複雑・ファジー小説
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- 【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
- 日時: 2019/03/29 13:00
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989
——この戦争はきっと、ありふれていた
*****
はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
・世界観
あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
そんな学園で起きた、一つの事件。
・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。
以上
・目次
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46
-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
>>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
>>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25
・第二限「ゆびきり」
>>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45
・第三限「終末世界のラブソング」
>>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)
・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様
-siyaruden様 宛 更新 12/17
・イラスト等について
>>18
こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。
>>52
感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!
・異能学園戦争参加者名簿
東軍
・岩館 なずな by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架 by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音 by siyarudenさん
西軍
・三星 アカリ by透さん
・播磨 海 byみかんさん
・栂原 修 by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏 by波坂さん
無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央 by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯 by サニ。さん
・大當寺 亮平 by 黄色サボテンさん
・コメント随時募集中!
(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました
- prologue「強制入学 Live or Die」1/2 ( No.1 )
- 日時: 2018/07/07 20:04
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: wooROgUa)
prologue「強制入学 Live or Die」 1/2
——男は、倒れ伏していた。
立ち上がろうとする素振りは見せるが、数秒をかけ、少し腕が動いたかと思えば手を滑らせ沈む。彼は、流れ落ち出来た血の池で全身を濡らしていた。
量から言って、まだ生きているのが奇跡なほどの赤。しかし、それも風前の灯火。今すぐにでも消え失せてしまいそうなほどのか細い呼吸音、それだけが部屋に響いていた。
男は最後の力を振り絞り、無理やり体を仰向けにした。最後に見るのが冷たい床ということだけは避けたかった。
とはいえ、血を失ったことでとうに視力は失われていたことに気が付くだけであったが。
比較的綺麗だった背中も血で濡れたが、もはや気にするだけの余力はない。
痛い、そんな感覚もなくひたすら襲ってくるは死に向かう恐怖。
違う、こんなはずじゃなかったのに、何故だなんでアイツが……。
「——い、やだ」
それが、彼の最期の言葉となった。
◇
「——ッ!」
少年は目覚めた。いつの間にかはだけていた布団を求めて、ゆっくりと上半身を起こす。その体は寝間着もつけず、肌着だけであったが、それが透けるほどには汗をかいていた。
その事実に気が付くと、体にぴたりと張り付く気持ち悪さも感じ取る。ベッドから降りて、少し乱暴にそれを脱ぎ捨てた。
やな夢だった、そう一人零したのちに彼は、かすかに首を傾げた。
「……何の夢だっけ?」
とにかく嫌な思いをした、ということは覚えていたがその詳細が一切わからない。まるで霧の中に隠されてしまったような不明瞭な記憶。
だがそれも、左腕にあったハサミ、あるいはバツ印に似た痣を見て思考の片隅に追いやられた。
同時に、どうせこれのせいだろう、という勝手な思い込みを彼の脳内に発生させる。
痣はそんな少年の恨みこもった目を受けても滲みもせず、ただ彼の腕に鎮座していた。
突然ではあるが、彼は世界中に住む人間の中では『異能力者』というカテゴリーに分類される。それは決して、普遍的なものではない。それなりに希少なものだ。
炎を出す、変身する、人を操る、子供ならば興奮して当たり前のような能力。そういったものを持って生まれてくる彼ら、痣はその証——おかげで痣を意図的に作ろうとする者もいなくもないが、当然見分けるための技術はある——で形も場所も様々だ。
つまり、それを腕に持つ幾田 卓(いくた すぐる)、彼もまた特殊な力を持っていることが証明されている。彼は発覚後すぐに専門の教育機関、いわゆる『異能学園』に送られたわけである。本人の意向は無視された。
突然の環境の変化が、思春期に突入しかけていた彼にとって大きな影響があるのは当然であった。
「じりつしんけい、だっけ?」
彼は、それらが原因となり、自律神経が乱れたのかもしれない。テレビで得た頼りない知識をもとに、勝手に結論付けた。
幾田は汗を洗い流すため洗面台に向かう。
まだ薄暗い部屋の中、おぼつかない足取りで向かう。
「……つめたっ」
水温む春がにはあと少し。予想を下回ったのか、幾田は冷たさに思わず目をつむる。その後はお湯を出せばよかったのだが、何かに勝負を挑んでいる気分なのか、そのまま水で顔を締めていた。
彼のこれからの行動と言えば、今日は月曜日であるし服を着て、鞄を背負い歩いて百メートル程度の位置にある校舎に登校。
授業を受けて、またどうでもいいような一日が過ぎていくのか。
——断じて違う。
「……ん、んん?」
ふと、顔を腕で拭っていた彼は自分の首に何かが付いていることに気が付いたようだ。鏡を見て、その正体を確認すると酷く間抜けな声を出した。
幾田の首には、首輪が付いていた。とても立派で、黒光りしているそれは今まで幾田が見てきた物の中でも群を抜いて頑丈そうだった。
首輪、そう呟いた後に幾田は何度かそれを外そうと試みるが、びくともしていない。数分して、その行為が無駄だと悟り力なく腕は垂れ下がる。
「なんなんだよこれ……」
誰もいない部屋にそう呼び掛けたところで、その問いには誰も答えない。だが、答えられる人物が彼を呼び出す。
部屋に、声が響いた。
『──現在、音響機器の試験運転中です。しばらくお待ちください』
「な、なんだ?」
慌てて洗面所から飛び出し、ベッドなどがある居間に戻る。
照明をつけ音の出所を探せば、ベッドの反対側の壁、天井付近に一つのスピーカーが付いていた。
混乱、昨日まではその存在は欠片としてなかった2つ目の異物。だがそんな幾田の心情を無視してひたすらにスピーカーからは機械音声が流れる。
『おはようございます皆様。突然ではありますが、この放送を聞いている人は今すぐに高等部校舎前に集まってください。この状況についての説明を行わせていただきます』
最後まで聞いた幾田はそれが、加工された声であることに気が付いた。意図的に性別の差をなくし、感情は込められていない。
どう考えても怪しすぎたが、彼はしばし迷った後、首輪を何度か触り、簡単なものを着て外に出た。
もう日が出ている時間帯ではあったが、生憎天気は曇り。いい気分には決してなれない。
とはいえ、今の幾田にそれを気にすることができるほどの余裕はなかっただろう。
「あれ、あれ……なんで、寮は?」
昨日まで彼が住んでいたのは、巨大な寮の一室だ。
だからこそ、今彼は他の寮生の部屋とつながる廊下に立っていなくてはおかしいはずなのだ。
それがどういうことだ、寮なんてどこにも存在していない。
後ろを見たところで、石造りのコテージが佇んでいるのみ。その場から両隣へ、50メートルおきに離れた場所に同じような建築物が2軒ずつ。
見れば、その前にも彼と同じであたりを見回している人影があった。
幸いにして幾田から向かって左側、二件のうちでは手前側に立つ男性に見覚えがあった。彼自身とは碌にかかわったことは無いが、学園の先生であることを彼は知っていた。
彼は名前こそ憶えていなかったが、入学するにあたって少し話をしたことがある。少なくとも安心ができる人物ではあった。
もしかすると何かのオリエンテーションか何かなのか、そう幾田は思ったかもしれない。
「せ、せんせ——」
『手早く、迅速に来てください。早くしないと悪いことが起きてしまいます』
「……」
遮るように、今度は少し離れた位置にある校舎から音が聞こえた。
建物間で反響していたが、聞き取れないほどではない。しばし悩みつつも、幾田はその声に従った。
彼が校舎に駆け足で向かっていくのを見て、周りにいた四人も無言で従う。
うち一人、教職であった男、大當寺 亮平(だいとうじ りょうへい)の顔色は決して良くはなかったが、それを出してもしょうがないと判断したのか、観察する目を続けながら校舎へと向かった。
◇
駆け足で二,三分、高等部校舎、正門前に幾田は辿り着いた。
普段ならば登校しだす生徒たちがちらほら見える時間帯ではあるが、そういった姿は一つも見えなかったことが彼に幾多の恐怖心を生み出す。
彼が余り騒がずいられるのは、やはり先ほど見た人影——教職の人間がいたおかげだろう。
今も軽く振り返れば何人かがこちらに近づいているのが見え、決して自分一人ではないということが安定剤となっていた。
「…………」
「——なぁ」
「ぅおっ!? あーびっくりした!」
後ろに振り向いていた幾田、突然の横からの声かけに腰を抜かしかける。それは彼が緊張しすぎていたのが悪いのだが、少々の理不尽な怒りを吐き出そうと首を回す。
「……あれ? えっと、何の用ですか?」
「いんや、音の指示通り来たらお前がいたからな。なんか知ってんのかと思って」
「俺も指示通り来たので、ちょっとよくわからないです、はい」
「そか」
だが、不思議と彼はその男性を見た瞬間に怒りが立ち消えてしまう。
感情がすっと消える感覚を不気味に思いながらも、そのまま口を開いたままなのもみっともなく、幾田はそこにいた男性に話しかけた。
年上であろう彼は、幾田よりも身長は定規一つ分程度はある。灰色のパーカーで手も上着のポケットにしまっているため肌の露出は少ないが、首から上は少し浅黒いのが見てわかる。部活動でもしているのだろうか、幾田はそう思った。
幾田は知る由もないが、その男の名前は栂原 修(とがはら おさむ)、高等部2年だけあってかその精神力は強靭、もしくは気にも留めていない程図太かった。
ちなみに部活動は彼はしていなかったため、幾田の推測は外れている。
「あ、あれそういえば先輩はどっちから来たんですか?」
「ん? あっちからだけど」
そう言って彼が指さす方を見れば、遠くの方にまた人影が見えた。彼はもしやと思い反対側もむく。そこには同じように影がある。
どうやら三方向それぞれから人が向かってきているようだ。
「結構人がいるのか……?」
「どうだろな、少なくとも俺の方にはあと4人いたな。灯夜と——」
『幾田くん、栂原くん、口を慎むこと』
「……ったく」
「(とがはら、先輩か)」
会話が弾みそうだった時、またもや校舎に取り付けられたスピーカーから走る音声がそれを止める。
その際、幾田はようやく栂原の名前を知ったが特に気にする様子も見せなかった。
幾田と栂原は渋々従い、口を閉ざす。
その後も続々と人が集まってきたが、幾田たちが黙っていたことと二度の音声による指示のせいか、誰一人として声を発する者はいなかった。
*********
-次:>>2
- prologue「強制入学 Live or Die」 2/2 ( No.2 )
- 日時: 2018/07/07 20:21
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: wooROgUa)
prologue「強制入学 Live or Die」 2/2
十五人目、幾田が来た道から黒一色の服装の女性がやってきた。彼女もまた、首輪をしていたことから、全員がそれをつけられていることが分かる。
それにしても、一人だけ随分と遅く来たなと幾田は思う。どこかで寄り道でもしていたのだろうか。
「鳥海ちゃんまで……」
その際、既に集まっていた内の一人がぼそりと呟いた気がしたが、幾田はその発言者を見つけることができなかった。女性だろう、という見当だけはついたが。
一方、恐らく鳥海という名前なのだろう彼女は特に気にするそぶりも見せず、そのまま誰と目も合わせずに立っていた。
他十四人全員から離れた位置を取っている彼女は、決して話しかけてくるなという雰囲気を出している。
『……15人、ようやく揃いました。それでは皆様、今から何が行われるのか説明に入らせていただきます』
スピーカーから機械音声が流れ出る。
音の主はようやく、十五人に対して状況説明を始めるようだ。ようやく謎の緊張が終わるのか、そう思いかけた幾田だが、直ぐにそれが勘違いだったことを悟ることになる。
『——殺し合いです』
「……は?」
六文字、たったそれだけの言葉。脳が理解を拒否する。
その声は誰のものだったのか、幾田のモノだったのかはたまた別の人のモノだったのか。機械音声は特に気にすることは無く続ける。
『私の名前はAI(アイ)、この学園での殺し合い管理を担当するものです。
皆様、武器でも能力でも仕掛けでもなんでも、殺しあってください。この学園ではルールなんてありません。
非道でも、王道でも、とにかく貴方達ができる最大限の方法でその数を減らしてください。さもなくば……』
最後の言葉と同時だった、十五人の首輪が一斉に警報を発する。
僅かな振動は肌によく伝わり、着けている者に危機感を感じさせるには十分だった。何が起きるのか、勘のいいものはそれだけで気が付き青ざめる。
だが、しばらくすると警報は鈍い音へと変わり、ゆっくりとそれは止んだ。
『……皆様にはめさせていただいた首輪が爆破します。
本日の午前10時よりカウント開始で24時間、それがタイムリミットです。死人が1人出る度にカウントは1日分増えます。また、条件が満たされた場合はカウントがストップ。爆破の心配はなくなります』
「……条件は?」
十五人の中で唯一の教職、先ほど幾田が話しかけようとした人物が口を開いた。
しかし彼は頭の中である程度想像ができているようだ、それは聞くというよりは、確かめるといった意味合いが強かった。
『いい質問ですね……大當寺さん。最後の一人、もしくはチームになることです。そうすれば元の生活に戻れますし、更には優勝賞品としてなんでも一つ、願いをかなえてあげましょう』
「……チームってのは、勝手に組んでいいのか」
『いえ、既にチームは決められています。チームは二つ、それぞれ西軍、東軍と称することとし、今から名前を読み上げます』
大當寺と呼ばれた教師は、臆することなくそのままAIに話しかける。
その様子を周りの生徒たちは心配そうに、あるいは興味深く見守っていたが、いきなり何かされる話ではないようだ。見せしめに爆破される、という最悪の事態だけは免れた。
それとも単に説明が捗るということで放置されているのかもしれないが。
幾田はその読み上げは心して聞いていた。彼は能力者のカテゴリーに入ってはいたが、酷く非力でもあった。
殺し合いなんて馬鹿げたことに従う気は毛頭なかったが、それでも周りの人間がどうかは分からない。もしこのまま惨劇が発生してしまうというのであれば、少しでも強い、安全なチームがいい。
そう思うのが自然であって、いつの間にか拳を固く握っていた。
『西軍、三星 アカリ(みほし),播磨 海(はりま うみ),栂原 修(とがはら おさむ),光原 灯夜(みつはら とうや),羽馬 詩杏(はば しあん) 、以上五名』
「はい!え、えっとよろしくおねがいします?」
「……よろしく、だけど多分そういうことは求められてないと思うよ」
「あっ、俺? けど灯夜いるしよかったわ」
「栂原。君も結構勘違いしてるでしょ」
「…………」
名前を呼ばれ、まるで出席の様に明るく返事をした赤毛の少女、それに突っ込む眼鏡の少年。幾田に話しかけてきていた男、栂原は間の抜けた声を出し、彼の友人と思わしき光原に咎められた。
唯一西軍で一人、年長者でもあった羽馬のみは西軍以外の人間に視線を送り、周りが騒ぐ中じっと黙っていた。
その騒ぎ様に、他に人はどこか気が抜けるほどであったが、直ぐにAIが仕切りなおす。
『……東軍、岩館 なずな(いわだて),鴬崎 霧架(うぐいすざき きりか),伊与田 エリーズ(いよだ),千晴川 八三雲(ちはるがわ やみくも),深魅 莉音(ふかみ りおん)』
「じょ、冗談でしょ?」
「大丈夫? ゆっくり呼吸をして……」
岩館なずな、東軍の中では最年少であった彼女がよろめくと、それを受け止め介抱する女性。伊与田はその背中をさすりながら心配そうに声をかけている。
灰色の髪の少年、鴬崎も同じようなことをしかけたが、位置的に近かった伊与田が対応してしまったので、空いた手をどこか居心地悪そうにしまい込む。
千晴川、深魅は少しそれを冷めたような目で見ていたが、その内心は推し量ることができない。
『これでチーム発表はおしまいです。それでは……カウントは10時からですが別に今初めても構いません』
「お、おい!」
10人の名前を呼び終えた音声はそのままやめにしようとする。だが、まだ名前を呼ばれていなかった幾田は慌ててそれを止めた。
一斉に彼の方へと視線が集まる。
彼は声を出した後、自分が危ないことをしたということを自覚したが、西軍の無法地帯ぶりから見て、やはりいきなりどうにかはされないだろうと勇気づける。
『……なんですか、幾田 卓くん』
「あ、いや……えーと、まだ俺含めて呼ばれてない人が何人かいるけどそれは?」
『——無所属です』
「え?」
『ですから、無所属です。幾田 卓,榊原 伊央(さかきばら いお),塚本 ゆり(つかもと),鳥海 天戯(とりうみ あまぎ),大當寺 亮平。貴方達五人はチームではありません、生き残るためには他14人と殺し合い、最後の一人になるしかありません』
幾田は、膝から崩れ落ちる。突然の殺し合いの提示だけでも限界だった彼はその非力さが故、ただ一人で生き残ることなど不可能だということに瞬時にたどりついてしまう。
つまりは、AIに死ねと言われたような物であった。
『以上で質問はありませんね? これ以上の質問は各自の部屋、のスピーカーに話しかけてください。なお、回答は毎日夜11時、その日の死亡者と同時に行います。
改めまして皆様、この異能学園に入学おめでとうございます。ご健闘のほどお祈りしています』
音声が切れると、辺りは静粛に包まれた。
既に、チームとして発表され仲間とされたものと、そうではない者の間には溝が出来上がろうとしている。
殺し合いなんて起きるわけがない、協力し合おうと提案できる人物はいない。もしくは居たしても、この場で叫んでも効果がないと理解していたのだろう。
仮に彼らが全員、見知った人間であればもう少し軽くなったかもしれないが、ここに来る前、平和だった異能学園は全国の能力者を一まとめにしているマンモス校である。
更に言えばこの場には中等部の一年から高等部3年、更には教職も一人混じっている。顔を知っている、程度ならいるかもしれないが……横のつながりはとても薄かったのだ。
「……」
自然に、東軍とされた五人が歩きだした。岩館に肩を貸している伊与田を中心として、残る三人は無言でその場から居なくなる。
続いて、無所属組とされた塚本、鳥海が顔色一つ変えず来た道を戻っていく。それを見て、この場に取り残されることを悪しとでも思ったのか、榊原が白く長い髪を揺らして駆けていった。
西軍はやはりどこか気が抜けるような会話を幾度か繰り返しながら、それでも気を緩めない3人が先導して残る二人を連れて行った。
「……」
「……」
結果、呆然として動けもしなかった幾田。考え事でもしていたのか、途中から完全に黙していた大當寺のみがその場に残されたのであった。
-prologue「強制入学 Live or Die」 END
*******
-前:>>1
-次:>>5 一限目「嘘つきと早退者」1/9
- Re: 【コメ募集中】ありふれた異能学園戦争【prologue更新】 ( No.3 )
- 日時: 2018/06/19 00:08
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: 2rTFGput)
・参加者のかんたんなプロフィール-prologue編
(本編更新に応じて、少し変えたものを投稿します)
注意!
これはprologue ENDまでのネタバレを含みます。
それでもよいかたはどうぞ
あらすじ:
目が覚めたら首輪。集められたと思ったら殺しあえとAIが唆す。
5人ずつの西軍、東軍。
では幾田たちは?となるが……まさかの無所属であった。
見本
・名前:山田 太郎 (男/高等部3年/18歳)
能力「帰宅部≪ホーム・カミング≫」
帰宅を開始すれば、だれにも止められない。
現在富士山山頂にある家に向かって樹海を突き進んでいる。
-東軍:
・岩館 なずな(いわだて) :(女/中等部1年/13歳)
能力「???≪???≫」
・伊与田 エリーズ (いよた) :(女/高等部1年/16歳)
能力「???≪???≫」
・鴬崎 霧架(うぐいすざき きりか) :(男/高等部1年/16歳)
能力「???≪???≫」
・千晴川 八三雲(ちはるがわ やみくも) :(男/高等部2年/17歳)
能力「???≪???≫」
・深魅 莉音(ふかみ りおん) :女/高等部2年生/17歳)
能力「???≪???≫」
-西軍:
・三星 アカリ(みほし) :(女/中等部2年/14歳)
能力「???≪???≫」
・播磨 海(はりま うみ) :(男/中等部3年/15歳)
能力「???≪???≫」
・栂原 修(とがはら おさむ) :(男/高等部2年/17歳)
能力「???≪???≫」
・光原 灯夜(みつはら とうや) :(男/高等部2年/17歳)
能力「???≪???≫」
・羽馬 詩杏(はば しあん) :(女/高等部3年/18歳)
能力「???≪???≫」
-無所属:
・幾田 卓(いくた すぐる) :(男/中等部1年/13歳)
能力「???≪???≫」
・榊原 伊央(さかきばら いお) :(女/中等部1年/13歳)
能力「???≪???≫」
・塚本 ゆり(つかもと) :(女/高等部1年/16歳)
能力「???≪???≫」
・鳥海 天戯(とりうみ あまぎ) :(女/高等部3年/18歳)
能力「???≪???≫」
・大當寺 亮平(だいとうじ りょうへい) :(男/国語教師/26歳)
能力「???≪???≫」
- Re: 【コメ募集中】ありふれた異能学園戦争【prologue更新】 ( No.4 )
- 日時: 2017/12/28 18:57
- 名前: ハルサメ (ID: T0oUPdRb)
- 参照: 吐き出しコメなので、返信はお気遣いなく!
リク板から飛んで来ました。更新お疲れさまです!
プロローグの冒頭から血溜まりで衝撃です。「あれっもう誰か死んでる…!?」っていう。幾田くんの夢という事ですが、血溜まりの中で倒れている男は名簿の中の誰かなのか、それとも全く未登場の人物なのか…。序盤から色々想像が捗って楽しいです! 記憶という表現も気になります。
西軍は結構明るい雰囲気?ですね。皆可愛い(可愛いでいいのか…?) これからの掛け合いが楽しみです! 戦争内の癒し要素はここか!?
そして軍属は兎も角、無所属の勝利条件なかなかエグいというか、難易度ベリーハードじゃ済まない感じですね。ルール上では自分一人以外は誰も味方がいないって、精神的にもかなり抉られる状況だなぁと思います。幾田くん、親しみやすくて応援したいキャラなので、頑張ってほしい…!
見当違いの事を書いていたら申し訳ありません。そして突然のコメント失礼致しました。
スッと内容が入ってくるようで、ハルサメ、とても好きな文章です。
何というか、あまり感想が得意ではなくて、色々伝えきれないのですが、とりあえず以上です! 更新応援しております!!
- 1-1(改) ( No.5 )
- 日時: 2018/07/21 02:29
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: wooROgUa)
第一限「嘘つきと早退者」1/13
突如として、異能学園の中での殺し合いを宣告された15人。
それに抗おうにも、いつの間にやら全員に等しくはめられていた首輪。
カウントが0になった瞬間、爆破する。生き残るには、誰かを殺すしかない。最初に与えられたリミットは24時間、翌日の午前十時まで。
絶望、生き残れる可能性はゼロに等しい。
幾田は決して強くない……むしろ、15人の中では最弱に近い。なぜなら彼は、彼は。
「——ふぅ。おい、平気か?」
「……平気、です」
一つ、大きな呼吸音が聞こえたかと思えば、いつの間にか隣にいた大當寺が幾田の肩を叩いた。少しびくついた後、幾田はようやく自分の気が軽く飛んでいた事実に気が付き、立ち上がる。
その後、まるで長年の癖の様に、自分にはめられた首輪を触った。人肌よりかは低い、ひんやりとした金属の感覚。
そうか現実か。長い長い校長の朝礼で倒れて変な夢を見ていた、そんな夢でも見れればよかった。幾田の内心はそんなところだろう。
「えっと先生、大當寺先生は大丈夫なんですか」
「そうだな、少しはきついがお前らに比べたら軽いもんだろ」
「そうですか」
それはきっと幾田を気遣ったものだ。教師である彼は、自分の半分近くの年しか生きていない少年が心配でしょうがなかったのだろう。
更に言えば、彼は職業上多くの生徒と顔を合わせる。つまりは先ほどの15人の中でも一番、顔が広い人物。だからこそ、大當寺は知っているし覚えていたのだろう。幾田がつい二, 三週間ほど前に入学してきたばかりであったことを。
では、何故彼はその顔の広さを生かして停戦を呼びかけなかったか。と疑問に幾田は思った。
「にしても、まさか殺し合いなんて古臭い事をやらせる奴がいるなんてなぁ……それで、これからどうするんだ幾田は」
「……俺は」
状況にそぐわず、少し不気味なほどに目が笑っていた大當寺、軽くストレッチをしながらも幾田に話しかけて来ていた。ある程度答えを予想できているのか、その所作は尋ねるというよりかは確認に似ている。
仮に危うげな精神を持つものに対してならば、それを本人の口で言わせることの危険性は言うまでもない。
つまり、彼は少しの余裕をもってその問いをすることができていたのだ。幾田にならば、そう投げかけても問題ない。そう思っていた。ほんの少ししか話をしたことがないだろうに。
「……」
一方で、幾田の考えは堂々巡りであった。大當寺の目論見は正しく、彼の思想は善性。危険なことからかけ離れていた。
とはいえ、瞬時に答えにたどり着ける、いやその答えを良しとするほどの精神力はもっていなかった。
「(どうすればいいんだ。殺す? そんなことはしたくない、けど逃げていても明日には爆発する。どうすればいい……)」
幾田は決して賢くない、だからこそ危機的状況を把握できても、どう脱すればいいのか考えることができない。
幾多も巡る思考の果て、体感時間としては数十分、現実ではほんの数分。ようやく彼は口を開いた。
「——俺は……死にたくないです」
「だろうな」
それは、この状況に順応する。AIの指示に従い殺し合いに参加するという意思の表明にも聞こえる。
だが、大當寺はその後に続く言葉を待つ。きっと彼は、ただその一言で終わらせないだろうと考えていたからこそ。
「けど……人も殺したくない」
「そうか、そうか」
つまり、どっちつかずだ。
殺し合いなんてしたくないが、自分の命が惜しくないわけじゃあない。
俯いたまま、けれど力強く言い切った幾田の背中を大當寺は乱暴に何度か叩いた。それは激励。
別に幾田が何か凄い事実に気が付いたわけでもない。けれど弱い立場である彼が悩みに悩んで、その結を出さなかったことを褒めた。
実は大當寺、この時点で一つ、ある目標を掲げていた。
しかし、それには人手、というよりかは協力者が不可欠であった。決して殺し合いに従おうなんて考えている者でもなく、自暴自棄にもなっていない者が。
「なあ幾田、俺はな……AI? だったか、あんなのが提示したゲームをぶっ壊そうって考えてるんだ」
「ぶっ、壊す……」
ぶっ壊す、その一言は少年に対しひどく魅力的であった。なにせゲームのルールさえなくなれば、彼の悩み事なんて吹き飛ぶのだから。加えて言えば、ぶっ壊すという言葉の格好良さにも惹かれたのかもしれない。
しかしどうやって、そんな疑問の目で幾田はようやく、しっかりと大當寺の顔を見る。その顔の目元は変わらず笑っていたが、決して感情がこもっていないなんて言えない、自信に満ちたものだった。
「——策はないがな」
気のせいだったようだ。
一瞬にして幾田の顔があきれ果てたものに変わる。思わず口が開いてしまうほどに。
だが大當寺はそんな視線を受けてもなんのそのだ。少し幾田から距離を取り、靴のつま先で地面を叩き、肩を回したりしながら計画を話す。
「俺はこれから、辺りを色々と探索する。とりあえずは人が隠れられそうな場所をしらみつぶしだな」
「え、なんで……ってAIを探すんですか?」
「そうだな。そもそもここがどういう場所なのかもわからないが、管理者的立ち位置、最悪AIの奴じゃなくてもどっかにいるかもしれない」
彼はそう言って、ストレッチの続きをしている。恐らく話し終わればすぐにでも走っていく気なのだろう。
正気なのか、幾田は目を丸くする。
そもそもここは学園の構造をまねてはいるが、実際にはまるで違う。
本来の学園には小等部、中等部、高等部、3つの校舎に巨大なグラウンド、野球場やテニスコートまで完備していた。しかしこちらは見た限り、校舎は高等部のただ一つ。
グラウンドはあるが、それも一つのみ。無所属の者たちが暮らすコテージの後ろ側に広がっていた。
微妙に違うこの環境、一体なんのために作り上げたのか。考え出せばきりがないが、そんな場所で居るのかどうかもわからない人探し。当てもなく二十四時間という貴重な時間を費やそうとしているのだ。
そんなに動き回って、仮にでも十五人の中にヤル気になった者がいたとすれば……格好の的である。
「ああそうだ。それと電波塔みたいなのを片っ端から壊すか」
「電波塔……?」
少し視線を外しながら、脳内の思考の一部を漏らすように彼は言った。しかし、その真意がわからず幾田は首を傾げる。
大當寺が続けて自身の首輪を何度も人差し指で叩く。黒の光沢がある首輪は指先が当たるたび、固い音を立てる。
「最初っから爆破する時間が決まってるならタイマー式。だが今回は悪趣味なことに死者が一人出る度に時間制限が伸びる。なら、状況に応じて首輪に信号を送る必要があるはずだ。
仕組みはいまいちわからないが、もしかしたら電波を受信してってタイプかもしれない」
「……ってことは、もしそれがうまくいけば!」
「えーと、電波塔は確か……それぞれの校舎の屋上にあったか。」
その言葉と共に、幾田たちは上を見上げた。余りに立ち位置が校舎に近かったためにその全貌は見えなかったが、確かにその先端らしきものを確認することができた。
ふとポケットから携帯を出してみるも、アンテナは立っておらず圏外とのみ表示されている。今現在、電波塔は機能していないようだ。
……それとも大當寺が言う通りあれが首輪爆破のための電波塔なのだろうか。
あれさえ壊せば、このいかれた殺し合いに参加しなくてもいいのかもしれない。そう思うと不思議と幾田の気持ちは高揚する。
無論、不確かな作戦だということは承知していたが……人を殺すという行為を思考の片隅に追いやれるのだから、乗らない理由はない。
「よし、いくぞ。まずは屋上に上がるための鍵を探すために職員室だ」
「は、はい!」
大當寺の掛け声とともに、二人は校舎に入っていく。その際、つい先ほどまでは絶望に包まれていた少年の顔が少し明るくなったことに大當寺は気が付き、自身も安堵すると共に幾田よりも前に出なければとペースを上げた。
勢いよく下駄箱を通り過ぎる。見た限りでは特に内部に異常はみられない。
幾田は中等部なのでどのみち案内は必要だったが。威勢よく走り出したのはいいものの幾田は直ぐにスピードダウン、大當寺がそれを抜くと慌ててその背中を追いかけることになった。
◇
「よし、ここだ……特に変わった様子はないが気をつけた方がいいぞ」
「はい! 」
広い校舎と言えど、走れば数分もかからない程だ。直ぐに目的の職員室へは辿り着いた。
扉を開けると、如何にもといった状況が広がる。壁に掛けられたホワイトボードには行事やらの張り紙がマグネットで張り出され、職員の机には書類やファイルが置かれている。
一部の机は飲みかけのジュースまで置いてあり、つい先ほどまで人が居たかのようにも思わせた。
「……普段の生活をコピーされたみたいで気持ちわりぃな」
中には大當寺が記憶している限り、最新の状況とほぼ変わらぬそれが広がっていたようだ。
そう零すと彼は鍵が仕舞っているであろう場所に向かう。幾田はその間、彼の言葉に従い、また初めて来たということもあり職員室に十分な警戒の意を示していた。
背後から何かやってこないか、窓から何か飛び込んでこないか。ホラーゲームでもやっているかのように当たりの物全てに対して疑いの目を向ける。
「……」
「……フフッ」
「あ、今笑いました!?」
「笑ってない笑ってない。ほら、鍵を見つけた。さっさと上に行くぞ」
ふと振り返ると見えた、余りに素直な彼の行動に思わずクスリと笑いを零した大當寺。それに反応して幾田が抗議する。
彼は笑いを隠さぬままに誤魔化す、あるいは宥めるために屋上の鍵を見せ、目的を再確認させるとさっさと職員室から出ていってしまった。
「……ちょ、ちょっと待ってくださ──」
呆然とする幾田。だが、置いていかれたことに気が付くと急にまた職員室への警戒心が蘇り、恐くなって慌ててその後を追おうとする。
視界の端に、何かが通り過ぎた気がした。
「——ん? 今誰か……あっ、待ってください先生!」
職員室の窓の先に見える校舎への入り口、視界の端に人影が見えたような気がした。だが、もう一度見てもどこにもその姿がない。
見間違いだったのか、そう考えることもなく幾田はそのまま大當寺を追いかけて行った。
結論から言って、幾田は見間違いなどしていなかった。
「……」
幾田が職員室から去った直ぐ後、窓から映る景色には確かに、柱の陰から出てくる女子生徒の姿があった。
無所属、高等部1年生、塚本 ゆり。葡萄酒の様に赤いベレー帽を被っている彼女は玄関前でふと、何かを感じたのか辺りを見回し……たかと思うとそのまま校舎の中へと入っていった。
その際、首元に手をやっていたことから単に、彼女がしている若々しい緑のマフラーを調整していただけだったのかもしれない。もしくはそこら顔を覗かす首輪を気にしたのだろうか。
たった一度の見落としであったが、仮にこの後起こる事件を幾田が知っていたのであれば深く後悔したかもしれない。
そんな瞬間であった。
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2018/7/21 一部描写追加、少しですが台詞を追加しました。