複雑・ファジー小説

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ダウニング街のホームズ【ウェストブロンプトンの薔薇 完結】
日時: 2022/09/26 21:04
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1729.jpg

 ——1887年。ヴィクトリア朝時代のイギリス。産業革命を迎えたイギリスは工業化が進み、機械による技術が大幅に発展を遂げる。街は活気さを増し人々は何不自由なく平穏を謳歌していた。そんな光の都にも恐ろしく冷酷な事件が絶えず起きているのだ。

 ——ロンドンのダウニング街に事務所を構える私立探偵のエドワード・サリヴァンとその助手であるクリフォード。2人は良きチームとして英国の難事件を解決していく。この世に解けない謎はない。その信念を抱きながら今日も彼らは依頼を受ける。



†【登場人物紹介】


†【エドワード・サリヴァン】

 物語の主人公。年齢は33歳。ロンドンに事務所を持つ有能な私立探偵で報酬と引き換えに依頼を受ける。若い頃から探偵業を始めこれまでに多くの難事件を解決してきた。戦闘も得意で仕事の際は愛用の銃をいつも携帯している。


†【クリフォード・ベイカー】

 エドワードの助手を務める少年。年齢は15歳。数年前にエドワードに命を救われそれ以来、彼のもとで働く事を決めた。気が弱く臆病な性格だが頼りになる相棒と評されている。


†【リディア・オークウッド】

 ロンドン市警である優秀な刑事。階級は警部補。年齢は28歳。かの有名な刑事『フレデリック・アバーライン』の直々の部下を務める。事件が起きる度、エドワードとは一緒になる事が多く互いのスキルを認め合う程の仲。そのため、まわりでは2人は恋仲というの噂が流れている。


†【アメリア・クロムウェル】

 エドワードに協力している元探偵の情報屋。年齢は25歳。元はイギリスで名の知れた探偵社に所属していたがとある事件によって職を終われる。その後、エドワードと知り合い協力関係となった。表向きは冴えない修道女だが裏では有力な情報を密かにエドワードに提供している。


†【ダンカン・パーシヴァル】

 ロンドンにある酒場『銀の王女亭』を営む女装男性の亭主。通称ロザンナ。年齢は27歳。常連客であるエドワード達に酒を振る舞い相談に乗っている。彼に好意を寄せているが現在は片思い中。クリフォードをちゃん付けして呼ぶ。たまに謎の暴くきっかけを作ったり助言を与えたりする。


†【フローレンス・ウェスティア】

 ホワイトチャペルで働く理髪師。年齢は18歳。明るく温和な性格の持ち主で近所でも評判もいい女の子と知られている。幼い頃に両親を病で亡くした過去を持ち、孤児院で育った。クリフォードと仲が良く、彼を実の弟のように慕う。


【シナリオ】忘却の執事 

【表紙】ラリス様 

【挿絵】道化ウサギ様


 It is the beginning of the story・・・

Re: ダウニング街のホームズ【第三話 ストランドの悪夢 更新中】 ( No.38 )
日時: 2021/11/14 17:03
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 --1887年 12月26日 午後1時43分 ストランド ストランド孤児院

 正面玄関の手前で、かかとの高さまでに雪の積もった広場が大勢の子供達が無邪気に遊んでいた。
雪玉を投げ合い、雪合戦をする少年の集団。真っ白な地面に絵具を垂らし、カラフルなアートを作る少女。足跡を残し、かけっこをする子供と先生。
そして、力を合わせて大きな雪だるまの体を重ねる子達、顔を作りが完成すると喝采と拍手で盛り上がった。

 3人は鉄格子の門を開け、孤児院へと足を踏み入れる。
エドワード達の存在に子供達は一旦遊びをやめ、何食わぬ顔をした・・・・・・が、すぐに目を逸らすと再び楽しい時間にのめり込む。

「--ほら、あの子だよ」

 白い吐息を吐きながら、アメリアは遠くを指差す。その先には大勢の子供達より年長の少女が1人。彼女は玄関前の階段に腰かけ、孤児達に本を読み聞かせている。

 10代後半を迎えたような年齢で艶のある滑らかな髪が背中まで垂れていた。
着ている服は茶色のコート下は赤いロングスカートと革製のブーツを履いている。
怒った顔が想像できないくらい表情は穏やかで犯罪者の面影は感じられない。

「真ん中で本を読んでいるあの子で間違いないか?」

 エドワードは隣にいるアメリアに視線だけを確認を取った。

「そうだよ。名前は『メアリー・ヒギンズ』。ここの孤児院では釘付けのヒロインさ」
「子供の扱いが上手いな。ひょっとして彼女も孤児なのか?」
「相変わらず勘が冴えてるね?その通り、彼女の父親はストランド病院の医師で母親のそこの看護婦をやってた・・・・・・けど、1年前の事故で夫婦揃って亡くなったんだ」
「--事故?」

 エドワードが更に詳細を尋ねる。

「ロンドン橋で事故に遭ってね。乗っていた馬車が衝突したんだよ」
「家族を突然に失ったのか・・・・・・なんて残酷な、受けた悲しみは言葉では言い表せなかった事だろう」
「悲劇はそれだけでは終わらなかった。両親を失ったストレスで胸の病気を患い、原因不明の発作に見舞われて薬なしじゃ生きられない体になった。今はああして静養中、週に一度亡き父の親友である精神科医の元に通っている最中なんだ」
「--重い病を患っている割には随分と顔色がいいな。家族を失ったとも思えない晴れやかな表情だ。もうちょっと、近くで彼女を観察してみるか」

 3人は容疑者の様子を探るため、子供達の溜まり場に身を寄せた。


「こうして、意地悪な老人スクルージは稀に見る善人となり、たくさんの人に幸福をもたらしたのでした。めでたしめでたし」

 メアリーは楽しそうな面持ちを作る子供達に囲まれ、本に書かれた最後の台詞を読み上げる。
物語の終わりを告げると、クリスマスキャロルのページを閉ざした。その直後に無邪気な歓声と拍手喝采が巻き起こる。

「私にも精霊が訪れればいいなぁ~」
「僕、大人になったら今よりも優しい人になる!スクルージお爺さんみたいにたくさんの人を幸せにしたい!」
「悪い事はしちゃいけないんだね。いたずらはもうしない。もっと、友達を大切にする!」

 そんな子供達の明るい声が聞こえる。

「メアリーお姉ちゃん。僕もいつか幸せになれるかな・・・・・・?」

 傍で絵本の話を聞いていた1人の男の子が微かに不安のある顔で問いかける。メアリーは、そんな彼の頭を優しく撫でると

「勿論、一生懸命に生きていい事をいっぱいしていれば必ず報われる。神様は、ちゃんと見ててくれるんだよ」

 笑顔ではっきりと言い放った。

「うん!」

 少年も皆の笑顔に溶け込み、こくりと頷いた。

「--あら?あなた達は?」

ふと、メアリーがエドワード達の存在に気づいた。
見慣れない格好の数人の人間に対し、生真面目な表情を浮かべる。
その場にいた子供達全員もざわめきを静まり返らせ、3人を見上げた。

「孤児院の先生じゃないようですね。もしかして里親の方ですか?」
「--え?ああ、いや・・・・・・違う。俺はエドワード・サリヴァン、ダウニング街の私立探偵だ」

 誤解に少々焦りを抱くも、エドワードは自己紹介を述べる。

「そして、この子は・・・・・・」
「助手のクリフォード・ベイカーです。お会いできて光栄です」
「アムリア・クロムウェル。この街の修道女をやってる」

 後ろにいる2人も、それぞれの態度で自ら名を名乗る。

「探偵なの!?凄い!」
「ねえ!拳銃とか持ってるの!?見せてよ!」

 子供達の脚光が、今度はエドワードに浴びせられる。
大勢に押し寄せられ足元を遮られたどうしようもない状態に探偵は両手を上げ、困り果てた苦笑をせずにはいられなかった。

「こらこら、皆だめだよ。探偵さんの仕事の邪魔をしちゃいけないよ?」

 メアリーは子供達を引き下がらせ、大人の対応を取る。孤児達は失望した顔をしながらも、しぶしぶ指示に従った。

「ここには色んな人が訪れますが、探偵の方が来るなんて珍しいですね。この孤児院に何か用でも?」
「--おっと、そうだった。実は君に聞きたい事があって、ここに来たんだ」
「--私に・・・・・・?」

 エドワードは一度咳をすると気を取り直して内容を話す。

「俺達は、ある事件の捜査の聞き込みをしていてね。少しばかり、時間をくれないか?」
「--どんな事件ですか?」
「今この街を騒がせている死神のサンタさ」

 エドワードは容疑者の目の前で例の事件の事を口にする。

「・・・・・・」

 メアリーは沈黙したももの、顔色一つ変えずに動揺の素振りを見せなかった。
しかし、さっきまで和やかなだった態度を変え

「--最低な事件ですよね・・・・・・罪のない子供達を殺して、玩具にするなんて・・・・・・こんなの許されていいはずがない!」

 怒りに震えた声で言った。
予想もしなかった返答にエドワードは逆に混乱した。
何故なら、犯罪者の面影が彼女からは感じ取れなかったからだ。

「--そ、そうだな。こんな残忍な犯行は早く止める必要がある。改めて聞くが、この街で特に夕方の時間帯に怪しい人物を見なかったか?どんな些細な事でもあったら教えてほしい」
「--力になれず申し訳ありませんが、怪しい人は目撃してないですね。外出はあまりしないし、時々商店街や孤児院に足を運ぶだけで・・・・・・重い病気を患っているから・・・・・・」
「ただせさえ大変なのに、嫌な気分にさせてすまなかったね」

 メアリーは再び笑みを作ると否定的に頭を振り

「大丈夫ですよ。エドワードさんもお仕事頑張って下さいね?」

「ありがとう、捜査の協力に感謝する。では、用が済んだから俺達はこれで失礼させてもらうよ。これは大きなお世話かも知れないが、死神のサンタは幼い子供ばかりを標的にするとは限らない。君も日が暮れた時刻はなるべく外を出歩かないように。それと路地裏や人気のない場所には近づいちゃだめだ。他の子達にもこの事を伝えておいてくれないか?」

「勿論。十分に気をつけますが、この子達の安全は私が必ず守ります。決して卑劣な犯罪の犠牲者になんかさせません!」
「勇敢だな。君がいれば、子供達も心強い事だろう。では、これで失礼する」

 エドワード達は再び子供にチヤホヤされるメアリーを背に孤児院を後にした。
そう遠くない後ろで無邪気なはしゃぎ声が絶え間なく聞こえ始める。

Re: ダウニング街のホームズ【第三話 ストランドの悪夢 更新中】 ( No.39 )
日時: 2021/11/21 18:24
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 施設を出た3人はとりあえず、建物の裏側へ回る。通行人のがほとんどいない平凡な歩道で足を止め互いに向き合う。そして、しばらくも経ってないさっきの捜査について話し合いを始めた。

「--アメリア。もう一度聞くが、本当にあの少女が容疑者なのか?話をしたら、かなり良識的な人間で驚いたぞ?」

 エドワードは訝し気にアメリアを問いただす。

「私達の集めた情報が間違っていたとでも言いたいの?」

 アメリアは少し反抗的な目つきをしたが、口調は冷静だった。

「でも、僕もあの人が悪い人になんて全然見えませんでしたよ?」

 クリフォードも納得しきれず、否定的な台詞を口にする。

「いくら上辺を繕っても、根が凶悪な人間なら、あんな風に子供達が恐がりもせず近寄る訳がない。反応を確かめるためメアリーに今回の事件の話を持ち出してみたが、彼女は動揺の兆しさえ表さなかった。子供を殺して快楽を得ている連続殺人犯にしては目が優し過ぎる」

 エドワードもとてもじゃないが、信用しきれない様子だった。

「まあ、私だって、超能力者じゃないから間違いだって犯すだろうね。でも、あの少女が犯人だという事に関しては自信があるんだ。この事件の犯人は子供の扱いに長けて上手く誘い込むのを得意としている。いくら、警戒心が強い子供でも相手も子供なら簡単に気を許してしまう。ああいう優しそうな女の子なら尚更ね。そして、前にも言ったけど、あの子は死神のサンタ事件の犠牲者の傍に置かれていたプレゼントと同じ物を数日前から購入している。こんな偶然は有り得ない」

「まあ、確かに・・・・・・恐いぐらいに偶然が重なってはいるがな・・・・・・」
「メアリーさんが犯人である線が薄いなら、捜査はまた振り出しですね。これからどうします?もう、調べられそうな所はありませんよ?」

 クリフォードが、がっかりしながら探偵に次の提案を促す。

「いや、そうでもないぞクリフォード。どうも容疑者とは思えないが怪しい箇所がある以上、念には念を入れて調べなければならん。メアリー・ヒギンズを調べてみよう。犯人なら、どこかに証拠を隠してるはずだ」
「メアリーの家を調べるんですね?」

 クリフォードの以心伝心にエドワードが頷く。

「証拠を探すなら、まずは家を調べるのが基本だ。だんだんと冴えてきてるなクリフォード?成長が窺えるぞ。さて、やる事が決まったとなると・・・・・・アメリア。お前、メアリーの調査に明け暮れていたんだろ?住んでる場所くらい把握しているよな?」

 アメリアは少々自慢げになって

「当たり前でしょ?容疑者の家の場所すら調べられないようじゃ、情報屋失格だよ。彼女の家は、ここからちょっと離れた住宅街のアパートに暮らしている。アパートの名前は『ブルーサンシャイン』。2階建てのなかなか洒落た建物さ」

「じゃあ、早く行こう。メアリーが孤児院で子供の遊び相手になってる今がチャンスだ。案内してくれないか?」
「ちょっと待って。エド」

 事を急くエドワードをアメリアが呼び止める。

「朝から捜査で疲れたんじゃない?あなたとクリフォード、2人は休んでここは私に任せてくれない?」
「何を言い出すかと思えば、どうしたいきなり。俺達じゃ、不服か?」

 納得いかず少しばかりムッとするエドワード。彼女はそんな彼を見て平然とした口調で

「不快にさせてしまったら、ごめんね?別にあんたが頼りないと言ってるわけじゃないんだ。たまには"私達"にも仕事をさせてほしいって事」
「--私達?他に誰かいるのか?」
「まあね。さっきから私達の後ろにいたんだけど、まるっきり気づいてなかったね。ほら、あそこ」

 そう言って振り返ったアメリアはそう遠くない距離を指差した。2人も、その指先を目で追う。

 道路を挟んだ向こうの歩道でガス灯の柱に腕を組み寄りかかっているの1人の男が見えた。如何にも探偵らしい帽子を被っているが、着ている服は古びたコートで身なりはかなり汚い。エドワードとは同世代くらいの年齢だが、伸び放題の髭が老いた顔立ちを錯覚させる。男は格好つけた姿勢を崩し、吸っていた煙草を踏みにじると、こちらへ迫って来た。

「紹介するよ。"トーマス・ライアン"。私の部下にして優秀な情報屋。尾行の達人さ」

 アメリアに紹介され彼は帽子を取り軽いお辞儀をする。

「トーマスと申しやす。へへっ、こう見えてもプロの情報屋でさあ。あ、この汚らしい服装は気にしないで下せえ。仕事をする時はいつもこの格好を選ぶもんでね。よかったら、今度一杯やりやせんか?いい店を知ってるんですよ」

 彼はどうでもいい台詞を次々と口から吐き出し手を差し伸べる。エドワードは友好的を偽った苦笑の表情を浮かべ、"こいつ酔っぱらってるのか?"と言わずと思った。不信な感情を抱きながらもとりあえず握手には応じ、自分と助手の自己紹介を済ませる。

Re: ダウニング街のホームズ【第三話 ストランドの悪夢 更新中】 ( No.40 )
日時: 2021/11/28 19:36
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

「トーマス。羽目を外すのは後にしなよ。あんたの力が必要なんだ。エドのためにやってほしい事がある」

「おお!かの有名なエドワードさんの手伝いができるなんて光栄な限りだ!喜んで協力させてもらいやすよ!・・・・・・で、早速何をやってほしいんで?聞き込み、尾行、潜入、それから尋問。何でも承りやすよ?無論、報酬ははずんでくれるんですよね?」

「これにあった見返りを先に渡しておくよ。あんたの事は頼りにしてるけど、いつもそんな調子だから不安になるんだよね。しっかりやんなよ?」

 アメリアは彼の能天気な態度に飽きれながらも、さっきエドワードから貰った金貨5枚のうち3枚を手渡した。

「これだけの金がありゃ、存分に贅沢できるってもんだ。感謝しやすぜ姐さん。へへっ!久々の大儲けだ」

 トーマスは歓喜して、もらった報酬を大事そうに懐にしまい込んだ。

「エド。今日だけ、トーマスはあんたの部下だよ。早速、指示を出したら?」
「人に頼るのは俺の性に合わないんだが、せっかくの好意を踏みにじるのも良心が痛む。じゃあ、これらの依頼を頼めるか?」

 エドワードはメモ帳の白紙に万年筆のインクで文字を描く。頼みたい事をいくつか書き込むと、ページを千切ってトーマスに渡した。彼は目を細め書かれた内容を確かめ

「--尾行。容疑者の家の捜査。指紋の採取・・・・・・なるほど、流石ホームズの異名を持つエドワードさんだ。手抜かりないですね。喜んで承りやしょう。やりがいのある仕事を任されるのはいいもんだ。久々に腕がなるってもんでさあ。俺は早速仕事に取り掛かるんで、この辺で失礼しやす」

 トーマスは簡単な別れの挨拶を告げ、エドワード達に背を向けると妙に張り切った様子で走り去って行った。エドワードは一見、頼りなさそうな後ろ姿を僅かに見送り、頭の向きを正面に戻すと

「親友を疑ってばかりで申し訳ないが、アメリア?あいつ本当に当てになるのか?どう見ても、ただの酔っ払いにしか見えなかったぞ?」

「確かに、見たまんまの通りトーマスは飲んだくれで、しょっちゅう煙草だって吸う。普段の生活がだらしないから、そんな風に捉えられても仕方ないよね。でも、彼は私の部下の中でも最も優秀な人材だし、今まで頼まれた仕事は完璧にこなしてきた。信じるに値する男だよ」

「--まあ、お前が推薦した人間なんだから、外れはないと思うが・・・・・・」
「僕もあの人の実力を信じますよ。もし指紋が一致すれば迷宮入りの事件もこれで解決ですね。メアリーさんが無実だといいんですけど・・・・・・」

 クリフォードが期待の裏に不安を募らせながら最後の台詞を呟いた。

「さて、後は部下がやってくれるから、今日の私の役目は終わり。2枚の金貨で何を買おうかな~?久々に高い紅茶とケーキをテーブルに並べて、冬の風流を満喫するのもいいかもね。私は教会に戻るけど、因みにあんた達はこれからどうするつもり?」

 能天気に振る舞うアメリアとは裏腹に、エドワードは生真面目な態度で言った。

「頼んだ事はトーマスに任せよう。だが、俺はお前と違って暇じゃないんだ。こっちは事務所に戻って、今日の捜査内容を書類にまとめなけばならない。今回は場合も場合で他人を頼る羽目になったが、自分の足で動いて捜査に出向いてこそ、探偵と呼べる。更に言えば、今日はクリフォードと昨日できなかったクリスマスパーティーを開く約束をしているんだ。面倒な後始末が済んだら、今夜は豪華なディナーを嗜むよ」

「男2人っきりのパーティーもどうかと思うけど・・・・・・せっかくのクリスマスなんだし、お酒でも飲んだら?ロザンナの店には行ってないの?」

 嫌みを返す情報屋に、探偵は作り笑いをしながら頭を横に振り

「今日はアルコールを浴びたい気分じゃないんだ。賑やさのない静かな時間を過ごしたいんだよ。それにあいつ、やたらと俺やクリフォードに絡んでくるし、煙草の臭いがきつくてかなわん」

「あはははは!あのオカマさん、あんたにべた惚れだからね。分かった、人のやりたい事にあれこれ口出しするのはやめるよ。今夜は可愛い助手と豪華な晩餐を楽しめばいいさ。じゃあ、ここにいる意味もなくなったし、私もこれで失礼するよ。数年ぶりに会えて嬉しかった。エド。また捜査に行き詰まったら、遠慮なく私の所へ来なよ?あんたに対してだけは安くしとくからさ」

「助かる。お前がいれば、どんな難事件も簡単に解決できるような気がするよ。用ができたら必ず会いに行く」

 2人は挨拶を交わし、アメリアは教会へ続く道の交差点の角を曲がると、姿を消した。

「さあ、俺達も帰るとするか。今日は色々と大変だったから、帰ったら存分に楽しい夜を過ごそう」
「早くケーキが食べたいです。書類の仕事、僕も手伝いますよ」

 探偵と助手も互いに笑みを見せ合い、孤児院を離れストランドを後にした。

Re: ダウニング街のホームズ【第三話 ストランドの悪夢 更新中】 ( No.41 )
日時: 2021/12/05 21:24
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 --1887年 12月27日 午前9時26分 ダウニング街10番地 サリヴァン探偵事務所

ダウニング街を一望できるオフィスの窓を背にエドワードは椅子に腰かけていた。最早、お決まりの日課と言ってもいい煙草をくわえ、一服している最中だ。呑気な姿勢を取っているが眼差しは真剣、何かを考えているのか、ボーっと天井を見上げて煙を吐き出す。

 その目の前では助手のクリフォードが昨夜のパーティーに使われたテーブルを吹き回していた。汗が滲む額を拭い、掃除が終わると、今度は捜査資料の整理を始める。せっせと書類を運び、後片付けに没頭していた。

「エドワードさん。書類の片付け終わりましたよ」
「--おお、そうか。ご苦労だった・・・・・・」

 エドワードは煙草を唇から外し、活気のない棒読みの返事をする。

「さっき食べたばっかりなのに体を動かしたら、またお腹空いてきちゃったな。棚のお菓子、食べてもいいですか?」
「構わんぞ。食べ過ぎないようにな?」

 同じ口調で返事を返した。

「--エドワードさん?」

 探偵の様子に違和感を感じたクリフォードは首を傾げ、彼の元へゆっくりと近づく。エドワードは一瞬、助手に視線をやるも、再び、天井の方を向き直る。

「どうかしたんですか?具合でも悪いんですか?」

 クリフォードが心配になって問いかける。

「いや。俺は基本、毎日が好調だ。二日酔いでもない」
「じゃあ、やっぱり死神のサンタの事ですか?」
「それもあるが、そうじゃない。ちょっと昔の事を思い出していたんだ」

 エドワードは頭をどちらにも振らず、背を起こすときちんとした姿勢を取る。

「--昔の事?」
「お前には、まだ話してなかったな。聞きたいか?俺が探偵になった理由」
「エドワードさんが探偵になったきっかけですか!?是非、知りたいです!」

 クリフォードは興味津々に飛びつき、話の内容を促す。

「助手を失望させるのも嫌だから、前もって言っておく。決して、ワクワクするようなものではないぞ?」
「それでも別に構いません!早く教えて下さいよ!」

 エドワードはこれ以上の忠告はせず、短くなった煙草を一気に吸い上げる。大量の煙を口から吐き出すと灰皿に押しつけ、懐かしそうに過去を語り出した。

「今から19年も前に遡る。あれは俺が14歳の頃、とある殺人事件を目撃して警察に事情聴取を受けていた際、そこで1人の名探偵に出会う事となる。髪が白く天使のように魅力的なフランス人の女性だった。彼女の推理や捜査能力は神がかり的で事件はすぐに解決した」

 クリフォードは目を輝かせ、黙って続きを聞く。

「俺はその時、初めて探偵という職業に憧れを持つようになり、同時に将来の夢が決まった。弟子にしてくれとお願いしたが、最初は当然の如く相手にされなかった。だが、何度も頼んでるうちに執念が認められたのか、彼女は頭を縦に振ってくれた。決して楽な道のりじゃなかったが、辛くなんかなかったし、叩きこまれたノウハウも全て頭に記憶した。俺は着々と一人前の探偵へと成長を遂げていったんだ」

 思い出話を長々と話したエドワードはひとまず間を開け、冷めたコーヒーを飲み干した。乾いた喉を潤し、中身のないマグカップをテーブルに置く。

「それがエドワードさんが探偵になった理由・・・・・・エドワードさんを名探偵にまで仕立て上げたんだからとても優秀な人だったんでしょうね。魅力的な女性と言いましたがその人に恋をしたりしませんでした?」

「恋か・・・・・・確かに俺は彼女をとても愛していた。今思えば、あれが初恋だったのかも知れないな」
「その人は今どこにいるんですか?」

 すると、途端にエドワードは微かな笑みを崩し、表情を落ち込ませる。クリフォードはいけない事を言ってしまった事をすぐに悟った。焦りで謝る発想も浮かばずただ、後悔だけを抱く。

「--彼女はもういない」

 エドワードが短くそう答える。

「いない?それってどういう・・・・・・」

 その時、テーブルに乗った電話が耳障りに鳴り響く。音に不意を突かれ、クリフォードはビクッと体を縮ませた。エドワードがとった受話器を耳に当て声をかける。

「はい?こちらサリヴァン探偵事務所・・・・・・何だ。アメリアか?」

 電話の相手はアメリアだった。

「お前がここに電話してくるなんて珍しいな・・・・・・ん?どうした?お前、泣いてるのか?一体何があったんだ?・・・・・・え!?何だってトーマスが!?場所は!?・・・・・・ああ、分かった!すぐに行く!」

 受話器を電話に戻し、会話を断ち切ると実に深刻そうにエドワードは立ち上がった。仕事に必要な道具を身に着け、スタンドにかけてあったコートを羽織ると事務所の玄関に走る。

「クリフォード!ついて来い!一刻も早くストランドに向かうぞ!なんて事だ・・・・・・これが悪夢なら覚めてくれ・・・・・・!」
「何かあったんですか!?」

 エドワードが冬の寒さが舞い込む扉を開け、一度だけ振り返り

「トーマスが・・・・・・殺された・・・・・・!」

Re: ダウニング街のホームズ【第三話 ストランドの悪夢 更新中】 ( No.42 )
日時: 2021/12/12 18:46
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 --1887年 12月27日 午前10時56分 ストランド トーマスの殺害現場

 事件現場は騒然としていた。一直線の通りが多くの野次馬で囲まれ、ガヤガヤと耳障りな声が聞こえる。数人の警察官がラインを張り巡らさせ、市民の侵入を防ぐ。中心では遺体の手がはみ出てたシートに対し、鑑識がカメラのフラッシュをたいている。現場にはアバーライン警部とリディアの姿もあって、目撃者らしき男に事情を聞いている最中だ。

 その一帯から少し離れた所につい先ほどトーマスの殉職を知らせたアメリアがいた。彼女は寒い風が吹く歩道の壁に孤独に寄りかかりながら顔を覆い、蹲っている。悲しみに暮れ声を殺し、鼻を啜らせ泣いている。

「アメリア!」 「アメリアさん!」

 現場に到着したばかりのエドワードとクリフォードはすぐにアメリアを見つけた。彼女は駆け寄って来る2人の声に一旦は顔を上げたが、すぐに俯いてしまう。

「ぐすっ・・・・・・エド・・・・・・!」
「何も言うな。寒かっただろう?」

 エドワードは穏やかな声をかけ、彼女をそっと抱きしめた。

「私のせいだ・・・・・・えぐっ・・・・・・私が軽い気持ちであんな仕事を引き受けさせたばっかりに・・・・・・!」
「それは違う。やるべき危険な捜査を人任せにした俺の責任だ。全部俺が悪い。お前もトーマスもよくやってくれた」

「トーマスは親友に等しい部下だった・・・・・・いつも私の傍にいてくれて・・・・・・一緒に映画を見たり朝まで酒を飲み明かしたり・・・・・・彼がいたから毎日が楽しかった・・・・・・でも、彼が私の前に現れる事もあの笑顔を見る事も二度と・・・・・・!」

「仇は必ず俺が取ってやる。だからお前は安心して教会に帰れ。1人で歩けるか?」
「--うん・・・・・・」

 エドワードに支えられ、アメリアは無理に膝を伸ばし、立ち上がる。親友の死体がある現場から背を向けると、今にも倒れそうにふらふらと歩道を渡っていく。その後ろ姿を見送ると、探偵は真剣な眼差しで現場に視線をやった。

「行くぞクリフォード!この事件だけは絶対に解決する!」

 2人は人ごみを掻き分け、何とか前列へと突き進む。現場に立ち入ろうとするが、ラインの内側にいた警官の1人が両腕を横に広げ、道を遮る。

「ここには入らないで下さい!」
「俺は探偵のエドワード・サリヴァンだ。友人のアバーライン警部を呼んでくれないか?俺の事を知ってるはずなんだが?」
「エドワード・サリヴァン?ちょっと、お待ち下さい。警部!あなたの友人だと名乗る探偵が来ていますが!?」

 警官がそのままの姿勢で頭だけを横に回し、上司の名を叫ぶ。目撃者から一瞬、目を背けたアバーライン警部だったがエドワードを視界に入れた途端、しかめた表情を緩め、再び向き直る。

「エドワードさん!どうしてここへ!?クリフォードくんも一緒のようですが!?」
「理由は後でお話します!俺に現場を調べさせてくれませんか!?この被害者は俺の知人なんです!」
「何ですって・・・・・・わ、分かりました!おい、君!マネキンみたいに立ち塞がってないで2人をお通ししろ!」

 エドワードはラインを潜り、遺体を覆うシートの元へ駆け寄った。膝を曲げて腰を落とすと、掴んだシートの一部を退けて中身を覗く。

「うっ・・・・・・これは・・・・・・!」

 言葉では表現できない無残な光景を目の当たりにしエドワードは思わず苦い顔した。

「エドワードさん・・・・・・」
「来るなクリフォード!死体を見るんじゃない!」

 エドワードは後ろにいるクリフォードに近づかないよう下がらせる。死体を見慣れている彼も流石に堪えたようで苛まれた吐き気に口を覆う。シートを被せ立ち上がると、気持ち悪そうに二度と見たくないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

「--頭部からして間違いない。昨日まで生きていたトーマスだ・・・・・・!」
「そんな・・・・・・」

 絶望に近いショックに立ち尽くす2人の元にアバーライン警部とリディアがやって来た。

「--アバーライン警部。被害者の死亡推定時刻は?」

「冬の寒さで遺体の体温が極度に下がっているため、正確な特定は非情に困難です。曖昧になりますが、恐らく、昨日の深夜2時から3時までの間でしょう。詳しい調査のため検死を急ぐ必要があるでしょうね」

「第一発見者は?」

「工業地帯で働く40代の男性です。この道を通った際に不審なシートを発見し、中身を確認したら人間の死体だったと・・・・・・全くもって酷いものです。首、手足ともバラバラにされて・・・・・・一体、何を考えたらこんな狂気的な犯行ができるのか・・・・・・」

 アバーライン警部はやり切れない白い吐息を吐き出し、横に捨てられた死体に視線をやる。解体された肉の塊から流れ出た血が地面に広がり、どす黒い水溜りを作っていた。

「--ねえ?さっき、アバーライン警部から聞いたんだけど、この被害者はあなたの知人なんですって?殺害された被害者とはどういう関係なの?もしかして友人・・・・・・?」

 リディアが言いにくそうに問いかけると

「--いや、違う。正確には俺の旧友であるアメリアの部下だ。情報屋をやっていた」
「--情報屋ですと・・・・・・?」

「アメリアは死神のサンタの正体を掴んでいたんです。確かな証拠を掴むために彼女の部下に捜査を依頼したんですが、まさか殺されてしまうなんて・・・・・・俺が自ら捜査に乗り出していたら、こんな最悪な事態は避けられたかも知れないのに・・・・・・!」

「ちょっと待って!?エドワード!死神のサンタが誰なのか分かったの!?」


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