複雑・ファジー小説
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- 【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
- 日時: 2019/03/29 13:00
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989
——この戦争はきっと、ありふれていた
*****
はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
・世界観
あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
そんな学園で起きた、一つの事件。
・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。
以上
・目次
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46
-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
>>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
>>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25
・第二限「ゆびきり」
>>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45
・第三限「終末世界のラブソング」
>>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)
・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様
-siyaruden様 宛 更新 12/17
・イラスト等について
>>18
こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。
>>52
感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!
・異能学園戦争参加者名簿
東軍
・岩館 なずな by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架 by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音 by siyarudenさん
西軍
・三星 アカリ by透さん
・播磨 海 byみかんさん
・栂原 修 by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏 by波坂さん
無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央 by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯 by サニ。さん
・大當寺 亮平 by 黄色サボテンさん
・コメント随時募集中!
(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました
- Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限6/9 更新】 ( No.16 )
- 日時: 2018/02/26 18:36
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)
第一限「嘘つきと早退者」7/9
何か、嫌な予感がした。
「……ん」
目を覚ませば、うす暗い天井が目に入る。部屋の暖房が入っていなかったせいか、少し硬くなった体を感じつつも無理やりベッドから少年は起き上がった。
鳴り続けていた目覚まし時計を止め、眠い目をこする。ナポレオンを見習っているかのような睡眠時間だったが、それでもあと半日動き続ける程度には回復しただろう。
なぜ彼が睡眠をとっていたのかといえば、それは衛材フロアから大量に発掘された武器の数々、それを折半し大當寺と自分の部屋に隠した後のことだ。
『夜になったら忙しくなるから、今のうちに休んでろ』
そう言われた彼は少々の不満を見せつつ、目覚ましをセットして瞼を閉じた……そこまでが幾田の記憶に残っていた。
どうやら彼が思っていたりもずっと疲れがたまっていたのだろう。流石は教師、生徒の体調を把握するのもお手の物らしい。
顔に水をつけて目を覚ましつつ、彼は外に向かう準備を進める。大當寺から言われた約束の時間が迫っているのだ、早くせねば申し訳がないといったところだろう。
早く、早く、バタバタと音が立ちそうに慌てながら彼は玄関の扉を開けようとして——、
「……っ」
ふと、立ち止まった。
ついで自分の頬に冷や汗が一つ、流れていることに気が付いた。まるで、この先に向かえば何かが起こると彼の体が感じ取っているように、奥歯がカタカタと震えている。
何がある、いったいこの先に。
恐怖は渦を巻く、気が付けば安全地帯は今立っているその場だけになる。下がっても地獄、進んでも地獄、彼の最善はその場でずっと立ちすくむことだと見えない自分がささやく。
それでも、
「——ふぅ」
深く、一度深呼吸をして、恐怖を押し込めた。大當寺先生のように、彼は会ってから数時間の間ではあったが、その動作をたびたび見せていた。だからこそ、一個の状況で一番頼りになっている人物と同じ動作をすることで彼のように強靭な精神をと思ったのだろう。
だが、結果は芳しくない。当然のことだがリラックスすればその分無防備になるというもので、あまり精神の強くない彼が真似るものではない。
それでも、深呼吸したのだから……一種の勘違い、彼は恐怖を克服したつもりになって、ドアを開ける。
時刻はすでに夜、アナウンスまではあと数時間。これから幾田は走り回って今度こそタイムリミットの解除、もしくは主催者を見つけ出さねばならない。
「……いくぞ」
自分に言い聞かせながら、彼は一歩を踏み出した。
◆
「よし、みんな覚悟はいいかい?」
折れ曲がり地面に横たわっていた電波塔、校舎の屋上。すっかり日は落ち屋上には弱い月明りしかないためか、彼らの顔色をうかがい知ることは難しい。
自分の靴紐を結びながら、羽馬は周りの確認を行う。闇夜に紛れるためか、全員がそれぞれ持っている中では暗い色合いの服に着替えていることから、彼がこれから行うことはすぐにわかることだろう。
闇討ち、決して西軍の最初に纏っていた雰囲気からは想像できないほどの現実的な案。塚本の東軍への襲撃に関しての証言は本当だったのだろうか。
「はいっ、準備できてます」
「……はい」
「俺は偵察役でいいんだよな? というかマジでやんのかこれ」
「俺も同じようなものだ……うん、大丈夫。死にたくはないからね」
団結し和気あいあいと仲間意識を持てたからこそ、彼らはその作戦にしたのかもしれない。
木刀が入った長い巾着袋を肩から下げている播磨、軽く手のひらをグーパーと広げては調子を確認している三星。腰から下げられたポシェットを軽く触りながら周囲を警戒している羽馬、そして彼女に対し改めて作戦の確認をしている栂原。
その四人から少し離れた位置に立っている光原、これが彼らなりの陣形であった。
「改めて確認するけど、多分まだ死者はでてないだろうからアナウンスでは死者は0って言われる。そうなるとそのうち皆焦ってきて、死を恐れた人たちが出歩くようになる。私たちはそれを発見次第、奇襲をかける。
以上だけど、注意事項のほうは覚えてるかい?」
「えっと、テイサツはオサム先輩とシーちゃん先輩に任せる。あとアナウンスで死者が一人でもいたら即帰る……でしたっけ。あ! あとアタシの能力は攻撃よりもユードーに使う!」
「頼むよアカリさ、アカリ」
「ははっ、海君は中々慣れてないみたいだね」
「ウミ先輩、呼びづらいならどっちでもいいよ?」
東軍でも無所属でも、やる気になって外に出てきたら相手をする。それが西軍の方針である。彼らがそこまでやる気になった理由、それは西軍の中には死に対して諦めを持つようなものが居なかったこと、また倫理観が強いものがいなかったことがあげられるが……一番の理由は別のところにあった。
羽馬は、ポーチから折りたたまれた書類を取り出し、もう一つ携帯ライトを取り出しては内容を確認し始める。
そこには、東軍が所持していた物と同じように顔写真、そしてその人物が所持する能力についての詳細が書かれていた。顔写真はすべて参加者のものでそれぞれ、鴬崎,深魅,千晴川,大當寺が写っていた。
「……四枚中三枚が東軍かぁ、しかも有名どころじゃないのは二つだけ。結構つらいかもね」
「しかし、東軍三人の能力が細かく分かるというのは大きいと思います」
「そうだなぁ、東軍とうちが今んところ最大勢力だろ? しかもあっちがこっちの能力知ってる可能性もあるしな」
「東軍となら先に鴬崎さんって人を狙うべきかと。回復が出来る人を放置すると後々きついですし」
「ならアタシは千晴川って人で! アイショーいいです」
己の能力についての書類、それを少なくとも一つは東軍は所持しているはずである。であれば無所属は、そう考えたとき彼らは後手に回るよりも先手を打ったほうが早いと思いついた。
次に襲う相手はどうするかとなった時、人数の差を考慮し無所属を襲うべきだというのが共通見解ではあった。だが、彼らも人である。自分が生き残るためとはいえ、ハンデを背負っている無所属をというのは流石に、しかし綺麗ごとを言っていては死んでしまう。
そう悩み、「やる気になっている人間なら関係ないのでは」ということになった。
決まってしまえばあとは早いものである、ロッカーの中には簡単な武器が入っていることもあり、彼らはしっかりと武装をしたうえで待ち伏せをしようとしていたのであった。
「双眼鏡があればよかったんだけど……おや?」
羽馬はライトをしまい、屋上のフェンスに寄りかかって辺りを確認する。屋上はともかく、校舎の周りや購買棟の近くには最低限とはいえ街灯がある。
それでも、屋上からでは目視は厳しい。やはり敵の殺意を消すことができる栂原や、羽馬が偵察をする必要がある……はずだった。
偶然にも、彼女は暗闇に動く影をとらえた。
「——皆、東のほうから来てる」
「東、えっと」
「こっちだよ……どこですか?」
羽馬の知らせに驚きつつも、四人とも東側のフェンスに近寄る。だが、それがいけなかった。
弱い月明りよって出来た人影、それが屋上で動く姿を彼らもまた地上からそれを捉えたのだ。
複数の人影、屋上という高台の位置。当然平和活動をしているわけではないことはすぐわかる、否例えしていたとしてもここまで来れば行動せざるを得ない。
そこからの彼女の判断は非常に早かった。
——直後、銃声が響く。
それ静粛を保っていた学園に響き渡る、そしてコテージにこもっていた者たちは確かに感じた。
殺し合いが始まったのだ、と。
********
-前:>>15 「嘘つきと早退者」 6/9
-次:>>17 「嘘つきと早退者」7.5/9
2/26 更新予定日のずれ、投稿するものの数字を間違えておりました。この場にて謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。
- Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限7/9 更新】 ( No.17 )
- 日時: 2018/03/05 20:56
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)
第一限「嘘つきと早退者」7.5/9
とうとう始まってしまった戦い。その火蓋を切って落とした張本人は、銃の反動で痺れたのかプラプラと手を振っていた。もう片方の手には拳銃が握られているが、彼女のそれをプロが見ればお粗末とこぼす程度の握り方だ。決して慣れた者の動作ではない。
その隣で鳴れない銃声に自然と耳を抑えていた男も手を下ろし、その頭に装着されていたヘッドセット、暗視ゴーグルを少し修正する。その視界には、常人よりも遥かに明瞭な世界が広がっているのだろう。
「……当たった感じじゃねーな、すぐにしゃがまれたっぽぞ」
「うん、威嚇だからね。それはそうと、なんで君はそんなの持ってるんだい? まあおかげで先手打てたからありがたいんだけど」
深魅が千晴川の頭を見上げながら指さすと、彼はあーとしばし迷いを見せる。だが、隠してもしょうがないと思ったのだろう。すぐにその疑問に対して答えた。
「能力の実験用に作ってもらってな、俺の目は弱いし便利だから持ってた」
「ふーん……まあいいや。あっち、撃ってくるかな」
「どうだろうなぁ、あっちが遠距離武器持ってたらそりゃ使うだろうが……」
深魅と千晴川、二人は戦闘を仕掛けたにもかかわらず、東軍側の校舎に向かって悠長に歩みを進めていた。
靴音が響くようワザと足に力を入れ、千晴川などはどこかで拾ってきたのか鉄パイプを地面に擦り付けてまで自身の居場所を教えている。
明らかに誘っている。西軍はそれでも彼らの存在は無視することはできない。
かと言って、迂闊に頭を出せば今度は額を貫かれるかもしれない。死への恐怖を利用とした釣りである。しかしこのまま歩みを許せば、わざわざ高台をとった意味がなくなってしまう。
そんな迷いがあったであろう数秒の後に、屋上の動きに変化が出る。勢いよく誰かが金属の柵を掴んだ音がした次の瞬間、橙色の光を放つ物体が確かな速さをもって彼らの近くに落ちてきた。
「何だ急に……!?」
「火の玉だね、攻撃してはお粗末だから威嚇……?」
恐らくはボールような物体に火を点しただけのもの。
暗視ゴーグルをしていた千晴川は突然の現れた物体に慌てるが、それを視認できた深魅が止める。彼女の言うとおり、落ちてきた火の玉は地面に落ちて数回跳ねはしたが決して二人にぶつかることもなく地面に転がるだけ……。
だが、それは確かに二人を照らしてる。それだけで十分だった。
視認できること、それさえ可能ならばその力は何もかもを地に叩き落とす。
——瞬間、彼らは地に引き倒される。
冷たい地面に叩きつけられた事による鈍い痛み、いきなりの姿勢の変化に対応ができなかった彼らはそれを直に受けてしまった。
「ッ!?」
「こ、れは……」
突如として地に伏せることになった二人、余りの痛みに思考すらも飛びかけるが何とかして意識を保つ。それでも、天から誰かが押さえつけているような感覚が彼らの頭を上にあげることを許さない。
一転に集中するわけではなく、つま先から髪の毛の一本にさえも等しく重みがかかっている。そしてそれは時間が経つごとに倍増、押しつぶす力が強くなっていく。
間違いなくそれは、屋上にいた者の能力による仕業。異能学園という名に恥じない強烈な力は今にも彼らをプレス、中身すらをも平たく押し広げようとしていた。
あと数秒もすれば確実に死を迎える、そんな状態では千晴川たちには成す術がない……訳がない、彼らもまた異能学園の生徒なのだ。
「——驚愕暗転装置≪コンプリート・ダークネス≫ッ!!」
能力には能力だ。
意識を保つためか、呂律も回らぬ口で地面に向け叫んだかと思えば、彼を中心として黒い半球が現れる。 黒は弱い月明りと火によって照らされた空間をも飲み込み、何者も視ることができない領域を作り出す。
その長さは直径二十mというかなりの大きさを持った暗闇で、その端のほうは校舎の一部にぶつかりその部分の視認を不可能にしていた。
驚愕暗転装置、その範囲の中ならばどんな光をも飲み込む闇を生み出す能力……それが千晴川八三雲に宿る能力であった。
そして闇が展開されたとほぼ同時に、千晴川らを縛る重圧は霧散し起き上がることが許される。
だが、それでも痛みは消えず残っており、二人は簡単に起き上がることはできないでいた。
「……ぉい、生きてっか深魅」
「な、何とかね……見下すだけ重力倍化、一秒ごとに一倍増加で最大十倍、か。なるほど皇帝の覇道≪ロード・オブ・ロード≫って名前に負けてないねこれは」
「感心してる場合か……それだけで圧死だぜ」
何も見えないがそれでも呼吸を整えるため、深魅は暗闇の中で体を仰向けにする。やはり星空さえも見えない黒い空間が見えるだけであるが、考え事をするにはちょうどいいだろう。彼女は読み込んできた資料の一部を暗唱する。
それは西軍、光原灯夜の能力である皇帝の覇道についての記載、先ほどの現象の正体。それにつられ千晴川も書類のことを思い浮かべ、その内容の無茶苦茶さに顔についた砂利を払いながら顔を歪ませる。
——所有者が対象を物理的、もしくは精神的に継続して見下すことで発動。一秒につき1倍(最大値10倍)まで対象にかかる重力を増やす。効果時間は4秒までは見下している間、それ以上は約五分間。精神的に見下す場合、対象を鮮明にイメージする必要あり——
見下す、という動作こそ必要なれど僅か九秒で重力十倍の状態を五分間付与する。なるほど高台をとっているのは彼の能力を最大限有効に使うためでもあったのだろう。
「4秒前に間に合って助かったな……」
「正直、君が発動してくれないからひやひやしたよ。けどまぁ……囮としての作戦は成功かな?」
「じゃねーとやってらんねーな……オレたちもそろそろ中に入るか」
「ああ腕を引っ張ってくれ、君の能力下じゃその特注暗視ゴーグルとやらの力を借りないと一歩も動けないよ」
暗闇の中で千晴川が立ち上がる音が聞こえたのか、深魅も疲れ果てた声を出しながらも誘導を促す。東軍の作戦はまだ始まったばかり、戦いが終わったわけでもなくさぼっている暇はない。
とはいえ流石に、光原が二人のことを鮮明にイメージできるとは思えない。つまり重力による追加攻撃はない……その認識が二人を一瞬の油断へと誘う。
「——あつッ!?」
空を切り裂き、高温の物体が闇の中心へ、そこにいた千晴川の背中を掠り鈍い音を立てアスファルトの地面に突き刺さる。
仮にもう少しだけ彼がのんびりとしていれば、間違いなく直撃していたであろう。
千晴川が慌てて見上げれば、暗視ゴーグルを通した空にまた一つ、かなりの熱量を持った物体が見えた。
「あ、やべぇ」
背中に走った熱さすらも気に止めないほどに凶悪なる一撃が彼らに迫って来ていた。
◇
「……ストップ。多分もうあの中にはいない」
「ん、はいわかりましたー。……思いつきだったけど上手くできました!」
「と、灯夜ナイス……アカリちゃんもサンキュー」
屋上の柵に体重をのせ、拳大程度のボールを握っていた三星は光原に向かって笑みを見せる。だがそれに対し、彼は少々無機質な笑顔で返した。別段光原は彼女を嫌っているわけではないが……実行している作戦に対し少々思うところがあったのだ。
ほんの少しだけ、時は巻き戻る。
『撃ってきっ、あっちは銃持ってるのか!?』
『当たった子は? 光原君は敵の場所分かった?』
『駄目です。流石に暗すぎて……』
『まじか、まじで銃なんて……!』
突然の発砲音に慌てふためく西軍。本当は狙いなど最初から定めておらず、よほど運が悪くなければまず当たるわけがない……などとは誰も知らない。聞き慣れているはずもないそれに対し、至極当然の反応であった。
しかしただ一人、突然のことへの対応は慣れていたのか、それとも勝負となればずば抜けて思考能力が高くなるのか、三星はその中では一番冷静であった。
『トーヤ先輩、明るくします!』
『っ、何を』
流れるように彼女は、取り出したビンの中身をもう手にしていたボールに振りかける。
次の瞬間、屋上はそのボールが纏う淡いオレンジ色の炎によって照らされる。火種は必要ない、それこそが彼女の能力なのだから。
名を豪炎放射≪バーラスト≫、その両手から炎を出すというシンプルかつ強力。一般人が異能力といわれれぱまっ先に思いつくだろう火炎系能力。
もちろん、西軍はその情報を共有していたが、なぜこの状況で……そう思った次の瞬間には彼女は銃撃者に向かって投げつけていた。
『……あぁ、そういうこと!』
光原は漸く合点が行き、彼女の隣に立って下を見やる。そこには彼女の炎によって照らされた深魅、千晴川たちの姿があった。二人はいきなり落ちてきた火の玉に注意をとられ、こちら側を見ていないのが分かる。
後はもう、そこから軽く首を上に傾け見下すだけであった。
一秒、たったそれだけ見下せば彼らに掛かる重力は倍となる。同級生相手にかけるのはいささか心が苦しかったが、発砲してきたという事実がそれを薄める。
二秒、三秒……このままいけばと思ったところだった。
『……!!』
押しつぶされていた為か、聞き取ることも出来ないほど不明瞭な叫び。それと共に三星が作った明かりすらも飲み込み、ただただ黒い空間が彼らを覆い隠した。
西軍が持っていた資料に載っていたものと違いない、千晴川の能力。だからこそ光原達は知っている、その空間の中では炎の光は役に立たないが、燃焼活動は続き炎は絶えないことを。
しかしこうなってしまえば視認することで効力を発揮する光原は何もできない。どうしようかと考えていた時、またもや彼女が何か思いついたらしかった。
ポーチからまた一つ、新しいボールを出し、アルコールで濡らし点火する。
『トーヤ先輩、たしかボールとかも重くできるんですよね』
『ん? 出来るけど、何をする気なんだ?』
『えっと、あの真っ暗なのってヤミクモ?先輩を中心にしてるから、まだあの辺にいるはずなんですよね』
柵に寄りかかり、ボールを持っていない方の手で千晴川の作り上げた闇を指さす。
『——そこにとことん重くしたボール落とせば勝てるかなって』
何の気なし、悪意も何もない言葉に対し、四人は熟し裂けたザクロの実を思い浮かべた。
その後、光原が青い顔をしながら実行したところ、鈍い音がしたがほぼ同時に元気騒ぐ彼らの声が聞こえ、少し安心してしまったのは間違っていたのだろうか。
光原は決して軽蔑したわけではない。ただ重くするわけではなく、点火することで直撃しなくともダメージは与えられる。そんな作戦を思いつく彼女に対しての評価はとても高い。
だがそれでも、出会った時からほんの先ほどまで彼女に抱いていた印象とあまりに違う、そのギャップに驚いていただけなのであった。
「……あ、羽馬さん。次はどうしますか?」
「え、そうだね。とりあえず下にいた人たちが誰かを教えてくれるかな。時間はないけど、次の対応を考えきゃね」
「……? えっとヤミクモ先輩とリオン先輩です。たぶん二人とも校内に入りました」
周りの反応が少し変だと気が付きはしたが、それでも三星は気にせずに状況報告をして指示を待つ。
殺し合いに一番似つかわしくないと思われていた少女であったが、その才能……勝負ごとに対しては誰よりも熱心という性格がいかんなく発揮されていた。
********
-前:>>16 「嘘つきと早退者」7/9
-次:>>19 「嘘つきと早退者」8/9
- 【通りすがりのお知らせ】 ( No.18 )
- 日時: 2018/02/27 12:44
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=thread&id=855&page=1#id855
【通りすがりのお知らせ】
この度、Twitter(なおアカウント名は「小生僕俺吾妾余某朕輩者@オレッチあっし」です。読みは とおれ です)やスレッドにていただいた支援絵などをまとめる場所を立ち上げました。
場所はURLのイラスト掲示板より、更新があればURLにて告知します。
それでは、失礼いたしましたー!
- Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限7.5/9 更新】 ( No.19 )
- 日時: 2018/03/05 21:22
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode
第一限「嘘つきと早退者」8/9
玄関チャイムを幾度となく鳴らす。しかし部屋の主であるはずの人物は出てこない。声すらもない。
ただ一人、少年は彼を呼び続ける。
「先生……? いるんですよね……?」
月明りと玄関灯に照らされて、幾田は急かす様にチャイムをたたき続ける。
何故だ、何で出てこない。その答えを頭の中で探せば、いくらだって浮かんではくる。
だがどそれだけはダメだ、と幾田はそれを拒否するために明るいことを考えて這い寄る闇を追い払う。思い過ごしだ、考えすぎだ、あの人が■●訳ない。
返事はないが、ここまで押して駄目なのだ。ひとまず諦めて……何の気なしに、幾田はドアノブに触れる。
——ドアは、とても軽やかだ。
「……開いてる」
その事実が、出来すぎた妄想を打ち消した。同時に、その先にある者の想像がついてしまった。
幾田は、ほんの数時間だが彼の人となりを知った。
幾田が転びそうになったり、少し気分を悪くしたときなどは心配そうに声をかけてくれた。
目元がいつも笑っていて少し怖かったが、それは生徒のことを考えていたのだと分かればむしろ安心するものだった。
探索中にふざけた者があれば、彼はそのたびに首謀者に対する怒りを見せた。理不尽に対する希望を教えてくれた。
その一挙一動が少年にはありがたかった。
だから、だから……今はほんの少しでいい、希望の欠片の可能性にかけて、彼は踏み込む。
「先……生、入りますよー……?」
寝ている、あり得てくれ。少しした後に、眠そうに瞼を腕でこすりながら出てくる彼を見て、寝坊を笑いながら安心したいんだ。
出かけている、そうしていてくれ。諦めて自分一人で探索に出かけて、バッタリ出会って、バツが悪そうな彼と笑いあうのだ。
悪戯、それが一番いいだろう。いじけて背を向け、帰りそうになったその背中を叩いてくれれば、ちょっとの悪態をついて終わらせる。そうしてまた先行する彼の背中を追いかけるのだ。
どれでもいい、いっそのこと複合でもいい。あるいは今までがタチの悪すぎるドッキリで、中に入れば肩を組んでいる皆が立っているのだ。
もはや虚栄と分かり切っている夢に何度も手を伸ばし、その度に少年は打ち砕かれ現実を認識する。
明かりがついておらず、物が散乱している。ここで生活をしていたと思えるほど、彼は不潔ではない。
決して人の気配がしない、されど異物感というものがどうしても暗闇、部屋の奥の奥に感じ取れた。
ふと、壁伝いに進んでいたところ、手元に明かりを点けるためのスイッチがあることに気が付いた。
——同時に、べっとりとした粘性の何かが手についた。その時、幾田はもう完全に一つの結論にたどり着いていた。
それを確かめるため、不正解であると信じて、スイッチを押す。
「……あ」
部屋の隅から隅まで満遍なく、漏らすことなく電灯によって明らかになる。
瞬間的に、彼は今まで自分が歩いてきたほうを向いた。答えを先延ばしにする癖でもあったのだろうか。けれどその行動は、答えの過程を教えてくれた。時に回り道はいいものである。
何故今の今まで気が付かなかったのだろうか、玄関の靴置き場から既に赤いそれが引きずられた跡になって伸びていたではないか。
そうして伸びたそれは、幾田が感じていた異物感のあった場所へとつながっている。
「あっ、あぁ……」
足元が見えた。運動するためか、スーツに似合っていないスポーティーで茶色いスニーカー。今は力なく、床に横たわっている。
胴体が見えた。ジャケットのしたに見えていた、真っ白いワイシャツ。今はそこを中心として赤が広がっている。
顔が見えた、その顔に力はなく、瞼は下りていた。
「——!!」
少年は、膝をついて絶叫した。
起きろ、起きてくれ、目覚ましの代わりにでもなればいい。そんな思いがどこかあったのか。
しばし、彼の慟哭は収まることがなかった。
「——……おれが、おれが」
ようやく叫びが途切れれば、今度は嗚咽し自身の不甲斐なさを嘆く。零す言葉は全てが己を突き刺すために、能無しであることを自分に再認識させる必要がある。
ふらふらと亡者のように遺体に縋り付いその上半身を血で濡らす。
自分が能あれば彼は命を落とすことはなかった、そんな仮定がいつの間にか頭の中で真実になって、意味もない例えをする。
もっと早くに駆けつけ、応急処置や手当をすれば助かったかもしれない。自分の拠り所を打ち砕かれ、まともに動ける者がいるだろうか。なにより、中学一年生である彼が碌な医療知識を持っているわけがない。
もう少しだけ、力があればどうにかなっただろうか。違うだろう、いくら強くても、教師である大當寺は彼を気遣って休息の時間を取り一人になった。
ではなにか、異能力。それさえあれば彼は救えたか。それに対する否定はない。火炎、重力、暗黒、意識操作、超常言われる現象が起こせるそれらに限界はきっとない。
だからこそ、幾田は悔やんだ、嘆いた、悲しんだ。
幾田に備わった異能力はそれらを成せないほどちっぽけなものだったから……ではない。
「俺が、未判明≪アンノウン≫じゃなけりゃ……!」
未判明、能力の詳細はおろか、彼を能力者たら占めているのは今は血に濡れた左腕にある痣のみ。そんな人間に贈られる称号が今はとても憎い。
何ができるなんて彼が知りたい、けれど未判明であるからこその無限の可能性。
その無限の可能性が、今は彼を押しつぶそうとする。
「ちくしょう、ちくしょう!」
何度も何度も痣を殴る、こんな物が無ければ彼はここにいなかった。そうなれば幾田の代わりに誰かが参加させられて、その人が先生を助けられたかもしれない。
憎悪を止める者はもはやいない、それが少年を自傷に走らせる。既に痣の周りは赤く染まり腫れていたがこんなもの、教師が感じた痛みには程遠いだろう。
「……」
視界が逸れた先、近くに置いてあった段ボール。そこには二人で隠そうとした凶器が山ほど眠っているはずだ。
ちょうどよく、段ボールの上に一つ黒い箱が置いてある。開けてみれば、鋭利なナイフが一本手にできた。うつろな目で、それを右手に握りしめた。
大當寺が見ていれば殴ってでも止めるだろう、だが悲しいかな。骸は何も言わない。
大きく、右手を振りかぶった。
「こんなの……!!」
彼は、痣に向かって振り下した。
◇
-高等部校舎2階・廊下
油断はしない、そんなものは最初で吹き飛んでいる。けれどそれでも、いつ死ぬかはわからない。
いくら強い能力を持っていようが、所詮はただの人間。それこそ階段から転げ落ちでもすれば簡単に死ぬ。
銃なんてものを使わなくても、鈍器、あるいは果物を切るためのナイフであっても、人は死ぬのだ。
「……伊与田さん、だっけ」
「……えぇ、そうですね。今朝方ぶりでしょうか」
だからこそ、重力を操る彼の前では、
木刀を構え、姿勢を崩さない彼の前では、
伊与田は決して気を緩ませたりなどしない。例え作戦が読まれ、深魅たちが注意を引き付けている内に一気にという目論見が崩れても、気丈にふるまい仲間を鼓舞しなければならない。
そうでなければ、岩館は鴬崎は、あるいは自分は……明日にでも土の中に埋められる命になる。
「ふ、二人だけ!? あっちに割くにしても人数間違えたんじゃないの!」
「うーん、光原先輩はともかく、あっちのメガネの能力が分からないと面倒っすね」
そう、あちらが光原、そして木刀を構えている播磨の二人のみ。数の利は確かに東軍側にある。
しかし、駄目なのだ。そもそも東軍はガタイがよく筋力もある千晴川、ロッカールームから偶々銃器を引き当てた深魅と比べるとどうしても岩館、鴬崎は戦闘に向いていない。
あくまでこれは、襲撃をかけ瞬時に一人を葬り、その後の逃走を考えた編成なのだ。
伊与田は能力の面で少々強いかもしれないが、それでも播磨が戦闘タイプであれば戦力的に負けていることもありうる。
「……光原先輩」
「うん。前は任せるよ」
構えが素人のそれではない、その程度ならば知識がない伊与田でもわかる。今夜数を減らし、タイムリミットを引き延ばす役割を負うのは東軍かもしれない。
静かに彼女は息をのんで足元、廊下の窓から差し込む月明りによって作られた自身の影を見る。
「……お願いね」
影が少し揺らめいたよう見えたのは、きっと見間違えではない。
これまたロッカールームから入手した短剣を握りしめ、二人を見据えた。
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- Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限8/9 更新】 ( No.20 )
- 日時: 2018/03/21 20:09
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: D.48ZWS.)
- 参照: http://リク板にて企画開催中
第一限「嘘つきと早退者」8.5/9
走れ、走れ、それでも息を切らすな。
血に塗れたその体でも、まだ先延ばしにできる命があるはずだ。自分なんてもう信用はできない。だがそれでも、信用できる人の言葉がある。思いを知っている、なら動くんだ。
彼の犠牲で出来た猶予をかみしめろ、始まってしまった戦いを止めろ。
そうでなければ、この身は罪への意識でつぶれてしまうだろう……。
泣く暇があれば、嘆く時間があれば、とにかく動くんだ。
向かうは校舎、一秒でも早く……。
——また、銃声が聞こえた。
それに反応してしまい、少年は大きく体制を崩して勢いよく地面を転がる。硬い地面と砂利によって体のあちこちを擦りむく。
だが、止まるわけにはいかない。直ぐに起き上がり、痛みに耐えながら深呼吸をして体制を整える。
するとどういう訳か、擦りむいてできたはずの傷が綺麗さっぱりに消えていくではないか。まるで魔法のような光景を見てなお、少年の顔は浮かないどころか余計に険しいものとなる。
「……っ!」
その数秒後、悲鳴がかすかではあるが耳に入る。どうやら先ほどの銃声と同じ方角、慌ててそちらを見やる。
すると、遠くからでも校舎の一階部分で何かが光っていることが確認できた。どうにも彼にはそれが単なる明かりには見えなかった。
「——あそこか!」
思いっきり地面を蹴って、腕を振って、自分にできる全速力へと……。
夜の学園を少年は、その光に向かって一直線に走り抜けていった。
◇
--高等部校舎一階・廊下
数の利は凄まじいものだ。よほどの体格の差、体重の差でもない限り二人を相手にすればまず勝ち目は薄いだろう。
では三人は、四人はとなれば、どうだろうか。
その状況に置かれた千晴川はまさしく、窮地に立たされているといって過言ではない。
ほんの少し前まで数では同じだと思っていた相手が突如として、その数を二倍以上に増やす。そんな悪夢を目の当たりにしていた。
「愉快な仲間達≪ユーモラスフレンズ≫、その反応を見るにこれは知られてなかったみたいだね」
「……分身かよ。幻覚ってことは……無さそうだなぁ」
「さぁてどうだろう、案外触れば水に溶ける綿菓子の如く消え失せるかしれないよ。それこそ愉快に笑いながらね」
窓から入る弱い月明りに照らされ、彼らはそこにいる。
その中でも西軍の最上級生、羽馬詩杏。彼女は千晴川達——二人をせき止めるように、廊下のど真ん中に立っていた。それも三人、自分と瓜二つな人間を並べてだ。
この世にはそっくりな人間が三人はいる、なんて与太話を思い出す。だがそれらはそっくり人間、というよりかは羽馬の姿をコピーした操り人形といったほうが正しいのかもしれない。
その後ろに隠れている三星は何故か心なし誇らしげな顔をしているが、分身を数に入れれば五対二。圧倒的だからこそにじみ出る余裕があるのだろう。
千晴川は勿論、彼から少し離れて後ろに立つ深魅も冷や汗を隠せない。彼女らが無手ならばまだマシなのだろうが、羽馬とその分身たちは仲良くスタンガン、催涙スプレーと思わしき缶を構えている。迂闊によれば涙を流して痺れるのみだ。
「……まあでも、この距離なら当たりそうだね」
「頼むぜ深魅、流石に鉄パイプだけ振り回してどうにかなりそうな相手じゃあない」
「——シーちゃん先輩! 銃ですよ!」
「あぁ、美術部の看板を背負う人が持っているとは思わなかったな。手は痛まないのかい」
「……そうは言ってられない程度には命の危機でね。本体は、喋っている君でいいのかな?」
「それも無回答とさせてもらうよ、案外ここに本体はいないのかもよ」
東軍に勝機があるとすれば、それは深魅の両手に握られていた。開戦の合図にもなった拳銃、その銃口をゆっくりと上げて、本体らしき羽馬に向ける。
羽馬はそれでも表情一つ変えずに、飄々と軽口を飛ばしてみせる。それは自信の表れか、それともはったりか。
残る銃弾は七発、それでもこの場にいる全員に当てても残る数だ何より距離は数メートル離れているだけ、屋上に向けて放った時と命中率は雲泥の差である。
そんな中銃口が向いて、それでも焦らない……拳銃を握る深魅の思考に疑念が走るが、それでも彼女は銃身を向ける相手を変えはしない。
「……案外、方は早く着きそうだね。アカリちゃん、手筈の通りに」
「はい!」
「深魅」
「分かってる、そっちこそ焦って暗くしないで欲しいな。流石にシモヘイヘの様に、とはいかないんだ」
「しもへい……まぁいいや」
千晴川の暗視装置は相変わらず機能している。重力攻撃の際には地面に強打しても問題がないほどの頑丈さを見せはしたが、今現在の状況では驚愕暗転装置は使えない。スプレーのような物は暗闇の中でも効力を発揮し、更に暗闇の中では深魅のサポートが受けられないからだ。
お互い作戦を確認しあい、その上で自分は出来ると心の底で勇気づける。
自然に皆、握りしめる力が強くなる。拳銃を、ボールを、鉄パイプを、スタンガンとスプレーを。
踏み込みのため、膝がほんの少し角度をつけ、前を見据える。あるいは下がるため、踵に力が入り、重心が後ろ寄りになる。
「……ところで、一つ聞いておきたいことがあるんだけど」
「へぇ?」
羽馬はそんな中でも一つ、気になったことがあったと突如として訪ねごとをした。どうせこの後にはそんな状況はなくなるのだから、貴重なこの場で聞いておくべきだろうと思ったのか。
少し千晴川たちは眉をひそめたが、特にそれを邪魔をしようとはしない。
「いや、やっぱりいいや。聞いても多分、分かり切ってる」
「……そうかい」
しかし、彼女はそれを口にすることはなかった。何故いきなり撃ってきた、などと聞いても高台をとっていれば十二分に理由になりうる。他に理由があったとしても濁されて終わり、核心がつけるわけではない。
我ながら意味のない質問だったと自嘲し、少しスプレー缶を振って話を流す。
だがふと、背後の三星の息遣いがゆったりとしたものになるのを感じ、丁度いい時間稼ぎになったことに気が付くと口元を僅かばかりだが緩ませた。
「──ッ!」
撃鉄が上がる、瞬間羽馬は体を傾けた。
——銃声が耳をつんざく、銃口から体を逸らしておけば当たることはない、なんてどこかの本に書いてあった知識を思い浮かべていた。
けどやっぱり、当てにならない。タイミングを狙ってみてもこうして当たるじゃないかと恨み言一つ、苦悶の声と共に吐いた。
鮮血が舞い、赤は後ろにいた三星にまで降りかかる。ルールを理解した時から覚悟は出来ていた、そんな彼女でも先輩が撃たれたという事実に一瞬動きを止めた。
「……ぃきな」
「——っ、はい!」
痛みと眩暈、急な脱力感にふら付きながら彼女は指示を飛ばす。
左肩を撃ち抜かれてなお、彼女は歯を食いしばってその二本足で立ってみせた。持っていた道具を放して、撃ち抜かれたところの近くを握りしめ、千晴川達をその眼光で射貫く。
促され三星が走り出すとほぼ同時に、分身たちは彼女を隠す様に前を行き千晴川達に迫る。銃撃後を狙っての物量作戦だ。
「下がるぞ!」
「もちろん」
対して東軍は千晴川前衛とし、引き撃ちでその数を減らそうとしていた。銃の反動に顔を顰めながらも、深魅は後ろにステップをして下がっていく。その間にも再び狙いを定めようとしているが、やはり初心者には難しく銃身がぶれて使い物にならない。
その隙を逃がすものか、ボールを握る三星の右手に橙色の炎が灯る。分身たちはスタンガンの前に構え、当たれば直ぐに痺れさせる気だ。
追いつかれるわけにはいかない、千晴川も後ろに走るが……鉄パイプを持っていては流石に遅い。
ついに分身の一人が射程圏内にまで入り、千晴川に右手のスタンガンを伸ばした。
「——ちっ、そらっ!」
分身たちが思いのほか直線的な行動をとってくれたおかげか、対処は容易に出来る。
千晴川は鉄パイプで薙いで躱す。すると分身の体は鉄パイプが当たった横っ腹から上半身と下半身を二分するように裂けた。
耐久力はそれほどではないのか、そう考えてしまうのも隙であった。
裂けて宙を浮いたかと思った羽馬の分身は、上半身だけになっても道具を捨て、千晴川にしがみついてきたのだ。
「なっ!?」
そんな突然ことに姿勢が崩れなかったのは流石といえる。だが更に荷物が増えてしまった千晴川に対し、残りの分身たちが近づいて催涙スプレーを吹きかけてくる。
激痛が皮膚のあちこちに走り呼吸もままならなくなるが……まだ終わりではない。
「千晴川!」
「——アタシの炎で燃え尽きろっ!!」
三星はその一投に様々な思いを込め、炎を纏ったボールを投げつけた。
炎の玉は一秒も満たない間に千晴川に着弾し……次の瞬間、催涙スプレーのガスに炎が引火する。
スプレーを吹き付けていた分身、そして中心にいた千晴川、それら全てを飲み込み……炎は天井をも焼き尽くす勢いで燃え上がった。
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お知らせ 9/9は二回に分けて投稿いたします。これも全て文字数が少なすぎるプロットを作ったわしが悪いのです。
ちなみに現在リク板のスレに手リクエスト企画を受け付けています。読者様、オリキャラ作成者関係なくリクエストは出せますのでよろしくお願いいたします。