複雑・ファジー小説
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- 頼まれ屋アリア~Welcome to our Agency~
- 日時: 2020/12/26 11:22
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: fMHQuj5n)
【頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency!〜】
異世界“アンダルシア”。その世界にある、魔法の栄える王国でのお話。
アンディルーヴ魔導王国。その片隅に、不思議な店がありました。
その名前を、『頼まれ屋アリア』と——。
木造の店の入り口に掛かっている看板には、こんな文言が刻まれている。
『頼まれ屋アリア、開店中!
願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
店を経営するは魔導士の姉弟。
これは、そんな二人と、店に訪れる様々な依頼のお話。
◇
連作短編集です。一章につき依頼が一つです。
更新はアイデアが浮かび次第なので不定期です。
舞台は「魂込めのフィレル」に出てきた大陸国家シエランディアの東方、北大陸です。
それでは——
「頼まれ屋アリアへようこそ。あなたの依頼はなぁに?」
「言っておくが、面倒事はお断りだからな」
——————
【主要キャラ紹介】
・アリア・ティレイト……(17歳)
全属性魔法使いの少女。「頼まれ屋アリア」の店主でもある。明るく素直で正義感が強い。正義感を暴走させて、トラブルを引き起こすこともしばしば。困った人を見ると放っておけない。人と関わることが得意で、店では接客担当。背中くらいまでの長さの赤い髪に赤い瞳、赤いワンピース。しっかり者のお姉ちゃんだが、弟には過保護で鬱陶しがられることが多い。家事が得意。
「頼まれ屋アリアへようこそ! あなたの依頼は何かしら? あたしたちが叶えたげる!」
・ヴェルゼ・ティレイト……(15歳)
死霊術師にして固有魔法、血の魔術を使う少年。アリアの弟で、店では会計役を務める。基本的に冷静だが、やや好戦的な面を見せることもある。人と関わることが苦手で、普段は店の奥に引っ込んでいる。「自分は周りより出来る」と思っているがまだまだ青い。黒髪黒眼、黒のマントを羽織り、背中には死神の大鎌。首からは素朴な笛を下げる。何かと暴走しがちな姉のブレーキ役。
「死霊術師は長く生きない。オレが早死にするのは自明の理。……怖くないって言ったら、嘘になるな」
・デュナミス・アルカイオン……(生きていたら17歳)
ヴェルゼの傍にいつもいる灰色の亡霊。ヴェルゼの大親友だが、ヴェルゼを守って命を落とした際に、奇跡によって霊体として地上にとどまれるようになったという。元天才死霊術師で、死後もその力の一部を使える。温厚な性格で、仲良しゆえに喧嘩ばかりの姉弟の仲裁役となっている。アルカイオンという貴族の子だが、捨て子だったらしく本当の素性は不明。
「死んでるのって不思議な感じ。眠りもしないし食べもしない。……でもちょっと、寂しいかな」
・ソーティア・レイ……(16歳)
異民族「イデュールの民」の少女。白い髪に赤い瞳を持つ。内気で臆病ではあるが、強い芯を持つ。
ある日、彼女は頼まれ屋アリアに転がり込んできたらしいが……?
直接魔法を使うことは出来ないが、直前に放たれた魔法に限ってコピーして使える「魔法転写」の才を持つ。また、一般人には見えない魔法素《マナ》を見ることが出来る。
「わたしはもう……何も出来ない弱いわたしじゃないんですよっ! 任せてください!」
————————
【目次】(変わる可能性大です。とりあえず仮)
プロローグ 新しい居場所 >>1 ——1456年3月
【第一部 帝国暦1457年の依頼たち】>>2-
第一の依頼 パンドラの黒い箱 >>2-9 ——4月
第二の依頼 人形の行く先 >>10-12 ——5月
第三の依頼 色無き少女の願い事 >>13-18 ——6月
第四の依頼 双頭の魔導士 >>19-29 ——7月
第五の依頼 アーチャルドの凍れる姫君 >>30-33 ——8月
番外 死霊ツイソウ譚 >>34-42 ——1456年5月
ヴェルゼ誕生日編 いつか来る春 >>43 ——12月2日
第六の依頼 権力色の暴力 >>44-51 ——9月
第七の依頼 黄昏のアムネシア >>52- ——10月
第八の依頼 運命を分かつ白双 >> ——11月
第九の依頼 満ちぬ月の傀儡使 >> ——12月
番外 幸せの地はいずこ >> ——1455年
◇
【第二部 1458年は忙しい】 >>
第十の依頼 笛の音たどれば ティレイト姉弟編 >> ——1月
ソーティア編 >>
デュナミス編 >>
第十一の依頼 厄災の虹結晶 >>
第十二の依頼
第十三の依頼
第十四の依頼 正義の在処 >> ——5月
◇
【第三部 1459年の静かな夜】 >>
第 の依頼 転生勇者のアンチテーゼ >> ——2月
第 の依頼 砂漠に咲かせ、雪の華 >> ——7月
最後の依頼 黄昏の果てで君を待つ >> ——12月
◇
【最終部 1460年と共にさよなら】
今に至るエルナス >> ——1月
◇
過去の依頼1 毒色の装身具 >> ——1457年1月
番外 風邪っぴきアリア >> ——1458年2月
番外 灰色の真実 >> ——1458年10月
番外 毒薔薇のローゼリア >> ——1457年7月
番外 人魚の泪 前編 >> ——1458年11月
番外 人魚の泪 後編 >> ——1456年7月
番外 ある新年に願う >>
番外 頼まれ屋の休日 >>
過去編 遠い日のエルナス >>
過去編 幸せの地はいずこ >>
- Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.38 )
- 日時: 2020/11/23 22:25
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: KqRHiSU0)
デュナミスは幼い頃から死霊の声を聞くことが出来る体質だった。それゆえに気味悪がられたが、けれど愛されて育ったのだという。
彼はある日、不思議な声を聞いた。出して出してと嘆く声、それは屋敷の奥の奥に封じられている死霊の声だった。デュナミスはその声を可哀想と思い、ある日声に導かれるままに禁じられた部屋に行き、死霊を解放してしまった。すると。
「……あいつは、さ」
話すデュナミスの声は震えていた。
「壊したんだ、何もかも。僕の家も、僕の家族も僕の町もめちゃめちゃにした。狂ったように笑いながら、あいつは全てを壊していった。父さんが死んだ、母さんも弟も死んだ。妹と一部の人が生き残って、こんなことをした僕を家から追放した……」
だから、と彼は言う。
「僕が、あいつを倒さなくちゃ。あいつはまだ他の町で暴れ回ってる。こんなことになったのは僕のせいだ、あいつの声なんかに応えた僕のせいなんだ。でも、あいつを解き放った時に大きな傷を受けてね……」
言って、彼は苦しげな顔をした。
傷もまだ治ってはいないのだから無理するな、とヴェルゼは声を掛ける。
ちらり見たデュナミスは、左足を庇っているようだった。
「事情は理解した。相手が死霊となれば、野放しに出来ないのはこちらも同じこと。それにそいつ……オレが追っている死霊と同じ奴かも知れんしな。手を組まないか」
ヴェルゼからすれば、デュナミスのように強い死霊術師が協力してくれるのは好都合である。それはデュナミスからしても同じだろう。
いいの、と目を輝かせるデュナミスに、ただしとヴェルゼは釘を刺した。
「くれぐれも、足手纏いにはなるなよ」
するとデュナミスは朗らかに笑った。
「あっははぁ、誰に言ってるの? 君こそね」
「オレの方が強い」
「さぁて、どうだか」
悪戯っぽく笑うデュナミス。
こうして二人は邂逅した。
◇
死霊は何処へ逃げたのか。情報を探しに町を歩く。
随分規模の大きい被害を起こしている死霊である、情報はすぐに見つかった。
「ああ、あれねぇ」
旅人らしき格好をした女性は、ヴェルゼの問いに頷いた。
「形のない災厄。あれは西の方へ行ったってよ。川沿いをそのまま西に進んで、少しイルヴェリア山脈方面に行った場所で見掛けたって話だよ。危ないから近付くのはやめた方がいいと思うけどねぇ」
「オレたちはあれを倒しに行く」
ヴェルゼの問いに、女性は驚いた顔をした。
「腕っぷしに自信があるのかな? あたしゃ止めはしないけど。まぁ、なら気をつけなさいな。あれはこれまでに三つの町を滅ぼしてるんだって」
「忠告、感謝する」
軽く礼をして、ヴェルゼは女性と別れた。
で、とデュナミスの方を見る。
「怪我はもう平気か? 話を聞く限りでは、奴の次の目的地はペナンの町と見た。まだ間に合いそうだし、先回りして迎え撃ちたいが……」
あぁ、大丈夫さとデュナミスが頷く。
「黄昏の主はもう僕の目の前。どうせ死ぬのなら、多少の無茶は許されるだろうって話さ?」
黄昏の主。この世界の死の神。
ヴェルゼたち死霊術師は、その力を使うたびに、黄昏の主に自分の寿命を差し出さねばならない。それが死者を死霊を操るという禁忌を犯した代償だ。死霊術師は例外なく早死にする。偉業を成した死霊術師が長生きした例なんて存在しない。
デュナミスの言葉。『黄昏の主はもう目の前』。その言葉の、意味とは。
「お前……どれだけの寿命を差し出した?」
ヴェルゼの問いに、たくさんだよとデュナミスは答える。
「僕のせいで壊滅した町、リテュクスの町。僕は僕のせいで致命傷を負った人々に、自分の命を与えて癒した。それが僕の贖罪だと思ったから。……長生きしたいなんて思っていない。僕は僕で、自分のしたことに対するけじめをつけるだけだよ」
「……そうか」
ヴェルゼは頷いた。
「ならばその決意を無駄にしないように、一刻も早く向かおうじゃないか」
イルヴェリア山脈のふもとの町、ペナンに。
きっとそこで、追い掛けていた敵と巡り合う。
ヴェルゼは思う。偶然出会ったこの死霊術師。きっと一緒にいられる時間は一瞬だ。
それでも、それは忘れられない鮮烈な一瞬になる。
隣に感じる強い気配、力持つ同業者の気配。それは今まで感じたことのなかったもので。
ヴェルゼは不思議な高揚感と安心感を覚えていた。
◇
- Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.39 )
- 日時: 2020/11/25 08:58
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)
ペナンの町に向かう途中、出会ったのは謎の人々。
道は左右をちょっとした崖に挟まれており、背後しか逃げ場はない。彼らは、その進行方向を塞ぐようにして立っていた。
ヴェルゼは油断なく問いかける。
「……何の用だ?」
すると、一団の先頭にいたいかつい男が声を上げた。
「おいそこのガキ! この先へ行きたいのなら、持ち物全て置いていけ! 強引に通ろうとするのならば命はない!」
「物盗りか……ったく」
ヴェルゼは冷めた目で相手を見る。
後ろのデュナミスを振り返った。
「おい。お前は後方で戦う方が得意か?」
ああ、とデュナミスが頷いた。
「僕は前衛は出来ないね」
「了解。ならば後方支援は任せたぜ」
ニッと笑って、背負った鎌を抜く。
盗人風情に従う理由などなかったし、ヴェルゼには自信があった。
ヴェルゼ・ティレイト。歳はまだ十四歳。だが積んできた経験は、普通の十四歳のそれではない。
友と思った人物に裏切られ、絶望の底に叩き落されながらも這い上がり、頼まれ屋の一員として依頼をこなす傍ら、死霊術師としての“裏”の依頼もこなしてきた。のしかかってきた運命が、彼が子供であることを許さなかった。
「強引に通らせてもらうぜ盗人さん? ガキだからって舐めてもらっちゃあ困るんだよ」
抜いた鎌を構えた。
ヴェルゼの背後、圧倒的な力が高まっていくのを感じた。やはりデュナミスの力はヴェルゼのそれを上回る。そんなデュナミスを越えてやりたいと強く思う。もしも越えられたのならば、新しい境地にたどり着けるような気がして。
ヴェルゼとデュナミスの視線が、交錯して笑い合った。
前衛のヴェルゼと後衛のデュナミス。共闘するのは初めてだが、案外良いタッグになるかも知れない。
ヴェルゼたちの姿を見て、男は溜め息をついた。
「そうか……素直に従ってくれないか……。ガキだからもっと聞きわけがいいと思ったが違うようだな? 母ちゃんに泣きついたって知らねぇぞ!」
相手の言葉に、ヴェルゼは淡々と答える。
「生憎と母はオレが幼い頃に死んでいるし、父はオレが生まれる前に死んだ」
「そうかよぉ。なら冥界で母ちゃんに詫びるがいい! 早く死んでごめんってなぁ!」
男は腰に差していた剣を振り上げた。それを合図として、他の男たちも武器を抜く。戦闘が始まった。
斬撃。先頭の男が、ヴェルゼの足を切らんと向かってくる。跳躍。最初から殺しにはくるまいと予測したヴェルゼは、軽くステップを踏んで避ける。反撃。体勢を崩した男に蹴りを喰らわせ吹っ飛ばす。今度は男が二人同時に掛かってきた。金属音。二本の剣を一本の鎌で同時に受け、手首をひねって衝撃を流す。
道は狭い。相手の逃げ道をなくす目的でこんなところを選んだのだろうが、道の狭さに影響を受けるのは相手も同じこと。道が狭いがために、相手はまとめて攻撃してくることが出来ない。ヴェルゼの鎌は大人数相手には向いていないために好都合である。
そうこうしている内に、術式が完成したようだ。ヴェルゼの背後で感じていた力が、一気に大きくなる。
ちらり背後を振り返ったら、宙に浮く灰色の魔法陣から、何かを呼び出しつつあるデュナミスが見えた。
「時間稼ぎありがとう。ふふっ、出来たよヴェルゼ。さぁ流れろ流れろ魂の炎!」
ひときわ強く、魔法陣が光り輝いて、
爆発した。
吹き飛んだ地面。飛んできた石が大地を叩く。
ヴェルゼが己の身を守れたのは、相手の術式に気がついたからだ。
「……ッ、何も注意なしに魂の灯火《ウィスプ・リュウール》なんて使うなお前!」
「君だから安心して使ったんだよ。一応信頼しているからねぇ」
文句を言うヴェルゼに、デュナミスは飄々と返す。
灰色に輝く魔法陣。そこから無数の星が生まれ、勢いよく大地に落ちていく。流れる星は地面を穿ち、抉り、砕いた。持っている武器を砕かれた相手は腰を抜かして逃げていく。
魂の灯火《ウィスプ・リュウール》。これまで捕えてきた魂を星の欠片に変換し、相手に放つという大技だ。本来、こんな盗人程度の相手に使うような簡単な魔法ではない。
だが。
「……逃げていくな」
ヴェルゼは呟く。
それは高位の魔法であるがゆえに、弱い相手に対しては放っただけでも戦いを終わらせられる可能性がある。今回はそれが功を奏したようだった。
相手に底知れぬものを感じ、ヴェルゼはデュナミスに問うた。
「なぁお前。これまでどれだけの魂を捕えてきた?」
さあね、とデュナミスは答える。
「あの死霊を呼びだしたことによって死んだ魂を全員捕えた。リテュクスはそこそこ大きな町だったし、あと二、三回は魂の灯火《ウィスプ・リュウール》を放てるくらいのストックはあるよ?」
「魂を捕えるにはかなりの力が必要だが、ずっとその状態を維持したままで平気なのか?」
「体質的にね、死霊を操る分には問題ないのさ」
「ほぅ……」
ヴェルゼの時間稼ぎは、本当に時間稼ぎにしかならなかった。
ヴェルゼは改めて、デュナミスの強さを思い知ったのだった。
さぁて、とデュナミスは言う。
「道も開いたし、先へ行こうか?」
◇
- Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.40 )
- 日時: 2020/11/27 11:53
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)
ペナンの町へ向かう。そこで追い掛けている死霊と出会えることを期待して。
デュナミスは左足に随分大きな怪我をしていたようで、動きが遅かった。デュナミスに合わせていたらきっと、先回りしてペナンに着くことは出来ないだろう。
「……ッ、足手纏いになって、ごめん」
申し訳なさそうなデュナミスに、気にするなとヴェルゼは返す。
「鎌を預かってくれるなら、お前を背負って進むことも出来るが?」
「それは流石に申し訳ないけれど……言っていられる状況じゃあないか。ごめん、お願い」
済まなそうなデュナミスに気にするなと返し、デュナミスに鎌を預けてから背負う。
ヴェルゼは男子にしては華奢な方でそこまでの力はない。だが背負ったデュナミスは軽く、さして気になるほどではなかった。ヴェルゼはデュナミスを背負ってそのまま進む。
ペナンの町を目指しながら、二人で色々と話をした。ヴェルゼは姉のこと、頼まれ屋アリアのことを話した。デュナミスはそれを聞きながら、優しい顔をしていた。
「いいなぁ。そんなに優しい姉さんがいるんだ。僕さ……あまり愛されなかったから。羨ましいんだよね」
「ただのお節介なだけの姉貴だがな? デュナミスは……どうなんだ。ああ、言いたくないなら言わなくて結構」
「僕はね……」
デュナミスは語る。どうやら自分は本当はアルカイオンの家の子ではないらしいこと。子供が出来なくて悩んでいた父が家の前に捨てられていた自分を拾い、アルカイオンの当主として育てたこと。けれど妹が生まれてからは、愛情を向けられなくなったこと。
「僕の使う死霊術を、みんなみんな気味悪がってた。誰も僕の本当の姿を見ようとはしなかった。だから、さ……僕は、君みたいな死霊術師に出会えて嬉しいんだ。君ならさ、僕を怖がらないでしょ? 君ならさ、死霊術のことわかるでしょ?」
ああ、とヴェルゼは頷く。
「そうだな……。ああ、わかる。日々自分に近づいてくる黄昏の主の幻影のことも、身近に感じる死の予感も。オレの場合は姉貴が、そんな力を使うオレを肯定してくれていた。だが、お前は……」
「否定の言葉しか、貰ったことはなかったんだよ」
デュナミスは明るく笑う。口にしている言葉は悲しいものなのに。
デュナミスは明るく笑う。まるで、そうすることで他の感情を封じ込めているかのように。
ヴェルゼは問うた。
「なぁお前。件の死霊を倒したらどうするつもりだ?」
「どうって……」
デュナミスは虚を衝かれたような顔をした。
やがて、いつもの笑みを顔に浮かべた。
「死ぬよ。だって黄昏の主はもう目の前だもの。何かする前に、死ぬよ? でも、もしも生き残ったとしても、あちらに帰るわけにはいかない。ああ、何処にも居場所なんてないのさ」
ならば、とヴェルゼは提案する。
彼となら、一緒にいたっていいと思った。
「なら……頼まれ屋アリアに、来てみないか?」
「え……?」
デュナミスは再び、虚を衝かれたような顔をした。
その顔が、本当の笑顔を浮かべる。
「いいのかい? 僕さ、足はこんなだしあまりお役に立てないかもしれないよ?」
「立てなくてもいい。居場所がないんだろ? 受け入れてやる。姉貴はお人好しだから、絶対にお前を受け入れるだろうし。過ごした時間は短いが……」
オレはお前と一緒の時間が楽しいんだ、と本心を述べる。
ヴェルゼは常に本心を隠す。それは自分を守るため。
だが、デュナミスにだけは、初めて出会えた不思議な同業者にだけは、明かしたっていいと思った。
デュナミスは嬉しそうに頷いた。
「……そうかい。ありがとね」
「だから生きろ。黄昏の主になんか屈するな。お前にはまだ先の人生があるだろう」
「うん……そうだね」
笑うデュナミス。
「ならば、改めて。これからもよろしくね?」
死霊を追う旅の中、二人の絆は深まっていく。
決戦の時は間近にあった。
◇
- Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.41 )
- 日時: 2020/11/30 09:02
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: q7aBjbFX)
やがて辿り着くペナンの地。町の人々は普通に暮らしている。まだ、件の死霊は来ていないらしい。安心に二人は肩の力を抜いた。
「でもね、感じるよ。あいつは確かにここに向かってる。で、あいつの目的地に僕がいる以上、あいつは僕を目指して来るだろう。準備はいいかい、ヴェルゼ。決戦の時だ」
「ああ勿論」
デュナミスの言葉にヴェルゼは頷く。
「ペナンの町には行ったことがある。奴を迎え撃つのに丁度良さそうな場所があるからそこまで行くぞ」
デュナミスを背負い歩く。
やがて辿り着いた場所は、ちょっとした広場になっていた。そこにデュナミスを下ろす。
「さて……戦闘が始まるから注意しろとみんなに言ったって、普通は信じてくれないよな? 下手なことしたら治安維持部隊呼ばれておしまいだろうしな」
そうだねぇ、とデュナミスは頷く。その灰色の瞳に、鋭い輝きが宿った。
「ならさ、治安維持部隊が来る前に決着をつければいいんだよ。――流れろ流れろ魂の炎、空を大地を穿て抉れ破砕せよ!」
「おい待てその詠唱は――」
デュナミスが天に手を掲げる。すると生まれた灰色の魔法陣。そこから無数の星が生まれ、大地に落ちて地面を砕く。轟音に気付いた町の人々は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ヴェルゼは思わずデュナミスに食って掛かった。
「だから! 魂の灯火《ウィスプ・リュウール》なんて簡単に使っていい魔法じゃないだろ!? っていうかあれは準備が必要な魔法だよな一体いつ準備した!?」
「まぁまぁ落ち着いて。これで他人を巻き込まないで済むようになったし、あいつも呼び寄せられるだろうから。この町に着いた時から詠唱待機状態にしてたよ? 僕なりに計画練っていたのさ」
「なら最初から言え! それならまだ対応のしようもあった!」
「驚かせてみたかった……じゃあ駄目かな?」
悪戯っぽくデュナミスは笑う。まったくとヴェルゼは溜め息をついた。
と、不意におぞましい気配を感じた。反射的に上を見る。
「来たよ、ヴェルゼ……奴だ」
そこにいたのは、全長五メルほどの漆黒の影。一見人の形をしているようにも見えるそれは、何度も収縮と膨張を繰り返し、不気味にうごめいている。ソレの目らしき部分には、白い光が宿っていた。
ヴェルゼは感じる。こいつは別格だ、と。
これまで何度も様々な死霊と対峙してきた彼だが、目の前のこいつは格が違った。死霊の発する圧倒的な威圧感に、思わず膝を折ってしまいたくなる。
ソレはデュナミスを見て、口らしき部分をくわっと開けた。喉の奥から洩れる声は喜びに満ちていた。見るもおぞましきソレは歓喜の叫びを上げて、デュナミスを抱き締めようとでもするかのように手を伸ばす。
ソレの声が聞こえる。解放されたばかりのソレの心はあまりに幼い。だが、ソレは幼いがゆえにとんでもない邪悪さを秘めていた。何も知らないソレは、ただ欲望の赴くままに、目に入ったあらゆるものを破壊する。
「君が……僕の罪」
囁くようにデュナミスが言う。
「無邪気で悲痛な声に、耳を貸した僕が悪い。優しすぎた僕が悪い。名もなき怪物よ、遠い日の死霊よ。君は君を解放した僕が倒す。だから……」
動かぬ足を動かして、抱き締めようと伸ばされた手をかわす。
灰色の瞳には、揺るがぬ決意が燃えていた。
「大人しく、葬られなよッ!」
瞬間。燃え上がるデュナミスの魔力。それは灰色の波濤となって、ソレに襲いかかる。
「加勢するぞッ!」
叫び、ヴェルゼは駆ける。デュナミスの生み出した灰色の波濤を追うように。
灰色の波濤。ソレに到達する。それは悶えるような仕草を見せたが、大したダメージではないらしい。斬撃。生まれた隙に、ヴェルゼは鎌を叩き込む。己の魔力を込めた鎌は、死霊のように実体のないものですら切り裂く力を秘める。
悲鳴。おぞましい声が響き渡る。聞いていたら頭がおかしくなりそうな声。同時、響いたのは無垢であまりに無邪気な、
『――どうして こんなひどいこと するの』
「デュナミス! 耳を貸すなッ! そいつは化け物だッ!」
「わかってるさ! 僕はもう、優しすぎた自分じゃない!」
ヴェルゼの声に応える声は、少しも揺るがないしっかりとした声。
普通の人ならばその声を聞いた瞬間に、戦意を喪失するだろう。だがデュナミスもヴェルゼもそうではない。そんな声には惑わされない。そんな叫びで揺らぐような決意ではない!
「教えてやろうか化け物! お前はッ!」
「悪い子だからねぇ! お仕置きしないとねッ?」
ヴェルゼの言葉にデュナミスが被せる。
ちらり振り向いたデュナミスの周囲には、灰色にきらめく魔法陣が浮いていた。感じたのは圧倒的な魔力。天才死霊術師、デュナミス・アルカイオンの本気が垣間見える。
デュナミスの口が開き、高速で詠唱を紡ぎ出す。
「流れろ流れろ魂の炎、空を大地を穿て抉れ破砕せよ! 悲しみの運命に嘆く魂よ、今こそその無念を解き放て! 全力解放ッ! ――魂の灯火《ウィスプ・リュウール》!」
喉も裂けんばかりの絶叫。デュナミスがこれまで捕らえてきた全ての魂が解き放たれて、怨嗟の叫びをソレにぶつける。魂の弾丸に貫かれ、ソレはおぞましい悲鳴を上げた。確実に入っているダメージ。相手の負った傷は軽いものではないだろう。
ソレは声を上げる。
『ひどいこと するなら やりかえす!』
「望むところだ! 防御式を紡ぐぞ耐えろデュナミスッ! 血の呪い《ブラッディ・カース》、闇色の抱擁《フォンセ・アンブラッス》!」
ヴェルゼは懐からナイフを取り出し、躊躇なくそれを自分の右腕に突き刺す。溢れ出た血が渦巻いて、周囲の闇を取り巻いた。やがてそれはデュナミスとヴェルゼを包み込むようにして動き出す。
驚いた顔でデュナミスが叫ぶ。
「ちょ、それ何!? 死霊術じゃないよね!?」
「独自で編みだした魔法、血の魔術だよ。オレの血液を媒介とする強力な魔法だぜ、そんな簡単には破られまい」
ヴェルゼはにやりと笑った。
血の魔術。自傷によって発動する魔法。それこそヴェルゼの最強の切り札。
それは術者の血を消費するが、その分強力である。怒り狂った死霊が拳を振り上げるが、それはヴェルゼの守護魔法によって弾かれる。
ヴェルゼは勝利の笑みを浮かべた。
「防御さえ出来れば怖くはない。一気にたたみかけ――ぐあぁッ!」
だが、油断してはならなかった。
勝利を確信したその瞬間、破られた闇の防壁。術者であるヴェルゼは吹っ飛ばされて、しばらく動くことは出来そうにない。
魔法の切れ目から見上げたソレは、無邪気な子供のように小首をかしげている。ソレはしばらくデュナミスを見ていたが、興味なさそうにして目をそむけ、倒れているヴェルゼを見た。その目が新しいおもちゃを見つけた子供のように光り輝く。
「……ッ、やめろ!」
意図を察したデュナミスが叫び、ヴェルゼの方へ駆け寄ろうとする。しかし動かない左足が邪魔をして、そのまま転んでしまった。デュナミスは必死で這って、ヴェルゼの元へたどり着こうと足掻く。食いしばった歯の間から、声がもれる。
「誓ったんだ……これ以上、僕の解放した災厄による犠牲者を増やしてなるものかって……。そのための旅だ、そのための贖罪だ! ヴェルゼを――傷つけるなぁぁぁあああああああッ!!」
叫んだ。黄昏の主に、デュナミスは強く願う。
自分の命を消費し尽くしてもしてもいいから、自分はどうなってもいいからヴェルゼを助けてと。
デュナミスが睨むように見ている先、死霊の振り上げた必殺の拳がヴェルゼに迫る。ヴェルゼは必死で抵抗しようともがいているが、そんなちっぽけな鎌ひとつでどうにかなるような威力ではないだろう。
デュナミスは、必死で叫んだ。
「させるかぁぁぁあああああああッ!!」
瞬間。
動かなかったはずの身体が、動いた。
あり得ない距離を一瞬で跳んだ。気が付いたら、デュナミスはもうヴェルゼの目の前。ヴェルゼを庇う位置に到着したデュナミスは、ヴェルゼを思い切り突き飛ばす。
ヴェルゼが驚いた顔をした。
「デュナミス! お前――ッ!」
「死ぬのならヴェルゼじゃない! 僕だッ!」
立ちふさがったデュナミスを、
死霊の拳は問答無用で叩き潰した。
ヴェルゼの目の前で、デュナミスは赤く染まった肉片へと変わる。
飛び散った粘りつく液体、むっと漂う赤錆のにおい。
「お前――ッ!」
嘘だ、嘘だろとヴェルゼの頭が現実を拒否する。死なせるものか、死なせてなるものかと死霊術師の力を呼び起こし、ぐしゃぐしゃになったデュナミスの身体を修復する。出ていった魂に必死で呼び掛ける。「死なせてなるものか」強い思いで。持てる限りの力を駆使して。
それと同時、死んだばかりのデュナミスの魂が叫ぶ。「死んでなるものか」と。それにヴェルゼの思いが重なる。「死なせてなるものか」「死んでなるものか」重なる想いは共鳴する。
だが無駄だった。戻って来はしない。失われた命を蘇生させるのなんて、神様ですら不可能なのだから。それでも願った、必死で願った。あの日口にした未来を、デュナミスと一緒に頼まれ屋アリアに戻るという未来を、何としてでも現実にするために。
そうしたら、声が聞こえたのだ。
- Re: 頼まれ屋アリア〜Welcome to our Agency〜 ( No.42 )
- 日時: 2020/12/02 00:20
- 名前: 流沢藍蓮 ◆50xkBNHT6. (ID: yOB.1d3z)
――『面白い。ならばその狂った運命、一度だけ捻じ曲げてみせよう』
聞いたことのない声。それは低い、男性の声。
刹那。
光が、あふれた。死霊は反射的に目を庇う。
次の瞬間、ヴェルゼは見る。自分の隣に、淡く透き通ったデュナミスがいるのを。
嘘だと思った。奇跡なんか起きないと、ヴェルゼは良く知っていた。
それなのに。
「……ただいま、ヴェルゼ。何を呆けてんだい。一緒にあいつを倒すんじゃないのかい」
透き通ったデュナミスは、笑っていた。
理解する。そのまま冥界へ行くだけだったはずのデュナミスの魂が、奇跡のような何かによって現実に繋ぎとめられたのだと。あの不思議な声が、奇跡を起こしたのだろうと。
同時に感じる。デュナミスの強い力と、温かい魔力を。身体は死んでも、彼は今隣にいる!
今なら行ける、と確信した。
「デュナミス!」
名を呼べば。
「ヴェルゼ、僕はここにいる」
悪戯っぽくデュナミスは笑う。
「やれるか」
問えば。
「ヴェルゼと一緒なら」
強い信頼を声ににじませ、デュナミスは透けた手を伸ばす。
その手を握っても、すり抜けてしまうだけ。だがデュナミスの力は、彼が亡霊となっても確かにそこにあって。
死霊がヴェルゼたちを見た。口元に浮かぶのは無邪気な笑み。幼くして死んだ神童は、それゆえに残酷で凶悪な爪痕を残す。
ヴェルゼは胸元の笛に手を触れた。いつだって身につけている、エルナスの笛だ。ヴェルゼの故郷に通じる笛だ。ヴェルゼは相手を漆黒の瞳で見据えながら、素早く一曲奏でた。
一陣の風が吹くような刹那、流れたのは幼い子供に聞かせる子守唄。
ヴェルゼは死者を葬り、弔う役目だってある。これは彼なりの手向けのつもりだった。
低く呟く。
「眠れぬ魂よ……安らかに眠れッ! さぁ、行くぞデュナミス! 弔いの時間だ!」
「そうだねヴェルゼ。そして僕は、死んでいったみんなも弔わなくちゃ……」
デュナミスの声を隣に受け、二人で叫ぶ。
「お前と」「君と」
「「一緒なら、負けない!」」
跳躍。握った鎌に魂を込める。さっきは届かなかった。デュナミスだけでは届かなかった。けれど今はもう、一人だけの力じゃない。二人で力を合わせれば、打ち倒せない敵ではない!
斬撃。刃はあやまたず、ソレの右腕を切り落とす。絶叫。痛みに咆哮を上げる死霊。反撃。残された左腕が迫りくる。前転。前に転がって回避。相手は巨大だが、動きは単純だ。見切れぬヴェルゼではないのだ。
冷静に判断。敵を確実に葬り去るためにはどうすればいいのか。鎌を握り直して相手を睨む。自傷による傷はとりあえずは塞がったが、鈍い痛みを発している。大丈夫だよとデュナミスが寄り添った。そうだ、デュナミスがいるのならば。
「ヴェルゼ、僕は死んでしまったけれど。でも君が代わりに、僕の無念を晴らして」
囁くようなデュナミスに頷く。
そして再び、
跳躍。
自分の足元を薙ぎ払うように飛んできた左腕をかわし、さらに高くへ。実体のない相手に触れることは出来ないから、腕を踏んで更なる高みへ行くことは出来ない。だが、ヴェルゼの鎌ならば相手に触れられる。再度、跳躍。ヴェルゼは鎌を下に構え、それで相手の腕を押して反作用でさらに跳ぶ。その目の前には相手の首があった。届く、届く、今ならば届く。
「迷い惑う幼子よ――眠れッ!」
「僕の災厄よ――消え去れッ!」
絶叫。同時に放たれるのは二人分の声と。裂帛の気合。斬撃。想いを込めて振るわれた大鎌は、相手の首を切り裂いた。どう考えても致命傷だ。退避。ヴェルゼは身体を丸めて衝撃を逃がし、それでも油断なく相手を見据える。
揺れる。圧倒的な力でこちらをねじ伏せていた相手の身体。ぐらり、ゆらり、頼りなく。何も知らない無垢な瞳が、悲痛な輝きを帯びる。
無知ゆえに、無垢ゆえに多大な災いをもたらしたソレは、最後の最後にこう言った。
『――いたいよ ねぇ どうして』
「それは、何も知らないままでお前に殺された人々が言いたかった言葉だよ」
大きく息をつき、相手の言葉にヴェルゼは返す。
返しの言葉が聞こえたかどうか。致命傷を負った死霊は、光に溶けて消えていく。
ヴェルゼは大地に膝をついた。もうこれ以上、立っていられるほどの気力はなかった。
「終わった……な……」
大の字になって呟くと、終わったねと透き通ったデュナミスが返す。
「僕は死んでしまったけれど。君のお陰で旅の目的を果たせた。あいつを倒してくれてありがとう、ヴェルゼ。君がいなかったら僕はきっと……」
「それは……オレの台詞だデュナミス。一人だけでは……オレはきっと死んでいた……」
偶然出会った二人の死霊術師。何の因果か運命か、出会いは奇跡を引き寄せた。
そして。
「お前は死んだが……結局……二人で頼まれ屋に……帰れるのか」
ヴェルゼは呟く。
思い描いた未来。二人で頼まれ屋に帰りつくこと。それはどうやら現実になりそうである。デュナミスは死んで霊となってしまったけれど、奇跡の結果か、冥界には行かず地上界に留まっている。
目を輝かせてデュナミスは言った。
「僕さ、アリアって人に会ってみたいよ。ヴェルゼがあんなに話していた人なんだし、気になるねぇ」
「それよりもまず……助けを呼んでくれ。一人では……動けそうに、ないんだ」
「了解」
ヴェルゼの頼みに応じて動こうとするデュナミス。だが、騒ぎを聞きつけたのか人々が集まりつつあった。その必要はなさそうだねとデュナミスは笑った。
◇
町の人々に事情を話したヴェルゼは数日後、亡霊となったデュナミスを伴って頼まれ屋アリアへと戻る。戻る前にエルナスの笛で笛言葉を奏で、自分は無事だとアリアに伝えた。あの心配性な姉のことだ、こういった連絡は頻繁にしなければ心労でぶっ倒れかねない。
それから一週間。ヴェルゼはようやく、久しぶりの我が家の扉を叩いた。
カランコロン、ドアベルが鳴る。扉を開ければ、奥のカウンターでアリアがお客様用の笑顔を浮かべていることだろう。
「はーい、ようこそ頼まれ屋アリアへ……ってヴェルゼ!?」
いつも通りの声が、動揺を示す。ただいま、とヴェルゼは返した。
「ようやく依頼完了だ。紆余曲折あったが問題ない。それよりも姉貴、頼まれ屋アリアの新しいメンバーだ」
ヴェルゼの振り返った先、いたのは灰色の亡霊。
デュナミスが笑みを浮かべた。
「初めまして、ヴェルゼの姉さん。僕はデュナミス。デュナミス・アルカイオンだよ。これからよろしくねぇ」
「……へ?」
亡霊を見て、アリアは驚きで固まった。
数瞬後、とんでもない悲鳴が響き渡る。
「え? え……えええぇぇぇぇぇええええええええ!?」
彼女がデュナミスに馴染むのは、それからしばらくした後の話。
◇
「……そんな話があったよな」
「あったねぇ」
頼まれ屋の昼下がり。ヴェルゼと、すっかり馴染んだデュナミスは穏やかに談笑していた。ヴェルゼは追想する。一年前、死霊を追走していた頃のことを。
「なぁデュナミス。あの時、オレたちを助けてくれた声は結局何なのだろうな?」
ヴェルゼの問いに、さぁねとデュナミスが返す。
「神様の仕業なんじゃないの? 気紛れに人間と関わる神様だっているよねぇ」
「そうだな……」
ヴェルゼは頷き、そっと目を閉じる。
閉じた目の向こうでは、目的を果たしたデュナミスの、輝かしい笑顔があった。
【死霊ツイソウ譚 完】
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