複雑・ファジー小説

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ダウニング街のホームズ【第三話 ストランドの悪夢 更新中】
日時: 2021/09/26 17:55
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1729.jpg

 ——1887年。ヴィクトリア朝時代のイギリス。産業革命を迎えたイギリスは工業化が進み、機械による技術が大幅に発展を遂げる。街は活気さを増し人々は何不自由なく平穏を謳歌していた。そんな光の都にも恐ろしく冷酷な事件が絶えず起きているのだ。

 ——ロンドンのダウニング街に事務所を構える私立探偵のエドワード・サリヴァンとその助手であるクリフォード。2人は良きチームとして英国の難事件を解決していく。この世に解けない謎はない。その信念を抱きながら今日も彼らは依頼を受ける。



†【登場人物紹介】


†【エドワード・サリヴァン】

 物語の主人公。年齢は33歳。ロンドンに事務所を持つ有能な私立探偵で報酬と引き換えに依頼を受ける。若い頃から探偵業を始めこれまでに多くの難事件を解決してきた。戦闘も得意で仕事の際は愛用の銃をいつも携帯している。


†【クリフォード・ベイカー】

 エドワードの助手を務める少年。年齢は15歳。数年前にエドワードに命を救われそれ以来、彼のもとで働く事を決めた。気が弱く臆病な性格だが頼りになる相棒と評されている。


†【リディア・オークウッド】

 ロンドン市警である優秀な刑事。階級は警部補。年齢は28歳。かの有名な刑事『フレデリック・アバーライン』の直々の部下を務める。事件が起きる度、エドワードとは一緒になる事が多く互いのスキルを認め合う程の仲。そのため、まわりでは2人は恋仲というの噂が流れている。


†【アメリア・クロムウェル】

 エドワードに協力している元探偵の情報屋。年齢は25歳。元はイギリスで名の知れた探偵社に所属していたがとある事件によって職を終われる。その後、エドワードと知り合い協力関係となった。表向きは冴えない修道女だが裏では有力な情報を密かにエドワードに提供している。


†【ダンカン・パーシヴァル】

 ロンドンにある酒場『銀の王女亭』を営む女装男性の亭主。通称ロザンナ。年齢は27歳。常連客であるエドワード達に酒を振る舞い相談に乗っている。彼に好意を寄せているが現在は片思い中。クリフォードをちゃん付けして呼ぶ。たまに謎の暴くきっかけを作ったり助言を与えたりする。


†【フローレンス・ウェスティア】

 ホワイトチャペルで働く理髪師。年齢は18歳。明るく温和な性格の持ち主で近所でも評判もいい女の子と知られている。幼い頃に両親を病で亡くした過去を持ち、孤児院で育った。クリフォードと仲が良く、彼を実の弟のように慕う。


【シナリオ】忘却の執事 

【表紙】ラリス様 

【挿絵】道化ウサギ様


 It is the beginning of the story・・・

Re: ダウニング街のホームズ【第一話 暴発した散弾銃 更新中】 ( No.13 )
日時: 2020/08/18 21:42
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 アデルの家は警察に包囲されていた。玄関の近くにはアバーライン警部の姿があった。向かいの歩道に近所に住む野次馬達が集まっている。大半の人間が大切な人を亡くしたような悲しげな顔を浮かべていた。

 建物の中から人が出て来た。手首に手錠をかけられたアデルが警官に挟まれ、連行される。ふらふらと外へ歩き出て彼は立ち止まり青い空を見上げた。

「——エドワードさん」

 落ち着いた声で探偵を呼ぶ。すぐ後ろにエドワードとクリフォードがいた。2人は逮捕された男の背中をじっと眺める。

「——何ですか?アデルさん」

 エドワードは優しく聞き返す。

「私はやり直せるんですよね?私の心はまだあの空と同じ色ですか?」

 その問いに探偵は短く笑い頷いた。

「勿論、青くて汚れのない綺麗な色です。あなたの人生の道のりはまだまだ長い。諦めずに信じていれば、幸せはまた訪れるはずです」
「そうですか・・・・・・」

 アデルは安堵した吐息を一度、上に向けて吐き出した。

「引き金を引かなくてよかった・・・・・・危うく素晴らしい人間を殺してしまうところだった・・・・・・私の過ちを気づかせてくれた事、感謝しています」
「あなたの優しさが罪の連鎖を防いだんです。それ以外の何者でもありません」
「——ははっ、もしあなたが親友だったならどれだけ心強かったか・・・・・・おっと、馬車を待たせてはいけない。行かなければ・・・・・・では、私はこれで・・・・・・ありがとう」

 お礼の言葉を最後にアデルは足を進め、大人しく警察の馬車に乗り込む。扉が閉ざされ乗っていた警官が馬に鞭を入れる。車輪が回り事件の犯人は去って行く。エドワード達は見えなくなるまで、それを見送った。

「いやはや、お手柄でした」

 アバーライン警部が拍手をしながら、2人の前に来た。

「難事件をいとも容易く解決してしまうとは、流石は名探偵のエドワードさんだ。あなたの手にかかれば、どんな犯人も捕まるしかありませんね」

 エドワードは払われた尊敬に苦笑し

「それはいささか褒め過ぎです。まあとにかく、被害者の無念を晴らせた事には達成感と喜びを感じていますよ」
「クリフォードくんも実に見事な働きだったね。正に世界一の助手だ」

 クリフォードは可愛く照れて、恥ずかしがった顔を斜めに逸らした。その無邪気な様子を見て大人2人が愉快に笑う。

「——しかし、医者であろう人間が人の命を奪うとは・・・・・・世も末ですな・・・・・・」
「あり得ない事ではないです。些細なきっかけで人はどうなるかなんて分からないのですから」

 エドワードは馬車が通った下り坂を振り向く。家が並ぶだけの何もないただの通路が真っ直ぐに伸びていた。

「事件はめでたく解決した事だし、一服するのはどうですか?ライターをお貸ししますよ」
「お気持ちはありがたいのですが、今は吸いたい気分じゃないんです。それに事件は完全には終わっていません」
「——何ですって!?それはどういう・・・・・・!」

 驚くアバーライン警部にエドワードは証拠である暗号手帳を取り出した。

「アデルは事件の首謀者ですが、被害者を殺害した人物は別にいます。名はビリー・スコット、詳細は不明ですがまだどこかでうろついてるはずです。一応、これも渡しておきましょう」

 アバーライン警部は差し出された手帳を受け取り、少しの間ページを拝見した。特にこれと言った素振りはせず、何食わぬ顔で懐にしまう。

「喜んで預からせてもらいますが、被疑者を取り調べれば、すぐに割れると思いますよ。逮捕は時間の問題でしょう」

「まだ何か力になれる事はありますか?」

 アバーライン警部は出し惜しみしない協力に相好を崩したが、頭を横に振り

「心強い限りですが、あなたは十分な仕事を成し遂げてくれました。後は警察である我々にお任せを。クリフォードくんも疲れているだろうから、ゆっくり休ませてあげて下さい。それと報酬の件ですが、後ほど部下に届けさせますので」
「そうですか。ここはお言葉に甘えさせてもらいましょうか」
「では、馬車に乗って下さい。事務所までお送りします」
「——帰るぞ。クリフォード」

 エドワードが言って、クリフォードが後についていく。3人が乗り込むと、馬車は目的地へ向かい走り出す。警察と野次馬の間を過ぎ住宅街を後にした。

Re: ダウニング街のホームズ【第一話 暴発した散弾銃 更新中】 ( No.14 )
日時: 2020/08/28 20:26
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 ——1887年 4月30日 午前8時45分 ダウニング街10番地 サリヴァン探偵事務所

 ダウニング街を一望できる窓を背にエドワードは椅子に腰かけていた。相変わらず煙草を吸いながら、新聞を片手に読んでいる最中だ。前向きな内容を見ているのか、その顔には穏やかを感じ取れる。

「エドワードさん、朝食ができましたよ」

 クリフォードが朝のメニューを持って、調理場から出て来た。焼きたてのブレットと目玉焼きやベーコンが盛られた皿を手に乗せている。

「——ああ、すまないな。ここに置いといてくれ」

 エドワードは新聞から目を離さず机の空いたスペースに指を当てた。

「あの事件のもう1人の犯人、捕まったらしいですね?」

 クリフォードが聞くと

「ちょうどその記事を読んでいたところだ。ビリー・スコット、この男は酒を煽っては身内に暴力を振るい、ギャンブルに溺れる生活を送っていた。積もりに積もった借金に困り、今回の事件に加担したらしい。一言で言えば正真正銘のろくでなしだ」
「世の中には根っからの悪人がいるものですね」

 クリフォードも言いたい事をすかさず述べる。そして、こうも付け足した。

「メアリー夫人は勿論ですけど、最も可哀想なのはビリーの家族だと思います。散々暴力に苦しめられて挙句の果てには殺人犯の血縁者という烙印を押されてしまうんですから・・・・・・」
「そうだな。俺に言わせても哀れとしか言いようがないな。考えてもしょうがない。フォークとナイフを持ってきてくれないか?」

 エドワードは新聞を机の上に置くと吸いかけの煙草を灰皿に押し付け、朝食を手前に引き寄せた。ついでに食事に必要な食器を要求する。

「——どうしたクリフォード?」

 気を落としたようなくらい面持ちの助手に目の前にして探偵は首を傾げる。

「今回の事件はあまりにも胸糞悪いものだったからな。気分を害するのも無理はない」
「僕は・・・・・・」

 クリフォードが憂鬱な口を開く。

「僕は犯人の肩を持つつもりはありません。だけど、アデルさんの気持ちも分からなくはないんです。どんなに頑張っても幸せになれず疲れるだけの毎日で、僕もエドワードさんと出会うまでは失敗ばかりだったから・・・・・・」

 エドワードは何も言わず、椅子から立ち上がると助手の頭にそっと手を置く。彼は想いがこもった温かい眼差しで

「お前は人の痛みを知っているから、そう思えるんだな。俺も優秀な助手を持ったものだ。だがな・・・・・・」

 探偵は褒め言葉こう付け加える。

「運命を切り抜ける強さも努力もせず、ただこの世を逆恨みしていれば誰しも正道を踏み外す。いくら辛いからといって不正に手を染めてしまえば、それこそ抜け出せないどん底へ堕ちてしまうんだ」

 クリフォードは納得しきれず

「——でも、アデルさんは何十年も徳を積んできたんですよ?大きな見返りを得られてもいいと思います」
「彼の家に集まった野次馬を見たが皆、悲しそうな表情を浮かべていたぞ?今まで通りの人生を歩んでいたら、きっと幸せな運命に出会えていたはずだ。人生というのはいつ、どうなるかなんて分からない。だからこそ、諦めない事が大事なんだ。・・・・・・まあ、まだ若いお前には難しい話かも知れないがな」
「——フォークとナイフを持って来ます・・・・・・」

 クリフォードはそれだけ言うと調理場へ行き、頼まれた物を持って戻って来た。彼自身も同じメニューを来客用のテーブルに運んで、ソファーに腰を下ろすと沈鬱な食事を始める。探偵はその様子をブレッドを裂きながら眺めていた。

「——俺もお前を見習うべきだな。クリフォード」

 自分にだけ聞こえる声で呟きエドワードも物静かな朝食を満喫する。

 今日も1日、ロンドンは賑やかだった。商店街を見て回る夫婦、仕事に出向く大人、公園で遊ぶ子供達。テムズ川の方からは船の汽笛が街の方からは列車の汽笛が鳴り響いていた。それぞれの人間の生活が描かれて時間は流れていく。

 空は青く澄み渡っていた。白い雲が風に吹かれ、流されていく。無数の鳥達が羽ばたき、遠くへ飛び去りやがて消えた。

                 暴発した散弾銃 FIN

Re: ダウニング街のホームズ【第話 暴発した散弾銃 完結】 ( No.15 )
日時: 2020/09/21 18:34
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 第2話 助手の犯罪

 ——1887年 6月15日 午前8時37分 ウェスト・ハム 住宅街

 晴れた早朝だった。小鳥がさえずり木の枝から空へと飛び去って行く。ここに賑やかな街とは違い自然豊かで空気が美味しい。物静かな道が幅広く続いていて、芝生に囲まれ所々曲がり角がある平らで滑らかな道。家が多からず点在しているが人はほとんどいない。

 そんな何もない大通りを1人の人間が歩いていた。助手のクリフォードだ。彼は1人、喉かな景色を楽しむように通路をまっすく進んでいく。すると、身に覚えのある1人の少女と偶然に出会った。

「——あら?まあ、クリフォードくん」
「あ、こんにちは。フローレンスお姉ちゃん。こんな所で会えるなんて奇遇だね」

 クリフォードは足を止め、友好的な挨拶をした。

 少女の年齢はクリフォードと比べいくつか年上で背が高い。編んだ茶髪を緑の紐で結い背中まで垂らし、おっとりとした青い瞳と穏やかな顔を浮かべる。体格は細身で緑のネクタイを結び、薄茶色のセーターの上に黒いジャケットを羽織っていた。同色のスカートを履き、長い素足を露出させている。

「クリフォードくんも仕事の格好をしているね?今日はエドワードさんは一緒じゃないの?」

 フローレンスと呼ばれた少女が聞いた。

「エドワードさんは他の仕事で忙しくて、僕は依頼人から報酬を受け取るためのお使いなんだ」
「そうなんだ。ダウニング街から、ここまでの距離でしょ?まさか、歩いて来たの?」
「ううん、ほとんどは馬車で。この近くで降りてからエミリー叔母さんの家に挨拶をして、そこから歩いて来たってわけ」

 フローレンスは納得し、うんうんと頷いて更に質問を重ねた。

「ちなみにどこに行くつもりなの?」
「マクダーモット伯爵の屋敷だよ」

 クリフォードがこれから会うベンジャミン・マクダーモットは英国議会の大物だった。有能な政治家として大勢の国民から支持されており、国民からの人望も厚い。女王とも面識があり、期待された存在と噂されるほど。

 彼は人ごみを嫌い物静かなウェスト・ハムに豪邸を建て暮らしていた。数年前に病弱な妻が亡くなり、若い女性と結婚する事が決まったのだ。財産狙いの企みがないか調べるため、それでエドワードに仕事を依頼したのだった。数日の調査を行い結果は白、金目当ての腹黒い女でない事が判明した。報酬の1000ポンドを受け取るため、クリフォードを向かわせて今に至る。

「マクダーモットさんの家に行くんだね?あんなにも素晴らしい人とお近づきになれるなんて羨ましいな。今度、会った感想を聞かせてね?」
「うん!じゃあ、依頼人を待たせたらいけないから、僕はそろそろ・・・・・・」
「お仕事、頑張ってね」

 クリフォードは笑顔で手を振るフローレンスに別れを告げ、先を行く。

Re: ダウニング街のホームズ【第二話 助手の犯罪 更新開始】 ( No.16 )
日時: 2020/09/21 18:33
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

 1887年 6月15日 午前8時59分 ウェスト・ハム マクダーモットの屋敷

 あれからそんなに時間は掛からず目的地に到着した。大きくて一際目立つ建物だったのですぐに分かった。来客を出迎えるように門は開けっ放しになっている。

 屋敷は何階もある大きな石造りの壁がそびえ城の一部を切り取ったとも言える外見をしている。手前は広々とした芝生、その中心に道があり白く輝く大理石の像が並んでいたのだ。イギリス中で話題を集める人間が暮らすのには実に相応しい場所だった。

「凄い・・・・・・王宮に招待された気分だ」

 クリフォードは一帯を見渡しながら石造の間をゆっくり歩いて行く。豪華な景色を堪能すると階段を上がり、玄関の扉をノックする。

「どなた?」

 覗き窓からが開き中から老いた執事が顔を出した。彼は訪れたクリフォードを見下ろすと細い目を丸くする。

「坊や、どこから来たんだ?ここは遊び場じゃないぞ?」
「おはようございます」

 クリフォードは帽子を取り礼儀正しくお辞儀をした。そして、自己紹介も。

「僕はクリフォード・ベイカーと申します。探偵であるエドワードさんの助手で彼の代わりに仕事の報酬を受け取りに来ました」

「エドワード・・・・・・ああっ!」

 執事はすぐに我に返り焦って扉を開いた。屋敷の中へ招き入れ失礼を詫びる。

「エドワード様の助手でしたか。無礼な態度をお許しください。どうぞお入りになって、旦那様がお待ちかねです」
「お邪魔します」

 予想していた通り室内も豪華な作りとなっていた。センスのいい装飾が施された床や壁、ここロビーに立ち上を見上げるといくつもの上階が重なっている。天井にも点在する小さなシャンデリアがとても印象的だった。

「見事なお屋敷でございましょう?バッキンガム宮殿を真似て作ったのです」

 見惚れるクリフォードの後ろで執事も上を向く。自分の物を自慢しているような口調で言った。

「はい、どこを向いても素晴らしいの一言です。特に気品に溢れるデザインに感動しました」
「そのように評価して頂き光栄な限りです。私もこの屋敷に仕えられる何よりの誇りでございます」

 その言葉を口にした時

「バトラー(執事)、その方はどなたかな?」

 不意に誰かの声が物静かな空間に響いた。2人の視線がそちらへ向けられる。

「これはこれは、旦那様」

 彼こそが屋敷の主、マクダーモットだった。執事は前に出てきちんとした姿勢を取り胸に手を当て頭を下げ、隣にい客人を紹介する。

「この方はエドワード様の助手を務めるクリフォード様です。旦那様が依頼された仕事の報酬を受け取りに来られました」
「お待ちしておりました。ようこそ私の館へ」

 マクダーモットは友好的な態度で微笑んだ。平らな床へ降り立ち両手を広げ歓迎する。

「初めまして、私がベンジャミン・マクダーモットです」

 そして、握手を求める。

「ク、クリフォード・ベイカーです!どうぞよろしく・・・・・・!」

 クリフォードが少し緊張しながら相手の手を握る。

「あなたの事はエドワードさんから聞いています。とても優秀な助手であると」
「そ、そんな事はありません・・・・・・!」

 照れるクリフォードにマクダーモットは明るく表情を和ませた。

「あの・・・・・・早速、仕事の件で話がしたのですが?」
「分かっております。ちょっとよろしいですか?」

 マクダーモットは手を離すと執事の前へ行き

「いきなり仕事の話も気がすっきりしない。バトラー、せっかくおいで頂いた名探偵の助手殿と2人きりで色々な話を楽しみたい。御もてなしは私がやるからあなたは下がっていなさい」
「はっ、仰せのままに」

 執事は肯定の返事を返し再びお辞儀をした。主人の横を通り、持ち場へ去って行く。

「では行きましょうか。客間へとご招待しましょう。場所は3階です」

 クリフォードは"はい"と答え彼の後に続いた。言われた部屋までしばらく階段と廊下を繰り返し渡っていく。

「こちらです。どうぞお入りください」

 マクダーモットが扉を開ける。案内されたクリフォードを先に通し自身も入室する。客人をソファーに座らせ彼は銀製のポットとマグカップをテーブルに並べた。

「ハーブティーはお好きですか?」
「はい、大好きです。僕もミントティーをよく飲みます」
「それは奇遇だ。これがご希望のお茶ですよ」

 マグカップに熱いミントティーが注がれ湯気が上がる。片方を客人であるクリフォードに差し出し、もう片方にも注いだ。早速、淹れたてのお茶を2人は美味しそうに啜った。

「ダウニング街からここまでは遠かった事でしょう。楽にしてゆっくりお寛ぎ下さい」
「恐れ入ります」

 マクダーモットは相変わらず友好的な面持ちを崩さず話を続ける。

「エドワードさんには心から感謝しております。再婚相手の潔白を証明して頂き、これで安心して穏やかな生活を送れるというものです」

 クリフォードも強く同意し

「僕にとってもエドワードさんはかけがえのない恩人なんです。あの人がいなかったら今頃はここにいなかった。あの人のお陰で家族も幸せに過ごしていますよ」
「イギリスで指折りな名探偵の助手を務めるあなたもきっと優秀な人材なのでしょう。あなたを初めてお目にかかった時から凛々しさを感じました」
「い、いや・・・・・・僕はそんな・・・・・・」

 賞賛の台詞に照れる子供に対し、マクダーモットは純粋な笑みを零した。

Re: ダウニング街のホームズ【第二話 助手の犯罪 更新中】 ( No.17 )
日時: 2020/09/30 19:58
名前: 忘却の執事 (ID: FWNZhYRN)

「せっかく、遠くから来たのです。退屈しのぎに私のコレクションをお見せしましょう。どうぞこちらへ」

 マクダーモットはソファーから立ち上がり白いカーテンが引かれた部屋の隅へ移動した。クリフォードも興味のある顔で彼の背中を追う。

「コレクションというと宝石か何かですか?」

 期待を持って聞いてみると

「いえ、残念ながらそこまで上品に満ち溢れた物ではありません。どちらかと言えば悪趣味の部類に入りますかね。敬遠されるのは覚悟の上、どうぞご覧ください」

 事柄の短所を述べマクダーモットはカーテンを退かし覆われた部分を曝け出した。

「凄い・・・・・・」

 予想だにしていなかった光景を目の当たりにした瞬間、クリフォードは目と口を大きく開いた。迫力が伝わり思わず一歩、足を下がらせる。薄いガラスの先にあるのは大量に飾られた銃器だった。

 無数に並ぶリボルバーや自動式の拳銃。銃口が4つある風変わりなピストル、短銃身のショットガン、バヨネット(銃剣)が装着されたボルトアクション式のライフル。今の時代では旧式と呼ばれるフリントロック式のピストルやマスケット銃まで、あらゆる時代に使われてきたであろう代物も含め丁寧に展示されていた。怠らず手入れされているのか埃が付着しておらず光を反射している。

「驚きましたか?私は武器を集めるのが趣味でしてね。若い頃に興味が湧いてから色々と買い占めるようになりましてね」
「これ全部?」
「さよう、中には銃には見えない物もあるでしょう?それらは特に高価な値打ちが付きましたよ。中でも自慢の逸品がこれです」

 そう言って、蓋を開け中身を見せる。気品のある模様が刻まれたリボルバーがクッションに包まれ保管されていた。銀細工が眩い輝きを放っている。

「これはまた随分と立派な銃ですね?」

 クリフォードが言ってマクダーモットがまたも説明を始める。

「これはフランス軍の女将校アメリー・ド・トランブレが所持していた物です。」
「あっ!僕もその人なら知っています!確か、新聞で見ました。兵士や国民から凄い人気があって・・・・・・映画のモデルにもなりましたよね?」
「そうです。2年前にある仕事でフランスへ行った際に彼女本人から食事に誘われましてね。その記念として譲り受けました。以後、私が大切に保管していたのです」

 マクダーモットは自慢げな笑みを浮かべた。

「アメリーこれを持って戦争へ出向いたんですか?」
「いえ、アメリーが軍務に就いたのは戦争終結後の事ですので一度も使った事はないそうです。本人はこれを護身用だと言っていました」
「護身用?彼女ならいつも護衛に守られていたんじゃないですか?」

 クリフォードは疑問を抱く。

「その通り、ですがアメリーという人物は穏やかな性格の割には用心深い性格でしてね。実は陰気で内向的、常に身内の反乱を恐れていた」
「なるほど。灯台下暗し、本当の敵は近くにいると言いますよね」
「そういう事でしょう」

 2人はしばらくピストルを眺めた。見れば見るほど見事な刻印と装飾、だんだんと欲しいと言う欲が湧いてくる。マクダーモットはすっかり釘付けになっているクリフォードを見て

「手に持ってみますか?」

 と聞いた。

「——え、え!?」

 思いもしなかった発言にクリフォードは言葉を詰まらせた。慣れてない展開に緊張が胸に押し寄せてくる。

「構いませんよ。壊れやすい代物でもないので」
「で、でも・・・・・・」

 大切なコレクションを汚してしまっては申し訳ないと迷いに迷ったが断わる方が逆に失礼だと考えを改めせっかくの好意に従う事にした。本当はまたとない経験をしたいという好奇心が勝っていた。貧困な家庭に育っただけに希少価値がある代物には目がないのだ。

「じゃあ、ちょっとだけ・・・・・・」

 クリフォードは恐縮しながら恐る恐るピストルを箱から取り出し両手に包んだ。冷たい感触と金属の重さが手の平に伝わる。

「いかがですか?」
「あはは、なんか・・・・・・階級の高い兵士になった気分です」

 素直な感想にマクダーモットは手を叩いて大笑いした。

「はっはっは!そうですか!いやはや面白い方だ。とても似合っていますよ?どうぞ、ソファーにおかけになってゆっくり見物なさって下さい」

 2人は唯一無二のコレクションを持ったまま元いた場所に戻り再び腰を下ろした。

「アメリー将校の銃・・・・・・これが今僕の手の中にあるなんて信じられない・・・・・・!」


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