複雑・ファジー小説

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【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
日時: 2019/03/29 13:00
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989

——この戦争はきっと、ありふれていた 


*****
 はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
 今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
 

 詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
 
・世界観
 あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
 そんな学園で起きた、一つの事件。

・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。

 以上


・目次 
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46

-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
 >>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
 >>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25

・第二限「ゆびきり」
 >>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45

・第三限「終末世界のラブソング」
 >>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)

・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様 
-siyaruden様 宛 更新 12/17


・イラスト等について
 >>18
 こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。

 >>52
 感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!


・異能学園戦争参加者名簿

 東軍
・岩館 なずな  by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架   by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音  by siyarudenさん

 西軍
・三星 アカリ  by透さん
・播磨 海  byみかんさん
・栂原 修    by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏  by波坂さん

 無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央  by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯  by サニ。さん
・大當寺 亮平  by 黄色サボテンさん

・コメント随時募集中!

(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-4 更新】 ( No.31 )
日時: 2018/04/27 19:26
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: 2rTFGput)
参照: http://明日忙しいので事前にどす

 
第二限「ゆびきり」-5


 振り向けば、そこに居るのは東軍二人組。カメラを首からぶら下げる青年は段ボールを抱え、朱色の髪の女性も両手に大きなビニール袋を抱えていた。物資を運んでいる途中だったのだろうか。

「そこの鍵か、……ほら、僕は美術部だからさ。知らない? ああそう、まあいいや。
息抜きのためにも作業場が欲しくてね。人に入られてたくもないから掛けさせてもらったよ」
「そ、そうですか……」

 袋を丁寧に床に置き、身軽になる。
 カツリカツリと、音を立てて歩く彼女。いきなり声が掛けられたことで驚いている幾田から視線を放さず、距離は徐々に縮まる。そして、彼が正気に戻る頃には手が届くほどにまで迫っていた。
 慌て、幾田は扉の横へ離れ、転ぶ。足がもつれ、無様を晒す。
 ハサミで床に杖を突き、立ち上がる時にはすっかり彼女は扉の近くに居た。

「……もしかして、名前すらも分からないかな。入学したばっかりの子すら知ってたから、少し自惚れていたかもね」
「あ、いや! えっと……深魅、さんですよね」

 高等部美術部の部長、数々のコンクールを受賞してきた凄い人。それが幾田の認識だ。
 新入生と捉えていた人物に名前を覚えられているのが嬉しかったのか、深魅の口元が緩む。
 しかし、幾田の知識は教師である大當寺と行動している際に教えられたものである。決して、彼女の知名度が裏付けされた訳ではないが……知らない方がいい時もある。
 少なくとも、深魅からの感情がマイナスではないということが大事なのだ。

「……ちなみに、中を見せてくれたりと──」
「駄目だね」

 あっさりと彼女は言い切った。
 扉に寄りかかり、横目で幾田を見やる。
 
「言っただろう、息抜きのための作業がしたいんだ。僕の作品が見たいって話ならうれしくもあるけど……」

 違うんだろ。そう残念そうに瞳を閉じる。もし仮に、幾田が彼女の熱心なファンだったならその先を見せてくれたのだろうか。
 東軍の彼女が、と言うのだからまさかそこにAIの一派が潜んでいるとも思えない。流石に東軍とAIがつながっているとは考えたくないが故だが。
 少年がそこに入る必要性は少し薄れる。同時に、今この状況の危うさを認識した。

「(あ、まずい……!)」

 こちらは一人、あちらは二人。二人の能力は不明だが……幾田は能力奪取の詳細、やり方すらいまいちつかめていない。いきなり現れたハサミに引っ張られるよう腕が動いただけだった。
 襲ってくるか、深魅を視界に入れながらも青年、鴬崎の方を見る。
 だが二人とも、その気がないのか構えてすらいない。

「……別に、こっちは戦う気はないよ。単に物資の補給中に音がしたから確認しに来ただけだからね。
──ピーちゃん君は彼に何か話すことはあるかい?」
「うっ……確かにそれで呼んでくださいーて言いましたけど。何もこんな時に呼んでくれなくても……。
俺自身は特になんも、男に興味ないですしー。というか、いつの間にここの鍵なんて手に入れてたんすか先輩?」

 段ボールを抱えたまま首を振るピーちゃん。
 その呼び名に幾田が脳内で疑問符を浮かべる。
 そんなことはさておき、ひとまず戦闘にならないというのはいいことである。昨夜は殺し合いの途中、幾田が呆然としていたせいか碌に情報を得ていない。それどころか質問ばかりされていたような気もする。
 もしかしたら東軍だけが知っているようなものがあるかもしれない。首謀者を捕まえるため探索していることを伝え、知っていることはないか確認すべきだろう。

「……?」

 左膝に痛みを感じた。見れば先ほど転んだ時か、擦り剥いていたようで血が滲み出ていた。
 何のことはない軽い怪我だ。治すため、深呼吸を一つとる。
 再起動、相変わらず精神面の治癒は期待できないが、外傷ならば十全に発揮できた。
 肺に大き空気を送り込み、いらない物全てを吐き出す。行為が終わるとほぼ同時に、傷が消える。
 さてと、と改めて彼らに向き直る。

 ──二人の視線は余すことなく、幾田に突き刺さっていた。
 瞬間、怯む、竦む、悟る。
 今、少年は二人の前で「大當寺亮平の能力」を使用した。それがどういう意味か、今頃になって彼は気づいたのだ。
 雑談に興じながらも彼女らは見ていた。少年が深呼吸をして、怪我を治す。その行動は昨夜亡くなった教師のものと酷似している。
 そして、その少年は大當寺の死体を見つけたという少年である。邪推ではない、想像して当たり前のことだった。

「再起動、だね。なんで君が持っているのかな?」
「う、あ……」

 カマを掛ける意味もなかったかもしれない。既に少年は取り乱し始めていたからだ。
 AIに知られた時よりも更に深く、生徒たちに知られたということはそれだけ大きな意味を持つ。
 混乱する、深呼吸をする、自責する、深呼吸をする。ループが始まる。

「ハサミ……能力を切り取る……? それで先生から能力取ったんすか?」
「ち、違う! 腕が勝手に……!」
「取ったんだ」

 否定をしない。そこだけに注視する。詳細なんていらないと鴬崎は彼を見下した。目を細め、疑いを強くする。能力取るために殺したのか、次に放つ言葉が容易に想像できる。口が少し笑っていることに気が付いているのだろうか。
 後ずさりをして、幾田は深呼吸を続ける……しかし、焦るあまりか適切に出来ていない。もはやそれは過呼吸ともいえる所作だ。
 精神面の均衡を保っていた効力が切れる、蓋をしていた物が再度噴き出す。

「あ、ああぁ──!!」

 叫び、彼はその場から逃げ出す。足がもつれ、何度も転ぶ。
 探索も忘れ、彼は一目散にコテージの方へと走っていった。

「……どう思います?」
「さあどうだろう。案外彼は多重人格者、とかいうオチかもね。外面はひ弱な少年、中身は猟奇的殺人鬼、みたいな」
「あー、よくある小説みたなやつすか」

 残された二人は、つまらなそうに会話を続ける。
 能力奪取系統は末恐ろしいものがあるが、本人があの調子では碌に活用できないだろう。精々、次の狙いが困ったときの標的になるだけだ。
 さっさと上の階に居る二人のところに戻り、このことを報告して終わりだ。

「……ん、あれ? なんか落ちてません? そこ」
「ん、どこだい……」

 だが、鴬崎がここで気が付く、幾田の逃走経路に何かがあることを。転んだ時に落としたのだろうか。
 本当に間抜けなことだ。深魅はそれに近づき、拾い上げる。

「……」

 銀の鍵。
 ロッカールームから能力レポートを手に入れることが出来る、この異能学園の中では最重要と言って差し支えない物。
 これをもって出歩いていたということは、まさか未使用か。鴬崎にも見せて、その存在を認知させる。

「えっ、まさかアレが落としてったんすか」
「そう、みたいだね。丁度いい、ロッカールームにも寄っていこうか」

 ロッカールームも二階にある。確かめるのに時間はそうはかからない。
 一応誰かが潜んでいる可能性も考慮したが、部屋には誰もいなかった。いくつか扉が開いているものを無視し、鍵に掛かれた番号のものを探す。

「ええと415、415……あった。しかも開いてない。これは期待大だね」
「おぉ、誰のが出てくるか少し楽しみっすね」

 東軍がこれまで手にした三枚の内訳を考えれば、自軍のは出ないと考えるべきか。しかし鍵の所有者は「無所属」だ。本人を除いた全参加者の物が候補にあっておかしくない。
 ハズレ枠は東軍の物だが……敵にわたるよりかはずっとましだ。
 鍵を差し込み、開く。
 中身がある。

「当たりだね」

 笑って、それを引き出す。中には支給武器なのかナイフも一緒に入っていたが、ただのナイフなどどうでもいい。
 さて誰の能力が書いてある。二人は期待しながらのぞき込んで……眉をひそめた。
 別に、東軍の物だったわけではない。だが、だがその能力の記載は、彼らに一つの感情を芽生えさせるには十分すぎる。

 所有者は無所属、内容は以下の通りだ。

 ──虚言癖≪ライアー≫ 
 認識を改ざんする能力。
 所有者がついた嘘、それを聞き理解したものにそれが真実であると誤認させる。
 また、理解する必要があるため耳栓、言語が違う、そもそも聞き取れない時には効力を発揮しない。

 所有者:塚本 ゆり──

「塚本は断然強い。あなた達三人よりも」
「5人揃って、漸く対等。だからここでやってもいい」
「さっき西軍の人の話を立ち聞きした。東軍に襲撃かけるって」

 その発言の意味を、どうして聞いた三人が真実だと断言していたかを、二人は理解した。
 遅くても十数分後には、伊与田達もそのことを知る。
 その時、塚本がどうなるかは……想像だに難くないことだった。


********

-前:>>30 「ゆびきり」-4
-次:>>32 「ゆびきり」-6 

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-5 更新】 ( No.32 )
日時: 2018/09/08 17:03
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: dDbzX.2k)

第二限「ゆびきり」-6



 さて、どうしたものか。塚本ゆりは少し首を傾け思案する。
 別に、人を取って食らうほどの策を生み出せるわけでもない。
 事実、虚言癖≪ライアー≫なんて強力な能力を有していたにもかかわらず、彼女がしたことは逃走用の時間稼ぎ。そしてその後狙われることを防ぐための嘘一つだけ。
 だがそれでも効果は絶大だったのか、その日の死者には東軍が入っていた。何故か教師も死んでいたが、まあ止めようして巻き込まれでもしたのだろう。そう結論付けて、彼を思うことを止める。

 罪悪感はないのか、と言われたらゼロではない。
 しかし、常人の感性と比べれば薄いものだ。何せ、原因ともとれる彼女が吐いた嘘は「西軍が東軍襲うと言っていた」のみ。東軍はその後碌に調査もせずぶつかった、もしくは嘘から出た実だったのかは不明だが……実際に手を下したのは彼らである。

 ──もっとも、彼女は実際に殺し合いを、あまつさえ死体すら見ていないからこそというのもあるが。

 では塚本はどうするべきだったというのだろうか。殺し合いを提唱され揺れ幅が小さくとも混乱し、いつもするような行動で精神の安定を図った。そうしたら敵とされる東軍に出会ってしまった。無表情でいたが、誤魔化さなければとは考えていた。
 そして、二つ目の嘘をつかなければ東軍、西軍…もしくは無所属さえもが無所属の人間を襲うという最悪の事態になっていた可能性も。
 そう思いついたから出した、その場しのぎの生存策だ。長くはもたないだろうとは思った。

「……なんで?」

 かなり離れた建物の影、そこに身を隠しじっと自分のコテージのほうを見る。東軍と思わしき数人が囲んで、何やら作業をしているのが見えた。流石に声は聞こえないが、十中八九よくないことだろうというのは彼女にもわかる。
 西軍と話し合いでもして、そんな計画を立てていないことに気が付いたのかもしれない。それにしたって、塚本の「5人揃って対等」という発言は生きているはずなのに。頭上に疑問符が浮かぶ。
 まさかたったの一日で襲撃しにくるとは思っていなかったのだ。
 能力レポートなんて嘘つきを殺すためにあるかのような存在を、彼女は知らなかった。知っていればもう少し、恨みを買いにくい嘘でも選んでいただろうか。

「(塚本のこと、誰か知ってたのかな……)」

 西軍につく、という行動はできない。東軍が塚本の嘘を看破した可能性がある限り、西軍に伝わっていると考えたほうが自然だった。
 彼女が包囲されず、こうしていられていたのは上手な経路選択、そして運の良さからだろうか。
 図書室から拝借した本だけでは生きてはいけないと気が付き、食料をとるため購買棟へ。
 人に極力出会わないように道とタイミングを図り、見事に成し遂げて見せた。そうして手提げかばんいっぱいの食料を持って帰った所、怪しい集団が動いているのを一方的に見つけることができた。
 少しでも違えば、彼らの手によって磔の刑にでもされていたかもしれない。
 
「……わ。そこまで、やる……?」

 一人がドアの前に陣取ったかと思うと、直ぐ傍に黒色の何かが伸びて扉を切り始める。そこそこ頑丈だと思っていたそれが破られるのに、時間はそこまで要さなかった。
 ──塚本は知る由もないが、日が落ちておらず、更には伊与田の服によって覆われた影より出される未知数領域・反転旭暉。光原の命を奪った際のものと遜色はなかった──

 二人、ゆっくりと部屋に踏み込んでいく後姿を見て、そろそろ動かないとまずい事に塚本は気が付く。扉が破壊されてしまったからにはもうあの部屋は使えないだろう。
 幸いにして、二,三日は食いつなげる程度の食料があるし、まだまだ読みかけの本も手持ちにある。どこか、身を隠せる場所へ行くべきだ。
 
「(校舎……ダメ。購買棟、論外。体育館……ここにはない。グラウンド端の小屋……まだまし)」

 思考がまとまり、グラウンドに向かうためコテージに背を向ける塚本。ベレー帽を深く被りなおし、その場を離れる。出来れば寝具のようなものがあるといい……そう思いながら。

「……」

 彼女が動いてしばらくした後、外で待機していた深魅は覗いていた。
 塚本が隠れていた建物の方を。じっと。





 どういった縁かは分からないが、ちょうどそこから反対側の建物に彼らは隠れていた。
 西軍、播磨と三星だ。
 塚本とは互いに死角になる位置におり、またコテージの方に注視していたため彼らが塚本に気づくことは終始なかった。
 西軍は一人でも数が欲しかった。塚本は両軍がぶつかる一因だったが、そんなことは西軍は知らない。コンタクトさえ取れれば彼女は、西軍と手を組む確率が高かっただろう。
 ただ、出会わなかった。それだけだ。
 そんなifの事を知る由もない二人は、コテージに東軍が入っていく様を見ていた。

「……あれ、大丈夫なのかな」
「悲鳴の一つも聞こえてこないから、留守かもね」
「だったらまだマシなんだけどー……」
 
 希望的観測を一つ、立ててみる剣士。それがいいと賛同しつつも、その裏で最悪を想定する少女。今目の前で、無所属が一人殺された、と。
 もう少し近づけば分かるかもしれないが、今はこれ以上近づけないのがもどかしい。
 仮に全員揃っているのだとしたら無所属とその場で協力、或いは乱戦に持ち込むなんて発想も出来たかもしれないが……生憎と今は二人しかいない。
 
「……先輩たち、遅いね」
「門前払いされてないってことだ。一番可能性低かったらしいけど、案外そうでもないのかな」

 そう言って、一番端。方角的には東軍よりのコテージを見る。
 無所属、鳥海天戯の部屋。
 そこへ一人、羽馬は交渉すべく入っていったのだ。四人全員で行けば警戒される。ここは年上に任せてと彼女は栂原を連れて行ってしまった。
 では自分たちは榊原さんたちの方へ、と行ったはいいがいくらノックをして呼びかけようと返事はなかった。留守だったのか、はたまた警戒されたのか。

 停戦を呼び掛けていた平和主義、幾田卓は協力してくれる可能性が無いと判断、選択肢から外された。
 鳥海勧誘の結果を聞いてから、再びこれからどうするか決める。
 それを待っていれば、遠くの方から東軍がやってくるのが見えて、隠れた。そういう展開だった。
 東軍が鳥海のコテージを襲う、ということではなく本当に良かったと三星は一息ついた。

「……ところでウミ先輩」
「なんだ?」
「気張りすぎだと思うんですけど」

 ここに来て、三星は播磨の状態を指摘した。彼はずっと腰に下げた木刀に手を構えており、いつだれが来てもいいよう臨戦態勢、とでもいうべきか。尋ねれば返してくれるが、それ以外では警戒を怠っていなかった。
 彼女は少し反応が欲しくいつもよりも更に砕けた言葉遣いもしてみたが、特に反応もない。

「いや、護衛の仕事を任されたからね……」
「まあー、守ってくれるのはうれしいんですけど」

 気負いすぎではないか、そう暗に仄めかす三星の言葉を受けて播磨は少し喜んだ。そうか、今は気負っていると見えるほどに頑張れているか、と。
 リラックスしているように見られるよりはよっぽどいい。

「能力的にも、こっちのほうがいいのさ」
「ウミ先輩の能力って、警戒しなくても対応できるってやつですよね?」

 超反射≪リーフレクス≫、それが彼の能力。三星が最初の説明を聞いた限りでは、そこまで警戒をする必要がないと思えた。なにせ、漢字の通り反射神経を異常強化する力。更に言えばそれが常時発動だというのだから驚きである。
 だが、播磨はその認識が好きではなかった。漸く顔を三星の方に向け、自嘲の笑みを浮かべる。

「……あくまで反射ってだけさ。考えて対応できるわけじゃない。例えば、銃弾なんか飛んできても知覚してから避けるまでの時間が足りない。反射してもそれに対して動く体が追い付かなきゃ意味がないんだ」
「あ、だから剣道やってたとか?」
「……いや、確かに向いてると思ったから始めたっていうのはあるけど」

 深魅の拳銃ならば素早さが足りない。伊与田の様に手数で攻められれば体一つしかない播磨はその対応に追われる。
 無意識に動く体にも限界がある。それ故に彼が能力を生かそうすれば、求められるのは染みついた技術、身体能力の向上だ。
 しかし、それだけのために剣道を始めたのか、と言われれば違うと播磨は思っていた。何より、剣道が反射神経だけでやっていける競技でもない。

「上手くなった自分を誇る気持ちもあったけど、一番はやっぱり。
相手の動きを読んで、それが上手くいって……勝った時の達成感が好きだったからなのかな」
「あ、それなんとなくわかります」
 
 同じくスポーツである、ハンドボール部の彼女はその気持ちを肯定した。能力に関連しているかどうかは重要ではない、それが楽しいかどうか。そういうことなのだろうか。

「逸れちゃったけど、超反射を生かすなら武器は常に手元に。
……特に、味方を守る時なんかは自分にも危害が及ぶような位置に居た方がいい」

 反射的に動いた時、他人の方を優先して動くのはとても難しい。腰に武器があるということを忘れ、無手で動こうとする傾向がある。
 ならば、警護対象の近くにいて、武器を構えているのが確実だ。そんな考えから導き出された行動であった。

「──信用ならないと思うけど……任されたからには今度こそちゃんと守るから」
「……」

 光原の時の様な過ちは繰り返してはならない。彼は固く誓っていた。
 言い切って、彼はまた顔の向きを戻す。相変わらず、木刀には手が添えられたままではあるが、そう言われては三星も止めるわけにはいかない。
 少々、立ち直り方が歪つな気もしたが……これでいいのだろうと彼女は流すことにした。
 本人がやる気を出してくれているのだから、それが一番いいのだ。

「……じゃあ、約束ですよウミ先輩! 今度戦う時があったら、もうノーガードってくらい突っ込んでいくから!」
「それは……なかなか難しそうだね」

 播磨は、呆れながらも了承を返した。




********

-前:>>31 「ゆびきり」-5
-次:>>34 「ゆびきり」-7 予定

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-6 更新】 ( No.33 )
日時: 2018/04/29 00:16
名前: 透 ◆zFxpIgCLu6 (ID: NVMYUQqC)

通俺さん

 こんばんは、三星アカリを投稿させていただいた透です。ふれがく、いつも楽しんで読ませていただいております。
 高品質な文章と、予想もできない展開に、毎回どきどきしております。静かに、水面下で渦巻くそれぞれの思惑と、それが絡み合っていく様子がとても好きです。
 何より、こんな異常な状況下におかれた生徒たちの心がリアルだなあと思いました。動揺してるのはもちろんですが、異能力学園に籍を置いているだけあってどこか肝がすわっていて、冷静に戦略とか考えているのが、わざとらしくなくて好きです。
 それと、第一話では三星アカリをたくさん出していただいて、ありがとうございました。前半はかわいい女の子って感じだったのに、そして後半は容赦なく相手を攻撃していく、このギャップが最高でした。おいしい役どころですね。
 通俺さんが書かれるキャラクターは全員魅力的で、本当に全員好きなのですが、わたしはやっぱり幾田くんが好きです。幾田くん、めちゃくちゃ頑張ってて好きです。とても応援してます。
 これからもふれがくを、とても吐くほど楽しみにしています! 

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-6 更新】 ( No.34 )
日時: 2018/05/06 14:42
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: 2rTFGput)
参照: http://感想返し更新しました

第二限「ゆびきり」-7

 
 血の匂い残る部屋の中、深呼吸する音が続く。薄暗い明かりの下、彼はいた。
 椅子に腰を預け、ふとスピーカーを見る。ついでに見える時計は、もうすぐ十一時を指す。死亡者がいれば、そこで通達される。
 もう一日が終わるのだ。
 無益。無駄に過ごしてしまった。少なくとも、少年はそう認識していた。
 きっと今日の死亡者はいないだろう。何となくそう思っていた。人が殺された現場をみなかったら、騒ぎの音も聞こえなかったから。

──本当は、何もできなかった日にこれ以上悪くなれば、もう耐えられないからだろう

 それは彼の努力のおかげか、違う。二人の尊い犠牲から出来た制限時間の余裕が生んだ成果だろう。
 彼は何をしていたか、他人に能力が見られ動揺し、家に籠った。その後、フラフラと探索を再開するも何も無し。
 つまりは空振り。無為に終わった。それどころか鍵すらもいつの間にか落としていた始末。

 無所属、塚本のコテージの扉が破壊されているのを見た時、彼はどれほど心を乱したかは語るまでもない。 
 だが、彼女の名が呼ばれることはないだろう。

「──ん、君は……塚本を殺しに来たの?」
「……よかったぁ」

 どこかで塚本が狙われているのか、そう思った彼は癒えぬ心のまま走り回った。その後、校庭の隅にある倉庫に身を隠していた彼女を見つけた。
 眉一つ変えず話す、彼女の様を思い出す。
 とはいえ、一触即発……と言う空気になることはなかった。何せ、塚本が傷一つなく生きているという事実を認識した後、彼は心から安堵し、尻もちをつき大きな隙を晒したのだから。
 あぁこれは違う、彼女もそう認識してくれたのであったろう。

「東軍が部屋壊してたから逃げた。心当たりはない」
「東軍が……」

 そう彼女は幾田に吹き込んでいた。彼はそれを信じ、東軍の標的に選ばれてしまったのかと彼女を憐れんだ。
 ──無論、虚言癖の効力は失われていない。嘘をつけば、相手には本当だと確信させる。つまりはそういうことだ。

「……塚本は、人を殺す気はないから。ほっといて」
「な、何か、必要なものとか、ありますか?」
「……後でいいから本と食料」

 ここで漸く、幾田は図書室の本が何冊か抜けていた理由を察した。
 そして宅配まで頼まれてしまったが、別に彼はそれを良しとした。殺し合いをする気がないというのならそれに越したことはない。
 無論、本心で言っているかどうかはわからない。そう彼は気が付いていても無視することにした。疑ってもしょうがない。

「……」

 恐らくは本日一番の動きともいえるだろう塚本宅襲撃、そこの住人が元気だったのだ。両軍、他の無所属にも被害はないだろうと彼は見積もっていた。
 ……明日はどうであろうか、彼は考える。制限時間は迫って来ている。東軍は塚本の部屋を襲うという行動を起こしている。能力が知られた幾田など今まさに襲い掛かられても不思議ではない。むしろ何故彼女が襲われたのかが分からない。
 その理由が彼の落とし物によるものなど、気が付くことはないだろう。

 彼が考えるに、両軍とも狙うのは無所属だろう。鳥海という女性は大當寺から聞かされた話から警戒に値するべきだ。しかし、複数人を相手取るよりはましなのではないか。

「(東軍は五人。あ、でも千晴川?って人は大怪我してたな。それでも四人で、一人肩を撃たれていた西軍より有利だ。止められなきゃ多分東軍が勝つ)」
 
 止めなくてはいけない、そう認識している考えているのにいつの間にか止められないケースを想定している。それは彼が心のどこかで「自分では無理なんじゃないか」と諦めかけているからか。
 大當寺先生が生き残っていれば、止められたんじゃないだろうか。いつの間にそんな思考に入り込む。
 東軍が勝ち進み、一人になった時どうなるか。AIの言うことが本当ならば元の生活に戻り……

──更には優勝賞品としてなんでも一つ、願いをかなえてあげましょう

「願い事、なんでも……」

 ここに来てようやく、幾田はその存在を認知した。殺し合いという言葉に気を取られすぎて、そちらのことを全く考えていなかった。
 殺し合いは止めるのだからそんなのは考えなくてよい、大當寺と一緒にいたことによる影響があったのかもしれない。
 殺し合いを提示するようなふざけた奴が叶える願い事など、ろくでもないに決まっている。そう決めつけ思考を放棄しようとし、少年はふと……思いついてしまった。
 もしかしたらこんなこともありうるのか、と。

「……」 

 スピーカーが起動し細かく振動を始める。答えを返す者はそこいる。
 しかし、言葉にしようとはしない。聞いて帰って来て、更に揺らいでしまう様な気がしたから。
 ……ならば、彼は耳をふさいでおくべきだったのだろう。何故他の誰も聞かないことがあるか、彼はそれを失念していたのだ。






-西軍、播磨海のコテージ


「へぇ、それで海君は玄関側に座って警戒してるってこと」

 面白いと言わんばかりに彼女は右手を振る。左腕が使えなくなった今、彼女の感情を表現をするために動きは右腕に詰まっていた。
 何故彼が義務感に支配されたか、と言うことは触れない。その結果が何に達しても、今は歯車は動いている。錆び付くよりはいいのだ。
 明るい話はいい。原因は何であれ、空気をよくするのならそれは喜ぶことだ。

「……僕は最善を」
「いーじゃないですかウミ先輩、別にバカにされてるわけじゃないですし」
「──ははっ」
「栂原先輩!?」

 話している間もチラチラと玄関側に視線をやる播磨。ついそれを栂原は笑う。少なくとも朝は暗く沈んでいた後輩がどうすればこうなるのか。
 灯夜がいれば教えてやりたい、そう思うほどに。彼は反省はしても後悔はしない。少々生真面目な後輩のためにも自分も頑張らねば、そう気持ちを入れなおしていた。
 彼を起点に他二人も少々笑い声を零す。

「──フフフ、っとごめんごめん。今日の成果の確認の話だったね」

 播磨の部屋に置かれた時計の長針が動いたことに気が付き、まとめに戻る。
 
「鳥海ちゃんの勧誘は失敗。部屋にまで入れてくれたけど……殆ど無視されちゃったなぁ」
「殺しに来たかと思ってた、って言われたかんな……」

 少しうなだれる様にして見せる羽馬。それに付け足すように、栂原はその時の状況を思い出す。
 ノックをして名を呼んでみれば「開いてる」と言われた。実際に鍵はかかっておらず、恐る恐る中に入ってみれば暗い部屋の中、ベッドに横になっている鳥海がいた。
 本当は死んでいるのではないだろうか、言葉にこそしなかったが彼はそう思った。

「……殺さないの?」
 
 一,二分ほど経ち、唖然としている二人に対して告げた言葉。どうやら彼女はすっかり自分は死ぬのだろうと思っていたらしい。それなのに慌ても反抗もせず、ただ寝ていた異常さにやはり驚愕した。
 羽馬はそれを見て少し思うところがあったのか、乱雑にゴミや物が置かれた部屋を片付けながら彼女に話しかけてみた。殺し合いなどないかのような世間話、彼女の人となりを少しでも知ろうとした。
 けれど、届かなかった。

「やる気ない」

 彼女はそう突っぱね、その後は何も話さなかったのだ。
 めげずに何度か話しかけてみるも、彼女の持つ雰囲気が不機嫌になり始めたのを察しそこで一度交渉を諦めたのであった。
 改めて聞き、三星たちは彼女の態度に驚きを隠せない。

「……すごい人ですね」
「殺すならいつでも殺して—って感じだったのかな。あ、アタシたちの方はまず反応すらして
もらえませんでした。居ないのか、ちょっとわかんなかったです」

 三星は鳥海の人物像を浮かべつつも自分たちの行動を話した。
 とはいえ成果はないので目新しい情報はゼロ。ただ居留守をつかわれたのかどうかも分からない。
 塚本は訪問する前に、東軍に部屋を襲われ行方は知れず。幾田などはノックしてもうめき声が返ってくるのみ。彼らの作戦は二つとも失敗に終わった。

「……うーん、今日やることは全部空ぶってしまったね」

 そう、二つとも。一つは停戦、同盟を結ぼうとすること。もう一つは……死体について。
 彼らが光原を迎えに行ったとき、その死体は血痕だけを残し姿を消していたのであった。当然、西軍もそれについて慌てる。何故だと考えをめぐらした。

「──本当に、灯夜の体はAIの奴が持って行ったんだよな……?」
「へ、多分そうじゃ……ない?」
「……」
 
 その時、彼らはそれがAIの仕業だと考えた。殺し合いを管理する立場の人間なら、そういったことをしてもおかしくない。そう思い、諦めた。
 他の事を思いついていた人間も無視をした。その方が思考が健全だったから。
 けれど、ここに来て栂原はその可能性に言及してしまう。気になってしょうがなかったものが、その日の事を思い出し一層強くなったことによるものだ。
 まさか、まさかだが仮にそうであれば……栂原の脅威消却は、下手人に対しては完全に効力を失うであろう。

『──』

 丁度、スピーカーが起動する音が響く。あと少しすれば放送が始まる。
 質問をすれば、答えるだろうか。いやそれどころか間に合うかもわからない。聞いてどうにかなるものでもない。
 しかし、気になった。それが一つの問いを作り上げ……スピーカーに向けて、届けられた。


 数分後、帰ってきた返答は最悪なものだった。





『こんばんはみなさん、AIです。十一時、定刻となりましたので本日の死亡者の発表を行わさせていただきます。本日の死亡者は……ゼロです。
時間制限の延長はありません。残り時間は35時間、です』

 型にはまっているのだろう、特に感情も何も感じさせない。淡々とした声が学園全体に響く。 

『今回の質問は二つあるので順に答えさせていただきます』

 だが今度は、声が加工されているとはいえいくらか人間のような喋り方をしていた。

『まず一つ目、死体の処理についてですが……こちらでは一切手を出しておりません。誰かが何かしない限り、死体は動きません』

 それで、西軍の考えを打ち砕き疑惑を、怒りを生み出させる。誰かが光原の死体を動かしたことを知覚させる。
 では誰が、その疑いが一番強いものは。あの場に最後まで残っていた者たちは。
 不和の種としてはこれだけで十分だ。

『二つ目、願い事についてです。なんでも、と言ったがどこまで可能か……具体的に提示するために、恐らく質問者が望んだと思われることを返します』

 けれど、提示は終わらない。ただの憎しみだけではない、彼らに希望を見せるための返事があった。

『──死者の蘇生は、可能です。是非とも頑張ってください。
……流石に15人全員、は保証しませんが。
これにて放送を終了します』

 禁忌ともいえるそれを誰が聞いたか、もはや関係ない。共有された、既に死者が出ている。それだけが重要だった。




********

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Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-7 更新】 ( No.35 )
日時: 2018/05/10 00:05
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: 2rTFGput)

第二限「ゆびきり」-8


 ──闇に紛れ、一団は動く。
 声もなく、ただ何かを追う様に、辿り着くために。
 そこにある感情はなんだろうか、怒り、憎しみ、憐憫……一つだけ言えることは、彼女ら一つ。覚悟を決めていたということだ。
 生きる為に殺す、殺すことに卑怯も何もない。
 物言わぬ死体になりたくなどない、死体になった仲間は救いたいと思う。その為にも、生き残らなければならない。
 それが許されるかどうかは別として……彼らは動いていた。





-東軍、岩館なずなのコテージ


「はぁ……」
「大丈夫、なずなちゃん?」
「あぁはい、大丈夫です」

 少女は床に敷かれたクッションを拾ってはベッドに捨てる。雑に放られたそれは枕元から足元まで広く分布し、彼女がそこに寝る時は今度は下ろされる運命が待っていた。押し入れに仕舞うという選択肢はない。仕舞う場所もない。
 それを行っていたのは部屋の主、岩館に他ならない。隣にいた伊与田はそれを宥めつつ盆にコップを集めていた。
 これが彼女にとっての片付けだというのだ、普段の部屋は散らかっているというレベルではないだろう。全ては物が多すぎるのが原因である。
 
「(あぁもう、イライラする)」

 彼女の気分は最悪だった。ガセで誘導し戦わせてくれた塚本の家に突撃するも留守。試しに家探ししてみても精々食料と難しそうな本があった程度。収穫はなし。
 酷く微妙な空気のままではその後もままならないのは当然だ。
 結局、東軍としての行動は数十分程前の放送を皆で聞くぐらい。

 死者が出なければましか、違う。放送によって投下された二つの火種。それが明らかに東軍の空気を更に悪くしていた。
 事実、考えを纏めたいと深魅はさっさと部屋を後にし、それに釣られるように鴬崎も千晴川の症状を確認すると言って帰ってしまった。

「(死体について質問した人は何考えてんの? あたし達が見た時は西軍の死体はなかったけど……それとも先生の方? にしたって態々聞く? 普通)」

 東軍からは現状死亡者は出ていない。だがそれでもその言葉は否が応でも彼女に対し、放置され腐りゆく死体の事を思い浮かべさせた。きっと傷口を中心として徐々に、加速的に広がっていくのだろう。そんなことを考えて、いい気分であるはずがない。

「(願い事の方だって、そんなの死んだ人生き返らせたいから聞きました。って言ってるようなもんだし……そりゃ終わった後に頼んで、無理だって返されたらそれはバカなんだろうけど。
……出来るんだよね)
あ、代わりますよリズせんぱ──」
 
 ──では、自分は何を願うだろうか。
 ふと、そんな疑問が沸きあがったが、チラリと伊与田を見ると集めたコップを流しに持ち込もうとしている。流石にこれ以上は部屋主がするべきだと慌て、立ち位置を入れ替わろうとする。
 しかし、

「あぁ……ごめんなさい。この子たち、随分とやる気を出していて……」
「へ、へぇ……そうですか」

 それを、伊与田の足元より伸びた黒い触手が止めた。フラフラと海底で揺れる海藻のように触手は岩館と伊与田の間を遮る。そのまま数本、流し台に突っ込まれていくところを見るに、どうやら食器を洗うのは彼らが担当してくれるようだ。
 泡立つスポンジを器用につかんでみせる触手。酷く冒涜的なものを見せられた気分になったが岩館は流す。この生活における心の拠り所である彼女の能力だ。口にするようなものでもないだろうということなのか。

「リズ先輩……」
「……なんでしょう?」

 手持無沙汰になり、その横に立って話しかける。聞かれた方は少し首を傾け彼女に視線を向ける。その間も手は動いている。
 空いた両手で蛇口の水を出す。泡を流れ落とし、水切り籠に一つ置いた。

「もし、生き残ったら……なにお願いします?」
「……」

 どういう意味でそれを聞いたのか、それは自分に沸き上がった疑問に向き合うため。その為にも彼女は他者の解を必要としたのだろう。
 その質問に対し、伊与田は返答に困ったのか悩むそぶりを見せた。
 ──金銭は幸運なことに足りている。精々願い事と言えば生き残ることだが、その権利がもらえるのは生き残ったらと言うことなのでまず意味がない。
 しいて言うのであれば……洗い物を既に終え次の対象を求めている触手に彼女は目が行った。

「……この子たちの強化? ……影が出来る場所にしか……お呼び出来ませんし。……その制限だけでもなくして頂ければ……ふふ、もっと仲良くできそう、なんて」
「……いいですね」

 これがもっと強大になるのか。
 触手の強化と聞いてあまりいい感想を抱かなかった岩館だが、流石に顔には出さなかった。しかし同時に、自身の能力に誇りを持つ彼女をうらやましく、また尊敬した。
 岩館は自分の右手の甲に目をやる。そこには、能力者として証──赤黒い六芒星型の痣。心隅憂虞≪メランコリー・メランコリー≫、自分の能力名をつけた時……果たして自分はどんな気分だったか。
 今ではもう忘れてしまったが、いい気分で付けた……とはどうにも思えない。
 
──え、すごい能力だねなずな!

 ああけど、あの子は褒めてくれたなと思い出して、彼女は笑った。自分の能力が嫌いだったのに、他人の能力を妬みもせず純粋にほめてくれた女の子。
 きっとその時の岩館は……本人すらも恥ずかしくなってしまう、満面の笑みだったに違いない。

「──ずなちゃん、なずなちゃん」
「え、あっはいすみま──」
「静かに」
 
 物思いにふけっている間に洗い物は乾拭きまで終わっていた。伊与田は岩館に話しかけていて、それに気が付き慌てて返事を返そうとするが……口元に人差し指をつけることで彼女は沈黙を促した。
 そして彼女を背にし、ゆっくりと扉に向いて構える。
 ──静かになった部屋に、乾いた音が二つ響いた。
 ドアが叩かれた音、来訪を知らせる合図だ。
 
「……り、リズ先輩」
「……この子たちが警戒してる」

 小声で確認を取れば、少し視線を下げる事でそれを確認できると言われる。
 恐る恐る見れば、触手たちが先ほどよりも太く、鋭くなっている。迎撃のための準備。伊与田の足元で伸びる彼らに合った雰囲気だからか、より悍ましく感じさせた。
 東軍ではないかもしれない、それが岩館の警戒レベルを一気に引き上げる。
 こんな夜中、更に東軍ではない者が来るなど……襲撃以外には考えられない。

「(どどどっど、どうしよう!? こっち今戦えるのはリズ先輩だけ……)」

 岩館は戦闘タイプではない。横から口をはさみ、補助をする程度の事しかできない。仮に彼方が西軍だとしたら四人、いくら伊与田でも対処が難しいだろうことは明白であった。
 ノックに反応すべきか、それとも逆に一気に外に出て仲間を集めに行くべきか。
 じっ、と伊与田を見つめ判断をゆだねた。

「……ドア、壊しちゃって大丈夫?」
「……はい」

 どうやら、最大火力の触手で先制を仕掛けると決めたらしい。その後は戦闘に移行する、そう思い岩館はポケットに護身用と隠しておいたカッターを手にした。
 無いよりはまし……かもしれない。刃物を手にした、と言う事実がほんの少しだが彼女の心を尖らせた。

「……だ、誰!?」

 ノックをしたということは、岩館がいるかどうか確かめているのだろうか。それとも油断しドアを開けたところを狙う算段なのか。ともかく、こちらも攻撃を仕掛けるのであれば相手の位置を知る必要がある。
 そう思い、扉の向こうの者へ話しかける。
 返事をした時、それが開戦の合図。息を飲む。今まで直接的に人を傷つけては来られなかったが、とうとう腹をくくらねばならないと。
 けれど、そんな彼女の覚悟。

「──な、なずな? 私だよ……? ちょっと、お話したくて」
「伊央ちゃん!? あっ、リズ先輩ストップ!」

 それを簡単に崩してしまう人が居た。
 無所属、榊原伊央。初日に全く動きを見せなかった……何度も岩館が庇う姿勢を見せた人物。親友といってもいいと考えていた彼女はその声に驚き、慌て伊与田を押しのけドアを開けた。
 当然伊与田は警戒したが……直ぐに触手を仕舞う。少なくとも、いきなり攻撃をする必要性はなさそうだと判断した。
 
 ドアの向こうにいた少女は武器も何も持っていない。周りに人もいない。無防備と分かる状態でそこに立っていたから。
 いくら友人の家に行くとはいえ、一人でやってくるということにどれだけの勇気がいるか。それが分からない彼女ではなかった。

「あっ、…………なずなぁ~!」
「伊央ちゃん、伊央ちゃん……」

 榊原は岩館の顔を見て何かが達したのか、泣き崩れる様に彼女に抱き着いた。釣られるように岩館も泣き出し、お互いの安全を確かめ合う様に抱き着き返した。
 
「……ふふ」

 その光景を見てすっかり安心した伊与田はドアを閉め、またお茶の準備を始めた。
 ようやく、真にほほえましいものを見た気がする。そう思いながら。



********

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