複雑・ファジー小説

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ダウニング街のホームズ【ウェストブロンプトンの薔薇 完結】
日時: 2022/09/26 21:04
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1729.jpg

 ——1887年。ヴィクトリア朝時代のイギリス。産業革命を迎えたイギリスは工業化が進み、機械による技術が大幅に発展を遂げる。街は活気さを増し人々は何不自由なく平穏を謳歌していた。そんな光の都にも恐ろしく冷酷な事件が絶えず起きているのだ。

 ——ロンドンのダウニング街に事務所を構える私立探偵のエドワード・サリヴァンとその助手であるクリフォード。2人は良きチームとして英国の難事件を解決していく。この世に解けない謎はない。その信念を抱きながら今日も彼らは依頼を受ける。



†【登場人物紹介】


†【エドワード・サリヴァン】

 物語の主人公。年齢は33歳。ロンドンに事務所を持つ有能な私立探偵で報酬と引き換えに依頼を受ける。若い頃から探偵業を始めこれまでに多くの難事件を解決してきた。戦闘も得意で仕事の際は愛用の銃をいつも携帯している。


†【クリフォード・ベイカー】

 エドワードの助手を務める少年。年齢は15歳。数年前にエドワードに命を救われそれ以来、彼のもとで働く事を決めた。気が弱く臆病な性格だが頼りになる相棒と評されている。


†【リディア・オークウッド】

 ロンドン市警である優秀な刑事。階級は警部補。年齢は28歳。かの有名な刑事『フレデリック・アバーライン』の直々の部下を務める。事件が起きる度、エドワードとは一緒になる事が多く互いのスキルを認め合う程の仲。そのため、まわりでは2人は恋仲というの噂が流れている。


†【アメリア・クロムウェル】

 エドワードに協力している元探偵の情報屋。年齢は25歳。元はイギリスで名の知れた探偵社に所属していたがとある事件によって職を終われる。その後、エドワードと知り合い協力関係となった。表向きは冴えない修道女だが裏では有力な情報を密かにエドワードに提供している。


†【ダンカン・パーシヴァル】

 ロンドンにある酒場『銀の王女亭』を営む女装男性の亭主。通称ロザンナ。年齢は27歳。常連客であるエドワード達に酒を振る舞い相談に乗っている。彼に好意を寄せているが現在は片思い中。クリフォードをちゃん付けして呼ぶ。たまに謎の暴くきっかけを作ったり助言を与えたりする。


†【フローレンス・ウェスティア】

 ホワイトチャペルで働く理髪師。年齢は18歳。明るく温和な性格の持ち主で近所でも評判もいい女の子と知られている。幼い頃に両親を病で亡くした過去を持ち、孤児院で育った。クリフォードと仲が良く、彼を実の弟のように慕う。


【シナリオ】忘却の執事 

【表紙】ラリス様 

【挿絵】道化ウサギ様


 It is the beginning of the story・・・

Re: ダウニング街のホームズ【ミステリー】 ( No.1 )
日時: 2020/05/08 21:02
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1759.jpg

——1887年 4月28日 午前10時26分 ダウニング街10番地 サリヴァン探偵事務所

 蓄音器が奏でるヴァイオリンの輪舞曲、部屋は美しい音色に包まれていた。壁には高そうな名画が飾られ、肖像画の男が鋭く睨む。隅には本棚があり、大人でも理解に苦しむような内容の分厚い本が無数に並べられている。反対側は事件解決の際に授与されたいくつもの賞状が壁に掛けられていた。

 そして、骨董品が上に置かれた豪華な暖炉。燃え上がる火は黒く染まり切った薪を燃やし、パチパチと音を立てる。その手前には来客用のソファー、低いテーブルに菓子の入った器が乗っている。まるで、この部屋全体が高級マンションの一室のようだ。

「ふぅ〜・・・・・・」

 ロンドンの町並みが一望できる窓際の椅子に腰掛けながら、優雅に煙草の煙を吐き出す男がいた。背が高く年齢は三十代半ばころ、背が高く、後頭部の長い黒髪をまとめて結っている。目つきが鷹のように鋭く、顔に斬りつけられたような傷跡が浮かぶ。そして、首に紅い十字架のネックレスをぶら下げていた。

 彼の名はエドワード・サリヴァン。ダウニング街10番地に事務所を構える私立探偵である。二十三歳の若さで探偵業を始め、これまで数多くの難事件を解決してきた。それだけ優秀な人材であり、一般人から貴族、警察、政府要人からの依頼が絶えない。

「おい、クリフォード」

 エドワードがのんびりとした姿勢を保ち、誰かを呼んだ。

「はい?」

 返事が返り、物置の方から返事が返ってきて中から子供が出てきた。両手に仕事の資料が積まれた箱を抱えている。どうやら、整理整頓の最中だったらしい。

 クリフォードと呼ばれた子供は背は低く細身の体格をしている。ボサボサの短い髪、白いシャツの上に袖のない茶色のセーターを着ていた。大人のエドワードとは裏腹に目つきは優しく、おっとりとした顔つきだった。

「呼びましたか?」

 彼はエドワードのいるテーブルの前まで来て、可愛い笑顔を作った。

「朝から資料の整理で少し疲れただろ?そろそろお前も休め。菓子も食べていいが程々にな?」

 それを聞き、クリフォードは嬉しそうに頷いて、持っていた箱を適当な位置に置く。棚を開け、一口サイズのチョコレートを鷲掴みにして、また戻ってきた。

「エドワードさんも食べますか?」
「——ああ、すまないな」

 エドワードはチョコを受け取り、短くなった煙草を捨てた。包み紙を開け、中身を口に放り込む。

「しかし、三日も仕事が舞い込んで来ないとなると流石に退屈になって来るな」
「エドワードさんを頼る人が来ないだけ、この国が平和なんですよ。長い休日だと思えばいいんじゃないですか?」

 モグモグと子供らしくチョコを頬張り、クリフォードは前向きな返答を返す。

「確かに、そうかも知れんな。ふっ、長い休日か・・・・・・」

 エドワードは軽く笑みを浮かべて温くなったコーヒーを啜る。二人は繰り返し演奏される音楽に酔いしれながら部屋で寛ぐ。今日も客人が訪れる気配はない。ここでの仕事も終わり何もない静かな時間だけが流れていく。

「ん?どうしたんだ?クリフォード?」

 ふと、エドワードが助手の変わった様子に気づき、数分ぶりに口を開く。考え事をしている感じで立ち尽くしていたクリフォードは我に返り、"え?"と思わず声を漏らす。

「あ・・・・・・い、いえ、ちょっと昔の事を思い出して・・・・・・」
「昔の事?」
「はい。僕がエドワードさんのもとで働き始めてから、もう二年が過ぎようとしています。時が経つのは早いなって・・・・・・」
「そうか・・・・・・お前と出会ってもうそんなに経つのか・・・・・・」

 エドワードも相変わらず椅子に背を預け、天井をぼーっと見上げながら、そう遠くない過去を振り返る。

「あの時、エドワードさんが助けに来てくれなかったら、僕は死んでいたでしょう。あの時、救われた恩は今でも忘れていません」

「例には及ばない。困っている者を助けるのは、英国紳士として当然の行いだからな。一応、どういたしましてと言っておこうか」

「それにここで働かせてもらってるお陰で、故郷にたくさん仕送りができて両親の生活は充実しています。父さんも母さんも僕と同じ気持ちですよ」

 話に合わせ、エドワードは机から一通の封筒を取り出し、クリフォードに見せる。

「お前のご両親が俺宛てに書いた手紙、今でも大事に持ってる。感謝状ほどもらって嬉しい報酬はないからな」

 そう言って出したばかりの封筒を引き出しにしまう。

「エドワードさんって色々と優秀ですけど、正義感が特に強いですよね」

 エドワードは照れる事なく、"まあな・・・・・・"と最初に言っておもむろに付け足した。

「見返りを求めず誰かの役に立て。誰かを傷つけるくらいなら自分が傷つけ。死んだ親父の口癖だった。その教えが俺の頭に深く根付いてしまったんだろうな」
「あなたのお父さんも立派な方だったんですね」
 
クリフォードは感心に感心を重ねる。

「酒癖は悪かったけどな」

 その一言に探偵と助手は愉快に笑った。広い一室は穏やかな空気に包まれる。

「じゃあ、もしかしたらエドワードさんも・・・・・・」

 クリフォードも調子に乗って、何かを言おうとした時だった。後ろでコンコンコンと三回叩く音がした。誰かが扉をノックしたらしい。二人は表情を変え、一斉に音がした方へ視線を送った。

「エドワードさん!いますか!?」

 扉の向こうから、中に問いかける男の低い声が聞こえた。焦りを感じさせない冷静な口調だった。返事がないので、彼は再びノックを繰り返す。さっきまでの穏やかだった空気は一変し、二人の体に緊張が走った。

「——この声は・・・・・・」

 エドワードはやって来た男の正体が誰なのか悟り、椅子から立ち上がる。

「クリフォード、紅茶を用意しろ。今すぐにだ」
「はい、すぐに!」

Re: ダウニング街のホームズ【第一話 暴発した散弾銃 更新中】 ( No.2 )
日時: 2020/05/21 18:43
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 エドワードはもてなしの役目を助手に任せ、自身は来客が待つ扉の方へ向かう。掛けてあった鍵を回し、取っ手を手前に少し引き寄せた。開いた狭い隙間から顔半分を覗かせると、丸いハットを被り、正装感が溢れるお洒落な服装をした中年男性が立っていた。顎以外に濃い髭を生やし、揉み上げと繋がっている。

「これはこれは・・・・・・アバーライン警部」
「ご無沙汰しています。しばらくぶりと言ったところでしょうか」

 どうやら、やって来たのは警察官らしい。アバーラインと呼ばれた男は静かに帽子を取り、礼儀正しく挨拶をした。

「お久しぶりですね。仕事の依頼ですか?」
「——ええ」
「ここでは何ですから、中にお入り下さい。寒かったでしょう?温かい紅茶を淹れますので」

 エドワードは友好的な振る舞いで、アバーライン警部を招き入れる。部屋の中に戻ると、頼まれたお茶の準備を済ませたクリフォードの姿があった。

「やあ、クリフォードくん。久しぶりだね。調子はどうだ?」
「あ、いらっしゃいませアバーラインさん。お陰様で元気ですよ」

 彼もエドワードと同じ態度を示し、笑顔で挨拶する。

 アバーライン警部は暖炉の前のソファーに腰を下ろした。腕を回し体をひねったりして軽く運動し、老いた骨を鳴らす。そして、天井を見上げながら強く息を吐き出す。ここまで来るのに相当な疲労が溜まっている様子だ。

「紅茶をどうぞ。あっ、それとテーブルにあるお菓子も遠慮なく」

 クリフォードは零さないよう慎重にお茶を置く。

「ありがとう。いつもすまないね」

 彼は淹れたばかりの紅茶のカップを取り、早々に一口啜った。エドワードはその向かいに座り、今日で何本目か分からない煙草に火をつける。そして、横にいた助手にコーヒーのお代わりを頼んだ。

「——ところで、今日ここに来た理由というのは?」
「おお、そうでした。流石はエドワードさん、仕事熱心な方だ」

 アバーライン警部は紅茶を置き懐から資料の袋を取り出した。中身を空け誰かの顔写真とインクの文字で埋め尽くされた数枚の白紙をテーブルに並べる。エドワードは煙草をくわえ何も言わず生真面目な眼差しでそれを見下ろす。

「今回、あなたのもとを訪れたのは・・・・・・」
「コーヒーをお持ちしました」

 クリフォードが話の途中に割り込み、コーヒーを両手を運んできた。ソファーに座る二人の視線が少しの間、違う方向に向けられる。

「すまないな。ここに置いといてくれ」
「ごほっ・・・・・・!ええっと・・・・・・」

 アバーライン警部が咳き込み、改めて詳細を話し始める。

「今朝、オールドウィッチ(ロンドン地区の一つ)で一人の男性が死亡しました。名は『コリン・ベイツ』、街で評判の富豪です。死因は爆死、地下室の射撃場で使用した猟銃の暴発によるものです。死亡推定時刻は午前六時頃、遺体は警察病院に搬送しました」

「なるほど、第一発見者は?」
「コリンの妻であるメアリー夫人です。火薬の破裂音に気づき現場へ駆け付けた時には既に動かなくなっていたそうです」
「即死ですか・・・・・・」

 エドワードは実に不快そうな面持ちで煙草をくわえる。アバーライン警部も同じ気持ちなのか、なんとも言えない複雑な表情で紅茶を啜った。

「ここまではただの事故死にしか聞こえませんが、私の所に来たという事は何か不自然な点が?」

 探偵は腕と脚を組み率直に聞いた。

「その通りです。最初はあなたと同じく事故死と睨んでいたのですが、気になる物を見つけまして・・・・・・」
「——話は大体分かりました。でしたら早速、俺を現場に案内してくれませんか?言葉で理解するより、直接目にした方が効率的ですから」
「引き受けてくれますか?」
「勿論です。それが仕事ですから」

 アバーライン警部は実に喜ばしい表情を作り、お礼の言葉を送った。残った紅茶を飲み干して、資料を袋にしまいソファーから立ち上がる。入ってきたドアへ足を進め、取っ手を掴んだ途端に彼はエドワードの方へ振り返った。

「おっと、報酬の話を言い忘れるところでした」
「いくらですか?」
「300ポンドです。勿論、クリフォードくんの分もお支払いしましょう」
「悪くない金額ですね。そうと決まったら・・・・・・」

 エドワードも吸いかけの煙草を灰皿に押し潰し、立ち上がった。机に向かい、引き出しにしまってあったホルスターを腰に巻き、拳銃を手に取り太く長い弾を込める。バレルの長い44口径のリボルバー。銃身、シリンダー、グリップ。全ての個所が白銀に輝き見事な刻印が施されていた。これはいつもエドワードが仕事の際に必ず持ち歩いている愛着のある代物、父の形見でもある。

——最後にスタンドにかけてあった灰色のコートを羽織り身なりを整えると

「クリフォード、三日ぶりの仕事だ。お前も同行しろ。必要な物を忘れるなよ?」
「は、はい!分かりました!」

 クリフォードは少々焦りながら、出かける準備を急ぐ。勢いよく自分の部屋に入り込み、中で激しい音を立てて数分もしない内に彼は部屋から出てきた。服装を変え手には小さな銃が握られており、ちょうど弾倉の装填を終えたところだ。

「道路に馬車を待たせてありますので。それに乗り現場へお送りします」

 と言い残し、アバーライン警部は速やかに下の階へ降りて行った。


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