複雑・ファジー小説

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攻撃反射の平和主義者です!【完結!】
日時: 2019/09/12 17:43
名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)

1年ぶりの新作です。

生まれつき超人的な力を持つ美女、美琴は規格外の力で周囲の人々に迷惑をかけまいと、高校卒業後は山奥で生活していた。ところがある日、大好物であるおにぎりの味が恋しくなり、都会へと戻ってくる。そこで出会った不思議な紳士スター=アーナツメルツによりスター流なる武闘派集団に入門させられることに。美琴の運命は如何に!?

※本作は基本的に美琴の一人称で進みますが、戦闘シーンでは三人称で執筆しています。

出会い編
>>1>>2>>3>>4>>5>>6

修行編
>>7>>8>>9>>10

李編
>>11>>12>>13>>14


ムース編
>>15>>16>>17>>18>>19>>20>>21>>22

カイザー登場編
>>23>>24>>25>>26>>27>>28>>29>>30>>31
>>35>>37>>38>>39>>40>>41

ヨハネスとの修行編
>>42>>43>>44>>45>>46>>47


メープル編
>>48>>49>>50>>51

最終決戦編
>>52>>53

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.34 )
日時: 2019/06/17 20:30
名前: モンブラン博士 (ID: ifv3pdsf)

友桃さんへ
ありがとうございます!ここでは多分初めてきた感想だと思います!本当に感謝です!
ジャドウとスターは掴み処がない人物として書いています。いえいえ、キャラの好みは人それぞれですから全く問題は無いのです!おお、閲覧500に達しましたか、嬉しいのです!

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.35 )
日時: 2019/06/22 17:40
名前: モンブラン博士 (ID: ifv3pdsf)

美琴は小さく頷いて承諾し、ムースはHNΩと対峙した。相手の体格と体重は彼女の優に二倍はある。そして彼の愛銃から放たれる光弾は無敵と信じて疑わなかった美琴の能力を封じて見せた恐ろしい武器である。能力と実力、その両方において苦戦する相手であることは一目瞭然である。だが、ムースは逃げるという選択肢を取らず、HNΩと向かい合った。その瞳からは先ほどの怯えはなく、自分の相棒を逃がすという決意の炎に燃えていた。
ムースは一気に間合いを詰め、小柄ながらも勢いのあるタックルをHNΩに食らわせ、クリンチで彼の行く手を阻む。

「美琴様、立てますか!?」
「何とか……」

フラつきながらも立ち上がった美琴はムースが何を言わんとしているかを察知し、くるりと踵を返す。そして後ろを振り返ることなく、今の自分に出せる全力で駆けて行く。

「あの小娘、仲間を見捨てて逃げるとは薄情なこと。最もあのダメージでは、どこかで力尽きるのが関の山。お前を始末した後に、奴も仕留めてやるとするか」

しがみついているムースを引き剥がさんと、HNΩは肘打ちを見舞う。
金属製の重い一撃が背中に響く。
だが、彼女は殺し屋ロボの腰から手を離そうとしない。二発、三発。
立て続けに放たれる肘鉄の雨。
だがムースは根が張ったようにその場から一歩も動かない。
彼女は一秒でも長く敵を足止めしたかった。自分が持ちこたえる時間が長いほど、それだけ美琴は遠くに逃げることができる。もしかするとカイザーと合流できるかもしれない。そうすれば、彼女の命は助かる。
「しつこい女は嫌われるぜ!」
「機械人形の分際でわたくしに意見するとは身の程知らずですこと」

四発目の肘打ちを受ける寸前、ムースはサッとHNΩの腰から右手を離し、落下する彼の肘をキャッチ。
そのまま腕を掴んで怪力にモノを言わせて放り投げる。
野球ボールのように吹き飛んだHNΩは噴水に激突。
だが、水浸しになりながらも平然と起き上がってくる。
水を受けても平気ということは、彼の身体には防水加工が施されている証。大量の水でショートを狙ったが当てが外れてしまい、思わずムースは一瞬唇を噛みしめる。だが、思考を素早く切り替え、道に落ちていたΣMDCを拾い上げ、敵目がけて光弾を乱射する。HNΩは身体から火花を散らしながら後退していく。
ムースは銃の電池が切れるまで撃ち続けると、使用価値のなくなった銃をゴミ箱に投げ捨てた。
体中から煙を発し、単眼の光も弱まっている。好機とばかりに接近したムースは、途中で足を止めた。
先ほどは演技と知らずに騙され、結果として美琴を負傷させる失態をしてしまった。そこへいくと、今回も擬態をしている可能性は十分に考えられる。獲物が来ないと見るやHNΩは金属音を鳴らし、再び起動する。だが、ムースは口元に微笑を浮かべ、指を鳴らした。

「わたくしの武器が接近戦だけだと思ったら大間違いですわよ。ポンコツの機械人形さん」

不用意に接近すれば反撃を食らう。
ならば距離を保ち攻撃すればいい。
その答えに辿り着いたムースは素早く指を鳴らし、拷問器具を出現させた。瞬く間にHNΩは両腕の自由を奪われてしまう。彼が上に視線を向けると頭上には巨大な刃が妖しい輝きを放っている。鋭利な刃は先端が赤銅色になっており、これまで幾人もの血を浴びてきたことがわかる。恐怖の斬首台は身動きの取れないロボの首を一撃で刎ね飛ばした。斬られた箇所からはオイルが噴き出し、辺りに飛び散る。ムースの頬にもかかるが、彼女はそれを指で拭き取りペロリと一舐め。

「血だったらもっと良かったのですが、でも、ポンコツにしてはよくやったと思いますわよ」

刹那、彼の動きを封じていたはずの弾拘束具が粉砕され、首無しのロボが立ち上がってきた。そしてゆっくりと斬られた頭部に歩み寄ると、それを拾って、再び首にはめ込んだ。
当たり前のことであるが、これまでギロチンの斬撃を受けて生還した者など一人もいない。
通常の人間相手なら考えられない展開にムースは次なる攻撃のセットアップが遅れてしまった。その隙を逃すほどHNΩは甘くはなく、接近を許されてしまう。ムースは長い髪を掴まれ膝蹴りの連発。鉄拳を打ち込むも堅い装甲の前では掌の皮膚が破けるだけでまるで効果はない。髪を掴まれているので脱出も難しい。そこでムースは愛用の傘の切っ先を相手の腹に突きつけ、弾丸を乱射。攻撃力と弾が放出する際の勢いを利用して、髪を手放させることに成功し、間合いをとった。
だが次なる攻撃に備えて手は休めない。地面を蹴って跳躍すると、空中でコルセットのスカートから無数の棘を出し、コマのように回転しながら突っ込んでいく。

「ニードル・バレリーナ!」

ロボは腕を交差させ防ごうと試みるものの、猛烈な回転の勢いに押され、上空へ打ち上げられてしまう。
それを追いかけ、ドリル・ア・ホール・パイルドライバーを仕掛け、相手の脳天をセメントに激突させた。
技を解除するムースにHNΩはめり込まれた頭部を引き抜き、首を左右に揺らす。全く効いていないというアピールだ。
敵の頑強さにムースの額からは一筋の汗が流れる。

「どうやら少し真面目に闘った方が良さそうですわね」

「お前との戦闘に付き合うのも面倒臭くなってきた。これで吹き飛ばしてやるとするか」

HNΩは両肩を展開し二〇発もの超小型ミサイルをムースに撃ち出す。このミサイルは非常に小さいサイズとはいえ、命中すれば致命傷を与えられるほど高い威力を持つ。
それを何発も受けてしまえば、ムースと言えども無事では済まない。
だが、彼女はミサイルが自分の目と鼻の先に接近するまで行動を起こそうとしなかった

「どうやら観念したようだな。おとなしく消し炭になりな」

全てのミサイルがムースに命中し爆発。周囲は煙に包まれる。
HNΩは万が一のこともあるとして、煙が晴れぬうちに彼女がいた付近に接近する。煙が徐々に晴れていき、視界が鮮明になると、愛用の傘を盾にして全弾を防ぎ切ったムースの姿があった。

「消し炭にならなくて、残念でしたわね」
「傘でガードするとは考えたものだが、お前の自慢の盾には決定的な弱点がある!」

HNΩは背中のブースターから炎を勢いよく発射しスピードを上昇させる。そして素早く彼女の背後に回ると、その背に蹴りを打ちこむ。

「傘の盾で身を守れるのは前面だけ! 背後に回れば意味をなさない!」

鋭い蹴りを食らって地面を滑るムース。傘を閉じ、切っ先を剣に変換。
上空に飛んで振り上げるが、HNΩは真剣白羽取りの要領で難なくキャッチし、真ん中から傘をヘシ折ってしまう。

「傘が……!」
「大事な武器を失ってしまっては、お前の戦力は半減する」

ショックで動きが鈍る彼女にボディーブローを浴びせ前のめりにさせると、すかさず両手を組んだ打撃で追撃。辛うじて躱すことに成功したが、肩で息をするほど呼吸が荒くなってきている。
相手は疲れ知らずのロボ。
対する自分ではスタミナと言う点に関して大きな差がある。
傘は破壊され、並の攻撃は通じず、斬首台も効かない。
頭蓋骨粉砕機でも彼の頭部の破壊は厳しい。
電気椅子だと電気は機械である彼の大好物。ダメージを与えるどころかパワーアップさせてしまうだけだろう。
鞭の打撃などはカに刺されるよりも感じないはずだ。
闘いが長引くにつれて蓄積されていく疲労。そして技の引き出しがどんどんと少なくなっていく現実。能力も無限に使用できるだけではなく、一つの拷問器具を生み出すのに一定の集中力と気力・体力を消耗する。しかもその性質上、頑強な相手であるほど威力は薄くなる。
ここでふと、ムースは自分の闘いの意味を問いただす。
自分はなぜ闘っているのか?
目の前のポンコツロボに勝利するため?
違う。
時間稼ぎだ。
美琴が逃げる時間をできる限り稼ぎ、彼女をカイザーの元へと辿り着かせる。カイザーがどんな人物かはわからないが、スターが招集をかけるほどの者なのだから相当な実力者であることは確かだ。
運が良ければ美琴は彼に守ってもらえるかもしれない。
最悪なのはこのロボが彼女を追跡し見つかった場合。
能力を封じられた美琴では分が悪い。命を奪われることは十分に考えられる。それだけは何としても避けなければならない。自分の命はどうなっても構わない。どの道、他人の手に命を握られた状態なのだから、長くは持たないだろう。利用されて捨てられるのがオチだ。
それならせめて、美琴のためにこの命を散らそう。
愛を知らない自分に愛を教えてくれた美琴。
生まれて初めて触れた優しく温かなあの手の感触。
あの温もりを、こんなポンコツロボなどに奪われてたまるか。
ムースは歯を食いしばり、疲労困憊した体に鞭を打って、気力を奮い立たせて真っ直ぐに敵に向かっていく。泥臭い闘いは本来自分の性に合わない。しかし今はファイトスタイルを選んでいる余裕など無いのだ。
重要なのは少しでも敵を足止めし、時間を稼ぐこと。
コルセットの裾からメリケンサックを取り出し、両手に装着。
速度に任せて敵の右頬を殴る。
体勢が崩れかけるHNΩだが、すぐさま立て直し、巨大な拳を振るってきた。無防備で食らったムースは口が切れ、鮮血が細い顎を伝い地面に零れる。だがその闘志は揺るがない。
相手の胴体を両足で挟み込み、思い切り頭を引き、渾身の力を込めて頭突きを炸裂させる。
一発、二発、三発。
ロボの金属の顔面にぶつかる度に額が割れて血が噴き出す。それでも、彼女は攻撃を止めようとはしなかった。少しでも自分が敵を足止めさせるという強い意思が、限界に近い彼女の身体を動かしているのだ。

「何故だ! 貴様はボロボロの身体でどうしてここまで動くことができる!?」
「ポンコツのあなたには、永遠にわからないことですわよ!」

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.36 )
日時: 2019/07/25 19:48
名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)

上げます。全体的に文章を修正していますので、最新話の更新はだいぶ先になりそうです。

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.37 )
日時: 2019/09/07 16:33
名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)

理解できない。
愛用の武器である傘を粉砕され、能力の使用により肩で息をするほどに疲労困憊をしている少女。並の人間であれば勝負を捨てて逃走するか命乞いをするはず。
だが彼女はそれをせずに頭突きを連発している。ロボである自分の強固な頭部にそのような技が通用しないことは一目瞭然であるはずなのに、彼女は攻撃を止めない。
もしかすると疲労により判断能力が鈍っているのではないだろうか。
訊ねてみても答える素振りはない。
密着されても鬱陶しい。ここは引き離すに限る。
HNΩはそのように結論を付け、瞳から赤く細い光線を放つ。
頭突きを仕掛けたムースはギリギリで躱すものの、初動が遅く、頬を掠めてしまった。血がポタポタと流れるが彼女は気にする素振りを見せずもう一発頭突きを見舞った。
幾度も頭部に衝撃を受けたからか、HNΩはほんの数瞬怯んでしまう。
ムースは脚力にモノをいわせて彼の巨体を反転させ、その頭部を再び地面に叩き付ける。
「二度も同じ手を使うとは、お前も芸のない女——」
全て語り終わらないうちにムースの蹴りがHNΩの頬に当たった。
「オオオオオッ……」
スタミナが切れかけているはずの少女から放たれた蹴りはロボを一〇メートル先まで吹き飛ばし、頬に靴跡を刻みつけた。
「ダメージ率二〇〇パーセントだと!?」
自らのダメージを分析し驚愕する彼に、間髪入れずに二撃目の蹴りが飛んでくる。これもヒットされ、三回、四回、五回と四方八方から目まぐるしく襲いくるキックの雨嵐に翻弄され、遂に彼は片膝を付く。
その隙を逃さずムースは彼を持ち上げ、顎と太腿をガッチリと掴み、自らの首を支点として彼の身体を一気に弓なりに反らし上げる。

「このアルゼンチンバックブリーカーで、あなたを真っ二つにヘシ折って差し上げますわよ」
「その疲労が蓄積した体でできるとでも?」
「やってみますわよ。パスティス家の名誉にかけて!」

次第に空の雲行きが怪しくなり、ムース達が闘いを繰り広げている場所にはバケツをひっくり返したかのような豪雨が降ってきた。
地面はぬかるみ足元をすくわれそうになる。それでもムースは力強く血を踏みつけ、更に相手を反らす。
反らされ続けた影響からか、HNΩの体内から小さなネジやナットなどが飛び出してきた。彼の身体が悲鳴をあげている証拠である。
必死で歯を食いしばり、視界が朦朧となりながらも技をかけ続ける姫に殺し屋ロボは疑念を強めた。
豪雨により自分の身体は滑りやすくなり技のかかりは甘くなる。
そうでなくとも疲労により、やがて緩みが生じるはずだ。
俺は奴の気力が尽きるのを待てばよいだけだが、この女は何のために無謀な闘いをしているのか?
自分のためではない。
するとこいつは美琴が逃げるための時間を稼ぐために俺と闘っているというのか。

「お前にとってあの美琴とかいう存在がどれほど大事なのかは知らんが、圧倒的な存在の俺を相手に負け戦をする選択をとるとは、俺には到底理解できん……
もっとも、理解する気もないが。
これ以上時間を引き延ばされては面倒臭いからな、次で終わらせるとしよう」

頭突きを食らわせる度に血が噴き出す額。一撃で倒せないことは重々承知だ。しかしどれほど強固な素材で構成された頭であろうと幾度も攻撃を続けていれば、やがては亀裂の一つくらいは入れられるのではないだろうか。敵の両脇を両足で強く挟んでいるから締め付けることは敵わずとも体勢を安定させることができる。そこから繰り出されるヘッドパットは通常もの何倍の威力を誇るのだ。
もう何度頭突きを打ったかわからない。数えることをやめてしまった。
だが小さな水滴でも打ち続ければ岩をも凹ませることができるという。自分がしているのはまさにそれだ。両親や祖父が見たらパスティス王家らしくないと叱責されるだろう。だが、それでも構わない。
今の自分に一番大切なのは王家の誇りなどではないのだから。
だが、単調な攻撃ばかりではやがては敵も防御してくるだろう。
ここら辺で戦法を変えてみるのもよいかもしれない。
ムースは大きく身を引き、倒立の体勢になると、脚力で相手を後方に放り投げた。再び頭部をアスファルトにめり込ませるHNΩだが、効いていないようで頭を引き抜こうとする。そこに一瞬の隙があった。
ムースは飛び上がり、上体を起こしかけた彼の顔面に飛び蹴りを打つ。
不意を突かれての攻撃に対応しきれず、HNΩはまともに食らって後退する。この機を逃しては絶対にいけない。たとえ足が砕けようとも、ポンコツロボに損傷を与えてみせる。
ムースは流星のようなドロップキックを連射し、四方八方から縦横無尽に相手の背や甲板、そして頭部を蹴りまくる。短時間かつ短距離の移動であるならば背中のブースターを使い、超高速を出せるHNΩだが、基本的には俊敏さではムースに劣る。バッタのようにジャンプし、電線やビルの屋上から加速を付けて打ってくる彼女の鋭い連蹴の前には翻弄することしかできない。
捕まえようと手を伸ばしても、それっより早く空中に跳び上がるのだから、厄介なものだった。
それでも自らの装甲に自信を持つHNΩは身体の負担を度外視した無茶な攻撃の連続により、自分が動くまでもなくムースは自滅するだろうと計算し、敢えて相手の誘いに乗ることにした。ダメージ率が二〇〇パーセントといえどもいつまでもその威力は維持できないし、俺の装甲には全く歯が立たないだろう。
相手の反応を確かめるべく、HNΩは本日三度目の演技をした。
片膝を付くことによりダメージを負っているように見せかけたのだ。
果たして少女は撒いた餌に食いつき、アルゼンチンバックブリーカーをかけてきた。打撃は効かないと知り、今度は関節技を挑むとは。
HNΩは心の中で呆れていた。
自分はロボ。従って痛覚は存在しない。そんな技を仕掛けたところで、痛みに耐えかねギブアップなど絶対にするはずがない。その事実を、この女は分かっているのだろうか。
だが、この時HNΩは自らの身体に起きつつある異変に気づいてはいなかった。

Re: 攻撃反射の平和主義者です! ( No.38 )
日時: 2019/09/07 16:40
名前: モンブラン博士 (ID: EUHPG/g9)

ムースはロボを担ぎ上げたまま、豪雨の中で跳躍しては着地を繰り返す。落下の速度を合わせることで、より彼の身体をヘシ折りやすくしているのだ。自らの身体からネジやナットが放出されているのを見て、ここにきて初めてHNΩは自身が少なからず損傷を受け始めていることを悟った。ロボに痛覚がないとはいえ、体を構成する骨格や回路などは存在する。それを切断されてしまえば、流石の彼も機能停止という道を辿らざるを得なくなる。
それだけは御免だ。
人間、それも少女に破壊されたとあっては殺し屋ロボとして轟かせてきた地位も名誉も地に落ちる。
そんなことはあってはならない。
成し遂げた依頼は一〇〇パーセント遂行する。同じ台詞を口にして三下の李如きに呆気なくやられた目黒怨とは年季が違う。
俺の方が強く、依頼金も高い。
やつと同格かそれ以下になってしまえば、依頼主は減り、金は稼げなくなる。惨めな思いは御免だ。
俺はこれからも大金を稼ぎたい。
稼ぎまくって自らを改良し、必ずやあの男を倒したい。
ここで破壊されては俺の夢は幻に終わる。それだけはいけない。暇潰しにはなるかと期待したが、少々面倒臭いことになった。この女も依頼の対象に入っている。
わざわざ遊ぶ理由はないはずだ。
仕方あるまい。
少々後始末に手間はかかるが、依頼を達成できないよりはずっといい。
あと一分。残り一分ジャストでこの女を始末し、その後は美琴の番だ。

「次で終わりにしよう」

ムースの反らす力が弱まったのを察知したHNΩは顎と太腿のクラッチを外して技から脱出。
右腕を剣状に変形させ、一気に間合いを詰めてムースに斬りかかる。
全ての力を出し尽くしたムースにそれを躱す体力はなく、腹部に斬撃を食らってしまう。だが、彼女のコルセットのみが切断され腹を露出させるだけにとどまった。

「浅いですわね。そのおかげでわたくしはこんなはしたない恰好をさせられる羽目になりましたわ」

冷や汗を流しながらも軽口をたたく彼女にHNΩは電子音で笑い。

「今のは俺の最終奥義の序曲に過ぎない。本当に恐ろしいのはこれからだッ!」

ムースを左腕で首を絞めながら高々と抱え上げ、空いた右腕を鋭利な細槍に変換させる。
HNΩはムースのへそに細槍を根本まで深々と差し入れた。
彼女の縦長のへそから体内に侵入した槍は彼女の身体の中で無数に分裂し極細槍と化し、五臓六腑を貫いた。無数の槍は背中まで貫通し、彼女の背後から鮮血が迸る。

「がはっ……」

口から血を噴き出し、ムースの青い瞳は白目を剥く。

「任務完了だ」

体内から腕を引き抜いたHNΩは、血染めとなったムースを蹴飛ばし踵を返す。

「まずは一人目は始末した。次は美琴の番か」


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