「……そうだな。悪いのは、俺か」

 友を失ったのは、自分がいまいち本気になれなかったせいだと栂原は思い至る。
 もっと早く異変に気が付き、下に降りていれば……それかそもそも友の意見を聞かずに着いて行けばよかった。その思いがあった。

「っ、違います! 僕が——」

 彼の自責に、播磨は我慢できずにまた懺悔の思いを……、言う前に一つの音が場を鎮めた。それは手と手を合わせるだけで簡単に響く音、拍手。
 
「はい、おしまい! ウミ先輩もオサム先輩も、そうやって落ち込んでる暇はない、ですよねシーちゃん先輩!」
「……うん、意見のぶつかり合いもいいとは思うけど、このまま平行線やられるのは勘弁願いたいな。まだまだやることはあるし、後悔しているなら次に生かそう」
「そうです!」

 手を叩いたのは三星。それに続いて、羽馬が二人をたしなめる。彼女たちの声は少々わざとらしくも明るいものになっていた。
 その際彼女の左肩に痛みが走ったのか、少しだけ顔を歪めたが直ぐに元の微笑みに戻った。
 その変化に気が付き、三星は心配する。

「シアン先輩、やっぱり肩がまだ……」
「ははは、大丈夫だよ。左腕に力は入らないけど……アカリちゃんのおかげで血も止まったからね」

 そう語り、包帯を巻いている肩を自慢げに見せた。問題ないと言いたいのだろうが、その痛々しさに栂原達は息をのむ。
 幸いにして彼女は当たり所がよかった。肩の肉がえぐられた影響か左肩に力が入りづらく、時折激痛が走る……だけですんでいた。
 そんな彼女の顔色が悪いのは、止血をするまでにしばらく血を流しすぎたせいだ。
 動く分には影響は微小なものだが、気分もかなり悪くなっているだろう。

「けど、愉快な仲間達≪ユーモラス・フレンズ≫は私の状態をコピーするから……つまり分身たちも左腕は使えなくなった。それで……栂原くんの脅威消却≪キャンセリング≫は使えそうかな?」
「……多分だけど、東軍の奴らみたら自信がねーなー」
「つまりは私たちは現在、戦力が大幅にダウンしている状態なんだよ。無所属は4人、西軍も4人いるけど能力に不備が出たのが二名、しかも一人は怪我人だから実質三人ぐらいかもね。
人手の数で言えば、かなり危ない場面だよ」
「……ヤミクモ先輩は大火傷にしたけど、多分回復されてるよね。回復役がいるのずるい……」

三星はそう言って、ファイルから一枚の紙を取り出す。東軍、鶯崎の名前が書かれた能力レポートだ。
 そこには見出しとして能力の名前、皆乍回復≪リザレクション≫。後ろに文字から想定される通り、回復系統の能力者。
 怪我人の状態によって能力者の消耗も変化するというデメリットが記されているが、まさか回復しないという選択肢はないだろう。千晴川の復帰は確実だ。
 東軍は生存五人、鴬崎が代償としてダウンしても四人。次に東軍が襲撃してくれば、西軍が押し負ける可能性がとても高い。
 その現実を認識した西軍には、生存戦略を立てる必要があった。
 悲しみの感情をひとまず他所に置くことが出来た栂原も参加し、議論を進めていく。

「俺が東軍なら、今のうちに数の差で西軍をつぶしに行くな……。
それで、どうするってんだ? 東軍の奴らを闇討ちして各個撃破、とかか?」
「理想としてはそれがいい、けど流石にあっちも警戒するだろうね。少なくとも一人になる、なんてことは絶対にしないはずだ」
「うーん……あ、シーちゃん先輩が言いたいこと分かりました!
たぶん——」

 三星が閃いたとばかりに手を挙げる。だが同時に、播磨がまた黙りこくっていたことに気が付き彼の顔を見る。
 気持ちは分かる、三星も直ぐ近くで人が撃たれた時は衝撃を受けたし、止血の処置をする際にした事は彼女のトラウマになりかねない。
 けれど、その空気を抱えたままではまずいのだ。勝負は——殺し合いはまだ始まったばかり、へこんでなんていられない。
 
「ウミ先輩! 次にいかせって言われたじゃないですか、そんなにウジウジしない」
「……わかっているよアカリさん。けど、僕は結局光原さんを守り切れなかった。それが……」

 立ち直らなければならない、それは播磨も分かっている。普段ならば大失敗した後でも負けるものか、と奮起……或いはその場面で戦うことを諦め別の事で勝てないかと模索するのが彼だ。
 しかし、命が失われた。同時に、彼からは自信に近い何かが失われていた。
 守り切れなかった。仕留め切ったと気を抜いてさえいなければ間に合った。その事実が何度も彼を責め立てている。
 三星は何となくそれが分かっても、どう言えばいいのかが分からない。勢いで播磨にきつく当たってしまった、完全な見切り発車。
 
「——なら、海君の次のミッションはアカリちゃんの護衛で」
「えっ?」

 このまま空気が悪くなっていくのかと思われたが、羽馬が助け舟を出した。
 自信が失われてるのなら、出来る事からコツコツと。彼の能力を高く買っているからこそ、ここでつぶれてもらう訳にはいかない。
 完全に復帰することが難しくても、仕事を与えれば少なくとも考えが紛れるだろうと思ったのかもしれない。
 三星も別に拒否する理由がなくそれに乗る。
 突然の事に驚き、暗かった表情が一転困惑に変わったのを見て、畳みかけるべきだと思ったのだろうか。

「えーと、じゃあよろしくおねがいしますウミ先輩!」
「いや、頼むって言われても……そもそも護衛って。作戦もそうですけど、今日はまず校舎に光原さんの遺体を迎えに……」
「いや、勿論そうだけど。それが終わった後に二手に分かれる可能性が高いからね」
「二手……?」

 ますます意味が分からないと播磨、ついで栂原も困惑する。この状況下で二手に分かれて、いったい何をするというのか。食料などの調達……にしても分かれる必要はない。
 播磨が三星につくというなら、羽馬は自分と……先ほどまでは人手が足りないと話をしていた。
 まさか、と先に気が付いたのは栂原だ。

「まさか詩杏、あんた——」
「そう、西軍として無所属に……一時休戦を持ちかけよう。東軍を倒すまでは協力しあおうって、かなり可能性は低いけど……生存戦略としてやるしかないと思う」

 と、いう訳で修君は私と一緒だ。よろしく頼むよ。
 彼女は上がらぬ肩を庇いながら、彼に笑いかけた。



********

-前:>>27 「ゆびきり」-1
-次:>>29 「ゆびきり」-3 

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-2 更新】 ( No.29 )
日時: 2018/04/20 19:39
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: AwQOoMhg)
参照: http://投稿する前に全部変えたくなる衝動

第二限「ゆびきり」-3


-東軍、岩館なずなのコテージ


 西軍が危機感から同盟を組もうとするのに対し、東軍の動きはどうか。
 自陣営からは死人が出なかった、ということが彼らの緊張感を鈍らせたか。そんなわけがない、彼らもまた、これからの動きを決めるためにと会議を行っていた。
 そして、西軍の沈んでいた空気とはまた違い、困惑。その場にいた三人は、多少なりともそれを抱いたことは間違いない。
 三人──鴬崎、深魅、岩館達は自分たちに冷たいお茶の入ったコップを差し出してくる黒い触手をどうすればいいか迷っていた。

「ど。どうも……あ、おいしい。
ありがとう……しょ、触手さん? でいいですか、リズ先輩?」
「えぇ、特に名前もありませんし……お好きにどうぞ?」

 最初に動いたのは岩館だ。恐れつつも、コップを受け取り口をつける。
 一瞬だけ走る微かな苦み、そこへ流れ込む優しい甘さに思わず口元が緩む。ミルクの甘さはどうしてこうも精神を落ち着かせてくれるのか。
 影から湧き出す触手すらも……流石にまだ受け入れずらい、だが余裕は生まれた。伊与田を愛称で呼びつつ触手さん、その呼称正しいのか確認できる程に。 

「牛乳、勝手に使ってしまったけど……大丈夫でした?」
「な、なんかすみません。あたしあんまり淹れたことなくて……封切ってないやつだったのに、あんなに苦くなるなんて」

 千晴川の部屋が使えなくなり、東軍は岩館の部屋に集まることになった。彼女は大慌てで人が来てもいいよう準備を整えた。散らかっていた物を物置に詰め込み、ペットボトルのお茶は出せまいと何かないか探した。
 すると、別に飲むわけでもないが安かったので買い、仕舞っていた紅茶のパックがあった。これ幸いと淹れて……失敗し、伊与田によって少し苦みがあるミルクティーに生まれ変わった。
 以上が本日の朝から起きた事件である。

「私も、最初は似たようなものでしたから……。パックでも……浸しすぎると苦味が出てしまいます」
「なるほど、勉強になります」

 岩館の言葉に満足したのか、他二人にカップを渡すと触手はそのまま伊与田の影の中へと溶けていく。
 その光景を見届け、深魅はポツリとつぶやく。

「未知数領域・反転旭暉≪テネブル・タンタキュル≫、……ピッタリな名前だね」
「あら、ありがとうございます。芸術方面の人に褒められると少々不思議な気分になりますね」
「ふふ、芸術方面って言ってもネーミングの方は微妙でね……僕なんて、具現の画伯≪イマジネーション・アーティスト≫だよ。ちょっと直接的過ぎたかな、なんて」
「そんなこと言ったらー……俺なんて皆乍回復≪リザレクション≫ですよ? ゲーム単語引っ張り出した奴で──」
「……?」

 しばし落ち着いた心は、仲間たちの楽し気な会話によって更に……とはいかない。少女は、肌がヒリヒリと荒れる感覚を覚えた。
 もしや、声色こそ笑っているが心からは……という人物がこの中にいるのだろうか。そう疑問に思っても、誰がその人なのかはさっぱりだと岩館は気にするのを止めた。
 昨日まではこんな団結すらなかったのだ、態々荒らす必要もないと判断したのかもしれない。
 もう一度ミルクティーを口に含み、言葉を飲み込んだ。
 
「──それで、これからどうするんだい、っとと」
「うぉっと、大丈夫っすか?」
「ごめんごめん、ちょっと寝不足でね」

 意外にも一番早くコップを空にしたのは深魅だった。
 彼女はそのまま器を床に置き、座布団の上で姿勢を直す。その際に、体の揺れが不自然に大きくなり崩れ、近くにいた鴬崎に寄りかかってしまう。
 鴬崎も避けるわけにはいかず、その体重を受け止める。
 彼女は直ぐに体制を立て直す。だが改めて観察すると、彼女はどこかフラフラしているように見えた。
 こんな状況だ、熟睡できるほどの神経は持っていない。他三人も普段と比べればかなり寝が浅かった、彼女はもっと酷かったのか。そう同情しつつ、話を進める。

「ええと……これからについてでしたね。まず……今の状況を整理します」

 正座を崩した形で、伊与田はじっくりと記憶を反芻していく。

「昨夜の時点で二人……。大當寺先生と、光原さんが死亡しました。対してこちらは負傷者が一人出ましたが……一命はとりとめています」
「西軍に治癒系統の能力者が居なければ、羽馬さんは左肩を負傷したままかな。あーけど分身出せたね彼女……そこまで戦力減ってないかな?」
「どうすかね、分身の詳細にも寄りますし……。まあそれはそれとして、生存者の数では確かに勝ってますね」
「えっと、三星先輩が炎。羽馬先輩が分身、播磨先輩はやたら強かったから身体能力系統……?」

 今一番勢力が大きいのは、生存者の数からいって東軍。強敵と思われていた大當寺が消えた、つまり彼を殺せる何者かがこの学園にいるということになるが……。
 塚本の発言。西軍は東軍への襲撃を考えている、という言葉がいまだに伊与田の頭の中を過る。
 殺すつもりはなかったが、偶々殺してしまったのか。と言えば、違うと叫ぶ者が居た。
 五人相手でも同等だと言って見せた塚本でも、悪評纏う鳥海でもない。
 
 二つの勢力のぶつかり合いに介入してきた少年。
 
「偶発的ではない。彼の証言が正しければ……ですが」
「幾田君かい? あれは嘘をつけるって感じじゃあなかったと思うな。心ここにあらず、とはまた違うけど……形相は必死そのものだった」

 光原を殺した後、停戦を訴えるためやってきた幾田。間に合わなかったことで動揺したのか、聞けばある程度の事は教えてくれた。それにより、東軍は大當寺死亡の詳しい情報を得ている。
 呆然としている播磨を連れ、栂原達は直ぐ離脱したため、西軍はあまり得ていないだろう物だ。
 いつ頃死んだのか、どうやって、場所は、全てが彼の視点と言う危うさはあるが。

「大當寺先生は部屋で死んでいた、傷は腹部に一か所。血は死体中心で、玄関から引きずった跡はあるものの、コテージの外には続いていない……扉開けた瞬間グサッと、かなー」
「即死ってやつですか?」
「ショック死かも、いや死体見ても分からないだろうけどさ」

 保健委員の経験があれば、と鴬崎に注目が集まる。しかし彼はそれをやんわりと否定した。
 
「西軍がやるなら、まだ能力が予想もつかない栂原先輩を抜いても……そんな状況になるなら作戦を組んでいたと考えるのが自然すね」
「東軍を襲撃する予定を立てつつ……先生も? 少々無理があるような」
「……うーん、けどそうなるといよいよ犯人が無所属の塚本さん、あとさか──」
「伊央ちゃんにはできません! あ、ごめんなさい……」

 殺人の疑いを友人に掛けられてはたまらない、岩館は深魅に食って掛かり……直ぐに謝った。
 深魅は一瞬目を見開き、驚いた表情をした後に目をこする。どうやらいい眠気覚ましになったようだ。
 話が逸れていた、現状の把握に努めるべきで真相の解明は二の次だ。

「いいよいいよ……答えなんて出ないし、このことはひとまず考えないでおくよ。
首輪のリミットまではあと一日以上あるし、流石に連日のぶつかり合いはないかな……?」
「なら、衛材とか食料の補充したいんで購買棟に向かいたいっすね。特にガーゼとか消毒液とか。部屋に合った備蓄使い切っちゃったんで」

 鴬崎が要望を告げる。備蓄を使い切った原因は……今ここにはいない千晴川のためだというのは岩館もすぐにわかる。
 三星との戦闘で、大火傷を負い現在は部屋で寝込んでいるというのも知っている。
 しかし、伊与田に庇われたのか岩館はその状況を目で確認することができていない。

「……そんなに酷いんですか?」
「──あー、うん。下半身は比較的平気だけど、上半身。特に首から上あたりが火傷まみれなんで……直ぐに死にはしないだろうけど、痛覚が残ってるのかずっと呻いてる」

 彼は、答えていいのか軽く伊与田達を伺い、正直に答える。
 岩館はその状況を想像し、顔を顰めるが……同時に、鴬崎の皆乍回復でどうにかできないのかと考える。その疑問に答えるべく、直ぐに鴬崎は補足する。

「えっと、昨日も言ったと思うんだけど皆乍回復は無制限にできるってわけじゃーない。対象の症状が酷くなればなるほど力も体力も多く使うし、効力も落ちるんだよね。
……今千晴川先輩に使うとすると多分、一日近くは動けなくなるかな。その結果も、なんとか動けるってレベルだろうし。今やるべきならやるけど……」
「──今はそうすべきじゃあない。一人動けなくなって、一人は重病人のまま……だとね」
「……それに、鴬崎さんの"奥の手"を失うのは」

 だから、千晴川の苦しみは放置するしかない。
 彼らは暗にそう言っていた。岩館は罪悪感を感じたものの、尊敬し始めていた伊与田の「奥の手」というワードで自分を納得させた。
 西軍の思惑とは別に、彼らが四人で会議をしていた理由はそこにあった。能力レポートでその力の殆どを把握していながらも、「それをしたら自分たちが回復できない」と言う意見で治さない、そんな結論が出るとは思わなかったのだろう。
 コクコクと彼女は頷いた。

「では……鴬崎さんの案で行きましょう。ひと先ずは食料と衛材を取りに購買棟へ」
「あっ、出来ればいいんだけど美術室で作業したいから校舎を通して──」

 別に放置するわけでもない、彼の力が必要になれば直ぐに能力を使うだろう。判断するには早すぎるから、薄情に見えたかもしれないが……それが彼女らなりの生存戦略であった。



********

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Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-3 更新】 ( No.30 )
日時: 2018/04/23 16:30
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: AwQOoMhg)

第二限「ゆびきり」-4

-校舎一階・玄関前


 両軍の会議が始まる前にまで時間は遡る。
 事は済んだ。想定外の事が起きてはいたが……それでも、問題はないだろう。幾田はそう結論付けて、校舎を出た。

「(……西軍の人たちがもう迎えに来てたのか? まぁでも、うん……俺に埋められるよりかは全然ましだろうな)」

 結果だけを言えば、光原灯夜の死体はすでに消えていた。廊下には血だまりのみが残され、どこに引きずった跡もなかった。台車でも使ったのだろうか。
 死体を埋めることに感謝を示していたAIの話し方からするに、あちら側の仕業ではないだろう。
 では、無所属か、東軍か……死体を使った能力があるとは考えづらく、必要性も感じ取れない。
 ならば西軍しかない。一度撤退したかに見えた彼らが、幾田が大當寺の死体と穴掘りに掛かり切っている間に戻ってきたのだろう。そう推測するしかない。
 じゃあ、次は……そう思考に入った時だ。
 AIの言葉の最後──アドバイスとやらがリフレインする。

『お暇になったら一度、自室に戻るといいでしょう。意外な発見があると思いますよ』
「……」

 それに乗れば、AIの掌だというのは分かっている。しかし、しかし……気になってしまう。何がある、何を見つけさせる気なんだ。
 そして、それを無視した時……結果的に悪くなってしまうんじゃないだろうか。

 彼の死体を運ぶということが無くなった以上、もう血だらけの服でさまよう必要はなくなった。着替えに、体を洗うには最適なタイミングともいえる。
 見た目もともかく、血が固まって来たためか非常に動きづらくなってきていた。異臭もするだろう……誰かと協力をしないといけなくなった時、勘違いされる恐れもある。
  
 彼は、自分のコテージの方を向いて歩きだす。シャワーでも何でも浴びて、服を着替えたらさっさと戻って来る。
 例え、部屋に何が隠されていようがいまいが、関係ない。そう強く誓って。

 ……直ぐに、意外な発見とやらは見つかった。けれどそれが何を意味するのか、彼には全くと言っていいほどわからなかった。




 走り、走って戻ってくる。タンスから出した真新しいシャツの上に、前のとよく似たパーカーを羽織り、そこに立っていた。
 深呼吸を今一度、大きく息を腹に詰め込んで駄目な自分を吐き出す。
 精神,体力回復……再起動≪ハード・ワーカー≫の発動条件だ。

──それじゃあ今は空っぽだな

 不意に沸いた自責の言葉を鎮める為に、またも深呼吸を一つ。碌な減速もせず、急に立ち止まって吸ったことで腹部に痛みが走ったが……その程度はもはや彼を戒めるための要素でしかない。
 気分が高みに向かう傾向を感じ取る。だが同時に、その効力は真に誰が恩恵に預かるものだったのか……地の底に沈める力が働き、プラスに働いたかもわからない。
 どうせ、幾田は心に深い傷を負っているのだ。浅い部分だけでも変化がもうなくなれば上々
と言えた。

「……ふぅ」

 幾田卓は、今度こそ事を成さねばいけない。AIに言われたから、という訳ではないが……再起動を使いこなし、彼が望んだであろう生徒同士の争いを止める。
 その為にも、悲しき犠牲で生まれた二日の猶予で黒幕を探し当て、捕らえる。
 では、一体全体黒幕はどこに潜んでいる。自室で着替えをしている途中も考えたが、皆目見当がつかなかった。

「(この空間自体か能力の産物なら……そもそもいない可能性すらあるのか……!?)」

 幾田は能力に精通しているわけではない。AIの放送からいつの間にか管理者がどこかに居ると思い込んでいた節があったが、仮に思考の通りだとすればもはや抗う術はない。

「違う、違う……きっと、なにかある」

 それを否定し、幾田は首を振った。
 もしそうであれば、救いがない。大當寺の思いは、努力が無駄になる。あると信じて、走り回るしかない。
 まずは、この学園内で昨日と変化がある場所がないか、本当に全部探したのか怪しくないところも徹底的にチェックする。能力で出来た物ならば、どこに隠し扉の類が存在していても不思議ではない。

「そういやこれ……」

 幾田はポケットから一つ、銀色の鍵を取り出した。
 気が動転していて全く気が付かなかった、初日からテーブルの上に置かれていただろう封筒。それを漸く彼は見つけたのであった。
 間違いなく、校舎にあるロッカールームの鍵。それを使えば参加者の誰かの能力レポートが手に入り、もっと運が良ければ……東軍の様に重火器を手にすることも出来る。
 当然、彼もまたロッカールームに立ち寄りレポートを直ぐに手に入れる……訳にはいかない。

「どこに使えるんだ……」

 入学してからの日数は栂原といい勝負、部活に所属もしていない彼。それがロッカールームの鍵だとは少しも気が付いていない。
 ロッカールームは大當寺と一緒に探索こそしたが、当時はまだ誰も開けていない時である。
 開かない場所が数か所であれば怪しみ、無理にでもこじ開けたかもしれないが……全てに鍵がかかっていれば流石にどうにもならなかった。

「取り敢えず、片っ端から刺そう」

 そんな非効率かつ頭が悪い作戦が打ち立てられたが……これしかないと思ったのだから仕方がない。
 「もっとやっていれば」、そんな後悔を消しておきたい、幾田はそう思ったのだろうか。鍵をフードの横ポケットに仕舞いなおし、校舎に入っていった。

 また同じように、怪しい箇所が見つかった。昨日の探索との相違点が一階にあったというのもあるが……やはり視覚的違いだったのが大きいのだろう。
 図書室の本棚の欠け、そして──

「美術室の鍵が、無い?」

 鍵ケースに校舎内、あるいは野球場などの施設の鍵が掛けられているのに、どうしてかそれだけがない。いや正確に言えば昨日、大當寺が取り出して行ったのだろう屋上の鍵もないのだが。
 酷く、怪しい。
 昨日の探索の時点では美術室は開いていた。誰かが美術室に用事があって、持って行ったのか。だとしたら何のためにだ。
 今この校舎で一番に探索すべき場所が決まった瞬間だった。





 美術室は校舎の二階、階段を駆け上がれば迷う必要もない。昨日は簡単に開き、中には価値もよく分からない美術品や画材などが置いてあった。
 しかし案の定と言えるが、扉は閉まっていた。誰かが鍵をかけたようだ。
 何度かガチャガチャと揺らし、確かめるがビクともしない。中々に頑丈なようだ。

「……絶対、なんかありそうだなこれ」

 扉のガラス部分から覗いてみても、何も変わらない部屋が映るのみ。いや、もしかしたら物の配置が換わっているのかもしれないが……少なくとも今は分からない。
 流石にAIが潜んでいる、とは思わないが何かを隠していると疑うのは当然だろう。
 幾田達が衛生材料売り場から見つけた武器類を自室に持っていったように。しかしその前例を考えれば、増々これが自室ではない意味が分からない。
 彼は試しに銀の鍵を入れてみるが、勿論合うことはない。

 気になる、見過ごさない方がいい気がする。そう思った時、自然と左腕の痣から銀色のハサミが浮かび上がった。
 ── 一見、今は袖に張り付いているように見える。だが服を脱げば今度は自然に腕に張り付くのだから何とも不思議なものだ──。
 ともかく、ガラスを破るにはちょうどいいだろう。
 深呼吸を一つし、ゆっくりと左腕を肩の後ろにまで引く。一発では無理かもしれない、なら何度もぶつけるだけだ。その後はそこから腕を入れて鍵を開ける。

「……よしっ!」

 一定の行動を頭に思い浮かべれば準備は完了だ。
 踏ん張るために足に力を入れその一撃を──

「何をしてるんだい?」

 後ろから掛かる女性の声が止めた。


********

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