複雑・ファジー小説

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【生きてます】ありふれた異能学園戦争【第三限-7】
日時: 2019/03/29 13:00
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: zxPj.ZqW)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=989

——この戦争はきっと、ありふれていた 


*****
 はじめましての方は初めまして、通りすがりの俺こと"通俺"です。
ちなみに読みは「とおれ」読みづらかったら「とぉーれ」とか、ニュアンス伝わればいいかなって。
 今回はリク板で募集してましたカキコ住民の方々計14名のオリキャラ+私キャラで行われる「異能学園戦争」です。
 

 詳細についてはURLに書かれていますが、必要事項などについては本編で書きますので読む必要はございません。
 
・世界観
 あなた方がよく想像する現実、そこに異能力者の存在を加え入れてください。
彼らは日本国に存在する、とある学園に送られます。
 そんな学園で起きた、一つの事件。

・ルール
1.ゲームがスタートし24時間の間、死人出なければ強制終了。残る生存者は全員爆破されます。
2.上記の時間は、死人が一人出る度24時間プラスされます。
3.殺し方に制限はありません
4.無事最後の一人、勢力になってください
5.優勝者には願い事を一つ、叶えましょう。

 以上


・目次 
-参加者のかんたんなプロフィール
・prologue編 >>3
・第一限修了時編 >>26
・第二限修了時編 >>46

-第一章「異能学園戦争」
・プロローグ「強制入学 Live or Die」全二話(約7000字 読書推定時間5分)
 >>1, >>2
・第一限「嘘つきと早退者」全13話(約4万5千字 読書推定時間35分)
 >>5(改),>>6(改),>>8,>>9,>>12,>>14,>>15,>>16,>>17,>>19,>>20,>>21,>>22
--休みの時間
・「破滅への前奏曲≪プレリュード≫」>>23
・「死に至る病」>>25

・第二限「ゆびきり」
 >>27,>>28,>>29,>>30,>>31,>>32,>>34,>>35,>>36,>>37,>>38,>>39,>>40,>>41
--休みの時間
・「黒に縋る」>>42
・「見えたモノ」>>43
・「空虚なる隣人」>>44
・「オオカミ少女」>>45

・第三限「終末世界のラブソング」
 >>47,>>48,>>49,>>50,>>51,>>53,>>54(new)

・お客様(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)
-ハルサメ様,ミサゴ様
-日向様,くりゅう様
-柞井 五百四十八郎様
-ハルサメ様,透様 
-siyaruden様 宛 更新 12/17


・イラスト等について
 >>18
 こちらにてみなさまからいただいたイラストをまとめております。

 >>52
 感謝企画で依頼をして数名に描いていただきました!


・異能学園戦争参加者名簿

 東軍
・岩館 なずな  by水野驟雨さん
・伊与田 エリーズ by神楽坂さん
・鴬崎霧架   by 三森さん
・千晴川 八三雲 byハルサメさん
・深魅 莉音  by siyarudenさん

 西軍
・三星 アカリ  by透さん
・播磨 海  byみかんさん
・栂原 修    by柞井 五百四十八郎
・光原 灯夜 byミサゴさん
・羽馬 詩杏  by波坂さん

 無所属
・幾田 卓
・榊原 伊央  by くりゅうさん
・塚本 ゆり by 照り焼きスティックさん
・鳥海 天戯  by サニ。さん
・大當寺 亮平  by 黄色サボテンさん

・コメント随時募集中!

(コメント返しについては、少しネタバレに近いことを言いたいときもあるのでURLの企画スレにてしております)大事なことなので繰り返してみました

2-14 ( No.41 )
日時: 2018/09/08 19:10
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: dDbzX.2k)

第二限「ゆびきり」-14


──どこで間違ったのだろうか。彼女は、学園でも人気者だった彼女は、ただ自分も友達も助かる、一番の方法を見つけたと思っていたのに。

 榊原は、色彩哀歌≪エレジー≫を弾き続けていた。全てを、自分を壊すために。西軍に損害を与え、自分は死ぬ。その作戦を実行するためだけに。
 意識が朦朧としている。霞む視界に合わせて、狭まっていく。
 
 頭痛が、心の痛みが、身体的怪我が、全てが痛い。自分の近くに転がっている親友にすら手を伸ばせない。 
 事切れている。たとえ違ったとしても、色彩哀歌によって死んでいる。
 苦しい、悲しい、辛い……早く消えてしまいたい。

 本当か。

 違う。ここで死んでしまえば岩館をよみがえらせる手段が……それは伊与田たち東軍がやってくれる……はずだ。
 では榊原はどうなる。岩館を死地に誘い、伊与田の腕を切り落とし、挙句の果て鴬崎たち二人を全滅の危機に晒した。
 蘇らせてくれるはずがない。

 このまま、両軍に甚大な被害を与えた者としてここで死ぬ、消える。

 偽りの夜空は綺麗だった。不自然すぎるほどに綺麗だった。ぼやけて、滲んでいるが、最期に見るものとしては上等か。
 違う。最後にする気なんてなかった。怖くて、怖くて怖くて怖くて……それで、自分にとって一番楽な諦め方を探していただけだった。
 一度死ぬのはいいけど、死にたくなかった。

 彼女にはまだ、やりたいことがいっぱいあった。
 みんなの前で歌って、仲のいい友達と遊んで、将来に悩んだり、夢を見たり……。
 やりたいことがいっぱいあったのだ。

 贅沢すぎたのだ。欲張りすぎたのだ。
 誰にも教えず、東軍に恩を売る形で死ねばきっと、生き返れたのだ。

 だが無理な話だ。それを決心できたのは自分を思いやってくれていた友人を見たからだ。隠そうにもきっと岩館は榊原を帰さず、匿おうとしただろう。伊与田も当時なら一応の賛成はしてくれただろう。
 もうどうにもならないという認識すら消えて、榊原は右手を空に伸ばす。最後の力を振り絞った、意味の無い行動。

「(誰か、だれか……たすけてください)」

 都合がよすぎた。正義のヒーローを求めた。

「(なずなを、みんなを……わた……しも、だ……れか)」

 正義のヒーローなど、この学園にはいない。
 その願いを叶えてくれる者なんていない。

 そんなこと知っていたから起こした行動だというのに、彼女は忘れて助けを求めた。

──雑音が一つ、近づいてきていた。





 暗闇の中、ただそれは鳴り続けている。壊れた人形のように、汚く狂った音を吐き出し続けている。
 割れた音の結界。一度踏み込めば無事では済まされない。そんなことは見ればわかる。
 けれど、彼はその中心に向かっていた。

──見えない何かが、体を切り刻む。

 血が滴り、苦痛が脳内で警報を鳴らす。
 けれど、彼は前に進む。
 深呼吸をして、何でもないように近づいていく。

──小さく不可視な弾丸が、彼の体にいくつもの穴を開けた。

 腹、太もも、決して失ってはいけない部位を掠め取っていく。
 瞬間、ふらつく……だが倒れない。
 深呼吸をして、

──巨人の鉄槌とも思える一撃が、彼を地面へと叩き伏せた。

 深呼吸……出来ない。
 肺が傷ついたわけではないはず、単なる痛みと衝撃による意識の混濁。
 胃液ではない何かがこみ上げてくるのを確かに感じる。

 だが、どうした。

──鋏≪ハサミ≫

左腕に現れたそれを杖にし、這い這いの体で少しずつ近づいていく。
 幸いなことにして、ただ立っている時よりかは安全度が増しているだろう。それでもなお、その様は異様としか言えない。
 百人中百人が、彼は狂ったと思うだろう。
 事実、狂っている。

 彼には理由も、事情もない。
 今何が起きているのかを、榊原が起こした暴走を知らず、途中で倒れている人影の横を通り過ぎても、近づく人影の直ぐ傍にもう一人を視界に入れてもなお、行動を変えない。
 死んでいる、と認識しているからか。違う。以前の彼ならば、恐れながらも触り、確認する余裕があっただろう。
 
 それをしないのは、死を確認するのを怖がったからだ。

 彼の無意識は、背中に大きな切り傷がある羽馬は勿論、同じく血だまりの中に沈んでいる岩館を見ないふりをしたのだ。
 彼は限界だった。人を蘇らせる手段を取るには、生存者を探すこと相反する。
 きっと、その場で全員が横たわっているだけならば、彼は暴走が収まるのを待ってから「死体」を埋めようと動いていただろう。
 幾田が動かずとも、既に命を失っていたのかもれしれない、それが彼を止める役を買って出いただろう。

 けれど、榊原は手を空に伸ばしていた。原型が分からなくなってもなお、哀しさを伝える曲を奏でていた。
 
 だから、彼は動いた。
 彼女は確かに生きている、それを見逃してはいけない。
 まだ手を伸ばせば助かる命かもしれない、そう認識してしまった。

 鋏が音に弾かれ金属音を鳴らす。左肩が引っ張られ一瞬、宙に浮く。
 ほぼ同時に、播磨を吹き飛ばした剛なる音が彼の背中に触れ、飛ばす。
 転がる。彼女のもとへ。

──aghhhhhhhhhh!!
「(───ぁぁ)」

 手を伸ばせば届く距離、そこにたどり着いて事を彼は感覚的に悟った。
 だが、もう体が動かない。骨が折れたのだろう。血を失いすぎたのだろう。
 それでもと、彼は力の限り腕を伸ばそうとした。

──彼の意識は途絶えた。






 黒。
 沈む……いや、浮かんでいるような。何とも不思議な感覚。
 雲にでも呑まれた、感じたことのない気持ちよさがあった。
 いつのまにか彼は、重しをつけて下に進んでいた。勝手に体が動いていた。
 何故か、一歩分前へ進むだけで気持ちよくなる。何も考えないでよくなる。そうだ、自分は何をしていたのだろうか。

 確か、目が覚めたら首輪をつけられていて……奇妙なスピーカー音に誘導されて、それから。

 時間は巻き戻り、再生を始めた。殺し合いに巻き込まれていたことなんて忘れて、ただの子供だった頃から。
 
 なんてことはない、少し両親の仲が悪いけど離婚するほどでもない。貧乏とは言えないが中流とも言えない微妙な家庭で育っていた。
 人に誇れるようなものもなく、同じような友達と話している時は安心していた。冗談も人並みに飛ばしていた。逆にそうではない者をどこか、羨むような目で見ていた。

 能力者になってみたいな。

 いつの日か、そんなことを言っていた気がする。その時も左腕に痣はあったが、特に何も出来ない。つまりはただの痣だと思っていた。
 だから、自分がこんな能力者になったらなんてつまらない妄想をしていた。

 能力者だと分かって、未判明≪アンノウン≫だと知って、彼はどうしただろうか。

 彼は劣等感に苛まれていた。能力者だと分かって戸惑い、結局自分に出来る事は変わっていない。周りは大小関わらず全員上の人間に見えた。
 そして、一番驚いたことは……能力者たちもただ年相応な人間だったことか。
 やはり、アニメや漫画の読みすぎか。特殊な能力を持つ人間と言うのは人となりも特殊だと思っていた。ただのいたずらに能力を使ったりしている人間を見て、彼は落胆した。
 能力に目覚めれば自分も変わるんじゃないか、そんな思いがどこかにあったのだろう。
 凄い人間は能力関わらず凄い。そんな簡単なことに気が付けていなかった。

 もう、どうでもいいだろう。そんなことに悩む必要性はどこにもない。
 黒に消えて、消えて……。

──それで、これからどうするんだ幾田は
(今の声……!)

 不意に、声が響いた。直接脳に語り掛けているような、けれど発信者は下にいると分かる。
 だからこそ彼は、がむしゃらに前に進もうとした。それが誰かは思い出せない。でも一目見たい。

 進めない。いくらもがいても速度が変わらない。もどかしい。だから声だけでも届ける為に、叫ぶ。
 
「──!!」

 声が出ない。なんでだ。いくら口を開いても何も響かない。
 その様子を見ていたのか、声の主は小さく笑った。

──落ち着けって。ほら、深呼吸……できるな?

 言われてみればそうだった、随分前から呼吸が止まっていた。
 肺に空気を取り込む。大きく吸って、大きく吐く。行動を想起し、体を動かす。ちゃんと、深呼吸が出来た。
 今度こそと、問いに対する答えを返す。

「俺は、死にたくないです」
──だろうな
「けど、人も殺したくない」
──そうかそうか

 背中がじんわりと暖かくなる。彼は褒めてくれたのだ。決断できない彼を、決断できなかったから褒めてくれた。
 深呼吸をする。
 そして、彼に指針をくれた。

──なあ幾田、俺はな……AI? だったか、あんなのが提示したゲームをぶっ壊そうって考えてるんだ。
……策はないがな

 その言葉は、魅力的だった。無謀なのに成し遂げられる、そう思わせる彼の力。
 深呼吸をする。
 
「俺も、あんな奴の思惑に乗りたくない。負けたくない。
けど、皆を生き返らせたい」
──……それで?

「──どっちも、最後まで諦めたくない!」 

 そう、彼に固く誓う。
 決断を先延ばし、悪くいえばそうだ。
 矛盾する二つを、今度こそ迷いなく持ち続ける。狭く単純になった思考は信念を固めた。
 深呼吸はもう止まらない。
 再起動。


 体が、重しをつけたままのはずの体が急浮上する。
 声の主を置いていきたくなくて手を伸ばす。見えない何かを掴んだ気がする。
 それもきっと大事なものだ。けど、彼ではない。

──いってこい、幾田

 最後に聞こえた彼の声は、やはり笑っているような気がした。




第二限「ゆびきり」修了

********

-前:>>40「ゆびきり」-13
-次:>>? 第三限「終末世界のラブソング」

--休みの時間 予定表
「黒に縋る」 >>42
「見えたモノ」>>43
「空虚なる隣人」>>44
「オオカミ少女」>>45

休みの時間-1 ( No.42 )
日時: 2018/09/08 19:10
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: dDbzX.2k)
参照: http://骨折してました

休みの時間「黒に縋る」


 ──滴る、滴る、滴る、滴って、落ちる。
 何が? 血だ。尋常ではない、人に死を自覚させるには十分すぎるほどに。床に落ちる。いくら傷口を強く握っても、にじみ出る。止める手立てはないのか。

「……あぁっ! く、ぅう……!!」
「頑張って! 今すぐ道具を──いや、能力使います!」

 いや、幸運なことに東軍には彼がいた。皆乍回復≪リザレクション≫の鴬崎霧架。彼の力をもってすれば、どうにかなるかもしれない。こうなることを見据え、力を温存させた甲斐があったのだろう。

 自分の部屋に入ると途端に腰が抜け、崩れ落ちてしまった伊与田。彼女を今救えるのは彼しかいない。
 鴬崎自身も力を使うことに肯定的だ。直ぐに手を出し、傷口に近づけ……止まった。

「……? は、早くっ……お願──」

 苦しみに耐えながら目を瞑っていたが、いつになっても治った気がしない。何をしているんだと彼を見る。
 黒。視界一面に黒が埋め尽くしている。それが自身の能力である未知数領域・反転旭暉≪テネブル・タンタキュル≫の触手たちであることを察するのには時間を要した。

 何故、今。混乱する伊与田を他所に、触手たちはどんどんとその数を増やし蠢き部屋を震わせる。彼らは伊与田を覆い隠し、仲間である鴬崎さえも近づけない壁、球体を作り出していた。

 怒り。友人である伊与田を傷つけたられた怒りが彼らの力を増幅させているのだろうか。少なくとも、ただそれを見ていることしかできない鴬崎には理解することが出来ない。
 ただ、伊与田の困惑する表情から「暴走」というワードが彼の頭に浮かんだ。

「なんなんすか、これ……」
 
 天井の光さえ飲み込まんとする闇が伊与田を飲み込んで十数秒。漸くその動きが止まった。
 ぴたりと触手たちの振動が終わり、球体が縮んでいく。
 次はなんだ、と思わず距離を取り構える鴬崎を他所にどんどんと小さくなっていき、伊与田の姿が見え始めた。
 二本足でしっかりと立っている、表情は相変わらず困惑のままだったが。少なくとも生きている。

「よ、よかった……ええと伊与田さん大丈──え?」
「え、ええ……多分、大丈夫」

 「無くした筈の右手」を振って、健康を示した。
 そんな彼女を見て、鴬崎はまた言葉を失う。伊与田はそれを見て薄く笑った。そう、切り落とされたはずの手が生えている。
 それも一目見て異常だと分かるものが。

「……それは?」
「……よくわかりませんが……血は止まったみたい」
 
 黒い手、先ほどまで荒ぶっていた触手と同色のそれが傷口を隠す様に生えていたのだ。五本指、関節部分もあるだろう。色さえ除けば普通の手の様に見える。
 だからこそ、余計不気味さを掻き立てる。思わずまた一歩下がる鴬崎を後目に、伊与田はグーパーを繰り返し調子を確かめていた。

「……あぁ、でも光に当てると痒いと言いますか……小さい痛みが走りますね。消しておけるみたいですし、普段は消しておきましょう……」
「そ、そっすか。それはそれは……」

 どうやら動かした方はもうわかっているらしい。同時に特性も分かったようで、彼女は黒い右手を縮め、消した。だがやはり傷口は見えず、代わり断面は黒一色になっていた。

「あ、じゃあ俺包帯持ってきますね! 隠しておいた方がいいでしょうしねそんじゃ!」
「……ええ、お願いしますね」

 薄気味悪さに耐えられなくなったのか、鴬崎はそう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。
 しん、と部屋が鎮まりかえる。部屋の状況は酷いものだ。玄関辺りは血が広がっている。居間も、男性を入れるには少々散らかっている。
 居間だけでも片付けなければ、そう思う。

「……っ」

 同時に、立ち眩み。血が抜けすぎたのだろう。靴を脱ぎ捨て、そのまま居間へとふらふらと進む。
 血濡れた上着も洗濯籠に放り、ベッドに倒れこんだ。起き上がる気力がわかない。
 
「……」

 もういいか、と投げやりになった彼女は仰向けになる。アンティーク調のベッド、その天蓋が視界に入る。白とベージュの色合いが丁度いいとか、そんなことを考えていた昔を思い出した。
 異性を部屋にいれたことなどない、そもそも茶会を開くにしても適当な教室や広場などを見繕っていたので友人さえも入ってきたことはないだろう。
 きっと今後も、こんな時以外は誰も入れないだろう城だ。古風な家具ばかりを揃えて、誰に見せるわけでもない。

「……」

 もう一度、黒い右腕を出す。それで顔を何度か触ってみるが、手の方からは感覚が伝わってこない。
 やはりこれはいわゆる「触手さん」なのだろう。こんなことが出来るとは知らなかったが、害はない。片腕を失うという大事からは逃れられたのだ。感謝こそすれど忌む訳がない。
 これからどうするか、纏まらない頭で考える。

「……」

 榊原は恐らくあの後死んだだろう。西軍は不明だが……増えたりはしまい。東軍は怪我人がいるが、鴬崎の力を使えば問題ない。四人いる。
 そう、四人。五人ではない。

「……なずなちゃん、伊央ちゃん……」

 二人目の名を呼んだ時、右腕がざわつく。岩館が死んだ原因は間接的に言えば榊原にあるが……恐らくは違うだろう。
 岩館は死んだ。それも頭をカチ割られ、脳天から血を流していた。無様に、呆気なく。

「……後で、お迎えにいかないと」

 お墓、は無理だろうがせめて埋めるなりなんなりしなければ。
 東軍に、AIに、そして止められなかった自分が憎かった。それほどに、伊与田は彼女を可愛がっていた。
 いきなりふざけた事態に巻き込まれ、仲間はどこか信用できない者ばかり。能天気そうな千晴川も早々に離脱し、警戒を解くことも出来ず。息の詰まるというほかない。
 だからこそ、後輩で、同姓で、なおかつ分かりやすかった岩館の存在は大きかった。亡くした今だからこそ、それがはっきりとわかる。

 そして、彼女が最後に見せた親友を思う姿がどれだけ伊与田の心を癒したか。もう、それを見ることはできない。
 榊原の最後の言葉がリフレインする。嘘偽りない、まっすぐな言葉。

──なずな達が勝って、それで、生き返らせて?
「(……あぁ)」
──伊与田先輩、なずなをよろしくお願いします
「……ごめんなさい」

 死者の復活。その言葉が脳裏に浮かぶ。勝ち残れば、またあの二人に会えるのか。優しすぎたあの二人に。
 電灯が古くなってきたのか、明りが弱まる。同時に、右手の黒が弱まる。光が弱くなれば存在できないのか。少々不便を覚える。

──この子たちの強化
「……」

 同時に、軽く述べたことを思い出す。
 勝ち残るには、そのためには力がいる。何故か部屋にいなかった深魅、顔は笑っているがどうにも何かを隠しているように感じる鴬崎。
 この二人のままでは勝てない。薄れる手を見て、思う。もっと、もっと、能力を有効に、強大にする必要がある。

 自分の首に縄が掛けられたと錯覚、同時にそれは岩館、榊原にも。そして、自分たちが立っている台は今にも退けられそうになっていた。それを、触手でせき止めている。
 だが、時間の問題だろう。
 
「……えぇ、そうね。頼りにしているわ」

 右手を握りしめ、それを左手でなでる。勝つしかない。既に一人の命を奪っている。弱気になるわけにはいかない。絶対に勝たなければいけない。
 癒しは絶たれた。頼みはこの友人達と……、ゆっくりと瞼を落とし彼女は眠りに落ちた。



********

-前:>>41「ゆびきり」-14
-次:>>? 第三限「終末世界のラブソング」(8月一日より予定 すいません)

--休みの時間 予定表
「黒に縋る」(こちら)
「見えたモノ」>>43
「空虚なる隣人」>>44
「オオカミ少女」>>45

休みの時間-2 ( No.43 )
日時: 2018/09/08 19:10
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: dDbzX.2k)

休みの時間「見えたモノ」



 もう少しすれば夜も晴れるだろう時刻、そんな頃に何度も戸を叩く男が一人。けれど、返事は帰ってこず扉も開かない。
 これは参った、ともう片方の腕が抱えている者を見下ろす。消毒液や包帯やテープ。わざわざこうして持ってきたというのに。

「……寝ちゃったのかな?」

 もしそうなら、仕方がない。どうせ明日の朝には集合してまた顔を合わせるのだから急ぐ必要もないか。そう結論付けると彼はコテージの前を離れ、別のへ方向へと歩き出した。
 だが次の瞬間、彼の耳が雑音を拾う。

「……? 気のせいっすかね」

 辺りを見回しても誰もいない。少なくとも、暗い視界の中には。音もぴたりと止まって、最初から何もなかったようだ。
 しばし首を傾げた後、もう一度彼は動き出した。






--東軍、千晴川八三雲のコテージ


 消毒液の匂い立ち込める部屋、明かりは読書にをするには不釣り合いな
薄暗さで、部屋にいる者たちの形を確かにする。

 乾いてる様な、熟れている様な不快感。違う、痛み。ピントも合わぬ視界は邪魔で、思わず暗闇で閉ざしたくなる。
 だか意識がある時は顔の皮膚が引っ張られる感覚が邪魔をし、瞬きをするだけでも激痛が走る。

 いつのまにやら呻く力も無くなり、休息は体力の限界によって訪れる睡眠のみ。少し寝ては覚めて、繰り返す。
 さて今は寝ているのか、それとも起きているのか。段々と感覚があやふやになってきていた。

「そんなところっすか?」
「…………」
「……寝てんのかなこれ。ま、どうせ起きてても喋れないでしょうけど。それどころか聴覚がちゃんとしてるかも……ま、静かになって快適快適ーっと」

 気遣う様子もなく、訪問者である彼は荷物を置き始めた。
 灰色の髪は眉を隠し、彼の感情を悟らせにくくする。だが、その声色はどう受け取っても「快適」という単語に合っている。つまりはそういうことだ。
 血が付いた白衣を部屋の隅に脱ぎ捨て背伸びをすると、ポケットから取り出したガムを一つ、口に放り込んだ。

「……はぁ、なんで男の看病なんてしなきゃいけないんだか。伊与田さんは寝てたし……ま、多分処置の必要ないでしょうけど」

 包帯を無駄に用意してしまった。
 そう愚痴って、黙々と器具の準備を進める。その青年は鴬崎。東軍の中では比較的腰を低く立ち回っていた男だ。
 それが今は、怪我人である千晴川が言い返せないのをいいことに好き勝手にふるまっている。
 最初、彼が痛みに悶え呻く気力があった頃は表に出していなかったが……体力が持たなくなり、静かになるにつれ自由になっていったのだ。
 これが彼の素なのだろうか。

「(むさっくるしいだけでなんの役得もないし……ま、女子だったら流石に不味いから俺一人じゃやれないけど)」
「──ッ」
「……あ、消毒してるんで染みます。言うの遅かったすね」
 
 たった今も、何の前置きもなくアルコールの染みたガーゼを傷口につけた。反射的に千晴川の体が震えるも、特に気にした様子はない。
 これが伊与田が警戒を見せていた理由なのか。はたまた他人の命綱を握ったことによる心境のゆがみか。少なくとも他の人間には見せないだろう醜態とも言えた。
 
 だが決して、処置をしないわけではない。死んでは困るのだ。鴬崎が今できることは傷口が化膿しないように、衰弱死しないように見張ることだ。
 勝手に皆乍回復を使ってはいけない。ともなればただの保健委員である彼に出来る事は限られている。
 むしろ、怪我人の救護と言う仕事を東軍の中で一人請け負い、こなしていることは間違いない。

「……はぁ」

 あらかたの作業を終えると、彼は近くにあった木の箱に腰を掛けた。まだ片付けなどは残っているが、緊急を要さないなら急いでやる意味もない。
 ツンと鼻に臭いが来る両手に顔を顰めながら、部屋を見回した。無駄に多い照明、壁側に置かれている筋トレ用具。散らかったや衣類や紙。鴬崎にとってあまり好ましい部屋ではない。

 しかしそこについて今は、彼には多少の同情があった。
 ふと彼は、地面に落ちていた診断書を拾い上げつまらなそうに読み上げる。
 日付は最近の物で、どうやら学園内で受けた検査の物の様だ。

「夜盲症……ね。鳥目って正式名称こんなだったんすね」

 ──夜の盲目。つまるところ、暗闇に置いては極端に視力が落ち……最悪は何も見えない。
 そんな彼が驚愕暗転装置≪コンプリート・ダークネス≫の能力者とは皮肉めいている。鴬崎は装う努力もせず鼻で笑った。
 
「(……いや、暗い時に戦う相手を最低イーブンに引き込めるのか)」

 そのすぐ後に、思いのほか噛み合っていた事に気が付くと不愉快そうに口をへの字に曲げる。
 その姿を千晴川が見れば忙しい奴、とでも言っただろうか。
 いつの間にか、千晴川に勝っていることを彼は探し始めていた。そんなことをしても時間の無駄でしかないが、精神の安定を図ろうとでもしていたのか。

 身長、5cm差で鴬崎の負け。筋力、手当の際に触った感覚だが筋トレ用具は置物ではないのだろう。
 能力、回復係として有用ではあるが無所属になっていれば詰んでいた可能性が高いのは自分。
 探せばあるはずなのに、どうしても劣っている所にばかり着目してしまう。それがなんとも不思議で、苛立たせた。

「……」

 思わず、診断書を握りしめてクシャクシャにする。その後すぐ冷静になり、伸ばして見直す。
 特に変わった点は見られないが、症状は酷く「補助具の着用」を推奨されていたことがわかる。その一文を見た後に、彼は視線を落として寝床の近くにあったソレを視界に入れる。

 所々が焦げ、煤けていて、どうみても使い物にならないと分かるほど破損しているそれを。
 千晴川が所持していた、暗視用ゴーグルだ。能力下での行使が主だと彼は言っていたが……夜盲症の対策にも一役買っていたのかもしれない。
 だが、もはや使用不可だ。

「(……治しても対策とらなきゃ夜の行動は無理ってのはめんどいなぁ。流石に先天性の病気とかは皆乍回復の対象外だろうし)」

 人は一人減ったが、千晴川を治す価値は低いと考える。例え今全力を注いでも多少喋れるようになる程度、戦力として期待は出来ない。
 やはり、このまま死なないように看病し、数の有利があると相手側に誤認させる方が効率がよさそうだ。冷静に、冷酷に。彼はこれからの行動を考え……、

「──ん?」

 違和感を感じ取った。作戦についてではない。部屋の様子だ。例えば自分が座っていた木の箱、例えば何故か床に落ちていた診断書。
 二つとも、自分が最後に看病のため訪れた時にはきっちりと仕舞われていたはずのもの。
 そもそも、千晴川は自分の部屋でも転ばないように、物の数は極力減らすか、壁際などに置かれていたはず。だからこそ部屋に訪れた東軍の四人は気味の悪さを感じ取ったのだから。

「(部屋が荒らされてる……? けど誰が)」

 多少は鴬崎の物だが、確実に別の誰かによるものが混在していた。その事実に気が付くともう一度、千晴川の容態を確かめる。
 相変わらず、元気ではないが苦しそうだ。死んではいない。

「(東軍以外だったら先輩を生かしておく意味がない……黒幕的人物? 部屋を荒らす意味がない。なんで……というかこの木箱って中身何が)」
「──ぉ、ぃ」

 掠れた声が室内に広がる。

「……あ、起きたんすか? 一応今の状況伝えますね」
「ぃ……ぃ」
「え?」

 どうやら千晴川が目を覚ましたらしい。目を限界にまで見開き、鴬崎の方を見ていた。恐らく視界は朧気だろう。またいつ気を失うかもわからない状態だ。
 とりあえず情報だけでも、そう思い近づいた彼の腕が掴まれた。弱弱しく震えているが、力強い。矛盾した感覚がする。
 引き込まれ、思わずしゃがむ。包帯で皮膚の殆どを隠したもう片方の手を首に掛けられる。

「ちょっ、急になんなんすか。俺は敵じゃな──」
「ぎ……け」

 鴬崎を杖代わりに、彼は上体を起こす。そんな元気はあるはずもないのに。声を失うほどの痛みだろうに。狂ったのか、違う。彼の黒い眼は理性のある者のそれだ。
 喉も焼かれているはず、だがそれを無視して無理やりに声を出していた。

「──ぁみ………を、と…めろ」

 それだけ言うと、彼は又意識を失い倒れ伏した。
 止めろ、その三語だけは強く言い切った。言いきれた。

「……は? あ、ちょっと! 寝ないでください、ちゃんと説明してくださいよ! 何を止めりゃいいんすか、アンタは何か知ってんすか!?」

 一人、何かを任された男。鴬崎は千晴川の肩を何度も叩き、意識の覚醒を促す。だが千晴川は起きない。無理をしたせいだろうか、傷口から血が染みだし始めている。
 それを見て彼は慌てて処置を始めた。こんなところで死んでもらう訳にはいかない。千晴川はきっと何かを知っている。
 
 彼が言い残した最後の言葉について何度も思考を繰り返しながら、鴬崎の夜は過ぎて行ったのであった。



********

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休みの時間-3 ( No.44 )
日時: 2018/09/08 19:10
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: dDbzX.2k)

休みの時間「空虚なる隣人」



 意外と応用が利くもんだ、と誰に対して言う訳でもなく呟いては歩く。
 左足は使えない、恐らく神経がやられているのだろう。だがまあ、痛みはないのだから問題はない。不便だが杖代わりに使えないこともない。
 左肩は持ち上がらない、右腕もかなりぎこちない。満身創痍を名乗るには後は右足のみ。

 地面を蹴るというよりは擦って、前に進む。目的地はあるが、そこまで必要ではない。ただこの暗闇の中でただ息を引き取るのを拒否しただけだ。そんなのは面白くはない。
 呼吸をする必要はない、傷を癒す必要はない。仮にこれが本体でもそうであれば、酷くつまらない人生であったろう。それが嫌だから、この最期が来るまで選択肢として、可能性として浮かび上がらなかったのだろうか。

「……て、考察してもしょうがない」

 この考えは形にならないだろうし、残しても意味の無いものだ。
 そうして彼女──羽馬詩杏は動いていた。

 背中に大きな切り傷を背負って、それよりかは小さいが多くの切り傷、打撲痕を抱え、ひどく眠そうに沈む瞼に抗っていた。
 死体が歩いている、その姿形を例えるとしたら、それしかないのだろう。

 では、羽馬はそんな状態になってもまだ、何を成す気だというのか。その答えに、彼女はもう辿り着いていた。東軍のコテージで道連れを狙うか、西軍のコテージで仲間達に遺言を残すのか?
 違う。

「……」

 東軍の所に向かったところで、何もできない。
 西軍の仲間たちは、きっと大丈夫だ。残った年長者が栂原というのは少々心配だが、あの三人ならば立ち直れる。 

 それに……これは、老後の趣味のような。それも悪が頭につくようなものでしかない。そこに清廉さも、高潔さもいらない。ただ自分が愉快になるための行動だ。
 彼女は、痙攣する表情筋を動かして笑い、チャイムを押した。
 


◆◇

 濁った声が響く。
 好きの反対は無関心とはよく言うが、だとするならば嫌いの反対はなんなんだろうか。やはり、無関心だろうか。
 ならば、うざったいことの反対も無関心か。

『死にたいって、嘘なんだろ? お前』

 だから、ほっといてくれ。少なくともお前には、ニタニタと笑いただ言葉尻を取ろうとする奴には何も言われたくない。
 誰かが座っていた彼女に話しかけていた。図書室だろうか、教室だろうか、周りの風景はあやふやで固定されない。恐らく大した意味がないからだろうか。

『だってよ、本当に死にたいなら首でもさっさと吊ればいいじゃないか。それにお前は飯も食ってるし。
……あぁ、そうか!』

 お前の言うそれは、死を渇望し、死を歓喜するもののそれじゃないか。違う、私のこれは違う。
 男はわざとらしく手を叩き、さも今思いついたかのようにふるまう。

『そうやって弱ったふりをしてれば、誰かが心配してくれるもんな。賢い賢い。優しい誰かの手を煩わせて生きて、それでも死にたいって言うのか……随分と滑稽だな!
つまるところお前は……』

 決して、お前が言おうとしている言葉で表して欲しいものじゃない。大は小を兼ねてはいけない、それと同じように広義の意味では入るかもしれない……けど、そんなもので括ってはいけない。
 だから、

『傲慢な奴なんだな!』

 その口を閉じろ。
 言葉と共に、彼女の黒い手が喉元に向かって伸びた。






 死人の血は、新鮮でもなければ黒いそうだ。昔々に、本で読んだことがあった。
 なんでも、酸化することで赤が茶色に、茶色が黒に、とどんどん変色していくらしい。つまり、血の色を見ることである程度の死亡時刻を推測することが出来る。
 もし誰かの死亡時刻が知りたいならば、それを念頭に入れておくといいかもしれない。

 そんな与太話とは関係ない、だがこれもまた与太話……彼女の体には、黒い血が流れている。

「(……まだ、死んでないか)」

 寝相が悪く、いつの間にかベッドから落ちていた。だからか、鳥海は随分と奇妙な夢を見てしまった。
 確か、あの男は最後どうなったんだったかと思い出そうとして、思考を止めた。別段どうでもよいことだからだ。

 ──寝起きの頭にチャイムの音が響く。切っておけばよかったと思うと同時に、来訪者に対する少しの苛立ちを持つ。
 確かに殺すならば殺してみろとポーズを取ったが、夜中にチャイムを鳴らして殺しに来る殺人鬼なんて聞いたこともない。鍵も開いているのだから、暗殺者の如く寝首でも掻けばいいものを。
 仮にいるとしても、ホラー作品の類でしかないだろう。よほど自分の犯行に自信を持っているか、ただの馬鹿の二択だ。
 普段よりも声を張り上げ、外にいるものに伝える。いちいち開けに向かうのも面倒だった。

「……あいてるよー」

 思惑通り、扉が開く音がする。
 だが……少々の時間を置いても、相手は入ってくる気配がない。逆に警戒されてしまったのだろうか。何とも面倒だ。無視して、これ以上チャイムを鳴らされたら堪ったものではない。

「……」

 少し整頓された部屋を頼りない、ふら付いた足取りで進む。さて今度は誰が来たか。また西軍か、東軍か、はたまた無所属か。背伸びを軽くして思案する。
 誰かはともかく、流石にこんな時間帯に来たのだ。十中八九殺しに来たに違いない。流石にこの状況でピンポンダッシュをする者はいないだろう。

「……?」

 玄関部分に人はおらず、軽く開いている扉があるのみ。
 警戒もせず、ドアを内側に引っ張り探そうとする。

「──おっと、それ以上は開けないでもらってもいいかな?」
「……また君?」

 声で止められた。知っている声だ。だいぶか細く、汚くなってはいるが彼女、羽馬だろう。声色からして、殺しに来たわけではなく、また勧誘にでも来たのか。
 そんなことをする気はないと言っているるのに、しつこい奴だと踵を返そうとした。

「まぁまぁ、どうせ夜は長いんだから少しぐらいお話しに付き合ってよ鳥海ちゃん。こっちは老い先短い人生だから、そう長々と時間は取らないさ」

 隙間から聞こえる声の意味が気になり、足を止めた。こうなればもう会話の主導権は羽馬が握ったようなものだった。

「……?」
「どういう意味って感じ、かな。単純だよ」

 元々羽馬は人の行動を誘うことは得意としていたが、ある事情によりそれが最大限に発揮することが出来ていたのだ。
 それは、西軍の年長者としての責務からの解放、そして……

「……もうすぐ、本体は死ぬんだ。それまでの、体なんだ」

 結末の確定。それが彼女を自由にしていた。


 羽馬は、今夜起こったことの顛末を余すことなく話すことにした。
 榊原の蛮勇、岩館の乱入、暴走、そしてそれによって致命傷を負った事。
大方鳥海はずっと寝ていて情報量など0に等しかっただろう。それを気遣ったのか、単に話したいだけだったのか。

「──ってことでね。今の私は虫の息以下って訳なんだ」
「……ふーん、そうなんだ」
「ちょっと運が悪くってね。不幸中の幸いで、他の皆は逃げ延びてくれたっぽいからいいんだけどさ。目を覚ましてみたら幾田君、あぁ無所属の男の子。その子も居たからびっくりしたんだけど、あれも助からないだろうね。
……榊原ちゃんを助けようとしたのかな?」
「さぁ……?」

 そんなことは二人に分からない。だが自分が意識を取り戻した時、幾田は血の海に沈んでいた所を羽馬は見ていた。もし生きていれば最後の語らいをそちらに定めたかもしれないが、仕方のない事だ。

「それでさ、動けないし痛いし、何かやれることないかなーって思ったんだ。丁度良く、分身のストックが復活してね。だから、お願いした……って言い方は変か。私はあくまで死にかけの本体にお願いされた分身だから……」
「……」
「まぁいっか。一時間、あるかも微妙だけどさ。そんな死人のまがい物の言葉。もしかしたら何の役に立たないかもしれないけど……鈴虫の様なもんだと思って聞いてほしいんだ」

 うざい、そう吐き捨てたかった。面倒くさいのでさっさと戻って布団でもかぶってしまおうかとよぎった。
 だが、不思議と彼女は行動に移さなかった。それすらも面倒くさいとしてしまったのかもしれない。それか、消え行くものが何を話すのか、多少は興味を抱くところがあったのかもしれない。
 或いは、まがい物だからこそ、自分に何の変化をもたらさないだろうと高をくくったからこその、僅かばかりの驕りだったのだろうか。
 
「……めんどうだから、一人で話してて」
「……うん、そうさせてもらうね。じゃあまずは……そうだ、私について、適当にかいつまんでお話させてもらうよ」

 扉に背中を預け、座る。奇しくも、羽馬もコテージの壁にそのように掛けていた。
 その行為を感じとったのか、羽馬は少しばかり嬉しそうに声を弾ませて語り出す。
 その時間はいつまで続くかはわからない、次の瞬間には終わるのかもしれないし、或いは途中で誰かが割って入ってくるかもしれない。
 けれど、最後が羽馬の死であることは確定している。だからこそ、過程を変える権利を自分の好きに行使するだけだ。

「私は──」

 平時には決して成り立たなかったこの場を、楽しもう。羽馬はただそう思った。
 そうして、二人だけの短い一時が過ぎて行った。
 


********

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Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【休みの時間-3】 ( No.45 )
日時: 2018/10/12 21:39
名前: 通俺 ◆rgQMiLLNLA (ID: NPNDmgZM)

休みの時間「オオカミ少女」




 無所属、塚本ゆりは本が好きだった。その中でもミステリー物や……哲学に類される物が好きだった。因果関係が逆かもしれないが、彼女は本質を──物事をゆっくりと時間を使い考えることに関して、その趣味のおかげで得意、慣れていた。
 反面、危機が迫り同時に時間制限を設けられるような状況は苦手であった。自分のペースで進められる、というのが嗜好に合っていた。

 では、そんな彼女が咄嗟に嘘を吐き、「生きよう」としたことの本質とは何だったのだろうか。そもそも、生きるとは、死ぬとは何を指しているのか。彼女は本質と言うものに気が付けているのだろうか。
 きっと、恐らく、まだ至っていないだろう。いいや、いくら時間をもらおうが達することはないだろう。塚本一人が悟ったと思ったところで、それは哲学ではない。

 古代から現代にまで続く多種多様な哲学者たちがいくら話し合おうと結論などでない、いや多様だからこそ、出るわけがない。
 哲学とは、誰もが持つ共通解を導き出す事。正義とは、悪とは、愛とは、生命とは、そんな難しい題において「ほとんど、大体の人はこうだろう」となること。

 案外、簡単に見つけられそうかもしれないが……結局のところ、これもまた人の匙加減だ。
 一人の功名な哲学者が長年かけて出した答え。哲学のての字も持たない子供が思いついた答え。その二つが一致するかもしれないし、対照的だったりするかもしれない。
 つまるところ、哲学とは山でクジラを、地下で雲を探すようなもの。永遠と続く迷路に自ら迷い込むも同然なものだ。
 馬鹿らしい、と思われるかもしれない。無駄だと、かしこい人は言うだろう。

 実のところ、ミステリーも似たようなものだ。現代社会をモチーフにした推理小説、だったりは明確な答えが置かれているものが多いが……神秘といったものを扱う作品においては、一定以上の思考は無駄と言ってもよい。
 なぜ現象が起きたのか、この偉大なる生命体は結局のところなんだったのだろうか。そういった明かされなかったものに対し、思考を巡らして楽しむ。だが答えなどは筆者が名言しない限り、辿り着くことはない。この描写から、このキャラの台詞から、多くの事柄を証拠として推測しても、筆者が「そこまで想定していない」と明かせば意味の無い事。はたまた後付けによる真実なんてのもザラだ。

 ──この時のキャラの心情を述べよ、という問題が学校から出され、正解が筆者のあとがきと違う。そんな事例もあった。

 けれど、彼女はそれらの行動が好きだった。本を読み、あらゆるルートを、秘密を、本質を探し出す。探し出せたはともかく。
 楽しかった。

「──この状況の意味ってさ、何だと思う」
「……」

 だというのに、今はこれっぽっちも楽しくはない。目の前にいる人物が、己を試すような行為をしている。楽しくなれるはずがない。
 最低限に灯していた明かりが二人の輪郭線を朧気ながらも照らす。片方は壁際に積まれたマットに、もう一人は平均台をベンチ代わりに腰かけていた。
 平均台に座る者は獲物をチラつかせながら、下弦の月の様な口元。塚本は先ほどまで読んでいた本を持って無表情。けれど、内心は百面相も真っ青なほどの思考分岐を繰り返していた。

 疑問、何故ここに、どうして今か、一人の意味は、本当に一人か、その恰好はなんだ。逃走、どこへ、西軍、無所属、西軍、或いは東軍。何で、徒歩で、早いのはどちら、足止めできるもの、閉じ込められるか、出口は封じられている。降伏、口上、相手のメリット、デメリットは、誤魔化せるか。虚言癖≪ライアー≫で攪乱、どう吐く。
 明日はどうなる、生きられるか、死ぬのか、あの少年はどうするだろうか、そもそも本当に今生きているのか、死んでいるのか。
 死んだらどうなる、地獄だろうか。あの世とやらは存在するのか、魂というものはあるのか。霊があり得るのなら、憑りつけるかも。

 多くの思考の中に、先ほどの質問に該当しそうなものがあったが、答える気はなかった。

「15人、しかも能力者を集めといてやることはただの殺し合い。そんな無駄なことはないと思うんだ。だって……彼らが精神的に一般人を超越しうる者達ならともかく、殆どの人は感性も感情も、年齢の水準からひどく外れていない。
こんなのならその辺の学生とかでも十二分に替えが利く。わざわざ集める意味がない。
人間ドラマが見たいなら、部活を、学年を、クラスを統一したほうがいい。共通点と言えば能力者である、同じ格好に属している、と言うだけでつながりは薄い。始まって初日で殺し合いが起きたのもそのせいがあるだろうね。首輪なんてなくても、高確率で発生していたと思うんだ……苦渋の決断の末、出した答えが殺害。その方がきっと美しいと思うんだよ」

 思考の中に、こいつはイカレテいるのかもしれない。という仮想が浮かぶ。少なくとも、敵対する人を前にして、圧倒的有利とは言え語り出すのは頭がおかしいというほかがない。
 だが、最後の言葉を抜けばその考えは概ね塚本のものと合致していた。塚本にだって、殺し合いで呼ばれた者たちを並べ、疑問が浮かんでいた事もまた事実である。

「かと思えば、親友のような役柄を持った子もいた。多くの生徒を知っていた教師すらいた。人との関わりの一切を拒絶するような子も居た。ちぐはぐ、一定のルールがありそうで、ない。無所属の子は確かに強力な能力者が多かったみたいだけど、一人にされるほど桁外れたものじゃない。
それどころか東西、そのどちらも無所属に匹敵、超える程の能力者だっていた。雑なんだ」

 考えれば考えるほど、この殺し合いの場は理論が成り立たない。AIは、黒幕は何が目的なのか。それがつかめない。
 塚本の全てをじっと観察しようと……しているのだろうか。視線が探れない。

「勝ち残れば願いを叶える。しかも死者の復活なんて異能学園でもまずありえないものまで持ち出している。そのことからこの空間はなんでもありの仮想空間、っていうのが僕の説。
……ま、願いを叶えるってのは嘘で、勝ち残った瞬間処理されるのかもしれないけどさ。どちらにしたって意味がない。

だから、こう考えてみたんだ。今ある状況全てが、主催者さんには必要だったんじゃないかって」

 逆転の発想。物事の本質を捉えようとする、あるいはミステリーを読み解く時にもよくある手法だ。
 一瞬、電灯が古くなっていたのか点滅する。

「強弱の差が激しくも圧倒的ではなく、仲のいい者達ではなくなおかつ能力者の肩書を持つ人たちが、15人必要だった。無所属の不遇さも、東西の有利さもなにもかも。
この首輪も、無くす必要がなかった。不要ではなかった」

 暗闇に溶け込む首輪は、塚本に相手の胴と頭が切り離れているかのように見せた。ひゅうと、ドアの隙間から風が入り込んだ気がした。
 それが、彼女の嘘の方程式の答えを浮かび上がらせる。
 ようやく話に乗る、そんな風に装いながら彼女は口を開く。呆れているように息を一つ吐き出してから、騙る。

「……本当は、塚本たちは能力実験中」

 嘘は、なるべくでかい方がいい。壮大な世界の真実に見合う虚言を作る。それでいて、ミステリーの本でよくあるようなつじつまを合わせ、一見すると全容で、本当は氷山の一角。
 
「無作為に選ばれて、配置もランダム。ここで死んでも、ベッドの上で起きるだけ」

 仮想空間落ちと言うのは非常に都合がいい。なにせ違和感があっても全てそういうものだからで済む。引っ掛かりを全て、実験のためと言う文言に被せる。手を少し動かし、これまでを振り返るかのように揺らす。
 それらに対して、語り騙る口へ

「そして……塚本は──ぁ」










「あぁ、ごめんごめん」

 乾いた音がした。ほぼ同時に、湿った音が小屋の中に響いた。
 銃弾が一つ、放り込まれていた。塚本が理解する間もなく、顎から上が吹き飛んでいた。脳を無くした体が、力なく壁に寄りかかる。
 誰が見ても分かる、死んでいる。
 あっけない最期。

 下手人は悪びれるフリもない声で近づく。武器をさっさと仕舞うと、少女の死体の状態を確認する。手が汚れることも厭わず、断面に触る。肉眼で見たいのか、つけていた暗視ゴーグルを外した。
 喜色で滲ませる深緑の目、揺れる髪、その隙間からは耳……そこには栓がしっかりと詰まっていた。

「君の話、聞く気はなかったんだ」

 これは、彼女の独演だった。
 



休みの時間「****少女」修了




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