複雑・ファジー小説

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【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
日時: 2019/03/29 13:00
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989

——この戦争はきっと、ありふれていた 


*****
 はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
 今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
 

 詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
 
・世界観
 あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
 そんな学園で起きた、一つの事件。

・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。

 以上


・目次 
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46

-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
 >>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
 >>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25

・第二限「ゆびきり」
 >>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45

・第三限「終末世界のラブソング」
 >>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)

・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様 
-siyaruden様 宛 更新 12/17


・イラスト等について
 >>18
 こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。

 >>52
 感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!


・異能学園戦争参加者名簿

 東軍
・岩館 なずな  by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架   by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音  by siyarudenさん

 西軍
・三星 アカリ  by透さん
・播磨 海  byみかんさん
・栂原 修    by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏  by波坂さん

 無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央  by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯  by サニ。さん
・大當寺 亮平  by 黄色サボテンさん

・コメント随時募集中!

(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました

Re:【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限4/9 更新】 ( No.11 )
日時: 2018/02/10 13:06
名前: くりゅう (ID: /1jhe2RQ)

3日に1回の更新お疲れ様です!
いつも通俺さんの文章力が神すぎて何度も小説を読み返しているくりゅうですw

幾田君と西軍の子たちが本当に可愛い!皆、なんか…こう……とにかく可愛いんです!(語彙力が無くてすみませんw)
みんな死んでほしくないなぁ、とか呑気なこと考えてたんですけど誰も死ななかったら強制終了で結局みんな死んじゃうんですよね…そこも含めてだからこそ面白いんですけどね。

個人的に好きなのが塚本ゆりちゃんなんですよね。自分のオリキャラじゃないっていうw
この状況の中、本を読むっていうマイペースさは誰にも敵いませんね…そしてそれを見た東軍の人たちとの掛け合いが最高です!パソコンの前で爆笑して親に冷たい目で見られました。

これからの展開、本当に楽しみにしてます!

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限4/9 更新】 ( No.12 )
日時: 2018/03/06 21:07
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)
参照: http://感想についてはリク板で返させていただきます

第一限「嘘つきと早退者」4.5/9


-高等部校舎 屋上

 結論から言って、幾田たちは電波塔の破壊に成功した。
 屋上まで昇りつめた一行は、大當寺のワイヤーなどの装備を駆使し根元からぽきりと折った。普段、癇癪を起こした生徒の能力の対応など荒事が多いという大當寺をしてかなり苦労したが、それでも破壊は可能だった。
 ……実の所、幾田は何もすることがなく、殆ど大當寺の一人仕事であるというのは秘密である。
 折れた電波塔は、大きく音を立てて屋上に叩きつられ、しばし振動をとても小さな達成感と共に伝えて来た。その振動が、図書室での一件に関わっているなど思いもよらないだろう。

「……」

 だが、それだけだ。
 変化など訪れるはずもないことをして、心に来ないはずがない。それを破壊したところで、別に悔しがる黒幕の声も、ましてや首輪が外れるわけでもない。
 それどころか、大當寺の推測が外れていれば電波塔を破壊するのが実は悪手だった、なんてこともありえた。
 けれど、大當寺はそれに心配するそぶりを見せていなかった。

「——ぃよしっ次はー……お、なんだ? 購買棟にも電波塔があるぞ」
「あれほんとだ、今気が付きました。学園にはなかったですよね、ああ前の……いや本当の?」
「ここが学園だなんて間違えても認めたくはないな。教師もいなけりゃ何も教えようしないでただ閉じ込めて、死ぬのを待つなんてただの監獄だ」
「そう、ですよね。じゃあここは——」
「どうせ上手くいけばあと一日もせずにここから出られるんだ。呼び名なんて後から決めればいい、だろ?」
「っ、はい!」

 それは幾田を心配してか、それとも単に思っていなかったか。それとも単純に彼自身そういうのを表に出さない性格なだけか。とにかく彼は、破壊した電波塔の残骸を屋上の片隅に寄せつつ、次の目標を見つけていた。
 校舎を挟み、無所属のコテージとは反対側。北側に聳え立つ無機質な建物を見る。
 三階建て、学園の生徒の多くが普段通っていたはずの購買棟。校舎ともつながっていて、校舎の三階部分からコンクリートで出来た連絡用通路がしっかりと購買棟に届いていた。わざわざ一階まで降りる必要性が無い、というのはありがたいことだろう。
 幾田の記憶が正しければ、そんなものはなかったはずだと言えたがまあ今更ではあるだろう。それに購買棟にはそれ以外の差異があったのだから。
 今しがた破壊したものよりも頑丈そうに見える電波塔、それが生える購買棟へと二人は向かっていくのであった。

 ——仮にだが、ここで彼らが2階以下に降りていればロッカールームでは栂原。図書室に行けば塚本の言葉に荒れている三人、それに戸惑っている二人という東軍の集団にも出会えたのだが幾田たちには知る由もないことである。


 ◇


 連絡用通路を通り、二人は購買棟三階、衛生材料売り場にやってきていた。絆創膏やガーゼ、包帯。はたまた消毒用のアルコール。主に運動部がよく利用する場所だ。
 特に変わった様子はない……わけがない。碌に来たこともない幾田すら分かる変化が多すぎて有り余る。

「な、なんか全体的に多くないですか……?」
「『使う』ことを想定してんだろうなぁ、胸糞悪い」

 山、山、山……どんな種類のものですら明らかに過剰と分かる程の量が棚に詰め込まれていたり、あるいはカゴ、ワゴンに積まれていたりしていて見苦しい。一体なぜこんなことに、幾田は疑問に思ったが、大當寺が出した正解に近いであろうそれに身を震わす。
 仮にAIが想定するような事態になった場合、こういった物はあって無駄なことは無いのだろう。
 今は物であふれているがそのうち……幾田はそこまで考えて一旦思考を打ち切った。またいつのまにか離れた位置にいた大當寺が声をかけて来たからである。

「幾田—、屋上行く前とりあえず誰か隠れてないか探すぞ」
「あ、わかりましたー!」
「とりあえず俺はこっちの端から探すー」
「じゃあ俺はこっからやりますー」

 それを言い終えるとさっさと大當寺は探索を始めた。怪しいところはないか、人が隠れられそうな場所はないか、棚の後ろを見ようとしたり隠し扉を探したりしている。やはり切り替えが早い、そんな風に思いながらも幾田もするべきことを始める。
 学園内の施設にしては……といっても異能学園以外のという文言が付くが、そこそこに広いこの衛材売り場、人が隠れられる場所は……皆目見当もつかない。
 そもそも彼はここに来るのはまだ三回目である、わかるはずもない。
 ではどうするべきか、至極単純に言って……しらみつぶしである。
 
「……ま、まさかこの薬の山になんてなぁ」

 彼の目の前には頭痛、胃痛薬、あるいは包帯などが乱雑に山積みにされたワゴンがある。確かに、その中にならば人一人程度なら隠れられそうだが、はたしてそこに隠れる意味はあるのか。そう言われたらきっと幾田はなにも返せない。
 そんなこと言っても見当もつかないのだ、と彼はワゴンの山を解体し始めた。どうせこれから辺りの山や棚全てを探していくのだ、わざわざここを抜かす意味はないとでも思ったのだろう。
 きっと他の生徒が見れば揶揄われる程度には間抜けに見える。

「ん? なんだこれ」

 けれど、現実は彼に成果を与えた。片っ端から上にあった物をどけていくうちに一つ、長方形の黒い箱が出て来た。ラベルもないそれは、どう見ても薬の類には見えない。
 怪しいと思った彼はそれを持ち上げ、決して空き箱ではありえない重みを感じる。空箱ではないなら一体何なんだ、と幾田はそれを耳に寄せ軽く振ってみる。
 音はしない、しかし手を下に引く重さからもしかして、厳重に梱包されているのかもしれない。気になったら見てみよう、怖いものではないといいな。恐る恐るそれを開けようとする。

「——幾田ー?」
「っはぃ!? ……ああ先生、びっくりしたじゃないですか」
「悪い悪い、少し気になるものがあったからこっちに来てくれ」

 心のどこかで黒箱を危険なものと認識していたからであろうか、後方から聞こえて来た声に何故か焦ってしまい声が上ずる。その様子を見て、少し遠くにいた大當寺は軽く笑った。
 またもや彼の言葉により一旦作業を止めることになった幾田、黒箱を小脇に抱えて先生のもとへと走り寄る。
 大當寺はやはり棚の後ろや床に何かが隠されていないか、それを重点的に見ていたようだ。彼の周りには位置がずれているワゴンなどが見える。
 だが、そんな事よりも幾田にはもっと気になるものが見えていた。それは、大當寺の足元近くに小さい溜まりを作っていた。
 水たまり、というには少々色がおかしい、黒い液体であるそれは粘度も高そうだが……数秒で幾田の知識でもある程度の予測は建てられたが、何故そんなものがあるのかと疑問符が浮かぶばかりである。

「黒い絵の具……ですかね」
「厳密には違うが……あぁ触らない方がいい。害はないはずだが一応な」
「う、すみません」

 危うく、好奇心から手を伸ばしてしまうところだったと幾田は己の不用心さを戒めた。
 それと同時に幾田は、大當寺がまるで謎の液体の性質を理解しているかのような言い方が気になる。

「……あれ、もしかしてこれが何か知ってるんですか先生」
「ん、あーそうだな分かるぞ。なぁ幾田、鳥海って子知ってるか?」
「え? と、鳥海って——あぁ! あの全身黒づくめの先輩ですか」

 無所属、鳥海天戯とりうみあまぎ。頭の中に朧気ではあるが幾田は一人、足下から首回りまで全て黒で肌を隠していた女性を思い浮かべた。確かルール説明の際に一番遅れてやってきていた人、というのが幾田の印象だ。
 唐突なフリに少年は困惑を隠せないが、一体それがこの絵の具らしきものと一体何か関係があるのだろうかと。
 その感情を読んだのか、大當寺はその場にしゃがみ込みながら情報を与える。

「——溶血性漆黒病≪ペインツ・オブ・ブラックブラッド≫、触れた物全てをこんな液体に変える……彼女の能力だ」
「……え、ってことは鳥海先輩がこの辺に、というかこの絵の具っぽいのも元は物かなんかだったんですか」
「そういうことになるが、ほらこれだ。多分だがこの箱に入ってたんだろう」
「あ……黒箱」

 幾田は絵の具の方にばかり目を取られていたが、大當寺はその手に幾田が持っていた物とはまた違う黒い箱を持っていた。幾田の物よりも少々大きいだろうそれは今開いていて、中には何も入っていないことがわかる。
 鳥海はこの中身を溶かしてしまったということなんだろうか。それはなぜだと思うよりも先に、幾田は脇に抱えていた方の黒箱を大當寺にも見えるように胸の前まで持ってくる。それにつられ、大當寺も立ち上がった。
 
「中が少し気になるが——って幾田、もう見つけてたのか。中身もあるみたいだな」
「はい、少し怖いですけど……開けますね」
「代わろうか?」
「いや……大丈夫です」

 何故彼女がそんなことをしたのか、知るべきだという理由も得た。今度は近くに大當寺もいる。そのことに勇気をもらい、彼はゆっくりと箱を開ける。
 最初に見えたのは白い……いや単なる発泡スチロールだ。恐らくは梱包材だろう、そんなことはどうでもいい。
 蓋を少しずつ上に持っていき、漸く二人は中身が何なのかを理解する。
 幾田は息をのみ、大當寺はその目の笑みを止めた。


********
-前:>>9 「嘘つきと早退者」 4/9
-次:>>14 「嘘つきと早退者」5/9

お詫び:
 どうも通俺です、本当に申し訳ないのですが今回登校するものを加筆修正などしていたら一回分ぐらい伸びてしまって……。なので今回は4.5/9として投稿させていただきました。
 本来あってはならないとは思うのですが、今の感じだとまた一話分伸びそうなところがあるなぁと戦々恐々です。その際はまた0.5投稿させていただきます。申し訳ないです。

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限4.5/9 更新】 ( No.13 )
日時: 2018/02/14 21:19
名前: 柞井 五百四十八郎 (ID: flo5Q4NM)

俺の栂ちゃんの登場が想像以上に早くて高揚しました! チョコレートを一気食いしたみたいな感覚です(語彙力の欠如)。
実は生き甲斐なので更新の度に見ています。ちなみに自分は大當寺さん推しですね、彼にとってはある意味デスゲーム自体が敵であり、また、それに臆することなく冷静に立ち向かっているのが流石は大人、子供との違いを体現しているようでとても好きです。
彼の存在が作中でどんな意味を持つのか勝手ながら妄想しています。なんか他愛もない感想ですみません。期待しております。

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限4.5/9 更新】 ( No.14 )
日時: 2018/02/20 23:25
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)

第一限「嘘つきと早退者」5/9

 幾田はここまで来てようやく、この状況にあった異物を見た。それはきっと、まず日常生活ではそうそう見ない物。いや探そうと思えば手に入るかもしれない、だが少なくとも平和で平凡な生活を送ってきた幾田には似合わないものだ。

「な、ナイフ?」
「携帯性の高い、折り畳みが可能な奴だな……本当に腹が立つ」
「……もしかして」

 黒い柄におもちゃではないと分かる金属光沢を放つ、まぎれもないナイフだ。幾田は嫌な予感がし、ナイフが入った箱を大當寺に預け周りの棚に手を伸ばす。
 少し雑になりながらも商品をどけていけば、既視感を覚えるほどにそっくりな黒い箱が埋まっていた。それを取り出してまた大當寺の前で、今度はためらいもなく開ける。
 
「包丁……」
「……あぁ、そういうことか……くそ」

 やはり玩具とは到底思えない刃物が一つ、幾田はどういった理由で衛材の中に隠されているのかと考えたが、それよりも先に大當寺が答えを出したようだ。
 少し音を立てて、彼は深呼吸をした。気持ちを落ち着かせるためだろうか、その後幾田に話しかける。

「幾田、今は探索ってことでここに来てるが、普通に考えてこんな状況でわざわざ衛材売り場に来るとしたら何だと思う」
「え、えーとよっぽどの心配症か……手当てが必要な状態になったからだと思います」

 健康なものは態々衛材売り場になんて来ない。であれば「もしかしたら必要になるかもしれない」という者か、考えたくはないが誰かに襲われるなりなんなりで怪我を負った者、あるいはその仲間だ。
 そんな彼らは、心配から、また必要になるかもしれないという思いから、それなりの量を持っていこうとするだろう。

「じゃあ、そんな奴らが凶器なんて見つけたら、どうなると思う」
「っ! ……多分ですけど持っていくと思います」
「……そうだよな」

 心配していれば、護身用と自分に言い聞かせて持っていくのだろう。自分がやられた、仲間がやられた者は反撃するために、仕返しのために持っていくのだろう。
 幾田自身も、大當寺と協力できず一人でこの場に来ていたら間違いなく持って行っただろう。
 そんな卑劣な仕掛けの前に、幾田はただ愕然とするばかりであった。
 これは、生徒たちの気持ちを利用するために仕掛けられた罠なのだ。一気に気分が沈み込むのを感じたが、そんな罠があったのであればなおさら動きを止めてはいけないと幾田は気持ちを切り替える。

「……出来ればこの階にある凶器を全部見つけて手の届かないところに移しておきたいんだが」
「じゃ、じゃあ先生は今のうちに二階,一階の方に……その、鳥海先輩もいるかもしれませんし」
「そうだな、何のために来たかはわかんないが」
「凶器を溶かしているなら、協力できるかもしれませんね」
「……そうだといいんだが」
「?」

 大當寺が言葉を濁したのを不思議に思ったが、とにかく今は行動である。幾田はさっさと近くにあったワゴン等を漁り始め、黒箱を見つける度にそれを絵の具溜まりの近くに置いていく。
 それを見て、大當寺は幾田に何かあればすぐ大声を出すように伝え、下の階へと降りて探索を続けに行くのであった。



 
「……ん、ありゃあ」
 
 三階は衛材売り場、そして一階は食べ盛りの高等部の生徒、教員や職員たち為の食堂。では二階は、といえば軽食や文房具などが置いてある売店である。
 そこで大當寺が真っ先に見つけたものと言えば、誰かがいたという痕跡である。衛材の階と同じように、大量の菓子やら飲み物が陳列されていたが……一部の棚のみ、明らかに減っている。
 きっと、誰かが持って行ったのだろう。そう推測するのは至極当たり前のことだった。
 では誰が、と大當寺はその棚に近づき何が持っていかれたのかを確認する。

「これは……!」

 乾燥されていて日持ちのする栄養食、大當寺も普段世話になっている物だと気が付いた時大當寺は焦る。
 ゼリータイプもクッキータイプも満遍なく、三十数個づつもっていかれている。カゴでも使って持って行ったのだろうか。かなりの大荷物だったはずだ。
 他のパンやおにぎりなどの軽食に手を付けられていない所を見るに、ただ食料が欲しいから持っていっただけではない。
 
——明らかに、長期戦になることを考慮してやがる!

 AIから提示されたタイムリミットは一日、しかし死者が出れば出るほどこの時間は延長される。その最長は参加者15人のうち死者14名、最後の一人になった時直ぐに終わることを考慮した時、最大にして13人分の延長が入るはずなのだ。一人の命につき一日、つまり1+13で14日まで続くわけだ。
 これを持って行ったものはそれを考慮していると考えて間違いない。先を見据えている、というのは聞こえがいいが裏を返せば「死者が出る」ことを前提に動いている。
 ……最悪なのは「死者を出して生き残る」という考えだった時で——、
 
「……ふぅ。いや、もう一つあったか」

 そこまで考えて、大當寺は思考が傾きすぎていることに気が付いた。いつのまにかこの異様な空気にのまれていたのか、落ち着かせるためにも一つ、慣れたように深呼吸を取る。
 効果はてきめん、彼は理性を取り戻して探索を再開。その間も更なる可能性の方も考え始める。
 確実に、三階には来ていただろう人物。
 それは、この行為をしたのが先ほど幾田にも説明した鳥海 天戯だった時だ。
 
『……なんで授業に出なくちゃいけないの?』

 不意に彼は、最後に彼女と会話した時のことを思い出していた。鳥海は、寮の自室にこもり、授業を欠席することが半ば当たり前になっている生徒であった。
 生活指導員でもある彼は、何度か彼女の説得に向かった。能力者として開花した生徒たちの一部には異端なものとして扱われ、心に大きく傷を負った者たちもいて、大當寺は教師としてだけではなく、一人の人間としても心を砕いていた。
 それでも、彼女の心の壁を取り除くこと難しかった。

『栄養が偏る? どうでもいい』

 その際に見た、彼女の部屋の異質さをよく覚えている。
 無造作に段ボールが置かれているかと思いきや、中には大量の栄養食。もしやと思い聞けば彼女は三食全てをそれで済ませていたらしい。
 無くなれば注文し届けてもらう、極限にまで外に出る回数を減らすための策だったのだ。
 だがここは配達サービスなんてあるはずもない異質な空間だ。彼女が食料補充のため、購買棟にまで出てくることはなにもおかしくない。

『この先どうする気なんだって、なるようにしかならないよ』

 そして、彼女の性格を考えるに態々張り切って殺し合いに参戦する訳がない。そんな馬鹿げたことは勝手にやってて、そう投げ捨て自室に籠るだけ。
 仲間になってくれるわけではないが、敵になる訳でもない。
 この可能性が正解であることを彼は祈った。
 いくら教師である大當寺と言えど、今この状態では早く黒幕を探し出す、もしくはその時間制限自体を意味がないことにすることが最優先だ。
 生徒たちの殺し合いを止めていては到底時間が足りない、それ故に彼は幾田を仲間にするとすぐに行動を始めたのだ。
 
「東軍はかしこい、西軍は危ないが殺し合いができるっていうわけじゃあない」

 大當寺は思考を外に漏らしながら、この階に何か別の物が隠れていないか探る。
 人は集団になればなるほど、思考が鈍る。それはこの場において危険なことではあるが、両軍ともいきなり殺し合いを始めようとする人間はいなかったはず。
 彼の予想では、殺し合いが起きるのは夜のアナウンスが過ぎた後だ。そこまではきっと皆沈黙を保つ。
 だがアナウンスで死者が出ていないことを知らされ、タイムリミットの存在を改めて認識した瞬間……火蓋は落ちる。
 彼が今まで面倒を見て来た者だけではない、未来のある大切な生徒たち。それらが互いに武器を持ち、備わった能力で殺しあうのだ。彼に看過できるはずがない。

「どこに、どこにいやがる。どうすればいい、考えろ……」

 既に時刻は正午を過ぎようとしていたが、収穫と言えば意味があるかどうかもわからない電波塔の破壊のみ。
 争いを止める手段は彼はいまだ持ち合わせていなかった。


********
-前:>>12 「嘘つきと早退者」 4.5/9
-次:>>15 投稿予定「嘘つきと早退者」6/9

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限5/9 更新】 ( No.15 )
日時: 2018/02/23 23:41
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)

第一限「嘘つきと早退者」6/9


-東軍、千晴川八三雲のコテージ


 購買棟での探索が終わり、幾田たちが学園内を走り回っていた頃のこと。東軍所属の五名は謎の流れによって千晴川の部屋に集まり、皆部屋に敷かれたマットに薄めの座布団を置いて座り込んでいた。
 ……より正確に言えば、誰かのコテージに集まろうとなった時、他四名が入室に難色を示しただけだ。女子はともかく、鴬崎すらも嫌がったのはいったいなぜなのかと千晴川はしばし首をかしげていた。
 四人にとって当然のことだが、初めて千晴川の部屋に入ったわけだ……第一印象は恐らくいいものではない。家具に遊びはなく必要だから置いた、ただそれだけということがひしひしと伝わる配置。利便性のみを追求している。
 テレビとパソコンが二台置かれてはいるが、他には男子らしい漫画も置いてない。精々の特徴と言えば、筋トレ用具が複数あったり……少し照明器具の類が多いと感じる程度だろうか。
 どうにも生活感を感じない、不思議な部屋だ。
 
「……いけない、今お茶を淹れますね」
「あ、ならあたしも!」
「ん、なら部屋主のオレがやんぞ? ついでに食器の整理もしとかねーと……」
「……先輩」
「あはは、中々に愉快だね」

 あまりに何もない部屋に何とコメントしていいかわからず、気を紛らわすためにも茶を淹れることを提言、それに乗っかる岩館。だが至極正論でそれを封じ、さっさと千晴川はキッチンの方へと行ってしまった。
 その様子に少々の苦言を零しかける鴬崎、愉快と言いながらもあまり目元が笑っていない深魅。どうみても五人の関係は良好とは言い難く、岩館とエリーズ以外はいまだ少し距離が開いていた。
 当然と言えば当然なのだが、まだ彼らはあって半日も経っておらず、出会った場は生徒同士殺し合いを奨励するようなところだ。これで仲良く会話をし始める方がおかしいということだ。
 だが、彼らは数時間前に大當寺が考えていた通り賢い。仲が悪いから、という理由で話し合いをしないわけがない。全員が全員、生き残るためには協力しなければと考えていることだろう。
 しばらくして、千晴川が人数分の茶を淹れて帰ってくるとそれをきっかけに話し合いが始まる。その際、全員分の湯飲みがなかったのかコップがバラバラだったが、流石にそれについて何か言われることはなかった。

「……そんで、これからどうすっかだよなぁ」
「そういやまだちゃんと聞けてなかったんすけど……千晴川先輩、その塚本さんってのが話したことは本当って信じていいんすか?」
「そりゃ嘘だと信じたいが、本当のことを言っている風に見えたなぁ」
「あたしも同じで、仕草こそふざけてましたけど冗談とは思えませんでした」
「まさか西軍が、とはね……」

 ルール説明の際、どうみても西軍は殺し合いをいきなり始めるようには見えなかった。むしろメガホン片手に平和を訴えるのではと思うほどの能天気軍団、それが東軍共通の見解。だからこそ、塚本の話は寝耳に水であり衝撃は大きかった。
 西軍が東軍に襲撃を仕掛ける、下手な冗談と突っぱねるほどのもの。それが二人が図書室で千晴川たちと合流した際に聞かされ、更には「嘘ではないだろう」と三人が言い切っていた。
 精神があまり強いとは思われていない岩館のみならまだしも、常に冷静を保っているように見える伊与田までもが言えば話が違う。
 ——先ほどまでは千晴川の言葉にも一定の信頼があったのだが、人の感情の機微に少し疎いように見え、その株は少々落ちていた。

「……それで深魅さんたちは丁度同じころ、西軍の栂原さんに出会ったのですね」
「ああうん、別に攻撃してきたってわけでもないけど。僕が敵と認識してるかどうかも怪しい感じだったよ」
「偶然出会わなかっただけで、別の階に西軍が……いえ、そうだとしてもかなり危険な行為のはず……」
「栂原とはまだ知り合ったばかりだったからなぁ……能力どころか性格もよく知らねぇや」

 栂原の脅威消却を知っているのは本人、そして偶々彼が能力を教えた西軍の光原のみ。同じクラスに在籍していた千晴川すらもまだ知らなかった。
 そのことが益々、東軍から見たときの西軍への恐怖を煽る。塚本がそうしたように、強者ゆえの余裕だったのか。特に千晴川たち三人はそれを強く感じた。
 伊与田は少し視線を落とし、自分が座っている座布団の方を数秒見て、再び四人に向いて襲撃についての疑問を述べる。

「人数の差を考慮して、最初に狙われるのは無所属のはず。……けれどそうしないのは一体なぜでしょう」
「……やっぱり、塚本さんのブラフなんじゃないっすか? それが本当のことなら、彼女が危惧するのはこっちが抵抗できず全滅とはいかないまでも大きく数を減らすこと。つまり西軍が有利になるってことなんでしょーけど……かなり強いって豪語してたんでしょ?」
「5人揃って対等とか言ってたからな……ん? ……いやそれでも西軍が襲撃失敗して数を減らせば十分に利があるはずだ」
「うーん、西軍が無所属狙わないのはなんとなくわかると思うけど?」

 まだ中等部一年であり、精神が未熟であるためかあたふたしている岩館を除き、三人は議論を続ける。塚本と実際に会っていない鴬崎は、相変わらずその証言自体に疑いを向けているが……確証がないので何とも言えない顔をしていた。
 伊与田が疑問に思った、何故先に無所属ではなく東軍なのかということ。無所属の一人の塚本が真に五人組を相手にして互角だというのであれば、他の無所属も一人一人強靭で、それを殺す際に一人でも欠ければ……その先にあるであろう東軍との戦いが不利になるから、がそれらしい回答だろうか。
 そう考えていた際、深魅が伊与田の疑問に答えることができると言い出した。

「ほら、鳥海さんとか」
「あー、広報の仕事してた時にも悪い噂流れてたっけな」
「えっと、どんな人なんです?」
「……流石に中等部にまでは流れないか。いいかい、彼女は普段は学校に来ない人らしいんだけどある日ね——」

 鳥海はまず襲わない、その言葉に納得の意を示した高等部組。
 だが、名前と能力だけは知ってる、ルール説明の時最後にやってきた人でしょ、と岩館は同時刻の幾田と同じような認識であり、それが理解できていなかったため、深魅が彼女について流れている話を一つ伝える。

「——ということなんだ、わかっただろ?」
「……!」

 話し方は軽快に、けれど内容は地よりも深く。芸術家である彼女は岩館の頭の中に描くように、丁寧に説明する。元々話を知っていたはずの残り三人も若干顔を青くするほどに、その怖さをしっかりと伝えきった。
 それを聞き終えた後の岩館は、少し引き気味になりながらも頷いた。
 流石にそんな人をいきなり襲おうなんて考えは誰にも湧かないだろうと思いながら、続きをく姿勢だ。
 
「これで残り四人、次に塚本さんだけど……こっちに接触したってことは西軍にも自分が強いってことを言いに行ってるかもね」

 たとえその発言が嘘だったとしても、そう言いたげにしばし間を開けてから塚本への評価を終える。
 その姿を見て、鴬崎もまたしばし何かを言いたげであったが、右手に持っていたコップを傾け中身のほうじ茶と共にそれを飲み込んだ。

「次に大當寺先生、彼の能力は授業中よく自分で言っていたし、高等部の人ならまず知ってるんじゃないかな。生存能力特化だからあまり狙いたくないね、それに本人の戦闘能力も高いだろうし、ついでに言えば高等部の人だったら能力を知られている可能性も高い」

 これについては自信満々に、最初に狙われる人間ではないとわかっているからだった。どこの世界にいきなりボス級の敵に挑む者がいる。
 彼の強さをよく知っている高等部の人間はこれについて、異論を唱えずにただ続きに耳を傾ける。岩館はやはり納得がいっていない表情だったが、それよりも気がかりなことがあったためかじっとしていた。

「残り二人だけどうち一人は……ええっと榊原……伊央ちゃんだっけか。よく広場で演奏していて人気者だったね」
「その、伊央ちゃんは——」
「大丈夫だよ岩館ちゃん、彼女の能力についての話は中等部じゃ結構有名な話なんだろう? 西軍にも中等部が二人いたから知っている可能性は高いだろうね。リスクが大きすぎてわざわざ狙われることはないだろう。だから残り一人、幾田くんだっけか」

 岩館が榊原の名前に反応し話を遮ろうとするが、そうはさせまいと深魅が押し切る。
 そして彼女を安心させるためか、軽く微笑むと彼女は榊原の危険性を理解している旨を伝え、ついにその名をつぶやいた。同時に、彼らの視線が落ちる。
 そして脳裏には、ルール説明の際、岩館と同じく激しい動揺を見せていた彼の姿が浮かんだことだろう。
 AIの宣告に膝をつき崩れ落ちた、その瞬間を。

「……正直言って、強そうには見えなかったなぁ」

 千晴川の言葉が、深魅を除いた四人の総意でもあった。完全に狙い目に見える、なぜ狙わないのだと問い詰めたいほどだ。
 榊原のように能力で何かを起こしたような噂すらも聞かない、身体能力が高いようにも見えない。
 まるで殺しのチュートリアルのために設置されたような立ち位置だった。

「そりゃ僕も断言はできないけど、西軍が彼を狙わずこっちにってのは……あっちがこれの幾田くん版でも持ってるんじゃないかな? 鍵一本持ってたし、存在には気が付いているはずだよ」
「あぁそうか、鍵持ってロッカールームに来たってことは少なくとも一つ持ってんのか」
「……それは、時系列が逆なのでは……栂原さんが遅れていたということでしょうか」
「実は既に開けてて、なにか忘れ物したから来てたけどごまかした……とか?」

 西軍が最初から幾田のことを知っていたとは考えづらい、ならばどこかで彼についての情報を手に入れる必要があったはずだ。
 何が言いたいのか、察した面々は思い思いに考えを述べる。
 その論議を見て、少し満足げに表情を緩ませた深魅はちゃぶ台に置かれていた三枚のファイルを持ち上げ、顔に近づけた。
 それは、鴬崎たちがロッカールームから手に入れていた、このいかれたゲームの中では命の次に大事といってもいいほどのもの。

「——この、能力レポートをさ」

 その書類にはそれぞれ、鳥海、榊原、光原の顔写真が張り付けられていて……彼らの能力についての詳細が事細かに記されていた。ご丁寧に所有者、名称、あるいは能力を使用した実験例まで添えて……。

「さて、これで僕の話はおしまい。じゃあ次に一番大事なこと……彼らが襲撃してくるしないにしても、僕たちはこの首輪のタイムリミットまで何をするのかってことだ」

 ここから先は、大當寺が予想できなかったこと。アナウンスよりも早く、生命の危機を再認識する出来事があった賢い彼らは、例えどちらに転んでも問題ない戦略を立てようとしていた。


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